某月某日 気分転換に、先日発見した遺跡へ向かった。調査した結果、面白いものを発見した。古代の、船の設計図と思われる物の一部だ。 私が嘗て考え、異端と言われた技巧が、使われていた。昔の人々は、今よりもはるかに進んだ技巧を使い、海原を旅していた。 その船を、私は見てみたい。某月某日 遺跡の中ほどで見つけた装置から、船の模型らしきものを発見した。しかし、触れただけで朽ちてしまった。……時代の流れとは恐ろしい。 設計図の破片と思わしき物を発見した。しかし、黄ばんでいて分り辛い。これを再現できたら、どんなにいいだろうか。某月某日 例の遺跡を調査していくうちに、入り江のような空間を見つけた。何処からか水が入ってきているのか、揺れている。 持ち主の手記のようなものを発見したが、文字が滲んでいて殆んど読めない。しかし、最後の文字だけがはっきりと読めた。 ――船を作るな。 これは、どういうことだろうか?某月某日(黒い沁みで所々読めなくなっている) 漸く分った。あの船を作るな、という意味が。私が考えた技巧は、あの船は、今の世界には危険すぎる。……ジェローム様の身を危うくする。 何かの装置を起動させてしまったらしい。帰りに、見えない刃に切られ、部下が3人死んでしまった。あの遺跡は、封じられるべくして、封じられたのだ。 しかし、あの奥に私はとんでもないものを忘れてきたようだ。ああ、ポーラ、本当にすまない。某月某日(文字が掠れている。薄っすらと褐色の指紋がついている) これが最後の日記になるかもしれない。ポーラ、きみに伝えたい事がある。 あの遺跡の最深部に、大切な物を落としてしまった。君に会わせる顔がない。もし行ったとして……それを拾ったら、直ぐに遺跡を出て欲しい。 あれは、君にみせたくはない。いや、ジェローム様や他の鋼鉄将軍にも。あれをみせてはいけない。あれはそれほどまでに危険だ。 あの船は(手記はここで途切れ、黒い染みで汚れている)******** ――0世界 司書室に集まったロストナンバー達を見、世界司書らしき女性は頭を下げた。そして、エルフのように尖った耳をぴこぴこさせて、頭を下げる。「集まってくれてぇ、ありがとうございますぅ。今回はぁ、ブルーインブルーにぃ、向かってもらいますぅ」 今回の舞台はブルーインブルーのとある遺跡。そこの調査を手伝って欲しい、というものである。「その遺跡はぁ、元鋼鉄将軍ポーラの夫、シモンによって発見されましたぁ。その後、他の学者も調査したんですがぁ、ある部分でぇ、皆ひき返しましたぁ」 それは、シモンが発動させてしまったらしい防衛装置の所為だと言う。 なんでも、何処からともなく衝撃波が飛んできて、切られてしまうそうだ。全部で7箇所あったようだが、3箇所は壊された為残り4箇所沈めればよい。「実はぁ、ポーラさんがぁ、旦那さんの日記を読んでぇ、その遺跡に行っちゃいますぅ。協力できるかもしれませぇん」 今から向かえば、まだ彼女と合流できるかもしれない。そう付け加えて司書は、人数分のチケットを取り出した。 ――ブルーインブルー・遺跡内。 貴方がたが遺跡を進むと、ぶぉん、と音を立てて『何か』が飛び出した。慌てて避けると、どこからともなく『ぷしゅー』と間抜けな音がする。 しかし、奥を見ると、誰かが倒れているように見えた。僅かに香る血の匂いに混じり、柔らかな花の香りがする。 元鋼鉄将軍“香蘭の未亡人”ポーラその人が、血に染まった姿で倒れていた。彼女は腹部を押さえ、貴方がたへ叫ぶ。「お気をつけなさいっ! この装置は、固定されているようですけれど……」 ポーラはどうにか衝撃波の届かない範囲へ逃れているようだ。しかし、このまま放っておけば命が危ない。 貴方がたは、まず、この装置をどうにかしなければ、と考察をめぐらせた。
