それは、1月も終わりかけの、ごく穏やかな午後のこと。 バレンタインの足音が近づき、ターミナルはそこはかとなく浮き足だっている。ティリクティアと南雲マリアは、クリスタル・パレスでのんびりと、紅茶とスイーツを楽しんでいた。「美少女同士のティータイムね。なごむわ〜」 特に呼んでもいないのに、先般、昏睡から目覚めた無名の司書が、同じテーブルに割り込んで陣取り、ついでに、「ほらほら白雪ちゃん。こちらがティアたん。こちらがマリアたんよ。美少女トークにまぜてもらいなさい。自分から話しかけないと、友だちなんてできないものよ。ツンして待ってるだけじゃダメ」 と、鉄仮面の亡霊から解放された白雪姫を強引に連れて来て、座らせている。 しかし白雪姫は、むすーっとしたまま、「うるさいわね。殺すわよ?」などと、オニデレなことを言い、接客中のシオンとラファエルのほうを、ちらちら見ている。 彼らはそれぞれの指名客へ、不義理を詫びているところだった。「モフトピアでデートかぁ。行きたいんだけどごめんっ。せっかく誘ってくれたのにほんっとごめん。ここんとこバタバタしてて、当分難しそうなんだ。おわびに、今日はおれがおごるよ?」「このたびは壱番世界行きロストレイルに乗り遅れまして、大変申し訳ありませんでした。ニューヨークのバーへはぜひご一緒したいと思っておりますので、お見限りにならず、どうかまたのお誘いを」 その様子を見て、ティリクティアとマリアは顔を見合わせ、微笑む。「ふたりとも忙しそうね」「話せなくて寂しいの?」「そ、そんなわけないじゃない。つ、つきまとわれなくてせいせいするわ」「ふふ。バレンタインも近いことだし、チョコをあげてみたら? 特別な意味をもたせなくても、好意や感謝の気持ちを伝えられる、いい機会だと思うの」「そうね、手作りとかだったら、きっとふたりとも喜ぶんじゃないかな?」「……でも」 手作りチョコはおろか、料理全般にまったく縁のない白雪姫は口ごもる。「そんなの、よくわからない……」「話はすべて聞いたのにゃ! いっそ、料理教室開催をお願いすればいいのにゃ」 別のテーブルにいたヤン・ウルが、ひょこっと顔を出した。「料理教室?」「おいらが主催したときは、秋の味覚編がテーマだったのにゃ。メニューを考えたり材料を集めたり、すごく面白かったし、美味しかったのにゃ。おすすめなのにゃ!」 第一回目の料理教室の主催者であったヤンは、そのときのエピソードを生き生きと語る。ティリクティアとマリアは引きこまれ、目を輝かせた。「とっても楽しそうね。料理教室、私も主催してみたいわ」「どうせだからお菓子メインのデザート教室がいいんじゃない?」「てんちょー! 美少女ズとふわもこがご指名ですよー。かも〜ん!」 来客と話し込んでいるラファエルを、司書が呼ぶ。「……おや、料理教室のご希望ですか? それはうれしいですね」 ティリクティアの要請に、ラファエルは大きく頷いた。「では、テーマは『スイーツ全般』といたしましょうか。バレンタインも近いことですし、チョコレート菓子作りに特化したいかたは、対応させていただきます」+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-+:-+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+ ターミナルの皆様へ このたび、ティリクティアさま及び南雲マリアさまのお声掛けにより、 当店において、再び、料理教室を開催する運びとなりました。 講師は店長以下、各店員が適宜つとめさせていただきます。 第二回目は、「スイーツ全般」がテーマです。 バレンタインも近づいておりますし、 大切なかたへお渡しするチョコレートのご準備などにも ご活用いただければうれしく思います。 どうぞお誘いあわせのうえ、ご参加をお待ちしております。 