ティリクティアは、遠くに広がる緑を見ていた。 とても変化に乏しかったこの場所は、彼女が来た時とはずいぶんと違った様相を見せている。 それは数多の旅によって起きた変化であり、それはさらに、人々が失った故郷へ帰るという希望を生み出すことへもつながって行った。 今、それぞれが、旅の終わりを見据え始めている。 画廊街を通り、『Pandora』という看板が掛かった小さな古書店の前で足を止める。 今は穏やかさを取り戻したこの場所も、かつて戦いの場となったことがあった。 通りに面したショーウィンドウの中からは灰毛猫のリルデが、飾られた本の隣にあるスペースに大きな体を横たえ、こちらを眺めている。 ティリクティアは微笑み、ふとその上に吊るされたものに目を向けた。 木製のフレームの中に、カラフルなチラシが入っている。『あなたの物語、作ります』 その文字を見た時、目の前に一瞬、あたたかな風景が広がったような気がした。 自らの物語――大切な人との物語。 気がつけば、彼女はトラベラーズノートを手にしていた。 ◇「ここが、ティアラの売る本屋か!」 アルウィン・ランズウィックは目を輝かせ、本の森を見回す。 本当は『古本屋』と言いたかったのだが、そんなに間違った内容でもない。「あら、二人ともいらっしゃい」 来店したアルウィン、そしてティリクティアを見て、ティアラ・アレンは微笑んだ。「ひさしぶりだな!」「こんにちは!」 笑顔を返した二人は、早速本題へと入る。「あの、ショーウィンドウに出てたチラシね、物語をつくるっていう。それをお願いしたいの」「アルウィンとティアのおはなし、作る!」 別れの時は近づいている。だから思い出となるように、二人でひとつの物語を作りたい。 そう思い、ティリクティアはアルウィンを誘い、ここへとやってきた。「出来れば、本は二冊欲しいんだけど……」 少し不安げに付け加えた彼女に、ティアラは聞き返す。「内容は同じで?」「……ダメ?」「ふたつあったら、うれしい!」 アルウィンも手を力強く上げ、訴えかけた。 せっかくの思い出だから、それぞれが持っていられたらいい。 もし難しければ、後で二人で相談して、どちらかが持とうということになっていた。 ティアラは少し考え、口を開く。「……大丈夫、出来ると思う」「本当!?」「やった! ティアラふとっちょ!」「えっ?」「ふ、太っ腹って言ったのよ」 アルウィンの言い間違いには、即座にフォローが入る。 ティアラは少し首を傾げ、二人を眺めていたが、やがて何かを思い出したように、ぽんと手を叩いた。「そうそう、いつもとやり方が変わるから、数日ほど準備期間が欲しいわ。それはいい?」「ええ、もちろん」「アルウィンも待てる!」「その間に……」 顔を見合わせ、ほっとしたように表情を和らげる二人に手招きをし、彼女は店の奥にある部屋へと誘う。「うわぁ、こっちも本いっぱいだ!」「倉庫なの?」 ドアを開けると、そこには様々な大きさ、形、材質、色の本が並んでいた。「ええ。ここにある本を、魔法の本の素材にするの。二人とも好きなのを選んでくれる? いつもは私が合いそうなものを選ぶんだけど、今回は時間もあるから」 ティアラはそう言って二人を見る。 その顔は、今度は好奇心に輝いていた。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ティリクティア(curp9866)アルウィン・ランズウィック(ccnt8867)=========
「アルウィンは、どんな本がいい?」 ティリクティアが尋ねると、彼女は周囲を見回した。 「ティアは?」 「ええと……」 聞き返され、今度はティリクティアがずらっと並ぶ本を見る。 これだけあると、自由に選んでいいと言われても迷ってしまう。 大切な記念となる物だから、なおさらだった。 「本の森!」 面白い装丁の本がぎっしり詰まった大きな棚や、床にうず高く積まれた本の間を歩いていると楽しくなってくる。 アルウィンの歩調は次第に速く、気がつけば駆け足となっていた。 「走ったら危ないわよ!」 ティリクティアも、その後についていく。 