0世界のとある場所。他のロストナンバー達が携わった依頼の報告書が読めるその一画で、1人の少女が小さく唸った。「……気になる。気になるじゃない!」 その大きな一つ目をぱちぱちさせて、イテュセイがぐっ、と拳を握り締める。「その『禁忌』と言われた戦艦、とっても気になるわっ!」 事の発端は、今イテュセイが読んでいた報告書にある。他のロストナンバー達が調査に向かった遺跡の中でとても危険と判断された戦艦が眠っていたのだ。 ただ、そこへ赴いたロストナンバー達はそれを『危険』とみなし、遺跡ごと封印したのだという。それが、彼女にとってはむずむずしてしまう。「よし、女は度胸! あの遺跡に行ってみよう!!」 と、彼女が部屋を後にした途端、背中を叩かれる。見ると、ぽややん、とした雰囲気のエルフっぽい女性が、『導きの書』を片手に微笑んでいた。「あのぉ、遺跡とか言いませんでしたかぁ?」「? うん。 ブルーインブルーの遺跡で気になったのがあったから……」 彼女がそう言うと、世界司書は小さくうなづいた。「あのぉ、今からだと大変だと思うんですけどぉ、何人か、集めていただけませんかぁ?」 イテュセイが仲間を集めて司書室へ向かうと、先ほどの世界司書が一礼した。「皆様にはぁ、ブルーインブルーのぉ、とある遺跡の調査に向かってもらいますぅ」 世界司書曰く、先日封印された遺跡に繋がる遺跡があり、そこを調査して欲しい、ということだった。そこには、幾つもの罠が仕掛けられているそうだ。「電気系統はぁ、稼動しませぇん。けれどぉ、バンジーステークとかぁ、スパイクボールとかぁ、地雷とかがありますぅ」 それもただの罠ではなく、2重だったりもするらしい。厳重な警戒が必要なようだ。「恐らくですけどぉ、ピンからキリまでって考えていた方がいいかと思いますぅ。高を括っているとぉ、死ぬような目に遭うかもしれませぇん」 世界司書はイテュセイ達を見、真面目な顔でそう付け加える。 張り詰めた空気の中、世界司書はくすっ、と笑うと「貴方がたならば大丈夫だって思いますからぁ~」とにっこり笑った。 また、罠だらけの通路を通り抜けると、資料室に出ると言う。その部屋から出れば、最深部までは近いそうだ。「えっとぉ、戦艦の設計図はぁ、ボロボロなのでぇ、期待しないほうが良いですよぉ?」 世界司書にそういわれるものの、イテュセイは内心で燃えていた。(その海図をどうにかできれば……! ふふ、なんだかわくわくしてきたっ!) 資料室の近くには、例の戦艦が眠る部屋もあり、その気になれば行く事が可能だ。電気系統が完全に壊れている為、調べる場合は修理する必要があるが。「でもぉ、修理しちゃったらぁ、前に調査へ行った皆さんが見た映像を見ちゃうと思うんですぅ。気をつけてくださいねぇ~」 司書の言葉を聞きながら、4人は小さく頷く。 まぁ、目的が果たせなかったとしても、遺跡を探検できれば面白いだろう。イテュセイは小さく微笑み、仲間達と共にブルーインブルーへと赴くのだった。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>イテュセイ(cbhd9793)村崎 神無(cwfx8355)ジューン(cbhx5705)高倉 霧人(cxzx6555)
起:罠・罠・罠にオチよう♪ ――ブルーインブルー・某遺跡前。 普段は誰もいないこの場所に、4人のロストナンバー達が現れた。彼らを最初に出迎えたのは……海鳥。 「キャー! つつかれるつつかれるーっ!!」 大きな1つ眼が特徴的な少女、イテュセイの声が森の中に響き渡る。が、どうにか追い払うのは、メイド姿のアンドロイド、ジューン。 「巣を荒らしに来たと考えたのでしょう」 「まぁ、目的の場所はもう直ぐだし、がんばりましょ?」 彼女の傍らで同じように鳥を追い払った村崎 神無もまた小さく微笑んで一同に促す。今回は罠だらけの遺跡を通って『禁忌』と言われた船を探るのだ。