クリエイター瀬島(wbec6581)
管理番号1209-25580 オファー日2013-09-18(水) 20:47

オファーPC シーアールシー ゼロ(czzf6499)ツーリスト 女 8歳 まどろむこと
ゲストPC1 ティリクティア(curp9866) ツーリスト 女 10歳 巫女姫

<ノベル>

 女の子って何でできてる?
 砂糖やスパイス
 すてきなことがら
 そんなものでできてるよ


__あら、それだけじゃなくってよ





 二人がけのソファ席、目の前のテーブルには紅茶が二つ、練乳アイスに砕いたチョコレートとキャラメルソースのたっぷりかかったバナナサンデー、舌休めのミルクサブレも忘れずに。ソファに並び合って座るゼロとティリクティアのおしゃべりは止まらないが、勿論バナナサンデーのアイスや淹れたての紅茶を放っておくような愚かな真似はしない。久しぶりに二人で過ごす時間、喋りたいことは湯水のように、いや、ティリクティアが以前訪れたアレのように次々と湧いてくる。

「ねえ、ゼロ。前にクリスタル・パレスでお菓子の家を作っていたわよね?」
「懐かしいのですー、あのドールハウスは我ながら傑作だったのです」
「あの日は楽しかったわね! そういえば私も、モフトピアでお菓子の家を見たことがあるのよ」
「ティリクティアさんのことですから、もちろん召し上がったのです?」
「当たり前じゃない!」

 曰く、ロストナンバーに覚醒しモフトピアに転移してしまった魔女のロストナンバーが、アニモフたちと仲良くなりたいが為に作り上げたお菓子の家があったそうだ。魔女のちょっとした失敗でお菓子の家が暴走してアニモフたちが閉じ込められてしまったため、彼女の保護に訪れたティリクティアたちが取った手段はそう、食べて食べて食べまくること。

「チョコレートの檻がね、どんなに壊してもすぐに修復されてしまうの。だから元通りになるより早く食べる必要があったのよ」
「おおー、まさに夢の食べ放題なのですー」

 まるで昨日のことのようにうっとりと目を細め、お菓子の家の素晴らしさ(?)を語るティリクティア。飲むこと、食べること、そしてそれに伴う栄養価や幸福感を必要としないゼロだったが、ティリクティアがあんまりに幸せそうな仕草でお菓子の家の思い出を語ることには強い興味を示したようだ。

「お菓子の話をするティリクティアさんは本当に幸せそうなのですー」
「あら、だってお菓子よ? 甘いものよ? 嗚呼、もう一度くらいあのお菓子の家みたいな依頼に行きたかったわ! 次は遠慮なく仕留めてみせるのに」

 ティリクティアがターミナルで過ごせる時間は、もうそんなに長くない。それを、ふたりとも知っていた。いつまでも無邪気に、甘いあれそれだけに囲まれてはいられない。ティリクティアにはティリクティアの役目が待っているし、ティリクティア自身もそれを望んでいる。別れ道はもう、すぐ目の前に迫っていた。

「でもそんな都合のいい依頼、無いわよね。ゼロにも見せたかったわ」
「すぐに修復してしまうお菓子の家の仕組みは非常に興味深いのですー。ゼロの能力では大きくすることだけなのです」
「えっ、お菓子も大きく出来るの?」

 空っぽになったバナナサンデーの器を下げてもらい、新しくケーキを頼もうか迷った瞬間ゼロの口から出た言葉に、ティリクティアの瞳がカッ! と開かれる。ハンター、いや、捕食者の目と称するのが相応しい眼力であったとは、その時器を下げた店員の証言である。

「トラベルギアの制限までならどこまでも巨大化することが可能なのですー。ですが例えば風船を膨らますように、大きくしたからといって大味になったり肌理が粗くなったりということもないのですー」

 さらに言えば、ゼロが持つ他者を絶対に傷つけられない特性のおかげで、どんなに巨大化したとしてもそれによってティリクティアが怪我をしたり、食べ過ぎて身体をおかしくしたりする心配も無い。ゼロがそのことを説明してみせると、ティリクティアの瞳は捕食者から恋する乙女のようにきらきらと輝き出す。

「ゼロたちがこうしてターミナルでお会い出来るのもあと少しなのです、お別れの記念にゼロから超巨大スイーツを贈らせていただきたいのです。お国に帰ったときのみやげ話にもうってつけなのです」
「それ、とっても素敵! いやだわ、何だか胸がどきどきしてきちゃった」
「では早速スイーツを買いに行くのです、善は急げなのです」





 百貨店ハローズのスイーツフロアに足を踏み入れた二人は、端から端まで店を見てお菓子を吟味する。巨大化させるのだから沢山でなくていいけれど、どうせなら少しずつ色んな物を食べたいのが甘いモノに対する正しい乙女の心構えというものだ。

