~暗躍する老人~ 薄暗い部屋にはフラスコや怪しげな機械が所狭しとおかれ、使い古した書籍や実験データメモなどが散らばっていた。 きっと、家主は整理整頓ができないのだろう。 潔癖性の人がみたら卒倒しそうな室内で白衣を着た猫背の老人が見た目とは裏腹な精力的な瞳を輝かせてニヤリと笑った。「ようし、できたぞ。この『QTハニーゴールド』を使えば、瞬く間に人々の姿を変身させることができる。怪人や戦闘員を増やし、秘密結社を立て直すことができるぞい」 フェッフェッフェッという独特の笑いをして、老人は栄養ドリンク剤の器に謎の液体を入れていく。「だが、まだこの世界の人間で試してはないからのぉ24時間だけの試作品からじゃな。実験の成果を出さねば早期量産は危ういな‥‥平和ボケしているものが多いから『あの街』のように売り出すかいのぉ」 薄暗い部屋に老人の不気味な笑いがこだました。 ~謎の薬を追え!~「ふわぁ……」「どうしたのかなぁ、ティアちゃん? お疲れのようですね~」 とあるチェンバーで休日をお茶を一緒にすることにしたサシャ・エルガシャとティリクティアだったがティアは船を漕いでいる。「うん……ちょっとね、変な夢をみたの。きっと未来の夢」 目をこしこしと指で擦ったティアはサシャの入れた紅茶の香りを吸い込んで口につけた。 スコーンと紅茶という壱番世界のイギリス式ティータイムでティアの目は大分覚める。「未来予知の能力でしたね。どんな未来だったんです?」「えっとね、私がぼんきゅぼーんになる夢よ」「ぼん、きゅ、ぼーんですか?」 抽象的過ぎるが未来の夢であるのは分かった。 しかし、今のティアがみれる一日かそこらでなれるような未来ではない。「ほほぅ、面白い話じゃの。ティア殿が立派なレディになる夢かの?」 共にお茶会に参加しているジュリエッタ・凛・アヴェルリーノが興味深げにティアの顔を覗き込んだ。「夢の形だから変わってしまうかもしれない未来ね。薬を飲んだら大きくなったの」 少し疲れ気味ながらもサシャの用意してくれた美味しいお菓子と紅茶の休息がティアを元気にしていく。「ふむ、姿を変えられる薬かの。わたくしももう少し実年齢に沿った身長が欲しいところじゃな」 紅茶とお菓子をジュリエッタも味わい、談笑をしていると場の雰囲気にそぐわない男が3人のいるチェンバーに入ってきた。「すみません……手を貸してもらえませんか? 怪しげな薬が出回っているみたいなんです」 猟銃にサバイバルジャケット、双眼鏡をもったアーネスト・マルトラバーズ・シートンは真剣な眼差しで頼みこむ。 正夢とはこういうものなのかとティア以外の2人の少女は思うのだった。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>アーネスト・マルトラバーズ・シートン(cmzy8471)ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ(cppx6659)ティリクティア(curp9866)サシャ・エルガシャ(chsz4170)
~まずは試して~ 「それで、噂の薬を仕入れてもおきました」 依頼を持ち込んできたアーネスト・マルトラバーズ・シートンが3人の少女の前に栄養ドリンクのような小瓶を見せる。 「しかし、ターミナルで重大事が起こるようなら導きの書を持つ司書がちゃんとした依頼を出してくるはずじゃからの。試してみてもよかろう」 「もし、大きくなったりしたら服に困っちゃうからここではやだなー」 流石にガーデンテラスで変身するのを嫌がるティリクティアに促されて、サシャ・エルガシャが屋敷まで皆を連れて行く。 アーネストは別室で薬を飲むこにして、女性陣はクローゼットのある部屋で興味半分、不安半分な面持ちでドリンクを手に取った。 「見た目はただの栄養剤のようじゃの?」 ジュリエッタが警戒しつつ蓋をあけると栄養剤特有の香りがする。 