「コタロ、調子はどうだ」「皮膚が突っ張るな」 コタロは魔法少女マカイバリが死に際に残した爆弾によって、医務室入りしていた。彼女に敬意を表したい。全身に刺さった破片と火傷。移植した皮膚が落ち着いてきて、ようやく体が起こせるようになった。今日から根気のいるリハビリである。「目に当たらなくて良かったな。耳は聞こえるか?」「いや、耳鳴りは収まっていない。これは時間がかかるとクゥ先生が言っていた」「そうか、詠唱に影響がでないといいな」「それを試すのはまだずっと先だ」「そうか……」 病室に沈黙が訪れる。「そうだな。もう少し動けるようになったらコロッセオでリハビリというのはどうだ」「悪くない」 † コタロは順調に回復し、やがて自由に冒険に出る許可も得られた。 そろそろである。 二人の軍人は無限のコロッセオを訪れ、管理人のリュカオスに2on2のタッグバトルを申請した。「今日の挑戦者はおまえたちか? 魔法少女と戦いたい? わかった」 コロッセオが動き出すと高らかにファンファーレが鳴った。パラッパッパー♪♪ ♪ ☆輝けぐんじん!((えーむ)まじっく・(えーっち)はーとっ!)☆ ♪ ♪♪筋肉(まっそぉ)弾いて玉散る汗が、今日も漢の眠りを醒ます♪(ぐんっ! じんっ!)パラッパッパー♪ 虹色の衣装に身を包んだヌマブチ(幻影)とコタロ(幻影)がキメ顔をしたところでリュカオスがつぶやいた。「間違えた」 コロッセオが再び鳴動し、次々と環境がセットされていく。――林ステージ(夕暮れ) 長い時間をかけて人が飼い慣らしてきたような居心地の良い林が現れた。 のどかな砂利小道が走り、澄んだ風がそよいでいる。 夕日は木々に遮られすぎるとこも無い。ブナの銅葉色は夕日の赤と陰のコントラストを作っていた。 下生えに混じってキノコが自生している。 見上げれば、少し欠けた月が空にかかっていた。 飛び越せる程度の小川には丁寧に橋がかけてあった。 林を抜ければヘザーとイラクサのまばらに生える丘が見え、その麓には乾いた木で作られた簡素な門がある。つつましい墓園だ。 そして、墓園からは灰色の光といくつもの人影が見える。「あれが一人目の敵で、魔法少女『魔王』だ」……人影が何人も見えるのだが「それは『魔王』の召喚したゾンビとスケルトンだ。人数のカウントに入っていない」……2on2、だ……よな「そうだ。もう一人の魔法少女は林に隠れている。魔法少女『グルナッシュ(3X才)』だ。秘密工作が得意だそうだ」……少女? 疑問に答えること無く、リュカオスは「健闘を祈る」と言い残して去って行った。 二人は今は林と丘の境目の小道にいる。太陽は林の木々に沈んでいてただ赤い光だけがすきまからさしている。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>コタロ・ムラタナ(cxvf2951)ハーデ・ビラール(cfpn7524)=========
夕日の朱色を塗りつぶす灰色光が墓園から立ちのぼり亡者が次々と立ち上がってきている。早めに対処しないと手に負えない事態になるだろう。 「偏った軍人じゃんけんだな。互いに弓兵と歩兵しか居ないが、セオリー通りに行くか。私は弓兵を殺る……歩兵は任せる」 「わかった。魔王と有象無象は自分が引き受ける」 「最近手榴弾で失敗続きだったからな、初心に帰ろうと今回は準備しなかった。ゾンビはムラタナの炎陣符が頼りだ。それと悪いが視野を繋いでおいてくれ」 「了解した」 コタロが符をハーデに貼ると、コタロは風の流れに乗って林を抜け、丘まった牧草地を駆けだす。テレポートして、ハーデの気配が背後から消えた。 一見、自然に行われた役割分断だが、それは二人の困難を内包していた。2対1で片方を速攻で仕留めるという考えは無かった。互いに個人戦に慣れすぎており、戦闘スタイルも異なる。 夕日を背に受けて、コタロのコートが灼灰に光る。 ――太陽は背、相手がまっとうな幽鬼なら日が沈むまではこちらが主導権を握れる。 