場所はナラゴニアの街中。 ナラゴニアに住む者たちは、ターミナルが騒がしい事に気がついた。「ターミナルの奴らが楽しそうだな」「そういえば去年、クランチ一派がしてなかったか? 木を飾って、ケーキ食べて」「ああ、そうだ。そうだ。プレゼントって、なんか用意するんだよな。けど誰にだ? あと、御馳走!」「っーか、アレ、結局なんなんだ?」 去年のいまごろにクランチと、その周辺がやっていたことを思い出してナラゴニアの者たちは顔をしかめた。 今まで放浪を定められていた彼らはその土地特有の習慣というものをまるで知らない。「けど、楽しそうなんだよなぁ」「だよなぁ」 よくわからないが、楽しそうな声が聞こえてきたのにナラゴニアの者たちは物欲しそうに見つめる。「よし、なんか俺らもやろうぜ」「飾るんだよな? よし、ここらへんの木を適当に飾るか! きっと楽しいぜ!」「なにを飾るんだ?」「どくろ?」「黒リボン?」「……本当にこれ、楽しいのか?」「迷うな! ええい、せっかくだ! 屋台とかやっちまうか!」 その様子に商人根性に火がついた者がいた。「ここが稼ぎ時ってことだね~」 ノラ・エベッセがにやりと笑った。「さぁ、あんたたち、自慢の品を持ち寄りな! バザーをするよ~、ターミナルからもお客さんがくるよ~」☆ ☆ ☆ 壁にいくつも並べられた鏡、そしてなにもかも真っ白な部屋。「ターミナルのレディ・カリスから招待状が届いていた、俺はちょっと出てくる。その間のことを頼む。外ではノラの奴が商いに忙しいが、クソユリエスがなにかした場合、すぐに連絡しろ。ドンガッシュもターミナルからこっちに来るそうだから、あいつを使え」 《人狼公》リオードルはレディ・カリスの赤の城の舞踏会に出席する予定だ。 現在ナラゴニアの指導者の一人である彼は招かれても当然である。 今回、ノラが商い魂を見せてバザーをするというので、リオードルはナラゴニアの貧民への炊き出しをせよと私財を投じて部下たちに命じていた。 こうしてナラゴニアの者たちの関心を自分へと向ける作戦でもあるが、実際、ナラゴニアの者たちは未だに困っている者たちが多く、この炊き出しに助けられる者が多い。 今回の祭り騒ぎにターミナルからも客人が来るならば、これはナラゴニアの人間と交流のチャンスにもなるだろう。「リオードルちゃんがそうやってがんばるなら、わたくしも、もちろん協力しなくちゃいけないわね?」「……なにするつもりだ?」 リオードルが眉根を寄せた。「せっかくだし、わたくしのお城を提供してあげるわ。そこでパーティをしましょう? あちらだってダンスパーティをするなら、こちらだってしなくちゃね? いい考えでしょ? リオードルちゃん」「なに企んでるんだ」「企むだなんて! 失礼ね。大いに陰謀をめぐらせているって言ってくれなくちゃ! まぁ、なんて顔をしているの。安心してちょうだい。わたくし、なにがあってもリオードルちゃんの味方よ? それにわたくしも、興味があるの。大丈夫、困らせたりはしないわ。ちゃんとあなたの留守を守ってさしあげる。さぁ、いってらっしゃい。聞いた話では、ターミナルのファミリーには注意したほうがいいそうよ。気をつけて、楽しんできて――そしてここからどこにもいけないわたくしにお話、聞かせてね?」☆ ☆ ☆ ナラゴニアでもクリスマスをやるのだとドンガッシュは説明した。 今回、ナラゴニアのクリスマスパーティにターミナルのロストナンバーたちを案内する役をリオードルから申しつけられたのだ。「クリスマスってものはよくわかってないがな。あんたたちが楽しそうにしているのに、真似してみることにしたらしい」 街の中央に行くとリオードルが貧民のための炊き出しでスープを配っている。とてもいい匂いだ。