「おかしぱぁてぃ?」 アルウィン・ランズウィックの耳が御菓子という単語にぴこんと動く。大きな瞳は今にも零れ落ちそうなほど丸まってじぃと依頼書を見つめる。 依頼書を差し出した黒猫にゃんこ――現在は黒猫の顔に十代の女の子の肉体を持つ乙女・まりあである。「そうなの! モフトピアの島の一つなんだけどね。そこはちょっとあたたかくなると真っ白い雲の海が出来るの。そこにね、御菓子が泳いでくるの」「おかしが?」「そうよ! あたたかくなると、優しい風が吹いて島にある御菓子の成る樹から出来立ての御菓子がぽろぽろと落ちるんですって。それが雲海のなかをお魚みたいに泳いでいるの。アップルパイやチョコバナナとかドーナツがね! そうなると漁のはじまりで、みんな釣竿や素手で御菓子をとるのよ。御菓子の大きさや獲れた数を競う大会もしているそうよ。それに参加するのもいいかもね!それが終わると昼間はみんなで獲った御菓子を持ち寄ってパーティーするのよ。雲海をコップに汲んで飲むとね、とっても不思議なことに、いろんな飲み物になるんですって! どんな味になるか飲んでみると面白いかも」 説明が進むとアルウィンの目はきらきらと宝石のように、いいや、夜空に浮かぶ一番星のように期待に輝く。「夜はね、みんなでダンスしたり、歌ったりするの。けどメインは、お月様ね。月光を浴びながら大好きな人に贈り物をするとね、自分のこめた願いがその人に届くんですって! あと雲海に浮かんだお月様にね、浜辺でとれたきれいな石を一個投げるのよ。それが月の真ん中に落ちるとお願いがかなうそうよ。素敵でしょ? その島は基本的に羊のアニモフさんがいるんだけど、そのお祭りのためにいろんな島からいろんなアニモフさんたちがくるの。珍しいアニモフさんもいるかもしれないわね!ぜひ調べてほしいんだけど……あと一人調査する人がほしいわね」「いるぞ! アルウィンがつれてくるぞ!」 御菓子にパーティという単語にわくわくしていたアルウィンは大きな声で答えると、ノートを取り出して、すぐに友人に連絡をいれた。「モフトピアでパーティー? 素敵ね!」 アルウィンに誘われて、依頼内容を聞いたティリクティアは頬を薔薇色に染め、期待ににこにこと笑う。「ぜひ一緒に行くわ! 素敵な依頼に誘ってくれてありがとう!」「おう! 一緒にいくぞ! ティア!」 アルウィンの尻尾が嬉しそうにふわふわと揺れる。「ふふ。じゃあ、二人ともよろしくね。はい、チケット!」=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>アルウィン・ランズウィック(ccnt8867)ティリクティア(curp9866)=========
「空がきれいね、アルウィン!」 「そうだな!」 ロストレイルが停車するとまるであたたかな風が吹くようなふんわりとした足取りでティリクティアが先に降りたち、その横に放たれた矢のようなスピードでアルウィン・ランズウィックが駆け寄る。 二人は小さな手をしっかりと握りしめて顔を見合わせると、笑顔で駆けていく。 「すごいわぁ! 本当に雲の海なのね!」 真っ白い雲が集まって出来た海のなかを御菓子たちがぴょんぴょん跳ね飛び、気持ちよさそうに泳いでいる光景にティリクティアは目を輝かせる。 周りの岸辺ではくまや羊、猿といったアニモフたちがそれぞれ場所をわけあって釣竿をたらして御菓子たちを釣り上げている。 岸の端っこでは「御菓子釣りの道具御貸しまーす」と屋台が店。 砂浜のあっちこっちでパラソルを広げて獲れたての御菓子を食べたり、ジュースを飲んで寛いでいるアニモフたちもいる。 「大会があるのよね? ぜひ参加しなくっちゃ! アルウィンもライバルよ」 「ふらいぱん?」 「ら・い・ば・る! どっちがいっぱい御菓子を釣れるか競争よ!」 負けず嫌いなティリクティアは勝負事に俄然やる気だ。 アルウィンもすぐに事情を呑み込むと拳をぐっと握りしめた。