「僕、気になってる場所があるんだよね」……ほら、犬猫たちの住んでた――竜星。 世界計が修理されて世界群への冒険旅行が再開された。 一ヶ月の間に世界はそれぞれの時間を歩んでいる。 ニコを始めとした。女好きや温泉好き、そして犬猫好きがヴォロスの空に浮かぶ竜星に向かうことにした。 かつては『朱い月見守られて』と呼ばれていた世界は朱い月を失って崩壊した。その残滓である惑星(と言うにはずいぶん小さいが)――竜星は今では、ヴォロス、アルヴァク地方の上空、雲にまぎれてに浮かんでいる。そこへとロストナンバーたちは向かうこは向かった。 † それではと、ニコ・ライニオは吉備サクラ、川原撫子、コタロ・ムラタナ、南雲マリア、アーネスト・マルトラバーズ・シートンの計六人を引き連れて復興の進む竜星を訪れた。 まず、最初に向かったのはプラットホームのあったフォンブラウン市――ではなく天変地異によって温泉が沸きだしたシュンドルボン市である。 視察とは名ばかりの慰安旅行である。 ところがである。 温泉街は閑散としていた。わずかに犬の熟年夫婦が見られるが、それだけだ。 激しい対立をしていた元祖肉球まんじゅうと本家肉球まんじゅうも閑古鳥が啼いていて、二匹の店長たちがしょんぼりと肩を並べて座っていた。 自称、犬猫温泉の常連のニコが思わず意気消沈した猫たちに声をかける。「どうしちまったんだ?」「どうもこうもないよ。竜星がヴォロスについてから商売あがったりだよ」 温泉が人気を博したのは乾いた世界で水がふんだんに湧いてきたからである。それが、ヴォロスの竜星は雲海を漂っており、今では年中雨が降っている。水は貴重品からありふれた邪魔者になりさがってしまった。「それにな。よく考えたら…… ……おれら猫は風呂が嫌いだったんだよ」 † 一行がフォンブラウン市にとって返すと、湖畔の廃都とその傍らにそびえる巨大な構造物が宙に浮かび上がっていた。 長年の紫外線に耐え続けたファンブラウン市の地上遺跡部はさらされ続け、今は風雨にまみれ、静かに静かに朽ち始めている。 静かの海は振り続ける雨によってぬかるんだ沼地になりつつあって、市の脇はちょっとした湖となっていた。廃都のビルが沈みかかっている。地下都市の周りには簡単な堤防が築かれていた。 そして、神話の時代に作られた巨大機械『玄武』も湖に浮かんでいた。 その玄武は飛び立とうとしていた。 いくつものブロックを連結させ、全体で一つの都市ほどもある移動機械はそれぞれのブロックに、これまた巨大なローターを増設させている。プロペラを用いた圏内航空は推進剤を消費しないので効率が大変良い。都市の保有する核融合炉が生きている限り、玄武は空に浮かび続けることが出来る。「あれは……玄武……だよな」 かつては竜星の大地を彷徨ってヘリウム3を回収していたこの機動都市は、竜星から離れようとしていた。 フォンブラウン市の堤防からは手を振っている犬猫がたくさん見える。 ロストレイルを玄武のブロックの一つに横付けすると、玄武を管理していたコーギー達が集まってきた。「ロストナンバーたちだ!」「いらっしゃい!」「おらたち、歓迎する」 見れば、玄武の上にはコーギー以外の犬たち、そして猫も数多くみられる。その中で種族のはっきりしないものが目立つ。雑種と思われる。それぞれが家財道具の一切合切を担いでいたり、コンテナからつかず離れずにいる。 ニコとサクラがコーギー達を撫でてやると彼らはすぐにしゃべりだした。「おらたち、こいつらを運ぶだ」「アルスナントカとか言うところにいく」「水が高く売れる」「竜刻を買える」「奇妙な流れになりましたね」…… アーネストのつぶやきにコタロがうなずく。どうにも嫌な予感がする。 