ヴォロスには花の国と呼ばれるシャハルという名の国がある。王政を敷いていて、王都ネスには大きな4つの庭園があるという。 竜刻の影響で一年中花が咲いていて、植物が健やかに過ごす国だという。 そんなシャハル王国のとある伯爵家で、今まさにお家騒動が起こっていた。上流階級の人の口の端にも上る事態となっている。 伯爵の名はルーベルト・フリュデン。元ロストナンバーである。 フリュデン家が王から与えられた領地の中にエレヴという大きな街がある。その街に伯爵家は居を構えていた。ルーベルトはのちに妻となるヴェロニカが諸国見聞の旅に出ていた時に別の国で知り合い、結婚を決めて帰属した。詳しくは省くとして。 大きな屋敷に住んでいるのはルーベルトと妻のヴェロニカ。嫁のカロリーネ、そしてお家騒動の火種となった双子の孫、ケネトとロルフである。ルーベルトの愛息子は数年前に事故で亡くなっている。それがお家騒動に拍車をかけていた。 本来ならば次期伯爵となるのは双子の父だった。だが彼はすでに亡い。兄弟もいない。ゆえに家督はいずれ孫のどちらかに譲られるのである。 ところが双子の父、グンナルが亡くなってから後、一族の者たちは二つの派閥に分かれてしまった。すなわち双子の兄のケネト派、弟のロルフ派である。 派閥の勢いは日を追うごとに増し、本人たちのあずかり知らぬ所で小競り合いも起きるようになってしまった。これはルーベルトの頭痛の種となって長い。 双子が18歳を迎えた祝いの宴でルーベルトは宣言した。 どちらに家督を譲るのが相応しいか判断するために、二人にしばらく仕事を手伝わせると。 それでも判断に迷う場合は、一族伝統の剣術試合で跡継ぎを決める、と。 だがルーベルトは一つだけ、宣言していないことがあった。 一族の利害が絡まぬ公平な目でな判断を下すことのできる、一族に関わりのない者達に、どちらが跡継ぎに相応しいか判断を乞うということを。 すなわち、ロストナンバー達に。 これはロストナンバーという存在を知るヴェロニカが提案し、ルーベルトが決定したこと。他の誰も知らない。 *-*-*「でね、本当なら揉めずにすんなり決まればいいんだけど……跡継ぎで揉めた時、剣術試合で跡継ぎを決めるのは、この一族の長年続いた掟なんだって。ほら、当主は婿養子だし……」 サシャ・エルガシャの最後の言葉になんとなく、そこに集まったメンバーは悟った。「それで司書の紫上様に聞いたのだけど、ちょっと不吉な予言が出たらしいの」「「不吉?」」「不確定な予言だからはっきりとしているわけじゃないけれど、剣術試合が行われれば、双子のうちどちらかが命を落とすって……」 声のトーンを押さえて言ったサシャの言葉に、沈黙が広がる。それを破ったのはベルファルド・ロックテイラーだった。「剣術試合でどちらかが命を落とす、なら勝負の方法を変えるのが一番だけど、それも難しいのかな」「婿養子だから……」 どこの世界でも婿養子の立場は弱いのか。「生死よりも跡継ぎであることは大事なのでしょうか。命を落とすのは、2人の剣の腕ゆえなのでしょうか。それとも派閥の方々の、密やかな企みなのでしょうか」 止められる死であるならば、止めたい――ジューンはそう考えている。「ワタシも血が繋がった実の兄弟が争うのは嫌だな……どうにかして止めたいの」 サシャは沈痛な面持ちでジューンの言葉に頷いた。「俺は跡継ぎ騒動にはあまり関心がないが、止められる死は止めたい」 鬼龍もまた、考えは同じだ。「ちょっと待ってください」 皆が剣術試合に注目している中、可愛らしい声が響いた。リニア・RX-F91が手を上げて一同の思考を一瞬遮る。「私たちへのお願いは『どちらが後継ぎにふさわしいか見極めること』ですよね? だったらいろいろ仕掛けて二人のAIパターン、じゃない人格を見極めたら剣術試合の前に決められるんじゃ?」「「あっ」」「剣術試合はあくまで『後継ぎを決めるのに揉めたときの方法』ですから、その前に決めちゃえばいいんですよ♪」 確かに落ち着いて考えればリニアの言うとおりである。不吉な予言に目が行ってしまっていたが、ようはロストナンバー達が二人のどちらが跡継ぎに相応しいかを見極めて、一族を納得させる見解を出せばいいのだ。「ところでその二人は、跡継ぎとしての資質としてはどうなんだ?」「あ、それはですね~」 鬼龍の言葉にサシャは緋穂から聞いた話を伝えていく――。 *-*-* フリュデン家の双子の兄、ケネトは自己主張が苦手で虫をも殺せぬ優しい性格だ。少々身体が弱いがしかし知識量は多く、聡明だ。 双子の弟、ロルフは決断力があって頼りになるが、自分に絶対の自信を持っているからか我儘で人の意見を聞かない。