起:待ち受けるは見えぬ刃 ――ブルーインブルー・遺跡内 ロストレイルを降り、遺跡内へと駆けつけた4人のロストナンバー達は、ぴたり、と足を止めた。この辺りに、例のトラップがある筈なのだ。 薄暗い中目を凝らすと、黒いドレスの女性が腹部を押えて横たわっているのが見えた。あれが、元鋼鉄将軍“香蘭の未亡人”ポーラその人なのだろう。 「まずはあの、ポーラって言うオネーサンをなんとかしなくちゃだね~」 そう言いながら最初に動いたのはツーリストの沖常 花だった。彼女は出身世界で衝撃波を放つ相手と戦った事がある。自分ひとりならば、避け続ける事もできるだろう。しかし、今回はポーラの救出もしなくてはならない。 同じくツーリストのパティ・ポップもまた両手に拳を握って頷く。 「遺跡だし、あたしの手でぱぱっと罠を解除してやりたいわ。罠を見てみるから、先にポーラをお願いできるかしら?」 彼女の言葉に頷いたコンダクターの虎部 隆はツーリストのジャック・ハートを見やった。隆はロボットフォームセクタンであるナイアガラトーテムポール(以下:ナイアと表記)を抱えて問いかける。 「なぁ、ジャック。ポーラを引寄せられるか?」 「ああ、辛うじて出来そうだ。俺ァ半径50m最強の魔術師だゼ?」 治療は出来ねェがナ、と小さく呟きつつも、ジャックは僅かに溜め息を吐いた後、気を集中させる。すると、ぐったりと横たわっていたポーラの体がふわり、と浮き、次の瞬間には4人の前に運ばれていた。ギリギリ50メートル内に居た為、どうにかダメージを与える事無く保護する事が出来たようだ。 「おっ……っ、と」 花がポーラを受け止め、ジャックが直ぐ止血し、応急処置を施す。そして彼が持ってきた生理食塩水で傷口を丁寧に洗う。それに一安心しつつ、一同は罠の攻略を開始した。 「念の為に、誰かポーラの傍に居た方がいいかもしれないわ」 「まぁ、その方がいいかもしれない」 ふと、パティが呟き、隆が頷く。と、花が手を上げた。 「罠の方は、3人にお願いしたいな。オネーサンの方はボクが見ておくから」 「それは、頼もしいじゃネェか。 任せたゼ」 ジャックがぽん、と花の肩を叩いてにっ、と笑う。彼はパティと隆を引き連れて罠の方へ向かい、その背中を花は見送った。 隆がゆっくり進んでみると、5メートル感覚で罠が設置されているらしい事がわかった。ジャックが念の為いつでも隆を呼び寄せられるように身構えていたが、彼は同行したパティの風魔法のお陰で衝撃波を受けずに調べる事が出来た。が、背中に冷たい汗が流れるような場面もあった。 衝撃波に砂を掛けて動きを見ると、1つ目と5番目は上から下、2番目は右から左、3番目と4番目、6番目は壊れており、7つ目は左から右へと流れていた。 「……とりあえず、壊せばいいんじゃない? よく見ると通路に小さな溝があって、そこから出ているみたいだけど」 「よぉし、やってやろうじゃねェか!」 遠くから見ていた花の言葉にジャックが手を打つ。彼は再び集中して辺りを透視する。同時に電気機器制御で罠の解析と破壊を試みる。じっくりと目を凝らして視ていると、案外装置が複雑ではない事がわかってくる。また、なにかの薬物がかかった形跡があり、衝撃波が出るタイミングが僅かに遅くなっているのもわかった。 一方、パティと隆は壊れた罠から捜査を開始した。ロボットフォームセクタンの能力【ユーザーサポート】を使用すると、隆はふむ、と小さく唸った。 「どうやら、壊れた所のは溝に何か詰まっているみたいだな」 「壊れたのは、精々5、6年前ぐらいかしら? そんなに痛んでないようね」 パティの呟きに、不思議そうに首を傾げる一同。もしかしたら、シモンないし、彼の部下が壊したのかもしれない。 「兎も角、こっちも解析終了したゼ。何かを詰まらせれば、壊れるっぽいナ」 「案外、脆い……?」 彼の言葉にパティが首を傾げる。が、その傍らで隆がジャックににこり、と笑いかける。 「ん? 何だよ」 「ジャックごめーん。破壊の時、装置のところまでつれてってー♪」 彼の肩の上では、ナイアもまたおねだりするようにちかちかと目を光らせる。彼らの様子に、ジャックは渋々頷くのだった。 (これが花やパティだったら、素直に頷くんだがナ) と、内心で呟きながら。 作戦は、いたってシンプルだった。ジャックが罠の付近まで隆とパティを連れて行き、それぞれ溝の奥にある装置を壊させる、という物だ。 「俺のギアをなんだと思ってる? 超硬くした芯で配線工作だってするぜ!」 と、隆はトラベルギアであるシャープペンシル『水先案内人』から放たれる芯で隙間の奥にある機械を故障させる。ジャックがサイコフレームで衝撃波を防ぎ、その間に芯を折って中へと飛ばす。 (って、虎部ってコンダクターよね? 一番危険ではないかしら?) パティはそう思いながら衝撃波を風の魔法で押し返す。同時に砂を押しこめると衝撃波が威力を弱めて装置へと跳ね返る。 こうして、3人が協力する事で罠は全て破壊する事が出来た。最後にジャックがもう1度透視で壊れたか確認し、作動しない事がわかったが一応念力で念入りに細かな所まで壊しておく事にした。 「これで、罠は全部壊したゼ。他の機械系等に異変もなさそうだナ」 そうジャックが言うが、パティは内心で疑問を持つ。彼女は、探索中は率先して色々調べてみよう、と心に決めるのであった。 一方隆は一安心したのか、額の汗を拭っている。彼らは顔を見合わせると1つ頷き、花とポーラの元へ駆けて行った。 一方、花はポーラの様子を見ていた。ジャックと彼女の処置が良かったのか、彼女は意識を取り戻しつつあった。幸い、傷は出血量の割りに深くは無かった。衝撃波のショックで気を失っていたのだろう、と花は判断した。 3人が罠の破壊を終えた頃、ポーラが僅かな声を漏らしながら瞼を振わせる。 「! 気がついた?」 「……っ! 貴女は……ジャンクヘブンの傭兵?」 目覚めるなり、身を起こそうとするポーラ彼女の問い掛けに、花は頷きながらまだ寝ているよう、手で示す。そして、説明しようとしていると、パティ達がやってきた。無事に罠を壊したようだ。 「目ぇ、覚めたようだナ、マダム」 ジャックが声を掛けると、ポーラは僅かに微笑んで4人に頭を下げた。 パティが状況を説明し、それにポーラは申し訳なさそうに4人へと頭を下げた。 「ごめんなさい。わたくしが1人で向かわなければ貴方がたに迷惑を掛ける事にはならなかったのだけれども……」 「そういえば、その部下はどうしたの?」 花の言葉に、ポーラは表情を曇らせる。 「わたくしの我儘に、付き合わせる訳にはいきませんわ。ですから、近くの無人島で待機しておくように、言っておりました」 また、罠に関しては自前の薬で動きを鈍らせ、その間に突破しようと考えたらしい。事実彼女は途中までその方法でどうにか誤魔化せたらしいが、最後の罠には通用しなかったとの事だった。 (それが、あの痕跡か……) 透視で視ていたジャックは合点がいったのか小さく手を叩く。 「へぇー……、鋼鉄将軍は皆死んだと思ってたよ」 「あら、こちらを見て下さいませんこと?」 顔を見られないようにしつつ呟く隆の頬にポーラは手を伸ばし、瞳を合わせる。そのそつない動きに、隆は反応できなかった。ふと重なる黒と桃色の瞳。儚げながらも、その奥に強い意志の焔を見たような気がし、隆は僅かに息を飲む。 「わたくしの場合、出会った傭兵達の言葉に心を動かされ今に至たっているのです。他に生きている方がいらっしゃるか否かは、秘密ですわ」 穏やかに語るポーラはそういいつつも、小さくくすり、と笑った。 承:手記を開いて 壊れた罠の先へと少し進むと、パティが、休憩が出来そうな場所を見つけた。どうやら休憩室だったようで、ベッドもある。 彼らが来るまで開けられた形跡は無かったものの、そこの空気は澄んでおり、とても快適な場所だった。5人はとりあえず椅子に座り、これから先の事を話す事にした。 「そういえば、ポーラさんはご主人の落し物を取りに来たのよね?」 パティの問いにポーラは小さく頷くと、ジャックが身を乗り出してきた。 「ポーラ、シモンの落し物が何か想像つくか?」 「ええ。