それはいつの間にか追いかけっこのようになり、二人は声を上げて笑いながら走った。 「あっ」 ふと見上げた場所にあった、えんじ色のカバーの本を見て、ティリクティアの足が止まる。 クラシックな雰囲気で、しっかりとしたつくりの物だ。 初めは個性的な本ばかりに目が行っていたが、故郷に帰った時、部屋に置いておく事を考えれば、ああいった物の方が良いかもしれない。 彼女は近くにあった梯子を持ってきて本棚にもたせ掛け、のぼり始める。アルウィンも急いでやって来て、それを支えた。 「アルウィンも、ティアとおんなじの、いい!」 その声に振り向きかけ、ティリクティアは危うくバランスを崩しそうになったが、何とか持ち直して頷くと、同じ装丁の本二冊を手に持ち、そろり、そろりと梯子をおりる。 これで本は決まった。二人お揃いの本だ。 あとは、儀式の日を待つだけだった。 ◇ そして、儀式の日。 二人が選んだ本が台の上に置かれ、それを挟むように二枚の鏡が置かれる。 ティアラの口から声にならない言葉が紡がれた後、小さく透明な石が幾つもついた羽根ペンは、彼女の手によりリズミカルに動く。 「本よ、本よ、我が意志を受け変化を遂げよ!」 本から放たれた眩い光は両側の鏡に反射し、周囲にさらなる明るさをもたらした。 光に包み込まれた二冊の本は浮き上がり、ページがひとりでにぱらぱらと捲れると、それぞれの始まりのページまでたどり着く。 「さぁ、ティリクティアさんとアルウィンさんのお話の、はじまりはじまり!」 === お姫さまはお城の中庭で、きれいに咲く花々を眺めていました。 お日さまの光をいっぱいに受けた色あざやかな花びらが、宝石のように輝いています。 「あれは何かしら?」 その花の向こうがわに動くものを見たお姫さまは、不思議に思って近づきました。 ゆらゆらと揺れるそれは、ふさふさとしていて、触り心地がとても良さそうでしたので、お姫さまはつい手をのばしていました。 「うわっ!」 すると悲鳴が上がり、ふさふさのあった場所から、今度はふたつのまあるい目が、こちらを見たのです。 お姫さまがびっくりして目をまたたかせると、灰色の目も、ぱちぱちとまたたきました。 「あなたは?」 お姫さまがたずねると、がさりと音がして、気がつけば小さな女の子がとなりに立っています。 女の子は狼のような耳と、尻尾を持っていました。さっきのふさふさは、尻尾だったのです。 「あなた、だれ?」 お姫さまがもう一度聞きますと、女の子は自分を指さして言います。 「アルウィン! 騎士だ。おまえは?」 なるほど、きれいな羽かざりのついた兜をかぶっていたり、どことなく騎士らしくはあります。 お姫さまは礼儀にうるさくはありませんでしたし、この親しげな騎士のことが、すっかり気に入ってしまいました。 「ティリクティアよ」 お姫さまが名乗り、優雅にお辞儀をすると、小さな騎士もぺこりとお辞儀をします。 そのようすが面白く、にっこりと笑ったお姫さまに、騎士もうれしそうに笑いかえしました。 「ティア、よろしく!」 そしてすぐに、ふたりは友だちになったのです。 それからふたりは中庭を飛び出し、近くの森に行って遊ぶことにしました。 そこは昼間でもうす暗く、みんなあまり近づきたがりませんし、秘密の遊び場としては、うってつけだと考えたのです。 「あんまり走ったら、あぶないわよ!」 森に入るとうれしそうに走りまわり始めたアルウィンを、ティアも走って追いかけます。 追いかけっこはとても楽しかったのですが、とつぜん、穴にまっさかさまに落ちてしまうアルウィンが見えた気がして、ティアは体をふるわせました。 でも目をぎゅっとつぶってまた開けると、アルウィンはかわらず前を走っているのです。 「アルウィン!」 ティアは、あわてて大きな声を出しました。 「そっちに行っちゃだめ!」 この国のお姫さまは代々、未来を見る不思議な力を持っているのです。きっとさっき見えたように、アルウィンは穴に落ちてしまうにちがいありません。 「だめ?」 アルウィンが立ちどまってこっちを見たので、ティアもほっとして足をとめました。 