おまけに癇癪持ちときている。 一族が二つに分かれて対立しているのもあって、領地の人々は『昔はあんなに仲が良い双子だったのに』とこの地の行く末を心配しているようである。 *-*-* 廊下のあちらとこちらから歩いてくる人影がいくつもあった。どちらも先頭の二人は瓜二つで――だがうちに秘めた気概からか、見る者が見れば違いがわかる。それに着るものもだいぶ趣味が違うようだ。 気の強そうな顔をした青年は、派手めの服装を。温厚そうな顔をした青年は落ち着いた雰囲気の衣を纏っている。「おや、ケネト殿はまだ伯爵様から与えられた課題に結論を出していないと見える。まだ書物とにらめっこですか」「ロルフ様はすでにばしっとお決めになって提出なされたぞ!」 先に口を開いたのは派手めな服を着た青年の取り巻き。それに返すように温厚そうな顔をした青年の取り巻きが口を開く。「どうせお前らの意見は聞き入れてもらえなかったんだろう?」「ケネト様は思慮深くて我々の意見を聞いて下さる。判断に時間がかかるのは慎重なだけだ」「なんだと!」「そういうお前らも、じれったく思っているくせに!「なんだと!」 取り巻きたちは主達を差し置いて口論を始めてしまった。いつもこうなのだ、顔を合わせればいがみ合う。 彼らが口論をしている間に派手めな服を着た青年――ロルフが温厚そうな顔をした青年――ケネトに近寄った。「ケネト」「ロルフ、調子良さそうだね」 にこり、ケネトは微笑んで。ロルフはそっと、暴言を吐くような表情を装ってケネトの耳に顔を近づけた。「いつもだったらこっそりお前に相談するところだったんだが、さすがにじいさんからの試験だしな、一人で何とかやった」「ロルフはいつも僕の言うことだけは聞くんだよね」「ったりめーだろ。自分の半身なんだから、一番信頼出来る。ケネト、無理はするなよ。いつもすごい成果なのはいいんだが、連日無理していたら身体にくるだろ。時間かけすぎだ」「自分の中で結論が出るのは早いんだけど、どうも不安でね。しらべて考え抜かないと結論が出せないのはロルフもしってるだろ?」「ふっ……まあな」 軽く微笑み、ロルフは顔を離すと、前を向いたまま手を上げた。「おいお前ら、いつまで遊んでる! いくぞ!」「はい、ロルフ様!」 ロルフの取り巻きたちが彼について歩いて行くと、セネトの取り巻きがぱたぱたとケネトに駆け寄ってくる。「ケネト様! 大丈夫ですか? 何かされませんでしたか?」 その質問にケネトは悲しそうに眉を下げて。「あのね、いつも言っているけど、ロルフはそんなに乱暴者じゃ……」「この間の癇癪起こして大変だったってメイドたちが愚痴ってましたよ。俺達、ケネト様について正解でした!」(……決断が遅い、身体が弱い、意志が弱い……そう愚痴を言っているくせに) はあ……こんな状況は連日のことなのだろう。ケネトは深くため息を付いた。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>サシャ・エルガシャ(chsz4170)ベルファルド・ロックテイラー(csvd2115)ジューン(cbhx5705)鬼龍(cmfp1534)リニア・RX-F91(czun8655)
エレヴの街は穏やかで、花の国の一部とあって街中にも花がたくさん植えられていた。花屋は多種の花を扱い、商店なども植物を加工したり利用した物を扱っている店が多い。 その街の中でも一番大きなお屋敷、それが領主たるフュリュデン家の屋敷だと、誰に言われずとも五人のロストナンバーたちには伝わった。 「はじめまして、メイドのサシャと申します」 通された応接室に入ってきたのは白髪の混じった髪の、柔らかそうな雰囲気をまとった初老の男性だった。ロストナンバー達の向かいのソファに浅く腰をかける。 一番に挨拶をしたのはサシャだった。勿論男性、ルーベルトが入室してきた時にはすでに立ち上がっており、期を見て丁寧に頭を下げる。それに倣うようにしてそれぞれがそれぞれの方法で挨拶を済ませると、ルーベルトは眉尻を下げて五人のロストナンバー達を見渡した。 「ルーベルト・フリュデンだ。よく来てくれたね、ロストナンバー達よ」 その瞳は懐かしい昔の日々を見ているよう。嘗ては自身もロストナンバーと呼ばれていたルーベルトは、一同を見て懐かしさを感じているのかもしれない。 「この度は私的な依頼を受けてくれたこと、感謝する。なかなか中立な判断をお願いできる、信頼に足る人物というのを探すのは難しくてね。妻の提案を良案だと思い、依頼させてもらったんだ」 ルーベルトは柔らかく笑った。その笑顔が、雰囲気が、かつて仕えていた旦那様に似ていて。 (この人を悲しませるのはやだな……) サシャの心に頑張ろうという強い意志が生まれる。旦那様に似ているからという理由だから? まさか。それだけではない。けれどもそれだけでも十分理由になるくらい、彼女にとって旦那様は大きな存在なのだ。 (そういえば婿養子だって言ってたけど……) 当主となって長いだろう今も『婿養子』という立ち位置に縛られているなんて、なんだか不憫通り越しておかしい。ベルファルド・ロックテイラーはじっとルーベルトを観察したけれど、サシャに頼まれて妻との馴れ初めを語るルーベルトは特に問題がありそうな人物には見えなかった。愚昧でも酷く内向的でもなく、むしろ逆の印象を受ける。聡明で統率力の有りそうな人物に見えた。たとえそれが数十年の時間をかけて体得されたものだとしても、今の立派な彼を見て婿養子だから立場が弱いとするのはおかしいのではないか、そんな風に思える。 根本的なこと――彼が外から来た者だというのが問題なのだとしたら、一人娘だったヴェロニカを当主にすればよかったのに、なんてベルファルドは思ったりもして。だって『女当主』ってなんか強そうじゃない? 「二人の子供の頃の様子か……」 と、ルーベルト話は双子、ケネトとロルフの幼少期へと移っていた。ジューンやリニア・RX-F91は興味深そうにその話を聞いている。壁に背を預けて立っている鬼龍を見ると、彼が首を動かすと頭のキジの尾がみょんっと揺れている。ベルファルドはルーベルトに視線を戻し、その話を聞くことにした。 「それはそれは仲が良かったよ。それぞれに部屋は用意してあるというのに、朝起こしに行くとロルフがケネトのベッドに入り込んでいるなんてしょっちゅうだった。身体の弱いケネトは今よりも寝こむ事が多かったんだが、そんな時はロルフは誰に言われるでもなくめいっぱい遊んでな、それをケネトに話してやっていたよ」 そう話すルーベルトは優しい瞳をしていて、在りし日々を思い出しているようだった。本当に仲の良い兄弟だったのだろう。領民の口にものぼるほどなのだから。 「二人の仲が目に見えて離れ始めたのはいつ頃からなのだろうか?」 鬼龍の問いに、ルーベルトは小さくため息を付いて。そして重苦しく口を開く。 「……息子が、グンナルが事故で死んでからだな。それを境に元々できていた取り巻き達の派閥のようなものが顕著になり、何時頃からか二人の間に距離が開いていた」 「それは、跡継ぎ問題が絡んでいるとも取れるな」 「タイミング的にはピッタリですねっ……あんまり難しく考えるの、超苦手ですが、もしかしたら派閥同士の諍いとかもあったのかなって思います」 リニアがこくこくと頷いて。ひとつの可能性を示唆する。今までの話から考えれば、その可能性は高い。どちらかを当主にすれば、その取り巻きが特をするのは自然な流れだ。自分達の、ひいては家の進退をかけると言っても過言ではない。それまでは跡継ぎは双子の父一人だった。その頃から各家は次代を見据えて同じ年頃の子供たちを遊び相手として双子に近づけていたに違いない。それが不慮の事故で次の爵位がひとつ飛びで双子に回ってくることになった。だとすれば立場を明確にして、家としてどちらを推すか決めなくてはならない。 その時、それまで考えこむようにしていたジューンがためらうように口を開いた。これはあくまでひとつの過程ですが、と前置きして。 「お二人は取り巻きや派閥に無闇に刺激を与えないように、距離を置いているのではないでしょうか?」 「む……なるほどな」 「時にルーベルト様、司書の見た予言に関しては御存知ですか?」 「予言?」 続けたジューンの言葉に、ルーベルトは目を丸くして。元ロストナンバーのルーベルトには司書の予言の意味するところがわかる。 「あ、ジューン様、それはまたお伝えしていないみたいで……」 「でしたら、今お知らせしておきましょう。私はこのあとケネト様、ロルフ様にもお伝えするつもりです」 「教えてくれ」 サシャとジューンの会話を遮るようにルーベルトが鋭い声を投げかける。当然だろう、自分達に関わる司書の予言と聞いて黙っていられるロストナンバーはいない。たとえそれが元ロストナンバーだとしても。 躊躇いがちにサシャは順番に四人を見ていく。ジューン、リニア、ベルファルド、鬼龍……そして、視線をルーベルトで止めて。 「あくまで『不確定な未来』ですからね。そこはしっかり理解した上で聞いてください」 「……ああ」 「……。跡継ぎを決める剣術試合が行われた場合、お二方のどちらかが亡くなります」 「!? なんと……」 さすがに孫の命にかかわるということであってはルーベルトも目をむいた。