おそらく、これだと思いますわ」 そう言いながら彼女は首に掛けた銀の鎖を服の中から引き出す。よく見ると、鎖には銀の指輪が通されていた。話によると、彼女の故郷では結婚指輪をこうして鎖に通し首に掛けているらしい。 「夫が死ぬ一ヶ月前から見当たらないのです。……おそらく、この遺跡で落としたのでしょう」 ジャックはそのリングをまじまじと見、内側を見る。と、『S&P』と刻まれていた。外側には歯車の刻印が刻まれている。 (指輪かァ。隙間とかに入ってる可能性もあり得るゼ。……まぁ、男物の指輪だからこれよか一回りはでけぇ筈ダ) 彼はそう呟き、指輪を借りてデザインなどを記憶した。 「まぁ、兎も角! 協力して探し物を見つけてやるよ」 隆が胸をとん、と叩いてそういい、手掛かりがないか手記を見せて欲しい、と願う。ポーラは少し考えた後、「参考になるかは解りませんけれど」と、彼に手渡した。 「ねぇ、ボクにも見せて!」 花がそういい、後ろからパティとジャックも覗き込む。その姿に苦笑しつつもポーラは黙って彼らの様子を見ていた。誰かが振り返れば気付いただろうが、その瞳にはどこか懐かしそうな色が浮んでいた。 この手記は、シモンが妻と共にジェロームの仲間になった後書き始められたものだと言う事がわかった。事細かに起こった出来事やジェローム達の様子が書かれており、これだけでも面白い内容だった。 手記を読み進めていくうちに、シモンがこの遺跡を見つけた辺りに差し掛かる。 (あら?) まず最初に気付いたのはパティだった。気になったのは『異端と言われた技巧』という文字。共に読んでいた隆共々ピタッ、と止まる。 「ん? どうしたの?」 花が不思議そうに見つめるが、隆は反応しない。我に帰ったパティが服を引っ張るものの、それでも隆は動かなかった。 (なにっ!? 禁断の技術を使った船!?……原子力潜水艦でもあるのか?) それだったら放射能がヤバいんじゃないか、とか考える隆だが、それはそれで探りたい事に迫れるのではないか、と考える。それ故に、船の情報が欲しかった。 「なぁ、ポーラ。提案なんだけれど形見はあんたに、設計図はこっちにでどうだい?」 彼としては、ポーラにこの遺跡にある船を作れる人を捜してもらい、作ってもらいたい、と考えていた。しかしポーラの表情は暗い。というのも、夫が『あの船を作るな』と警鐘を鳴らしている以上、何かしら危ない事になるのでは、と考えているのだ。 なかなか折れないポーラに、隆は土下座しようとしたが、それを彼女は止める。手を伸ばして隆を止めると、ポーラはどこか厳しい声でこう言った。 「殿方は、そう簡単にそのような姿を見せるものではありませんわ」 その言葉に、隆は僅かな苦味を覚えつつも従う。二人は色々話し合い、その結果、船の情報を見た上で考える事で落ち着いた。 「うーん、オーバーテクノロジーなのかしら? そして、それでも大丈夫かしら?」 パティが小声で呟きつつ、ページを捲っていく。所が途中で何かの染みで紙が変質し、捲り辛い部分もあった。そしてそれが何なのか、皆勘付いた。 (これは……シモンの血……) ジャックはふん、と小さく鼻をならす。落し物の手掛かりといえば『大切な物』という事だけ。しかし、幸いにもポーラには心当たりがあった為、少しは探り易い。 しかし、シモンが出した結論が、妙に引っ掛かる。今のブルーインブルーには危険すぎる代物という辺りが、特に、である。その言葉から隆は原子力ではないかと推測したが、放射能を探る物があれば、色々調べる事もできたかもしれない。 それを抜きにしても、一行は僅かに息を飲む。作ってはいけない、と警鐘を鳴らすほどの船がどういうものか、とても気になった。 「ふむ。トラップを仕掛ける以上、『その奥に隠れているものに価値がある』って言ってるようなものだよね?」 「それも、相当危ない代物みたいですわ」 花とパティの言葉に、ジャックと隆、ポーラも頷く。一行は、休憩を挟んだ後シモンの手記を片手に奥へと進む事にした。 