錬金術師ディラックの復活と赤の王覚醒の報を受け、ターミナルは慌ただしい。 近々発動されるであろうトレインウォーの情報収集のため、図書館ホールに向かうロストナンバーたちは多かった。 クリスタル・パレスは閑散としている。 司書に話を聞きに行った店員も多く、店内にいるのは、ラファエルとシオンだけだった。彼らもまた、営業時間終了後にはしばらく店じまいをし、トレインウォーに参加する心づもりでいた。 客はたったひとり、報告書のコピーをものうげにめくっている白雪姫だけである。ことの経緯が把握しづらいと、シオン相手にぼやきながら。「……ほんとうに無名の司書の報告書は下手くそね。なにがなんだか、わかんない。リチャードがロバートの身代わりになって月の王の人質になったって認識で合ってる?」「全っっ然合ってねぇよ!」「で、仮死状態のエドガー(仮名)の肉体がダイアナの手に渡り、ディラックが復活した」「いろいろ違う。ちょっと見てみたい気もするけど」「螺旋飯店の支配人ってヘンリーでいいのよね?」「よくねーよ! エイドリアンだ。そこを間違えてどうするっ!」「おまえも間違っているが?」 ラファエルは眉間の縦じわを深め、ため息をつく。シオンはぼりっと頭を掻いた。「だってファミリーってややこしいじゃん。面倒くさくてついてけないよもう。世界は一家、人類皆兄弟ってことでいいじゃんか」「よくわからないんだけど、ロバートってひとはどうして土壇場で揺らいだの? 矛盾と破綻の理由は?」「そんな難しいこと聞くなよぉ。情緒的なナンカだろ」「……、ふぅん……? 何だかすっきりしないのは、書き手が稚拙なせいってことかしら。それに、ふつう、こういう局面で揺らいだひとは死んであたりまえなのに、助かってるのね? 誰かが水面下で動いたのが間接的に影響したのかしら……?」 まあ、そんなことはどうでもいいわね。もう終わったことだし、と、白雪姫は報告書のコピーをテーブルに投げる。「お客さん、来ないわね」「こんな時期だし、お茶してる気分じゃないのかもな」「壱番世界を護るために? 護るため――護るため。あなたたちは、まるで信仰のようにそう繰り返しているけれど、世界を護ることが、そんなに大事なのかしら」 長い睫毛を、白雪姫は伏せる。ラファエルは苦笑した。「白雪さんだって、これがご自身の出身世界にかかわることなら、そんなに冷静ではいられないと思いますよ」「いいえ。わたしは、自分の世界に還りたいとは思わないし、自分の世界を護りたいなんて、これっぽっちも思わないもの。せっかく、わたしを縛る世界から逃れることができたのに」(せっかく逃れることができたのに……、か) 白雪姫のことばに、シオンがふと遠くを見る。 ツーリストにとって、世界を見失うということは、その世界のしがらみと理から解放されるということでもある。 ――おれは。 うれしかった。「ヒト」の帝国と「トリ」の王国が相争うあの世界で、いまわしい《迷鳥》として扱われるさだめを、ひととき、棚上げにすることができて。 ただの旅人として、過ごすことができて。 それでも、これは《旅》だ。 旅ならば、いつかは終わる。 いつかは、解放されたはずのしがらみと向かい合わなければならないことを意識しながらも、それでも。 もう少し、もう少しだけ、と、そう思い続けて……。 ゆっくりと、扉が開く。 軍服めいたグレーのスーツを着た女が入って来た。「こんにちは」「いらっしゃいま……、って、無名の姉さん? どしたの? かっこいいじゃん?」 シオンはおどけて言ったが、その表情は何かを予感し、強ばっている。 無名の司書の表情もまた、厳しかった。彼女がこのようないでたちと佇まいになるのは、先般のマキシマム・トレインウォー以来のことだった。「シオンくん。ラファエルさん。