それが不確定な予言であっても、その不安はかなりのものだろう。その様子を見て、リニアが元気に立ち上がった。 「安心してくださいっ。あたしたちは予言が現実にならないようにするために来たんです。だから当主さんも力を貸して欲しいんですっ」 明るいその言葉に幾分落ち着いたのか、ルーベルトは目を細めて頷いた。 *-*-* 「サシャ、君はよく気がつくね。初めて会ったとは思えないよ」 「ありがとうございます、ケネト様」 サシャは新しく雇われたメイドとしてケネトの身の回りの世話にあたっていた。彼女が今まで習得したメイドスキルを駆使し、そして生来の明るさと細かいことに気がつく性格で存分にメイドとしての腕を振るう。初めてのお屋敷、始めての相手ではあるが如何にそれまでも仕えていたかのように仕事が出来るかというのはメイドとしてのプライドでもあるし、ウリでもある。初めてのお屋敷だから、初めてお仕えする相手だからといって不自由に感じさせてはならない。 だからケネトにそう褒められたのは純粋に嬉しかったし、そうして相手を的確に評価して褒めることが出来るという彼の一面をも知ることが出来た。 (あ、なにか落ちて……) 難しそうな本がぎっしり詰まった書架。スライド式で手前と奥とに分けて本を収納できるようになっている収納率重視のその本棚の奥の方の棚。一番下の段に四角い木枠が落ちていた。落ち方から見て、一番下の段の本と天板の間に誰にも気付かれないようにとしまって置かれたものだと予想がついた。 (勝手に見るのはいけないことだけれど……) けれども今回はただ奉公に上がったわけではなく。調べなければいけないことが多々あった。 サシャはちらりと振り返り、ケネトの様子を見る。彼は執務机にかじりつくようにして本を読んでいて、サシャの様子の変化には気がついていないようだ。サシャの経験による勘が正しければ、おそらく今は声をかけてほしくないはず。本に没頭していたいはずだ。 (お二人をお救いする手がかりになれば……!) ケネトに背を向けるようにして、本を揃えるふりをして、サシャは木枠を裏返した。 「!」 と、そこに入っていたのは小さな絵姿。二人のそっくりな少年が子犬のように戯れている。その表情は二人共、光り輝くほどの笑顔で。 サシャはそっと乾いた絵の具を撫でる。十年以上前に描かれた絵姿だろうに、焼けや剥がれもなければ埃も積もっていない。恐らく大切に大切に保存し、時折取り出して見ているに違いない。 (やっぱり……二人は本当に仲が悪いわけじゃないのよ。少なくともケネト様は今でもロルフ様の事を大切に思っている) きゅ……木枠を握りしめ、サシャは思い切って振り返った。すると、丁度顔を上げたケネトと視線が絡んで、思わずびくっと身体を震わせてしまった。 その瞳は優しいが、何処か救いを求めているようで……本当は様子を観察するつもりだったサシャに、口を開かせた。 「ケネト様、申し訳ありません。こちらの絵姿、拝見してしまいました」 正直に告げ、頭を下げて告げる。すると何処かホッとした様子のケネトの声が聞こえてきた。 「ああ……別に隠しておいたわけじゃないからいいんだよ。ただ……僕とロルフが仲良くしていると気分を悪くする人達がいてね」 顔を上げて、という優しい声に従うと、執務机の後方の窓から光が差し込んで、その影となったケネトの表情がとてもとても悲しみに彩られて見える。 「双子のご兄弟なのに……仲良くできないなんて」 「おかしいよね。僕の方が一応立場は上のはずなのに、未来の部下に怯えて絵姿さえ飾ることができないなんて」 「いえ、おかしいというかっ……おかしいのは、絵姿を飾ることすら許さない方たちだと思います」 宝物にするようにきゅっと絵姿を抱きしめたサシャ。唇を噛むようにして言葉を紡いだのは、ケネトがとてもとても辛そうに思えて。 「うん……前はここまでじゃなかったんだけどね。僕はいがみ合うのもそれを見ているのも好きじゃないから……だからこうして従ってしまう。今はデリケートな時期だから、特に」 窓枠に寄りかかるようにして、ケネトは窓の外を眺めた。遠い目をしながら告げられたその言葉には、優しすぎるほどの優しさが感じられて。サシャは思わず言い募る。 「けれども、ケネト様が無理をしてご自身を押さえられては……ケネト様だけが我慢をなさるなんて」 「――いいんだよ」 振り返ってサシャを見たケネトは、優しく目を細めて微笑んだ。 「今こうして君が話を聞いてくれた。誰かに話すってこんなに軽くなるものだったんだね。大丈夫、僕はまだ頑張れるよ」 「――……」 (やっぱり……仲が悪いのは表向きで、本当は互いを想い合っているのね。