少し緊張しているような雰囲気も否めない。彼女は何故か嵌めている手錠をチャリ、と鳴らし、少し顔を引き締める。 「……ここでしょうか?」 唯一の男性であり、この場所ではちょっと暑そうな服装の高倉 霧人が一角を指差す。その先にはぽっかりと黒い穴が口を開けている。いかにも何かありそうな雰囲気があり、並の人間達ならば入る事を躊躇っただろう。 しかし、この場にいる4人は修羅場をくぐり抜けてきたツーリストである。僅かな緊張はあったものの、すぐに好奇心の方が優った。 「と・に・か・く! 『虎穴に入らずばコジを得ず』っていうし!!」 「あっ……」 イテュセイが早速、とばかりに1歩踏み出した……とおもったらボコッ! と音を立てて穴があいた。宙で思わず平泳ぎしてとまったかと思えばヒュッ、と落ちる一つ眼娘。止めようとしたジューンだったが、間に合わなかったようだ。 「そんな?!」 「いきなり罠とは……」 神無が突然の事に驚き、霧人が帽子をかぶり直して穴を覗き込む。幸い穴は深い物ではなく、イテュセイは目に土でも入ったのか大粒の涙を零していただけだった。ぱっ、と見た限りでは、彼女に怪我はないようだ。 「どうやら雨で崩れやすくなっているようですね」 辺りをレーダーで観測していたジューンだが、止められなかった事に内心責任を感じたのだった。 どうにかイテュセイを引き上げた後、4人は改めて遺跡の中へ入った。 (仕事で遺跡の中には入った事があるけれど……、今回みたいに罠だらけな場所は初めてね) 神無はヘッドライトのスイッチを入れ、刀を抜く。何か飛んでくればこれで弾くつもりだ。傍らではジューンが電磁波を使ったレーダーで罠を調査している。彼女曰く元の世界では非常用のコロニー建材を兼ねていたらしく、「立体構造サーチを標準装備しなければ、修理箇所を特定出来ません」との事だった。 神無はヘッドライトの明かりを調節し、通路が鮮明に見えるようにした。しかし、スイッチのような物は巧妙に隠されているのか、わからない。 「うえーん、痛かったよぉ~! おまけにここ埃っぽーい」 大粒の涙を零しながらイテュセイが愚痴る。彼女はどこからともなく飛んできたイシツブテを自慢のポニーテイルで叩き落し、尚も滝のような涙を零しつつ目をしぱしぱさせる。退廃美と無人の空気は人間が滅びるたびに見てるし~、とか言っているが本当かどうかはとりあえず触れないでおこう、うん。 「壁には基本触れない事を言っておきます。スイッチの幾つかは仕込まれているようですので」 ジューンが冷静な声色で報告する。それに神無が頷いていると、霧人がきりっ、とした表情で静かに踏み出した。 「実は、禁忌とか危険な遺跡は僕大好きなんですよ」 くすっ、と笑いながら思い出を語るように歩く霧人。本当は契約している悪魔のバラクに協力してもらい、この地の過去を探ろうとしたのだが『読み込めるのは1年前まで』なんて言われてしまったので、とりあえず踏み込んでいた。 「ここは男子代表、先陣切って危険に飛び込みま」 ――ガンッ。 なんか、踏み出した時にスイッチが入ったらしく、上から壱番世界のコントで見たような金属のタライのような物が落ちてきた。思わず固まる霧人。 「過去のデータベースによると、時にコント、小芝居の際に笑いを取るために使われるものでダメージはさほどないかと……」 「それにしても、今の音はすごく痛そうね」 「笑いを取ろうっていうにもタイミング的にどうなんだろ?」 ジューン、神無、イテュセイの言葉に、霧人が微妙にプルプルしている。彼はタライをどかすと再び歩き出した。本人としては気を取り直したようだ。 「まぁ、いいでしょう。これはこれで面白い事が分かりそうですからね」 「そっちには矢の雨が」 ジューンが言い出したそばから、疾風怒濤とも言える矢の雨が真上から飛んでくる。思わず身を引いた事で辛くも逃れる霧人。