わざわざ来ていただきありがとうなのです。 大丈夫です、場所はここなのです。ここがゼロの指定した場所なのです。 何をしているか、ですか? 人を招待してお願いするためには、絞り取った鶏の血で描いた魔法陣の中央に燭台を用意し、そこに処女の髪を練り込んだ蝋燭を灯すのです。それから、その火で招待した人の名前を記した紙を仕込んだ藁の人形を焙りながら待つと聞いたのです。 さらに、招待した人が来るまでに藁の人形を4体燃やすと、招待した人は何でも言う事を聞いてくれるらしいのです。 誰に教わった、ですか? 知り合いの魔女さんに教えてもらったのです。 違うのです。ゼロの持っている人形は4体目なのです。あれ、5体目でしたか? まあ、そんなことはどうでもいいのです。 大丈夫なのです、ここで使っているのは鶏の血ではなくトマトジュースなのです。蝋燭も普通の蝋燭なのですよ。 魔女さんから教わった時、お試し用としてもらった儀式グッズには、そう書いてあったのです。 ゼロに信じられないと言われても困るのです。 蝋燭ですか? どうぞなのです。 あれ、折った蝋燭に何か紐みたいなのが入ってるです。 ……場所を変えるのです。ここは後でゼロが片付けという名目で始末しておくのです。 それでは、気持ちを切り換えるために飲み物を用意するので、少し待ってて欲しいのです。 そうそう話は違うのですが、最近ターミナルで変な飲み物が出回っているらしいのです。 それを飲むと誰でもエミリエさんみたいになるという話なのです。 見た目なのか、性格なのか、言動なのか、何がどうエミリエさんみたいになるのかは全く解らないのですよ。 それに、ドードーさんやブランさんも関わっているという噂なのです。 そのお茶の色ですか? ドドメ色をしているとゼロは聞いているのです。 お待たせしたのです。粗茶ですが、どうぞなのです。 このお茶の色ですか? 違うのです。このお茶はドドメ色ではなく、トドメ色なのです。 もっとダメと言われても、お客さんに出すと良いと聞いたお茶なのです。 誰に聞いたかですか? ほっかむりをした知らない親切な人に聞いたのです。 ゼロがターミナルをふらふらしていた時に、いきなり物陰から声を掛けてきた人なのです。 どんな顔をしていたかと言われるとですね。 ほっかむりをしていましたが、ふさふさした顔でした。 ほっかむりから、長い耳がはみ出ていたのです。 そうそう、目は真っ赤なのでした。 あれ、会っていないのに良く解るのです。 違うのです。ゼロは、ブランさんからお茶をもらってないのです。見知らぬ親切な人からもらったお茶なのです。 今は喉が渇いていないのですか。それなら、後でどうぞなのです。 さて、落ち着いたところで本題に入るのです。 これはゼロが保護されターミナルに来てからのお話なのです。 ゼロはターミナルに来てから初めて知ったのです。世界群では殆どの存在が、己を維持するために外部からのエネルギーを必要としているということを。 あ、良かったら、このクッキーをどうぞなのです。 なぜ7色に発光しているか、ですか? 「7つの味を楽しめるレインボークッキー☆」というクッキーだからなのです。 それは、レインボークッキー☆だからなのです。 どうして発光しているのか、なんで小刻みに震えているのか、それは全部レインボークッキー☆だからなのです。 ゼロはそう聞いているのです。 どんな味がするかは解らないのです。なぜなら、ゼロは食べたことがないのです。 ゼロは飲食不要なのです。なので、頂いたお菓子や食べ物はお客さんを招待したときのとっておきにしているのです。 お客さんをおもてなししつつ、もらったものを有効活用する。これこそゼロ式エコロジー殺法なのです! 本気で殺されそうなんで話を進めて欲しいですか?そんな怖いことをしようとしてる人は、ここにはいないのですよ? え、いいから進めろですか。解ったのです、それでは進めるのです。なんで涙目なのか気になるところを我慢して進めるのです。 