クリエイター黒洲カラ(wnip7890)
管理番号1149-22896 オファー日2013-04-20(土) 22:02

オファーPC テオドール・アンスラン(ctud2734)ツーリスト 男 23歳 冒険者/短剣使い
ゲストPC1 レヴィ・エルウッド(cdcn8657) ツーリスト 男 15歳 冒険者/魔法使い

<ノベル>

 ベルルシュカーラ・プロメッサは、背の高い、朗らかな男だった。
 銀の髪に鮮やかな朱金の眼、褐色の肌をした男前で、外見で言えば二十代後半、鍛え上げられた肉体と手練れの気配を持つ人物だ。
 長い時間を戦いに費やしてきたと判る、武人特有の硬質な空気をまといながら、雄々しさと精悍さの中に、小さな子どもたちと他愛ない遊びに興じるような柔和さを持ち合わせた、威圧感よりも親近感を覚えてしまう、そんな男だった。
「なるほど、君たちはあの世界の出身か。俺があそこを訪れて、もう三十年以上経つんだな……それを思うと感慨深い」
 彼は、テオドール・アンスランとレヴィ・エルウッドの訪れを歓迎し、不思議な邂逅をしみじみと喜んだ。
 顔右半面と右上腕、左手の甲から腕にかけて、炎や風の流れを思わせるトライバルな刺青があり、それが彼に野性味を与えている。また、彼の耳は長く尖っているし、瞳孔は、縦に切れた鋼色だ。故郷の光巫子セリア・アディンセルから聞いていたイメージとは少し違ったが、それも今となっては旅人の外套ゆえかと納得もする。
 セリアの話では『人間の手練れ』というイメージだったが、実物の彼が醸し出す雰囲気は人間の持つそれとは違い、どことなく獰猛で禍々しい。その禍々しさを、ベルルシュカーラ自身が持つ空気が和らげているという、なんとも不思議な人物だった。
「あの、ベルルシュカーラさんは……」
「ベルシュでもベルでもいいぞ。長いし、言いにくいだろう。まあ、真名はもっと長いしややこしいんだが」
 レヴィが問うと、彼は肩をすくめた。
「俺はもともと神魔の一族の出だ。ほとんど人間として生きているから神魔としての能力を使うことはめったにないが、系統で言えば火と風だな。俺が、あんまり人間やいのちを好きすぎて世界のバランスを崩すっていうんで、創世の神さんにほっぽり出されて今に至る。もちろん、見かけどおりの年齢でもないし、この名前も本名とは言えない」
「そうなんですか。では、あの依頼を受けたのは」
「当然、人間が死ぬのが嫌だったからだ」
 返るのは、清々しいほど人の好い言葉だ。
 神魔とは魔族の上位種とのことだったが、この言葉を聴く限りではとてもそんな想像はつかない。だからこそこの男は世界から放逐されることになったのかもしれないが。
 ベルルシュカーラの語ったところによると、そもそも、当時のベルルシュカーラが依頼を受けたのは、くだんの天候操作装置が原因で、周辺一帯の街や都市が壊滅するという予言を耳にしたからだという。
「セリアはあの大渇水を止めるために地下へともぐり、装置を発見する。装置を操作して渇水を止めるはずが、彼女の魔力と共鳴した装置が暴走し、辺り一帯を砂漠に変える……というのが、『導きの書』が出した予言だった。そんな終わりかたはあんまりだと思うだろう?」
「……それは」
 人々を護りたい、救いたいと赴いたセリアの心が、彼女や、彼女が護りたいと願ったものを滅ぼすなど、哀しすぎる。
 その予言を聴いたベルルシュカーラがいかなる思いを抱き、依頼を受ける心境に至ったか、彼と同じく『誰かを救いたい、誰かの笑顔を護りたい』という理由で行動してきたふたりには、痛いほどよくわかった。
「当時の司書はとても難しい依頼だと言った。最悪の場合、たくさんの死を見ることになるだろう、と。だが」
「わずかでも可能性があるならそれを諦めたくはなかった?」
 テオドールが言を継ぐと、ベルルシュカーラはかすかに笑った。
「神魔は諦めが悪いし執念深いんだ」
 いたずらっぽいそれに、テオドールもレヴィもつられて笑う。
「でも、僕たちも人のことは言えないよね、兄さん」
「そうだな。だからこそ、今こうしてここにいるわけだから」
 ふたりのやり取りを、ベルルシュカーラは微笑ましげに見つめていたが、ややあって口を開いた。
「セリアは元気だったか?」
「ええ。今はリウミエラ神殿を辞されて、小さな村の片隅で、施療院のお手伝いをされながら気楽な隠居生活を送ってらっしゃいますよ」