各自思い思いに休んでいる中、ジャックはポーラに声を掛けた。彼には、やはりポーラの傷が気がかりだったようだ。 「何でしょう?」 「正直、今の状態のテメェを連れ歩きたくねェンだワ……」 形見の品を探してくるから、ここで待っていて欲しい、と彼は真面目にポーラを説得する。が、彼女は首を振り、4人と共に行く、という。その真剣な表情に何も言えず、ジャックは「どうなっても、知らねぇゾ」と呟いた。 「テメェの傷は深くはない。でも、今は花と俺の応急処置で今の状態を保ってるってのを忘れんなヨ?」 「ええ、無理はしませんわ、ジャックさん」 ありがとう、と小さく礼を述べれば、ジャックは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。 花はポーラから手記を借り、もう1度読んでいた。そして、小さく溜め息を吐く。 (中身が吉と出るか凶と出るか……。まぁ旦那さんの手記を見る限り『凶』の可能性が高いけどね) しかし、どんな物が待ち受けているにしろ、ポーラを助けたい、と心の中で強く想う。傷つきながらも進もうとするほど、大切なものなのだから。 (結婚指輪かもしれない、か。だったら尚更だよ。綺麗なオネーサンの為に一肌脱ぐのも、いいよね?) 花は口元を綻ばせ、ちらり、とポーラを見た。 パティは部屋から出、あたりを見渡す。そして相棒である4匹のドブネズミと共に事細かな部分まで探索をしてみる。 「やっぱり、ありませんわね」 ちょっとがっかりしたように溜め息を吐くパティ。彼女は半分ネズミ人間の血を引いているためか、天井や床下などありとあらゆる場所に抜け道があるのではないか、と考えていたのだ。彼女は、本格的に行動を開始してから改めて調べてみる事にした。 (この遺跡も、突破して見せますわ! そして、危険な物があるならば……) 一方、隆。彼は船の設計図が手に入る事を祈りつつ、ギアであるシャープペンシルをくるくると回していた。 (分からないだろうけど、これはおれの中じゃ一番大事なもののひとつなんだよ) 彼は、世界図書館の元館長の目的を探りたかった。現館長・アリッサと壱番世界崩壊回避の為にも、潜水艦が欲しかった。 休憩も終え、一同は部屋を後にする。傷が気になるポーラは花が付き添い、一行はゆっくり進む事にした。幸い、遺跡自体の老朽化はさほどない。念の為に調べてみると、かつては罠があったようだが、全て故障していた。 それに安堵しつつ、一行は調査をしながら奥を目指すのであった。 「シモン、一体貴方は何を見たのですか?」 ポーラが呟く。その内容は、他の4人もまた気になった事であった。 転:形見の品を探して その後の調査は比較的楽なものだった。ポーラを気遣って行動するため、たしかに進む速度は遅かったものの、その分丁寧に調査する事が出来た。 ジャックが透視し、パティがドブネズミ達と共にちょこまかと動く。機械関連は「俺サマはエレキ=テックなンだヨ」というジャックと、ロボットフォームセクタンの能力【ユーザーサポート】で速やかに解読する。2人のお陰でこの遺跡が戦艦などを作り整備するドッグ兼研究所である事や、殆んどの機械が作動しない、という事がわかった。老朽化は表面化していないだけで、内部では色々と進んでいるようだ。 また、細やかな動きを得意とするパティのお陰で抜け道を複数見つけることも出来た。ただ、こちらの多くは漸く1人の成人男性が通れるほどの狭さで、手負いのポーラを進ませるには辛い物もあった。 傷が痛むであろうポーラは、そんな様子を見せず、気丈に振舞う。そんな彼女を気遣いつつ、花も辺りを調べてみる。と、ぼろぼろに崩れた船の設計図らしきものを見つけた。恐らく、シモンの日記にかかれたものだろう、と彼女は思った。 (しっかし、これじゃ望み薄だな) 隆が溜め息を付きながら資料をみる。紙媒体の物は殆んどがぼろぼろに崩れているのだ。