クリスタル・パレス スタッフ一同 ☆追伸☆ 皆様のご参加、お待ちしてます。一緒に楽しみましょう! ティリクティア&南雲マリア+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-+:-+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-: ティリクティアは、アリッサの許可のもと、募集ポスターを図書館ホールに掲示した。 ――そして、 それを見たヴァージニア・劉が、シーアールシーゼロが、ソア・ヒタネが、黒葛小夜が、クリスタル・パレスに向かうことになったのだが。(どうせなら、凝った材料で作りたいよな〜) まだ、参加者は知らない。 シオンがドードーに交渉し、密林のチェンバーで、阿鼻叫喚チョコ作成材料を仕入れてきたことを……。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ティリクティア(curp9866)南雲マリア(cydb7578)ヤン(cefc6330)ヴァージニア・劉(csfr8065)シーアールシーゼロ(czzf6499)ソア・ヒタネ(cwed3922)黒葛小夜(cdub3071)=========
Recipe1◆聖ウァレンティヌスに捧ぐ もふっ。ほわっ。ほこっ。ふかっ。 ヤン・ウルがリュックを背負って現れるなり、そんな擬音が天上の音楽の如く店内に満ちる。 「にゃふふ。お久しぶりだにゃ、店長さん」 前回の料理教室主催者、ヤン・ウルの再びの来訪に、ラファエルは丁重に礼を取る。 「ようこそ、ヤンさま。いつぞやはありがとうございました」 「……!………♪ (★^▽^)V(訳:久しぶり。ブルーインブルーで食べた釣りたて焼きたてサンマ、最高だったね)」 ペンギン料理長が大歓迎の意を表し、両翼をぴょこりと広げた。 「元気だったかにゃ? 料理長も相変わらず寡黙な癒し系なのにゃ」 「……(*/∇\*)(訳:いやいやお恥ずかしい。ヤンさんこそ、相変わらず魅力的な毛並みで)」 「ヤンー! よく来たなモフらせろー! おれが一番乗りだー!」 身も蓋もない勢いでシオンが走りよってくる。 「どいてどいてシオンくん。いらっしゃーい、ヤンさーん!」 無名の司書がシオンを押しのけ、ヤンにぎゅむっと抱きつく。 「ん〜、ふかふか〜。今日は何作るの〜? ヤンさんはあたしが担当するー!」 「何をどう担当できるというのですかあなたが」 ラファエルは冷静に、ヤンから司書をぺりっとひっぺがした。 「料理長。ヤンさまの担当講師をお願いする」 「\(>▽<)/(訳:承りました)」 「こんにちは、ラファエル。きょうはよろしくね」 入口扉を元気に開けて、白金の髪の少女が笑顔で登場した。本日の主催者、ティリクティアは、大理石のテーブルに用意された本日の食材一覧の充実ぶりに、琥珀いろの瞳を活き活きと輝かせる。 「すごい。いろんなお菓子が作れそう」 そこには、壱番世界から取り寄せた選りすぐりのフルーツ各種、いちごにメロンにぶどうにびわに白桃に黄桃にいちじくにりんごにさくらんぼにオレンジに西洋梨にバナナにマンゴーにブルーベリーにクランベリー等がところ狭しと並べられ、最高級のクーベルチュールが、スイートチョコレート、ミルクチョコレート、ホワイトチョコレート、フレーバーチョコレートと、種類ごとに置かれていた。 厳選素材から少し離れたところに、いつかどこかで見たような摩訶不思議な果物、オレンジッポイノやラドンやバナナカモシレナイやジンメントウやゴールデンラグジュアリーやハニーレモンなどなどがカゴに盛られていたが……、あまり気にしないことにする。 ジークフリートが、すかさず歩み寄り、売り込みをかける。 「ようこそ巫女姫。前々からお近づきになれればと思っていたよ。俺が講師でも許されるかい?」 「ふふ。もちろんよジークフリート。ジークでいいかしら? 