「ガンシップという言葉に胸躍らんか?」 つぶらな瞳をきらきらさせながら世界司書でありマッド・サイエンティストたるアドルフ・ヴェルナーは自らも胸を躍らせた顔で口火を切った。 同じく世界司書クサナギが頭の悪い顔をロマンに歪めてうんうんと頷いている。彼の脳内にガンシップという言葉は残念ながら存在しなかったが、なんだか名前がかっこよさそうだと思ったらしい。彼の思考は相変わらず単純だった。そしてその想像は意外と遠くもなかった。 とにもかくにもロマン溢れる勇者たちの活躍の物語を割愛しつつ要約すると、こういう事である。 ブルーインブルーには、かつてこの世界を支配した文明の残滓がそこここに残っており、その一つがボンゴレ海域の小島で見つかった。だが、どうやらこの古代遺跡、警備システムが今も稼働中で調査隊が何度か発掘に向かったのだが、近づく事もままならなかったらしい。 要するに今回の任務は、警備システムを破壊或いは無力化し、調査団を遺跡まで護衛するというものである。 かくてヴェルナーはD-ポッドと呼ばれる警備システムを破壊するためのメンバーを集め、クサナギは調査隊の護衛をしてくれるメンバーを集めることで話は決着したのだった――。 ◇◇◇「ガンシップという言葉に胸躍らんか?」 奇しくも何でもなくアドルフ・ヴェルナーはクサナギに使ったのと同じ言葉でロストナンバーに声をかけ、そしてヘリボーンについて無駄話を続けた後、ようやく本題に戻って言った。「ぶっちゃけ、防御システムは大した事がない」 きっぱり。ヴェルナーは導きの書を手に言い切る。 D-ポッドと呼ばれる浮遊型球体22個が半径400mほどの遺跡を守るように配置され、それぞれが周囲300mを防御。1つが壊れても別の球体がその場所を補い、実に半径700mの半球状を監視、赤外線感知だの熱源探知だの超音波感知などにより近づく者を素早く捕捉、レーザービームをはじめとした各種銃火器で瞬時に敵を殲滅する程度のものだという。「攻略は簡単じゃ。しかしそれではつまらん。というわけで、せっかくじゃから、これを使ってはみんか?」 そうしていつもの根拠のない自信に満ち溢れた顔でヴェルナーは意気揚々とそれを取り出した。 テーブルに置かれたのはヘリコプターの模型のようだ。「アクロヘリ――RC28号くんじゃ!」 ヴェルナーが自慢げに言い放つ。隣に一昔前のラップトップパソコンのようなものが並べられた。それを開くとコンソールパネルと操縦棹が現れる。どうやらこれはアクロバティック飛行を可能にしたラジコンヘリらしい。もしかして、これが彼言うところのガンシップなのか。 ヴェルナーがリモコンのスイッチをオンにするとホロディスプレイに自分たちが映し出された。ヘリに付けられた小型カメラの映像らしい。「ガトリング砲も搭載しておるぞ」 銃身は4つ。秒間20発。口径は小さいが薬莢いらずのレールガンで6000発を搭載、最大5分間の掃射がたぶん可能。この他にも小型爆弾や煙幕などいろいろ搭載と自慢げに説明しながら、ヘリに付けられたガトリング砲の照準を動かしてみせる。ホロディスプレイ上の緑の十字に照準を合わせるための黄色い○マーカーが重なり赤く点灯――ターゲットがロックオンされた。 だが。「一つ問題があってのぉ」 唐突に声のトーンを落としてヴェルナーが言った。いつもはどんな失敗策であっても自信満々な彼にしては珍しい。「アクロバティック飛行は意外に難しいんじゃ」 どうやら自分では基本中の基本であるホバリングすらまともに出来ず、飛行試験すらしていないらしい。まぁ、発明品が試験されていないのは今に始まったことではないのだが。「そこでフライトシミュレーションソフトと講師を用意した。ブルーインブルーに付くまでロストレイルの中で練習して行ってくれ」 そうしてヴェルナーは背後を振り返った。そこに1人の男が立っている。足を悪くしているのか杖を付いた初老前の男だ。「ライナスという。ラスでいい。この足のため前線には立てないが、これに頼まれ今回フライトシミュレーションの教官をする事になった」 ライナスの自己紹介に、これ呼ばわりされたヴェルナーがいやな顔をしたが、ライナスはお構いなしに続けた。「今回アクロヘリを操る我々空戦部隊は対D-ポッドと陸戦部隊の援護が主となる」 ライナスの言に一瞬首を傾げる。対D-ポッドはともかく空戦部隊に陸戦部隊とは。 ライナスは凛とした声で続けた。「これが自分の発明品とくだらん無駄話に終始してしまったため、いろいろ情報が抜けてしまったが、もちろんD-ポッドだけが今回の遺跡の警備システムではない」 確かにそれはそうだろう。