 テオドールとレヴィが語る、“プレナ・ノーチェの慈悲”事件の顛末とセリアの近況を聞き、ベルルシュカーラは再度、安堵の笑みを浮かべた。
「なるほど、彼女らしい。あの世界から覚醒した君たちとこうして巡り会い、彼女の話を聴くことになったのも、何か大きな力の導きなのかもしれないな。だが、確かあの世界は……」
「はい、そうなんです」
 レヴィはうなずく。
 ――テオドールとレヴィが覚醒して三ヶ月が経っていた。
 そのころにはもう、彼らが追い続けた『鋼の竜』がロストレイルであること、ふたりの故郷にも世界図書館が人員を派遣していたことなどが判っていて、ふたりは世界図書館の資料から、自分たちの故郷に関する情報を見つけ出していた。
 ふたりが今、こうしてベルルシュカーラと会っているのも、世界図書館の資料から0世界の住民に関する情報を得たためだ。
 無論、彼には、故郷のことをはじめとして、覚醒に至るまでの事情、『鋼の竜』に関するもろもろや、ふたりがベルルシュカーラを知っている理由など、出来るかぎりのことを説明してある。
「あの大渇水を機に、階層が変化したらしく、現在の所在地は不明、と」
「それは、気の毒なことだ。そうでなければ、すぐにでも帰ることは出来ただろうに」
「そうですね。でも、僕たちはふたりいっしょだったので、あまり焦りや不安は感じていないんです。なにせ、僕たちは、鋼の竜の正体を突き止めるくらい執念深いので」
「はは、そうだったな」
 明るい笑い声を立てるベルルシュカーラは、神魔などという厳めしい種族の出身とは思えない程度には朗らかだ。『旅人の外套』が異貌異形を秘するにしても、セリアがベルルシュカーラに惹かれたのは、彼の持つ懐の深さ、どんな状況でも夏空のような明るさを失わない、強靭な内面だったのかもしれない。
「セリアさんは、皆があなたを忘れてしまうことを気に病んでおられました。あなたがあの世界に対してみせてくれた善意が、誰にも知られぬまま埋もれてゆくのが歯がゆい、と」
「『旅人の足跡』は必要だろうな。余計な混乱の種を蒔かないためにも」
 事実、ベルルシュカーラはどこまでも冷静で、
「寂しくはないのか?」
「忘却される寂しさなら確かにあるが、それでも、己の心や記憶には、触れ合いや学びや喜びが残る。俺は、それだけで構わない。――しかし」
「?」
「セリアが俺を覚えていてくれたことは嬉しいが、それを口に出せないことや、皆が忘れてゆくことに心を痛めたり苦しんだりしたのではないかと」
 どこまでも人の好い、気遣いのある男なのだった。
「セリアさんは仰っていました。あなたにとても感謝していると。――今でも、あなたの思いによって生かされていると。あなたに会えたら伝えてください、そんなふうに彼女は仰いましたよ」
 言って、ようやく彼女との約束を果たせた、とばかりにレヴィは微笑む。
 ベルルシュカーラもまた、はにかむように笑んだ。
「ああ、変わらないな。命の危険すらあるあの遺跡へ、何のためらいもなく挑んだころのセリアとなにひとつ変わらない。他者の幸福のために尽くし、それを己が喜びと変える、彼女は何年経っても彼女のままだ」
「……嬉しそうだな」
「彼女が己の志を大切に生きていることを、とてつもなく貴いと思うからな。彼女を護ったことで、俺自身がその志の一助となれたんだ、これを喜びと呼ばずして、何と呼べばいい?」
 それから、少し間があって、
「……ありがとう」
 唐突な言葉に、テオドールとレヴィは顔を見合わせる。
 礼を言われるようなことをした覚えはない、とベルルシュカーラを見やれば、
「彼女の言葉を伝えてくれたこと、感謝する。俺には俺の志があって、それはたくさんの困難を孕んでいるが、彼女が彼女のまま変わらず生きているというのなら、俺もまた己が道を粛々と歩もう」
 居住まいを正した彼に頭を下げられ、思わず恐縮した。
「いや、そう改まって言われるとどうにも居心地が悪い。俺たちも俺たちの都合と思いによって進んだだけで、今回のこれにしたって、たまたま道が交わった結果に過ぎないんだから」
「それでも、君たちが彼女の想いに寄り添って、心のどこかに俺のことをとどめ置いてくれたことは事実だ。それは感謝に値する。しかし……まぁ」
 ベルルシュカーラが愉快そうに目を細めた。
「何ですか?」
「いや。あの時、テオドールのご父君が見た鋼の竜は、俺を乗せて0世界へ帰るロストレイルだったわけだが」
