イラスト/ぷみさ (iabh9357)

オープニング

▼0世界、ターミナル、トラベラーズカフェの一角
 花も恥らう年頃の乙女なロストナンバーの面々が、トラベラーズカフェに集っている。黄色い声を響かせながら雑談に花を咲かせている。
 話の始まりは、仕立屋のリリイ・ハムレットに注文した衣服を身にまとい、画廊街の画家たちに描いてもらったその姿絵を手に、わいわいとお話していた時のことだ。

「いいなぁ。皆さん、とっても素敵に描いてもらって。お洋服もかわいいし……」

 舞原・絵奈(まいはら・えな)は、テーブルの上に広げられた皆の姿絵、篆刻写真、イラスト等を眺めながら、うらやましそうな溜息をひとつ。
 シーアールシー・ゼロも写真のひとつを手に取り、瞳をきらきらさせながら、うっとりしている。
 
「ゼロも皆さまを見習って、そのうちお洒落に挑戦してみるのですー」
「ゼロちゃんは、ピンク色の甘ロリな服とか着たら、とても美味しそ――げふげふ、似合いそうだよね」

 蜘蛛の魔女は、邪(よこしま)なうっかり発言を咳き込んでごまかしつつ、こくこくと頷きながら言葉をつなげた。
 そうしたら今度はティリクティアがぽむ、と手と手を合わせて。

「じゃあ、今度どこかショッピングに行かない? ゼロに似合う服、色々と考えてみたいわ」

 指をしゅぴんと立てながら体を乗り出し、わくわくした様子で提案した。
 サシャ・エルガシャは、祈るように絡ませた手をぶんぶん揺らしながら「楽しそう!」と笑みをこぼす。

「蜘蛛の魔女ちゃんとゼロちゃんが並ぶと、白黒コンビで映えそうだね。ぜひ、隠し撮り写真を横流しお願いします」
「任せて、サシャ。ゼロの可愛い写真をいっぱい撮ってくるわ」

 ぐ、と拳を握って強く返すティリクティア。
 そこへ一人、すました様子で紅茶を口にしていたシュマイト・ハーケズヤが、サシャへ向けて問いかけた。

「その言いようだと、サシャは行かぬのか? 予定があるなら話は別だが、せっかくなら皆で行けば良いものを」

 シュマイトを除いた一同は一瞬だけきょとんとした。やがて、この面々でショッピングに行く様子だとか、ゼロをはじめとしたメンバーを各々がきゃいきゃいと着飾る光景などを、ふつふつと想像して。
 蜘蛛の魔女がガタンと席を立ち、にししと悪戯っぽく笑いながら、それぞれの顔を見て言った。

「それならほんとに行っちゃおうよ。リトル・レディ・イレギュラーズ集合! ってことでさ」
「えっ、ほんとに行く? 行くなら行きたいな、とっても……! 予定は空いてますっ」
「ゼロも行くのですー」

 サシャとゼロも勢い良く立ち上がり、はいはーいと手を上げた。
 皆が出かけるきっかけとなったようで、それは幸いだとシュマイトは涼しげに微笑み。

「うむ、そうした戯れもまた一興だろう。行ってくるといい」
「何言ってるの。夜はシュマイトを中心に、皆で恋愛会議をしないといけないんだから。あなたも来るのよ!」

 びし、とティリクティアが言い放つ。優雅に紅茶をすすっていたシュマイトが、その不意打ちを耳に入れて咳き込んだ。
 それはさておき、蜘蛛の魔女は拳を意気揚々と振り上げて。

「よし、じゃあリトル・レディ・イレギュラーズ結成だねっ。という事でサシャちゃん、リーダー宜しく!」
「おまかせあれ!」

 びし、とノリノリにサシャが敬礼を返す。
 一方、周りに比べて控えめではあるが、舞原も表情を弾ませて。

「皆でお出かけ、楽しそうっ。ショッピングはどこの世界に行きましょうか?」
「私、壱番世界はお洒落な物がたくさんあって、素敵かなって思うのだけど」

 ティリクティアの言葉を聞いて、サシャは懐から取り出した手帳にさぱさぱと目を通し始めた。

「えっと確かこのあたりに……うんうん。丁度、壱番世界で大きな依頼があるって言ってたよ、司書さんたち」
「サシャさん、きちんとメモしてるんだ……? さすがメイドさんねっ」
「こうしないと忘れちゃうんだ。たまにメモ帳も無くしちゃうんだけどね!」

 尊敬の眼差し注ぐ舞原に、サシャはあっけらかんとした笑いを返す。
 ともあれティリクティアは腕を組み、満足そうに頷いて。

「じゃあ、その依頼のついでにショッピングね。決まりだわ」
「でも、大丈夫かな。大きな作戦だって聞いてましたけど……」
「げほげほ。そうだぞ、簡単に言うが……」

 心配そうに声を小さくする舞原。それに続けて、シュマイトも口許をハンカチで拭きながら、冷静に皆へ忠告をする。
 けれども、そんな心配なんてなんのその。瞳に炎をたぎらせながら、蜘蛛の魔女が拳を硬く握り締めている。

「大丈夫! 乙女の底力ってのを見せてやろうじゃない。依頼のひとつやふたつ、ちょちょいのちょいで解決しちゃうんだから!」
「そうそう。だって早く終わらせちゃえばいいだけの話だもんね」
「ついでなら、チケット代も浮くのですー」

 テンションが高めなこともあってか、いつの間にかサシャとゼロは、互いに両手つないで顔を突き合わせ、るんるんと楽しそうな様子でゆったりと踊っていて。
 シュマイトは呆れたように肩をすくませながら、ステッキを手に取りしゃんと立ち上がる。

「やれやれ、元気なことだ。……しかし、そうした旅路も違った味わいがあるやもしれんな、悪くは無い。――ならば早速、旅支度をするのみ。そうだろう?」

 シュマイトの問いに続いて、皆が一斉に、おー! と拳を突き上げた。
 そうしてやけに楽しく盛り上がっている面々の様子を、カフェの客やカフェを通り過ぎる者たちが不思議そうに見守っていた。


▼壱番世界にて
 あなたたち女の子ロストナンバーは今回、壱番世界にて(遊びたい故にちゃちゃっと手早く迅速に、けれど至って真剣な態度で)とある依頼をこなしました。
 作戦的にもやや規模が大きく、数日をまたいでの大掛かりなものになる予定でしたが、滞りないどころかいたって快調に進行し、大きな被害もなく作戦は終了。帰りのロストレイルがやって来るまで(計画通りに)かなりの空き時間ができてしまいました。
 そんなとき、とあるコンダクターが皆に提案しました。

「じゃあせっかくだし〝壱番世界の春〟を体験してみ――」
「もちろん、最初からそのつもりよ!」(byティリクティア)
「またあの宿のお世話になるのです。鍵をよこせなのですー」(byゼロ)
「ゼ、ゼロちゃん、よこせじゃなくて貸してください、ね?」(by舞原)