外部にこれだけの防衛機構を備えているのだ。中にもそれなりの防衛システムがあってもおかしくない。いや、むしろない方がおかしい。「このため調査団の直接の護衛が必要となる。だが、そちらは世界司書クサナギが集めてくれている。我々はそちらの陸戦部隊と連携してD-ポッドを撃墜、その後内部に突入する彼らの援護に回る」 そうしてライナスはその場にいたロストナンバー一人一人に視線を馳せて促した。「さぁ、ミッション開始だ」*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・!注意!このシナリオは小倉杏子WRの「大地を往く者」と、同じ時系列の出来事を扱っています。同一のキャラクターによるシナリオへの複数参加はご遠慮下さい。*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・
【1130】 「ひゃっほう!!」 と思わず声をあげたくなる。 陽光を浴びてキラキラと光る水飛沫をあげ超低空飛行で水面を滑る。行く手を阻むような波濤を切り裂き一気に上昇。思った以上の加速。ジェットコースターだってこんな風にはいくまい。蒼穹に投げ出されるような感覚に何ともいえない高揚感が胸を掴む。そこへ眩しいくらいの太陽を遮る大きな影。機体のノーズアートには狸の絵。 チラリと傍らに視線を向けると彼のサムズアップ。ゴーサインに気にせず突っ込むと、迷彩柄の機体は狸絵と共に綺麗な螺旋を描いて傍らを抜けていった。 間髪入れずもう一機。バスターを積んだ機体が滑空してくる。操縦棹を思いっきり右に倒すと、普通のヘリではありえないほど機体が傾いた。海と空の境界線がまっすぐ縦になると、自分自身にかかるGは足下に向いてるはずなのに、何故だか横にかかっているような錯覚を受ける。けれどどこか爽快で心地いい。 操縦棹を戻すと傍らに自分と同じ銀色の機体がよたよたとおぼつかない感じで現れた。アクロヘリRC28号くんVer F型カスタムだ。 思わず視線をそのパイロットへ向けると、まだコツが掴めていないのか、彼は真剣な面もちで操縦棹を握りしめていた。 仕方がないのだ。彼はロストレイルで移動中、改造と機体の着色に時間を費やし、殆どフライトシミュレーションに参加出来なかったのだから。改造している彼の姿に「凄いな」と声をかけたら「そっちもやっとく?」なんて言われて、つい自分の分まで銀色に着色してもらってしまった。ちょっと申し訳なかったかなと思わなくもない。しかしど素人と豪語する割には、墜落もさせずに飛んでいるのだから本当にすごいと思う。 並んで飛行。その間を神業のようにすり抜けた一機が空に綺麗なハートループを描いた。 負けじと追いかける狸絵の機体がキューバンエイトと呼ばれる8の字軌道を見せると、意外に負けず嫌いなのかもしれない神業師がスモークでバラの花を青空のキャンバスいっぱいに描いてみせる。 このバラは地上班に贈られたものか。とはいえ、ラス言うところの陸戦部隊=地上班は今頃昼食を終え出発準備をしている頃だろう、見ているかは甚だ疑問であった。 空戦部隊=ヘリ班は島に上陸後彼女らとは別れて高台に登り、双眼鏡で遺跡の位置を確認した後、ちょっと早めの昼食を摂って海の上でテスト飛行を行っていたのだ。 「ふっ。こんなものかな」 たった今、神業を見せたアインスが言った。 「まぁ、足を引っ張らない程度について行きまーす」 風圧によろめく機体を器用に操りながらファーヴニールが手を挙げる。 「調整はうまくいったみたいだ」 自分サイズに調整された操縦棹を握り、バスター砲の照準を確認していたバナーが言った。 ちなみに、バナーが取り付けた“バスター砲”とは、彼らリス族と同盟関係にあるネズミ族の発明家が開発した兵器だった。閑話休題。 「思い出すカメノコン……」 空は晴れ渡っているのに何故か黄昏顔で太助が迷彩に狸絵の機体を見上げる。 「いや、カメノコンは麻酔手榴弾だから」 思わず突っ込んだ優だったが、確かに亀型潜水艦を思い出さずにはいられない。 ホロディスプレイに映る青い空と青い海を見つめながら優は、あの亀も特に名前があったわけでもないしカメノコンでいっかと思い直した。 「さて、D-ポッドとやらを安全な場所にいながらも次々と撃墜しに行こうではないか」 機体を遺跡方面へと傾けながら意気揚々とアインスが言った。 「しかし、その安全な場所がヤローばっかで、突入する地上班が全員女性ってのも何だかな」とは太助。 「フェミニストとしてちょっと心苦しいような」ファーヴニールが胸を押さえる。 「フェミニストだったんだ?」バナーが首を傾げた。 