そこから更に進むとナラゴニアの商人たちの集まり「放浪商会」が今まで各世界を回って集めてきた品をバザーで安く売り、屋台もいくつかある。 今回、特別に世界図書館が、ナレッジキューブをナラゴニアの通貨に両替してくれましたので買い物は自由だ。「あと、そして、ここがダンスパーティ会場だ」 ドンガッシュが案内したのはナラゴニアの南にある城であった。その城の周りは透明色の幕のようなものに覆われている。見ると世界樹と張りあうほどの大樹の枝から幕を垂らしているのだ。 幕をくぐれば、そこは白い百合の花が一面に咲く庭の先には、見事な針のような白城が存在する。「あれは、白永城(バクエイジョウ)だ。あそこに住む女主人が、この城のホールを公開し、そこだけなら誰でも訪れていいとしている。このパーティのためにナラゴニアにいる音楽に秀でた者たちに演奏させているそうだ」 庭を抜けるころには美しい音楽の調べが聞こえてきた。 城は名の通り、永遠に続きそうな白に覆われていた。なにもかも白いのだ。まるで鏡のように。 公開されているというそこは水を凍らせたような広いホールであった。端には今回のために集められた音楽隊の一団がいる。「一応注意しておくが、ここの城の持ち主はちょっとばかりわけありな人だ。くれぐれもこのホール以上はいかないことだ。今回はプライベートな空間を使用させてくれるんだからな。ん、一緒にいたアリオのやつどこに行った?」「きっと、トイレだろう、あいつのことだ」「または迷子になっていたりしてなぁ。ははは。まさかなー」 ロストナンバーたちはからからと笑った。 せっかくのクリスマスだ。 大いに楽しもう!=============!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
とりあえず形だけでもクリスマスをやろうというナラゴニアは活気立つ。 戦争後、自分たちがどうなるかという不安が見よう見まねとはいえ祭りをすることで払拭され、人々は少しだけ浮き足立っていた。 クリスマスにリオードルやノラも積極的であったというのも大きい。 炊き出しのスープの食欲をそそるかおり、立ち並ぶ屋台やバザーには久しぶりの笑顔が溢れ、大勢の人間が闊歩する。 そのなかを桜色の竜人・レク・ラヴィーンが緑色の竜人・ディル・ラヴィーンの手を引いて元気よく歩いていた。 「アニキー、次はあっちだー」 「わかったわかった」 「こういう日って良いよな! 美味しもんもたくさん食えるしな!」 レグは大はしゃぎだ。その顔を見るとバザーを見たり、甘いものを買いたいと欲求はあっても妹の相手も悪くないとディルは思ってしまう。 「ほどほどにしとけって、あ」 「おっちゃん、この鳥肉ぽいの五十本頼む! アニキと二人で半分だぞ!」 ディルははぁとため息をついてちらりと財布のなかをみた。クリスマスが終わるまで持つだろうか……不安。 「あら、二人で楽しそうね! そのお肉おいしいの?」 「おまえの持ってる御菓子もおいしそうだな!」 レグは先に渡された十本の串を両手にティリクティアが両手に持つ果実にチョコをたらし、その上にきらきらと輝く砂糖をまぶされたスティクチョコを見つめた。 「よかったら一本づつ交換する?」 「いいなー! あ、アニキがいるから二本頼む!」 「いいわよ。はい」 「アニキ! 甘いもんだぞ!」 「ありがとう。うまいな!」 「本当だな! これだと全部まわれるころにはさすがに服の腰まわりがきつくなりそうだぞ!」 「……俺の財布のことも考えてくれ」 「ふふ、仲良しな兄妹ね。私はノラに挨拶にいかなくちゃ。そうだわ。あっちではツリーを飾っているそうよ、あとで二人も行ってみるといいわ!」 ティリクティアは手を振ってスキップするような軽やかな足取りで歩きだした。 