それでも涼しい顔ができるのはそれなりに生きているから……いや、なんでもありません。 「色々めんどい~! 一度動かしたら動かなくなるんじゃない? 霧人には負けてらんなーい♪」 一体なにが負けてられないのかはさておき、ジューンが止めるのも聞かずに突っ走るイテュセイ。そして案の定引っかかる罠。 ザシュ! と、「とても綺麗に分割されました~」というような音が響き、思わず息を呑む神無。 「……大丈夫なのかしら?」 「まぁ、彼女ならば、多分、大丈夫かと思います」 歯切れの悪いような、ジューンの返答。というのも、目の前のイテュセイはというと……メガネを探す容量で首を探していたかと思えば、首と胴体がやいのやいのと喧嘩をしていた。どうやらギロチンで首が飛んだようだが、生きているらしい。 「もうっ! そっちがちゃんとしないからあたしが転がったんじゃないの! 早く拾いなさいよー」 「そんな事言ったって急に来たんだもん! あんたこそ勝手に飛んでいかないでよー!」 なかなかシュールな状況の中、神無はとりあえずワイヤーとかに気をつけながら進もう、と心に決めるのであった。ジューンも解析を勧めなら歩を進め、2人の先を霧人がリズミカルに跳ねていく。まぁ、トラップを避けるためだろう。実際、機雷が埋めてあって、くぐもった音が響いていた。 「ふぅ、やっと収まった~」 ようやく首と胴体の喧嘩が終わり、一つにつながったイテュセイ。彼女は周りを見渡し、自分だけしかいない事に気付く。 「ああ~ん、みんな待ってぇ~」 彼女は半べそをかきながら、音のする方へと走っていった。 ジューンの調査によると、罠は一度発動させるとそれっきり、のようだった。イテュセイの予想はばっちり当たっていた訳だが……。 「そこ、ワイヤーを切るとスパイクボールが飛びます。それを上に避けるとピアノ線があって怪我をおうという二重の仕組みです」 「なら上のピアノ線だけ着ればいいわね」 「おっと足が滑った」(ワイヤーに引っかかる音) ――ブゥン! 「きゃーっ、トゲトゲ~!」(ジャンプして避ける音) ――スパッ?! ……ジューンが罠を見つけるかその前に霧人とイテュセイが引っかかって作動させる、というのがルーチンワーク化しつつあった。時に神無が刀で飛んでくる物を弾いたりするが、中には弾くと中身をバラまくタイプの物もあり、そういう時は走って影響を避けるしかなかった。 おかげでジューンと神無はさほどダメージを食らっていない。普通ならばもうボロボロになっていてもおかしくない筈の霧人とイテュセイだが、この2人もさほどボロボロにはなっていなかった。それを何故かと問われたら、たぶん「鍛えてますから」とか返事が帰ってきそうな気がするジューンだった。 承:設計図は集まるか? ――スゴッ!! 「……ふぅ、やれやれ。結構深そうですね」 「引き上げますよ?」 霧人が落ちそうになったのは、底に刃物が突き出たバンジーステークだった。彼はどうにか淵に手をかけ、頑張ったようだ。神無とジューンに手伝ってもらいつつ、どうにか這い出ると、イテュセイが大きな目をパチパチさせていた。 「うーん、罠だらけのトコももうちょっとで終わりかなー。ちょうどいい風が吹いてて目にやさしー♪」 「そうですね。調査した所、あと50mほど歩けばもう罠は無いようです」 ジューンの言葉に一同、安堵の息をつく。しかし、ここまで来るのに色々な罠を避けなければならなかった。 うっかり壁に手を触れてしまったが故に蛇が上から落ちてきたり(神無によって倒された)、足元のスイッチに気づかず踏み込んでとりもちが飛んできたり(霧人が巻き込まれ、取るのに苦労した)、なんか紐があったので引っ張ってみたら違う方向から石の球が転がってきたり(イテュセイによって粉々に)等など。 (普通の人間だったら、途中で引き返しそうね) 神無が内心でため息をついていると、先を進んでいたイテュセイが楽しそうな声を上げていた。 