クリエイターKENT(wfsv4111)
管理番号2053-20419 オファー日2012-11-09(金) 03:02

オファーPC 虎部 隆(cuxx6990)コンダクター 男 17歳 学生
ゲストPC1 フラン・ショコラ(cwht7925) ツーリスト 女 16歳 研究者

<ノベル>

 ――クリスタルパレス
 世界図書館と世界樹旅団の戦いは佳境にあった。
 外からは砲火の音が鳴り、死と惨の嘆き声が響きわたっていた。
 
 緊急の野戦病院となったこの場に残っているのは戦傷者を除けば、そこに居るのは医療に携わるものと剣を持たぬ者達の盾となるために留まることを決めたもの、そして
 ――少年が一人
 
 一寸前まで周りに居た知人達は、先に行くと言い残し一人また一人と去っていった。
 
 少年の手は、傍らには横たわる少女の手に繋がれている。
 腹部ほど毛布で覆われた少女は穏やかで規則正しい寝息立てている。
 そして呼吸と同じリズムで少女の胸の上に翠色の明滅が揺れていた。
 
 ――竜刻

 それは、少年と少女を結ぶ物語の契機となった少女の命脈。
 幾多の運命を超えて再び少女の胸に帰った竜刻の燐光を見つめる少年の眼は、少女と紡いだ刻を見ていた。


‡ ‡

 
 ――俺は多分ガキだったんだと思う……でもガキで良かったんだ。運命とか因果とか、そんなクソッタレな言葉でフランを割りきらずに済んだんだ
 
 あれは、俺がロストナンバーになってすぐの右も左も分からない時の話だった。

 なんでこの人はこんなに淡々と話せるんだ!?
 納得が行かなかった、許せなかった。
 司書とて、木石ではない、いや木石そのもののようなものもいるが……何故淡々と話すのかが分からない程に頭に血が上っていた。
「その子の胸から心臓代わりの竜刻を取り出すって事は……そういうことだよな!?  そりゃあさ、小より大っていう判断もわからねーわけじゃないけどさあ……なんでこんな子なんだよ……!」
 叫んだってどうにもならない、それでも叫ばざるを得ない。抑えきれない感情の迸りが言葉となって図書館を揺らした。
 そんな少年の行動に、嘲笑のような態度を取るものもいれば賛意を表明するように頷くものもいた。
 だが少年は周りなんて見えていなかった……ただ、司書が用意した少女の資料を食い入るように凝視していた。
 
 ――似ている
 どこがといえば答えられなかったかもしれない、ただそう直感した……兄貴の弟だっていう価値しかない、決して日の当たらなかった俺に。

 件の少女――フラン・ショコラは早くに両親を失い天涯孤独……そんな不幸にも関わらず毎日を懸命に生きている。
 ヴォロスの小さな村で知人に助けられながら生き、何れ小さな幸せを得て新たな家族と共に生き、静かに一生を終える。
 
 でもこのままじゃこの子は絶対死んじまう!!
 
 胸の竜刻を暴走させて、それとも俺たちの手で……当たり前な生涯を生きる権利を奪われてしまう。
 一回死んだ女の子をまた殺す?  死んだから殺していいのか? 死ぬのはこの子の運命だった??
 
 そんなのが、そんな理不尽が運命だっていうんなら何が運命だ!! そんな運命は俺がぶち壊す。

 そう思ったらもうやることは一つだった。ロストナンバーにして竜刻を止める……。
 手段はすぐに思いついた……真理に目覚めさせ覚醒させる。うまくいく確証もそれでなんとかなる確証もない、誰かが聞いたら嘲笑を禁じえない策とも言えない策。
 それでもやらない理由は、虎部隆という少年のどこにも存在しなかった。





 ヴォロスに降りた俺はフランに会った。
 結果としてフランは覚醒し……消えた。それを運命とかぬかす奴が居るかもしれないが、そんなのは後出しの予言だ。
 フランは懸命に生きることを選んでくれた……それだけだ。


「いい加減にしてください、一体なんなんですかあなた達は! あなた達の言う事、全然信じられません!」
 出会いは最悪だったと思う……いや自分で最悪にしてしまっただけか? 気がはやってフランの前で喧嘩……不審がられないわけがない。
 その時の光景を思い出す虎部は、自分の背が嫌な汗に塗れているのに苦笑を浮かべた。
 (そういえばあのときのこと、謝ってねえな……)
 
 必死に頭を下げたことを覚えている。君への理不尽が許せなかった、だからせめて俺だけでも全てを話そうと……いやそれだけだっただろうか?
 君は、そんな俺の言葉を信じてくれた……嬉しかった、俺が俺として認められたみたいで、兄貴の弟じゃない俺ができたみたいだった。