 ――というわけで(別荘主の言葉をゼロが遮りつつ)、仕事をいつもより手早く終えて、予想以上に(ほんとは想定どおりに)時間を余らせてしまったあなたたちロストナンバーは、(あくまで偶然を装って)少しの間だけこの壱番世界に滞在することとなりました。
 凶悪な特殊能力者が跋扈(ばっこ)するような危険な世界でもなく、常識さえ守れば比較的平和で、穏やかなこの壱番世界。今、この世界では春が近づいていました。柔らかな春風にのり、桃色の花弁が踊るように人々の間をすり抜けていきます。
 あるコンダクターが都心からやや離れた場所にちょっとした別荘を持っており、そこを借りることになりました(宿の確保には成功!)。まるで旅館のように大きく、和の情緒に溢れたこの別荘を拠点にし、色々と遊ぶことができます。

 別荘は都心から離れた場所にあり、周囲に建物は少なく、雑多とした生活音もありません。周辺は山と田んぼと畑が広がっていて、豊かな緑が視界に飛び込んできます。そのゆったりとした風景は、きっと心が安らぐことでしょう。
 小さな山の上に咲き乱れた桜の木の下で、お花見という習慣を愉しむ風習がこの世界にはあるのだそう。体験してみるのも一興かもしれません。
 もちろん電車に乗って都心部に出て、ショッピングや観光をするのもいいでしょう。遊園地もデパートも賑わっています。衣替えの季節に乗じて、壱番世界の服で着飾ってみるのも楽しいかもしれません。
 修学旅行気分で、夜には女の子だけのとくべつな時間を過ごすのも楽しいかも。(「ま、またその話を持ち出すのか?」byシュマイト)

 壱番世界とはほど遠い異世界出身のツーリストは、これを機に壱番世界の魅力に触れてみませんか?(「大丈夫、言われなくても色々するから!」by蜘蛛の魔女)
 逆にコンダクターの皆さんは、仲間たちに壱番世界の文化を教えてあげては如何でしょうか?(「もちろんです、何でも聞いてね。あ、でも知らないこともあるよ!」byサシャ)

 ――これは、とあるロストナンバー達の、ちょっとした春休み。女の子だけの、とくべつな。



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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
ティリクティア(curp9866)
サシャ・エルガシャ(chsz4170)
シーアールシー ゼロ(czzf6499)
舞原 絵奈(csss4616)
シュマイト・ハーケズヤ(cute5512)
蜘蛛の魔女(cpvd2879)
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品目企画シナリオ 管理番号1768
クリエイター夢望ここる(wuhs1584)
クリエイターコメント【シナリオ傾向キーワード】
お出かけ、お休み、お遊び、どたばた、まったり、ゆったり、のんびり

【大まかなプレイング方針】
・空き時間を壱番世界で過ごすことになりました。昼間は何をしよう? 夜は何する?
・お家で遊ぶ? お外に繰り出す? どんな風に遊ぼうか。

【シナリオ概要】
 時期的には春・真っ盛りシーズン。その間に、色々と遊んだりするシナリオです。
 危険なことも難しいこともありません。ひたすらまったり。場合によっては、コメディな珍騒動もあったりなかったり。
 コンダクターとツーリストでは、壱番世界に関する知識に差があると思いますので、その辺りはプレイングのネタに生かしてみるといいかもです。リードするのもいいですし、リードされるのもいいですし、勘違いとかも面白いかもしれません。

【挨拶】
 今日和、夢望ここるです。ぺこり。
 この度はオファー、ありがとうございます。まさか休日紀行が企画シナリオとして利用されるなどとは思っておりませんでした。当コンセプトが皆さまのお役に立てて、光栄です。頑張りますので、よしなにお願いいたしますね。
 しかし今回のロストレイル休日紀行は、仲良しな女の子たちによって企画された特別なもの。めいっぱい楽しんでくださいませね。
 プレイング期間、製作期間、ともにやや長めに設けてあります。ですが時間があるからとうっかり忘れて、白紙で提出してしまわないよう、ご注意くださいませ。せっかくの企画シナリオですもの。
 それでは皆さまからのプレイングをお待ちしております。

参加者
サシャ・エルガシャ(chsz4170)ロストメモリー 女 20歳 メイド/仕立て屋
ティリクティア(curp9866)ツーリスト 女 10歳 巫女姫
舞原 絵奈(csss4616)ツーリスト 女 16歳 半人前除霊師
シーアールシー ゼロ(czzf6499)ツーリスト 女 8歳 まどろむこと
シュマイト・ハーケズヤ(cute5512)ツーリスト 女 19歳 発明家
蜘蛛の魔女(cpvd2879)ツーリスト 女 11歳 魔女

ノベル

▼都心部中央、百貨店にて
 まず一行が足を向けたのは、都心部にある大型百貨店だった。
 目移りしてしまうくらいの豊富な品々に囲まれながら、賑やかな店内を散策する。

「お、これこれ! ゼロちゃん、こーゆーの絶対似合いそう」
「白や銀以外のものを着るのは初めてですー」

 蜘蛛の魔女(くものまじょ)が、濃い桃色を基調としたロリータ・ドレスを手にとった。シーアールシー・ゼロの手を引っ張り、二人で試着室へと駆け込む。
 そしてゼロを着替えさせたら、大きな鏡の前でターンさせたりポーズさせたり、そしてまた違う衣装を手にとっては着替えさせ、を繰り返す。ゼロはほわーっとした表情で、服を着せられたり脱がされたりと、されるがまま。
 ゼロと試着室に入るときだけ、魔女の手つき(背中の脚つき?)がわきわきといやらしい。シュマイト・ハーケズヤは、それを何とも言えない視線で苦笑しながら見守るだけだ。

「うーんと、ゼロちゃんにはファンシーな子ども服だよねー、やっぱり。これを下に着て、上にこれとこれを組み合わせて……。シュマイトちゃんには、格調高いゴシックドレスかなぁ」

 ずらりと並んだ洋服の中から、サシャ・エルガシャは次々と服を手に取り、少しだけ逡巡してからまた別の服をと、迷うことなく選別していく。
 その手際の良さに、舞原・絵奈(まいはら・えな)とティリクティアの二人は目をぱちくりとさせる。

「サシャさん、すごい……何であんなにテキパキ選べちゃうんだろう」
「やっぱり、メイドをやっていたサシャは違うわね」
「ふふっ。それもありますが、何を隠そうリリイさまの助手志望ですから! ワタシの見立てに狂いはないのですっ」

 スカートの裾を可憐に翻しながら、サシャはくるんとその場で回り、胸に手を添えて華麗に決めポーズ。
 おめかしされたゼロが、その横ではらはらと紙吹雪を散らしてくれる。魔女は小さなラッパを吹いて盛り上げた。

「えへへ、ありがとー。それにしても壱番世界のデパートってたくさんの物に溢れてるし、コーディネートも力が入っちゃう。ゼロちゃんもシュマイトちゃんも、みーんな素材がいいし。うふふ、腕が鳴るなぁ」
「ねぇねぇ、サシャ。それなら私の服も見立てて頂戴。普段はスカートでいることが多いから、もっと動きやすくてカジュアルな服がいいのだけれど……」
「あ、あのっ、私もお願いします……!」
「やーん、こんなに可愛いコたちのコーディネートができるなんて、メイド冥利に尽きますっ。サシャにお任せ! うんと素敵なの選んであげるねっ。お嬢様方、少々お待ちください」