船の設計図を辛うじて見ることは出来たが、潜水艦ではなく戦艦であり、目的のものは作れない事を悟る。 「そういえば、あの手記にも書いてあったね」 花が思い出しつつ手記を開く。それでも、完全な図が残っていれば見てみたい、と想っていた彼女も少しがっかりしているようだった。 そんな中、透視をしていたジャックがなにかに気付く。彼はもうすぐ最深部に到着するので念入りにその場所を見ていたのだが、ぼんやりと小さな輪のようなものを見つけることが出来た。 「もしかしたら、あれがポーラの探し物かも知れネェ。……けど……」 「けっこう、広い場所ですわね」 パティの言葉どおり、この遺跡はおもったより広かった。休憩室から現在地である資料室まで普通に進んだとしても2時間ほど掛かるだろう距離だった。 ジャックの話によると、ぎりぎり50メートル内ではあったものの、内部が薄暗くてよく見えない、との事だった。幸いポーラがランタンを持って来ている為、それを使って進む事にした。 「隙間に、指輪っぽい物を見たゼ。多分、あれがシモンの落し物だナ」 彼の言葉にポーラが小さく安堵の息を吐く。その傍らで、隆は1つ頷いた。目的の物は無さそうだが、請け負った以上依頼は成功させたいものである。 「よかったな。大切な物がみつかりそうでさ」 ぽん、と肩を叩きながらポーラに言えば、静かに頷く。僅かに浮んだ笑みに、花もまた笑顔で頷き返す。 「あとちょっと、だね! がんばって進もう!」 そう、拳を天井に突き上げれば仲間達も各々頷いたり、同じように拳を上げたりして答える。パティもまた気合の入った笑顔で頷いた。 「でも、油断は禁物。焦らずに、進みましょう」 一行が資料室から出、真っ直ぐ進むと……僅かに波の音が近づいてきた。シモンの手記にある最深部にはプールのようなものがある、と確かに記されていた。 彼らの目の前には、鉄製であろう大きな引き戸が現れる。そこには擦れた文字で『No.』と書いてあるのが辛うじて判ったものの、数字はわからなかった。 「いよいよか。……果たして何が拝めるのやら」 「そこは、出たトコ勝負って奴だねっ」 隆と花がそう言って引き戸に手を掛ける。が、錆び付いているのか、中々開かない。パティが手伝おうとしたが、ジャックが無言で念力を発動させる事で、漸く開いた。耳障りな金属特有の音を立てながら開いていく引き戸。それと同時に、僅かな潮の香りが漂ってくる。 「海の水が入り込んでいるのかしら?」 パティが首を傾げつつ先へ進む。その後を隆が追い、ポーラと花が続く。殿にジャックがつき、そのまま静かに入っていった。 パティが調査した限りでは、危ない箇所はなかった。しかし、一行の目に広がった光景は、どこか異質と思えるような場所だった。 薄暗く、高い天井。どこからか隙間があるのか、篭った波の音が聞こえてくる。みれば大きなプールがあり、遠くを見やると先ほどの引き戸よりさらに大きな引き戸のようなものが見えた。 ランタンを掲げると、プールの中の物がうっすらと見えた。濁った水の中、確かに、船が沈められている。 (これが……ここで作っていた物……) (異端の技巧を持つ船……) 思わず見てしまうものの、隆はきょとん、となる。見た目は壱番世界で見かけたことのある戦艦のように見えたのだ。しかし、傍らで透視していたジャックが、思わず、と言った様子で目を見開いた。 「ど、どうしたんだい?」 花が不思議に思い、ジャックの前で手を振ってみる。しかし、彼はごくり、とつばを飲み込み、しばらくの間立ち尽くしていた。彼の目には、複雑な回路までがありありと見えている。そして、どういった物が仕込まれているかも……。 (一体どんだけオーパーツなンだヨ、この船!? ……俺サマの世界でもこんなの見た事ネェ!!) 彼の出身世界は、壱番世界より進んだ科学技術などを持っていた。しかし、今透視している船は、その世界ですら見た事の無いものだった。 「と、兎に角まずは探し物を致しましょう!」 手をぽんっ、と叩いてパティが言う。