アルケミシュ北の盆地は手狭であっという間に満員になったのだろう。 次に犬猫たちは、アルヴァクの中でも砂漠に属するアルスラ方面に関心をもった。日差しの強い砂漠はかつての竜星を彷彿させるのであろう。 この地方は砂漠の中にあって竜刻が豊富に算出し、竜刻を用いた工芸品で名を知られていた。シュラク公国との全面戦争がうわさされている。 かつての事件により、水源を失いつつあるアルスラは人口流出とそれに伴う防衛力の低下に悩まされており、犬猫の入植は歓迎されていた。幸い、アルスラはドワーフを始めとする亜人も多く、犬猫たちもさほど奇異には見られない。 空中都市となった玄武は、竜星とアルスラを定期往復し、移民と水を運んでいる。廃鉱山が巨大なヘリポートに改装され済みであった。その水は、かつてのアルスラを維持するのに十分とは言いがたいものであったが、減少してしまった人口を支えるにはかろうじて足りている。 アルスラの侍祭たちはすぐにでも水源は復活すると喧伝しているが、民は目の前の水に飛びついた。 ローターが風を切り、会話を続けるのが難しい。「おらたち喜ばれるの好きだ……ズさんのおかげ」=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ニコ・ライニオ(cxzh6304)吉備 サクラ(cnxm1610)川原 撫子(cuee7619)コタロ・ムラタナ(cxvf2951)南雲 マリア(cydb7578)アーネスト・マルトラバーズ・シートン(cmzy8471)=========
歩行都市玄武は今や飛行都市となっていた。 大気があると言うことは飛行に推進材を消費しないと言うことだ。竜星に呼吸可能大気が出現してからこのかた様々な推進装置が試作された。 玄武のコーギーたちが採用したのは回転翼を用いた垂直離陸機構だ。 ヴォロスの天空に浮かぶ竜星からアルスラまでひとっ飛びできる。 その都市は多層になっており、一行はその中にいた。 ロストレイルに乗車しているときと同じく、手持ち無沙汰な時間が過ぎてゆく。この巨大なヘリコプターは速度がロケットと比べれば遅いのが欠点だ。 「せっかく温泉復興したのに入る女(の犬猫)がいないなんて、なんて勿体ない……!」 「まったくです! ふわふわもこもこチャンスでしたのに」 ニコ・ライニオと吉備サクラは温泉街で互いの欲望を果たせず意気消沈していた。 サクラはむやみに裾の短い看護師衣装をまとっている。ニコの視線がちらちらと太ももに向けられた。 「で、その素晴らしい衣装は僕のために着てくれているのかい?」 「あ~ら、わたいの太ももはワン介達のためのものよ」 これは深夜アニメ『ワンニャン♡エンジェル』(三度の飯より犬猫が好きなどじっ娘看護師のエロネタ満載アニメ)の主役の衣装、どうもそういうことらしい。 サクラは零世界足止めで冬コミに参加できなくなったり、危うく大学受験し損なうところだったりと相当なフラストレーションを溜めていた。 今日のサクラは人間……と人型の竜には興味を持てないようだ。ニコは更に深いため息をついた。 † 空へ向かって整然と並ぶローターのグリッド。その一基一基は差し渡しちょっとした運動場ほどもあり、膨大な気流を下方へと押し流していた。 灰色の甲板は太陽の照り返しでまぶしい。 ロープに体を巻き付けて、甲板を這えば外にいることもできなくは無いが、そんな物好きはコタロ・ムラタナと川原撫子の二人だけだ。 一都市という膨大な質量を空気に支えさせている。層流は、首を吹き抜けるときに乱流となって髪とマフラーをランダムにたなびかせた。 人工的な風に吹かれているとここが竜刻の大地だと言うことが信じられなくなる。 