二人が不仲のほうが、派閥としては都合がいいのよ、きっと……でもだからといって) こんなにも、無言の圧力を掛けられて我慢を強いられるなんて……心優しいサシャの胸は自分の事のように痛んだ。 *-*-* (世界を変えても、跡継ぎ争いとはお約束だな。貴族ってのも、大変だな) 頭のキジの尾をみょんと動かしながら、双子がよく通るという廊下へとたどり着いた鬼龍は、自らの身に宿る鬼としての力を発現する。身内を手に掛ける前に止めないとと強く思うのは、己がそうせざるをえなかったからでもある。 彼が使うのは隠行の術。自らの姿を他人から隠して廊下の壁際に潜む。いつ来るかもわからない相手を待つというのは精神を消耗するものだが、今回は仲間がいる。ジューンの提案により、もうしばらくすると二人は応接室へと向かうことになっていた。表向きはルーベルトの呼び出しとして。 (こういう時は、本人達がいがみ合うか、取り巻きがいがみ合うか……なんだが) サシャからのエアメールに寄ってケネトが部屋を出て取り巻きと合流したことを知った鬼龍はそろそろか、と息をついた。サシャは別ルートで応接室へと向かっているはずだ。鬼龍はすぐに走り書きできるようにノートを開き、二人が通るのを待っている。 と、左手奥から複数の足音が聞こえてきて。ついで右後方から足音と声が聞こえてきた。 「ケネト様、何でしょうね、伯爵からのお召しは」 「……僕に聞いてもわからないよ」 「課題の締め切りにはまだ間があったように思いますが」 「……そうだね」 どうやら右後方からやってくるのはケネトと取り巻き達のようだ。左手にちらっと視線を投げると、気の強そうな顔をした青年を筆頭にした数人が聞こえてくる声に顔をしかめている。このままではT字の廊下で合流してしまうのが分かったようだ。 「ロルフ様、早く行きましょう! 我々が一番乗りで応接室へ」 「そうです、このままではケネト殿達に先を越されてしまいます」 「なにを。馬鹿馬鹿しい。別に着順で何かを決めるわけじゃないだろうが」 取り巻きの声を面倒くさそうに一蹴しようとする男、これがロルフなんだろう。足を早めたくてウズウズしている様子の取り巻きをよそに、ゆったりと歩いている。そうすると必然的に曲がり角付近で2つの同じ顔の青年が顔を合わせることになった。 「よう、ケネト」 「ああ……ロルフ」 二人共最初の一言を発した後、何か言葉を続けたそうにしている。だがそれを許さないかのように口を開くのは後ろに控えていた取り巻き達。 「おい、道を開けろ! ケネト様が先だぞ!」 「いや、ロルフ様のほうが先に通ろうとなさったんだ!」 きゃんきゃんきゃんきゃんと犬が吠えるがごとく飛び交う言葉に、近くで隠れている鬼龍は辟易して。視線を移せば当のケネトとロルフが置いてきぼりではないか。 盛り上がっているのは取り巻き達だけで、ロルフは壁に寄りかかって腕を組んでため息を付いて。ケネトは騒ぎから投げ出されるようにして壁際に退避し、苦笑を浮かべている。 ――と、その二人の視線が絡んだのを鬼龍は見逃さなかった。 ケネトが「しょうがないね」とばかりに苦笑してみせたのに対し、ロルフが「気にするな」と頷いて額に手を当てる。 (……なんだ、この二人) 取り巻き達は自分達の言い争いに夢中で、二人が交わしている小さな合図に気がついていない。気がついたのは、姿を隠してその場にいないことになっている鬼龍だけ。 (いがみ合っているのは取り巻き達だけ、か。なら話が早い) 鬼龍は今見た事実と確信した事実をノートに記入し、皆と共有するべく送信した。 *-*-* 「あの……聞いてもいいですか?」 サシャと鬼龍の出ていった応接室内で、小さく手を上げたのはリニアだった。なにかな、というルーベルトの優しい声に導かれて、リニアは疑問に思っていたことを口にする。 「ケネトさんとロルフさんのお父さん……グンナルさんは跡継ぎに関して何も遺していないんでしょうか?」 「それがな、皆、まずはグンナルが継ぐのが先だと考えていたからして、跡継ぎ問題に双子を絡めるのはグンナルが爵位を継いでからでも遅くないと考えていたんだよ」 「一般的な考え方に則しますと、失礼ながらルーベルト様のお年でしたら、数年早くご子息にご当主の座を譲られていてもおかしくないと推察いたします」 ジューンが冷静に指摘すると、ルーベルトはそうだね、と優しく頷いて。 「元々よそ者で婿養子の私が長く当主の座についているのはふさわしくないという声もあったんだよ。やはり代々仕えてきた者達には、『血』というものが重視されていてね。けれどもできる限り長く当主を務める必要があったんだよ」 「……もしかして、お孫さんが男子の双子だったから?」 