茂みをつたい進路を迷彩する。関節が痛みを報告してきた。 ――全力疾走は辞めた方が良さそうだ。 ヘザーの葉が駆け抜ける脚に触れる。 ――触覚が回復していない箇所が多い。接近戦は避けた方が良いか そう、思考を整理して、まずは一射目、ボウガンの弦を引いた。セット完了。 クォレルは静かな弾道を描いて、墓園に吸い込まれた。 続く爆炎、ゾンビには火が効くだろう。スケルトンには爆風が。 ――狙いが正確では無かった。風を読む感覚が鈍っている。 対紅国の多数戦を求められる蒼国兵の基礎戦法は、高い機動力で敵を翻弄し高威力での遠距離攻撃で多数を仕留める事。 コタロは茂みを去り、次の射撃ポイントへ移動、第二射。多数のアンデットを紅国に見立てればリハビリにちょうどよい。 走りながらコート越しに懐の刃に触れた。 † 一方、ハーデは林の下生えの陰にまぎれ、地面に這いつくばっていた。植物は乾燥しておりがさがさする。 精神感応、人間型の意識を索敵。 林の中にぼんやりと不可思議な意志が渦巻いているのがわかった。ターゲットの特定には至らない。 「コロッセオだから、人はいないということか……。いや、それならなにも感知しないはずだ」 その時、あいまいであった意志が明白な攻撃の形をとった。怨念――呪詛と行っても良い、曰く、寿引退したい――。それはハーデには縁が薄いが故に理解しがたいものであった。 ワインレッドの魔法光が樹上に陽光にまぎれてはっきりと視界に入った。ハーデはすかさず、林のさらに奥に転移した。 「気持ち悪い、失せろ」 逆光で魔法少女の表情は判然としない。 目の前に出現し、両手の光刃を振るう……が、敵は後方に跳躍してかわした。体制は崩れている。ハーデも枝を蹴った。 左、横殴りの追撃。大剣――マジカル☆フランベルジュの中程を両断。魔法少女のレースが散った。 そして右の光刃が、相手が地を踏む前に、右肩に入り斜め上に切り上げた。 「ん、手応えがおかしい」 地を見てみれば、両断された樹の枝が落下していく。――幻影だ。 「隠密と言うのは伊達ではないか」 † その頃、林と草原の境界、墓園を眺望する樹の上に人影があった。戦場では無駄の多いひらひらとしたシェルエットだ。 彼女はフランベルジュの大きく十字に広がるつばを目の高さに掲げていた。右手でつかに手を添え、左手をつばを握りこむ。そして、炎のように波打つ刀身をまっすぐ、草原の方におろした。 ……寿引退したい、魔法少女辞めたい、手遅れ 早口で呪う小さな発声を聴く者はいない。これは彼女の呪文である。 すると、十字のつばが遣い手の身長ほどにも延び、つかに添えた手を引くとゆらめく刀身がずぶずぶとつばに沈み込んでいった。 そう、この狙撃型魔女っ娘のマジカル☆ステッキは波打つ刃を放つ大弓だったのだ。フランベルジュ形態は偽装によるものか。 鮮烈な紫光。 コタロはゾンビ達の陣を突破し、――接近戦の訓練をしようと――小さな魔王に迫ろうとしていた。背後にふくれあがった殺気を察知。 しかし、魔王の威容から視線を外すことが出来なかった。しゃれこうべに浮かぶ深紅の眼光に捉えられている。視線誘導だ。 とっさに転移符をひらめかした。 ――現状把握 草原の景色に大きな変化無し、前方に、林から遠く向かって転移できたようだ。コタロは墓園からは出ていた。 視界内転移は成功しているが、距離は短い。背後には魔王とアンデットが迫っているはずだ。 そして、振りかえろうとしてとして軍人はけつまづいた。 胴を貫く巨大な刀身。 ――脊椎は無事、左腎、肝臓、腸貫通、門脈及び大静脈切断 止血符で応急処置をし、意識消失は回避したが、刀身で地面に縫い付けられたままでは動きようがない。 総括するに、冷静にグルナッシュのスナイプは感知できたが、精神干渉に対抗する勘が鈍い。対応が遅らされたと言うことだ。紅国兵からはくることの無い攻撃である。 模擬戦の収穫としてはこれで十分だが、コタロはどことなく悔しさがわき上がるのを覚えた。 † 失策に気付いたハーデは即座に転移した。 