「あのベリータルト、美味しそう! ホールで……あ、いえ、その六分の一カットを一切れいただける?」
「マカロンの詰め合わせがあるのですー、全部の種類を一つずつ詰めていただきたいのです」
「あら、バームクーヘンの量り売りなんてあるのね。ケースにあるだけ……じゃなくって、ええ、100グラムだけにするわ」
「まあ、綿菓子! これも買うわ、雲みたいに大きな綿菓子って憧れだったの」
「グランマ印の手作りチョコチップクッキー……これはゼロの能力に似た何かを感じるのです……」
「この間甘露丸が作っていたのと同じ匂いがするわね……? 挑んでみたいけれど、これはやめておきましょう」

 あれも食べたい、これも素敵、新商品だから買っちゃおう。そんな風にして、ふたりの買い物かごはどんどん重くなっていく。他にも板チョコ、シュークリーム、粗目糖たっぷりのバターパイ、甘さに慣れたら味覚をリセットする為のお煎餅や飲み物も忘れずに。結局、少しずつといいながらピクニックバスケットいっぱいに詰まったお菓子を手に、ゼロとティリクティアは意気揚々とハローズを出る。目指すはターミナル外壁の外だ。

「森の中でお茶会なのです、モフトピアちっくで素敵なのですー」
「ふふ、食べつくすわよ!」





 ターミナル外壁の向こうは世界樹が覆う一面の樹海。ここならゼロとお菓子がどんなに巨大化しても迷惑をかけることはあるまい。トラベルギアの制限めいっぱいまで巨大化したゼロはティリクティアとお菓子のかごを手のひらに乗せ、果てのない果てに向かう。かつてモフトピアで、お菓子の家を攻め食べる際に使ったサーブ用のような大きさのスプーンとフォークを手にしゼロの手のひらに立つティリクティア。フォークの先がターミナルの何もない空に一筋の光を反射しきらめく様はある種の神々しささえ纏っていた。

「でもこうやって、真剣に馬鹿げた遊びをする機会もそんなに無いのよね」
「そうなのです。ですから記念に、本当に最大のスイーツなのですー」
「ふふ、望むところよ! 異論なんかあるわけないわ」

 巨大化したゼロと、そのままのサイズでちんまりゼロの手に乗るティリクティア。二人のおしゃべりを阻むものは何故か無い。不条理ではあるが二人にとって不自然なことは無く、樹海の外れに向かって足を進めるごとに、二人がターミナルで過ごした時間は若上り、思い出話に次々と花が咲く。

「クリスタル・パレスでお菓子を作ったの、楽しかったわよね」
「楽しかったのですー、お呼ばれしてよかったのです」

 食べることに付随する幸せな感覚を、ゼロはまだ知らない。知らないけれど、ティリクティアの表情から幸福感は伝わってくる。

「広いところに出たのです、ここにするのです」
「ええ、ちょうどいいわね。じゃあゼロ、お願いするわ!」

 ゼロの小指の先にちょんと乗せたお菓子の籠が、ゼロの能力によってむくむくと巨大化してゆく。量り売り用に削り取られた小さなバームクーヘンや、シトロンクリームやピスタッシェ、ホワイトチョコソースを挟んだカラフルなマカロンたちもあっという間にターミナルの建物と見紛うばかりの大きさになり、ふたりの視界を圧倒した。

「腕が鳴るじゃない、私に食べ尽くせない甘味があると思って?」

 特大フォークでざくりとすくったマカロンを頬張れば、ゼロの言った通り質量や肌理は元のマカロンを維持したまま大きさだけが変わっているという不条理極まりないものになっている。それでいて味も元のまま、これだけ巨大化してしまうと一口程度では中のクリームに辿りつけないのではないかと思ったがそんな哀しいことにもなっていない。

「すごい、すごいわゼロ!」
「喜んでいただけて何よりなのですー、どんどん食べてほしいのです」

 ゼロの手のひらではしゃぎながらシトロンクリームのマカロンを次々と崩して食べるティリクティアにゼロも笑う。

「さあ、次はチョコレートを攻めるわよ!」
「ところでティリクティアさん、クリスタル・パレスで作っていらしたガトーショコラはどなたに差し上げたのです?」

 マカロンをぺろりと平らげた後は巨大化して石畳の道路にしか見えない板チョコに狙いを定める。欠片の一つ一つの大きさが既にティリクティアの身体と同じくらいのそれは、ゼロに割るのを手伝ってもらってやっと食べられるサイズになる。