けれども、その時にはもう、遅かったのです。 地面はがらがらとこわれはじめていて、ぽっかりと空いた大きな穴は、くずれた土や、落ちた葉や、木の根っこ――そしてふたりのことも、その大きな口で飲み込んでいきます。 === 「あぶないッ!」 アルウィンは声をあげ、隣にいるティリクティアの手を握った。 本の中の世界へとすっかり入り込んでいる彼女の手を、ティリクティアも握り返す。 まるで今まさに、ここで二人で冒険しているかのようで、ワクワクした。 「私たちなら、きっと大丈夫」 彼女がそう言うと、待っていたかのようにページがめくられる。 === 「きゃあっ!」 「ティア、つかまれ!」 悲鳴を上げたティアへと、アルウィンは手を伸ばします。 ティアもせいいっぱい腕を伸ばしました。 土や、葉っぱや、木の雨が降る中、やがてふたつの手は、しっかりとつながります。 ふたりはそのまま、深い深い穴の底へと落ちて行きました。 次に気がついたとき、ティアが目にしたのは一面の銀世界でした。 まるで真っ白でふわふわの毛布を、世界が頭からすっぽりかぶってしまったかのようです。 「アルウィン?」 アルウィンのすがたが見えないことに気づいたティアは、大きな声で名前を呼びました。 けれども返事がないので、とても心配になってきてしまいます。 「アルウィン!」 もう一度呼んだとき、ぶはっという音といっしょに、アルウィンが雪の中から出てきました。 「アルウィン、へいき! ティアもへいき、よかった! 雪、つめたい!」 「アルウィン!」 ふたりは、抱き合って無事をよろこびます。 それからふたりは手をつないで、雪の中を元気に歩きました。 とても寒かったのですが、ふたりいっしょなら大丈夫だと思えてくるのです。 「あっちに、人が住んでるみたい」 ティアがそう言って指をさすと、アルウィンがお姫さまを守る騎士のように手を引いて、先を進みます。 今は真っ白で何も見えませんでしたが、お姫さまの不思議な力が、道を教えてくれました。 やがて、明るくあたたかい光が見えてきます。 「ぴかぴか! ひと、いる!」 「うん、行ってみましょう!」 ふたりの足どりも、もっと元気になりました。 その家にはお父さんとお母さん、そしてふたりの女の子が暮らしていました。 「このあたりは、ずっと雪に閉ざされてるの」 お母さんがあたたかいスープをごちそうしてくれながら言います。 「悪いドラゴンが精霊の山に棲みついてしまってね。精霊たちが出てくる穴を塞いでしまったんだよ」 お父さんも、悲しそうな声で言いました。 「おそろしいうなり声をあげて、吹雪も吐くのよ」 お姉さんが、続けて言います。そのせいで、世界はこんなに寒くなってしまったのです。 「みて! みて!」 そして妹が何かを手に、こちらへとやってきました。 それは、一枚の古ぼけた絵でした。少しくすんではいましたが、たくさんの花が丘一面に咲いています。 「花っていうんだって。むかしは、こんなのがいっぱいあったらしいの」 「花ってどんなものか、見てみたいわ」 お姉さんもそう言いました。 「アルウィンたちが、やっつける!」 すると、アルウィンが大きな声で言います。 「そうよね。美味しいスープもいただいたし、お礼をしなきゃ」 ティアもそう言ってうなずきました。 こうしてふたりは、悪いドラゴンを退治することになったのです。 ◆ 次の日の朝早く、ふたりはドラゴンのところへ行ってみることにしました。 吹雪は止むことはなく、どんどん強くなっていきますが、ふたりならへっちゃらです。 どのくらい歩いたでしょうか。やがて大きなうなり声が聞こえてきました。 きっと、悪いドラゴンの声です。 もちろん、そんなものをこわがるふたりではありません。そのまま、どんどんと進みます。 「…………てー」 「ねぇ、なにか聞こえない?」 そのとき、なにかの言葉が聞こえた気がして、ティアは耳を澄ましました。 「…………たすけてー」 「たすけてって、いってるぞ!」 今度はアルウィンにも、はっきりと聞こえました。 ふたりは、そちらへと急ぎます。 「ドラゴンだ!」 「でも、ようすが変じゃない?」 