樹上の狙撃手の手元には新たなフランベルジュがあった。コタロにとどめを刺すべく、二の弓をつがえようとしている。 同時に仲間からの緊急を伝える意識も認識されている。 迷う暇はない、ハーデはコタロの視界をたよりに墓園の彼方へと跳んだ。 目の前に立ちはだかる緋に縁取られた黒影。 魔王がコタロを向いているのが幸いした。 意識を集中し、魔王の緋衣とその奥の禍々しい骨を掌握するために、大きく踏み込んで手を伸ばした。 ぞわりと悪寒が駆け巡るが、その一瞬の後には魔王は転送されていた。 そこにフランベルジュが飛来した。 紫光炸裂して、豪奢な衣装の内側で魔王を構成する骨の幾ばくかが砕けたのが見て取れた。 その隙にハーデはコタロに駆け寄り、彼に突き刺さっている大剣をアポーツした。「まだしばらくは動けるな」 再開したした出血を止めながらコタロがうなずく、 「なら、弓兵をかたづけるまで頼む」 「問題ない」 ハーデは樹上に戻っていった。 † 仕切り直しがされ、コタロは意識を戦闘に戻した。 魔王がしゅうしゅうと灰を吐きながら向かってきている。彼女に突き刺さっていたフランベルジュはとうに分解され灰となっていた。 陽は既に沈み、世界は紫に移ろっていくところであった。 コタロは下肢へのダメージにより移動にハンデを負っているが、魔王がまっすぐ向かってくるので助かった。 改めて対面すると異世界の支配者であった者の小ささがわかる。上背はコタロの肩にも満たない。 続けざまにボウガンを放ち、リッチを覆う夜のベールを燃やしていく。 魔王は一歩ずつ進みながら、その細い骨に不釣り合いな程に武骨なダガーを抜きはなった。不自然に灰色の輝きをもったそれは、黒曜の石剣だ。なんらかの魔術的効果が付与されているのは間違いない。 どうやら、接近戦が好みのようだ。 血の巡りを失ったコタロの下半身が戦闘に耐えるれる時間は短い。30秒可能な無酸素運動の残りはせいぜい10秒程度であろう。彼もコートのうちから短剣を慎重に取り出した。 短剣は骨相手に決定打にならないだろう。相手の魔法攻撃を逸らすのと、接触魔法を使うときの焦点具とするのが次善。 大きく息を吸って口蓋内に呪文を満たしていく。 † ハーデは、樹上に転移したが、グルナッシュの構えているところから一つ離れていた。そのために定石としている転移と同時の攻撃を行えない。 能力の精度が落ちているようだ。先程、魔王をアスポーツしたときに同時にエナジードレインされたためだ。光刃もダガー程度の短さになっていた。 弓兵は矢をつがえたままこちらへと向きなおり、一撃を放った。 転移に頼れない戦闘の経験がよみがえる。ハーデは矢をかわすと、枝を蹴って飛びかかることにした。葉が散らされる。 光刃が振るわれ、大剣形態に戻ったフランベルジュと切り結ぶ。光の収束帯が波打つ刀身に斬り込んでいた。 対するゴスロリ服から覗く両の腕が太い。足場が悪く踏ん張りが利かないのもあり、力づくで押し返された。 「なんて、馬鹿力だ」 分の悪いつばぜり合いだ。 枝上ではあとがない。そして、ハーデの光刃にはつばがない。フランベルジュの波打つ刀身がじりじりと小手に迫る。 と、すっとフランベルジュから力が消えたと思うと、グルナッシュは腰を沈み込ませて一気に刀身を引き寄せ、思わずハーデはたたらを踏む。 そして入れ替わるように十字のつばを押し込んできた。 「まずい」 鋭利なつばに刺される寸前にハーデは転移した。 背後にまわり、一気に突き込む構えを取り、固い枝に足が触れると同時に突進した。 グルナッシュがフリルをひるがえして体を旋回させてくる。 「フランベルジュの懐に入ればこちらが速い」 だが、予想に反して魔法少女は素早かった。フランベルジュの切っ先がハーデの彼女の鼻先をかすめる。この敵は、左手で刀身を掴んで振り回すことによって、長く隙の大きい武器を短く小回りが利くように操っていた。 だが、その一撃も間合いを外せていた。今度こそ、ハーデは必殺の一撃を繰り出そうとした。 