「……と、いうことが、覚醒してようやくわかった。世の中には、不思議なことがあるものだとしみじみ思ったな。あのまま探索を続けていても、本当の意味で真相に辿り着けたかどうか」
「そうか? わずかな手がかりをもとに新しい情報を得、正しい道のりを経て、結果、俺のところまで来たじゃないか。その粘り強さと信念、逆境をものともしない行動力は称賛に値すると思うけどな」
 陽炎を思わせる双眸には、明確に感嘆の色が揺れている。
「それで、君たちはどうするんだ」
 唐突な話題転換だったが、意図する部分はわかった。
 覚醒して三ヶ月。
 おそらく、すぐに故郷が見つかるということはあるまい。
 0世界を拠点とし、生活し、依頼を受けることで日々の糧を得る、そんな生活がしばらくは続くだろう。その現状に疑問を抱き、悩むものもいるとは聴く。しかし、ふたりに迷いはなかった。
「世界図書館は、他者の苦しみを軽減するために動く組織だと感じる」
「僕たちの行動指針も同じです。誰かの苦しみ哀しみをいっしょに背負いたい。和らげられるなら、そのために尽力したい」
「大局がどこへ向かうのかは、俺たちにはまだ判らない。図書館を通して行われる依頼にしたって、受諾の理由は様々だろう。だが」
「だが?」
「あなたのような先達がいると知りました、ベルシュさん。なら、僕たちも、これまでと変わらない志でもって、胸を張れるように生きるだけです」
「大渇水のあの日、あんたが逆境に屈することなく己を貫いた、その姿勢に俺たちもまた励まされる。故郷を見つけていつか帰る、そのために異世界を旅して、いろいろなことを見聞きし、人と触れ合い、時には手を差し伸べ、時には助けられ、たくさんの経験を積み重ねていけばいいと思う」
 困難は人を強くする。
 苦境は人を優しくする。
 痛みは人を賢明にする。
 哀しみは人に思いやりを教える。
 いのちの、人生の流れに無駄はない。
 そう思えばこそ、ふたりはいかなる逆境にもくじけず、ここまで歩いてきたのだ。
「俺たちは、実存の確証もないロストレイルを、誰に嗤われようとあきらめずついには発見した。故郷を探すのも同じことだ。――いや、同じ境遇のものが多いぶん、恵まれているのかもしれないな」
「そうだね、テオ兄さん。それに、僕には兄さんが、兄さんには僕がいるもの。僕たちは、お互いを支えて立つことが出来るよ。それは本当に幸運なことだと思う」
「――なるほど。なら、心配は要らなさそうだな」
 力強い、互いの信頼が伺えるふたりの言葉に、ベルルシュカーラは微笑んだ。
 そして、美しく精緻な刺青が施された左手を掲げる。
 瞬間、強い風が吹いた。
「だが、これも何かの縁だ……君たちに何かあればいつでも力になる。《火(バアル)》と《風(エル)》のかたちづくる熱波の神魔、バアル=エル=シュラウ・カ・エアラの名において、君たちの道、行く末に、光と喜びが満ちるよう祈ろう」
 それを言霊と呼ぶのだろうか。
 ふたりは確かに、ベルルシュカーラの紡ぐ言葉が、心地よい熱を伴った風となって自分たちを包み込み、強靭なエネルギーのかたまりとなって己が深部へ蓄積されるのを感じた。
 旅はまだ始まったばかり。
 結末に何が待っているのか、テオドールにもレヴィにもわかりはしない。
 けれど、ふたりの歩みが止まることはないだろう。
 好奇心と信念を供とし、愛と誠を友として、この世の果てまでも行くだろう。
 そんな確信をふたりに抱かせた、ターミナルでのひと時だった。

クリエイターコメントオファー、どうもありがとうございました。

プレナ・ノーチェより始まった、旅人の足跡を追う一連のノベル、その辿り着いた先のお話をお届けいたします。

言うなれば、ここからが「始まり」といっても過言ではない、おふたりの、異世界への旅の第一歩を描かせていただきました。
ベルシュさんに関しては、いただいたオファーをもとにいろいろと捏造させていただいた結果、あのようなキャラクターに落ち着きました。

それらの捏造も含めて、お楽しみいただけましたら幸いです。

それでは、どうもありがとうございました。
またの機会がございましたら、ぜひ。
公開日時2013-08-03(土) 21:00

 

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