私のことはティアって呼んでね」 ティリクティアはにこにこと頷いた。 「光栄の至り。ところで今日作るチョコは、誰に、真っ先にあげるつもりのかな?」 「えっ」 ちょっと動揺したティリクティアに、ジークフリートは、わかってる、と、目を細める。 「これ以上は聞かないことにするよ。ティアからチョコをもらえる男が、どんなにうらやましくてもね」 「ち、違うのよ。そ、そんなんじゃないんだからッ! ぜんぜんそんなこと思ってないのよ!」 実は、お父さん的存在の、キアラン・A・ウィシャートに食べてほしいわ、とか思ってるティアたんだった。キアランさんがらみのことを聞かれると、婚約者の王太子の話題になったときと同様に、嬉し恥ずかしツンツンデレな態度になっちゃうのがティアたんクオリティだったりするのだ。 「くっ。憎い! 抜け駆けされた! ……ん?」」 ジェラシーに打ち震えていたシオンだったが、いつの間にか店内にいたシーアールシーゼロに気づくやいなや、猛ダッシュした。 「ゼーローーーー! 待ってたぞー! ……おわっ?」 が、さりげなくラファエルが足払いをかけたため、よろよろっと動きが鈍る。 「いらっしゃいませ。ゼロさまは、講師のご希望などはおありですか?」 にこやかに応対するラファエルを、ゼロは見上げる。 「ラファエルさんにお願いするのですー」 「これはこれは。ご指名ありがとうございます」 「店長ひでぇ。おれのゼロを」 「店長ひどい。あたしのゼロたんを」 やはりジェラシーに満ち満ちた目で、料理長とジークフリートとラファエルをじとっと眺めていた無名の司書は、しかしすぐに、きらーんと光った。 ソア・ヒタネと南雲マリアと黒葛小夜が、次々に現れたのである。 「ソアたーん。マリアたーん。小夜たーん。いらっしゃーい! さあ今こそお姉さんにすべてをまかせて、ててててて、きゃああああー!」 「ソアぁぁぁー! マリアぁぁぁー! 小夜ぉぉぉーー! まかせてくれお兄さんが手取り足取りいろいろ教えて、ててててて、うわあああああーー!」 突進したふたりは、しかし彼女らのもとに行き着くまえに、見えない障害物につまづき、激痛とともにすっころんだ。 「落ち着きなさい。見苦しいったら」 白雪姫が魔法で出現させた「透明なタンスの角」に足をぶつけたのである。 「……大丈夫ですか?」 床に突っ伏したシオンに、ソアが声をかける。 「わたし、張り紙に書かれてた『すいーつ』という料理を作りたいんですが……。これは素晴らしい果物ですね……!」 妖しいフルーツを手にとり、ひとしきり感嘆の声を上げる。ソアは和菓子ならば経験があるが洋菓子を作るのは初めてだという。もっと色々な料理が作れるようになりたくて、ここにやってきたのだった。バレンタインのことは、よくわかっていない。 「ですので、すいーつに強いかたがおられましたら」 「そらもう強いですクリスタル・パレスのシェフパティシエです本当です自己申告だけど」 がばっと起き上がるなり、シオンはソアの手を握りしめる。 マリアはといえば動じずに、 「この果物、ドードーさんが持って来てくれたの? 新鮮で珍しくて楽しそう!」 と、トンデモ果物コーナーに、すでに心を奪われている。 「今日は、チャレンジチョコと友チョコと本命チョコの三種類作りたいんだけど、シオンさん、講師お願いできる?」 「まかせろ! ってかマリア、さらっとチャレンジとか本命とか口走るのが漢らしいな!」 「あ」 さすがに口には出さないが、マリアたんは本命チョコを瀬崎耀司さんにあげるつもりだった。 好きというか素敵な人と思っているというか本命チョコを渡すとして真っ先に思いついた相手だというかまだ好きだとか明確に自覚しているわけではないけどマリアたん本人が気付いていないだけでほのかに恋心は抱いていたりなんかしてでも向こうからしたらいきなり手作りとか迷惑かなでも明るいノリで渡せば普通に受け取ってくれるかなでも甘いもの嫌いだったらどうしようモダモダ。 