ここまでは特に何事もなく見えた。 「どういう変化がおこるのか、ちょっと不安です」 「眠いのもあるし、私が一番に飲むよ」 サシャが戸惑っているとティアが真っ先に小瓶の飲み物を口にする。 ツーンと鼻に来る刺激に目を潤ませていると、見る見るうちに体が大きくなっていく。 小さな服が丸みを帯びたボディラインを露にし、スカートが極ミニになるくらい足がすらりと伸びた。 「わわわ、本当に大きくなったわ。ぼんきゅんぼーんね」 年端もいかない少女が謎のドリンク『QTハニーゴールド』を飲んだことで気の強そうな美女に大変身を遂げる。 服がピッチピチなのでとてもセクシーだ。 「ティアちゃん、早く他の服に着替えましょう。後で街の洋服屋さんで違う服をみつければいいですからっ!」 サシャが慌ててティアを着替えさせているとアーネストのいる部屋でがたごとと物音がする。 「何があったのかのぅ、わたくしが見てくるので二人は着替えをすませておくれ」 蓋を開けたドリンクをテーブルの上においてジュリエッタが隣の部屋のドアをそっと開けた。 ギィッと音がしてゆっくりと扉が部屋の中を見せていくとジュリエッタと大きな狼が目を合わせる。 「がうん(いやぁ、狼になってしまいました)」 「……きゅぅ」 常に冷静なジュリエッタとはいえ流石にこれには目を回して倒れてしまった。 「ジュリエッタさん……狼はアーネストさんです、か?」 戻ってこないジュリエッタとアーネストの様子を見に来たのは金髪の美青年執事である。 「がうう(サーシャさんは男になってしまったんですね)」 匂いで分かるのかアーネストは一人この状況の中冷静だった。 ~真実はいつも一つ~ 色々とあったが、薬が良くない効果を及ぼすのははっきりしたので3人と一匹は犯人探しを始めた。 「まずは犯人を見つけなくちゃね。私は楽しいけど、迷惑している人もいるだろうし……」 未来予知をするため、目を閉じて意識を集中させるティアの右袖が引っ張られる。 彼女が視線を向けると、そこには普段着と同じ船員服に短パン姿のジュリエッタがいた。 ティアはできれば眼鏡と蝶ネクタイをつけたいと思ったがそこは我慢する。 「ティアどのが力を使わなくても推理はできるじゃ。たんなるイタズラならしんかんちょうどのやエミリエどのがあやしいが、かのじょたちはこっそりやるものではないのじゃ……」 人差し指をピンと立てたジュリエッタがしたったらずな口ぶりで推理をはじめた。 「僕も犯人に心あたりがあるんだ。世界司書のアドルフ・ヴェルナーさんはどうかな?」 男性になってしまったために執事服に着替えたサシャ改めてサーシャが 事件を起こしそうな犯人をあげてみる。 「アドルフどの……あやしげなししょとのウワサをきいている。そして、てがかりはこのコビン……そうか、わかったのじゃ!」 一度目を伏せて思案顔を浮かべていたジュリエッタがはっとした顔になる。 「ラベルにこたえがあったのじゃ、すぐにアドルフどのの部屋にいくのじゃ、アーネストどの、できるかの?」 「がぅん」 狼に変身してしまっていたアーネストは待っていたとばかりに小瓶から漏れる栄養剤独特の香りを覚えて走りだした。 「え、なに、なにがどうなっているの?」 急な展開にティアが戸惑うがジュリエッタは先にアーネストを追いかけだしている。 「答えは言った先にあるみたいだから、いこうか」 サーシャがティアの手を取り先に走りだした一人と一匹を追いかけていく。 「うん、なんだかちょっとかっこいいかも……」 いつもの優しい微笑みを浮かべるメイドとは違う雰囲気を感じたティアは乙女心を震わせていた。 *** (こちらから匂いがする。動物になれるとこういうところがいいですね) 普段から動物図鑑のトラベルギアで変身のできるアーネストは狼の能力を使いこなし、世界司書の住まいの多い地区から小瓶の薬と同じ匂いを辿っていく。 縦横無尽に路地を曲がり、生垣を飛び越えていくアーネスト。 