オープニング

 ある日の午後。ターミナルの一室を訪れたMarcello・Kirsch――ロキを不審に思う者など誰もいなかった。彼は依頼の説明を受けるためによく訪れていたし、そこは彼とは何度も顔をあわせている銀髪の世界史書、紫上 緋穂(しのかみ ひすい)が度々借りて
いる部屋でもあったからだ。
 だが数分経っても数十分経っても他の参加者がその部屋を訪れる様子は見られなかった。彼で最後だったのだろうか?
 しかしその事を気にする者などいなかったのも事実。誰が何の変哲もないターミナルの一室の人の出入りを逐一チェックしているだろうか。
 まあ、事実室内で何が行われていたかというと――
「こんな感じでどうかな。この間見えた限りの詳細を書きだして見たんだけど」
「……すごいな。まだこんなに色々あったのか」
 色鉛筆を使って描かれた、テーマパークのマップのようなものが机に広げられていて、ロキは説明書きのようなものを手にしていた。どうやらそれらは緋穂が描いたもののようで。
「ウサギアニモフ達は例によって旅人を歓迎してくれるし、危険はないはずだから。一緒に遊ぼうとか言われるかもしれないけれど、二人の邪魔をしちゃいけないとわかれば二人きりにしてくれると思う」
 特に年長のアニモフはそういう空気が読めるものもいるらしい。
「ああ……まあ、その辺は心配しないでおく。有難う、じゃあこれもらっていくな」
「うん。ステキなデートにしてねー!」
 出入り口のドアノブに手をかけたロキは、書類をはさんでいない方の腕を小さく上げて緋穂の言葉に応えた。



 その日、ロキと向かい合ったサシャの前に広げられたのは、可愛らしいマップと説明書き。
 一体何かと思えば、マップには所々に可愛らしいウサギアニモフが描かれている。
「モフトピアでデートしようか」
 ロキの言葉に、サシャは浮かぶ笑顔を隠しきれなかった。





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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
Marcello・Kirsch(cvxy2123)
サシャ・エルガシャ(chsz4170)
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品目企画シナリオ 管理番号1678
クリエイター天音みゆ(weys1093)
クリエイターコメントこの度はオファーありがとうございました。
天音みゆ(あまね・ー)です。
お二人に楽しんでいただけるようなステキなデートになるよう頑張らせて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします。

完全おまかせということでしたので、場所がモフトピアということもあり、以前シナリオにて登場したことのある浮島に場所を定めてみました。(参考ノベル:あなたとずっと一緒に~幸せ紡ぐ~)
ロキ様は訪れたことがおありですが、あの時よりも行動できる範囲は増えておりますので、お二人の任意でデートコースをお選びください。

今回ご用意したデートスポットは以下の通りです。細かい設定はあえてしないので、ご自由にどうぞ。
A・薄ピンクの氷の張った池の上でスケート(強く思ったことが滑った跡に浮き出てしまう)
B・山でパステルカラーの木の実や蔦や大きな葉っぱを鑑賞しつつ散歩
C・ショッピング(アニモフ達のお店屋さんごっこ。木の実と交換で手作り品が貰える)
D・ランチorディナー(アニモフ達の軽食を食べてみよう)
E・ウサギアニモフ達ともふもふ
F・うさぎアニモフ達の大道芸鑑賞
G・展望台でピンクやブルーの星を眺める(ゆっくり流れる流れ星が視えるかも?)
H・『ずっとずっと一緒にいようね式』プライベート版(結婚式の広義的意味版の式。衣装貸与あり。アニモフ達は希望があれば参列します)

全部というのはプレイングの文字数的にも難しいと思いますので、数ヶ所お選びいただくのがおすすめです。
が、せっかくなので全部、というのも構いません。

また、描写に関わるお二人のご関係の把握をさせていただきたく思いますので、非公開設定欄でもかまいませんので差し支えなければ以下の内容をお知らせ願えますでしょうか。
・お互いの呼び名
・お二人の関係(付き合ってどれくらいかとか。例えば付き合いだしたばかりとプロポーズまで済んでいるカップルとでは描写が違ってきますので…)
・どのくらいの甘さ希望か(シュガーレス<微糖<甘い<甘々<極甘<砂糖吐く位…など)