「それはともかく思い切ってフォンダンショコラ作ろうと思うの」 「なにがどうそれはともかくかはわからんが、ニュアンスは伝わったぞ」 マリアの手も、ソアの手に重ねるように握られた。 「……あの」 人見知りな小夜は、店内に入ったあとも、ずっともじもじしていた。それでも、顔なじみの無名の司書を見て、ほっと安心した表情になる。 「……こんにちは」 「久しぶりね小夜たん! 小柄な身体に古風なカントリードレス+アンバランスな男性用ジャケットが、相変わらず萌えツボ狙い撃ちで眼福眼福」 「おっさんくせえぞ姉さん」 「起きられて、無事で、よかった」 言葉少なに小夜は、例の昏睡事件のすぐ後に鉄仮面の事件が起こり、心配していたことを伝える。 「ああーん、小夜たーん。あのときはありがとう!」 抱きつこうとした司書を、今度はシオンが押しのける。これならいいだろ、と、ソアとマリアの手のうえに、小夜の手を取って重ねた。 「小夜は、誰にチョコをあげるのかな?」 「……お兄ちゃんに」 お兄ちゃんが大好きな小夜たん曰く、せっかくのバレンタインなのだから手作りしたい→あげる本人のお兄ちゃんに手伝ってもらうのはなんだか悪い→でも凝ったチョコレート菓子は一人だと不安→お料理教室のポスターを見た→女のひとも多そうで安心かな→参加決定、という流れであったらしい。 「お兄ちゃん爆発しろ、いやなんでもない。小夜もおれが担当でいいかないいよなよし決定」 * (しくじった) ヴァージニア・劉は、先ほどから、帰る言い訳を考え続けていた。 (っったく。スタンがバレンタインにスイーツよこせってうるせーから) 渋々出向いてはみたものの、スイ〜トな香りとほのぼのな情景と、参加者たちの愛らしさに場違い感MAXである。 とりあえず一服しようと煙草を取り出しかけたところ。 「こんにちはぁ。ヴァージニアさん。喫煙家のかたには申し訳ないんですが、本日は終日禁煙にてお願いしますねぇ♪」 やや舌足らずの、甘い南国フルーツのような声が掛けられた。 「あんたは?」 「ハツネ・サリヴァンでぇす♪ 今日は私が担当講師になります〜」 同居人よりは少し年上だろうか。あさぎ色の巻き毛を縦ロールのツインテールにし、白レースのリボンを結んだ少女が前屈みで小首を傾げている。可愛らしいゴスロリミニにアレンジしたギャルソンヌ服から伸びたすんなりした脚と、豊かな胸元をいっそう強調するフリルいっぱいのレースのエプロンが、目のやり場に困る。 劉はじりりと後ずさりした。 半径1メートルほどの距離を取ってから、メモとペンを取り出し、走り書きをする。 『さっさと作ってさっさと帰りたい』 突き出されたメモを見たハツネは、何かに納得したようで、 「ふんふん。ふふんふん? なっるほどぉ〜〜?」 口調と声のトーンをがらりと変え、いったん厨房に引っ込んだのだが。 戻って来たときには、レースのエプロンは白の割烹着に変わっていた。 「これでいいかしらねヴァっくん」 「……ヴァっくん………!?」 「あなたには『おかんモード』で対応させていただきます」 (うわぁ……。帰りてぇ……) Recipe2◆恋と義理と人情と 「よーし。では、本日の講師と生徒の組み合わせを発表しまーす」 ちゃっかり仕切り始めたシオンは、ホワイトボードに殴り書きをした。 【第2回:料理教室ペア表】 ・料理長×ヤン ・ジークさん×ティア ・店長×ゼロ ・おれ×ソア ・おれ×マリア ・おれ×小夜 ・ハツネ×ヴァっくん 「では各ペア、まったりと楽しく、スイーツ作成に励んでください。はじめー!」 * ◇料理長×ヤン→ 「( ^^)/\(^^ )(訳:いろいろツッコミどころは多いが、シオンのことは気にせず、のんびりやろう。今日はどんなチョコにしようか?」 「あそこにある珍しい果物を使いたいにゃよ! 