騎士たるもの、挑まれれば逃げたりしないのだ。 「よーし、やるぞ!」 「ふふ、負けないんだから! 私は釣竿を借りてくるけど、アルウィンもいる?」 「アルウィンも挑戦するぞ! 釣りははじめてだ!」 「私も初心者よ。二人で一緒にがんばりましょう」 「おー!」 二人は早速、屋台に行くと、そこでパイプをぷかぷかしている年取ったクマのアニモフにお願いして竹に紐をつけた釣竿を貸してもらった。 「よーし、いくぞー!」 アルウィンは勢いよく駆けていくのをティリクティアは微笑ましげに見つめる。 「アルウィンったら、御菓子を釣る餌はもってるのかしら……私は一応、持ってきたけど、これで釣れるかしら? ねぇ、くまのおじさん、これ、使えるかしら?」 ティリクティアがポケットから差し出したのは今朝咲いたばかりの蒲公英の花びらと淡い紫色の朝顔の花びらとてれたての種、それに幸福を司るアクアマリン、カイヤナイトといった石だ。 クマのアニモフはほぉと感嘆の声を漏らした。 「じゅうぶんもふ。御菓子はきれいなものやうつくしいものが好きもふ。きっといい御菓子がつれるもふ」 「本当! よかったわ! 私、絶対に御菓子をとる大会で優勝してみせるから!」 「がんばるもふ」 「ありがとう。もし素敵な御菓子が釣れたらおっそわけするわ! 期待していてね」 クマのアニモフからお墨付きをもらいティリクティアはにこにこと嬉しげに笑う。それに年取ったクマのアニモフはせっかくだからと、穴場まで教えてくれた。 穴場は実は店の裏手で、ここには大物が多いのだという。 「やるわよ!」 さっそく、花びらとアクアマリンをしっかりと紐にくくりつけてティリクティアはえいっ! 元気よく釣竿をたらした。 一方、飛び出していたアルウィンは―― 「お、あっちではねた! あ、つぎはあっち!」 海のなかをすいすいと泳ぐ御菓子の影に声をあげ、飛び跳ねるのを見るたびに自らも飛び跳ねてしまい、一分もじっとしていられなかった。 釣竿を地面に転がして尻尾をぱたぱた。四つん這いで水面をじぃいいときらきらとした目で見つめていた。 その前をひらひらと御菓子が優雅に泳いでいくのに 「えい!」 もにゅん。 「!」 素手で捕まれるかもしれないと、海のなかに手を突っ込んで不思議な感触がしてアルウィンは目をぱちぱちさせて手をひっこめた。 もう一度試しに手を水面に触れさせると もにゅ 良く冷やしたゼリーみたいな弾力を力いっぱい押すと、ぷるんとアルウィンの手を包んだ。 「お、おおおー!」 感動にアルウィンは尻尾と耳の毛がぶわわぁと静電気が走ったようにぴーんと伸びる。 「ぷりんだぁ!」 昨日のおやつはぷりんだった。淡い黄色のそれをスプーンでつついたら、ちょうどこんな感触がした。 アルウィンの顔ににぃとたくらみの笑顔が広がる。 すぐにきょろきょろと周囲を見てちょうど草むらがあったのにそのなかに飛び込んだ。 数分後。 髪の毛をしっかりと黒い水泳キャップにいれ、耳には耳栓。ピンクに緑、赤、黄色の四葉のクローバーの絵柄をちりばめたワンピースタイプの水着を身に着けたアルウィンが草むらから飛び出した。 ちなみに水着は海水浴に行くと勘違いした家族が事前に用意しておいてくれたものだ。 「いくぞ!」 きりっとした顔でアルウィンは海のなかに飛び込もうとして、ぴたっと動きをとめた。 「じゅんびたいそーもわすれないぞ! 騎士はやることはやるんだぞ」 どれだけ気持ちが逸っても、やるべきこちはきちんとやるアルウィンであった。 「えーい!」 竿がひっぱられたのにティリクティアは力をこめてひっぱる。 ぴょーんとあがる紐の先にはチョコバナナ。海からあがってぴちぴちと跳ねる生きの良さにティリクティアは笑顔を浮かべる。 「ふふ。いっぱい捕まえたわ!」 ティリクティアの横にある小さな段ボールのなかには釣り上げたかぼちゃのパイ、クッキー、七色のキャンディ、ポップコーン、マフィン……すでに一個目がいっぱいになってしまいそうだ。 