「みてみて~♪ 隙間があるぅ♪」 「そこが、例の資料室かもしれませんね」 「はい、レーダーに間違いがなければ」 霧人の弾んだ声に、ジューンが静かに答える。神無も罠に注意しつつ近づき、4人そろってその隙間に手をかける。が、びくともしない。 「ここはお任せ下さい」 と、ジューンが力を込めると、鈍い音を立ててそのドアはスライドした。同時に巻き起こる砂埃に再び大粒の涙を零すイテュセイ。 「あっ……」 何かに気づいたのか、霧人が声を上げる。神無が振り返ったとき、ひらり、と何かの破片が飛んで、少しずつ崩れながら漂う。 「これ、もしかして……」 イテュセイが受け止め、よく見てみると……幾つもの線が見える。他の3人もまた覗き込むと、それは何かの設計図のような物にみえた。 「さぁ、早速探すわよっ!」 イテュセイの言葉に、神無は静かに頷いた。 資料室に入るやいなや、設計図の破片探しを始める。しかし、その様子をジューンは静かに見ていた。彼女は少しだけぼんやりと過去を思い出す。 彼女の故郷は、宇宙を旅する船だった。彼女の記憶が確かなら、政治的な理由で惑星国家の制圧を図る必要がある場合、衛星軌道上から封鎖を行っていた。制圧の為に惑星に降下するのは、色々と無駄が多いからだ。 (連盟成立以前の帝国末期では主星破壊……連盟成立後、全て封印兵器になったけれど) どんなに広範囲に影響を及ぼすほどの威力がある兵器でも、その惑星の中でしか使えない物は、古い時代の星系内戦争時に用意られた物と同じぐらいの骨董品であった。 (それでも……) 目的の戦艦に、形状で一致する部分が多ければ、この世界の銀河のどこかに元の世界へ戻る手段があるかもしれない。そんな期待を捨てきれないジューンは小さくため息をつく。ふと、顔を上げると……霧人が真剣な顔で破片を探しているようだが、見つからないようだ。 「あーん、疲れるぅ~!!」 そんな事を言っているのはイテュセイ。彼女はどうにか破片を探しているようだが、なかなか集まらない。傍らの神無もまた細かな場所にある破片を取るのに苦労していた。刀を使ったらさらに小さくなりそうで正直怖い。 長いこと時間をかけて破片を集めた4人だが、すべてを集めきることはできなかった。集まったぶんだけでも、と神無は紙の上に破片を乗せ、パズルのように組み合わせる。と、全体の3分の1しか集まっていない事を知った。 「うーん、足りないなぁ」 「もう少し、探してみよう」 再び4人で手分けして探すも、拾っている途中で粉々になったり、隙間に入ってとどかなかったりして、全て拾う事は叶わなかった。それでも、神無が組み合わせた物に加え、半分ほどは出来上がった。それでも、重要な部分は抜けている。 神無は透明なフィルムをかぶせて固定し、黄色フィルターをかけたデジタルカメラで撮影する。ここで読めなくても、あとから解析することは可能なはずだ。 「次はあたしの番~っ!」 と、イテュセイは破片をその大きな瞳へと流し込み、しばらくして口から出力するという新技を見せる。しかし、出来上がった物は不完全な設計図であった。 「……しかも一発で綺麗に……とはいきませんか」 出てきたものを拾い上げ、しみじみとつぶやく霧人。しかし、イテュセイは負けじと再び出力する。完全複写するまでやるつもりだ。 「これって相当体力消耗しやすそう……」 神無が不安げに見守る中、5枚目で書きあがったばかりのような設計図がでてくるも、集まった破片の数が数なだけに、詳しいことはわからなかった。これでは外見はできても、兵器までは作れないだろう。 (となれば、本物を手に入れる……か?) 霧人が一人いろいろ考えている横で、神無もまた、手に設計図を持ったまま考察にふけっていた。 (他の皆はどう思ってるのかしら? 戦艦や設計図を手に入れて、何かしようと考えてるの?) 確かに、『力』を使うのは人である。