「そこはスルーしてくれよ」ファーヴニールが目を泳がせる。 「ははは……だって、ガンシップなんて聞いちゃったらさ」 優は目をキラキラさせながら目の前にある270度3Dホロのパノラマディスプレイに映しだされた景色を見た。 壱番世界にあるRCのリモコンとは大きさも違ってなんとも右手に馴染む操縦棹。右に倒せば右に旋回。左に倒せば左に旋回。レバーを握って手前に引くと上昇。握らず引くと加速。向こうに押せばそれぞれ降下と減速だ。ギアチェンジなどはペダルで行う。左手にはタッチパネルモニタやレバーがありこちらで各種銃器などを操作する。 ゲームセンターにあるアーケードゲームの戦闘機シミュレーションを連想した。だが、これはゲームじゃない。それでもファーヴニールなどは馴染みのメンバーにイベント気分だったりもしていたのだが。 とにもかくにも戦闘機とは男のロマンであり、世界はままならぬように出来ているのだった。 ▼ 遠目に遺跡とそれを取り囲むように配置されたD-ポッドが見える。 「あ、あれが、“迎撃システム”ってものかな?」 バナーが言った。 「よしっ、頑張るぞ!」 優も目前の標的に気合い充分だ。 「ぼくとしても、がんばるよ」 バナーも勢い込む。 「おっしゃ、ばっちこーい!」 指をポキポキと鳴らすような仕草をして太助が操縦棹を握りなおした。 「誰が一番たくさん落とせるかな?」 ファーヴニールがにやりと笑う。どこかにゲーム感覚が残っているのか、それに焚きつけられる一同の目が光った。やる気度2倍(当社比)。 「どこぞの宇宙パイロット並の戦果を挙げてみせるさ、期待していろ」 ふっはっはっはっと続きそうな笑顔で、フライトシミュレーションでもトップの成績をあげていたアインスが一番を請け負った。 ディスプレイ脇のデジタル時計が1159を表示。間もなく地上班も動き出す。密林を徒歩で進む彼女らがDーポッドの射程圏内に入る前に、先行してD-ポッドを全て撃墜するのが目標。 ラス教官は足が不自由だからと、ジャンクヘヴンに残っている。代わりに。 1200。 「さぁ、ミッション開始だ」 アインスの声に4人が口を揃えた。 「さー、いえっさー」 【1203】 Dーポッドのセンサー圏ぎりぎりの上空に到達。 「全機散開! 各個判断にて自由射撃!」 楽しそうにファーヴニールが声をあげると、それまで渡り鳥よろしく並んで飛んでいた5つの機体が左右に分かれた。 中央を飛んでいたアインスの『俺に命令するな』という思考が飛んでくるのに苦笑を滲ませつつファーヴニールは機体を旋回させる。 「一番、ファーヴニール! 行っきまーす!!」 高度計を確認しながら操縦棹を奥へ倒すと、銀色の機体は妖しく陽光を跳ね返しながらDーポッドのセンサー圏内へと突入した。彼が一番を申し出たのはもちろん、全体を鏡面の如く銀色にカラーリングしたこの機体が、どこまで赤外線などの一部センサーを誤認させられるかを確認するためだ。 Dーポッドとの距離300mを切る。攻撃は、ない。 赤外線センサーを謀る事に成功したのか。 だが。 更に距離を縮めた時、別のDーポッドが視界の片隅でキランと光るのが見えた。 刹那、ディスプレイに銃撃の火花が飛び散る。どうやら距離を縮めている間に隣のDーポッドのセンサー圏内にまで達してしまっていたらしいなどと状況を分析している間もなく反射的に右に機体を旋回させると、そこにアインスの機体がガトリング砲で応戦しながら飛び込んできた。 「ひゃー……サンキュ!」 難を逃れてDーポッドと距離を開く。最初に近づいたDーポッドがアインスに向けてレーザービームを放ったが、アインスはそれを軽やかにかわして圏外へ逃れた。 今のでわかった事がある。おそらくDーポッドは個別に1つのセンサーしか持っていない。 「見分ける方法はある?」 「上部についてるLEDの色ってどうなんだろう?」 Dーポッドを遺跡の上空からズームで観察していた優が言った。LEDは二つついている。一つは白。そしてもう一つは……。 「ニールさんが近づいてたのが赤で、銃撃してきたのが緑。他にも青とかあるけど」 「博士が言ってたのは赤外線、熱源、超音波だっけ? 他にもあるのか?」 「相互に情報交換してる可能性もあるな」 「考えてても仕方ない。各個撃破だ」 「ラジャー」 応えてファーヴニールと優が二手に分かれる。 優の300m狙撃が弾幕によって相殺されると、距離を詰めるべくファーヴニールがD-ポッドに向けて翔ける。閃く輝線をかわすようにストールターン。テスト飛行の時とは打って変わって滑らかだ。 本番に強いタイプらしい、と笑うファーヴニールに優が続いた。