「これなら、勝てるかしら? あ」 ティリクティアが目を丸めて見つめる先――なんと十個の箱を積み上げている鮫のアニモフ。さらにクマのアニモフが素手でぽいぽいとピンクのイチゴケーキ、チョコケーキと大物をどんどん獲っているのを目撃してしまった。 「負けられないわね!」 ライバルが強ければ強いだけ燃えてしまう。 「けど、アルウィンったら、どこまでいっちゃったのかしら? あ!」 「ティア―!」 とととーと水着姿のアルウィンが駆け寄ってきたのにティリクティアは目を丸めた。 「まぁ、アルウィンったら、どうしたの、その姿」 「すもぐりだぞ! 直接とったほうがいっぱいとれる!」 「そうなの?」 「ティア、きょうりょくしないか?」 「協力?」 こくんとアルウィンは頷く。 「二人で大会、優勝だ」 「……そうね! せっかく二人できたんだもの! けど、私、水着をもってきていないんだけど」 「あ」 アルウィンが今更気が付いたように声をあげ、大きな瞳をぱちぱちさせたあと、意を決したようにとととーと走って向かったのは釣竿を貸してくれた店だ。 店番にアルウィンが一言、二言話すと、クマのアニモフは笑ってこくこくと頷いた。 ぱっとアルウィンは笑うと手をひらひらとふってティリクティアを呼んだ。 「釣竿もだけど、水着も貸してくれるのね!」 「聞いてみてよかったな!」 黄色の生地に袖のところに白い花がちりばめられた可愛らしいデザインの水着に着替えたティリクティアはにこにこと笑った。 その手には一緒に借りた網も握られている。 さっそく二人はアルウィンの狩場に訪れた。 「これが獲ったやつだ」 網でぐるりっと囲んで獲った御菓子たちを閉じ込めているのをアルウィンが見せるとティリクティアは目を輝かせて拍手した。 「いっぱい獲ったのね! すごいわ、アルウィン!」 「えへへ。はじめは、掴むのが大変だったけど、だんだん慣れてきたんだぞ」 褒められてアルウィンは照れ笑う。 「よーし、いくぞ! アルウィンが追いつめるから、網を頼むぞ」 「ええ。私が網を持っているわね」 すーはーと大きく息を吸い込んでアルウィンが水飛沫をあげて飛び込んだ。 透明色の水のなかはまるで、晴れ渡った空のよう。そのなかを御菓子たちがふわふわと気持ちよさそうに泳いでいるのにアルウィンは目を細めた。近くにやってきた小さいチョコパンはアルウィンをからかうように舞うので、指でつついて遊んでやる。 このまま楽しい御菓子たちの遊戯を見ていたい気持ちもあるが、待っててくれているティリクティアのためにもぐすぐすしていられない。アルウィンは御菓子たちの後ろにまわりこむと、くわぁ! 牙を剥きだしに怖い顔をしてみせる。驚いた御菓子たちが慌てて逃げていくのにアルウィンは浮上した。 「いまだぁ!」 「えーい!」 ティリクティアが網を投げた。 ばちゃん、ばちゃん! 「やったわ! 大量ねって、きゃあ! アルウィン、はやくきて! すごい力で、海のなかにひっぱられてるっ!」 「今いくぞ! 少しだけがんばれ、ティア!」 網にかかった御菓子たちが元気よく跳ねるのにティリクティアは引きずられてこけそうになるのを足に力をこめて踏ん張る。 アルウィンは陸にあがるとティリクティアの後ろに回り込んで、腰に両腕をまわす。 「うんとこしょ!」 「どっこいしょ!」 気合いと息を合わせてひっぱるが大量の御菓子たちも必死に抵抗に二人はずるずるとひっぱられる。 「大変もふ」 「手伝うもふ!」 周りで釣りをしていたアニモフたちは気が付いて加勢を買って出た。 「あとすこしよー!」 「よーし、みんな、いまだぁ! どっこいしょー!」 ばざぁん! 大量の御菓子を陸に打ち上げた歓びにティリクティアとアルウィンは両手を合わせて飛び跳ね、周りにいる協力してくれたアニモフたちに感謝の笑顔を送った。 「今日の大会は、このふたりさんの優勝もふね!」 大会の主催者であるヤギのアニモフは網にかかった大量の御菓子を見てにこにこと笑うと二人に花冠と「優勝」という襷をかけた。 