オープニング

 ――0世界カフェテラス

 テーブルを挟んで向かいあう少年と少女は、幾度となく同じやり取りを繰り返していた。

「なあ、フラン」
「はい、トラベさん」

 少年は落ち着きなく姿勢を変え少女の表情を窺い、意を決して少女の名を呼んだ。
 てのひらの中で転がしている空になったティーカップを見つめる少女は、少年の声に応えると顔を上げ相貌を崩す。

「えっと……いや、なんでもない」
「……はい」

 微笑む少女の顔を数秒見つめる少年は気恥ずかしさのあまり、本当に言いたい言葉を水とともに飲み下してしまう。

 御代わりした水はそろそろ10を数えそうだ。
 周りに座っている客もすっかり様変わりし、水を入れるウェイトレスの機嫌もだんだんと悪くなってきているのが見える。
 もっとも目の前の事態に必死な少年がそれに気づくことはないが。


 うまく思いを告げれない少年を待つ少女は、胸いっぱいに溢れる心地よい暖かさを感じていた。
 照れながら話そうとしている言葉は、きっと自分を優しく包むだろう。
 本当に言おうとしている言葉が発せられた時、自分はもっと幸せな気持ちで一杯になるだろうと思うと自然と心が高鳴った。
 
 もっとこの心地よさを感じていたという気持ちと早くその言葉を聞きたいと思う気持ち――矛盾した幸福感に頭がぽ~っとする。


「なあ、フラン」
「はい、トラベさん」

 (そんな気負う必要はないはず……平常心だ平常心……あれ? 緊張した時って、人って言う字を手のひらに書いて飲めばいいんだっけか?)
 心にそんな言葉を思い浮かべる人間が平常心のはずもなく、幾度目かの挑戦も少女の微笑みの前に屈服する。
「ええっと、ごめんトイレ行ってくるわ」
 
 ――水の飲み過ぎと緊張で小用が近かった





 曖昧な笑みを浮かべるフランに見送られた虎部は、小用を済ますと洗面台で顔を洗って気合を入れなおしていた。
 (……糞、なかなか言い出せないな。まったく、虎部さんとしたことが女の子一人喜ばせられないでどうするよ)
 叢雲の上、あるいは世界樹旅団の決戦――クリスタル・パレスの場、切羽詰まっているときは自然と素直な気持ちを吐露することができた。しかし普段、面と向かってしまうとどうしても照れが先に立ってしまってうまく行動できない。
 (ちゃんとかまってやれてないよなぁ……なんか怒ってた聞いたし……そういう気持ちにさせないって思ってたんだけどな)
 洗面台の鏡に映った自分が、とほほとでも言いそうな情けない顔を浮かべている。
 (嫌な思いをさせた分は取り返さないとな……たまには奮発してあいつを思いっきり喜ばせないと、それにしてもデートに誘うのがこんなに大変だなんてな……自信なくすぜ)
 弱気な自分を叱咤するように頬を二度三度と張ると小さく気合の声を吐き飛び出……せなかった。
「おいおい、にいやん大丈夫かぁ? ……扉ぶつけたんかあほやなぁ……」
 外から押し開けられたトイレの扉に、飛び出しかかった虎部は盛大に脛をぶつけて蹲っていた。





「なあフラン、今度壱番世界に行かないか?」
 脛の痛みに耐えながら席に戻ってきた虎部は、ようやく目的の言葉を発した。脛の痛みが気を散らせて功を奏したのかもしれない
 微笑みを浮かべながら小首を傾げる少女は、続く言葉を促すように少年の目を見つめている。
 近くにいたウェイトレスが何故か大仰に溜息をついていた、ようやく水で数時間粘った客が居なくなりそうだとでも言いたそうだ。
「ん? まあデート」
 口をもごもごとさせながら小声の早口。目の前に居る少女が聞き取るのが精一杯の音量。
 その言葉がスイッチを入れたように、少女の表情がぱっと大輪が開く。
 もっとも少年がその表情を見れたのは一瞬だけ、あさっての方を見てしまう少年は緊張と照れを誤魔化すよう言葉を重ねた。
「街に出てさ、フランは壱番世界を見たことないだろ? いろんなものが売ってるんだぜ。そいうの見ながら歩くんだウィンドウショッピングって言うんだけど。人が沢山いるからはぐれないようにちゃんと捕まってるんだぜ? あと欲しいもの見つけたら言ってくれ、奢るからさ……いや、買えればだけど。歩くのにつかれたその辺の店とか入ってさ、色々話したりしよう。あ、映画とかもいいな、フランは見たことないだろ? んでさいい時間になったら……展望台に行くんだ。百万ドルの夜景……約束しただろ? 一緒に見に行こう」
 のべつまなく喋る少年の顔は茹でダコといい勝負ができそうなほど真っ赤。
 もし彼の親友がこの場にいたら一ヶ月は揶揄されそうな仕上がりだ。
 