飛来する弾丸をガトリングガンで蹴散らしながら直進。 距離にして50mほどに達した時、操縦棹の横にあるグレイのボタンを押した。機体の尻から吹き出る煙にD-ポッドと交錯。旋回。 ただの煙幕ではない。チャフ・スモークがファーヴニールを捕らえ損ねたD-ポッドを撹乱する。そこへ。 「さぁーD-ポッドちゃん、俺のケツについてこいよっ!」 ファーヴニールが別のD-ポッドを連れてきた。 「しっかり聞かせてくれよ。断末魔の叫びを!」 刹那、アインスのガトリングガンが火を噴く。D-ポッドの破砕音が大音量で辺りに流れた。 相手は機械。幾ら撃墜しても悲鳴が聞こえないので、せめて敵機の破壊音だけでも楽しみたいというアインスが、高性能集音マイクを機体に取り付け、こちらには特製スピーカーを置いていたからだ。 その話を聞いた時はなんて悪趣味なと思わないでもない2人だったが、撃破音に意外にもテンションを跳ね上げられた。 「まずは2体、っと」 ファーヴニールと優がハイタッチ。並びの関係上、アインスには届かない。 それ以前にアインスは既に別の方に視線を向けていた。 再びD-ポッドに急接近し遺跡を掠め飛んで、向こう側にまで回り込んでいたバナーの機体の傍らを抜けていく。 「行くぞ」 バナーを促すようにテールスライドで反転すると、三度D-ポッド群に飛び込もうとする。 どうやらアインスはバナーのバスター砲の威力を試したいらしい。 とはいえ、その威力を想像すると遺跡に向けてホイホイ撃つことは出来ないだろう。不用意に使えば遺跡を壊しかねないからだ。 アインスの意図を察し旋回する彼にバナーは援護射撃をしながらその機会を伺った。 「これって、使いやすいよ」 バナーが呟く。機体が小さい分、安定感はなさそうなのに、思った以上に反動を感じないからだ。 アインスのストールターン。一見闇雲にも見える飛行。だが、ニアミスしないように設計されているらしいD-ポッドの特性に合わせてタイミングを微妙にずらしながら、そのポイントにD-ポッドを誘い込んでいく。全ては計算。 アインスの機体が閃閃いた。 「お、今がチャンスだ! バスター砲発射するよ!」 バナーは発射スイッチを押した。次の瞬間、ディスプレイ映像が激しく揺れる。 「わわ!! あぶないんだよ!!」 バスター砲の反動で機体がぐらついたのだ。バナー自身は全く揺れていないはずなのだが、慌てたように腰を浮かせて操縦棹を掴みバランスをとった。 何とか落ち着いたディスプレイの向こう側では、スイッチを押した時点ではまだその場所になかったD-ポッドが、砲弾の軌跡に誘われるようにいくつも飛び込み爆煙をあげていた。 「フハハハハ! D-ポッドがゴミくずのようだ!」 アインスが高らかに笑う。心底楽しそうだ。 「うん、よかったよ」 更に4体。 ▼1205 少し遡る。アインスたちとは遺跡を挟んで反対側の森まで一気に回り込んでいた太助は、木々に隠れるようにしながらD-ポッドとの距離を模索していた。 フライトシミュレーションで彼が徹底的に練習したのはホバリング。そして鬱蒼と生い茂った森の中に機体が通れるだけの道を瞬時に導きだし進むテクニック。なればこそのリーンアクションだ。 D-ポッドとの距離を測りながら300mラインを超えた。攻撃はない。木々を盾に更に距離を縮め、木陰から出た瞬間ロックオンと同時に撃つ。ホバリング以上に練習したエイミング。 瞬発力で1機を撃墜。 太助の位置を捕えきれないのか、別のD-ポッドが飛び出してくる。それを同様に木陰から狙撃。相手も位置はわからないまでもこちらの存在には気づいているためか、掠めるだけのそれに舌打ち。 木々の合間を抜けながらD-ポッドからの攻撃をかわし巨木の影に隠れて1・2・3。3つ数えて一呼吸。操縦棹を手前に倒して上昇。横からではなく上から飛び出し、葉の隙間から見えるD-ポッドを撃ち抜く。 そのまま、別のD-ポッドに捕捉される前に木々の海へ。 「ふぅ~」 人心地吐いて太助は傍らを見た。優とファーヴニールがサムズアップを返している。 こちらも2体。 【1213】 ファーヴニールが遺跡の上空を旋回していると、遺跡に向かう途中の地上班の1人がこちらに向かって手を振ってる姿がディスプレイの片隅に映った。タッチパネルに開いて指で彼女を拡大する。セミロングに子犬のような人懐っこい笑顔は見覚えがある。新井理恵だ。 向こうから見えるわけでもないのだが手を振り返しつつ。 「上ばっか見てると転んじゃうぜ!」 なんて声をかけたその直後、理恵は目の前の大木に激突していた。 