 指を絡ませた両手をぶんぶん振りながら、サシャは鼻歌まじりに二人の服を選んでいく。
 そうしていると、ある試着室のカーテンから魔女がひょっこり顔を出した。悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「寄ってらっしゃい見てらっしゃい! シュマイトお嬢さんのお披露目だよぉ――ほらシュマイト、ここまで来たんだから恥ずかしがってないでさぁ」
「だ、だがまだ心の準備がだな……」
「えぇい、じれったーい!」

 魔女が一旦、カーテンの奥に引っ込んだ。そこから強引に皆の前へ連れ出してきたのは、珍しく、というよりも初めて目にする、シュマイトのスカート姿だった。
 チェック柄のミニスカートを履き、上着には少し大きめのニットセーターを合わせて。内股でもじもじと恥ずかしそうにスカートをおさえているシュマイトは、普段のクールな雰囲気はなくて、すっかり年頃の女の子になっていて。

「いや、これはだな、その。ス、スカートを履いてみたのだが……こ、こんなにもスースーするものなの、か? 頼りなくて落ち着かん」
「ぶらぼぉぉぉぉ!」

 シュマイトの可愛さに耐え切れなくなったサシャが、思わず抱きついて頬擦りする、という暴挙に出たりもした。その横で、ゼロは引き続き紙吹雪を散らしてくれる。
 絵奈は、はしゃぐサシャに代わって彼女のカメラを手に取り、そうしたやり取りを何枚も写真におさめた。


▼電車のなかにて
 一行はショッピングを済ませた後、電車に乗った。
 春真っ盛りの花見シーズンは誰しもが桜を観賞しようと山々に押し寄せ、混雑してしまう。だけど別荘の主人から秘密のスポットがあると教えてもらい、そこへ電車で向かっている最中だった。

「うんうん。絵奈、よく似合ってるわ」
「そ、そうですか……? えへへ……」

 サシャの見立てとティリクティアからの一押しで、絵奈はノースリーブのワンピースを見繕ってもらった。白を基調としたそれに、ちょっとしたアクセントに首飾りなどを身につけている。絵奈は顔を伏せ、照れくさそうに笑う。
 その隣に座るティリクティアも、普段とは装いが違う。フレアになったショートパンツに、ラインの入った長袖の上着を合わせている。いつもの長いスカートとは違って、すらりとした脚を露にしていて。これならば、元気に動いても差し支えはなさそうだった。

「えぇ、とても! ねぇ絵奈、他のひとのものを選んであげるのもいいけど、絵奈も自分で自分を着飾ってあげなくちゃ」
「そ、そうかな……」

 歳はティリクティアの方が幾分も下であるが、暮らしていた世界と環境の違いからか、どこか頼りがいのある雰囲気を漂わせて。ティリクティアは絵奈に助言している。

「ねぇ、ところでさ――」

 魔女は、服の色合いや雰囲気こそいつもの黒と変わらない。けれどそのゴシックなドレスは、ゼロの見立てで袖が短いものが選ばれた。スカートの裾は正面から大きく割れており、そこからは下に穿いた丈の短いズボンが見える。ドレスとはいえ、活動的に体を動かせそうな装いだった。
 そんな魔女はふと思いついたという様子で、皆に問いかけてくる。

「さっきから皆が言ってる〝ハル〟ってなーに? おいしいの?」
「い、今さら!」
「ゼロは知っているのですー」

 サシャがオーバーなリアクションで驚く横で、ゼロは床につかない足をぱたぱたさせて。

「ハルは美味しいもので溢れているのです。例えば、サシャさんのセクタンが抱えているその包みは、ハルがいっぱいに詰まっているのですー」

 ゼロが指差すのは、サシャの横にいるポンポコセクタンだ。布にくるまれた四角い大きな包みを、大事そうに両手で抱えている。
 
「そういえばそうね。その大きな包みは何?」
「私も気になります」

 ティリクティアや絵奈が興味心身といった目を向けると、セクタンはその視線を避けるように包みを遠ざけ、「だめ」と言いたげな顔で見つめ返してくる。
 サシャは立てた指を口許にそえ、ふふふと皆に微笑み返しながら「まだ内緒だよー♪」と愉しそうに返すのみ。

「で、シュマイトは何見てんの?」
「あぁ、電化製品のカタログだ。壱番世界に浸透している文化は、前から少し気になっていてな……」

 シュマイトは、駅前にあった電化センターの店先で配布されていたカタログをひらき、ふむふむと興味深そうに目を通していた。

「壱番世界の機器は、効率が重視された便利なものも多いと聞く。サシャなら、例えばほら、この多機能オーブンなどどうだ」
「はわー。便利そうだけど、使いこなせるかなぁ……デンキセーヒンは少し苦手なんだよねー」
「そういえばサシャって、壱番世界でもちょっと昔の時代のひとなんだっけ?」
「うん、そうだよ」

 魔女の問いに、こくんと頷いてサシャは返し。

「ワタシが暮らしてた頃は、デンキなんてまだ学者さんしか触れてないようなものだったんだ。ワタシにとって、灯りはオイルランプ、暖房は暖炉、移動手段は馬車の時代だったの。まぁコンダクターのお友達の影響で、いじったり触ったりはちょっとならあるけど」
「で、そのデンカセーヒンっておいしいの?」
「た、食べたらさすがにおなか壊すと思うよ……!」
「君は機械まで食べるのか」

 でれー、と口端からよだれを垂らす魔女の期待に充ちた眼差しに、サシャは苦笑い。シュマイトはいつものことと、魔女の言動には落ち着いた様子で対応するのみ。
 そうしているうちに、電車はあっという間に停車駅へと到着し。

「皆さん、ここの駅で降りるのです。早く行くのですー」
「ごーごーごー!」

 ゼロと魔女は、我先にと小走りでささっと下車してしまう。案の定、自分のぶんの手荷物は置きっぱなし。

「あーっ、ゼロちゃん魔女ちゃん! 荷物忘れてますよー!」

 二人の荷物を抱え、絵奈はあわわと慌てて飛び出していく。席に残されたのは、肝心の絵奈自身の荷物で。

「……ふむ、絵奈は天然だな」
「絵奈は天然ね」
「絵奈さまは天然だねー」

 シュマイトとティリクティアとサシャは、微笑ましい失態に口許を緩めて。
 ともあれメイドたるサシャが、そうしたおっちょこちょいなお嬢様の荷物も抱えて。忘れ物がないかを確認してから、最後に下車をした。


▼秘密スポットにて
 柔らかな風が撫でるように吹きつける。
 あたり一面に植えられた桜の花が震えた。風はゆるい渦を巻き、淡い桃色の花弁を青空へと舞い上げた。
 桜の木に囲まれた原っぱを歩き花見を愉しんでいた一行は、無数の花弁が可憐に踊るさまを見て、感嘆の吐息をもらす。