屋台ではよくわからない肉や魚に野菜、御菓子が数多く、その横にあるバザーではターミナルではあまり見ないような品が売られて世界図書館のロストナンバーたちは興味深そうに足をとめしげしげと見たり、買い物を楽しむ。 そのなかを一一一、虎部隆、相沢優、その三人を一番年長者である鰍が引率して屋台とバザーをひやかしていた。 「おっこれおいしそうじゃないか?」 隆が指差したのは串に丸い物体に緑のたれがかかっているのが三つほど刺さっている。たこ焼きに見えなくもない。 「食べます、食べます! けどお金はもってません!」 「仕方ねぇなぁ! これくらいなら俺が奢ってやる。不味くても文句いうなよ」 隆がさっさと全員分のお金を払うと仲間たちに串を渡し、一斉にぱくり。 「こ、これは! お、おいしいです! ものすごくおいしいです! ほどよく甘くて、辛くて、それでいてとろっとしていて! 見た目はアレでも完全にたこ焼きですね!」 一が夢中でがっつくのに優も不思議そうに目を瞬かせる。 「ダシが効いてるなぁ……あ。あれってバザーかな。隆」 「ナラゴニアの食べ物も中々いけるなぁ。なんだよ。優、お、いいね。いいね! 面白い品があるかもしれない」 優に腕をひかれて隆はにやりと笑い、バザーにいそいそと歩いていく。 その横ではマッハでたこ焼きもどきを食べた一が喉に詰まらせたのか拳でぽんぽんと胸を叩いて嚥下すると今度はその隣にあるうねうねとうねっている麺といくつもの野菜を鉄板で混ぜ焼いているものに注目した。 「これを一つ、お願いします! もちろん、お財布はカジカジおじさんで!」 「おい!」 つっこむ鰍に一がにこりと笑う。 「一人暮らしで金欠と日々戦ううら若き乙女の胃袋を助けると思って!」 両手をあわせて笑顔のお願いに鰍が何か言いたそうな顔をするのに屋台の主人も尋ねた。 「で、これ、買うの? 買わないのどっちだい?」 きらきらきらきら。(一のおねがいビーム) 「く、ください」 がっくりと肩を落とした鰍はちらりと隆と優の二人はバザーの商品に夢中になっている。ていよく一の世話を任せられた気がしなくもない。 (まぁ。心配してたからな。けど、元気そうだし大丈夫か?) ジュース一つだけのつもりが、気がついたらこのビームに敗北を重ねることウン十回目。 「ありがとうございます! んー、おいしいです! 見た目はやっぱりアレですけど、やきそばですよ! コレ!」 「乙女の胃袋って、なんなんだよ」 鰍が呆れるのに一はにこにこと笑ってうねうねしている焼きそばもどきを食べている。その目がふと周りを見回した。 「どうした、一」 「いえ。なんでもないですっ!」 炊き出しがあるので声はかけれなくてもリオードルがいればちらりとでも見たいと思ったのだ。 だがリオードルはレディ・カリスの招待の支度でもあるのか、ここにはいないようだ。 「あの炊き出し、美味しそうだなぁ」 「また食いものかよ。って、はしゃいではぐれるなよって言っておいたのに、隆たちはどこに」 「見てくれ! これ!」 「うお! ゆ、優?」 鰍の前に満笑を浮かべた優が両手に差し出したのは小さな箱。 「これは?」 「箱のなかをあけると、笑いだすんだ」 ぱか。 うけけけけけけけけけっ! 思わず鰍は遠い目をした。なんか、この手のいやな笑い方をしたナラゴニアのいやなやついなかったけ? 「もう一回しめると、また笑い方がかわるんだ」 ぱか。 ふはははははははははは! クズがぁ! いや、だから…… 「面白いだろう?」 「おもしろいって」 「面白いアイテムを買うのは趣味ですもんねぇ! 以前私たち、小さくなる箱を買って大変でしたし!」 「そうそう、あ、隆もいろいろと買ってきたんたぜ」 「隆はなにを買ったんだ?」 にまぁと隆が笑う。あ、いやな予感 「五分だけ透明になれる指輪だろう? この飴玉を舐めると嘘がつけなくなるんだってよ。