軍人は、機械都市の中に入っては悪い影響を与えやしまいかと遠慮したのか、見張り要員を買って出ていた。 一人になりたかった。 愚直に任務に没頭したいが、複雑化した人間関係がそれを許さない。 「玄武みたいな大きい相手なら、コタロさんの能力は通じませんよぅ、大丈夫ですぅ☆」 コタロの隣には同じくロープに絡まったコンダクターがいる。 川原撫子はいつものバイトの制服(真冬用)を着込んでいた。作業しやすいように、薄手だが十分な保温防風機能のあるジャンパー。そして、ひらひらした帽子が飛ばされないように手で押さえている。 彼女は待つと言った以上振られるにしても話しかけてはいけないと思っているが、我慢できなかったか、結局こうしている。 二人が互いに手を伸ばせば、掌を握り合うことのできる距離。 しかし、二人の間を流れているのは高所の冷たい風であった。ときおり、撫子が風に逆らって声を張り上げるがコタロまで届くことは無かった。それ以上近づくことは遠慮される。 風に砂埃が混じり始め、顔を打つ。地上が近づいてきたようだ。 ヴォロス・アルヴァク地方、そのなかでも東の方ある砂漠地帯アルスラ。 水を満載した都市は、すっかり平たくなってしまった廃鉱山の跡に着地した。 アルスラの民達は待ちわびていた。 † かつては鉱石が行き交っていた荒野を、今は水が運ばれている。 巨大な桶が乗せられた車をくたびれたうまに引かせていている。貧しい者の中には自分で背負っているものもいた。 そして横着な――そして冒険心に溢れた者たちは玄武の脚物に仮初めの集落を作り始めていた。 一方の犬猫たちは、多足戦車にのって砂塵舞う荒野をアルスラの都市へと向かっていた。 玄武のヘリウム貯蔵タンクに満載された水を運びきるまではまだ数日がかかるだろう。 ロストナンバーの一行はその荷下ろしの様子を見守っていた。 「竜星が雨の降る星になり、色々と弊害が出て移住する犬猫たちが増えてきたと考えたほうがいいんでしょうね。まぁ、砂漠地帯に水を運ぶのは、言うまでもないのですけどね」 軌道都市の甲板は地上から高く、高層ビルの屋上からのように遠くのアルスラの街が見える。アーネストはうっかり落ちないように柵から距離を取っている。 「水路ができればいいのですけどね」 人々が蟻の行列と思える。 そして、待ちへと続く水道は石が不足していることにより工事が遅れていた。荒野は礫に覆われていて、水路を作るには粘土と石が足りない。 「アルスラを去った民がずいぶんいると言う話しですよね。石は残された家を崩せばまかなえましょうか」 その空き家には、犬猫たちが移り住んでいるという話しでもある。人口動態ははっきりしない。 ロープから自由になったコタロが戻ってきた。撫子は見当たらない。追いかけては来なかったようだ。コタロは玄武を壊さず……無事アルスラに到着できたからか、若干表情が明るい。 ニコは柵に寄りかかってため息をついた 「アルスラで温泉でも湧けば、大人気になるのかなーなんて思うけど、そもそも水がないんじゃあね……。 報告書で読んだけど、アルスラは10年間の水と引き換えに女の子を贄にしてたんだって? ただでさえ人の命は短いのに、そんな瞬きの間の水を購うために――」 良くも悪くも今回の一行には長命種は彼だけである。短命の者は生き急ぐ。 確かに、作業をしているコーギー達は実に生き生きとしていた。彼ら人型をしているが、その寿命は、人間よりも更に短いという。 アーネストはきびすを返して巨大機構を外から見て回ることにした。 太陽に暖められた鉄板の上は熱で揺らいでいる。水筒から水を飲む。 都市の上甲板からはいくつもの鉄塔が延び、都市ブロックをつなぐ橋の上にはローターが並んでいた。 変形……して空中都市になったと言うよりは増設したという雰囲気である。