「これが壱番世界のサクラなのね。とても素敵だわ」

 ティリクティアは両手を左右に広げてゆっくりとくるくる回りながら、花弁と一緒になって気持ち良さそうに踊る。
 ゼロは、ひらひらと舞い落ちる花弁を追いかけている。長いロリータ・ドレスのスカートの裾をたくし上げ、そこに花弁をたくさん集めようとしている。集まった花弁は一気に風の中へと解き放ち、吹雪のようにまた散らしたりして、その様子を愉しんで。

「きゃー、もう二人とも花の妖精みたいっ。うふふ、お嬢様方の素敵な姿はきちんと残しますともー」

 メイドのサシャは浮かれたように黄色いはしゃぎ声をあげて。子煩悩な親のように、カメラのシャッターをぱしゃぱしゃ切りまくる。

「これが桜……すごいなぁ。華やかで綺麗……」

 零れていく桃色の花弁を、絵奈はうっとりとした表情で眺めている。宙にそっと掌を差し伸べる。そこへ一枚の花弁がひらりと落ちてくる。

(でも……なんだか寂しくも見えます。なぜかな……)

 控えめながらも明るくはしゃいでいた絵奈のテンションは、少しなりを潜めて。
 盛大に咲き誇りながらも、風にそっと撫でられるだけで命を散らせてしまう、儚くも美しいその光景に。絵奈はしっとりと心を沈ませる。

「花、草、風、空、雲、そばを流れる小川。自然が内包する数式や構造は、実に美しい。解析しながらその中に佇むのも、乙なものだ」

 そうして満足げな様子で呟くシュマイトが、ちらりとサシャに意味深な視線を送る。

「ここに飲物と菓子でもあれば、さらに良いのだが――なあ、サシャ?」
「ご心配なく!」

 サシャが爽やかに言い放った。皆がサシャのほうを見やる。
 いつの間にか、桜の木の根元に大きな敷物(セクタン柄)が敷かれ、その上にサシャとポンポコセクタンが陣取っていた。開かれた大きなバスケットが口を開けている。その中から取り出されたと思わしき、洋風のティーセットやお皿が並んでいる。スコーンやクッキーなどのお菓子類が準備されている。おにぎりやサンドイッチ、ちょっとした一品おかずなどの軽食類もあって。
 サシャは、手に顕現させたトラベルギアのティーポットを手馴れた調子で操り、あっという間に6人+セクタン1匹ぶんの紅茶を淹れた。

「メイドたるもの、準備と支度にぬかりはございません! お花見に備えて、きちんと用意してまいりましたー。さー、お嬢様方どうぞこちらへっ」
「わぁ、サシャさんすごい! お弁当に定番のおかずから、お菓子とお茶まで用意してあって……みんなおいしそうっ」
「ゼロの予感は当たったのですー。おいしいハルが詰まっていたのですー」

 シートの上に並ぶ品々を見て、絵奈は表情を弾ませる。ゼロはスキップしながら、滑るようにシートへ上がりこんでくる。

「ひゃー、すごいじゃんサシャ。これならいつでもメイドになれるね」
「元々メイドだったメイドに何を言っているのだ、君は」

 並んだおいしそうな料理の数々を前に、ぼたぼたと垂れるよだれを拭いながら、魔女がとんちんかんなことを口にする。シュマイトが的確にツッコミを入れる。

「まーまーいいじゃん細かいことは。それより早く食べよ! サシャに感謝しつつ、いっただっき、まぁーす!」

 魔女の一方的な号令に合わせて、皆も同じく言葉を口にして。
 それからサシャが用意した食べ物やら飲み物やらを、のんびりまったりとつつき始める。

「やー、サシャの料理ってやっぱり美味しいわー。むぐむぐ」
「ごめんなさい、魔女さん。そっちにあるサンドイッチのお皿を……」
「あ、取ってあげよっか? ほいさ」

 蜘蛛の脚を巧みに扱い、魔女は絵奈にサンドイッチを手渡した(脚渡した?)。
 そうしながらも魔女は、自分の両手と他の脚も使って、たくさんの料理を手にとってはがつがつと喰らいついている。

「もう少し落ち着いて食べても、料理は逃げんぞ……まぁ、喉を詰まらせぬようにな」

 苦笑しつつ、シュマイトは上品に紅茶をすすっている。紅茶の香りと味わいの深さに、ふむと納得するように頷いて。

「また腕が上がったな。実に良い味だ」
「ほんとう、サシャは料理が上手よね。これなら毎日食べても飽きないわ」
「えへへ。お褒めに預かり光栄です」

 シュマイトやティリクティアの賛辞にはにかみながらも、サシャは手際よく料理を取り皿に取り分けている。
 そして案の定、喉を詰まらせて悶えている魔女へ、水筒から注いだお水を一杯、すかさず差し出して。気が利いて当たり前のメイドさんっぷりをよく発揮している。

「ねぇサシャ、このお団子みたいな三角形の食べ物は何ていうの?」
「あ、それはね。お団子じゃなくてライスボールなの。壱番世界だとオニギリとかオムスビって言うんだって」
「これもほんとにおいしいです、サシャさん。……あ、そういえばゼロちゃんが何か食べているところ、初めて見たかも」

 ゼロがおにぎりやら唐揚げやら玉子焼きやらを、咀嚼もせずに丸呑みしている様子を、絵奈は物珍しそうに眺める。

「ゼロには、飲食による栄養摂取の行為は不要なのです。でも別に食べることはできるのです」
「じゃあ、ダイエットとかとも無縁なのかな。うらやましいな……」
「でも別に絵奈、あなた全然太っていないように見えるわよ」

 指についたジャムをぺろりとやんちゃに舐めつつ、ティリクティアはスコーンを口にする。
 サシャは同意するように、こくこくと頷いて。

「そうですよー。絵奈さまは胸もおっきいのに、腰もおみ足もすらりと細くて……うらやましいです! お胸がたわわなのもけしからんです! ワタシなんて凹凸に欠けた幼児体型なのにーっ」
「君で幼児体型なら、私は何だと言うのだ……」
「赤ちゃんですー?」

 ゼロに悪気はなかったのだが、シュマイトにとってはその素直な例えがぐさりと心に突き刺さったらしい。動揺でティーカップを落としてしまう。慌てて布巾を手にとり、こぼした紅茶を掃除する。

(く、悔しくなどないぞ。反論ができぬとあっても、決して悔しくなどは……)
(大丈夫だよ、シュマイトちゃんは慎ましい胸が魅力……!)