心情があるとキャラクターの把握がしやすいので、字数に余裕がありましたらぜひお書き添え下さい。



長々とした説明を読んでいただき、ありがとうございます。
楽しんでいただければ、と思います。
それでは、楽しいデートを。

参加者
サシャ・エルガシャ(chsz4170)ロストメモリー 女 20歳 メイド/仕立て屋
マルチェロ・キルシュ(cvxy2123)コンダクター 男 23歳 教員

ノベル


 ロストレイルがモフトピアの駅へとゆるりと滑りこむ。ガタン、小さい揺れが停車を告げた。
「あ……」
「着いた、な」
 言葉少なに到着を認識しあうのは、サシャ・エルガシャとMarcello・Kirsch――ロキだ。
 普段ならば、車中の時間も楽しむべしとばかりに話に花が咲いたことだろう。二人きりでの外出は、貴重な時間だ。だが、今回はちょっと違っていた。

 待ち合わせのターミナルに現れたサシャは、普段のメイド服姿ではなかった。リリイに仕立ててもらった藍色のシフォン素材の上品なドレスは彼女の持ち前の可愛らしさを引き締め、美しさとあわせて昇華させる。髪飾りとアクセサリもとっておきのものをつけて。少しヒールの高い靴を履けば、いつもと違った自分だ。背伸びのしすぎ? そんなことはない。リリイが太鼓判を押したのだから。
 約束の時間より早めに到着したロキも、いつもの装いではなかった。温かみのある生成りのロングコートに白いシャツ、淡いベージュ色のズボンを履いている。
 見慣れた姿とは違うというだけで、こんなにも緊張するものなのだろうか。
 いつもと違う装いは相手の知らなかった一面を見せられたかのように心に響き、そして得も言われぬ緊張を齎す。
 軽いノリで褒められればよかったのだろうか。いや、それが最善とは一概には言えない。互いの姿を一目見た瞬間、頬が若干の紅潮を見せた。そして、直視ができない。酷い意味で出はなく、むしろ良すぎる意味で。
 鼓動が早くなるのを感じる。どうしよう、素敵過ぎる。いつものように喋らなきゃと思えば思うほど、お洒落な装いの相手の姿がちらつき、言葉がでない。
 だから最低限の言葉を交わしてロストレイルに乗り込み、そして緊張を帯びた沈黙のまま時間を過ごしたのである。

(いつまでも、緊張しているわけにはいかないよな)
(何も、お話出来なかった……)
 先に席を立ったロキは、すうっと深呼吸をし、通路へ立つと、意を決して俯いたまま座っているサシャへと手を差し出した。
「サシャ、行こう」
「ロキ様っ!」
 差し出された手とロキの顔を交互に見て、緊張で強ばっていたサシャの表情が緩む。
「はいっ!」
 重ねられた手とサシャの満面の笑顔を見れば、ロキの緊張も解かれていくのだ。