人が『使い方』を誤らなければ、安全な使い方ができるのではないか? そう、神無は思う一方でこんな風に考えてはならないのでは、と葛藤していたのだ。 (それでも、私は見届けたい。 この戦艦がどうなるのか。みんなが、どうするのか……) 顔を上げると、ジューンと目があった。彼女は静かに3人を見ると、そっと、こう言った。 「この設計図をみた限りでも、確かにこの戦艦は今のブルーインブルーにはオーバーテクノロジーかと存じます」 「だろうな。現代の壱番世界でも、こんな技術は見た事がない。今、分かる部分だけでもそれはよくわかる」 霧人が相槌を打ち、ジューンも頷く。彼女は「だから?」と軽い雰囲気で問い返すイテュセイや神妙な面持ちの神無にも頷き、言葉を繋いだ。 「しかし、この戦艦はこの世界にあるものです。……判断は皆様に委ねます」 「そう……」 神無はふぅ、と小さくため息を着くと、先ほど考えていた事を言わず、ただ「私も追従するわ」とだけ答えた。それに、霧人とイテュセイは目を合わせ、笑い合う。 「それじゃ、あれに関しては、あたしたちに任せて! さーって、最新部に行くわよ~っ!!」 イテュセイの言葉に、3人は頷く。最後に資料室内をこまかく観察したものの、やはり破片は見つけきることができなかった。 設計図は完璧にならなかったものの、時間が惜しい。4人は後ろ髪引かれる思いをしつつも、資料室をあとにした。 くぐもった足音が、空間に響く。神無の用意したライトが照らしているため、さほど暗くはない。歩く度に潮の香りや波の音が近づき、4人の目も輝く。一行は大きな引き戸に近づくと、一気に開けた。 結論から言おう。 この遺跡は、二度と日の目を見ることがなくなった。 一人の『神』の所業によって。 転:とりあえず、調べてみようか? 「わぁ、ひっろ~いっ! 埃っぽくなーい!」 イテュセイがあちこちぺたぺた触りながら叫ぶ。声が響き、波の音がかき消されるも、濃い潮の匂いはかき消されなかった。 「なんとなく明るいですね……」 神無がヘッドライトの明かりを弱めつつあたりを見渡す。ある程度は見渡した限り確認できるが、傍目からして何に使う機会なのか、皆目見当つかなかった。傍らでは霧人とジューンもその広さに興味を持っているようだった。 「機械関係は、任せましたよ」 霧人はそう呟くと、早速過去について読み込んでみる事にした。先日訪れたロストナンバーたちの様子が、あたかもそこにいるような感覚でわかる。 しばらくして、問題となった映像が写った。その内容に最初のうちは「この手の映像は故郷で結構見ましたし」と特に感慨もない様子だったが……不意に表情を険しくする。 「? いかがなされましたか?」 ジューンの言葉に、イテュセイと神無も振り返る。霧人は「なんでもありません」と首を振ったが、その背中には冷たい汗が流れている。彼が見たことのある残酷な映像よりも、酷いものを、彼は見てしまったのだ。 (そんな……馬鹿な事が……) 僅かに身を強ばらせた霧人だったが、すぐに平静を取り戻すと、深い溜息を付いた。あの戦艦は、確かに危険だが……その分魅力的でもある。新しい刺激になりそうだ、と睨んだ彼は小さくほくそ笑む。 (壊される前に確保しておきたいものです。しかし、モラルのある方が多いでしょうし……) 彼は、腰の刀に手を置く。場合によっては切り刻むフリをして適当な場所へテレポートさせようか、と考えた。 機械の仕組みについて興味を持っていたジューンは、レーダーで色々探りつつ、直接機会に触れてみる。どうにか部分的に電気系統を回復させ、情報を取り出しては例の映像も確認していた。その齎す結果に息を飲みつつも、彼女は呟く。 「大陸の形位は変わるかもしれませんが……」 宇宙を旅していた彼女が知る限り、故郷では『大量破壊という時は惑星破壊以上』を指していたので、それほどすごいとは思っていなかった。 