――0世界・コロッセオ。 今日も己の力を試さんと2人のコンダクターが向かい合っていた。 1人はフォックスフォームセクタンを連れた少年、リエ・フー。もう1人はロボットフォームセクタンを連れた中性的な若者、ハーミット。 2人と1匹と1体は、火花が散りそうなほど互いを見合っていた。「止めるなら、今のうちよ?」「その台詞、そのまま返すぜお嬢ちゃん?」 一触即発なこの2人なのだが、経緯はこうであった。 ――少し前。 リエは誰か手合わせの相手は居ないか、と思いながらトラベラーズカフェにやって来た。「どこかに、手ごたえのある奴いねぇかな。こう、なんかパンチのある奴」 なぁ、楊貴妃? と相棒に問いかければ、肩に乗っていた楊貴妃は小さく頷く。「ねぇ、ちょっといいかな?」 そんな彼に声を掛けたのは、ぱっと見、細めの女の子に見えるハーミットであった。「ん? なんだい?」「あなた、手合わせの相手を探しているのよね? ちょうど良かったわ。わたしもそうなの」 ハーミットはにっこりと微笑んで、自分と手合わせをしないか、と提案してきた。しかし、リエは少し考える。「どう? これでも結構やるのよ?」「……悪いな、弱いものいじめは趣味はねーんだ。他あたってくれお嬢ちゃん」 強気な笑顔を見せるハーミットだったが、リエは苦笑して背を向けようとする。そんな彼に思わずむっ、としてしまうハーミット。「そういう自分だって子供じゃない! ……それとも、負けるのが怖いのかしら?」「!」 今度はリエが、ハーミットの言葉にカチン、と来た。翻そうとした身を戻し、きっ、とハーミットを見やる。「そんなワケあっかよ」「ふん、どうでしょうね、ぼ・う・や」 先ほどのお返し、とばかりに笑うハーミット。2人はしばしの間にらみ合うと、どちらかともなく、こう言った。 ――だったら闘技場で勝負! ――現在・闘技場。 にらみ合った両者の間に入ったのは、リュカオスだった。彼は小さく溜め息をつき、説明する。「ルールは簡単。トラベルギア及び特殊能力使用可能。そして、制限時間は1時間だ」 そして、手を上げる。と、コロッセオはインヤンガイのような廃車置場となった。リエには馴染みのある光景であり、ハーミットも過去に体験したことのある戦場だった。「廃車は、モノによっては不安定な物もある。崩れる事も考えて欲しい」 そう言って、リュカオスはどこからとも無く大きな砂時計を取り出した。その砂が落ちきったとき。それが、タイムアウトだ。「それでは、初めっ!」 彼の合図で、ゴングが鳴り響く……。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ハーミット(cryv6888)リエ・フー(cfrd1035)
序:激突 ――ゴォオオオンッ! 「しゃああっ!」 ゴングがなると同時に、リエ・フーが跳躍する。 (貰った!) ハーミットも負けじとトラベルギア【ガーディナル】を抜き放ち、衝撃波を放った。砂埃を巻き起こしながら迫るそれを、リエは紙一重で避ける。 お返しとばかりにトラベルギアへ念を込め、かまいたちを発生させる。が、砂埃の所為でハーミットを捕らえる事は出来なかった。 それでも気を抜かず、神経を張り詰める。と、リエの耳が軽い金属音を捉えた。素早く反応し、跳躍。衝撃波が追いかけるように襲ってくる様に、彼は笑みを強くした。 「ははははっ、おもしれえ!」 薄れた砂埃の先に、ハーミットを捕らえる。そこへかまいたちを放てば、今度はハーミットが鞘の力で防御を行う。 「思ったより、素早い……」 「ああ。すばしっこいのが取り得なもんでね!」 そう言いながら廃車の奥へと消えるリエを追いかけつつ、ハーミットは内心で舌打ちした。ここへ向かう前にリエの報告書を読んでいて解ったが、彼はハーミットよりも実年齢は上なのである。 (さっき、ぼうやって言っちゃったけど、向こうの方が経験は豊富なのよね。気力とスピード、身体能力でカバーできるといいんだけど) 足音に注意しつつ、再びガーディナルを握りしめるハーミットは、リエが迫る事を警戒していた。 一方リエは思った以上に強いハーミットに、テンションが上がってた。楽しくて仕方が無いのか、口元が綻んで仕方が無い。 「ふふっ、来いよお嬢ちゃん♪」 いっちょ揉んでやっか、という気分で廃車の上を走る。恐らく、相手もリエが持つトラベルギアの能力を危惧しているだろう。それを如何に悟らせず行うかが問題だった。彼はそっと、首から提げた陰陽一対の勾玉のペンダントを握り締めた。これが、彼のトラベルギアなのだ。 (……さて) 内心で呟きつつ、慎重にハーミットへ迫るリエ。恐らく相手も自分の気配を探っているに違いない。砂埃は既に晴れ、はっきりと相手の姿を見ることが出来る。 (折角のフィールドだ、馬鹿正直に正面からいったんじゃ芸がねえよな?) 慎重に、気配を殺す。静かな、静かな両者の読み合いが続く。その間にも砂時計の砂はさらさらと音を立てて落ちていく。 ――さぁ、どう動く? リエは物陰に身を潜めながら、ハーミットは刀に手をやって辺りを警戒しながら、心の中で相手へと問いかけた。 ゴング開始と共に両者が動き出し、それぞれの相棒であるセクタンが光ったり跳ねたりして応援する。 リエの相棒、フォックスフォームセクタンの楊貴妃は尻尾についた鈴を鳴らして。ハーミットの相棒、ロボットフォームセクタンのロジャーはアームを上下に振りながら。そして互いを見合わせると妙に威嚇(?)のような動作を見せた。 そんな可愛い応援合戦なのだが、リエとハーミットには見えていなかった。 破:拮抗 最初に動いたのは、リエだった。彼はギリギリまでハーミットに近づき、トラベルギアの力を発動させる。 (!? しまった!!) ハーミットが気付いた時、既に結界に包まれていた。同時に焔が巻き起こる! しかし、彼も負けては居ない。全身の力を込めて真横に刀を抜刀し、衝撃波を発生させる。それにより焔の結界は破られるも、散った炎がハーミットの白い頬をなぞり火傷を生む。 それを見たリエはくくっ、と笑った。 「ほらどうした可愛い面が火傷しちまったか?」 「ふんっ、これしきの事っ!」 同時に再び剣戟が襲ってくる。リエが素早く避けるも、ハーミットの斬撃が追いすがってくる。巧みな刀捌きでリエを追いつめ、彼は軽やかな足取りで廃車の上を登ってくる。 再び、衝撃波が襲う。【疾風怒濤】と名付けたこの技を、リエはどうにか廃車などを身代わりにしながらあたりを駆け回る。 (このまま下敷きにしてやるっ) 辺りを回っている間に、落ちやすい廃車を見つけていた。そこまでどうにか誘導し、大ダメージを与えたい、と考えるリエ。だが、ハーミットはぴたり、と足を止めた。何かを察知したのか、警戒しているようだった。 (それならば……) リエのギアから、疾風が巻き起こる。かまいたちが発生し、それをハーミットは鞘からこぼした結晶をつかって防ぐ。 「このぐらい、なんともないわっ!」 「ふぅん、ちったぁ、やるみてぇだなぁ……?」 リエが、再び動き出す。ハーミットが追いかけ、少年を追い越そうとする。けれども、わざと速度を緩めたリエは、軽く跳躍した。 「どうするつもり? ただ逃げているだけじゃないんでしょ?」 「ああ、そうだな……っ!」 同時に、廃車を踏みつける。とたんに、派手な音を立てて廃車がハーミット目掛けて落ちてくる。それでも冷静に対処し、刀に手を掛ける。そして、風を切る音と共に衝撃波が廃車を捕らえ、高々と上がっていく。 「やっぱ、甘くはねぇか」 苦笑しつつ跳ね上がるリエ。2つに分かれた廃車を蹴り、別の廃車へと飛び移る。その姿に対し、ハーミットがくすくす、と笑った。 「ただのお嬢ちゃんと思って油断した? おあいにくさま。