逆にこの飴が嘘しかいえなくなるやつで、こっちがなんと子供になっちまう薬!」 「そんなもの、なにに使うんだよ」 鰍の言葉に隆は再びにまっと笑った。ものすごく企んでいる予感。 「けど、こいつ、琥珀のブローチをフランさんに買ったんだぜ」 「ばらすなよ。優」 「へぇ」 「わぁ」 鰍と一の笑みに照れた隆はぼりぼりと頭をかいた。 「お! ありゃ、ノラだな。せっかくだし、声をかけとくか」 「俺は弟たちに土産でも買うかな」 地面に布をしき、その上に無防備に置かれた品を鰍は見下ろした。小さな筒を手にとってなかを覗くと脳に直接、鮮やかな色彩が踊るように変化する映像が流れ込んできた。 「っ、くらくらするな。けど、ようは万華鏡だよな? ……目が見えなくても楽しめるのか」 「そういうのに興味があるのかい? ならこの絵本も頭に直接絵と物語が語られるけど、いかがかな?」 鰍と一がお土産を物色する傍らで隆と優はノラに声をかけた。 「繁盛してるな。今日のこれを見て思ったけど、今後ターミナルと貿易とかどうだ? 移動手段と許可は自警団権限にあるとかさ。まぁ、完全に案だけどよ」 「へぇ。それはいいね~。放浪商会の商人のなかにはそっちで商売したいやつが多いからいろいろと協力してもらえるとありがたいね~」 ノラは大変乗り気だ。 「あの……いいかしら?」 おずおずと声をかけたのは村崎 神無だ。その傍らには途中一緒になったティリクティアがいる。 「ノラ、こんにちは! 屋台のお菓子、とってもおいしかったわ! 売上はどう? 最近困ったこと、心配なことはない?」 「なかなかいいかんじだね~。ふふ、ありがとね~」 「それで気になっていることがあるの。ね」 ティリクティアが微笑むと神無も頷いた。その両手には小さな箱。握手会のとき世話をかけてしまったユリエスへのお詫びもといお歳暮としてターミナル一おいしいといわれるカステラを持っていた。 ユリエスについて街の人に聞いても誰も姿を見かけないとしか教えてくれない。同じくティリクティアもユリエスを気にして探していたのにノラに一緒に聞こうということになったのだ。 「ひっそりと引きこもって暮らしているみたいねえ。時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃないの?」 ノラは苦笑いした。 「そう……」 神無がうなだれるのにノラはその肩を叩いてバザーに案内する。 「いろいろと面白いものがあるよ~。買っていくだろう?」 「え、あ……そうね。いろいろあって面白そう」 「ふふ。買い物のあとは、飾り付けも手伝ってやっておくれよ」 神無は興味深そうにバザーの品をみていると、とんっと体に軽い衝撃が走った。 「あ、ごめんなさぁい」 リーリス・キャロンが慌てて謝る。 「ううん。私こそ、バザーに夢中で」 「んふふ。面白い物がいっぱいあるものね! 楽しみましょう」 リーリスは機嫌よく笑ってバザーで売られるアイテムを見る。このなかにチャイ=ブレの戒めを破れるものがあれば面白いのにと考えたが、さすがにそんな御大層なものは売ってない。 「クゥとにゃんこにこの人形を買っていこうっと♪ おいくら? えーとね」 リーリスはきょろきょろと見回すと水薙を見かけた。彼も遊びにきたらしい。 「おじさぁん、里帰り? あのね、リーリス、これがほしいんだけど」 「はぁ? ……別にいいけど」 「あ、あの屋台のおいしそう! 食べてもいいよね! おじちゃんのおごりで!」 「おい、いや、まぁ、いいけどよ」 見事にかたりに成功しつつ、リーリスは御満悦に赤い瞳で道行く人を見る。 色んな者がいて、感情が渦となっていているのを見るのも楽しい。わざとぶつかってちゃっかりと吸精もしている。 「あ、ぶつかって、ごめんな……あれ?」 「いたいのわるいこと。体は良い?」 