 表向きは、いつもの涼しげな落ち着きを取り繕ってはいるが、内心ではおよおよ涙を流しているシュマイト。そんな彼女に、サシャは激励の気持ちを込めた熱い視線をむぴ~と送って。
 メイドからの生暖かい視線を横に感じつつ、シュマイトは思う。

(サシャの目つきがおかしい。やはり彼女も、自分の胸を気に病んでいるのだろうか……)
(シュマイトちゃんの目つきがおかしい。あれは自己嫌悪と憐憫の眼差しだわ……)

 言葉を交わさない視線だけでのやり取りが、まったく同調していないことは誰も知らない。
 そんな中、ティリクティアはサシャのお手製シフォンケーキを、まったり堪能していたのだけれど。

「しかし、だ。先ほどからマイペースに菓子を食べてばかりだが、ティアの将来は有望だと考える」
「そうそう、ティアちゃんは絶対美人になるよ!」
「え、あ? な、何の話?」

 シュマイトとサシャから急に話を振られたティリクティアは、口端に生クリームをつけたまま弾むように顔を向けた。

「うーんと。胸の話?」
「胸? あぁ絵奈は胸、大きいわよね」

 サシャの言葉に相づちを打ちながら、ティリクティアが絵奈の胸元に視線を向ける。皆の目も、何となく絵奈へと集中する。
 自分へ振られてきた話の流れを自然に他者へと変えさせる、ティリクティアのしたたかさが垣間見えた一瞬かもしれない。

「そうそう。絵奈さま、Fカップはあるって噂でした!」
「ほぅ、大きいとは思っていたのだが、随分なものを持っているな」

 目をきらきらさせながら得意げに話すサシャの言葉に、シュマイトはすました様子で頷いて。
 急に話の中心人物になってしまった絵奈は、顔を真っ赤にしながらわたわたと慌てている。掌と一緒に、ぶんぶんと首を横に振って否定する。

「えぇっ、サ、サシャさん、どこでそんな話を! そそそ、そんなに無いですよ!」

 両腕で胸をかばうようにしながら、絵奈は焦るように皆の視線から身体をそらす。

「でも私たちの中で、一番おっきいのは確かでしょ。ねー、どうやって大きくしたの?」
「それは気になります! 教えて絵奈さまっ」

 鼻息も荒く、興奮した様子で二人が絵奈に詰め寄ってくる。絵奈は迫力のある二人を見上げながら、ずいずいと後退するように腰を滑らせて。

「そ、そんなに大きいかなぁ……え、えーと。よく食べてよく運動する……? ふ、普通に生活してただけだから、分からないです……」
「地道な努力しかないんですね……はぁ」

 もごもごと戸惑いがちに語られた情報に、有力なものはなく。サシャは残念そうに、かくんと肩を落とした。
 その隣では魔女が腕を組み、あごに手をあてて考えている。

「うーん。何かいい方法ないかな。マッサージすればいいってよく聞くけれど……あっ、そうか」

 ぽむ、と手を合わせた。何かが閃いたらしく、魔女はくるっと振り向いて、ケーキを一口でごくんと呑み込んでいるゼロに、サカサカと近づいていく。

「ねーねーゼロちゃん。試しに揉ませてよ! うんとおっきくしてあげるからっ」

 魔女の興奮を察知して、背中の脚がわきわきと蠢く。それはもう、うんと邪気がこもっていやらしそうに。
 そんな魔女に、ゼロは不思議そうに小首を傾げて。

「おっきく? ……ゼロは巨大化すればいいのですかー?」
「そ、その発想は無かった……! うぅ、そんな無垢な発想と純粋な瞳が、私には眩しすぎるーっ」

 ゼロの視線から逃れようと、魔女は双眸を手で覆い隠して「目がー、目がー」なんて苦しそうにうめいている。
 それを見守っていたサシャが、どこか爽やかに言う。

「相変わらず、蜘蛛の魔女ちゃんはいやらしいねっ」

 それに乗じて、皆もこくこくと首肯しながら。

「うむ、否定のしようがないな」
「この手のお話で一番、元気になりますよね」
「魔女はいやらしいのね」
「魔女さんはいやらしいのですー」
「い、いやらしくないよ! 別にその、ただちょっと好奇心が、えっとその。……い、いやらしくないもん!」

 思わず立ちあがり、両腕と蜘蛛の脚をぶんぶんと振り回す。必死な物言いがおかしくて、皆が一斉にあははと笑い声をもらす。

「相変わらずギリギリの線を歩み続ける、ブレない君が好きだよ」
「なんかそれ、半分呆れてない?」

 怪訝そうな目つきを隠しもせず、ぶーと頬を膨らませて抗議する。
 サシャがそんな魔女の横に立ち、肩の上にぽむっと手を置きながら、ぐっと元気よく親指をたてた。

「大丈夫だよ、魔女ちゃん! いやらしいは褒め言葉っ」
「サシャさんはいやらしいのですー」
「わあぁぁぁぁんっ」

 すかさず呟いたゼロの真っ直ぐな言葉が、サシャの胸を容易に射抜いたのであった。
 泣き喚くサシャにシュマイトはいじわるしたくなり、くすくすと不敵に笑みながら仰々しく肩をすくめてみせる。

「まぁ、胸の話を出したのもサシャだしな」
「えー、ワタシじゃないよ! うぅ、これもみんな、絵奈さまの胸がけしからんからいけないんだーっ! たわわーっ!」
「わ、私のせいですか? 濡れ衣ですよぉ」

 青空に向かって猛々しく叫ぶメイドのそばで、絵奈はおよよと涙をこぼすしかできない。
 そこへティリクティアが、そっと穏やかに言葉を投げかける。

「絵奈は胸が大きくても小さくても、それに関係なく可愛いと思うわ。私が保証する」
「えっ――あ、そ、そんなことないです! 私なんか、そんな」

 絵奈は少しだけきょとんとした後、行き場をなくしたかのようにうろたえる。絵奈は育ってきた環境から自己への評価が低く、自分の何かしらが優れていると言われても、それをすぐに受け止めることができないのだ。

「あら、だって本当のことだもの。絵奈は謙遜しすぎるわ」
「そうですー。絵奈さんはピンクの色が似合うような、かわいいひとなのです。きっと、誰もがそう思うはずなのですー」
「ゼロちゃんまで……そ、そうなの、かなぁ……」
「そうよ。もっと自分に自信を持ってもいいのよ? 絵奈はかわいいんだから、引っ込んでいたら勿体ないわ」
「……うん。ティアちゃん、ゼロちゃん、ありがとう」

 まごまごとしながらも、絵奈は遠慮がちにはにかんで。
 ティリクティアは慈しむような眼差しを向けながら、よしよしと満足げにうなづいた。ゼロもその横で、同じようにこくこくとまねっこしている。

「そうですよ絵奈さま。ワタシみたいに、お胸が引っ込んでいるわけでもないんですから!」
「引っ込み思案の絵奈とかけまして、というやつか。だがしかし、自分で言っていて辛くないのか」
「……辛いです」

 必死の励ましも空元気だったらしく、シュマイトのツッコミにサシャは力なく肩を落とす。そこへゼロがやってきて、先ほどのティリクティアのようにサシャの肩をぽむぽむし。

「サシャさんはいやらしいのですー」
「二度も言わないでぇぇぇぇ」

 ゼロの無邪気な追いうちが、サシャの心をえぐった。
 けれど彼女の切実な悲鳴も、皆が愉しそうに笑い合う材料になったことは、幸いだったのかもしれない。
 そんな中、ティリクティアはこっそりサシャのカメラを拝借して、皆の笑顔や泣き顔をばっちりと写真におさめていた。