「トラベさん、すごく楽しいです! こんなにお話しながらご飯を食べるのは久しぶりです!」
「大丈夫ですか、トラベさん。すっごく腕ぷるぷるしていますよ? やっぱり私が半分持ちますね」

 君は初めから生きるのに一生懸命だった。
 日々を漫然と生きていた俺が恥ずかしくなるくらいに輝いて見えた。
 似てると思ったのは幻想だったかもしれない、兄貴の弟っていう不遇に流されてただけの俺と懸命に生きることを選んだ君とは。

 ……だから。

「……百万ドルの夜景ですか? 私もそんな光景見てみたいです」

 星を見ているつもりがついつい君の横顔を見ていた、百万ドルの……笑顔。
 誤魔化すように口をついて出た言葉は約束になった。
 共感とか同情とか使命感とかじゃなくて、ただ可愛そうな少女だからじゃなくて……フランを助けたいと思った。
 
 ――俺を信じてくれ……もし君が運命に打ち勝てるとしたなら、例えどこに行こうといつか必ず助け出す
 
 君とした約束は一つも忘れたことはなかった。大切なものだったんだ。
 義務とか責任じゃない……俺がそうしたいと、心からそうしたいと思ったから。   





 君が覚醒してディアスポラ現象に飲まれて消えた後、必死で君の手がかりを探した。
 図書館の依頼は精力的にこなした。たくさんの世界を訪れればきっとどこかで……。
 けど、情報は全然なかった、君の居ない日が続いた。

 ――フランは消失したのか? そんなはずはない……俺が、俺が忘れない限り消失なんてするはずがない……

 焦りと心配が日々の友になった。
 つまらないことでまわりに当たってしまった、強がるのはもっと得意だったと思っていたのに。
 兄貴ならもっと上手く……君を助けたはずだ、其の言葉が自分を苛んでいるのが良く分かった。

 ――握る手に思わず力が篭った

 反射的に握り返してくる少女の手は、しっとりと滑らかな赤子のようだった。
 手のひら越しに伝わってくる少女の鼓動が、夢想に居る少年の心音を跳ね上げる。
『トラベさんの手ってずいぶん柔らかいですね、ちゃんと働かないとだめですよ。そういう手をしている人は怠け者なんですよ』
 ヴォロスで少女の言っていた言葉、他愛もない話。
 其の時触れた少女の手のひらは、今伝わる感触とは違い野良仕事に汚れ硬かった。
『フランちゃんは働き者なんだな、いいお嫁さんになるよ』
 うまい言葉が浮かばなかった、それでもフランは嬉しそうに微笑んでいた。

 少女にとって、硬く薄汚れた手は小さな誇りだったのだろう。
 壱番世界で生まれ育った自分をドキマギとさせる少女の手は、ヴォロスの少女にとっては恥じ入るものなのかもしれない。

 そう思うと居た堪れない気持ちが去来する、俺がもっと早く助ければフランが失ったものは少なかったはずだ。 
 (……ゴメンなフラン)
 少年は少女の髪を撫で付けながら心に謝罪の言葉を思い浮かべる。
 戦塵と汗を吸った髪は少しべたついている、早く綺麗にしてやりたいと思った。

『トラベさんは水浴びしないんですか? 野良仕事した後は水浴びが気持ちいいですよ?』
 地面に水が打ち付けられ飛沫ともに音が上がる。
 水汲み用の桶で頭からかぶった少女は、髪から水を滴らせながら少年を振り仰ぐ。
 少年は少し前かがみになりながら背を向け、少女の誘いを断る。だいぶ挙動不審だった。
『泥落とさないとおうち入れてあげませんよ? ……変な人』
 盗み見るように覗いてしまう少女の姿は水に濡れた一糸纏わぬ肢体。

 立ち去ることができず、さりとて離れることもできないのは少年の性。

「ええーい! 違う、違うわ、いやすっごく重要だけど今は違う」
 思わず浮かび上がった少女の姿を瞼の奥から追い払うべく首を振り叫ぶ。
 思いのほか大きい声になったのか周りの視線が少年に集まった。
「あ、すんません……なんでもないです」
 近くに居た看護師に注意され、ぺこぺこ謝る羽目になった。





 虎部は呼吸を落ち受け、眠るフランを見つめる。

 ――世界樹旅団との邂逅

 大海原の船倒しの時……すぐには気付けなかった。姿をしっかりと見れなかったから……。
 胸糞悪いシャドウとかいうやつに君のことを聞いた……焦燥ばかりが募った。あの時の約束の言葉、マスカローゼが君だと分かったから。