「おいおい、大丈夫か」 苦笑を滲ませつつ自身も余所見をしている場合ではなかった事を思い出して、ファーヴニールは画面を切り替え再び戦闘態勢に戻った。 まだ、この時点ではこれくらいの余裕があったのだ。 D-ポッドは全部で22体。8体撃破し残り14体となるとヘリの扱いにも慣れてきたのか撃破速度は更に加速した。 ファーヴニールがネットでD-ポッドを束ねるとバナーがそこへバスター砲を撃ち込む。最初の宣言通りアインスがどこぞの宇宙パイロットにも負けないくらい華麗に撃破していくと、優と太助の連携もこれ以上ないくらいに決まった。 ところが。 残り5体になった途端、全く攻撃が当たらなくなってしまった。どころか、最初に比べ明らかにD-ポッドの動きがよくなったのだ。 「学習でもするのか」 「ありえるね」 「あれ? 上部LEDの色が白から黄色に変わってる。何か関係あるのかな?」 「さあ?」 実はD-ポッドは2つのモードを持っていた。そしてD(守備)モードからOD(攻撃的守備)モードに移行していたのだが、もちろん彼らには知りようのない話である。 優は残弾表示に眉を顰めた。フューエルゲージが15%を切っているのだ。これ以上戦闘を長引かせる事は出来ない。それは他の面々も似たり寄ったりだろう。 突破口はどこに。 埒があかぬとアインスの機体がDーポッドとの距離を詰めにでた。それがD-ポッドの罠だと知れたのは、アインスの機体が被弾した後だったかもしれない。 「何だと!?」 D-ポッドの位置は全て把握しているつもりだった。それが思わぬ方から攻撃を受けたのである。 「速い……」 いつの間に移動していたのか。D-ポッド同士の見事な連携に一同は息を呑んだ。 アインスだけが落ちゆくディスプレイを見つめながら納得のいかぬ顔をしている。 「……くそっ、何故だ……私の操縦は完璧だった筈」 口惜しげにディスプレイを叩いた。と言ってもホログラフィなのだが。 彼のメモ帳には、ラスに教わった事がびっしりと書き込まれていた。優秀な者ほど努力は怠らないものだ。天才とは99%の努力と1%のひらめきである。即ち天才も99%までは努力せねばならないという事だ。その努力を怠ることなく極めたはずだった。 そんな自分が撃墜されることなどありえない。いや、あってはならない事なのである。 かくてアインスはその結論にたどり着いた。 「もしやコントローラーが壊れているのではあるまいな? 解体し原因を究明してやる……!」 そうしてコントローラーの解体を初めてしまったアインスの傍らで、ファーヴニールの顔がふっと変わった。それまでどこかゲームを楽しんでいる風だったのが一変、本気と書いてマジになった。何かに火が点いたようだ。 「優!」 珍しく呼び捨ての彼が目配せしてD-ポッドに突っ込む。集中力がそうさせるのか、更に動きが滑らかになっていた。続こうとする優に左手で指示。人差し指が右から弧を描くと、突き出された親指がそのまま下へ。 優は指示通りに機体を右へ傾け大きく旋回させた。それを追うようにD-ポッドの輝線が走る。 「今だ!」 ファーヴニールの合図に、優はガトリングガンのレバーを引いた。D-ポッドはそれをかわそうと右へ。ファーヴニールの機体がD-ポッドの機体とすれ違う。紙一枚の至近。二つの影が分かれた瞬間、すれ違ったD-ポッドの機体が爆発した。 「ふぅ~」 ファーヴニールの人心地。彼の機体に取り付けられていた、バイブレーションナイフがD-ポッドを両断したのだ。 ようやく1つ。 だが、D-ポッドの爆発に彼の機体も深刻なダメージを受けていた。 「げっ……」 フューエルゲージが瞬く間に5%を切り更に減り続けている。どうやら今のD-ポッドの爆発による衝撃で、燃料タンクをやられたらしい。エマージェンシーを伝えるようにディスプレイが赤く点滅した。 「ここまでか……」 自機が装備している全ての銃器の残弾を確認。撃墜出来ないまでも一矢報いてやるとばかりにファーヴニールはD-ポッドへ向け全弾叩き込んだ。 D-ポッドの弾幕。辺りは大量の煙に視界を阻また。 やがて海からの風に晴れる。 そこに姿を現したD-ポッドは――2体。 ファーヴニールの舌打ち。 後の2体は、太助とバナーに対峙していたからだ。 「絶対、たたき落としてやるっ!」 珍しく切れた様子でファーヴニールが吐き捨てた。 リモコンではなく実は機体の方に問題があったのでは、とは考えないのか、未だリモコン解体に勤しんでいるアインスの傍らで、そうしてファーヴニールはエンヴィアイと名付けられたそのトラベルギアを取ったのだった。 ▼1218 一方、Dモードにより遺跡に他者を近づかせないという受動的なものだったのが、ODモードに切り替わり近づく者を殲滅するという能動的なものに移行したためか、D-ポッドが周囲の木々をレーザーで切り倒すという暴挙に出てくれたおかげで、太助は否応なくその身を晒すことになっていた。 こうなってはリーンアクションもへったくれもない。 唯一身を隠せる場所があるとしたら、バナーの機体の後ろくらいだ。 「えぇ!?」 加速と同時にガトリングガンのレバーを握っていたバナーが思わず振り返る。 「分身の術」 太助は最近読んだ壱番世界のマンガに出てくる主人公の台詞を呟いたかと思うと、バナーの機体の斜め後方に踊り出た。残像代わりのバナーの機体にしかバスター砲が載っていないのは気のせいだ。自分の機体にしか狸の絵が描かれていないのも目の錯覚に違いない。 弾幕に奪われた視界が晴れるよりも速く、センサーが捕らえたD-ポッドをロックオンと同時に撃ち抜く。 「よっしゃ!」 「やった!」 何だか腑に落ちないものを感じていたバナーだったが、さすがに撃墜すると気分は高揚した。 「よし、次」 となればバナーが先行。残るD-ポッドの攻撃を軽快にかわしながら、間合いを詰めていく。 と、その時。 バナーは反射的に操縦棹を左へ倒していた。だが太助は右だった。 「あ……」 思わず互いを振り返ってしまう。2機は綺麗に二手に分かれた。D-ポッドの追尾は先行していたバナーの方だ。 レーザービームがバナーのプロペラにヒットした。 「うわ~!!」 バナーが悲鳴をあげる。ディスプレイにはぐるぐる回る空、程なくしてそれが大地に変わると見る見る迫ってきた。 「墜落するよ! 緊急脱出しなきゃ!!」 もちろん墜落しているのはRCヘリ28号くんであって、バナー自身は安全な場所で操縦棹を握っているのだから緊急避難の必要など全くない。しかし太助も優もファーヴニールもD-ポッドと対峙中であったし、アインスに至っては自らが撃墜された事に関する原因究明に忙しかったから、誰もそれを指摘する者はなかった。 エマージェンシーに完全パニック状態のバナーは操縦棹を握りながら、あらゆるボタンを片端から押し始めた。 「非常ボタン、非常ボタン!」 これか、あれか。 その内の一つに、彼が搭載したバスター砲のボタンがあった。パニック中なので自分が後から取り付けたものだという事にも気付かなかったらしい。バスター砲は偶然にも後1発残っていた。 高度が下がり続ける中、彼の機体はそうして最後の1発を放った。 それは必然だったのか偶然だったのか。 太助を追尾していたD-ポッドに吸い込まれるように飛んでいった。 時に計算されない動きは相手の予想を上回るものである。 ▼1220 ファーヴニールは銃剣型トラベルギア――エンヴィアイを構えた。銃の機構はレールガン。故に特殊能力の電撃を出力に変換し高加速射撃をも実現する。 とはいえ、この距離だ。 「優くん」 「わかった」 優が請け負う。距離が長ければ長いほど迎撃し易くなる。ならば、こちらを囮に使えばいい。いや、果たしてどちらが囮か。 ファーヴニールが引き金を引く。 案の定、2機のD-ポッドがそれに反応した。優が操縦棹を倒し滑空して2機に迫る。 D-ポッドらがファーヴニールの照準上で重なった。手前のD-ポッドがファーヴニールを迎撃し、後ろのD-ポッドが優を迎え撃つ構えに、ファーヴニールは口の端をあげる。 ――これが最高速度と思うなよ……。 「押し切ってやる!」 散発した弾の後を追いかける1発。アクセラレイト・ショット。 弾幕に開いた穴を突き破る。 D-ポッドの被弾。 だが、喜びを露わにする前にそれは優の声で遮られた。 「うわぁっ!?」 前衛のD-ポッドが爆発したことで、後衛のD-ポッドに特効をしかけていた優の機体が爆風に煽られバランスを崩したのだ。 更に煙で視界を奪われ、優自身はまっすぐに座っているのだが、機体の上下がわからなくなってしまった。 「操縦棹を右に戻せ! 高度が落ちてる。あげろ!」 ファーヴニールの指示に無我夢中で操縦棹を操る。優にはよくわからなかったが、この時、機体は3度も螺旋を描いていたらしい。我ながら奇跡のアクロバティック回転飛行で難を逃れたものの、恐らく2度は出来ない芸当であった。 さても人心地。 残り1機。と、浮き足だったのがよくなかったのか。 「あ……」 ハイタッチの瞬間、優の機体は撃墜された。 そして。 「機体の方が悪かったのかもしれないよ」 ようやく落ち着いたバナーがアインスに声をかけたのだった。 「!?」 ▼1225 落ちた機体を回収に行かんとするアインスをファーヴニールと優が二人がかりで引き留める。 残るD-ポッドは1機。