「どこから回ろうか?」
 いざ手をとってしまえば緊張の壁など初めから無かったものになって。
 重ねた指先から感じられた相手のぬくもりが、それまでの沈黙は不機嫌だったわけでも怒っていた訳でもなく、同じ想いだったのだと教えてくれた。
「ワタシ、スケートしてみたいです!」
「スケートか、じゃあ、こっちだな」
 空いた手で持ったマップをちらりと見て、ロキは彼女の手を引く。歩く速度はサシャに合わせて、いつもより少しゆっくり目に。
(あ……)
 彼に手を引かれるサシャは、自分が小走りする必要が無いことに気がつく。歩幅を合わせてくれているんだ、そんな小さな心遣いが何よりも嬉しい。
 程無くすれば、苺みるくのような薄いピンク色の氷が張った大きな池へと辿りついた。数匹のアニモフ達が、すでに楽しそうに遊んでいる。天然のリンクは比較的空いているので、ぶつかる心配をしなくてもよさそうだ。
「旅人さん」
 リンクを眺める二人に声をかけてきたのは、ウサギのアニモフ。何かと思って返事をすれば、アニモフはスケート靴らしきものを差し出して。
「その靴じゃ上手く滑れないよ。靴、貸してあげるね」
「ああ、そうだな。俺はこの靴でも滑れそうだけど、サシャはそういうわけにはいかないだろうし」
 つ、とサシャの足元へ視線を向けるロキ。ヒールの高い靴ではさすがに無理だろう。
「有難う、借りるよ」
「ありがとうっ」
 サイズが合わなかったら言ってね~と言い残して、アニモフは元いた場所へと戻る。池の畔であるその場所にはスケート靴が並べられていて。貸靴屋さんなのだろうか。
「人間サイズのスケート靴があるんですね。もしかして、以前にもスケートをしに来た人がいるのかも」
「サシャ、足を出して」
「えっ!?」
 貸靴屋を眺めて感心したように呟いたサシャは、ロキの言葉で引き戻される。だがいつもの高さを振り仰いでも、彼の顔がない。
「その服じゃしゃがんで靴をはくのは大変だろう? 折角の綺麗な服を汚してしまうのもね」
「え、え!?」
 ロキはスケート靴を手に、サシャの正面で跪いていた。うっすらと生い茂る草の上に片膝を立てて跪くその姿は、物語に出てくる王子様のようで。サシャの思考を甘い混乱へと陥れる。
「ほら、右足からな」
 甘い誘いに導かれるようにして、ゆっくりと右足を差し出す。なんだか恥ずかしくて、足が震えるのが分かる。
 そっ、とロキの大きな手がサシャの足首に触れ、ぴくんと反射的に小さく体を震わせてしまった。それに気づかなかったのかそれとも気づかないふりをしてくれたのか、彼は壊れ物を扱うかのように優しくサシャの足を支え、ヒールを脱がす。彼女の足が汚れないようにと自分の膝に乗せて、そしてスケート靴をゆっくりと履かせる。
「きつくないか?」
「はい……大丈夫です」
 王子様に靴を履かせてもらうなんて、そんな物語の1シーンを今、自分が演じている。
 高鳴る鼓動は止まることを知らず、紅色に染まった頬とうっとりとした瞳でサシャはロキの行動を見下ろしていた。だから。
「はい、終わったよ」
「!?」
 優しい作業を終えた彼が顔を上げたものだから、瞳がぶつかったものだから、彼が優しく微笑んだものだから。
「あ……りがとう、ございます……」
 消え入りそうな声でそう返すのが精一杯だった。


「ワタシスケートって初めてなんです」
「え?」
 初めてという割には怯える様子もなくリンクへと足を下ろしたサシャを見て、ロキは慌てて自分も鏡面へと足を下ろす。
 池をリンクとして利用しているから、手すりのようなものは殆ど無い。アニモフ達の手作りだろうか、木の柵が数ヶ所にはあるが、池のぐるりを囲むまでには至っていない。
「転ばないように手を貸して……きゃっ!」
 案の定、サシャの足は上半身の準備の有無などお構いなしに我先にと滑りだす。上手くついていけない上半身をどうしたらいいのかと、バランスを取ろうと努力している彼女の身体はふらふらと揺れていて、いつ倒れてもおかしくない。
「サシャ!」

 シュッ!