あなたがたの出身世界が発見されました」 * * 比翼迷界・フライジング。 瑠璃色の海に囲まれたふたつの大陸。まるで二羽の鳥が並んで翼を広げているように見える、左右対称の大地。片方は「ホウ」、もう片方は「オウ」と呼称されている。 ホウ大陸を統べているのは、「ヒト」と呼ばれる、強靭な足で大地を駆け森を切り開き、石造りの壮麗な都を形成した種族である。一方、オウ大陸に暮らすのは「トリ」と呼ばれる、翼を持つヒトのすがたと鳥のすがたを自在にあやつる種族だ。 大陸のかたちだけを見るならば、比翼の鳥のごとく仲睦まじい「ホウ」と「オウ」。 しかし「ヒト」と「トリ」は、歴史が伝説であった時代から対立し、争いが絶えなかった。 この世界には、謎めいた神話が伝えられているという。 混沌としていたこの世のはじまりに、《始祖鳥》と呼ばれる、トリでもあり、ヒトでもあった、一羽の神鳥が殺された。《始祖鳥》の身体はふたつに分たれ、それが、現在の「ホウ」と「オウ」のいしずえとなった。《始祖鳥》殺しの犯人を、神話は語らない。 ゆえに、トリ側はヒトであるといい、ヒト側はトリであるといい――それが今に至るまで、種族の対立に繋がっているのだと。《始祖鳥》の死のさいに、産み落とされたという無数の《迷卵》。《迷卵》が孵化すると、その場所の理が歪み《迷宮》が生まれる。 迷宮の最奥には、鳥のすがたの怪物《迷鳥》が潜み、ひとびとの脅威となる。 なぜ、《迷卵》が存在するのか。 なぜ、《迷宮》が生まれるのか。 謎はまだ、解かれていない。 * *「……だから、何?」 シオンは青ざめ、後ずさる。「シオンくん」「世界が発見されたからって、それが何だっていうんだ。……おれに、何の関係がある」「関係は、あるのよ。フライジングに、世界計の欠片がいくつか落ちたようなの。そして、そのひとつは、トリの王国の女王が入手した」「女王が……」「ええ。聖女王オディール。彼女については、あなたがたのほうがよく御存じでしょう? 数百の国が群雄割拠している『トリ』の王国のなかでも、ひときわ強大な勢力を持つアルトシュロス王国の頂点に立つ女性」「オディール陛下が世界計の欠片を所持しているのなら、……世界も、彼女も、危険では?」 ラファエルが眉を寄せる。「そうですね。世界計の欠片の影響は計り知れない。女王オディールがどうなってしまうのかも、わかりません。……それに」 司書は言いよどむ。平静を装おうとしている口調に、動揺が走る。「ヴァイエン侯爵領――ラファエルさんが統治してらした、アルトシュロス王国に属する地域ですが、このところ、《迷卵》が大量に見つかることが多くなったようです。女王直属のアルトシュロス近衛団は、その駆除に追われているようですね」「迷卵駆除」 唇を噛むシオンの肩に、ラファエルが手を置く。「行こう、シオン。私たちは、無関係ではいられない」「オディールなんかに会いたくない」 シオンは吐き捨てる。「あんな女、どうなってもいいだろう! 勝手に化け物になってしまえ」「なんですって」 白雪姫がきっ、と、睨みつける。すっくと立ち上がるやいなや、シオンの襟首をつかみ、その頬を張った。「何しやがる」「あなたらしくもない言いようね。誰だって、自分の意思に反した変容はしたくないはずよ」「……わかってる」「全然わかってないわ。……しかたないわね、わたしも同行しましょう。たまには都合のいい女になってあげる」 白雪姫は、ぱちん、と、指をはじく。 途端に、ラファエルとシオンは、青と白の鳩に変化した。「あなたたちは、そのままで知り合いに会うわけにはいかなさそうだから」 そして、魔法使いの姫は、司書を見る。「チケットを追加で一枚、手配して頂戴。あまり大勢で行くものでもないけれど、せめてもうひとり、調査の人手が必要だと思うの」【ライターからのお願い】1PLさまにつき1PCさまのエントリーにご協力いただければさいわいです。(強制ではありません)