▼夜の別荘にて
 その後、一行は都市部に戻ってから遊園地に行ったり併設されたゲームセンターで遊んだり、通りでお土産を買ったりお茶をしたりと、時間の許す限り遊び尽くした。
 夕方くらいには別荘へと戻り、そこでも皆でわいわいとはしゃぎながら、夕飯の支度から食事・後片付けとすませていく。
 メイドのサシャは終始テキパキと動いて全体に貢献したし、ティリクティアは四苦八苦しながらも準備を手伝った。
 絵奈やシュマイトはその間に、就寝のための布団を部屋に敷いたり、屋敷に設置されている露天風呂の準備などを行った。サシャは料理の合間に二人の様子を見にきては共同作業を手伝うなど、忙しなく立ちまわる。
 魔女とゼロは、ひと足早く枕投げを始めたり、廊下の上を滑ってレースしたりなどして遊んでいたが、勢い余って二人で壁に激突し、大きなたんこぶを作っていた。たぶん、手伝いをしない罰だったのかもしれない。
 そうして面白おかしく過ごした後。
 いまは皆、それぞれ寝巻き姿に着替えていた。畳の敷かれた大部屋に準備した布団の上で横になり、話に華を咲かせていた。

 †

「コイバナ。それは乙女たちが過ごす夜になくてはならないもの……!」

 演技がかった身振りを加えながら立ち上がり、サシャが熱く語り出す。皆は布団の上にちょこんと座って、ぱちぱちと拍手をする。

「それではまず、わたくしサシャ・エルガシャが。めでたく彼氏をゲットした、このサシャ・エルガシャが! 僭越ながら恋のアドバイスを! まずですね……」

 指をしゅぴんと立てて、得意げにサシャは語り出す。
 幼少時の小さな恋の思い出から始まり、愛読する恋愛小説の一節を口にしたり、己の恋愛論を展開させたり。けれどいつの間にか恋のアドバイス教室は、サシャのデート自慢と彼氏自慢に移り変わってしまっていた。
 ハグとキスのレッスンと言って、サシャのポンポコセクタンが生贄に選ばれてしまう。強く抱きしめすぎたせいかセクタンが白目を剥いて、口端から泡を吹き出すというハプニングを挟みつつ。

「いいなぁ、サシャさん。恋するって、あんな感じなんだ。愉しそうだし幸せそう……」

 絵奈がうっとりとした様子で呟くが、シュマイトはいたって淡白で。やれやれと肩をすくめる。

「いいや絵奈、あれはただ惚気ているだけだ」
「何よう、そんなシュマイトちゃんも故郷の世界に大切なひと、いるって聞いたよっ。さぁ今夜こそ、そこのトコ詳しく細かくはっきりと!」

 気絶したセクタンを放り投げて、サシャはシュマイトにずずっと詰め寄っていく。シュマイトを布団の上にのけぞらせ、子どもみたいに小さな体躯の上にとすんと乗って、動きを封じる。
 不敵に笑むサシャの背後から、皆も興味深そうにシュマイトを覗き込む。
 ゼロだけは、放られたまま動かないポンポコセクタンに擦り寄って、指でつついて遊んでいる。

「いや……そうは言ってもな。やつは職人だ。私よりも腕のいい、知識もある、けれど無口でつまらない……そんなやつでしかない」

 サシャの重みの下でこすぐったそうに身体を動かしながら、シュマイトは皆から目を逸らしてもじもじとする。

「会いたくないと言えば嘘にはなるが……現時点でそれは実現不能な妄想に過ぎん」
「でも、異性関係に淡白なシュマイトちゃんが、意識するようなひとなんだよね?」
「同じくらいにときめいた出会い、ロストナンバーになってからはなかったの?」

 サシャの問いかけに、魔女も続いて。

「ときめいた、などと。そうした歯の浮くような話など、私には皆無だよ」

 サシャと魔女は、つまらなそうにぶーと唇を尖らせる。
 シュマイトが、ようやくサシャの拘束から解放されて身を起こしたところで、絵奈が真剣な表情を向けてきた。

「でも……叶うならそのひとと、会いたいんですよね?」
「……否定はしない」
「シュマちゃん、かわいいぃぃぃぃ」

 恥じらいながら口にするシュマイトの愛らしさにサシャの理性が崩壊する。勢い良くシュマイトに飛びつくと、愛しげに頭を撫で、頬擦りし、彼女のほっぺにちゅっちゅっとキスを連打する。
 シュマイトにいつもの涼しげな面持ちはなく、頬をりんごみたいに赤く染めて、わたわたとした様子で視線を泳がせる。
 それを見守っていたティリクティアも微笑んで。

「ふふ、シュマイトにも乙女心はあるのね。……私もキスしていいかしら? サシャを見てると愉しそうなんだもの」
「あ、それなら私もしていいですか?」

 絵奈もそれに乗っかってきて、二人で一斉にシュマイトへ抱きついた。暴れるシュマイトをサシャが羽交い絞めにし「さぁ、今のうちにっ」と言い放ったところで、絵奈とティリクティアが彼女の頬にキスをした。シュマイトは「ふあ」と力が抜けたような息をもらすだけで、抵抗はできていない。
 魔女はぺろりと意地悪そうに自分の唇を舐めると、物欲しそうに目を細めて。

「よーし、次はこの蜘蛛の魔女さまが、濃厚で熱いちっすをしてやるぜ……」
「……糸でも吐きつけるつもりでは、ないだろうね」
「え、だめなの?」

 シュマイトの言葉にきょとんとする魔女を見て、皆はずるりと脱力した。

「……それよりもゼロ、私は君の恋愛観に興味がある。君はどこか超然としているからな」

 ハグとキスの嵐から解放されたシュマイトは、話題の矛先を自分から変えようと、ゼロに言葉を掛けた。
 ゼロは、返事がなくただの屍のように動かないセクタンをもふもふしながら、まったりと返答する。

「ゼロ自身は、唯一の存在なのです。種の繁栄には無縁である性質ゆえに、理想のレンアイ・タイショウなどは存在しないのですー」
「ふむ、相変わらず興味深いな君は」
「つまりどういうこと……?」

 魔女が首を傾げたので、シュマイトが解説する。

「食欲旺盛な君の言葉で表すなら、好き嫌いがないと例えることもできる」
「へー、じゃあゼロちゃんと私は、同じような感じなのかもね。私もあんまり好き嫌いないよ!」
「一緒と同じがたくさんあるのは、仲良しの証拠なのですー」

 魔女とゼロが、ぶんぶんと大きく振るような握手をする。
 絵奈がほふ、と儚げなため息をついた。ゼロに放られ傍に転がってきた動かないポンポコセクタンを、抱き枕のようにきゅっとする。憂いを帯びた眼差しでどこでもない場所を見つめる。

「いいな。私もいつか、恋ができるのかな……誰かが恋してくれたりするのかな」
「大丈夫よ、絵奈はかわいいもの」

 しんみりしている絵奈にティリクティアが抱きついて、シュマイトにしたのと同じようなキスをし、彼女を元気付けるようとする。

「あ、でも誰でもいいってわけじゃないわね。絵奈には素敵なひとと一緒になってもらいたいから、私たちが目を光らせていないとね」
「用心棒なら任せて! 絵奈に近づく男どもなんて、この脚で八つ裂きにしてあげるっ」

