クリエイター阿瀬 春(wxft9376)
管理番号1147-13017 オファー日2011-10-17(月) 20:19

オファーPC 相沢 優(ctcn6216)コンダクター 男 17歳 大学生
ゲストPC1 キース・サバイン(cvav6757) ツーリスト 男 17歳 シエラフィの民

<ノベル>

 樹蔦が分厚い壁となってそびえ立つ。大人の銅よりも太く、最早蔦とは言えぬほどに生長した蔦は、訪れる者を全て拒む城壁のように滅んだ王国の城を包み込む。
 相沢優は立ち尽くす。
 以前、世界から取り残されたようなこの城を訪れた時は、これほど夥しい樹蔦に覆われていなかったように思う。
 短い黒髪を甘い花の香り含んだ風に煽られながら、優は視線を巡らせる。
 あの日を思い出す。世界司書より暴走間近な竜刻封印の依頼を受けて城を訪れた、あの日。樹蔦の隙間には白い巨石で築かれた城壁が見えたように思う。城を囲む森の樹々よりも高い、中央の塔の半ばより先は樹蔦に覆われていなかった。青空に白い石壁を晒していたように、思う。
 青々と繁る掌のような葉の隙間から、赤い焔の色した花が咲いている。微かな風にさえ震え、甘すぎる匂いを撒き散らす花。あの日、優達は城の最奥で、孤児の王と呼ばれる王に会い、花の名を教わった。
 『白焔花(はくえんか)』。白い炎の意を与えられたその花は、朝陽の中にあって、紅い。
 蔦の繁茂に比例して、花も数を増している。紅い花が爆ぜるように咲き乱れる。炎の色の花に包まれ、燃えているような、
(シエラ)
 ――シエラと呼んでくれ、とあの日笑った孤独な王の城。
 言いようのない不安が優の心を掴む。
「優君」
 穏かな声に名を呼ばれ、優は忘れていた息を思い出す。
「これ、見て欲しいんだぁ」
 紅茶の色したたてがみを風に遊ばせ、獅子の獣人であるキース・サバインが巨木とも見える樹蔦の群の前にしゃがみこんでいる。シャツの上からもわかる筋骨隆々とした立派な背には、あの日と同じに狼を模した仮面がある。
「どうかした?」
 優が近付くと、キースは木漏れ陽の色よりも明るい金色した丸い眼を上げる。ふかふかの獅子の毛で覆われたごつい指先と強靭そうな黒い爪で、けれど壊れ物を扱うようにそっと触れているのは、一本の若い樹。
「植樹してるみたいだねぇ」
 若樹の根元の土は、最近掘り起こされたように新しい。腐葉土を混ぜ込んだ跡もある。
「たぶん、お城を囲むように」
 定期的に植樹に来る者が居るのか、樹齢は様々のようだ。つい最近植えられたようなもの、何年か前に植えられたらしいもの。よく見れば新しく植えられた樹の奥に、それよりも何十年も前に植えられたらしい同じ種類の樹が、こちらは大地にしっかりと根を張り太い幹を育てている。瑞々しい葉が陽を浴びて輝く。
 城を蹂躙する白焔花は、その樹の周りだけは勢いをなくしているようにも見えた。
「何のためだろうねぇ」
 若木の奥に控える巨木の梢をキースは仰ぐ。白焔花の百合にも似た香りは、夥しいほどに重なり合い、腐敗した果実のように甘過ぎる匂いを放つ。粘つくようなその香りの風を払って、清冽な緑の香が降る。
 紅い焔を宥めるように涼やかに佇む、名も知らぬ樹の並びを辿る。二人の旅人は再び訪れた城の門扉を目指す。
 石の城壁を押し崩して絡み合う樹蔦の隙間へ身体を捩じ込ませれば、城壁内へ入ることは容易いが、
「前は門番さんと戦う羽目になっちゃったよねぇ」
 キースはそう言って髭の生えた頬を掻く。
 城内への入り口である巨大な門扉の前には、唯一人となって尚、骨となって尚、城を護り続ける黒狼の仮面と毛皮被る門番がいる。