「二人で優勝ね!」 「おう!」 「そろそろパーティーの準備もふ!」 アルウィンとティリクティアが提供した大量の御菓子にアニモフたちはいそいそと椅子、テーブル、白いテーブルクロス、汲んできたジュース、お皿と並べ始める。騎士見習いのアルウィンは当然のようにお手伝いを買って出た。 準備を整えながらアルウィンはティリクティアがいないのに不思議そうに周りを見た。 「ティア? あっ、ティア、どうした!」 浜辺できょろきょろとなにかを探しているティリクティアにアルウィンは歩み寄った。 「もう、パーティーがはじまるぞ!」 「そうなの? じゃあ、着替えなくっちゃね!」 「おう! なにかさがしていたのか? アルウィンも手伝うぞ」 「もう見つけたからいいの」 「なんだ? なにを探していたんだ? ティア」 「そのうちわかるわ!」 お澄まし顔でティリクティアは歩いていく。その両手には浜辺で見つけた水晶のような澄んだ白色の石と蜂蜜色の石が握られていたが、不思議そうな顔で追いかけるアルウィンには幸いにも気が付かれることはなかった。 二人が着替えると茜色だった空は紺碧に覆われ、柔らかな光を放つ大きな満月と銀砂を撒いたような星々が輝いていた。 テーブルに囲まれるようにして大きなキャンプファイヤーがめらめらと燃えている。 アニモフたちは二人を大会の優勝者が座れる特別席――一番前に座らせた。 「今日の優勝者からありがたーいおことばといっしょに、かんぱいの声をもらうもふ!」 「お、おことば? え、えーと、あ、アルウィンは、ティアとみんながいてくれてとれたんだ! みんなのおかげだぞ! 感謝のビー玉を配るぞ! とりにきてくれ!」 「私もアルウィンと一緒にでみんなのおかげだと思うわ! 今度は釣りでいっぱい獲りたいわ! かんぱーい」 上がってがちがちのアルウィンにティリクティアが笑って音頭をとる。 「かんぱーい!」 アニモフたちが一斉に声をあげ、コップをあわせてパーティーのはじまりだ。 「ソーダ味だわ!」 「アルウィンはメロン味だ!」 雲の海の近くで汲んできた不思議なジュースに二人は声をあげた。 優勝者には大きないちごの載ったふわふわのクリームケーキを食べる特権が与えられる。二人は自分の顔くらいの大きないちごケーキ、マフィン、チョコを堪能した。 御菓子を食べて数分後、アニモフの音楽隊が奏でる陽気な音楽が流れてそれにアニモフたちが踊りだしたのにアルウィンはすぐに立ち上がった。 「アルウィンも踊るぞ」 小さな狼へと変わって、楽しいダンスのなかに突っ込んでいく。 小さな狼はクマや羊のアニモフたちのなかに紛れてぴょんぴょんと飛んでいたが、気が付くと人の姿に戻って両手を広げ、アニモフたちと手をとって踊っている。 その姿にティクリティアは零れるような笑顔を浮かべて椅子から立ち上がった。 「私も!」 踊る輪に入れずにもじもじしているアヒルのアニモフの手をティリクティアは優しくとった。 「楽しく踊りましょう!」 「けど、ぼく、ダンス、下手だから」 「ダンスはね、楽しんだ者勝ちなのよ! 私が教えてあげる」 ダンスは得意なティリクティアはアヒルのアニモフの手を優しくとると輪のなかにはいり、身体を揺らす。 優しく、海の満ちては引く波のように。ひらりとスカートが揺れる。長い金色の髪は炎と星の光に照らされて、ステップを踏むたびに淡い光の軌跡を作る。 「楽しいもふ!」 「ふふ! 私もよ! アルウィンはもっと楽しそう!」 おいしいおいしいおかしさん おさかなみたいにおよいでる くものうみ ふわふわふわふ ひらひらひら きもちよさそう! きれいなきれいなおつきさま にこにこえがお パーティーみまもってるよ きらきらきら るんるんるん やさしいね! アルウィンは今日のことを元気よく歌いだすのにティリクティアも唇を舌で一度舐めたあと、口を開いた。 元気な歌声に柔らかな歌声が重なって、波紋のように広がっていくのをアニモフたちは踊りながら聞き入った。 