 魔女が脚を巧みに動かしながら力強く言い放つ横で「それでは逆に誰も寄り付かなくなりそうだ」とツッコミを入れるのを、シュマイトは忘れない。

「ゼロは推理するのです……」

 いつの間にかパイプタバコを口にしていたゼロが、いつもとは違うクールな口調で話し始める。なぜか周囲は暗くなり、ゼロだけを照らすようにスポットライトが当たっている。

「絵奈さんは以前、シショプラスでエミリエさんを育てていたのです……つまり、絵奈さんの理想は男の子になったエミリエさんなのです……」
「そ、そうなの……かなぁ。うーん」

 肝心の絵奈本人は、指をあごに当てて難しそうな表情をしていた。それは無視して、ゼロの推理は続く。

「そして……サシャさんはリアジュウなのです。リアジュウとは、壱番世界ではとても重視される資質なのです。つまりサシャさんはリアジュウだったからこそ、コイビトをげっとできたのです……!」
「違うって、彼氏がいる今の状態をリアヂューって言うんだよ」

 絵奈から受け取ったポンポコセクタンを、魔女は蜘蛛の脚でお手玉みたいに回しながら言った。皆が「おー」と感嘆して拍手をする。

「そんな君の恋愛観も気になるな。捕食対象と恋愛対象は別物なのか?」
「うーん。よく分からないけど私、おいしいものなら何だって好きだよ!」
「そ、それってつまり……!」

 閃く稲妻を背景に背負いつつ、サシャは口をつぐむ。
 口にしそうな衝撃の事実を飲み込むべく、サシャはティリクティアに話を振った。

「そういえばティアちゃんは、故郷の世界ではもう、結婚相手が決まってたんだっけ?」
「え、ティアって実はもうお母さん……!」

 魔女があからさまにショックを受けた顔をするものだから、ティリクティアは「違うわよ」と苦笑しながら手をひらひら振って。

「結婚もまだよ。相手が決められていた、っていうだけ。いずれは結婚したのだろうけど……どうなのかしら」
「政略結婚、っていうのかな? お姫様って小さい頃は憧れてたけれど、本当のお姫様っていろいろ複雑なんだね……」
「心配してくれるの? ありがと、絵奈」

 明るく笑む一方で、ティリクティアは考えた。
 故郷でのこと。二人が出会う前から決まっていた婚姻。国を背負うが故の宿命。
 お互いに背負うものがあったから、好きな時に話をできたわけではなかった。お互いに知らないことは多い。
 機会も時間も、思い出も。何もかもが不足していて、分からない。好きなのだろうか、恋をしているのだろうか。あの、十も歳の離れた王太子に。
 その、水に溶けた絵の具のようにたゆたう気持ちと向き合っても、何か答えが出るわけはなく。もやもやとしたまま、いつしかティリクティアは眠りに落ちた。
 その後も一人、また一人と乙女たちは眠りについていき。黄色いはしゃぎ声がしていた部屋は、いつしか静かな寝息だけがすやすやと響くようになっていた。

 †

 ぱちり。
 そっと目を覚ました絵奈は、布団の中から周囲の様子をうかがった。こうこうと点いていたはずの電気は消されていて、部屋は薄暗くなっている。木製の格子にはめられた硝子越しに、青白い月明かりが差し込んでいる。
 絵奈は寝ぼけ眼のまま、身体を起こして周りを眺める。
 サシャはセクタンを大事そうに抱きしめて眠っており、幸せそうな声音で「ろきさま……」と寝言を呟いている。
 魔女は盛大に布団を蹴飛ばし、大の字で横になっている。すぴーと鼻ちょうちんが膨らんだり縮んだりを繰り返している。
 山盛りになった布団からちょこんと手足を出しているのは、きっとゼロだろう。
 シュマイトの枕元には、革表紙の厚い本が置いてあった。眠る直前まで読んでいたのかもしれない。
 そうして順々に皆の寝姿を見て、ほっこりと絵奈は微笑む。幸せをかみ締める。
 まだ日も昇っていないようだしもう一眠り……と思ったところで。布団のひとつがめくれ上がっているのに気がついた。ティリクティアの姿が見えない。
 お手洗いかな、と思いつつも。何か感じるところがあって、絵奈はそっと立ち上がり、部屋を抜け出した。

 †

 夜中に目を覚ましたティリクティアは、台所で水を飲んだあと、気分転換にと中庭に出ていた。都市部とは違って夜の喧騒も灯りもないこの地域では、月の明かりがとてもはっきりとしていた。
 壱番世界には月がある。自分の世界にも月があった。大きさや満ち欠けの速さは違うように感じるが、同じ月が夜空に浮かんでいる。

(あの世界の皆も、いまの私と同じように月を見上げているのかしら)

 婚約者の話をしたからだろうか、いつもは考えないようにしている故郷のことが脳裏に浮かぶ。

(ロストナンバーとしての宿命は、きちんと背負っていると自覚していたはずだけれど……故郷を思って物思いにふけってしまうのは、まだ受け入れられていない証拠かもしれないわね)

 懐かしさと憂いの交ざった眼差しで、月を見上げる。
 唇から、自然と歌がもれた。故郷の歌。癒しの力をもつ聖歌とは違う、なんの力もない歌。儚い声音が、静かな夜の空気に溶けていく。

 ――。
 ――。

 唄い終えて。後ろからぱちぱちと小さな拍手があった。ティリクティアが振り返ると、絵奈が戸口に立っていた。ティリクティアが振り仰いだ瞬間を見計らって、ぱしゃりとシャッター音がした。

「もう、絵奈ったら。こっそり隠し撮り?」
「絵になるように綺麗な、お姫様のひとりだけのコンサートですもの。わたくしめなどが声をかけて、お邪魔するなどはできません」

 照れくさそうにする歌姫に、絵奈は戯れ半分に丁寧な言葉を使って、そう返し。二人でくすくすと笑いあう。
 そして、二人で並んで夜空見上げて。

「ティアちゃんは愉しかった?」
「えぇとても。絵奈は?」
「愉しかったよ。愉しすぎて、夢みたいな気持ち。こうやって友達と愉しい時間を過ごせるなんて、前は考えられなかったから……」
「絵奈も色々あるのね」
「でも、お姫様のティアちゃんも大変だったんでしょう?」
「まぁね。けど私、お転婆だから」
「ふふ、そうだね」
「やだ、違うって言って欲しかったのに」

 軽く絵奈を肩をたたいて。二人でじゃれ合って。

「そろそろ寝ましょ、絵奈。……他の皆は?」
「ん、まだ寝てるよ」
「じゃあ、こういうのはどう? 皆の寝顔をこっそり撮っちゃうの」
「い、いいのかなぁ……でも面白そうだね」
「そうでしょう。カメラ、ちょっと貸してくれる?」