「まさか、息子のほうが私より早く行ってしまうとは思わなかったがね」 ベルファルドの言葉にルーベルトはゆっくりと頷いて。 不慮の事故でグンナルが亡くなることがなければ、双子が当主の座に着くのを遅らせている間にもっと穏便なやり方で決着を付けるつもりだったのだろう。剣術試合という最後の手段があるにはあるが、さすがにそれは本当に最後の手段にしたいに違いない。 コンコン。その時軽いノックの音が響き、返事を待たずに応接室の扉が開いた。 「あなた」 遠慮した様子もなく入室してきたのは赤いドレスを纏った老齢の女性。といっても年齢よりかなり若く見え、スタイルも未だに良い。彼女の若かりし頃が容易に想像できるようだった。 「おお、ヴェロニカ」 そう、彼女こそがルーベルトの妻、ヴェロニカである。 「……やっぱり女伯爵を名乗っても見劣りしないよ、この人なら……」 老いても衰えぬ美貌とそこから滲み出る気概のようなものを感じて、ベルファルドはこっそり呟いた。元々諸国見聞の旅に出るという伯爵令嬢らしからぬ事をやってのけた人物だ。しかもその先でロストナンバーを恋人として夫に定めたのだから、その行動力と気概は推して知るべしというところだろうか。 「率直に聞くけど、当主様と奥様はどちらが次期当主にふさわしいと思います?」 「あたしもそれ、聞きたかったです!」 ヴェロニカが座るのを見届けて口を開いたベルファルド。その質問にはリニアも興味を持っている。こういうのは部外者がどうこう考えるより、当事者がどう考えているのが大事だというのがリニアの考え。ベルファルドも自分達が選んだら、その時はみんな納得してもあとで揉めることになるかもしれないと危惧していた。 「私達の意見、ね……」 「ふむ……」 ヴェロニカとルーベルトは互いに顔を見合わせて。そして困ったように笑ってみせた。 「実は私達の意見は定まっていないのよ。どちらにも何かが足りない……そう思うの」 ヴェロニカはゆっくりと告げ、そしてルーベルトを見て。 「私も自身が当主になった時は何もかも足りなかった。何処かに帰属して当主となるなんて思ってもいなかったからね。だが、ヴェロニカや多くの先達、側近に助けられてここまでやってこれたんだよ。だから、初めから満ちたりてる者を選ぶ必要はないし、いくら完璧に素質が揃っていたとしても、一人では当主としてやっていけないと思っている」 ルーベルトの毅然とした意見は、伸びしろや支えになる者達の事をを考えるからこそどちらを選ぶか迷っているとも取れるが……。 「なんだ、答えは出てるんじゃないですか」 「「えっ」」 ベルファルドは二人の言葉を聞いて、彼ら自身も気がついていないもう一つの『思い』を確信した。だから笑顔で断言する。 「欠けている部分は誰かが補えばいい。そういうことですよね? 最高だよ! だったら、二人で仲良く当主を務めろってことじゃない♪」 「「それは……」」 たしかにベルファルドの言うとおりだ。二人が一緒に力を尽くせば色々とうまくいきそうだ。だがルーベルトとヴェロニカがはっきりしないのは、二人を当主とした場合、派閥争いが加熱して領が二つに割れかねないという考えからであろう。もちろんベルファルドだってそれはわかっている。 (……正直、どちらが当主になっても聞いた情報からすると、長いことうまくいく気がしないんだよね) だからベルファルドは無茶とわかっていても二人で当主を務めるという案を出したのである。 (決断力はあるけど人の意見を聞かない、優しく頭がよく慎重だけど自己主張が苦手……なんだか二人が組めばうまくいきそうじゃない?) 「……婿養子って立場弱いんですか? でも、夫婦そろってみんなの前で後継ぎについて決めちゃえばどーとでもなりそうな気はするんですけどね?」 黙ってしまった当主夫妻を見かねて、リニアが明るく口を開く。 「みんなが納得するなんてないし、たまには強引に決めちゃってもいいと思いますよ?」 そう、誰もがみんな納得することなんて無いのだから。たまには強引に決めてしまっていいとリニアは思う。 「そうだね。誰かに助けてもらってきたとはいえ、何十年も立派に当主を務めて来たんだから、ルーベルトさんはもっと自信を持って発言してもいいと思いますよ。婿養子とか関係ないでしょ、ここまで来たら」 たしかにベルファルドの言うとおり、ルーベルトが婿入りしたのはもう何十年も前の話。そして今までこうして立派に当主を務めてきたのだから。 「あらあなた、まだ婿養子だってこと気にしてたの?」 「え」 「私なんて最初っから気にしてなかったし。