それでですね、ゼロはエネルギー摂取に快楽を覚える性質を持ち、そこから文化といえるものを作り上げた種族、主に人間との交流を重ねてきたのです。 そしてターミナルや異世界を旅するうちに得た様々な知識から、ゼロはゼロなりの『食物』のイメージを作成したのです。 止めろと言われましても、もうイメージはできてしまったのです。 具体的には、友人や家族と食物を摂取する際に付随するおだやかで幸福な感覚なのです。 とはいえ、ゼロは友人はいますが家族はいないのです。そして、そもそも飲食不要なのです。 なので、あくまで聞いた話と得た知識による想像なのです。 ちなみに、ゼロは初めてターミナルに来たときにプリンとミルクと砂糖たっぷりのコーヒーをご馳走になったことがあるのです。 その時のゼロの感覚をゼロは説明できないのです。 ゼロは味を表現する言葉は知識として知っているのです。でも、あの時ゼロが感じた感覚に当て嵌めるべき単語が何か解らないのです。 ついでに、ゼロが食べた物がどうなったのかはゼロにも解ってないのです。 話を戻すのです。 さらに、食べるという行為が抽象的概念の段階で持ち得るイメージも想像したのです。 つまり、飢えた者の食物への激しい渇望、生命が失われつつある苦痛と恐怖。食物連鎖、喰う者と喰われる者、などなのです。 そして、ある時ふとした思い付きで、そのイメージでもってナレッジキューブを変成させ具体化させてみたのです。 急用を思い出したですか? 急用ならば仕方ないのです。それなら急いでゼロの話を終わらせる必要があるのです。 ゼロが一緒に行かないと、不思議空間に閉じ込められて永遠に出られなくなるですよ? なぜと言われましても、防犯上そうした方が良いと教えてもらったのです。 誰でも入れるけど、一度入ったらアリジゴクのように二度と這い出ること叶わぬ永遠の牢獄が防犯の基本だと聞いたのです。 誰に聞いたかは言わなくてもいいですか? 悟りを開いたかのようなお顔なのです。ついでに、お茶とクッキーで気分を癒すといいのです。 そんなに首を振るともげるんじゃないかとゼロは心配なのです。 また話を戻すのです。 そういう経緯で生まれたのが、この「謎団子」なのです! どのような生物にとっても完全栄養食品で、ロボットにも魔法生物にも無差別に必要なエネルギーを供給できるという優れものなのです! ただ問題があるとするならば、イメージするゼロが飲食不要で味覚は適当なため「味」がランダムで、食べた人の感想が「ゲロマズ」や「天上の美味」など極端なことなのです。 恐らく食うか食われるかという生命の連鎖をゼロがイメージしていたせいだと思うのです。食べる側と食べられる側では、感じるものが両極端になることを思えば当然の結果なのです。 ゼロの話は以上です。 そして、今日来てもらったのは、この謎団子を試食してもらうためなのです! ふっふっふ、試食と言っても味を確かめて欲しいわけではないのです。 この謎団子の味のランダム性の検証なのです。どれくらいの確率で、人が美味しいと感じる味が出るのか試すのです。 そこは心配無用なのです。検証ために、100個の謎団子を準備しておいたのです。 100個食べてもらえば、確率として計算しやすいのです。 ゼロも美味しいのか不味いのか解らないものを、いきなり食べてもらうのは気が引けるのです。だから、おもてなし用のお茶とクッキーを用意したのですよ。 え、それは忘れろですか? どうしたのです? 大丈夫なのですか? え、お腹が痛いです? やたらと棒読みに聞こえるのはゼロの気のせいなのですね。それなら、この謎団子を食べればいいのです。 完全栄養食品な謎団子を食べれば、お腹の痛みなんか一撃必殺なのです! 違うのです。必殺されるのはお腹の痛みなのです。栄養食品を食べて死んだりなんかしないのです。 遠慮は無用なのです。お腹の痛みを消すためにも、謎団子を食べるのです。 どんなゲロマズな味でも、栄養効果は抜群なのです。食べればお腹が治るのです。 