ACT.1■終点は比翼の大陸 発車のベルが鳴る。 「0世界<ターミナル>発、<比翼迷界フライジング>行きの定時列車は、まもなくターミナル標準時11時に、4番ホームより発車します。チケットをお持ちの方は、お乗り遅れのないようにお願いします」 車掌が、耳慣れぬ世界への出発を、告げた。 * * 「逃げたくなる気持ちは、わからぬでもない。わたくしも同様じゃ」 獅子座号の中で――ロバート卿に扮したメガリスにジャックされた獅子座号は、すでに修復を終えていた――ジュリエッタ・凛・アヴェリーノが、ぽつりと言う。 それは、シオンに発した言葉だった。 4人がけの席に、彼らは座っていた。ジュリエッタの横には白雪姫が、その向かいに、鳩に変えられたシオンとラファエルという並びである。 「……けど、ジュリエッタは」 出身世界にちゃんと認められ、地に足をつけて暮らしているじゃないか。あの美しいヴェネツィアが故郷なんじゃないか。弱々しい反論を行おうとしたシオンを、少女は片手をあげて止める。 「わたくしとて、イタリアは愛するふるさとであると共に、他人に裏切れて騙され、両親を失なった苦い思い出の地でもある。美しい過去だけではない」 ……皆、さまざまな想いを抱えておる。多かれ少なかれ、のう。 「日本にいきなり来て、気持ちの整理をつけるまでには、それなりに時間がかかったものじゃ」 みずみずしく澄んだ声と老成した口調で、少女は微笑む。 「……ごめん、ジュリエッタ」 「かまわぬ。これから同胞狩りを目の当りにするのじゃ。さぞ辛かろう」 「……うん」 「じゃが、少なくともシオン殿はひとりではない」 すっと手を伸ばし、ジュリエッタは、白い鳩の翼を撫でる。 「辛い時は背中を貸すと言ったじゃろ?」 「胸でお願いします!」 「うむ、その調子じゃ。ところで店長殿」 「はい。このたびはご同行くださいまして感謝にたえません」 頭を垂れる青い鳩に、ジュリエッタは頷く。 「事情を聞いて納得した。いつぞやの夜、話してくれたことに、そのような真相があったのじゃな」 「はい」 青い鳩の声音が、甘やかな響きを帯びた。 「あの夜のジュリエッタさまの歌声は、まだ耳に残っています。私だけが聞かせていただくのは勿体ないほどでした」 「……ちょ!? なにそれなに抜けがけしてんのてんちょー? ジュリエッタと逢い引きしたの!? しかも夜に! よーーるーーにーーー!」 「これシオン殿。誤解じゃ。単に、閉店後の店で話をしただけじゃぞ。……ともあれ、店長殿にも辛い思い出を甦らせてしまうかもしれぬが」 「いえ、それは」 「ところで」 年相応の茶目っ気に満ちた目で、青い鳩を見る。 「店長殿は、迷鳥と知りながら、卵であったときからシルフィーラ殿とシオン殿を保護し、育て上げ、やがてシルフィーラ殿と婚約なさった、そういう認識でよろしいかの?」 「そのとおりですが、何かご不明なことでも?」 「いや……、店長殿はその……、『光源氏計画』という言葉をご存じか……?」 「不勉強にして存じ上げませず、申し訳ありません。壱番世界の文化に関することでしょうか?」 「……わからないなら、良いのじゃ」 ACT.2■迷卵駆除 雲を突っ切ってロストレイルは走る。車窓からは、瑠璃の海の水平線が見える。 ふと見下ろして、眼下に広がる光景にジュリエッタは息を呑んだ。 (鳥……) たしかにその大陸は、大きく翼を広げた鳥が二羽、お互いの翼の先を接点として並んでいるように見えたのだ。 列車はその中心、大陸と大陸が接する地点に向かい――着地した。 どうやらこの地域は、ヒトとトリが牽制し合った結果、どちらの国にも編入することを見送った、いわば空白地帯であるようだった。 