そう、たしかにドラゴンはそこにいました。 その体は見上げるほど大きく、凍った湖のように冷たそうな色をしています。 大きな口にはたくさんの牙が生え、吹雪がしゅうしゅうと吹き出ていました。 「おい、そこのふたり、たすけてー!」 でも、悪いドラゴンがたすけてなんて言うのは変です。 「あなた、どうしたの?」 ティアが聞いてみると、ドラゴンは、ほっとしたように言います。 「ここから動けなくなっちゃったんだ」 どうやら大きな体が、そこに挟まってしまったようでした。 「助けを呼んでも、みんなこわがって逃げちゃうんだよ」 その声はおそろしいうなり声に聞こえますし、吹雪も出てきます。 みんなが逃げてしまうのも無理はありません。 「悪いドラゴンじゃないみたいね。どうやって動かそうかしら?」 ティアがそう言って考えこむと、アルウィンが明るく言いました。 「みんなに、てつだってもらう! みんなでドラゴン、たすける!」 ◆ それからふたりは村にもどってわけを話し、みんなにドラゴンを助けるのを手伝ってもらうことにしました。 ドラゴンにはしばらくの間がまんしてもらっていたので、吹雪は止み、道もだいぶん歩きやすくなっていましたし、ティアとアルウィンが先を歩いたので、誰ひとり迷うこともありません。 村の人たちは、はじめて近くで見るドラゴンにびっくりしましたが、がんばって口をつぐんでいるドラゴンを見てかわいそうになり、持ってきたロープを使って、急いで助け出すことにしました。 真上にのぼったお日さまが、西のほうにおりて行ったころ、ようやくドラゴンの体が、精霊の出口からすぽっと抜けます。 すると、あたりが急に真昼のように明るくなりました。 精霊たちが、いっせいに飛び出してきたのです。 雪はどんどんととけていき、真っ白だった山は、緑色へと変わっていきました。 そして赤、黄色、青、紫――たくさんの色が、あかりがともるように広がり始めます。 「花だわ!」 「きれい!」 あの姉妹の声も、どこからか聞こえました。 「助けてくれてありがとう」 ドラゴンが、静かな声で言いました。 少し冷たい風は吹きましたが、吹雪が起こることはありません。 「わたくしからもお礼を言います。みなさん、ありがとう」 小さな白い花のような精霊の女王も言いました。 みんなから、拍手がわき起こります。 「ティアさん、アルウィンさん。あなたがたには、これを授けましょう」 そうして女王は、小さな花の形をした宝箱を差し出します。 ふたりが受け取ると、拍手がひときわ大きくなりました。 「あら?」 「じょおー? ドラゴン! さかなばこ!」 顔を見合わせ、笑顔になったふたりが気がつくと、精霊の女王も、氷のドラゴンも、村のみんなもいなくなっていました。 いつの間にか、あの森へと帰ってきています。でも地面にあったはずの大きな穴は、どこにも見あたりません。 はたしてあの冒険は、夢だったのでしょうか? いいえ! 女王からもらった宝箱は、しっかりふたりの手の中にあったのです。 「さかなばこ、なにかな?」 「開けちゃおっか?」 ふたりはまた見つめ合い、えへへと笑います。 「うわぁ、きれー! ほーせき、かな?」 宝箱をあけてみると、中にはミルク色のまあるいものが入っています。 「これ、種みたい」 「たね? お花の?」 「うん、多分ね」 動かすと七色の光がうかぶそれは、宝石のようにも見えたのですが、前に仲良しの庭師が見せてくれた種の形に、とても似ていました。 精霊の女王がくれたものですから、きっと魔法の花の種にちがいありません。 「ね、ここに埋めてみない?」 ティアはアルウィンに言いました。 「私たちふたりの、友情の証にするの」 「ゆうじょーの、あかし?」 「ずっと友だちだっていうしるし」 この秘密の森に、友情の証の花が咲いているのは、とても素敵なことに思えました。 「うん、ここにゆうじょーの花、咲かせる!」 「決まりね」 ふたりはすぐに穴を掘り、そこへと種を埋めました。 「私たち、ずっと、ずっと友だちよ」 「ティアとアルウィン、ずっとずっとずっと、ともだち!」 そして、永遠の友情を誓います。 