だが、グルナッシュは返す剣を繰り出すこともなく、フランベルジュをそのまま小脇に抱きかかえて、右手をつかから十字のつばに持ち替えグリップ。そのまま短槍を扱うがごとく突撃してきた。 ハーデの出身世界と異なり、魔法少女達の世界にはもともと洗練された戦闘体系は無かったという。過酷な旅団における生活の中で彼女たちは独自の無骨な兵法を見いだしたようだ。 とっさに光刃を差し出し、十字のつばの片側を斬り飛ばすがグルナッシュの突進は止まらない。 鋭利とは言い切れない束頭がハーデの胸に刺さり、肋骨を粉砕して戦士を吹き飛ばした。小枝を巻き込んで樹から落下した。 そこへ、魔法少女はぶつぶつと魔法矢を撃ち込んだ。 † 小さな魔王が石剣を振るい――灰の粉が舞い散る。 コタロから見てその動きは単調で、避けるのは造作も無い。懐剣を軽くひねって切っ先を逸らす。 炎術を解放。 耳をつんざく爆音が鳴り響いて、近くのアンデットを吹き飛ばした。 しかし、リッチについては、ローブがはためいただけであった。 相も変わらず灰のちらちらと漂って、夜の紫をうけている。 ――灰が防御陣を構成しているのか ふと気がつけば、懐剣にも黒い点点――錆が浮かんでいた。懐剣を持つ手の感覚が薄い。 しゃれこうべのサークレットからも灰がまかれていく。 ――あれに触れたらまずい 身上の機動力が損なわれている状況が厳しい。最後の力で後方に跳び、そのまま受け身を取りつつ転がった。草がコートに絡まる。 片手で身を起こし、この距離で外しようもないボウガンを放つと、人間であれば心臓のある部分を貫いた。クォレルの軌跡にあった灰がかき乱され、ほそい清浄な空気の導火線ができた。そこへめがけ、再度炎術を焦点させた懐剣を投擲すると、こんどこそリッチを中心とした爆発が起きた。 ――殺れたか? リッチの再生を警戒しながら視線をあげた瞬間に、コタロは彼方より飛来したフランベルジュに貫かれた。 樹上では這い上がってきたハーデが、残心しているグルナッシュの胴体を背後から両断する。 † コロッセオは終了を判定した。 † コロッセオはもとのローマの闘技場風の空間に復帰していった。 ハーデは観客席最前面の大壁の上から闘技場を見下ろし、コタロはその少し後方の座席に座っていた。幻影と共に傷も消え去ってる。 「収穫はあったか」 「……ああ、まだ本調子ではないようだ。足を引っ張ってしまった」 「そうか……」 「……そ、それより」 「ん、どうした」 「共闘は……難しいな」 「そうだな。お互い、能力も戦術も異質だ。一朝一夕では身につかんか」 「自分……が後衛で、お前が前衛……と言うのも違う」 「ムラタナが撃って、それにあわせて私がテレポートはどうだ」 「……後が続かない」 「敵が人間か、モンスターかによって考えを分けるか」 「難しいな」 そして、大壁に腰掛けようとして、ハーデが小さく身じろぎした。 「ケガしたのか?」 「いや、大丈夫だ。今回のでは無い」 コタロが顔の皮膚移植されたところを掻いていた。まだなじんでいないようだ。 「そう言えば、移植は、尻の皮がよく伸びて良いらしい。クゥ先生が言っていた」 …… 「ああ、私のも提供しておいたぞ」 …… 「なんだ。嫌だったか?」 …… 「ならいい。もっとありがたがったらどうだ」 …… 「共闘は難しいと言ったな。私はムラタナと組むと安心して戦える。これからもよろしく頼む」 しばし沈黙が場を支配し、コタロはようやく適切な言葉を口にした。 「……か、感謝……する」 ハーデはこれから戦場へと向かう。コタロは今しばらく療養だ。 戻ってきたら、同時攻撃をかけるような戦闘訓練でもしたものだろうか。これからでも出来ることはいくらでもあるだろう。 そのころには気になる顔もなじんでいるだろうか。 「それと……朱い月で……健闘を祈る」 「うむ、ありがとう」
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