ヘータがマントから無数に伸ばした触手でリーリスの体を支える。 「平気よ。おじちゃん。メリー・クリスマス!」 ヘータはリーリスが去っていくときょろきょろと周りを見回す。 「また来れたね。今日はヒトも物も多いから、多くの情報を知れる。良いこと」 ヘータは純粋にナラゴニアのことを知りたくてクリスマスに参加した。 「ナラゴニアの行った世界はもう無いらしい、ワタシ、0世界とナラゴニアしか行ったことないから……バザーで多く情報手に入るものあれば欲しいな」 ヘータの発言は何かがおかしかった。けれどそれがなんなのかヘータはわからない。だからヘータは気にせず周りを見回して一つでも多くの情報を自分のなかに溜めていく。 リオードルの炊き出しには大勢の人間が集まっていた。ナラゴニアの者にまじって並ぶのはアマリリス・リーゼンブルグとマスカダイン・F・羽空だ。 「良い匂いだな……それに、美味しい」 スープを少しだけもらったアマリリスは味の良質さに素直に驚いた。同時にこの炊き出しに並んだ人々の多さには純粋に胸が痛んだ。 その横では道化師らしくその場で出来る芸を見せて人々を笑わせたマスカダインがもらったスープを飲みながらさりげなく街の人々に話しかけていた。 「そうでさ、リオちゃんってどうなの? 道化師がしゃべるのは舞台の上だけなのね~。ふつーは口がかたいんだよー! だからホントのトコゆっちゃいな!」 フレンドリーな態度に街の人々はリオードルの噂をぽつぽつと話した。施しを受けたり、悪さしているやつをとっちめたり、若い女の子はイメケンだとため息をつき、少年たちは憧れているともいう。一方ではクランチがいなくなってから出てくるのは小物の証……と噂はさまざま。派閥同士の争いの噂は特に聞こえてこない。かわりに翠の侍従団の中にはターミナルへの敵意を無くしていない者もいるらしい――が耳に入って来た。 アマリリスはツリーの飾り付けにも参加した。翼を利用して高い木にターミナルのツリーに飾られていたものと同じ飾りを飾っていく。 その一つ下ではタコ足を駆使して№8が飾り付けに精を出していた。 「壱番世界ではクリスマスは木に目立つ物をいろいろと飾る! と私も本で読んだだけで詳しいことは知らない!」 真面目な顔できっぱりと言いきる№8はドクロも蟲の死体も黒いリボンもがんがんに飾っていく。 「ドクロ、いいね! ハイビスカス! 問題ない! ん、この変なサンタ人形は」 「飾っておんなまし、飾っておくなまし、飾っておくなましー」 「自動でしゃべる人体模型サンタバージョン!……いいね! すごく個性的だよ!」 なんとも頼もしい。飾ってほしいと頼まれればなんでも飾るので提灯やフルーツ飾りとなんとも独特な木が出来ていく。 そのツリーの下を通ると 「ぎゃあああ、なんだ!」 「わいの愛を受け取っておんなまし!」 「メリー・クリスマス! プレゼントでやすよ~!」 旧校舎のアイドル・ススムくんである。なんと三百体に増幅したあいつらはナラゴニアに十体ほどこっそりと潜伏したのだ! ナラゴニアの人々が用意した飾りに混じり、まんまんと飾られていたのである。おそろしい子! ススムくん! しかし、ススムくんをそのまんま飾るとかどんだけまがまがしいクリスマスにするつもりだナラゴニア! はっちゃんも気がついて! ススムくんは通りかかる人々にイチゴ味の心臓を口からぺっと出してプレゼント爆弾を落しまくっていた。 また別のススムくんはクラッカーを鳴らしたり、くす玉に隠れていのがわっちがプレゼントとかいって落ちてきたりと……心臓に悪い。 さらに五体はサンタの恰好で潜伏。バザーに行きかうナラゴニアの人を発見すると猪のように突撃していった。 「メリー・クリスマス! わっちが正しいクリスマスを教えるでやんすよっ」 その言葉とともにプレゼントと言って投げられるイチゴ心臓! 