空力に無駄が多そうな作りだ。ヴォロスの濃厚な大気により可能になったものと思われる。動力源として太古の核分裂炉がそのまま稼働していると言う。このような鉄の塊が空を飛ぶのはヴォロスの原住民から見たら脅威であろう。 「……ズ?」 見れば、撫子がコーギー達に絡んでいた。 「ちょっと待ったですぅ、コーギーちゃんたちぃ☆、雑種同盟のボーズさんは流星会戦で乗機ごと爆散した筈ですぅ☆ 今言いかけたのはボーズ語録とか経典とかですかぁ、教えて下さいぃ☆」 「んだ? ボーズさんなら一緒に玄武に乗っているよ」 奇妙なことになった。 雑種同盟のボーズ。チャンドラ・ボースは始めはテロリスト集団の首魁としてロストナンバー達の前に現れ、後に、旅団との戦いでは図書館と共闘した。 しかし、流星会戦で戦死したはずだった。魔法少女大隊の苛烈な攻撃の前に助かった道理は無い。脱出装置が働く間もなかったはずである。図書館の記録でも戦死だ。当初行方不明扱いであったハーデ・ビラールとも異なる。 彼女のことが思い出されてコタロは遠く空に浮かぶ竜星を見上げた。 コタロは竜星を巡る戦いにはあまり参加できなかった。 ただ、戦友を経て友人となった彼女は竜星になにかを見いだし、兵士であることをついに辞めることができた。 皆が言うように温泉に浸かれば懊悩も解消するかと思ったが……却って行軍している方が余計なことを脳裏から払えるから良いのかも知れない。 多足戦車の振動。 それは、マキーナと戦い続けるあの世界を連想させた。 「なに辛気くさい顔してんだ。人生は楽しまないと損だよ。街には可愛い子ちゃんが待っているって」 † サクラとマリアを残して、一行はアルスラの市街を調査することにした。 「…今回コスプレ衣装しか持ってきてないので、アルスラに降りるには人目が少し……。私は玄武の中を観光します」 とはサクラの弁だが、ボーズの話しも気にかかるところである。 ロストナンバーの一行(犬猫にもロストナンバーを大勢いるがそれはさておき)も戦車に揺られて街へと降りていった。 「アルスラと言いましたね。ここは、壱番世界の中東に近い感じですかね」 「サボテンはあんまり見当たりませんね☆」 「干からびた灌木が目立ちます。乾燥に耐えると言っても限度があります」 「……」 コタロの指さした向こうでは馬が荷車を牽いている。 「砂漠地帯ってことで、気候的に動物の生息に適さない場所ですが、ラクダやロバなどの一部の生物が細々と生きる……と思っていましたが、思ったよりは生き物がいますね」 水の恩恵があった頃は農業も行われていた。中東の中でもルブアルハリ《何も無い所》のような真正の砂漠と言うよりは肥沃な三日月地帯の方が雰囲気が近い。 「屋根は平たいですね。雪の心配をする必要が無いからでしょうか」 アーネストは双眼鏡を降ろした。 「それから建物大きさの割りに道を行く人が少ないですね」 「暑いから? それとも単にリッチで広い家に住めているとか」 「それは地価は安いでしょう。それと道は広いですからね。やはり人口が流出しているのでしょう」 「本当に乾いた街だね。見ているだけで喉が渇いてくるよ」 やがて街に入ると、人間、ドワーフ、犬、そして擬神に抱かれた猫が行き交う大通りに出た。 「前に行った、砂漠にかつてあった都市。あそこでも誰かの命と引き換えに、暮らしが成り立ってた。そういう天秤にかけないといけないのは、哀しいことだと思う」 「……天秤」 ニコが感傷的になる中、コタロはただこの世界の実情を把握するべくじっと人々を観察していた。 一行は戦車から降りて、それぞれの調査に向かって別れることとした。 フンコロガシが足下を通り過ぎていった。 † 一方の、サクラとマリアは広い玄武の中を歩き回っていた。 玄武は多層構造であるので床面積はひょっとしたらアルスラの街よりも広いかも知れない。 トランスポーターに乗って工場区、プラント区、農業区、生活区ときままに彷徨う。目に付く犬猫に強制ブラシ、強制オヤツでせわしない。 そして、一休みしようと指令区に戻ったときに、これまでの冒険でロストナンバー達の案内役を務めていた岐阜さつきに出くわした。 二人を認めると、茶柴らしくピンと耳を立てて、そそくさと走り寄ってきた。短いしっぽを懸命に振っている。 「こんにちは! アルスラへようこそ!」 さつきはアルスラに出向していて、一行と入れ違いに玄武に乗り込んできたとのことであった。 煩悩の解放対象をみつけてサクラは鼻息を荒くした。 「確かこの上に展望公園があったよね! そっちで一休みしましょうか」 「はい!」 「上でおやつにしましょうか? シュンドルボン市でまんじゅう買ってきたの。元祖肉球まんじゅうと本家肉球まんじゅう……両方あるわ」 公園区まであがるエレベータに乗り込んだところで、マリアがおやつを取り出した。女の子はあまいものに弱い。 「ずいぶんいっぱいあるのですね 「温泉まんじゅうですか。公園に大浴場ができたのはご存じですか?」 「「風呂!」」 「ええ、アルスラのえらい人たちへのデモンストレーションのために作られたのです」 マリアはエレベータを浴場階で止めた。 「これでわたしのお肌ピチピチツヤツヤ計画がなんとかなりそうよ」 艦内に作られただけあって入り口は食堂などと区別がつかない。普段は交代制だと言うことで、ちょうど看板には『女』とあった。 マリアはそそくさとのれんをくぐる。 一方のサクラは遠慮するさつきに抱きついていた。手をワキワキさせ、頭首肩となで回しながら耳にささやく。 「おねいさんといっしょにお風呂っ♡」 「ぼくは……」 「あらっカタいこと言わないの♡」 もふる手つきがデリケートなところに迫る。 「あら~。さつきちゃん。女の子なのね。くひっ」 「ひゅっ」 さつきは羽交い締めに浴室に連れ込まれた。 脱衣所はスルー。 大浴場には富士山とおぼしき壁画があり、ガラス張りの一面からは竜星が遠くにみえる。 風呂に入っていたコーギーの娘達は突然の闖入者に騒然とした。 「パ・ラ・ダ・イ・ス! 今がアタシの人生てっぺん! 待っててワンニャン! 尽くして尽くして尽くしまくるわ~!」 「ワンニャン……って、ここには犬しかいないわ。それよりちゃんと服脱ぎなさいよ」 先に入ったマリアはカランで体を洗っていた。 しかし、注意は興奮したサクラの耳に届かない。サクラはさつきに抱きついたままそのまま大浴槽に飛び込んだ。 さつきの法衣が水に濡れて透き通る。 サクラは遠慮無く、その胸元から手を差し込んでまさぐった。茶柴の短い毛がますますぺしゃんこになっている。 「はぁん、この手触り……イッちゃいそう」 「あ、あふっ」 「まったくマナーがなっていないんだから……」 水しぶきをあげてサクラが立ち上がる。同性囲まれた状態で透けた下着を誇示。 「こ、こ、こ、これは『ワンニャン♡エンジェル 38話、湯煙光線はDVDでさようなら、乳○解禁』のコスよ!!」 † 「犬猫さんたちは工房に移り住んだんですよねぇ☆竜刻で新発明はありましたかぁ☆」 大小様々な竜刻工房が集まる一画。 住居とするに大きすぎる建物が次々と現れ、ドワーフ向けの居酒屋などが目立つことによって、街の雰囲気が変わる。 ここまで来ると、犬猫たちとも頻繁にすれ違うようになった。 人間の方が圧倒的に少ない。 