あの時反対した人たちもみんな亡くなってしまったし、今中心になっている人たちなんてみんなあなたの背を見て育ってきたんだから」 「「……」」 あっけらかんとしたヴェロニカの言葉。それに驚いたのはルーベルトだけ。リニアもベルファルドも「ほらやっぱり」という表情で。 「いや、でも……」 「今この子たちの言ったことが真実よ。そろそろあなた、婿養子の呪縛から解き放たれてもいいはずよ? ねえ?」 最後はこの場にいる三人のロストナンバーへと向けて、ヴェロニカ。三人が頷き返すと、ルーベルトはバツが悪そうに頬をかいた。 「しっ。そろそろお二人がみえるようです」 生体サーチで部屋の外の様子を察知したジューンが室内の一同を制す。一同は口を閉ざして頷き合い、ルーベルトとヴェロニカは続き部屋の隣室へと移動した。入れ替わりに続き部屋からサシャが戻ってくる。 そして、扉が叩かれるのを今か今かと待つ。鼓動が外に聞こえてしまうのではないかと怖くなるような沈黙の後、足音が扉の前でとまり、二重のノック音が聞こえた 「ケネトです。お呼びでしょうか」 「ロルフです。参りました」 「どうぞ、お入りください」 代表してジューンが入室の許可を述べる。すると扉を開けたケネトとロルフは当然の事ながら聞き覚えのない声に怪訝そうにしながら入室してくる。最初に声を上げたのはどちらの取り巻きだったか。 「何者!」 「伯爵様達は!」 「私達はお二方に依頼されてここでお二人をお待ちしていました」 誰何の声にも毅然として応えるジューン。取り巻き達の後ろから姿を現した鬼龍はサシャと視線をあわせて頷いて。 「はいはい~。取り巻きの皆様方は静かにしていらしてくださいねー!」 シュルシュルシュルシュルシュルッ! サシャのトラベルギアであるアンティークな白磁のティーポットの口から注ぎだされたのはカラフルな紙テープ。幾筋もの紙テープは生き物のごとく取り巻き達を巻き上げ、口まで塞いでしまう。 ミノムシかミイラみたいになった取り巻きから順に鬼龍がドアの外に運び出し、全員運び出したあとでぱたんと扉を閉めて。扉の外から恨めしそうな呻き声が聞こえるが、知らんぷりで鬼龍は扉に寄りかかって腕を組んだ。キジの尾が彼の動きの余韻でみょんみょんと揺れている。 「はい、これで邪魔者はいなくなりました。お二人とも、ここからは本心でお話下さいね」 「サシャ……君は……」 呆然としていいるケネト。当然のことだろう、新人メイドだと思っていた彼女があんな手品を披露して取り巻きを拘束してしまうなんて。 「ケネト様、ごめんなさい。でもメイドだってことは本当なんです」 あとで詳しく説明しますから、今は大事な話をさせてくださいと言いおいて、サシャはジューンに場を預ける。ジューンは真剣で何処か神秘的な表情で、しっかりと口を開いた。 「ルーベルト様、ヴェロニカ様は貴方方2人に人を使う才覚をお求めです。どちらが領主になってどちらが補佐になるか、剣の試練までにお二方でお決め下さい。それまでに決定がなされない場合、お一方は試練の場で死ぬ事になります」 「「なっ……」」 いきなり死ぬと言われて動揺しないでいられるだろうか。ケネトとロルフは顔を見合わせて、そして口を開いたのはロルフの方だ。 「いきなり何を言いやがる! そんなこと言われて信じられるか!」 そう言われるだろうと予想していたジューンは、ちゃんと次の言葉を用意していた。落ち着いたままそれを紡ぐ。 「予言が出たのです。それ故ルーベルト様は私達をお呼びになった。お二人のどちらが欠けてもこの領は成り立たなくなると知っているから。孫のどちらが死ぬのも嫌だから」 「ロルフ、落ち着いて。お祖父様がこの国の出ではないことを知っているだろう? だとしたらお祖父様独自の信頼出来るつてがあるのかもしれない。もしくは当主にしか知らされない何かが……だからとりあえず話を聞こう。怒るのはその後でもできるから」 一歩前に出ていたロルフをケネトが制して冷静な思考を促す。その様子を見て鬼龍とベルファルド、そしてリニアとサシャはほう、と息を呑んだ。 「領民は良い治世であれば、誰が領主で宰相でも構わないのです。貴方方お二人は、どちらが領主宰相になってもこの領を上手く切り盛りできるでしょう。貴方達に求められているのは取り巻きを操縦する才覚です。取り巻き全てを排除しても、彼らの増長を許しても領の運営は立ち行かなくなります」 「「……」」 二人は黙ってジューンの言葉を聞いた。それは彼女の言葉が正論だからだ。戯れではなく、真にこの領のことを、一家のことを考えていると思えたから。 「これが貴方方の祖父母様から与えられた真の、そして最後の試練です。