 そうやって絵奈からカメラを受け取ると。ティリクティアは何の一声もなく、すぐさま絵奈に向けてシャッターを切った。
 何が起きたのか分からず、ぽかんとする絵奈。ティリクティアは、解いた髪を元気良く揺らしながら、たたたと駆けていき。

「あははっ。絵奈ったら、口がだらしなく開いてたわよ」
「え、あっ――えーっ! やだそんな顔、見られたくないです! ティアちゃんさっきのは消してよお」
「だーめ。絵奈だけ撮られていないなんて不公平だもの」
「やぁだーっ」

 夜もふけた、庭先で。月明かりの下、二人の少女が戯れる。
 ――その後、情けない顔をしていた就寝メンバーの素敵な寝顔は、ばっちりこっそり撮影されてしまったのでした。

 †

 そうして、滞在期間は過ぎて。
 最後にはお世話になった別荘を軽くお掃除してから、一同は別荘を後にしました。
 別荘を去る間際には、サシャの提案で記念写真を撮影しました。魔女が蜘蛛の脚でシュマイトの背中を突付いて驚かせたり、ゼロが盛大なくしゃみをしたり、サシャのセクタンが変なタイミングで動いてしまうなど、騒がしい記念撮影となりました。
 後に提出された報告書では、このお屋敷近辺で過ごした「ちょっとした春休み」のことが内容の大半を占めていたそうです。
 そんな報告書の表題は、『壱番世界における凶悪ワームの殲滅作戦』から『ロストナンバー休日紀行』へと差し替えがされたとか、されなかったとか。

<おしまい>

クリエイターコメント【あとがき】
 ――というわけで、ロストナンバーの皆様へちょっとした春休みを提供させていただきました。
 今回の合宿(?)は企画シナリオとして、仲良しな女の子PCからのオファーということで。メンバーはこうした感じとなりました。(順不同、敬称略)

▼サシャ:陽気、楽天的、素直
▼ティア:気が強い、負けず嫌い、大胆
▼ゼロ:繊細、純真、世間知らず
▼絵奈:ロマンチスト、素直、世間知らず
▼蜘蛛の魔女:冷徹、プライドが高い、狡猾
▼シュマイト:プライドが高い、気が強い、理性的

 素直な子、世間知らずな子、プライドが高い子が多かったようです。
 そして、今回のメンバーにはこれ以外にもちょっとだけ面白い特徴が。

▼サシャ:やや低い(150〜160cm):20歳
▼ティア:低い(100〜150cm):10歳
▼ゼロ:低い(100〜150cm):8歳
▼絵奈:やや低い(150〜160cm):16歳
▼蜘蛛の魔女:低い(100〜150cm):11歳
▼シュマイト:低い(100〜150cm):19歳

 こうして並べてみますと、10代前半の女の子が多いですね。平均は14歳の、まさにリトルガールズといったところでしょうか。
 それと皆さん、基本的に背がちっちゃいのですよね。なんて可愛らしい! ほんのりと少しだけ背の高いサシャさんと絵奈さんが、ぱっと見では保護者な感じなのかもしれません。

 サシャさんはメイドということで、洋服選びにお弁当持参とそのスキルをたっぷりと発揮させてみました。陽気に明るくをモットーに、終始テンション高めな感じでの描写となっております。
 写真撮影についてのプレイングはちょっと膨らませて、カメラを回しあって皆で撮っていた――という流れにしてみました。
 今回唯一のコンダクターでありプレイングにも記載がありましたので、ポンポコセクタンの彼(?)には色々と頑張っていただきました。

 太陽のように個性を輝かせるこのメンバーの中では、ティアさんの元気のよさも「大人しい」部類に押しやられてしまいそうです。しかしお弁当シーンの食べ方など、細かいところでちょっとした「わんぱく・やんちゃ・お転婆・おしゃま」な感じを出してみました。環境に抑圧されて育ったお姫様は、フリーになるとリミッターを解除して活動的になりやんちゃでかわいくなるーの法則です。

 絵奈さんは、ティアさんとコンビにさせることでその内面を個性として表現させてみました。自信のなさげな台詞を口にすると、それを励まして元気付けてくれる妹……な構図です。ティアさんは、絵奈さんにとっての「頼りになる妹」な印象です。なので自信の薄い絵奈さんを励ましたり、そんな二人でじゃれ合わせてみたりと、仲良し姉妹な感じでやり取りをさせてみました。

 シュマイトさんのキャラクター性は、魔女さんのヘンテコ発言に対するツッコミ役としてクールに立ちまわる一方、そこからのギャップ差で皆からいじられて遊ばれるような印象がありましたので、こうした形とさせていただきました。
 ちなみに、一番遅くまで起きていたのはシュマイトさんという想定です。彼女の枕元にあった本は、それを示したものだったりしました。皆が眠るのを見届けてから、本に目を通していたのでしょう。最後に電灯を消す役割は、他の方ではどうも想像することができず……(笑) 

 魔女さんは、独特の思考で皆を笑わせたり引っ掻き回したりするような印象がありました。ぼけ担当です。シュマイトさんのツッコミにも動じることなく、自分らしさを貫いていつも元気にマイペース。そういう意味では仲間でもあるゼロさんと組み合わせて、快活に遊ばせてみました。

 ゼロさんのプレイングは、皆さん全員の洋服選びに多くを割いてくださって。流れの都合でほとんど採用することはできませんでしたが、そのプレイングだけでもキャラの個性がよく分かる内容になっていましたので、そこからイメージを膨らませました。ふわふわと浮かぶ風船のように、まったりとしたキャラクター性が出せていればと思う次第です。無邪気な思考をありのまま口にしてしまえるのも、ゼロさんという個性がなせるのかもしれません。

 その他、お弁当の食べ方や就寝中など、細かなところでキャラクターそれぞれの個性を意識してみました。
 あまり知らない誰かと一緒になって騒ぐ修学旅行とは、今回は別です。仲良しさんだけで過ごす休日紀行ということで、旧知の仲を強く意識して、とにかくいっぱいじゃれさせてみました。

 このように仕上がったリプレイが、皆さんの好みに合えば嬉しく思います。
 それでは、夢望ここるでした。ぺこり。
 これからも、良き幻想旅行を!


【『教えて、メルチェさん!』のコーナー】
「こほん。
 皆さん今日和。メルチェット・ナップルシュガーですよ。
 お出かけは、本当に心が躍りますよね。お花見もできて、うらやましい限りです。 女の子だけのお出かけ、ショッピング、お泊り会、恋のないしょ話……いいなぁ、とっても愉しそうだわ。また、こうした機会があるといいですね。
 さ、それじゃあ今回も私と一緒に、漢字の読みかたをお勉強しましょ。

▼逡巡:しゅんじゅん
▼裾:すそ
▼袖:そで
▼憂い:うれい
▼儚い:はかない
▼慎ましい:つつましい
▼憐憫:れんびん
▼怪訝:けげん
▼謙遜:けんそん
▼僭越:せんえつ

 説明が必要な漢字は、これくらいかしら。皆さんはきちんと読めましたか? もちろんメルチェは大人なので、これくらいは当然です(きぱ)」
公開日時2012-04-18(水) 21:40

 

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