 そっぽを向きながらなおも口を開こうとする少年の頬を少女の手のひらが触れる、ヒンヤリとした肌が上気した顔に心地よいと感じたのは一瞬、少女の行為は少年の体温と鼓動を更に上げる。
 少女は自分の感じる喜びをうまく言葉をすることができなかった。だから、今幸せを感じているままの顔を見て欲しかった。
 そして……そんな気持ちにしてくれる少年の顔が見たかった。
 
 ――見つめ合ったままの時間が流れる

 何処に行くかは少女にとって重要ではなかった、ただ自分に腐心してくれる彼を見るのが好きだった――ヴォロスであった時からずっと
 少年が新しく何かを見せてくれる度に好きなものが増えた、それを見ていると少年と過ごした時間を思い出すから。
 
 だからこんな言葉が出たのは運命の神様の悪戯だったのだろう。
「トラベさん……私も行きたい場所があります……言ってもいいですか?」
 少女は一つねだる。
 少年は是非もなく何度も頷いた。
「……トラベさんのお家。私トラベさんのパパやママ……ご家族にお会いしたいです」

 少年の目が点になった。

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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
虎部 隆(cuxx6990)
フラン・ショコラ(cwht7925)
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品目企画シナリオ 管理番号2333
クリエイターKENT(wfsv4111)
クリエイターコメントこんばんは、貴方の街のベストポエミスト師走を語るにふさわしいでぇ~とをお送りするのはWRのKENTです。

コメント別にいらなくねと思いましたがちょっとだけ。

自分のデートシナリオは以下の構成を想定しています。
OP:デートに誘うまで
プレイング:デートの計画(デート前日くらい?)
ノベル:実際どうなったか
まあ実際のデートに当てはめて考えて頂ければ。

なおフランが家族と会いたいと言っているのは、謂わいる挨拶がしたいというわけではありませんというかそんな因習に関する知識はありません。
なので断っても特になにか言われることはないでしょう。
設定があるかも心得ていませんので適当に処断ください。

また、何故そんなことをいいだすかは虎部さんなら想定がつくと思うので説明はしませんが。

あと5000文字は結構短いのでまとを絞って行動することをおすすめします

それでは、よろしくお願いします。

参加者
虎部 隆(cuxx6990)コンダクター 男 17歳 学生

ノベル

 鏡に映る半裸の少年が整髪料のボトルを取り、手になじませると大雑把に髪をなでつける。
 ワイルドなオールバックにセットされた髪から飛び出した一房を弾く少年は、ニヒルなつもりの笑みを映した。
「……よし、今日の俺もイケメンだな!」
 椅子にかけておいたボタンダウンシャツの上からピーコートを羽織る姿は、なかなかに決まってはいた。
 ※なおトータルコーディネイト担当は親友のY.A氏とのこと
 (……これならフランも大喜びだろ、カッコイイ彼氏だって自慢させてやる)


‡ ‡


 しんと寒さの染み渡る空には、重苦しくどんよりとした雲を押しのけるように明るいクリスマスキャロルが響いている。
 幾多のカップルが通り過ぎる街道――以前までは微かな劣等感からくる苛立ちを感じないでもなかった――を虎部は歩いていた。
 吐く息は白く寒い、ちらっと確認した腕時計は待ち合わせには大分早い時刻であることを示していた。
 (まだ30分前か……フランはまだ来てないだろうし喫茶店で時間を潰すか。デートコースをもっかい確認しておくか)

 待ち合わせ場所を壱番世界にしたいと言ったのは少女であった。
 壱番世界のデートに憧れているのだろうと考えた虎部は当然快諾した。

 虎部がたまに訪れる繁華街の最寄りである駅構内――その一角の変わった形の銅像。
 待ち合わせ場所としてよく使われる銅像の周囲は人がごった返していたが、虎部がそこに居る少女の姿を見誤ることなどありえなかった。