「ランガナーヤキさんも1枚噛んでらっしゃると思うんですけどぉ、今どちらに居るかご存知ですかぁ☆」 「ランガナーヤキ? たしか、武器商人でしたよね? なんか、物騒なことにならないか、気がかりですね」 アーネストは近代兵器が目印になると主張したが、ライフルのようなものを担いでいる現地民を捕まえてみれば、夜市で購入したという。すでに拡散が始まっているようだ。 それでも聞き込みを続けると、やがて範囲が絞られてきた。 闇商人ランガナーヤキが買収した工房は職人区の一画にあった。 油の臭いの漏れ出の漏れ出る工房は、アルスラにしても大きい方で、聞けば。ドワーフの親方たちの争いに乗じてかすめ取ったとのことである。 アーネストが用心深く覗くと、室内は予想外に明るく、人口の照明が機械文明を誇示していた。 ここは工場と言うよりはちょっとしたショールームになっていた。戦車が並び、犬と擬神が作業していた。 そして、奥にはひな壇とマルチスクリーンが設けられており、何匹もの猫がたむろっていた。 その中に見知った毛並みを見つけると、撫子は突撃した。 「ランガナーヤキさん~、水だけなら未だしも擬神販売はアウトだと思いますぅ……うりゃ☆」 擬神に割り込む間を与えずにむんずと首を掴んだ。爪を立てようにもバイト作業服は頑丈である。 だっこされて身動きが取れなくなるとわかると、恨めしそうに見上げた。 「なんだ小娘か」 「分かりませんかぁ、水技術だけにしなさいって言ってるんですぅ☆」 「目の前にあるのが、ほら水のための機械よ。まさか戦争専用の機械なんて限定用途が売れる程ここの連中も金を持っていないさ」 戦車達の様子を見てアーネストも便乗する。 「確かにこれらの多足戦車は重機として優秀ですよね。そうは言っても、砲が乗ったままというのどうなんでしょうか? まさか物干し竿だなんていいませんよね」 「わかったから離せ」 猫の頭を撫でたままの撫子はぎゅっとほおずりする。 「離せ離せ」 「武器は売らない☆」 「いくら損すると思っているんだ」 「売らない☆」 「折れる折れる!」 「売らない☆」 「……わかった」 ほいっと手を離すと猫はさささっと梁の上に逃げてしまった。 「貴様らの顔を立てて武器は売らない。だが、竜刻の買い付けは続ける。こちらは竜星に必要なものだ」 眺めてみれば、顕微鏡にセットされた石、研磨され続けている石、レーザーを照射され続けている石、等々がある。 「これらは全部竜刻……ということですか?」 返事は無かった。 竜星のエネルギー危機についてはアーネストも聞き及んでいるのでこれ以上は追求しにくい。 † ニコにとって不満なことは出歩いている女性がみなベールで顔を隠していることだった。 砂埃と目に刺さる陽光をさけるには致し方ないが、残念なことであった。 どうにかベールを透視できないものかと目を凝らしているが、同時に頭上の真理数も気にしている。現地住民の証がないものがときおりいるのがどうしても気になる。犬猫たちで竜星の戦いの名残だと理解しているが、旅団の残党が残っているといううわさもある。 が、すぐに飽きてしまった。日差しが強く真理数が蜃気楼に思える。 「なぁ、コタロ。怪しい奴はいたか」 「ランガナーヤキ……真理数があった」 道行く人々に真理数が無いと見ても、よく見たら犬だと言うことばかりだ。今度こそ人間だと思えば擬神だったりもする。 雑踏に消えまぎれる真理数無し。 …… どうにも任務に集中できない。 コタロは哨戒任務が不得手なのかも知れないと自問した。 ……いっそ戦闘でも起こってくれれば 昔はもっと無心でいられたはずだ。 † 「ところで、アルスラの侍祭たち。今無い物が、すぐ手に入るって喧伝するのってうさんくさいよね。もしかしたら、同じことを繰り返そうとしてるのかな?」 ニコは撫子と戦車のところで合流して、他のメンバーが戻ってくるのを待っていた。 