オープニング

 ヴォロスのとある地方に「神託の都メイム」と呼ばれる町がある。
 乾燥した砂まじりの風が吹く平野に開けた石造りの都市は、複雑に入り組んだ迷路のような街路からなる。
 メイムはそれなりに大きな町だが、奇妙に静かだ。
 それもそのはず、メイムを訪れた旅人は、この町で眠って過ごすのである――。

 メイムには、ヴォロス各地から人々が訪れる。かれらを迎え入れるのはメイムに数多ある「夢見の館」。石造りの建物の中、屋内にたくさん天幕が設置されているという不思議な場所だ。天幕の中にはやわらかな敷物が敷かれ、安眠作用のある香が焚かれている。
 そして旅人は天幕の中で眠りにつく。……そのときに見た夢は、メイムの竜刻が見せた「本人の未来を暗示する夢」だという。メイムが「神託の都」と呼ばれるゆえんだ。

 いかに竜刻の力といえど、うつつに見る夢が真実、未来を示すものかは誰にもわからないこと。
 しかし、だからこそ、人はメイムに訪れるのかもしれない。それはヴォロスの住人だけでなく、異世界の旅人たちでさえ。

●ご案内
このソロシナリオは、参加PCさんが「神託の都メイム」で見た「夢の内容」が描写されます。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・見た夢はどんなものか
・夢の中での行動や反応
・目覚めたあとの感想
などを書くとよいでしょう。夢の内容について、担当ライターにおまかせすることも可能です。

品目ソロシナリオ 管理番号1241
クリエイター鴇家楽士(wyvc2268)
クリエイターコメントこんにちは。鴇家楽士です。

○もし一人称での描写をご希望の場合は、その旨を明記してください。
何も書かれていない場合は、三人称で書かせていただきます。
○お任せの場合は、方向性とかイメージを書いていただけると助かりますが、完全お任せもOKです。好き放題書かせていただきます。

※プレイング期間は、5日になっています。

それでは、ご参加お待ちしています。
宜しくお願いします。

参加者
マフ・タークス(ccmh5939)ツーリスト 男 28歳 園芸師

ノベル

 目を開けると、いつもの天井がそこにあった。
 だがそこに、オレは微かな違和感を覚える。体を動かすと、寝床の湿り気が毛皮越しに伝わって来て、思わず顔を顰めた。
 いつもの寝床であることには間違いない。でも、何かがおかしいと思った時、オレの頭の中で、鳳仙花の種みてェにぽんっ、とヴォロスで寝入る前の記憶が弾け、蘇った。
 成る程、こういう夢なんだな。
 いつもの寝床にいるってことは、オレの夢の舞台は、これまたいつもの0世界、オレが住んでる拠点ってことだ。
 それに気づくと、感じた違和感も、そんなもんかとすんなり納得できる。
 オレは気を取り直し、辺りをぐるっと見回してみた。
 夢の中でも、オレの部屋はオレの部屋のままで、贅沢にもボロにもなってなかった。相変わらず、床の殆どは植物に侵食されている。
 他の奴らにとっては足の踏み場もない状態かもしれねェが、オレにはどこに足を置けば、植物を踏まずに最短で顔を洗いに行けるか、飯のとこまで辿り着けるか、外に出られるか、全部わかってる。
 植物達もそれを知ってんだろう。呑気に構えていやがる。時々近くの奴同士で触れ合って、秘密の相談でもしてるみてェに微かな音を立てる以外は静かなモンだ。
 そこでオレは、今度は確実な違和感を感じた。
 いくら何でも、静かすぎねェか?
 ここがいつもの拠点なら、いつもの連中の騒がしい物音がしてもいいハズだ。
 オレは寝床から起き上がると、床の上に降り立つ。顔を横に動かすと、カレンダーが目の端にちらと見えて通り過ぎた。オレはまた目ん玉の位置を戻すと、日付を確認する。
 それは、今から――オレが起きて動いてる世界から、数十年後になっている。顔を真っ直ぐ向け、カレンダーを改めて見直してみても、同じだ。
 その隣には、いつ撮ったのか、拠点の面々が揃った集合写真が飾ってある。そこには、オレの姿もあった。
 それをじっと見ていると、ドアノブが動く音がして、オレは今度はそっちに目を向ける。
 ドアは軋む音を細長く垂れ流しながら、ゆっくり開いた。