 少女は慣れぬ壱番世界であるからか、落ち着きなく少し不安げにキョロキョロとしている。
 虎部は少し足早に駆け寄ると少女の後ろから軽く肩に触れた。
「よっ、フラン。早いな」
 口の中に『わっ』と驚愕の言葉を作りながら、少女は跳ねるように振り向き――
「ビックリさせないでくださいトラベさん! 心臓止まるかと思いました」
 口を尖らせながら想い人に文句を言う。
「わりぃ、わりぃ」
「もぅ……」
 軽く頭を書きながら悪びれた風もない笑みを浮かべる虎部に対して、少女のむくれた表情が笑みに変わるまでの時間は極僅かだった。

 笑い掛け合いながらも、少年の視線は少女を見惚れたように止まっていた。
 あらためて眼前で見た少女の服装は、ターミナルで見慣れた姿とはだいぶ違う。

 腰より少し長いダブルボタンコート、厚手の布地が少女のやわらかな曲線を緩やかに覆っている。
 暖かそうなラビットファーに包まれた襟元から僅かに覗いた首筋は、外気にふれてほんのり桜色に染まっている。
 きっちりと閉じられた胸元は、厚着のせいか多少の隆起をみせる程度の主張しかない。
 ミニスカートの裾から零れた綺麗な脚のラインは黒いストッキングで覆われ、絶対領域を生成していた常とは違う艶めかしさを演出していた。
「どうしたんですか?」
 そんな虎部の様子に、気づいたのかフランは小首を傾げて尋ねる。
「あ……いや、服似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございます、トラベさんもカッコイイですよ」
 ぎこちなさのある返事に、少女ははにかみながら言葉を返す。
 茶化す友人たちとは違って、素直に褒め称える少女の言葉は妙に照れくさい。
「馬鹿言え、虎部さんはいつもカッコイイのさ……フラン、それじゃ行こうか。今日は心の底から楽しませてやるからな!」
 頬の紅潮を吹き飛ばすように少年は宣言した。





 少年は少女を連れ立って繁華街の雑踏をブラブラと歩いている。
 道行く道は、レストランや映画館、ゲームセンターやアクセサリーショップが並び、少女はそれらが何であるか傍らの少年に只管問い続ける。

 ――トラベさん、あれなんですか?
 ――トラベさん、これいい匂いですね。一緒に食べませんか?
 ――トラベさん、ねえこれ面白そうですよ! 遊んでみてもいいですか?」

 幾度と無く少女の手が少年のコートを強く引き、そのたびに少年は少女に言葉を返す。
 好奇心のままに尋ね、楽しげに笑う少女の姿を見るのは只々楽しかった。
 二人きりで居るのは緊張もするが、普段皆と遊んでいるのと違う喜びが込み上げてくるのが理解る。

「ねえ、トラベさんってば!」
 少女が誘う手が少年の手に触れた。
 少年は反射的に少女の手を握ると、少女も力を込めて握り返す。
 少年の心音がわずかに高鳴る。
 (あれっ、結構簡単にいけるんじゃね?)
 契機などそんなものだ……虎部の中にあった心理的な障壁は簡単に霧散する。
「おっしゃ、ここは虎部さんの実力を見せてやろうかな? フランが勝ったら一つ言うことを聞いてやるぜ」
 気を良くしたのか大言壮語を吐く虎部。
「ほんとうですか!? 私負けませんよ!」
 少女も溌剌とした笑みを浮べて応じる。





「フラン、決まったか?」
 少年と少女の勝負、エアホッケーでの対戦は辛くも少女の勝利だった。
「……もうちょっとだけ待って下さい。……うーん、どっちがいいかなぁ」
「あんちゃん、可愛い彼女が悩んでるんだから待ってやるのが男の甲斐性ってもんだぜ」
 少女が悩んでいるのはハート型のロケットペンダント。
 凝った意匠が付いたものとプレーンの二つを見比べて延々と悩んでいる。
「うーん……これ少し高いですよね……やっぱりこっちに……」
 倍以上値段の差がある二つを見比べて少女は少し嘆息すると安価なものに手を伸ばし……少年がその手を止める。
「おっちゃん、こっちの奴くれよ」
「お、あんちゃんイケメンだねぇ……いいのかい結構値が張るぜ」
「ふ、ふ、ふ、これくらい払えでかい!」
 (この日のためにキューブ貯めてたんだからな!)