アルウィンは耳をぴくんと動かして、ティリクティアに駆け寄ると、その手をとる。 「踊ろう!」 「ええ!」 二人は元気よく歌いながら踊る。 雲の海のふわふわ。 優しいお月様のきらきら。 パーティーも終盤にさしかかると二人はこっそりと浜辺に訪れた。せっかくだからお月様にお願いをしようと思っていたのだ。 「石を見つけないとな」 「ふふ。アルウィン、これ」 ティリクティアが差し出したのは夕方に見つけておいた琥珀の石だ。それを受け取ったアルウィンは目をぱちぱちさせてぱっと笑顔になった。 「夜だと見つけづらいと思ったの」 「ありがとう。ティア! そうだ。プレゼント、これ」 アルウィンがおずおずと差し出したのは満月のような薄い銀の円盤、その中央に開いた穴に自分の狼毛を巻きつけて垂らしている。揺れるたびに、しゃらんと鈴のような澄んだ音がするペンダントだ。 「友達になってくれて、ありがとう。いっぱい話してくれてありがとう。いつも助けてもらってばかりだ。ティアのことアルウィンは大好きだ。だからもし困ったことがあったら守るぞ。騎士はお姫様を守るのは務めだ。けど、アルウィンはティアを友達として助けたい。一緒に笑っててほしい」 「アルウィン……ありがとう。私も大好きよ!」 ティリクティアはアルウィンに感謝をこめて抱擁すると、すぐに自分も用意したプレゼントを差し出した。 小さなオニキスには剣、ラピスラズリには薔薇の絵を彫った二つの石がついた、動き回るアルウィンがつけても容易く壊れないように銀で加工された丈夫なチェーンのペンダントだ。 「アルウィンが立派な騎士になれますようにって、祈りをこめたペンダントよ」 月明かりにきらきらと撫でられるなか、ティリクティアはアルウィンの首にそっとペンダントをつけると自分ももらったばかりのペンダントをつけた。 「ありがとう!」 「大切にするぞ!」 「うん! じゃあ、お願いをしましょう」 「おう!」 ティリクティアはクリスタルのように透明な白石を両手で握りしめると目を閉じ、故郷への変わらない帰還を願い、石を投じる。 強い思いは美しい円を作り、海に浮かぶ月の端に落ちる。 「お月様にあたったわ、お願い叶うかしら?」 「きっと叶うぞ! 次はアルウィンだ!」 アルウィンが願うのは大好きな人たちの笑顔。ティアが故郷に帰れること、家族が笑っていられること。自分も家に帰りたいと思うけど、今はそれ以上にみんなが幸せであることのほうが大切だから。 願いをこめた石は狙いどおりに中央に落ちる。 「やった」 「すごいわ、アルウィン!」 ティクリティアが嬉しげに笑うのにアルウィンも笑う。ほら、もうお願いがちょっとだけ叶った。 ターミナルに戻ると二人は司書室に訪れた。 「あら、二人とも楽しんだ? え、お土産?」 「そうだぞ。素敵な依頼を教えてくれたお礼だ」 「まりあちゃん、いつもお仕事ご苦労さま、甘いものを食べて少し休んでね?」 アルウィンとティリクティアは獲れた御菓子のなかでも日持ちするものを選んで持ち帰ったのだ。まりあには紅茶のクッキーだ。 まりあは感動のあまり二人を抱擁した。 「ありがとう二人とも!」 「じゃあ、次はアルウィンの家族ね! 私も一緒にいってもいいの?」 「もちろんだ! ティアのこともいっぱい紹介するぞ!」 「ふふ、アルウィンの家族に会えるなんて楽しみだわ!」 アルウィンは家族たちにもお土産を持ち帰っていた。いつも優しい作家と、甘いものになると目の色を変える子分、あとまぁ天敵のやつにも分けてやる。 お土産が出来たのは、大切な友達のティリクティアのおかげだと紹介するのだ。 アルウィンとティリクティアは笑顔でターミナルを歩き出す。 二人の胸では互いの幸せを願ったペンダントが空から落ちる光を受けて燦然と輝いていた。
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