 門番にその手にした槍を向けられずに門扉を潜る方法はただひとつ。
 以前はそのただひとつを知らず、違えた。キースも優も、望まず門番と刃を交わしてしまった。
「今日は大丈夫」
 優はまっすぐな瞳で笑う。
 火の川とも血の川とも見えるほどに赤い花に埋もれ、態を為さなくなった堀を隣に進む。ほどなく見覚えのある石橋に辿り着く。以前でさえ半ば蔦と紅い花に占められていた石組みの橋は、今はもうまともに見えない。
 緑に埋もれ、樹蔦の壁とも門扉とも区別のつかなくなったその場所に、
「門番さん」
 黒狼の仮面の門番は変わらず立っていた。狼の毛皮と手甲に覆われた手には古びた槍、頭の全てを隠す黒狼の仮面。門扉に近付く旅人の気配に、門番は仮面の頭を向ける。毛皮の下の錆び付いた鎧を軋ませ、槍の石突を足元に叩きつける。
 蔦に覆い尽くされた石橋の上にあって、門番の足元だけが蔦や葉の侵略を受けていない。石打つ重い音が森に響く。
 威嚇に僅かも怖じず、優は物言わぬ門番と対峙する。
「こんにちは」
 黒狼の仮面の奥、虚ろしかない門番の眼を見つめて、生真面目に頭を下げる。
「王さまに、……シエラに、会いに来たんだぁ」
 背に負っていた仮面を顔に被り、キースは請うように言う。言葉を解さぬ機械仕掛けの人形の動きで、門番は槍穂を旅人へ突きつける。古びた槍の刃だけは、何かの魔法か、何百年を経ても白刃の煌きを保っている。
「俺は、相沢優」
 門番が向ける切っ先に自身の胸を晒して、優は踏み出す。
「シエラに、会いたいんだ」
 戸惑ったように刃を揺らがせる門番に、
「キース・サバイン、って名前だよ」
 キースが畳み掛ける。
 門番を退ける唯一の方法は、己の名を名乗ること。
 旅人の名乗りを受け入れ、門番が槍を引く。無礼を詫びる仕種なのか、胸に手を当て、頭を下げる。
「こんにちはぁ」
 安堵の息と共、キースがお辞儀を返す。門番は頭を上げ、その後は一切の動きを止めた。
「通っていい、ってことだよな?」
「そうだねぇ」
 長く仲違いしていた知り合いとようやく仲直りしたような気持ちで、ふたりは笑みを交わす。動かぬ門番の横を通り抜け、緞帳のように厚く重なり合った樹蔦と花の隙間へと身体を押し込む。
 城内に入る。
「随分、変わっちゃってるねぇ」
 黒狼の仮面を上げて、キースが丸い金の眼を不思議そうに見開く。
 濃緑に覆い尽くされていたはずの城の庭は、白焔花で真っ赤に染まっている。以前は辛うじて残っていた城の形も、今は樹蔦に押し包まれている。城自体が巨大な一本の樹と化したかのよう。
「何事も、起こっていないよな?」
 低く呟く優の不安に応えるように、背負った鞄がごそごそと動く。中からオウルフォームのセクタン、タイムが顔を出す。
「頼む」
 優は小さな翼をばたつかせて肩をよじ登ってくるタイムにそっと笑いかけ、城の空へと放つ。オウルフォームセクタンの能力である『ミネルヴァの眼』でタイムと視界を共有する。空から見下ろす城は、ひとつの焔のよう。
「優君」
 無数の大蛇のように地面を這い埋める樹蔦を踏んで、キースが優を呼ぶ。優はあの日通った道の記憶を思い起こしながら頷く。
「行こう」
 樹蔦に絡めとられ、絞め殺されて立ち枯れた樹の傍を過ぎる。城壁の外に樹を植え続ける人々は、城内には立ち入っていないようだ。植樹の気配は見受けられない。
 人の立ち入らぬ庭には、白焔花ばかりが蔓延る。
 巨大な生物の背のように膨らむ樹蔦の中身は、崩れた城壁の一部だろうか。それとも、呑みこまれた城の一部だろうか。
 壁という壁に蔦が這う。赤い花を咲かせる。窓という窓から蔦から入り込んでいる。入り口塞ぐ扉はとうの昔に朽ちたか、窓から侵入した蔦に破られたのか。見渡す限りの入り口が蔦に覆われている。