それで我に帰ったジャックは額に浮かんだ汗をぬぐって頷いた。 ジャックが透視した場所に見えたものを手掛かりに、指輪を探す。引き戸の周りなど、壁側には色々な機械があり、電子機械制御や【ユーザーサポート】をよういても使い方や目的がわからなかった。 下手に触って起動させないよう注意を払いつつ、一同がくまなく探していると、パティが小さく声を上げた。彼女の使い魔の1匹が、どうやら見つけたらしい。最初、使い魔がとりに行こうとしたものの、入り込む事が出来なかった。そこはジャックがアポーツで取る事で解決する。 手渡された男性物の指輪は、確かにくすんでいたがポーラは内側の刻印を見つけ、嬉しそうに握り締めた。 「みなさま、ありがとうございますっ! お陰で、あの人の形見を取り戻せましたわ」 喜びに胸を震わせ、顔を綻ばせるポーラ。彼女の様子に4人も嬉しくなる。僅かな間、顔が綻ぶ一行だったが、花が何か思い出す。 「そういえば、手記にはこう書いてあったね。『それを拾ったら、直ぐに遺跡を出て欲しい』 って」 彼女の言葉に頷く一同。しかし、パティはちらり、とプールを見た。あの船を『視』たジャックの様子が、明らかにおかしかったのだ。 「……あの船、壊した方がいいのかしら? そして、この遺跡事態封印した方が念の為には……」 「まぁ、目的は達成したんだ。ポーラの具合の事も気がかりだし、そろそろ帰ろう」 隆が心配そうにポーラを見つめる。確かに、彼女の傷は深くはなかった。しかし、それでも辛いだろう、と思うのだ。同意見なのか、ジャックも頷く。 「そうだナ。傷も応急処置ぐらいしかしてネェ。治療したほうがいいだろうヨ」 その言葉に頷き、撤退準備を始める。しかし……そんな彼らを止めるかのように、カラン、と音を立てた何かが落ちた。 振り返ると……、いつの間にか、壁に大きなモニターが出現していた。いや、最初からあったのだが、気付いていなかったのかもしれない。しかし、何も映っていなかった。 「なんだヨ、驚かせやがって……」 「そうだ! そうだ!」 ジャックが呟き、花が同意してちょっとだけむくれる。しかし、奇妙な空気が辺りを包み、パティの使い魔たちがひしっ、と彼女にしがみつく。 「あらあら、どうしたのでしょう?」 「おかしいですわね。なんだか……いやな予感がしますわ」 心配そうに使い魔を抱きかかえるパティの傍らで、ポーラもまた表情を険しくする。そして瞬時に【ユーザーサポート】を発動させた隆が、声を上げた。 「あれ……っ」 彼が指差した先、どこからともなく『ヴゥオォン』という鈍い音がした。 結:禁忌 今まで沈黙していたモニターが、ぱっ、と無機質な光を燈す。画面に無機質なモノトーンの砂嵐が吹き荒れ、耳障りな音が空間に響く。しかし、暫くすると、ぼんやりと一艘の船を映し出した。 「!!」 一同は、それに見入っていた。所々聞こえる音声も無視して、ただただ船を見ていた。 それは、一見なんの変哲もない軍艦だった。ゆっくりと海原を進む姿はコンダクターである隆には見慣れた光景であった。 しかし、しばらくすると、幾つ物砲身などが姿を現す。そして、遠くにあった島へと一斉に砲撃を開始したのだ。荒い画像の中、なす術もなく蹂躙される島。その、あまりにも悲惨な光景に、圧倒的な火力に、一同は言葉を失った。 ――その『力』は、見た事も無い恐ろしい光景を、5人の目の前に突きつけた。 血など見慣れているはずのロストナンバー達やポーラでさえ、恐怖を覚えるほどの、威力。それ故に、シモンは、そして、古の科学者は言ったのだ。 ――あの船は作るな。 その言葉を思い出し、ジャックは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。過ぎた科学は魔法に見える、とも聞いた事があるが、まさにそんな光景だった。 「……バランスを崩すに決まってるよ、あの船は」 花の呟きに、全てのものが頷く。