「トラベさん、本当にありがとうございます。……でもさっきのゲーム、手加減してましたよね」
 お礼の言葉を吐きながらも目を細めたニヤニヤ笑いを浮かべる少女。
「そ、そんなことしねえよ。俺はいつも真剣勝負だぜ」
 少女の意外な表情と意図を見破られてしまった動揺に少年の目は完全に泳いでいる。
「じゃあ、今度またリベンジマッチしましょうね。私の誕生日がいいかな? 連勝してしまいそうですね」
 ふふっと微笑を浮かべる少女に、少年はただただ赤面。
「じゃじゃーん、そんな優しいトラベさんに残念賞がありまーす」
 少女はバックから紙包みを取り出し少年の胸にぎゅっと押し付ける。
「マフラー編んできました……少し長くなっちゃったけど……」

 手製のマフラーは少女の言葉通りに長く、首に巻くと少し長さが余った。
 少年は悪戯っぽい笑みを浮かべると少女の腰を抱き寄せ余ったマフラーを少女の首に巻きつける。
「壱番世界では寒いときはくっつくのが普通さ」
「そうなんですか……? だったらもう少し長くすれば良かったですね」
 二人で巻くには些か短いマフラーを共有するために、少年と少女は触れ合う。
「……これでいいじゃん、長いとその分離れちゃうだろ」
「そうですね……」
 重ねた服の上からでも理解る少女の体温。
 柔らかい弾力の間からは何かの香料だろうか、嗅いだことのない甘い匂いが漏れ鼻孔を擽る。

「……あんちゃんたち他所でやってくんねえか……営業妨害だぜ」





「どうだったフラン? 壱番世界は。ヴォロスとは結構違うだろう?」
「そうですね、人が沢山いて驚きました。あと思っていたより寒いです……ターミナルを出る時は少し暑いくらいだったのに」
「フランは寒いのは苦手か?」
「故郷はここまで寒くならなかったから……あ、でもさっきは暖かかったです」
「そっか、ごめん。今度は暖かいところに行こう。リゾートビーチとかな! 皆と一緒に水着で夏をエンジョイしようぜ」
「楽しみにしてます……ところで、水着って何ですか?」
「ああ、そうかフランは知らないか。じゃ、こんど一緒に買いに行こう」
 熱い珈琲を啜りながら談笑をする二人。
「それにしても、こうしてフランと一緒に話せるようになってよかった。ほんとうに色々あったよな、フランに二回目にあったときなんていきなり刺されてさ」
 軽い気持ちで少年が放った言葉。
 それは少女のトラウマを突いている。
 少女の表情が笑みのまま硬直した。
「まあ、こうして無事なんだし笑い話だよな……フランどうした?」
 少女は胸を押さえ小刻みに震えている。俯き加減になった顔から表情は伺えず、聞き取りにくい小声がブツブツと漏れた。
「おい、フラン!?」
 椅子を蹴って少女の傍らに近づく少年。
 周囲の視線が集まるがそんなことを気にしてなどいられなかった。
 少女は、少年の腕を縋るように強く抱き、苦しそうな息と共に言葉を漏らす。
 ――ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい
 謝罪の言葉を只管に繰り返す少女が正常でないことは誰にでも理解る。
「フラン、気にするな、俺は無事だ! 君は何も悪いことなんてしてない、誰も君を責めたりしてない」
 荒い呼吸、苦しそうにする少女の背を慰めるように抱く。
「気持ち悪いのか? 人に酔ったんだ……慣れてないもんなごめん」
 少年にひっしと掴まる少女はただ首だけを振っていた。


‡ ‡


 繁華街から外れた閑静な住宅街。
 少年の家に向かって、寄り添って歩く二人の影だけが街灯に照らされている。

 虎部の家に行きたいという少女の願いもあったが、程なく落ち着いたとはいえ急な変調をきたした少女を休ませたいという気持ちが強かった。
 (フランが頼れるのは俺だけなんだ。守らなければ――俺がクランチの代わりに、奴以上に幸せにしてやる!)
 少年の内心には、常に少女への情と共に強い義務感が存在していた。
 自分の不甲斐なさが少女から幾つもの幸せを奪ってしまった。
 奪ったもの以上のものを少女に与える――それは少年に強い使命感を与えていた。