 部屋に入ってきたのはオレだった。――頭がごっちゃになるのは一瞬だけで、すぐに事態は飲み込めた。夢の中のこの部屋に住んでるオレってことだ。
 あちらさんも暫くぼやけたツラをしていたが、やがてへらり、と締まらねェ笑いを顔に浮かべた。
 だがオレは、笑う気にはちっともなれなかった。もう一人のオレの顔は、何かに飢えてるかのような顔だったからだ。
 そしてそいつは言った。
「まァ、座って話でもしようぜ」と。

 オレは、冷めたコーヒーをちびちび飲みながら、『オレ』を見る。
 いつも手入れを欠かさねェ毛皮はぼさぼさ、尻尾の鱗もささくれだらけだ。姿勢もだらしなく歪んでやがる。
 『オレ』は、自分で淹れたコーヒーを舐めることもしねェで、どーでもいい、くだらねェ話をし続けている。オレが聞きたいかどうか、聞いてるかどうかはどうでもいいみてェだ。
 でもオレも、肝心なことが聞けずにぐずぐずとその話を聞いていた。そんな煮え切らねェ自分の態度にも、段々と苛々してくる。
 オレは何時の間にかまた、集合写真に目を遣っていた。
「あいつらは」
 すると、『オレ』の話が投げやりに、それに触れる。
「みんな出て行っちまったよ」
 それからの話を、オレはまた詰まらねェ世間話を聞くみてェにぼんやりと聞いていた。
 拠点の連中は既に全員、何らかの形で0世界を離れたらしい。
 ある奴は元いた世界に帰り、ある奴は別の世界へ向かい、またある奴は死んだ。
「やっと静かになって、清々するぜ」
 そう言って笑うもう一人のオレの目は、虚ろだった。
 その乾いた笑いは長くは続かず、顔は見る間に曇り、悲しげな表情へと変わる。当の本人はそれに気づいてるのか――きっと、どうでもいいんだろう。
「また、一人になっちまった」
 そして、誰に言うでもなくそう呟くと、よろよろと立ち上がり、如雨露を手に取ると、また外へと出て行った。
 開け放したまんまのドアから、何かが聞こえてくる。
 唄だった。
 陰気臭くて、全く違う曲みてェに思えたが、聞いたことのある曲だ。
 それは、ハーミットの奴が唄ってた、異郷の曲だった。


「情けねェ」
 天幕を後にしたオレは、思わずそう呟いていた。
 一人になったくれェで、そこまで落ちぶれるか。一人になるのは慣れっこだったハズだろうが。畜生。
 オレはいつでもそうやって、沢山の奴らを見送ってきた。それは当たり前のことで、今さら気にするようなことですらない。
 夢の中のもう一人のオレの、泣きそうなツラを思い出し、そこだけ夢の中に置いて来ちまったみてェに痺れる頭の奥に苛立ちながら、オレは地面を踏んづけるようにして歩いた。
 やがて、ぎゃあぎゃあと喚く声が聞こえ、オレは思わずそっちを見遣る。どっかの餓鬼が喧嘩でもしたらしい。「もう絶交だからな!」とかいう言葉も耳に入った。
 ふん、ああいう奴ら程、明日の朝にはケロっとして、またいつの間にか一緒にいたりすんだよな。腐れ縁ってヤツだろ。
 そんなことを思ってると、緩い風が吹き、オレの髭をさわさわと揺らした。それがなんだか気持ちよくて、オレはそのまま暫く風に吹かれていた。
 風がオレの意識をはっきりとさせるにつれ、夢の中の記憶は段々と薄れていく。
 すると消えてく景色のかわりに、いつもの騒がしい連中の顔が、蒲公英の綿毛みてェにふわふわ勝手に浮かんできては、また勝手にどっかに飛んで行った。
 それと一緒に、オレの中のネジかなんかも飛んでったのかもしれねェ。いつの間にかオレは、ハーミットの唄ってた、でたらめな曲を口ずさんでいた。もちろん歌詞なんぞわかるはずもない。
 あいつ、この歌は心で感じるんだとか抜かしてやがったな。
 それが少し、わかったような気がしちまった。
 ほんのちょびっと、だけどな。

クリエイターコメントこんにちは。鴇家楽士です。
お待たせしました。ノベルをお届けします。

今回はプレイングを全部一人称で書いていただいたのと、イメージが湧いたことで、一人称で書かせていただきました。
マフさんの雰囲気が上手く出せていたらいいなと思います。
あとは、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。

この度はご参加いただき、ありがとうございました!
またご縁がありましたら、宜しくお願いします。
公開日時2011-04-16(土) 12:10

 

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