するとどうでしょう。地面がぱっと明るくなったかと思うと、あっという間に緑の芽が出て葉が伸び、つぼみをつけて、あの女王の姿のように白くて可愛らしい花を咲かせたのです。 「さいた! さいた!」 「とっても綺麗ね!」 ふたりは美しい友情の証を見て、手を叩いてよろこびました。 そのとき、遠吠えが聞こえた気がして、アルウィンは振りかえります。 森を抜けた先に、狼の家族が集まっているのが見えました。 ティアもまた、名前を呼ばれたような気がして、森の反対側を見ます。 そちらには、お城の中庭で咲いているたくさんの花が見えました。 そろそろふたりとも、おうちへ帰る時間のようです。 「それじゃアルウィン、さようなら。また遊びましょうね」 「うん、ばいばいティア。またあそぼうな!」 そうしてふたりは抱き合って、握手をして、にっこりと笑い、それぞれの道を帰って行きます。 今日はお別れかもしれないけれど、きっとまた会える気がしていました。 ふたりがいなくなったあとも、秘密の森の中で、花はきらきらとした光に包まれながら咲き続けます。 もしあなたが森で咲く、不思議に光る白い花を見たとしたら、それは、ふたりの女の子が永遠の友情を誓った、証の花かもしれません。 === 本が閉じられると、ティリクティアは大きく息をついた。 「二人で作った物語って、とっても素敵ね」 物語と、覚醒後二人でした旅や出会った出来事、遊んだことなどが重なり、胸が熱くなる。 「おもしろかった! アルウィンも頑張ったな!」 「うん、アルウィンが助けてくれたから、私も頑張れた」 それは物語の中だけではなく、いつだってそうだった。 三枚出てきた挿絵には、二人が出会うシーン、永遠の友情を誓うシーン、そして別れのシーンが描かれている。 アルウィンの本は、二人の笑顔が印象的な三枚だ。 「にこにこ、えがおのふたり!」 そう言って、彼女は嬉しそうに笑う。 離れ離れになったとしても、この絵を見たら沢山の楽しいことを思い出せるだろう。 「ティア、ティアラ、ほんとにありがと。アルウィン、大事にする」 それから彼女はティリクティアの本を手に取ると、『誓いの花』とタイトルが書かれたえんじ色の表紙にキスをし、尻尾で撫でる。 「本さん、ティアを守ってくれな」 そして彼女の未来が明るく、自身が納得出来るものであるようにと祈りをこめ、差し出した。 「ありがとう」 ティリクティアは笑顔で本を受け取る。 そしてお返しに、アルウィンの本へと祈りをこめてから、彼女へ戻した。 「ありがと!」 アルウィンもにっこりと本を受け取り、それからティリクティア、ティアラへとビー玉を渡す。 「お礼!」 「素敵な本をありがとう、ティアラ」 喜ぶ二人へと、ティアラも笑みを贈る。 ◇ 「あのね、アルウィン。私、貴方と会えて嬉しかった」 店を出て、ティリクティアはぽつりと言った。 今後どうなるのか、いつになったら故郷へと帰れるのか、不安はつきない。 でも彼女の胸中で一際強く輝くのは、絶対に故郷へ帰るという決意だ。 そしてそれは、二人の別れをも意味する。 「私達はいつか必ずお別れをしなければいけない。でもこの本を絶対に持っていって、ずっと大事にし続ける」 「アルウィンも、ティアとあえてうれしい! ティアだいすき!」 ティリクティアへと抱きついたアルウィンに、優しい抱擁が返ってくる。 頼りになり、いつでも優しく見守ってくれる大好きな友達。でも彼女はお姫さまだから、騎士の自分が守らなくてはという思いもある。 少し重たい本を、小さな手に持ち直した。大切な宝物だ。 これからもし、ティリクティアが悲しい思いをするようなことがあったとしても、この本を読めば、きっと元気になれる。 この本が、アルウィンとの物語が、沢山の思い出が、彼女を守ってくれる。 もう片方の手を、アルウィンはティリクティアへと差し出す。 ティリクティアも、その手を取った。 そして手をしっかりと繋いだ二人は、ターミナルの道を歩いていく。
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