とはいえ、不用意にその射程圏内に入るべきではない。 こちらも残るは太助の1機のみ。 とはいえ彼はリーン&エイムを徹底していたこともあり、派手なアクションをしていた他のメンバーに比べフューエルゲージにも残弾にも余裕があった。 ファーヴニールがエンヴィアイを構える。優とバナーは今にも墜落した機体を回収しに行きそうなアインスを止めながら、最後の戦いを見守っていた。 だが、太助は今一つ攻めきれないでいた。D-ポッドが遺跡を背にしているからだ。 これから調査をしようという遺跡を壊すわけにはいかない。もしD-ポッドがそれを見越して遺跡を盾にしているのだとしたら、とんでもない話だから、単純に遺跡を守ろうとしているだけに過ぎないのだろうが、何れにしても分が悪い状況である。 こうなっては、潜む物陰もない太助はD-ポッドにとっていい的にしかならなかった。 「E1座標にロックオンしといて」 太助のディスプレイを覗きながらファーヴニールが声をかけた。そこに誘い込むためのシミュレーションは終わっているらしい。 頷く太助にファーヴニールはエンヴィアイを構えると、敢えて遺跡に向けて撃った。 D-ポッドは遺跡を守ろうと動く。 E1座標の方へ。 「いける!」 だが。 「なに!?」 次の瞬間、D-ポッドは弾幕代わりに180度掃射に出た。容赦ない弾丸の嵐はファーヴニールの銃撃を相殺し、太助の砲撃をも粉砕し、更に太助の機体にまで一撃を食らわせるほどのもので、しかも5秒ほど続いた。 ようやく掃射が収まった時には太助のディスプレイはエマージェンシーに真っ赤だ。 「まずい……」 銃器類がダメージを受け、攻撃不能な上にこの状態。飛んでるのが不思議なほどである。 だがD-ポッド自身、それを最後に一切の攻撃を止めてしまった。 「ガス欠?」 「弾切れ?」 どちらでもいい。それなら助かる。だが、そうではなかったら。 「……充電中?」 「ソーラーシステムかっ!?」 「ならば、方法は一つしかない」 おもむろに太助は立ち上がった。 一同がその覚悟を悟ってその背に敬礼する。 太助はただ黙して頷くだけだ。 語られる言葉はない。 後でよくよく考えてみれば、何故と思わなくもないのだが、この時は誰もが何となくそういう気分になっていた。或いは状況に酔っていたのかもしれない。アインスを除いて。 ゆっくりと太助の操縦棹が向こうに倒された。 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」 太助の雄たけび。 彼のディスプレイのD-ポッドがどんどん大きくなっていく。 ――そして。 地上では。 「D-ポッド、撃墜成功したみたいだ」 アストゥルーゾが遺跡上空を見上げて言った。 「これでようやく遺跡に近づけますわね」 シャルロッテ・長崎が笑みを零す。 「ここは、最期(誤字)の勇姿に……というところかの」 ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノの言葉に誰からともなく一同は、きのこ雲ならぬたぬき雲に向けて敬礼していたのだった。 ――ムチャシヤガッテ……。 【1258】 双眼鏡の向こう側。 遺跡に近づく地上班をいつでも援護出来る体勢を取りつつ見守り、彼女らがその重々しい扉の前にたどり着いてから、かれこら30分近くが経つだろうか。一向に遺跡の中に突入する気配のない彼女らを訝しんで優は、ヘッドフォンのチャンネルを地上班の回線へと繋いでみる事にした。 「こちら空戦部隊。聞こえる?」 と声をかけると、ガチャガチャとした音の後声が聞こえてきた。回線に出たのは篠宮紗弓だ。 「大丈夫?」 『うん、こっちは大丈夫』 そう返す紗弓の声は特に慌てた様子も高揚した様子もなく、穏やかなものだった。中に突入するのに手間取っているだけなのか。そういえば船に乗っている時パスワードがどうのという話をしていたから、それの解読に手間取っているのかもしれない。なら、こちらも応援に向かうがと、口を開きかけた時。 後ろから悲鳴にも似た声が聞こえてきた。いや、悲鳴というよりも。 「あれ? なんか皆叫んでる?」 優は双眼鏡をズームしてみたが、今一つ何をしているのかわからない。 『えーと……ううん、ただジャンケンしてるだけだから』 「ジャンケン?」 ますます要領を得られず首を傾げる優に、興味顔でファーヴニールが声をかける。 「向こうさんは、どうだって?」 優は通信マイクを指で押さえながら不思議そうな顔で「うん?」と首を傾げてみせた。 取り敢えずジャンケンの掛け声も、その後に続く勝ったという声も、そこまで緊迫しているようには感じられないから、きっと紗弓の言う通り大丈夫なのだろう。 