どうかお間違えの無い選択を」 「本当に俺達が決めてしまっていいのか?」 「もしかしてあなた達は、僕達のどちらが当主に相応しいのか、見定めるよう頼まれたとかじゃないのかな? だったら僕達が決めるのは……」 「それはお二人が納得して決めなければ意味のないこと。他者の決定に唯々諾々と従えますか。第一決定を他者に求めては領主の才覚なしと判じられますよ?」 二人の言葉にぴしゃりと返すのはジューン。つづけてサシャがニッコリと微笑んで。 「どちらが後継ぎにふさわしいか、答えを出すのは貴方がたです。だってこれは家族の問題、部外者に丸投げはフェアじゃない」 この言葉は扉の向こうで聞き耳をたてているルーベルトへも向けられていると、本人は気がついているだろうか。 「だったら」 他の者が発言する前にそう言って言葉を切ったのは、ロルフだった。自然、一同の視線がロルフに集まる。 「当主になるのはケネトだ。俺はお祖母様がそうしてきたように、ケネトの補佐に回る」 「ロルフ!」 「俺みたいな気の強い性格の奴は時々オマエの背中を押すくらいがちょうどいいんだよ。お祖母様とお祖父様もそれで何十年もうまくやってきたじゃないか」 驚いたことに、一番当主の座に固執しそうだったロルフこそが、一番自分自身をわかっているようだった。そしてケネトも。 「僕だって、僕一人の力じゃ何もできないよ。時々迷いすぎる僕を止めて、背中を押して絎けるロルフがいないと……」 彼も、自分の欠点をわかっていた。そしてそれを補うのがロルフであることも。 「やっぱりね」 「うむ」 「ふふ、思ったとおりです♪」 「答えは最初から出ていたようですね」 ロストナンバーたちも、実はわかっていたのだ。二人のどちらかが欠けてもうまく立ちいかないと。二人が力を合わせてこそ、良き統治が行われるということを。 必要だったのは、双子の選別ではなく、二人の関係を変えてしまっている取り巻きの排除。二人が本音を言える機会。そして。 「自信を持って、ご当主さま」 カチャリ、続き部屋の扉を開けるサシャ。その笑顔は扉のすぐ向こうにいたルーベルトへと向けられていて。 「婿養子なんて関係ない、小さい頃から二人を見守り育ててきた貴方のご判断なら皆様納得なされるはずです」 そう、一番必要だったのは、ルーベルトの持つ『婿養子』というコンプレックスの排除。彼がそれを乗り超えて、本来の判断を自信を持って行えるようにすること。 他人であるロストナンバー達が決断を下しても意味は無いのだ。それは、この話を聞いた時に誰もが感じたこと。 だから、一同はルーベルトを奮い立たせるようにして。 何よりも強いのは血のつながりと共に過ごしてきた時間。自ら目をかけて過ごしてきた二人を一番わかっているのは誰? 「私が……」 「ほら、行きなさいよ」 ぽんとヴェロニカがルーベルトの背を押す。サシャが引き継ぐようにしてその背を柔らかく押しながら応接室の中央へと導く。 「さっきはああ言ったけど、俺はお祖父様の判断に従います」 「もちろん、私もです」 ロルフとケネトは慌てて膝をつくようにし、祖父を仰ぎ見た。「がんばって♪」とリニアが小さく声をかけて、ジューンは子供にするように優しくそれを見守る。 「先程の言葉はまことか?」 「勿論。俺はケネトを支えたいと思っている。だから俺に気を使っているなら気にしないでください」 「僕は、一人では無理です。けれどもロルフと一緒なら、どんな困難も乗り越えていける気がします!」 双子は凛として意見を述べる。それを見るルーベルトの瞳の端は光っていて。 「それでは私の意思と二人の実力をみて……」 言葉を切ってすっと息を呑んだルーベルトを、鬼龍もベルファルドもじっと見つめて次の言葉を待って。 「次期当主はケネト、その補佐をロルフとする!」 パチ、パチパチパチパチ……一番最初に拍手を始めたのはサシャだった。続けてヴェロニカ。そしてこの場にいる者達全員が拍手を始めて。連鎖となって大きな拍手がルーベルトを包み込む。 ルーベルトは双子を見たまま、しずかに涙を流していた。 彼にとって、婿養子という肩書きはさぞかし大きかったのだろう。家族を愛し、愛されてきた日々は彼の心を癒したが、数々の圧力が彼を苛んだに違いない。 何十年経っても自分では抜け出せなかった網からようやく抜け出せたルーベルト。そして聡明な次世代の双子。 力を合わせれば、領の統治はうまくいくに違いない。 アイドルモードに変形したリニアの歌声が、祝福とばかりに屋敷の中に響き渡った。 【了】
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