0世界リア充増加計画のために邁進するのにゃ」 【使用材料と完成品】 *『恋してチョコ』(「好きなひとに目の前で食べて貰ってね★」の注意書きつきで販売予定) ゴールデンラグジュアリー+ハニーレモンとオレンジッポイノを使用。フルーツはそれぞれジャムにする。ケーキ台を焼き、ジャムを挟む。全体をチョコレートでコーテングする。見た目はごくシンプルなプチチョコケーキが完成。効能は「熱烈に恋+褒め称え+感動」。 なお、ひえりんのスライスを乗せた『恋してチョコ ツンデレVer』は、上記効果に加え、言動が冷たくなる。 ◇ジーク×ティア→ 「キアランはあまり甘いものが好きではないみたい。甘さ控えめのチョコレートケーキがいいと思うの」 「なるほど、ほろ苦い仕上がりにしようか。彼は何が好きなのかな?」 「コーヒーが好きで、よく飲んでるの。あとね、皆に友チョコも作りたいわ」 「巫女姫におかれては、なんというご配慮」 「手軽に皆が食べられて、色々な味が楽しめるものがいいわね。ちょっぴりイタズラして、おみくじ効果付きのお菓子とかどうかしら?」 「それは楽しそうだね」 【使用材料と完成品】 *本命チョコ ほろ苦いオレンジを使用し、コーヒーリキュールで香り付けした特製ガトーショコラ。一所懸命作ったので、店だしできそうな仕上がりに。なお、特殊効果はありません。よかったねキアランさん! *友チョコ 妖しいフルーツを全部使ったポッキータイプのチョコ。大凶から大吉まで、特殊効果はランダム。これぞ運試し。 ◇ラファエル×ゼロ→ 「ゼロはドールハウスを作るのです」 「お菓子の家ですか。素敵ですね」 「それと、バレンタインは『義理チョコ』というチョコを大量配布する祝日だと聞いたのですー」 「だいたい合っております」 【使用材料と完成品】 *ゼロ的お菓子の家 妖しいフルーツを全部使用。ジューサーでペースト状にし、ついでにアニモフ化ジュースも加えて混ぜ込み、様々な色のクリームを作成し、カラフルに塗装。壁、柱、床、屋根などメインはウエハース。窓ガラスは飴製。なお、ウエハース他は、ゼロたんのご指示のもとラファエルが焼かせていただきました。ちなみに効能は 超 カ オ ス。 *ゼロ的義理チョコ チョコ製の表札。勘亭流で『義理』と彫りこまれている。裏には『人情』と書いてある。 効能は……、ゼロたんの義理チョコというレア感てんこもり。 ◇シオン×ソア 「そういやソアは、誰のために作るんだ?」 「カウベルさんに食べて貰いたいです……」 「なんだとカウベル爆発しやがれ」 「それから、博物屋さんとか、お世話になっているチェンバーの皆さんとか……。あの人とか」 「あの人って?」 「サキさん……」 「なんだと博物屋もサキもまとめて爆発しやがれ」 「でも、初めてで不安だから、もっと自分でも練習して、少しでも上手くなってからにします。だから今日は、ここにいる皆さんに食べていただければって」 「いーいーこーだーなーソアは」 「果物をたくさん使ったちょこすいーつに挑戦したいんですけど、てんぱ……りんぐ? って、難しいですか?」 【使用材料と完成品】 *新鮮フルーツのチョコタルト 妖しいフルーツ全使用。ソアたんがメモ取りながら頑張ったので味はばつぐん。ただし、効能は阿鼻叫喚。 ◇シオン×マリア→ 「さてと。本命にはフォンダンショコラだったな」 「昔、ママから聞いた、お呪い? にチャレンジしたいの」 「はいぃ?」 「“星降る晩の鏡の前でワインと涙とロバの血をガラスの小瓶で混ぜ合わせ十字を切って振りまくと願いが叶う”んですって」 「……マリアさま。ワインはともかく、涙とロバの血の在庫がありません。用意できたとして、それを食材に混入するのは如何なものでしょうか」 「ワインはブルーベリージュース、涙は水、ロバの血はトマトジュースで代用しようと思うの」 「ほっ。マリアが常識人で良かった」 「友チョコは、仲良くしてくれている皆に食べてほしいな。