「サンタは変な心臓を投げるやつだったんだ! いゃあああ」 ナラゴニアの人々に間違えた知識を大量に植え付けたのは間違いないぞ! ススムくん! 逃げ惑うナラゴニアの人々にたけたんとグロ太郎が立ちあがった。勝手にナラゴニアの愛と平和を守る戦士と宣言する二匹はススムと対峙する。 「たけー。これでもくらうたけー」 「口のなかで爆発するぐろ」 「はぅ! これは、わいが探していた魔力乾電池! ナラゴニアのサンタさん、わっち、いい子にしていたから! ばっち、え? ばっち、あ―!」 乾電池がススムくんの口のなかで謎の爆発をして散った。グッバイ・ススムくん (分裂してナラゴニアに散ったススムへの300号は仲間たちが回収後、ちゃんとなおしました) そんな混沌の傍らでは正しいクリスマスツリー作製が行われていた。 「ふふ。それだと少しおかしいわよ」 「え、そうなんですか!」 ティリクティアが笑いながら指摘するのに№8はあわあわする。 「ターミナルで飾り付けは習ったわ。綺麗に飾りましょう? はい。この金色の鈴を飾って、この星は一番上よ。ススムくんは、もう仕方ないから吊るしたまんまにしましょ。あ、口はガムテープでふさいで!」 「了解です! 任せてください!」 「え、ちょ、わっちもおろして! ぐるぐるにされて動けないでやんすよ! むぐぅ!」 木がきれいに飾りつけられるとナラゴニアの人々からため息が漏れる。その傍らではやりとげ顔の№8と満足げなティリクティア。と木に吊るされてしくしくと泣くススムくん。 「これで雪が降れば最高なんだけど、あ」 空から白い雪が落ちていくのにバザーに夢中の人々も足を止めた。それはアマリリスがノラに許可をとって降らせた幻影の雪だ。一時の幻だが、それでも人々を楽しませる効果はあった。 「雪だ。すごいなぁ」 優は微笑み、雪に見惚れる仲間たちを見ると隠しもっていたプレゼントを差し出した。 「これ、俺かのクリスマスプレゼント!」 「ふえ! え、え! いいんですか!」 「クッキーと御守りか!」 「ありがとな」 ジンジャークッキーの瓶詰と御守りを三人に手を渡した優は空を見つめて、降り注ぐ雪に願う。 たとえこの雪が幻だとしても また、来年もみんなで過ごせたらいいな 白永城での舞踏会は厳かな音楽のなか取り行われた。客は入口でくばられる毛糸のなかから好きなものを選び、それをたぐりよせ、そのもう端を持つ相手と運命的に巡り合い踊るのだ。 しかし、はじめからペアで踊ることも出来る。 「ケラケラ、メルヒオール先生はダンスのダの字も知らなさそうですから、この私が直々にダンスのアン・ドゥ・トロワを教えて差し上げますわ」 死の魔女に押し切られる形でここまできてしまったメルヒオールは困惑していた。一応は正装にして、ぼさぼさの髪の毛も整えたが、場違いさをひしひしと感じる。 「さぁ、まずはレディのエスコートですわ。私の手は脆く崩れやすいので優しくお願いしますわ」 「あのなぁ」 渋々だが自由な手を差し出す。 「言っておくが上手に踊れとかそういうの期待するなよ」 「ケラケラ! なにをおっしゃるの! 気持ちですわ、気持ち」 「気持ちなぁ」 片手しか使えないメルヒオールはぎこちなくステップを踏むのに死の魔女は嫣然と微笑んでリードされた。 ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノは高貴な雰囲気に似合う黒のロングドレス姿で糸を辿っていた。 赤の城が荘厳ならば白永城は清楚可憐で、ここで踊るならお姫様気分に浸れるだろうが……本当はアリオを誘いたかったがどこかに消えてしまった。まったく、レディを待たせよってからに。 「む」 「あ」 糸が辿った先には神無がいた。 「ここ、迷ったみたいで……え、ダンス?」 