「大丈夫みたい」 「? そっか」 『じゃぁ、気をつけてな』 そう声をかけて優は通信を切った。 程なくして彼女らは扉の向こうに吸い込まれていく。 「僕たちの仕事は、これで終わりだね」 バナーが安堵の息を吐いた。 「あとは、彼ら次第だね」 「ああ、だけど……」 まだやる事はある。 墜ちた機体の回収だ。最後のD-ポッド撃墜後さっさと機体の回収に向かったアインスではないが、そもそも別の世界に他の世界から持ち込んだ物を放置していくというのも憚られる話である。 かくて4人は遺跡の周囲に他の防御システムが残っていないかの確認も兼ねて、撃墜された機体の回収に移った。 地上班が使ったルートを辿って遺跡の傍まで歩く。 「結局、全機ダメにしちゃったな」 優が言った。 「怒られるかな?」 ファーヴニールが肩を竦める。 「大丈夫だろ?」 ヴェルナーを知る太助が言った。とはいえ、ラスには叱られるかもしれない。 「でも任務は完遂できたよね」 バナーが念を押すように言った。3人が頷く。 「28号くん、他の依頼とかでも借りられるのかな?」と、優。 「残ってないけどな」とは、太助。 「水陸両用戦車っぽいのは動かしたし、次は機動ユニットとか動かしてみたいな」夢は大きく。期待に胸が膨らむらしい。 「遠隔操作で?」と、ファーヴニール。 「でも、持って行くとしたらロストレイルに乗るサイズだよね」バナーがミニマムな機動ユニットを想像した。 「どっかの世界にそういうのがあればいいんだよな」 などと。 そんな事を話しながらそれぞれの機体を回収していく。ついでとばかりに破損の少なそうなD-ポッドも選んで回収する事にした。 このブルー・イン・ブルーには鉄の皇帝ジェロームなんて輩もいる。旧時代を知ると同時に彼らの科学力を推し量るくらいには使えるかもしれない。 とはいえ、殆どが形を留めていなかったのだが。 【1530】 「で、結局、これだけの防御設備があるんだ、さぞやすごいお宝が眠ってるんだよな?」 漸く、遺跡を一周し終えて全員が合流したところで、ファーヴニールが言った。 「うん。楽しみだね……っと、あ、今、向こうから連絡が……」 優が通信機の着信音に気付いて回線を開く。 紗弓からだ。 「え?」 紗弓の報告に優が言葉を失った。何か凄いものがあったのだろうか。機体の解体作業に忙しかったアインスさえもが手を休め、一同は彼の次の言葉をワクテカしながら待った。 「な、何も無かった!?」 続く優の確認のそれは通信機の向こうの紗弓に向けられたものだったが。 4人は一瞬その言葉の意味を理解しそこねた。 それから時計の秒針がきっかり一周した頃。 「はぁ~!? 何もない!?」 「どういうことだ!?」 喰ってかかるファーヴニールとアインスに、優は辟易と答えた。 「だから、何もないんだって。見事なガラン堂。何かあったと思われる格納庫っぽい場所は海水に浸かっちゃってるから、これから調査だって」 格納庫と聞いて太助が腕を組み、ううむと唸る。 「まさか、あのカメノコンが……」 実はそこにあったのでは。それをかのジェローム海賊団がごっそり持っていったのか。 「確かに、奴らが持ってっちゃった後って可能性もないわけではなさそうだけど」 だとするなら奴らはD-ポッドをどうやってかわしたのだろう。島の横から穴でも掘ったのだろうか。だからその場所が海水に浸かってしまっているとでもいうのか。 推測はあくまで推測の域を出ることはなかった。そしてたぶんはずれている。根拠はないがそんな気がした。 「とにかく任務は終了ってことだな」 なんだか、どっと疲れた気分で一同は帰り支度を始めるのだった。 「アインス、ちゃんとかたずけて帰れよ」 ファーヴニールが声をかける。アインスの足元には、解体された機体の部品が所狭しと並べられていたのだ。 「……くっ」 遺跡の中身にちょっと気を取られてしまっていたアインスだったが、撃墜された事を思い出して八つ当たり気味に部品たちを踏みにじり始めた。 「私の完璧な操縦を邪魔したのは貴様かっ、貴様かっ!」 やれやれと太助とバナーは手の平を空に向けてふぅ~と息を吐く。 優が遺跡の扉へと地上班を迎えに歩き出した。 「あ、俺も行く」 その背を追いかける。 それからふと、ファーヴニールは誘われるように傾いた太陽をまぶしげに見上げた。 取り敢えず、ジャンクヘヴンに戻ったら、潮風でべたべたの体を流したいと思いながら。 ■大団円■
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