 そして、叢雲――
 仮面をつけていたって心のなかに残る君の姿を見誤ったりはしなかった。
 でも……俺の手は君に届かなかった。
 ほとんど掴めていたのに……そう思っていたのに君を取り零してしまった。

 残っていた仮面とその後ろに貼ってあった封印のタグ……君はずっと俺が助けに来るのを待っていてくれたんだろ? 約束を信じ続けてくれたんだろ?
 それなのに俺は馬鹿で自分のこと兄貴の出来損ないだって思ってるから、口ばっかの達者な未熟者だったから、君を失望させて傷つけてしまった。

 フラン聞いてくれよ、俺はあの後しばらく布団から出れなかったんだぜ。
 自分の未熟さが馬鹿さ加減が情けなくて許せなかった、君を助けられなかったことが悔しくて、この世界から消えてしまいたかった。
 
 兄貴ならきっと君を助けた……そんなことを思いながら君と初めてあったヴォロスの村に行った。
 村は廃墟だったよ……後でマスカローゼが滅ぼしたんだって聞いた。愕然としたよ、また君の大切にしているものを失わせたって。
 
 村には変な一つ目の女の子がいて……その子と話しながら俺は気づいたんだ。
 一番大切なことがなんだったのかって。
 俺はずっと兄貴に憧れていた。なんでもできるスーパーマンみたいな人だった。……俺は兄貴になりたかったんだ。
 でもそれは馬鹿げたことだった、俺には一緒にいてくれる仲間がいた、胸襟を開ける親友がいた。
 ――そして君との約束があった
 ここに至るまでの全てが俺だったんだ、兄貴を超える必要も兄貴になる必要もない俺は俺らしくいればいい。

 それでも怖かったよ、君との約束はいつの間にか、いや違うな、きっとあの時から俺が俺らしくいるための要になっていたんだ。
 もし……今度君に拒絶されたらと思ったら足が震えそうになった。
 竜星での戦いは最後のチャンスだって分かっていた……みんなが俺を助けてくれた。……兄貴だからじゃない俺だからだ。
 みんなが俺を君のもとに届けてくれたんだ。
 
 誰かのために必死になるってのがどういうことか分かった気がする、フラン……待たせて本当にごめん……信じてくれてありがとう。
 約束だ……もう二度と苦しませはしない、絶対に幸せにする。


‡ ‡


 少女の胸の上で明滅していた竜刻は、少女の胸に沈み今は内側から翠の光を漏らしている。
 ロストレイル号の汽笛が聞こえた……そろそろ行かなければならない。
 少女の安息の地を再び失わせないために。
 
 虎部は毛布を引き少女の肩に駆ける、内側から漏れる光はくっきりと少女の丸みを帯びた体躯を浮かび上がらせている。
 誰かにそれを見られるのは無性に腹立たしかったのだ。
 
 少女の寝顔をもう一度だけ見る……誓いの言葉が再び心に浮かぶ。
 一時の別れを告げようとする少年の前で、少女の瞼が薄っすらと開いた。
 二度三度と瞼を瞬かせる少女。 

 別れの言葉は霧散し、さざなみのように溢れる感情とともに少年の頭にはある言葉が浮かんだ。
 あの時、仮面を被っていた君にこう言ってやればよかったんだ……そうすれば君は迷わずにすんだ。
 でも今でも遅くはない……目を覚ましたフランに虎部は自分のできる最高の笑顔で言葉をかけた。
「おかえり、フラン」
 眠りから覚めたばかりで夢現に微笑を浮かべている少女を固く抱きしめる。
 少女の口から吐息が漏れた。
 それは男女の情に通じる甘やかなものではなく、ただ胸部を圧迫されたことによる反応だったが少年は其の手を緩めることはできなかった。

 ――数秒の時は永遠にも感じられた

 少年の背に少女の指先が触れた。
 宙を彷徨っていた少女の腕がゆっくりと少年の背に回る。
 少女は互いの体温を確かめるように頬を摺りあわせると少年にだけ聞こえる声で囁いた。
「……ただいま、トラベさん」

クリエイターコメントこんにちわ、貴方の街の吟遊詩人KENTがプライベートポエムをお届けいたします。

だいぶ盛った感はありますが如何だったでしょうか?
行間の多い話となりましたが、そこは理解頂けると思って敢えてそうしています。

なお、現在水浴びを覗かれたらフランは怒ります。誰かさんの教育の成果ですね。まったくもってどうでもいいですが。

それでは又の機会によろしくお願いします。
公開日時2012-11-12(月) 21:00

 

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