ちなみに、100個食べてもらうことがゼロのお願いなので、急用があるのでしたら100個食べてもらわないと帰れないのです。 一気一気なのです。 おおっ、ぱくっと全部食べたのです。どうです、どんな味なのです? おおおー、口から火が出たのです。凄い特技なのです。 え、ミミズ? 違うのですか? 水? 今はトドメ色のお茶しかないのです。水はお茶で全部使いきってしまったのです。 味を消したいのでしたら、また謎団子を食べればいいのです。 きっと味が上書きされるはずです。ミックスされてトンデモゲロマズにはならないと思うのです。 根拠はゼロの直感です。はい、どうぞなのです。 ちなみに、今の味は美味しいですか? 不味いですか? 脳天ぶち抜かれて生まれ変わるような辛さ。ふむふむ、斬新な表現なのです。 これは美味しいということで良いのです? あ、違うのですね。まずは不味いに一票なのです。 次はどうです? 草原を走る風が運んできた春の花のような味? とても詩的な表現なのです。これは美味しいということで良いのです?今度は美味しいに一票なのです。 急用のためにも、次々試食をお願いするのです。 こうしてゼロは謎団子のランダム性の検証を行ったのです。 結果を言うなれば、不明なのです。 6個目を食べたくらいから、試食してくれた人が美味しいのか不味いのか良く解らなくなってきてしまったのです。 ゼロの知りたい判断基準は美味しいか不味いかだったのです。 でも、試食してくれた人は、10個目を越えたあたりから、だんだんと言葉少なくなり機械的に謎団子を食べてくれるだけになってしまったのです。 味を聞いても答えず、倒れたり、痙攣したり、跳ねたり、泣きだしたり、笑いだしたり、前転したり、ムーンウォークをしたり、とアクロバティックな表現をしてくれるだけなのです。 口元に謎団子をもっていくと、食べてくれることから食べたくないわけではないことは推測できるのです。 これは予想外の事態です。 もしかしたら、謎団子のランダム性の検証には、大勢の協力が必要かもしれないのです。 この謎団子を使って数多の世界群の食糧事情を打破しようと目論むゼロの野望のためにも、美味しい不味いは重要なファクターなのです。 万人が美味しいと感じる謎団子がゼロの目標なのです。美味しいと思えるなら、謎団子を食べようとしてくれるはずなのです。 それにしても、万人が同じ味覚をしているのならば話は簡単に済むのにです。 しかし、ゼロは諦めないのです。せっかく手段があるというのに、諦めるのはおかしいです。 まずは謎団子の美味しい不味いのランダム性の検証から始めるのです。 1人に対してすると途中で味の判定ができなくなると解った以上、次は同じ間違いをしないのです。 不特定多数の人に食べてもらい、アンケートを取るのです。今日のゼロはとても冴えているのです。 そうなると、クリスマスなどのイベントが狙い目なのです。イベントの時は、多くの人が集まるのです。 しかも、イベントならば、美味しいか不味いか解らなくても、その場の勢いで食べてくれるかもしれないです。 そうなのです、パーティーグッズということにしてしまえばいいのです。 そうして謎団子を100個配って、試食してもらった人に味を聞けば一気に目標達成なのですよ。 ふっふっふ、そうとなれば早速にも謎団子の用意を始めるのです。 依頼を受けてナレッジキューブを準備するですよ。 でも、その前に儀式をしていた部屋を片付けという名目の始末をしないとなのです。 さらに、100個完食してくれた人が倒れたまま動かないのが気になるのです。 きっと謎団子を食べ過ぎて栄養を取り過ぎてしまったのだと思うのです。 考えてみれば、1個で必要なエネルギーを供給できる謎団子を一度に100個食べたのです。 食べ過ぎで倒れてしまうのも無理ないのです。お詫びにゼロの枕を貸しておくのです。これで安眠間違いなしなのです。 では、ゼロは片付けに行くのです。協力感謝なのです。
このライターへメールを送る