……私は男よっ!」 その一言に、リエは少し目を丸くする。が、すぐさまくぐもった笑いを溢し、徐々に甲高い笑いに変わっていった。自然に指を鳴らし、瞳を輝かせる。 「ふぅん、だったら……遠慮なんていらねぇよなぁ? もっともっとオレを楽しませてくれよ!」 作戦を変えたのか、素早くハーミットへと接近する。目晦ましに風を起こし、それに怯んだ所でリエの拳が飛んでくる。それを鞘で躱すハーミット。 ひゅうっ、と口笛を吹き、リエがにやり、と笑う。 (てめえも体術嗜んでるみてえだが、俺だって喧嘩拳法かじってんだ) 鋭いストレートを再び鞘で凌ぐハーミットに、こんどは蹴りを放つ。リエは跳躍力とスピード、廃車などの足場を生かして攻撃を繰り出した。 「このぐらい……っ」 ハーミットは全てを体捌きや鞘で凌ぐものの、やはりかすめたり、2、3発喰らったりしまう。その隙に再びリエは姿をくらました。 (また、ギアを使うつもりね) ハーミットもまたすかさず動く。できるだけリエから離れ、とりあえず鞘の力を使って回復しようと廃車の中へと身を隠す。彼は小さく息を付きながら刀を鞘へと納めた。傷は深くは無いものの、態勢を立て直す時間が欲しかった。 一方、リエは二つに切れた廃車を見、溜め息を付いた。衝撃波の威力を確認し、彼は気を引き締める。 (油断が、徒になる。焔に巻き込むにゃあ、もっと神経を集中させねぇとな) ハーミットの居場所を摸索しつつ、ギアを握り締める。それでも笑いは絶えない。久しぶりに、血が騒ぐような感覚がしており、とても楽しくて仕方が無いのだ。 彼は僅かに唇を舐め、意識を集中して気配を消す。廃車の上を歩く際は落下しやすそうなものに当たらぬように注意を払って。 砂時計は、僅かな音を立てて時を刻む。砂の量は既に半分以下になっており、徐々にタイムアウトの時が迫っていた。 だが、奇妙な静寂が辺りを包む。リエも、ハーミットも互いの居場所を悟られぬよう、神経を張り詰めさせつつ、相手へ接近しようとしているのだから。 それぞれの相棒セクタンが心配そうに見守る中、最初に行動を起こしたのは……ハーミットであった。 急:勝敗の行方 リエを見つけたハーミットは、素早く切り込む。が、リエもまた彼を見つけており、すぐさまかまいたちで応戦した。金属独特の音が空間に広がり、砂埃の中で両者はぶつかり合う。 リエが懐に入り込み、きついブローを叩き込む。が、ハーミットも負けては居ない。刀の鞘でそれを凌いでは身を翻し、体勢を整えなおす。再び砂埃を払うかのように飛ぶ、かまいたち。ハーミットはそれを素早い足捌きで交わす。 そんな中、不意にリエが口を開いた。 「なぁ……」 「何?」 「あんたは、どうしてそんなに強くなりてえんだ? 強くなってどうしたいんだ?」 急に放たれた問いに、ハーミットは瞳を細める。何故そんな事を問われるのか解らなかったが、なんとなく、言いたくなかった。 「どうだって、いいでしょう? そういうあなたには、理由があるの?」 そんなハーミットの問いに、リエは苦笑を浮かべる。それは、少年には似つかわしくない、どこか強かさと渋みの混ざった、『男』の笑みだった。 「俺は、別に楽しく気持ちよく喧嘩できりゃそれでいいのさ」 そしてそっと、嘯くようにこうも言う。 「夢だのなんだのほざくには、ロストナンバーになってから歳を取りすぎた」 その言葉に、ハーミットは不思議そうに首を傾げる。あまりにもアンバランスな言葉と声なのに、妙にしっくりしているのだ。 一方、リエは静かにハーミットを見る。戦っているうちに彼の悩みや迷いを感じとっていた。それに、どこか懐かしい気持ちになり、口元が綻ぶ。 (くくっ、てめえの太刀筋は青臭くて真っ直ぐで、大昔の誰かさんを思い出すぜ) 小さな笑い声混じりの呟きを、ハーミットは聞き取れず首を傾げる。が、リエはにやり、と笑って身構えた。 