 華麗に軌跡を描き、エッジで氷を削るようにして止まる。
 ぽふん……サシャの前に回り、ロキは彼女の身体を抱きとめて。
「ふう~危ない、もう少しで転んじゃうとこ……」
 しっかりとロキに体重を預けて、安心したように息をつくサシャ。
 胸に抱いた彼女の『存在』を強く感じる。ロキは伝わってくるぬくもりと柔らかさに、言葉がでない。
(怪我をさせてしまわなくてよかった……)
 暖かい、柔らかい。強く抱きしめれば壊れてしまいそうなほど、小さくて繊細で。誰かが守ってあげなくては――いや。
(俺が、護る――)
 愛しさと、大切にしたいという想いと、抱き留めたぬくもりとがロキの心を満たす。
「ごめんなさいロキ様、しがみついちゃって!?」
「……! い、いや……無事でよかったよ」
 自分の胸の中で照れたように笑う彼女を見て、想いは強まる。思ったよりも彼女の顔が近くにあって、驚きと甘い気持ちかふつふつと湧き上がる。

 彼女を護りたい――その強い想いがリンクに跡として浮き出たが、二人が気づくより先にそっと溶けた。



 パステルカラーの草花は、以前の時のように暖かい風合いで二人を迎えてくれた。野原にパッチワークの敷き布を敷いて、二人で腰を下ろす。
「ロキ様はこないだここに来られたんですよね? 色々お話聞かせてくれると嬉しいな……それとね」
 サシャがごそごそと荷物を漁るのを、ロキは黙って見ていた。やけに荷物が多いとは思っていたのだが。
「手作りのランチも持ってきたの。お口に合うといいんだけど……」
 彼女が広げたのは、手作りのお弁当。サンドイッチにスコーン、サラダやフライなどバラエティーに富んでいて。魔法瓶に入れた紅茶も一緒に。
「すごいな……嬉しいよ、サシャ」
 自然、笑顔が浮かぶ。料理好きなロキだが、やはり好きな相手が作ってくれたものは別格だ。差し出されたおしぼりで手を拭いて、サンドイッチを手に取る。

(ロキ様、お料理お上手だから……)
 料理上手な相手に自分の料理を食べてもらうのは勇気がいることだけれど、やっぱりデートといえば手作りランチは外せなくて。早起きして頑張ったのだが、果たして彼の口にあうだろうか。緊張のあまり、ぎゅっと拳を握りしめてしまう。
「うん、美味いよ。こっちももらっていいかな?」
「勿論ですっ!」
 世界が、ぱああっと明るくなって、緊張から解き放たれた。好きな人の「おいしい」がこんなにも嬉しいなんて。胸が満たされていく。胸がいっぱいすぎて、ランチが喉を通らないかもしれない。
 食べやすいように小さな器に入れたサラダを差し出して、フォークを添える。フライにはピックを刺して。
「この前来た時は、アニモフたちに飾りを作ってあげたんだ。少しでも、衣装を華やかにしてあげたくて」
 思い出を語りながらもロキの手は止まらない。食事をしながら喋るのはお行儀が悪いと言われるかもしれないけれど、でも、お喋りは料理を美味しくするスパイスの一つ。
 笑顔で手料理を食べ続けるロキの様子を見ているだけで、サシャは胸もお腹もいっぱいになってしまった。



 夜空を一望できる展望台に登ると、視界には濃紺色の空が広がって。ビーズを零したかのような色とりどりの星が散らばっていた。大きめの星がゆっくりとした軌跡で高度を下げている。『ゆっくりとした流れ星』はこれのことだろうか。
(敬語って他人行儀かな? う~でも急に直せないし、なれなれしいって思われちゃったらヤだし)
 線を引いていると思われるのも嫌だし、馴れ馴れしいと不快に思われるのも嫌だ。どちらが正解なのかなんて、全く見当がつかない。サシャがはまってしまた、うんうんと唸りそうなほどの思考の渦から助けてくれたのは、この美しい夜空。
「わぁぁ、素敵っ! パステルカラーの木々も素敵だったけど、この夜空もっ」
 思わず柵まで駆け寄って空を仰いだサシャを、ロキは微笑ましく思いながらゆっくりと追いかける。
「前に来た時、一緒に来れればな……って思ったんだ」
「そうなんですか? ワタシも、一緒に来たかったです。……でも、こうして来ることが出来ましたからっ」
 隣に立ったロキを気配で感じるも、サシャは顔を向けることができない。シフォン素材のスカートをぎゅっと握って、緊張と高なる鼓動と戦う。
 しばしの沈黙が、二人を包んだ。
 流れ星がゆるゆると流れ落ち、次の流れ星が降ってくる。
「あのっ……」
 意を決したかのように身体ごとロキに向けたサシャは、胸元でぐっと拳を握って。よく見ると彼女が小さく震えていることに気がついたロキは、柵にやや体重を預けたまま、黙って続きを待った。