ここにいるひとたち、みんなにも」 「『ここにいるひと』の中におれも入ってますか?」 「もちろんそうよ?」 「マリアさま! ついていきますどこまでも!」 【使用材料と完成品】 *本命チョコ 一見普通のフォンダンショコラ。し か し 「わんこ化」の特殊効果あり。犬種はランダム。 *友チョコ&トンデモチャレンジチョコ シンプルなチョコスティックケーキ2種類。し か し 「わんこ化」の特殊効果あり。犬種はランダム。 本命も友ももろともに。 ◇シオン×小夜→ 「小夜は、どんなスイーツを作りたい?」 「……ガトーショコラ。難しそうだけど、とっても美味しそうで」 「よしわかった」 「ケーキだから、みんなでわけて食べれるし」 「みんな?」 「お兄ちゃんの他にも、あげたいひとたちがいて……」 「なんだと!?」 「お兄ちゃんと、事務所の先生と、写真家の先生と……。写真家の先生とよく一緒にいるお友達にもついでに。あと、アリッサと無名の司書さんにも」 「なんだとぉ!? 全員爆発しやがれ。……ところで『写真家の先生とそのお友達』って、『ゆ』とか『む』とかついたりしないだろうな?」 「知ってるの?」 「無名の姉さんから聞いてて、一方的にな。なんであいつらが幼女モテすんだよ信じらんねぇ」 【使用材料と完成品】 *完熟バナナ入りガトーショコラ オーソドックスなガトーショコラにバナナの甘味がアクセントの、ビターなオトナの味わい。 小夜たんに悪気はないのだが、実はこのバナナ、妖しいフルーツでございました。効能は、食べてしばらくしたのち、三日ぐらいは、しょっぱいものが酸っぱく、辛いものが甘くなる反転作用がございます。 ◇ハツネ×ヴァージニア→ 「で、何作りたい? 何でもいいなさい教えてあげるから」 「あー、簡単なのでいいか。クレープなら焼くだけだし、アレなら俺にもできるだろ」 「クレープね。わかったわ」 「ぶっちゃけ、甘いモノ苦手なんだ。女の子は甘いお菓子が好きでしょって、母さんがオーブンで焼いたケーキを毎日のように食わされたし……。後で吐いたけどな」 「まあ……」 「……胸焼けがぶり返してきた。ギブ。ちょっと休憩したい。一服させてくれ」 「店内は禁煙よ。煙草は裏口から出て吸ってね」 (なんで来ちまったんだ俺) 楽しげな各ペアの様子を横目に、劉は裏口扉に背を持たせかけ、煙草をふかす。 (似合わねーことするもんじゃねえな。仲良しごっこって性にあわねーんだよな。尻がかゆくなる) だりーしうぜーし。 もーフケて帰っちまおうかな。 ――それでも結局、劉は戻って来た。 さすがに、講師に悪い、と思ったのと、バレたら同居人に怒られるから、というのもある。 「貸してみろ」 隣のテーブルで、小夜とシオンが、香り付け用ラム酒の瓶のふたが開かず難儀していたので、手伝ってやった。 「……ありがと……」 小夜が、おずおずと礼を言う。 「少しは役に立たなきゃ男手の意味ねーだろ」 「がーん」 男手の意味のないシオンが、がっくりと肩を落とした。 「あら。思ったよりいい手つき」 クレープを焼く手際を、ハツネが褒める。 「覚醒前はジャンクフードとデリカッセンで済ませてたけど、スタンがうるさくてな。注文の多い居候のせいで、少しだけ自炊を覚えたんだ」 「うんうん、料理できる男子はポイント高いのよ」 「咥え煙草で料理すると蹴られっけどな」 「それはそうよ」 「いいじゃねえか。灰が零れたのは俺が食べるし」 「そう……。ホントは優しい男の子なのね、ヴァっくんは」 「年上を男の子呼ばわりすんじゃねぇよ」 【使用材料と完成品】 *オレンジッポイノとジンメントウのスペシャルクレープ 一見したところ、オサレなクレープ。効能は、胸の動悸が大きくなったり……、なんか右目が疼きだしたりして……ううっ!?(その後、3万文字程度の伝奇ファンタジーが繰り広げられた) Recipe3◆愛すべき隣人へ 白雪姫は、ひとり黙々とチョコ作成をしていた。 