「ねぇ。そこの君。僕ら、その侍祭とやらに会えるかな?」 戦車を操縦していた犬は慌てて無線をとった。やがて、しっぽをぱたぱたさせて元気よく返事した。 「……侍祭さんに会うならストールで顔隠した方が良いでしょぉかぁ……イルファーンさんほど派手なことはやってないですけどぉ☆」 全員が揃ってしばらくしたところで、許可が出たと言うことで一行は戦車に揺られて向かった。 ところが、意気込んでみたものの出てきたのは凡庸と言う形容こそが似合うような男で、疲労が色濃く顔を彩っていた。コタロを避けるように座を勧めてきた。 どうにも覇気が無い。 拍子抜けした感じでニコが尋ねた。 「砂漠の都市で潤沢な水を手に入れる方法があると聞きまして」 「ある」 「それは素晴らしいね。で、良かったらなんだけど僕たちに教えてくれないかな。実は、僕の故郷も水不足に悩んでいまして」 すると侍祭は咳払いして口を開いた。 「幾星霜より彼方からの竜からの恵みだ。……天空の柄杓を傾け、恵みを賜る。敬虔な心と、神意が揃えば毎日陽が昇るがごとくの道理だ」 つまるところ、正しく祈れば雨は降ると言う返事だ。 「だが、諸君らの行いにより、民の祈りに雑念が交ざってしまっている。諸君らなりの善意だと信じたいが、あまり民を惑わさないで欲しい」 砂糖をたっぷり含んだ茶が供せられ、会談はそこで打ち切られた。 † 「風呂にニコさんがいないくて良かったです。……くひっ」 「本当に良かったわ」 風呂から上がった変態達はそのまま居合わせたコーギー達にまんじゅうを振る舞って、公園で一休みしている。 砂漠の熱砂も公園のドームには入ってこられない。 サクラはさつきのまたぐらに鼻を突っ込んだまま寝ている。 マリアも豊かな芝生に寝転んだ。 ――犬派だからいいんだけど、やっぱり猫とは縁が無いのね。 ――同じようで元祖、の方が甘いのね。本家は微妙に塩見が。 ――どうしたらシュンドルボン市の温泉街が復興できるのかねぇ。 ――ポスターを作ってターミナルに張り、集客を狙うと言うのはどうかしら。 ――猫カフェを温泉宿に併設しようかな。 ――20時までは普通の猫カフェ、それからは猫ホストカフェとかどうだろう。 退廃のゲームセンターによる密かな計画が0世界で進んでいるを彼女はまだ知らなかった。 もぞもぞとサクラが目を覚ます。 「うにゃ、雑種同盟さんはポチ夫さんたちとは仲良くしないんですか?」 † 「ええ、今でもこの玄武が雑種同盟の拠点の一つであることには代わりありませんからね。こちらのブロックだと思います。ボーズさんは……ちょっとぼくにはわかりません。みなさんで確かめられた方が……」 ――ボーズが玄武にいる。 噂の確証が得るため二人は急いだ。 ついてみれば、格納庫のプラットフォームがせり上がっていくところであった。 金属がこすれる音が耳を打つ。 「あれはっ?」 発進しようとしていたのは、黒い機体は、アヴァターラと言うにも奇っ怪な形状をしていた。 かろうじて人型を模しているものの、足は立つのが精一杯の細さで、不釣り合いに大きいマントのような翼を背負っている。翼には飛行には不適切と思われる膨らみと、エアインテーク。そして、つり下げられた筒状の物体。 前腕部の意匠のみが雑種同盟のチャンドラーシリーズの面影を残していた。 「これはまさか……ヴィタルカ?」 プラットホームには一体の擬神がテキパキと発進手続きをしていた。作業を進めるごとに艦内に合成音が響く。 『竜星とのリンク完了。通信安定』 『エンジン圧正常』 アヴァターラのハッチが開き、バーマン族の猫が頭を出す。 「見つかってしまったか」 「あなた。ボーズ。生きていたの!?」 