「ワタシ、ロキ様の事が好きなんです」

 熱っぽい瞳で紡がれたそれは、愛の告白。
 口元に切なげな笑みが浮かぶのは、些細な恐怖から。

「クールに見えるけど優しくて温かくて……こんな人とずっと一緒にいれたらシアワセだなって」

 震えが大きくなるのが分かる。それを隠そうと、サシャは自分で自分の拳を握った。治まれ、治まれ。

「だ、だからその……かっ、カノジョにしてくれませんか?」

 言い切った! だが鼓動は落ち着きを知らない。
 この人が好きだ。涙がでるほど好きだ。この人とずっと一緒にいたい。だから――。

「……ちょっと待って、サシャ」
 サシャの告白を受けたロキは驚いた表情を浮かべた後、口元に手を当てて視線を逸らし、そして何かを考えるかのような表情を浮かべた。
(まさか、断られる……の?)
 サシャの不安が鎌首をもたげる。沈黙が、辛い。涙が浮かびかけたことを気づかれたくなくて、サシャは下を向いた。

 ふわり……

 突然、サシャをぬくもりが包んだ。気がつくと彼女は、ロキの腕の中にいた。先ほどの、受け止められた時とは違い、しっかりと彼に抱きしめられていると理解するまで少し時間がかかる。
「一緒に来れればなと思ったのは、この綺麗な景色を一緒に楽しみたかった……ってのもあるけど……」
 しっかりと抱きしめられているせいでサシャの位置からロキの顔色は伺えない。だから、彼の顔が赤くなっている事を知っているのは、夜空の星達のみ。
「ずっと……一緒にいるって、誓いたかったから」
 ぎゅっとサシャを抱きしめる腕に力を込める。壊れそうなくらい柔らかい彼女だけれど、ロキが力を込めても壊れないはずだ。だって彼は、彼女を護ると誓っているのだから。
 以前デートした時、彼女が別れ際に見せた淋しげな表情。それがずっと心に引っかかっていた。彼女がもうそんな顔をしなくていいように、自分が彼女を護ろう、護れる程に強くなりたい、そう願った。自分の前にいる彼女がずっと笑顔であるようになんて無理なことは言わない。だが彼女の表情が曇った時、それを晴らせる存在になりたい、そう強く思う。
「ロキ、様……」
 涙声混じりのサシャの呼び声に「うん」と頷いて。
「ロキ様……ロキ様……」
 何度も繰り返される呼びかけに、優しく返事をし続けた。


「あのな、サシャ。俺はもうずっと、サシャの事を恋人だと意識していたんだよ」
 ロキの呟きに驚くサシャの声が夜空に響く。
 星達はそんな二人を暖かく見守り続けていた。