モミの木が高地山脈を占めている一方で、低地にはカラマツやイトスギの林が見受けられる。なだらかな広陵は、萌えいずる樹木と草花が席巻するばかり。春の息吹きに満ちた大地に降り立ち、ジュリエッタは深呼吸をする。 「良いところじゃのう。今が一番過ごしやすい気候ではないのか?」 その感想は率直だった。 「壱番世界なら、雛鳥が生まれる季節だよな」 あの無人島では、シラサギたちが巣を作り、水色の卵を温めているだろう。 次々に孵化した雛鳥は、無邪気に嘴を広げ、餌を待っているだろう。 シオンが言う。世間話のように。しかしその声は震えていた。 ちらりとそれを見て、白雪姫はつっけんどんに言う。 「他世界のことなんてどうでもいいじゃない。で、ジュリエッタは、これからどう調査するつもりなの?」 「そうじゃのう。なんとか、聖女王オディールに謁見したいものじゃが」 しばし考え、ひとり頷く。 「お願いがあるのじゃ、白雪殿」 「なあに?」 「女王直属の近衛騎士団がヴァイエン侯爵領に向かっているという。そこでじゃ」 白雪姫の耳元に、ジュリエッタは何ごとかを囁いた。 「ふぅん……?」 その計画を、白雪姫は指示する。 「いいんじゃない? あんた、なかなかやるわね、ジュリエッタ。その作戦でいきましょ」 * * ヴァイエン侯爵領は、ふたつの大陸が交差する場所から、さほど遠くはない。だがその領地は、鳥のかたちに喩えられる大陸の翼に沿い、東西に長く伸びている。 豊かな農地をつらぬく幾筋もの河川。しっとりと水気を含んだ大小の森。すきとおった蝶と蜻蛉が行き交う、花咲く湖。その領地は、アルトシュタイン王国屈指の穀倉地帯でもあった。 片辺は辺境アウラハと境界を接し、もう片辺は、ちょうど鳥の頭の部分に位置する、国王直轄領にして王国の首都ローゼンアプリールとも隣接している。 ジュリエッタは道すがら、ヴァイエン侯爵家が古来より国王の信任厚かったこと、王家とは縁戚であること、過去においては、侯爵家出身の王妃や、あるいは女王の夫君を輩出したことなどを聞きながら、そして。 迷卵駆除の場に、単身、合流した。 * * ヴァイエン候領の西、《風待ちの森》にて、すでに凄惨な迷卵狩りは、始まっていた。 翼ある騎士たちが、《卵》を壊し、潰し、はては、生まれたての雛鳥の首を次々に刎ねている。 「一個たりとも《迷卵》を見落とすな。一羽たりとも《迷鳥》を見逃すな。仇な情けが悲劇を呼ぶのだ。迷鳥に惑い、陛下の信任を失ったヴァイエン候のようにな」 騎士団の先頭で指揮を行っている青年は、ひときわ目を惹く深紅の翼を持っていた。その双眸もまた、燃えるように鮮やかな真紅。一本気な激しい性格が見て取れる。《女王の紅きハヤブサ》騎士団長クルト・ヴェルトハイマーであった。 「団長! ご報告が」 駆除を続けていた騎士のひとりが、膝を折る。 「何だ」 「その……、森の一角に、夥しい数の迷卵が見受けられます」 「私たちの役目を何と心得るか? 駆除すれば良かろうに」 「ですが……、その数、あまりにも……」 「よい。自身で確認しようぞ」 蒼白になっている騎士を片手で押しのけ、クルトはその一角に向かい――絶句した。 「なんと……。なんということだ」 森林を《迷卵》が埋め尽くしている。 どの樹にも、たわわに実る果実のように、あるいは満開の花のように、卵が《咲いて》いるのだ。 ――そのとき。 「おまかせあれ」 ひとりの騎士が、進みでた。 しなやかな金髪に、若葉のような緑のひとみ。あどけない顔立ちは、年若い見習い騎士のようでもある。 (あれは誰だ?) (知らぬぞ) (まだ若い。入ったばかりの騎士ではないのか?) しかし。 その若き騎士は、騎士団長の剣技さえも凌駕するかのような働きを見せたのだ。 (お?) (おおっ!) (何だ? 何という技だ) (わからぬ。