「けれども、今のブルーインブルーには過ぎた物だわ。……これを起こしていいのかしら?」 話を聞いた神無は戸惑いを見せる。彼女は戦艦が眠っているであろうプールを見つめ、刀を握り締める。 「興味深い戦艦ですよね。……できることならば見てみたいです」 霧人がどこかわくわくしたように声を弾ませていると、今まで奥に行っていたイテュセイが物陰からひょっこりと現れた。 「みんなー、ちょっと下がった方がいいよ~♪ ちょっと細工仕込んだから~」 「どのようなものでしょうか?」 ジューンが問いかけると、イテュセイはくすくす笑いながら 「ん? あの戦艦が浮かび上がってくるから~」 「……えっ?」 彼女の言葉に、霧人と神無が思わず、といった顔で声を上げる。ジューンは冷静にプールを見、静かに告げる。 「今から1分後、戦艦が浮上します。水位が上昇し50センチ程の波が迫りますので残り30秒でここの黄色い線までお下がりください」 よく見ると彼女の足元には黄色い線が引かれていた。2人がそこまで下がった直後、ざばり、と大きな音を立てて戦艦が浮上した。錆びた臭いがあたりに立ち込め、思わず咽る。 「これが、あの……!!」 霧人が興奮した様子で拳を握り、神無は神妙な面持ちで息を呑む。おそらく、霧人やイテュセイはこの船を欲しているのだろう。でも、自分たちで持って帰っていいのだろうか? 果たして間違えず使うことができるだろうか? そんな不安が胸にこみ上げてくる。 「しかし、先程まで電気系統はごく一部しか復活できませんでしたし、私が調べた直後また沈黙したのを確認しております。これはどういう……?」 不思議そうに首をかしげるジューンに、イテュセイは笑う。 「えへへ~♪ 実はねぇ、『命』与えちゃった」 少し前。奥に入り込んでいたイテュセイは建物の見取り図を求めて色々探索をしていた。埃が少ない事を嬉しく思いながら、彼女は楽しそうに狭い通路を通っていく。 「ここは管制室にちがいないわよね? だったらここか入り口の守衛部屋にあると思うんだけれども、な~♪」 そう行っている傍から錆びた看板を見つける。それを睨みつけて文字を読み取ろうとして、汗を拭う。どうやら、今手に持っている物が見取り図らしい。しかし、ひどく読みづらい。 (あら、時間の流れに勝てないのねぇ) 内心で苦笑しつつ、適当にあちこち見て回ると、埃にまみれた配線のようなものを見つける。それをどうにか払い除け、噎せながらもこれまた適当に繋いでみる。 「あ・と・は……これでどう・だ!」 と、イテュセイが微笑み、ふぅ、と吐息をかける。僅かなプリズムが煌めいたかと思えば、次の瞬間には、『ヴォン……』と通電したような、鈍い音が響いた。 ――そして、現在に至る。 結:戦艦との……? 4人の前に現れた戦艦は、錆と潮の臭いを僅かに放ちながら引き上げられた。ゆらゆらと揺れながら水面に揺れてはいたものの、しばらくすると静かに浮かぶようになる。イテュセイ以外の3人は、その様を黙って見つめていた。 「大きい……」 「データベースを洗いましたが、現在は機能が全て沈黙しています。この状態では全く起動しません。施設にあるクレーンによって引き上げられてはいますが」 神無が息を飲んでいるそばで、ジューンが静かにアナライズを終わらせる。 「動かすには、修理が必要なのでしょうか?」 「多分、そうじゃない? 相当痛んでるっぽいしぃ」 霧人の呟きにイテュセイが肩をすくめる。動くようだったら戦えるかなぁ、とも思ったのだが、動く様子を見せないのだ。 (確かに、命は……) 彼女の感覚からすれば、この戦艦にも宿っていてもおかしくはない。しかし、その戦艦は、ただ静かに浮かんでいた。 (さて、どうしましょうかね?) 隙をみて船を転送させようか、と霧人があたりを巡らす。自分のそばにはジューンと神無がおり、イテュセイも船をまじまじと見ている。今、無駄に動いても止められるのではないか。