 アニモフ達が貸してくれた広場には正装と思しき葉っぱの衣装を纏ったアニモフ達がすでに並んでいる。
 ロキはサシャの支度が整うのを今か今かと待ちわびていた。彼自身は今日の装いがまるで新郎のように見える事もあり、そのままで式に参加する。今までパスホルダーに収められていたヘルブリンディは、しっかりと彼の隣に。
 祖父の形見の【古い】時計、今まで袖を通したことがなかった【新しい】コート、アニモフたちにお願いして【借りた】会場、そして……【青い】セクタン。
 彼自身は気づいていないのかもしれないが、サムシング・フォーが全て揃っていた。いや、本来は花嫁が身につけるものなのだが、まあ細かいことは気にせずに。
「ロキ様」
「っ……」
 呼ばれて振り向いた先に立っていたのは、純白の葉を重ねて作られたプリンセスラインのウエディングドレスに身を包んだサシャ。先だって衣装の作り方を教わったからだろう、アニモフ達の腕は格段に上がっていて、言われねば葉でできているとは気づかない。
「あの、似合いませんか?」
 硬直してしまったロキに、しずしずと近寄りながらサシャが尋ねる。近くで見ると一段と、綺麗だ。さっきまで着ていたドレス姿も美しかったが、ウエディングドレスはまた、違った雰囲気がある。厳かだというべきか、特別感があるというべきか。
「い、いや。とても似合っているよ」
「よかった。ずっと花嫁衣裳に憧れてて……」
 アニモフから貰った虹色の花をサシャの髪に挿し、そして愛おしげに金糸の髪を撫でる。サシャもロキの胸元に、お揃いの花を留めた。


 アニモフの進行で、式は厳かに――いや、微笑ましく勧められた。そこかしこにアニモフらしい可愛い進行が混ざっていて、二人から笑顔が消えることはなかった。
(いつか、きっと、本物を交換できますよね)
 金平糖の指輪を交換して、サシャは左手の薬指に嵌められたそれを愛おしげに見つめる。願うように、小さく口づけて。
「サシャ」
 愛しい人の温かい声に顔を上げれば、優しく微笑んだ彼の手が胸元へと伸びてくる。何事かと緊張していると、「できた」という言葉と共にその手は離れて。
 手の離れた胸元に輝いていたのは、紫色の石のブローチ。
「それ、ずっとなかよしのしるしらしいんだ」
「ずっと……」
 赤い部分と青い部分が混ざり合って紫色を作り出している。もう赤と青だけに戻ることないそれは、永遠の証。
「ありがとうございます……夢みたい。すごく幸せ」
 一度瞳を閉じたサシャの睫毛から、はらりと透明な涙が落ちる。だが瞳を開けた彼女は、今まで見たことのないような笑顔で。
「好きな人と式を挙げるの、子供の頃からの夢だったの!」
 咲いた笑顔と共に涙の雫が飛び散り、松明の明かりにキラキラと光る。
「サシャのそばにいると、世界はいつでも美しく見えるよ」
 キラキラと輝く彼女の笑顔に引かれるように、ロキの顔がサシャの顔へと近づく。思わず固く目を閉じるサシャ。ふわり、暖かな感触は頬へと着地して。
「……ごめん、つい……」
 彼女があまりにも可愛くて。愛おしくて仕方がなくて。気がつけばその柔らかな頬に唇を落としていた。自分の顔が熱くなっていくのが分かる。こんな顔、見せられないとロキは視線を逸らしてしまった。
 先ほどのキスは夢ではないということを確かめるかのように、サシャはそっと自分の頬に手を当てる。まだ、感触が残っている気がする。
「謝らないでっ……嬉しい」
 はにかんで小さく呟かれた言葉にほっと胸を撫で下ろし、彼女を再び見つめる。
 参列していたアニモフ達が「誓いのキスだったねー」と嬉しそうに語り合い、二人を祝福していた。


 夜空の流れ星は二人の想いを受け取って。
 そしてそれを叶える手伝いをするべく、夜空を流れていく――。

クリエイターコメントこの度はご参加有難うございました。
お待たせいたしました。
デート、いかがでしたでしょうか。

段落タイトルまで削らざるを得ない字数との戦いで、描写しきれなかった部分もありますが、お二人のドキドキと募る気持ちを描き上げられていれば嬉しいです。
ちょっと甘さが足りないかなぁと思う部分もありましたが、お二人の出発当時のご関係を考慮に入れてこのような形になりました。
少しでも、喜んでいただけますと幸いです。

サシャ様がリリイさんに作成してもらった服、合っておりますでしょうか。一応探してみて見つけたのが、この服だったのですが……。

最後まであたたかい思いで書かせていただきました。
有難うございました。
公開日時2012-03-05(月) 21:40

 

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