「私か、私は竜星の民の願いを体現した者だ。諸君、お手柔らかに頼むよ。私はまだ死ねわけにはいかない。ネルソン戻れ、発進する」 作業していた擬神がアヴァターラにつかまる。翼に取り付けられている二基のターボファンがエアインテークから流れ込んだ空気を圧縮、後部で燃料と攪拌され点火した。 艦内を警報音が流れる。 『アヴァターラ・チャンドラー・ビハーリーMR000・B型装備。発進します。各員、安全のために待避してください』 耳をつんざくジェット。 上甲板レイヤーまで登ったプラットホームからVTOLとして飛び上がると、空中でマント状の翼を広げ、四肢を格納した。 「飛行機に変形した! アニメでよく見る奴よ!」 そして、甲高いジェット音はいや甲高くなり、一機の統合打撃人型兵器がヴォロスの蒼い空に消えていった。 ヴォロスの大気に適した可変機構を導入することにより航続距離は遙かに伸び、アルヴァク地方の全体を制空できるだろう。 サクラがもう少し軍事に詳しければ、翼にぶら下げているものが伊達の飾りで無いことがわかったかもしれない。 † 飛び去ってゆく機影は、玄武への帰路についた一行からもよく見えた。 撫子は戦車を操縦しているハスキーに聞いた。 「犬猫さんたちが幸せならいいですけどぉ、シュラク公国の動きがすっごく怪しかったはずなのでぇ、このまま入植や物々交換するのは拙い気がしますぅ☆」 「シュラク公国……でありますか?」 「犬猫のみなさんはぁ、シュラク公国に対するビジョンありますぅ?」 「それは僕も気になるね。シュラクからの侵攻だけど……。君たちが矢面に立たされたりはしないだろうか。旅団の人間が取り残されてるって聞いたけど。彼らは、消失の運命にあるわけだよね。自暴自棄になってなにをやらかすかわからない」 撫子とニコにまくし立てられた彼は、心細げに耳を伏せた。 「本官にはわかりかねます。……噂ではアルスラから同盟の打診は無いと言うことです」 「無い噂? それは奇妙なものいいですね」 「はい、東京ポチ夫様は竜星から離れませんし。我々のような純血の犬には、コーギーたちや三味線ども……失礼しました、猫の動向はよくわからないのです」 「それでなんで?」 「ご存知の通り武器はよく売れています。しかし、我々は傭兵ではありません」 侵攻が始まったら犬の正統派は撤退する。雑種と猫は残される。 このハスキーには真理数が無いままだ。 コタロは話の内容よりそのことが気になって仕方がなかった。 異なる世界の住人同士は問題無く馴染む事が出来るのか。彼らが適応出来ているのなら我等図書館のロストナンバーにも可能性はあるのか。 想いは駆け巡る。 ……ランガナーヤキ ヴォロスに思い入れを持つタイプとは考えがたい。偶発的要素があるのか……。それとも彼女が大地と結んだ絆があるのか。 竜星……と図書館が介入しなければアルスラはシュラク公国に飲み込まれるだろう。 いや、その場合は話が早い。シュラクを裏で操っているのが旅団の残党であればトレンウォーが発令されるに違いない。しかし、竜星が介入した場合……。 あのハスキーは戦うだろう。ランガナーヤキもだ。ハーデが回復不能の負傷を負ったほど竜星での戦いはすさまじかった。犬猫はこの世界で核兵器の行使をためらわないだろう。 コタロはかぶりを振った。 ……アルヴァク地方にも竜星にも直接何の縁もない自分が深入りして良いのか? 多足戦車の有機的な動きはどうしてもマキーナを彷彿させる。 日は暮れようとしている。 戦車の影が伸びる。砂漠は赤く染まり、竜星が白く浮かぶ。 「あの戦いの後で、これだけ変化したし、これからどうなるのでしょうねぇ?」 紫に沈む空には飛行機雲だけが残されていた。
このライターへメールを送る