 (俺の家に行きたいっか……フランが欲しいのは……親を紹介して欲しいでもなければ、家? 今は誰もいないよ的な展開でもないでもないよな)
 
 虎部の家が見えてきた、そこは二階建ての学生向けアパート。
「こうみえてもクガクセイだからな! 嘘じゃないぞ?」
 努めて明るい口調でうそぶく少年に、少女は微かに笑みを浮かべる。
 階段をのぼる音が、廊下を歩く音が二重の音を奏でる。
 少年は自宅の鍵を開け、部屋に入りながら少女に告げた。
「フラン、ちょっとここで待っててくれ。少ししたら、呼び鈴を鳴らしてくれないか?」
 少女は訝るが少年の言葉通り、心の中で百ほど数えてから呼び鈴を鳴らす。
 呼び鈴の音が響くと共に、満面の笑みを浮かべた虎部が少女を迎える。

 「お帰り、フラン」

 ――あっ……!
 口から抜けるような音を漏らし少女は動きを止める。
 そんな反応に気づかず、少年は歯をきらめかせたまま、幾度も練習したキメ台詞を吐いた。
「クランチより俺の方がいいおとこだろぅ? ……フラン?」
 ただ硬直し、少年の姿を見る少女の頬は瞳から零れる液体に濡れていた。
「フラン……また苦しいのか? ごめん、早く部屋に入ろう。少し横になれば楽になるかも」
 少女は俯き首を振る、コートについた飾りが左右と揺れる度に頬から零れた涙が散った。
 滂沱の涙を流しながら玄関に佇む少女。
 心配げな表情のまま誘う少年の腕が少女の腰を抱く。

 ――――……
 
 声にならない吐息が漏れた。
 少女は誘われるまま少年に体を預ける。両の腕が少年を背中を抱き、顔を少年の胸に寄せた。

 ろくに手入れされていないアパートの扉が錆びた音をあげて外界と二人の空間を隔絶する。
 二人だけの空間には、ただ嗚咽だけが響いていた。

「苦しいのか?」
 少年は尋ねる、少女は頭を振る。
「悲しいのか?」
 少年は尋ねる、少女は頭を振る。

 少女の指が少年の背中をなぞる。
 それは少年の知らぬヴォロスの書き言葉。
 分からずともそこに込められた意味は伝わった。

 少年の指が少女の頬に優しく触れ顔をあげるように促した。
 涙で崩れて歪んだ少女の表情、絡む視線の先にある情に少年は答える。
「ここがフランのもうひとつの家さ、俺がフランの帰るべき場所だ」
 目を見開く少女の眼は赤く濡れ、感情の波は再び決壊し溢れた。
 少年がかける言葉はすでに無かった、だから少女の感情に蓋をした。

 ――少年の唇が少女の唇に触れる

 少女は涙を溜めた瞼を閉じ少年の背を強く抱く。
 頬が幾筋も濡れ、絡み合う口唇に溶けた。

 ――ありがとう、愛しています

 少女は、自分を包んでくれている少年の腕の中でその背に刻んだ言葉を再び思い浮かべていた。

クリエイターコメント文字数がキツイ……長編企画とかないもんですかね、お蔭様で断腸の思いで削ることになりましたよ、乳について語った部分をね!
性、おっと聖夜は如何がお過ごしだったでしょうか皆様、自他共に認めるきょにゅースキーのWRことKENTです。

さて本題ですが……

家に行きたい件についてはご想像のとおりです、流石ですね。
もっとも、トラウマスイッチを自然と押してしまうあたりが虎部さんらしいというかなんというか。
あとクランチと比較しようとするプレイングが多かったように感じましたが、そんなに気になりますかね? 元彼(じゃないけど)を気にするみたいな感じですか?

女子会シナリオやその他掲示板でちょこちょこやってたことも踏まえたかったですが……モジタリナイヨ、ゼンゼンタリナイヨなので別の機会に使えればよいかなと思います。
それではまたの機会にお願い致します。
公開日時2012-12-25(火) 22:10

 

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