あのように続けざまに、雷撃の如く技を放つ騎士なぞ、近衛団にはいないはずだ) (しかし、現に) (ああ) (誰だ?) ――あの騎士は、誰だ? * * 「そなたの名を、問うても良いか……?」 騎士団長クルトが、感に堪えかね、言葉を放つ。 「お見忘れでしょうか? ジュリオ・アヴェルリーノです。先日、入団の栄に浴したばかりの若輩にて」 「そうか、おお、そうだったな」 ――それは、白雪姫がジュリエッタの計画に組みし、かけた魔法。 騎士見習いとして、紛れ込む。 予め偽卵を用意し、数多く狩りをしたと見せかける。 そして。 事後報告をする騎士団長の付き添いとして城に入り、女王との謁見を試みる。 異変がないか。あるいは、女王に異状はないか。 世界計の欠片は今、どうなっているのか。 * * 「ジュリオよ。おぬしが最も迷卵の駆除に貢献したようだ。女王陛下へのご報告の場に、付き従うことを許そう」 「ありがたき幸せ」 ACT.3■白銀の孔雀 アルトシュタイン王国の中心部へ行くにしたがい、山脈と森林地帯はとぎれる。肥沃な農地に点在する赤い屋根の民家や、春まきの小麦が芽吹いたばかりの麦畑がつらなる風景も徐々に少なくなる。代わりに、街全体を硬い煉瓦の城壁でぐるりと囲んだ、いかめしい城塞都市がいくつも現れてくる。 女王オディールの居城、《四月の薔薇宮殿》を擁する首都ローゼンアプリールは、なかでもひときわ大きな規模を誇る。 薔薇いろの煉瓦で構成された城壁の、ものものしい鉄の城門を這う、萌黄いろの蔦。 足を踏み入れるなり、驚くほどに開けた広場と円形に整理された街並みが見渡せる。 その中央に、まるでこの大陸を模したごとくに、左右対称のファサードを持つ壮麗な宮殿が現れるのだ。 騎士団長は、見習い騎士を振り返る。 「あまり緊張はしておらぬようだな。見習いにしては肝のすわったことだ」 「恐れ入ります」 ジュリエッタは落ち着いていた。 緊張ならば、レディ・カリスの住まう《赤の城》に忍び込んだときのほうが、よほど身に堪えた。それに、エヴァ・ベイフルック以上に女王らしい女などそうそういようはずもない。 ジュリエッタの予想は半分当たり、半分外れた。 ――玉座には、 銀の女王が、いたのだった。 (あれが、オディールか) とうとうと流れる河川のような、眩しい銀の髪。 ひた、と、他者を見つめる、すみれ色の瞳。 「ジュリオと申したか?」 「はい、陛下」 「迷卵駆除、大義であった」 「畏れ入ります」 「……それにしても、なぜにあのような迷卵が発生し、迷鳥が生まれるのであろう。いまわしい迷鳥さえいなければ、ヴァイエン候とて……、いや、もう下がって良いぞ」 ……孔雀。そう、銀いろの孔雀というべきなのだろう。 年のころは20代なかばくらい。 片側だけ結い上げた髪に、何か青いものが、きらりと光っている。 (……羽根、か? クリスタルのようにも見えるが) どこか、ラファエルの翼のいろにも似ている。 それの正体を、すぐにジュリエッタは見抜いた。世界計の欠片は、異世界に飛べば、その世界に即したものになるという。 (青いクリスタルの羽根……。あれは、世界計の欠片じゃな) ACT.4■その針が示す先 「ジュリエッタさま? どうなさいました?」 帰りのロストレイル車中で、ジュリエッタは、問われるままに見て来たことを告げたが、それでも……、ときどき、口ごもってしまった。 オディールに会ったとき、思ったのだ。 この女王は、心細いのではないか。 若くして王位を継ぎ、そばで支えてほしいと願った侯爵を―― 迷鳥が、奪っていった。 「店長殿は……」 「はい?」 「今すこし、女ごころを理解されるとよろしかろう」 ――Fin.
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