「そうじゃぞ。女同士だが、せっかくじゃ」 「けど、私手錠だし、普段着だし!」 本当は見ているつもりだったのに入口で毛糸を渡されてしまったのだ。ここで断るのも申し訳ない気持ちがする。 困っている神無にジュリエッタは微笑んだ。 「なに、手をとりあって楽しそうに踊るのがダンスじゃぞ」 「そう、なのかしら」 ジュリエッタの微笑みに神無は手を伸ばした。 聖夜に相応しくあるために黒のドレスから深紅のドレスに身を包ませて東野楽園は糸を辿る。 「あ、お姉さんだー」 糸の先にいたリーリスはにこりと笑う。男性ならエスコートをお願いするつもりだったがさすがに無理そうだ。 「女の子同士、仲良く踊ろう?」 「そうね」 手をとりあってダンスを踊る。 リーリスとのダンスのあと楽園はこっそりとホールを出た。そのとき廊下が一つ多いような現象に足を止めた。 「ここは、どこかしら? この先は玄関に」 「お嬢さん、それ以上先に行ってはいけません。奥に進んでしまいますよ。そうしたら永遠にここから出られなくなります」 振り返ると白タキシードに、目の部分に鳥の羽を模倣した仮面をかけた男が立っていた。 「白永城の主から、レディ。あなたの進みたい場所へ案内しろと命じられております。どちらにいかれるのですか?」 「私は……墓地に行きたいの。お世話になった方がいるから、エスコートしてくださる?」 男は頭をさげると腕を差し出すのに、楽園はエスコートを許した。 墓地に訪れた楽園は銀猫伯爵の墓に訪れ、冥福を祈る。 「私、少しは変われたかしら?」 言葉は無い。当たり前だが、楽園は目を細める。 「……お嬢さん、永遠なんてものはこの世に存在しません。それこそ万物の理だと主は常々いっております。流転こそ常世の秩序、貴女が変わろうと思えば物事は変化していくでしょう。よろしければ一曲いかがでしょうか?」 城から漏れ音楽は耳に聞こえてくるけれど。 「けど、ここは」 「きっとあなたさまのダンスが祈りとなり、喜ばれると思います。わたくしでは役不足でしょうか。しばし、お相手を」 手をとられて楽園は観念した。 「あなた、名前は? ダンス相手の名前も知らないまま踊るなんていやよ」 「白鶫と申します」 リードされて軽やかにステップを踏む楽園は様々なことを脳裏に思い出す。けれど過去だけを見てはいない。過去があるからこそ現在がある、そして未来も。 再びナラゴニアの地を踏む己の奇異な運命に微笑みが漏れた。 歩きださなくては何も変わらないとここで教えられた。 私はきっと変われるわ。 そして城の主は微笑んだ。 「ここにいる全員によ。さぁクリスマスプレゼントを受け取って」 「やはり。アリオはおら……おお!」 バルコニーでため息をついていたジュリエッタは空から落ちてきたアリオに驚愕した。 「いったた! 俺、ここ! ジュリエッタ!」 「っ! ……遅いぞ! わたくしは待ちくたびれた!」 「へ」 アリオが目を白黒させる。ジュリエッタは微笑んで手を差し出した。まだ音楽は続いている。 「さぁ。ダンスを踊るぞ!」 アリオは目を瞬かせていたが笑って頷くとジュリエッタの手をとった。 「あ、見ろよ。ジュリエッタ!」 「ん? わぁ」 白永城にいた人々は空を見る。白い花びらがふり注ぎ、雪に変わる。 「おお、雪じゃ。本物の雪じゃ!」 「なんかわからないけど、すげー!」 アリオとジュリエッタは顔を見合わせて笑いあい、その祝福のなかで踊った。 そして 「うお、なんだ。あれ!」 「黒い。黒いぞ! 白永城の隣に黒永城!」 ナラゴニアの人々は突然出現した黒永城を見て叫んだ。―― 一日で消えたそうだが、なんだったのかとナラゴニア七不思議になったそうな。
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