それを追いかける他の3人は息を切らせて必死だった。 「がぁぐるぅ!(ここです、ここからこの薬の匂いがします)」 「でかしたぞ、アーネスト……どの、でもすこしキュウケイさせてほしいのじゃ」 慣れない体で全力疾走させられた3人は呼吸を整えるとアーネストの見つけだしたボロ家の扉の両脇に立って警戒をする。 「ふぇっふぇっふぇっ、実験は成功じゃな。良いよ本番を作るときじゃ!」 扉の奥から怪しい老人の笑い声が聞こえてきて、ロストナンバー達は互いの顔を見合わせてうなづく。 ドンと扉をアーネストが体当たりで破ってから残りも突入していく。 「わわっ、なんじゃお前たちは!」 「ジュリエッタ・凛・アヴェルリーノ……タンテイじゃ」 推理ものでお馴染みのやりとりとアドルフ・ヴェルナーとジュリエッタががする。 「その薬で困った人もいるんだから、観念しなさい!」 「こんな他人を使った実験はやめてもらいたいな……トラブルメイカーのDrアドルフ」 ティアとサーシャが扉の前に立って逃げ場をなくす。 「薬の効果は24時間なのじゃから、いいじゃろうに。ちょっとした夢が見れると思えばやすいもんじゃろう。ただ、変身イメージに差が出てしまうのは今後の改良が必要じゃろうな」 抵抗するかと思いきや、ロストナンバー達の姿をみて薬の改良ポイントを語り出した。 全く持って反省していない。 「いいかげんにするのじゃーっ」 ジュリエッタお得意の雷撃がほとばしるもコントロールが不十分なのか、目標をはずれた。 しかし、実験中の薬品や栄養剤にあたり中に入っていた液体がアドルフにかかる。 「ああ、ワシの研究がぁー」 悪役らしい最後の言葉を残すと、アドルフは白衣を残して姿をけした。 「死んでしまったの?」 「がうがうがう(匂いがするので大丈夫です)」 不安げな表情を浮かべるティアを安心させるべくアーネストが残った白衣の中からモゾモゾと逃げようとしたネズミを捕らえた。 「変身の結果がマウスなんて、彼らしいんじゃないかな。しばらく悪さもできないだろうし反省して貰おうね」 すっかり男性口調がいたについたサーシャが締めくくるとロストナンバー達は実験室をあとにするのだった。 ~夢が覚めるまで~ 「妙な薬が出回っているって話は聞いていたけど、あんた達がそんな姿になっているなんてね」 紅茶と焼きたてのスコーンを3人に振る舞い、アーネストには冷たいミルクを器に入れて出した飛鳥黎子はため息を漏らす。 世界司書である飛鳥黎子の働くパン屋で一同は今、休憩をしているのだ。 「そうなのじゃ、わたくしがみごとじけんをかいけつしたのだぞ」 得意気なのだが、背丈が小さくしたったらずなジュリエッタを飛鳥は思わず抱きしめている。 「折角24時間変身していられるのなら楽しもうというわけでここに来たんですよ。この紅茶美味しいですね、今度レシピを教えてもらえませんか?」 サシャは飛鳥の紅茶を優美に飲み、上目遣いに尋ねる。 「はぅっ、この視線手ごわいわっ!」 ズキューンと何かが貫かれた音が飛鳥から漏れた気がするがきっと気のせいだ。 「この後はお買い物だよねー? 折角だからいろんな服を着てみたいなー」 「そうですね。男物も色々と……ロキさんへのプレゼントにもなりますし」 「私ももう少しふりふりしたものをきてみたいのぅ」 小さなジュリエッタの両サイドに執事のサシャと美女のティア、更には大きな狼のアーネストが一緒だと何だか家族のようである。 「流石にこんなに大きな子がいたら事件よねぇ……」 ボソリと飛鳥が小さく呟くが楽しい話で盛り上がる3人には聞こえなかった。 (まったくですよね……) うんうんとただただ頷くアーネストにはばっちりしっかり聞こえていて、後々問題となるのだが、それはまた別の話である。 Fin
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