「ま、未熟な若者をしごくのも古参の仕事ってね。遠慮はいらねえ、全力でぶつかってこい。……俺も本気でやってやる」 「上等!」 ハーミットが再び切り込もうと接近する。リエも素早く陣を発動させ、ハーミットを迎え撃つ。先程よりも正確に、そして、素早く結界が出来上がった。 紅蓮の焔が辺りを包み、ハーミットへと襲い掛かる。それでも彼は怯まない。 「見せてあげるわっ! これが私の“戦う意志”!」 焔の中からリエが飛び出す。彼の一撃をどうにか避け、同時に刀を鞘へ『バチンッ』と大きな音を立てて火花を散らす。同時に爆発し、リエを焦がす事になる。 「くっ……っ!」 それでも、リエも動きを止めない、焔に焼かれてもハーミットへと突っ込んでいく。僅かな隙をつかれ、ハーミットは派手に転び、焔を纏う。 「まだまだっ」 身を起こそうとしたハーミットは、再び自分が陣に囚われた事を悟る。巻き起こる紅蓮。刀を閃かせて衝撃波を起こし、消し飛ばした時既にリエはいない。 「こっちだっ!」 振り返った途端、強烈な蹴りが放たれる。それを寸での所でかわし、三度衝撃波を放つ! 「そう、簡単にやられたりしないんだからっ!」 リエが襲い掛かってくる風を避けたとき、派手な金属音が散らばった。それで何かを察したのか、舌打ちしつつ避けようとする。見れば砂埃を立てて廃車の山が崩れていくではないか! 「ふんっ」 どうにか別の廃車を足場に跳躍し、必死にかわす。巻き込まれずに済んだものの、喰らったダメージは小さくない。だが、彼のプライドが、膝を付かせなかった。 砂埃がもうもうと立ちこめる中、ハーミットは更に攻撃を重ねる。それを吹き飛ばそうと、リエがギアでかまいたちを放つ。両者の攻撃が派手にぶつかり合い、砂埃は晴れていく。 お互いに傷だらけになりながらぶつかり続け、廃車もまた幾つも崩れていく。小細工無しの1本勝負は、拮抗していた。 「負けないんだから!」 「それはこっちの台詞だねっ!」 リエのかまいたちを、ハーミットが鞘から溢した結晶で防ぐ。その間にも接近し、リエは飛び蹴りを放つ。刀で受け流しつつ様子を見ると、リエは少しばかり疲れているように見えた。 (いけるっ) 畳み掛けるように斬りかかるハーミット。それを確かな足取りでリエはかわす。それでも、積み重なってきたダメージが、徐々に動きを鈍らせていく。 動きが重くなってきたのは、ハーミットも一緒であった。けれども、その差は僅かながら、リエの方が大きかったようだ。 「これで……っ!」 『バチンッ』と、大きな音を立てて納められる刀。間近で焔を浴び、リエは目を閉ざした。同時に、腹部へと強烈な一撃が襲い掛かる! 「それまで!」 ゴングがなり、リュカオスの声が響く。よく見ると、砂時計の砂は、全て落ちきっていた。タイムアウトだ。それと同時に、リエがバランスを崩す。 「くそっ……」 腹を押えながら、片膝を付く。苦しげに息をし、見上げると、リュカオスがハーミットの手を握り、高々と上げていた。 「勝者、ハーミット!」 「……」 けれども、ハーミットもまた何も言わない。相当体力を消耗したのか、リュカオスが手を話した途端、両膝をつけて何度も深呼吸をした。 「いい、試合だったぜ、ハーミット」 「こちらこそ、ありがとう、リエ」 二人はどうにか立ち上がるとどちらからともなく握手をする。その姿に、リュカオスは小さく微笑むのだった。 心配したのか、楊貴妃とロジャーがそれぞれの相棒へと歩み寄る。楊貴妃はリエの頬を舐めたり、頭をこすり付けたりして励ましているようだった。ロジャーはハーミットの前でちかちか目を光らせたりして勝利をたたえる。 そんな互いの相棒の姿に微笑むやら、苦笑するやらの2人だった。 (終)
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