刀から手を離し、ふぅ、とため息をつく。一方、迷いながらも神無は霧人を見る。彼があの船を破壊すると考えているのならばそれでもいいかもしれない、と真面目に考えていた。 (けれど、……あの船を欲しているならば) 自分は止めるべきだろうか? それとも黙って見ているべきか。一人彼女が悩む横で、ジューンは自分の記憶とその船を比べ、内心でため息をつく。 (惑星の外に出ない、かなりの骨董品でしょう。しかしその破壊力は馬鹿にできません。今のブルーインブルーには、過ぎたものでしょう) もし、これが外に出た場合どんな事が起こるか。ジューンには容易に想像できた。 「うーん、それにしても動きませんなぁ」 イテュセイがぶーぶー言いながら船を叩く。それに「えっ?!」と声を上げてしまう神無。霧人とジューンは気づいたものの、特にこれといった反応を見せない。しかし、次の瞬間、今まで沈黙していたモニターに、パッ、と明かりがともった。 「あれを」 霧人が指差した先、モニターに白い画面が映る。そして、こう、ブルーインブルーの文字で刻み込まれた。 ――君たちは、軍部の者かね? 「……軍部の者?」 「どういう、こと? というより、あなたは誰なの?」 ジューンが首をかしげ、神無が声を上げる。と、モニターに新たな文字が浮かび上がる。 ――儂は、そこに浮かんでいる戦艦じゃ。 青い髪と一つ眼の女神に、命を吹き込まれた為、話す事ができた。 「あーっ! ちゃんと返事してくれたーっ♪」 イテュセイがきゃっきゃと笑いながら手を振る。やっぱりか、という顔で霧人が見ている傍で神無は自分たちが軍の人間では無い事、冒険者である事を伝えた。すると、すぐにモニターから返事があった。 ――そうか。 儂を起こした理由は何かね? その文字を見るなり、神無は言葉を噤む。ジューンも静かに見守っており、霧人とイテュセイに答えは委ねられた。 「あたしとしては、設計図とかお持ち帰りした~い。あと、戦艦と戦いたいかも~」 「僕も、興味があります」 イテュセイと霧人の答えに、しばしモニターは沈黙する。しかし、しばらくして浮かんだ答えは……。 ――儂は、もう眠っていたい。 何も手をつけず、このまま、そっとしておいてもらえないだろうか? 『彼』曰く、もう疲れたらしい。それにイテュセイはぶー、とふくれっ面になるものの霧人、神無は納得がいくような気がした。 「いかがなされますか?」 ジューンの言葉に、イテュセイはしばし考える。 「おじいちゃん、……ちょっとぐらい遊んでよぉ」 ――もう、儂は一発もミサイルを撃てんのじゃ。 眠らせてくれ、青い女神よ。 その言葉に、イテュセイも渋々従う事にした。 『彼』は資料室にある避難通路を閉ざす、と言った。また、通路は細かく設置された防火扉で封鎖する、とも。戦艦は30分の猶予を4人に与え、ロストナンバー達は速やかにそこを後にした。 4人が罠だらけの道に戻ってきた時、まだ時間に余裕があった。しかし、その後ろでは鈍い音が響き続いていた。 「もしかして、『命』与えたの失敗だったかな?」 「かもしれませんね」 内心で「おかげで色々やりそこねましたが」と付け加えつつ霧人が肩をすくめる。ジューンは「これでよかったのかもしれない」と思いながらあたりを調べ、動いていない罠がないかチェックする。 「とりあえず、設計図の半分はあるんです。少しは研究できると思います」 神無がそういってデジカメを取り出す。そして、イテュセイが根性でプリントアウトした物も。 「まぁ、遺跡が探検できただけでもいっか」 イテュセイの言葉に、3人は笑うなり苦笑するなりで答える。彼らは今日の体験を話しながら元きた道をたどっていく。確かに目的は果たせなかったものの、それなりに充実した冒険だった、と思う4人だった。 (終)
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