「順調ですか? お互い頑張りましょう」 いかにも初心者的なものを感じ取り、ソアが声をかける。 「あ、うん……、そうね」 話しかけられて、白雪姫は少し、照れくさそうにした。 「チョコは、刻んでからのほうが溶かしやすいですよ」 そこからか! という世界に、ティリクティアも思わず、口と手を出す。 「そのまま火にかけちゃだめよ。チョコは湯煎して溶かすの」 やはり、そこからか! な世界である。 「申し訳ありません、白雪さんがご迷惑を」 「すまん、面倒かけて」 「ラファエルとシオンはこっち来ちゃだめ! 白雪に自分でやらせてあげて」 ティリクティアは乙女の気持ちを守るべく、威嚇した。 「ラドンを入れたらどうかにゃ?」 ヤンが進言する。 「ラドン……?」 「見るものすべてが面白くてたまらなく感じるようになる効果があるらしいにゃ」 頷いて、フルーツを刻みはじめた白雪姫に、ヤンは可愛らしいラッピングセットを渡す。店から持ち出したものだが、広報としての効果があるので、先ほどから各テーブルにも大盤振る舞いしていたのだった。 「完成したら、これを使うといいにゃ」 「ありがと、う」 面映そうに、白雪姫は言う。 「はじめましてなのです。ゼロはゼロなのですー」 いつの間にか、ゼロも白雪姫のそばにいた。 「白雪姫さんとシオンさんは相思相愛なのです? それともラファエルさんなのです?」 「あのふたりは両方ともろくでなしよ」 究極のツンのような案外本質を突いているような、返答が返ってきた。 「リンゴ型のチョコを作りたい……、の?」 白雪姫の手順をじっと見ていた小夜が、ぽつりと言った。 「ええ」 「型取りしたら、どうかな? 本物のリンゴ、あるし……」 白雪姫ははっとして、素材コーナーを見やる。 「そのとおりだわ! ありがとう」 礼を言われ、小夜はにこりと微笑む。 「本物を使うのも良いですが、これをリンゴ型にしてチョコでコーティングするという手もあるのです。あっという間なのですー」 ゼロは謎の団子を進呈した。 これはゼロたん的な食物のイメージでナレッジキューブを変成させた何かなのでパーティーグッズ兼完全栄養食品ちゅうかロボットとか魔法生物を含む全ての存在に必要なエネルギーの供給を可能にするブツっちゅうかゼロたんが飲食不要の至高の存在ゆえその味はゲロマズ~天上の美味までランダムになるっちゅうか誰が食べるのコレ。ああ、シオンとラファエルか。じゃあ問題ないね。 Recipe4◆究極の義理チョコ 「義理チョコなんて、珍しいわね。誰にあげるの?」 108個の本命チョコを作ってから、腕まくりをして、ひときわ巨大なチョコをふたつ作成中の無名の司書に、ティリクティアが問う。 「ああこれ? 小夜たんと同じよ〜。ティアたんも知ってる『む』のつく音楽家さんと『ゆ』のつく写真家さんにあげようと思って」 「……そうなの、あのふたりに……。あのふたりにね……。ふぅん……」 「どしたのティアたん。今、黒ティアたんになったような気がしたけど!?」 「私も手伝ってもいいかしら? あのふたりには、とてもお世話になったものだから」 かつての、告解室での出来事を思い出し、ティリクティアは、笑顔を崩さずに申し出る。 それは、ささやかな報復。 いくつかのフルーツを組み合わせ、無名の司書の義理チョコに特殊効果を付加する。 それは、ごくささやかな秘密をひとつ、誰かに話してしまいたくなる、というもので―― * んで。 その後、各ペアのチョコが提供され、試食会が行われたわけだが……(以下1万字省略)。 ゼロたんのお菓子の家は、巨大化して実物大状態でクリパレに寄贈されため、参加者やスタッフはもちろん、貸し切りとは知らずにうっかり訪れてしまった一般のお客様をも巻き込んで美味しくいただk(以下5万字省略) ――Fin.
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