「あ、あれはその、お世話になってるキアランにあげたのよ」
「なるほどなのですー、食べるものをあげるのは好意の証なのです」

 だからゼロは今日のこのひとときをティリクティアに提案したのだろうか。そこは言葉にせず、ゼロはいつの間にか半分近くに減っている板チョコをぱきぱきと割りながら、自分でもひとつつまんで口に運ぶ。

「(ふむふむ、舌触りがつるつるしていて、すぐに溶け出すこの感覚は甘みなのです。その後鼻孔に抜けるのがカカオ豆の香りで、後にほんの少し残るのが本来の、砂糖を入れる前の苦味と酸味なのです)」

 ゼロは口の中でやわやわと融けるチョコレートを分析するように味わう。手のひらの上ではティリクティアが同じものをうっとりと至福の表情で食べまくっているのを見て、なるほどティリクティアはこの感覚で幸福感を覚えているのだと理解が及んだ。
 この感じには、この言葉を当てはめると知っている。ただそれが美味しいかどうかはまだ知らない。だけど、同じものを食べてにこにこと笑っているティリクティアの姿からは好ましいものを感じる……よくよく考えれば、ゼロの手のひらに乗ったティリクティアがゼロと問題なく会話で意思疎通出来ていることも、超巨大化したスイーツに挑みあっさりと食べ尽くしてしまうことも不条理で仕方ないのだが、さっきも言ったとおり二人には何ら不自然なことではなかった。ターミナルの記念に超巨大スイーツを食べて食べて食べまくって、さっきの話の続きをしよう。お砂糖とスパイス、それからいくつかの素敵なものごとで出来ている女の子だからこそ、それが出来てしまうのだ。

「(そろそろあれの出番なのです)」

 巨大化させずにこっそり隠しておいた白い紙箱を指先に載せ、ゼロはバームクーヘンの最後の一口を飲み込みお茶で一息ついているティリクティアに視線をやった。

「ティリクティアさん、もしかしてもうお菓子を食べ尽くしてしまったのです?」
「あら、本当ね! でもまだまだいけるわよ、ハローズでもう少し買ってきましょうか」
「それには及ばないのです、ゼロからのプレゼントをどうぞなのですー」

 ティリクティアを乗せているのとは逆の手に、白い紙箱が乗っている。ゼロが力を込めると、紙箱は中身ごとみるみるうちに大きくなっていき……まるで要塞施設のような物体が二人の目の前に現れた。ゼロの手で開かれた紙箱の中から、生クリーム、フルーツ、それからビスキュイ生地のそれぞれに甘くうっとりするような香りがティリクティアの鼻をくすぐった。そう、記念といえばこれが必要だ。

「まあ……! ゼロ、ありがとう! こんな記念めったに無いわ、本当に素敵!」

 紙箱の中から顔を出したホールのショートケーキにティリクティアが目を見張る。ただ、真ん中に添えられたチョコのプレートに、ホワイトチョコといちごチョコのソースで『義理人情』と書かれているのは何故だろう……。

「ゼロはバレンタインの際に学んだのです、世の中義理と人情が大切だそうなのです」

 それはゼロなりの、故郷に帰ってもターミナルで出会った人との縁や、あたたかい心を忘れないでほしいというメッセージだったのかもしれない。ゼロの手のひらからケーキを見下ろし、ティリクティアは心からの笑顔をゼロに向けた。

「ゼロからの義理人情、確かに受け取ったわ! いざ、突撃よ!」

 ゼロが巨大化したものは、ゼロの特性を受け継いで他者を傷つけることはない。それを聞いて一度やってみたかったのだと、ティリクティアはフォークを構えてゼロの手のひらからケーキに向かって勢い良くダイブ! モフトピアのお菓子の島でもなかなかやれない、360度ケーキしかない光景にティリクティアの食欲とテンションは頂点である。

「うふふ! こんなにお菓子まみれの一日が過ごせるなんてターミナルならではよね」
「ぞんぶんに堪能してほしいのですー」

 二人の少女のひどく風変わりで、不条理で、矛盾だらけだけど当たり前の楽しいひとときは続く。いつか二人の歩む道が分かれる、その時まで。

クリエイターコメントお待たせいたしました、『女の子って何で出来てる?』お届けいたします。オファーありがとうございました!
超巨大スイーツ……。夢とロマンに溢れるオファーで楽しかったです、そしてお腹が空きました。不条理だけどそうじゃない、どっかおかしいけどいいのいいの、そんな雰囲気がどことなくモフトピアも思わせるノベルになったかなぁと思います。お楽しみいただければ&美味しく召し上がっていただければ幸いです。
あらためまして、オファーありがとうございました!

余談:クッキーのアレはまだ間に合うかなと思ってつい書き入れてしまいましたすみません
公開日時2013-10-06(日) 20:50

 

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