体が思うように動かないのは、今、自分たちがあの映像に脅えているからだろうか? 足は動かず、視線を動かす事もできない。 (俺サマの世界だって壱番世界よりずっと進んじゃいるが……こんな技術はねェ。聞いた事すらねェヨ……) こんなものがあるならば、世界樹旅団が黙っているはずが無い。それなのに何故彼らは手を引いたのだろうか? それが、ジャックにはわからなかった。 (探せばとんでもないオーパーツが出てきそうなのにヨ……。もっと魅力的な世界を見つけやがッたのか? それとも……) 考察を繰り返すも、解らない。ただ、推測するならば、世界樹旅団ですら持て余す、いや、自滅する可能性が高いとでも、考えたのだろうか? 「こ、こんな事って……」 パティが震えながら己のトラベルギアを握り締める。指先から血の気がすぅ、と抜けていくような感覚がし、その場に座り込む。それを花が立たせるも彼女もまた足がガクガクと震えた。 「あんなの、ボクも見た事ないよ! というか、壱番世界にこんな兵器、なかったよね?」 「あたりまえだろ?! お、俺だってあんなの初めてだって……」 思わず花は隆に問うも、彼も慌てて首をふる。そこから思い至ったのは、設計図がボロボロになっていたこと。隆はぐっ、と歯を食いしばる。 (こんな代物だからこそ、わざと崩れ易い紙に遺したって事か……?) 僅かに、鼓動が早くなる。張り詰めた空気の中隆が振り返ると、ポーラも顔面蒼白で、ようやくそこに立っている様な様子だった。パティを支えていた花がポーラにも肩をかし、3人で支えあっているように見えた。 (やっぱり、あの船を壊した方がいいのかしら?) ジャックは壊さなくても良い、と言っていた。しかし、あの船が他の誰かに発見され、動かされたとしたら……ブルーインブルーは大変な事になる。パティはその場にいるメンバー1人1人の目を見、震える声でこう言った。 「この遺跡を、封印しましょう」 5人は、ゆっくりと静かに遺跡を後にし、最後にパティが大地の魔法『ロックボルト』で出入り口を封鎖する。これで、この遺跡には入る事が出来なくなった。パティは「ちょっともったいなかったかしら?」とも思ったが、ブルーインブルーの平和には変えられない。 隆が辺りを見渡していると、一隻の船が近づいていた。どうやらポーラの部下らしく、彼女の名を呼んでいる。 「よかったね。迎えがきたみたいだよ?」 花に言われ、ポーラは申し訳無さそうに船を見つめる。 「これで、任務完了だな」 ジャックがそういいつつ船に目を細めると、ポーラが4人に頭を下げる。 「本当に、助けてくれてありがとうございます。……おかげで、夫の形見も見つかりました。せめて、お礼をさせてくださいませ」 彼女は4人を船に招待し、ともに食事をと申し出てくれた。それに顔を見合わせるロストナンバー達であったが、ありがたく受ける事にした。 「なんか、ほっとしたら腹が減ってきたな……」 「ブルーインブルーの料理も、楽しみですわね」 隆とパティが顔を見合わせて笑う。と、くぅ、とお腹の音が鳴る。それにくすくす、と笑うポーラと花。 「おい、誰の腹が鳴ったんだ?」 「あ、あたしではありません!!」 「俺でもねぇよ」 「ボクじゃないよ~?」 「わたくしでもありませんことよ」 ジャックがにやり、と笑い、パティも隆も否定する。花とポーラも首を振り、思わず皆で笑い合う。 (こんな平和の為に、あの船は要らないんだよ) 花は内心でそう、呟きながら後ろを振り返り、1つ頷く。 「おーい、いくぞ~!」 隆に呼ばれ、花はみんなの下へと走って行った。 こうして、ロストナンバー達はポーラを救出し、形見の指輪を見つけることが出来た。彼らはポーラの船で、遺跡の事を話しながら食事を楽しんだ。けれども、あのモニターでみた映像の事だけは、だれも口にしようとしなかった。 なぜなら、あの船は――。 (終)
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