「ぎっしり蔦だねぇ」
 重なりあい、壁となった蔦を頑丈な腕で押して、キースは唇を引き結ぶ。どの入り口もどの建物も、内も外も全て、樹蔦で埋まっている。
「前はここから入れたのに」
 優は垂れ下がる蔦を掴む。葉を払いのける。花を掴み、毟る。
「シエラ」
 呟く。
 あの日。孤児の王は、さらば、と言った。寂しげな蒼い眼で優を見つめたまま、自ら扉を閉ざした。
 もう二度と会わないつもりだったのか。再び会えないと分かっていたのか。
「優君」
 キースの大きく温かな手が優の肩を掴む。
「大丈夫」
 おっとりと獅子の獣人は微笑み、繰り返す。
「大丈夫だぁ」
 陽の金色した優しい瞳を、一本の巨大な樹のようになった城へと巡らせる。
「別の道がきっとあるよぉ」
 優は温和な金の瞳の先を真摯な黒の眼で追う。身長の三倍はある樹蔦の壁を仰ぐ。捩れた縄のような蔦をきつく掌で握る。
「方向は、覚えてるんだ」
 孤児の王が眠り続ける、宝物庫の場所。優は呟いて、青空を背負う城の塔を見据える。『ミネルヴァの眼』で上空から城を見ても、人間が通れる道は見つけられない。
 あの日は樹蔦の隙間や城の内部を通って孤児の王に会いに行ったけれど。
「下が通れないなら、」
 優は蔦を両手で掴み直す。力いっぱい体重を掛けて引いても蔦が千切れないことを確かめる。優の動作を見ていたキースが、大きく頷いて笑う。
「上だぁ」

 大人の胴より太い蔦を踏む。絡んだ蔦と蔦の間に靴先を押し込む。二股に分かれた蔦を掴んで身体を引き上げる。捩れて瘤の出来た樹蔦は足場も手掛りにも困らない。
「よッ、……と」
 然程の苦労もせずに蔦の壁を登攀しながら、優は頭上を仰ぐ。
「もう少しだよぉ」
 壁の天辺近くで、キースが息も切らさずに振り返る。優よりも大きく重いキースは、けれど元の世界で狩人として生きてきたこともあり、茂みを進むに長けていた。危うげなく蔦を手繰り、跳ねるような動きで素早く蔦の壁を登りきって、
「優君」
 頼りがいのある腕を優へと伸ばす。
「ありがとう」
 優は何のてらいもなくその手を掴む。もう片手と足で太い蔦を蹴る。蔦の壁を登りきる。平坦な屋根にも斜めに傾ぐ屋根にも、満遍なく蔦が這い、赤い花が咲く。足場の悪い屋根の上を、方向を確かめながら歩く。方向を見失ったときはキースがぐるりを見回して、
「こっちかなぁ」
 狩人の鋭敏な感覚で以って城内の人の気配を読んだ。
「人は、シエラしかいないねぇ」
 金色の眼が更なる気配を探って細くなる。城の底の底、微かに感じる気配は何だろう。巨大な何かが蠢いている。遠い地の底から地上に這い上がる時を待ち受けているものの気配。うなじの毛がびりびりと逆立つ、不気味な獣の気配。
(城の地下に眠るもの)
 シエラの言葉を思い出して、キースは逆立つ毛を撫でる。
「……これかぁ」
「キースさん?」
 砕けるかもしれない蔦の屋根を慎重に踏みしめて先を急ぎながら、優が呼ぶ。キースは這い寄る不安を首を振って退け、優の後を追う。
「もうすぐ、シエラに会えるねぇ」
 幾つかの蔦の壁を登る。吊橋のように蔦が下がる回廊の庭を渡る。巨大な樹とも塔とも見える蔦に覆い尽くされたものを迂回する。蔦の隧道のような隙間を潜り抜ける。何度となく頭に木屑や花葉を被り、乾いた樹皮で手や頬を引っ掻く。空目掛け何百と新芽を吹き出す蔦の原っぱを掻き分け進む。
 風が吹く。舞い踊る火の粉に似て、幾千の赤い花弁が空へ噴き上がる。
「うわっ」
 数多の花弁に頬を掠められ、優は腕で眼を庇う。甘過ぎる香りに不意打ちされ、キースが思わず咳き込む。
 花の風が通り過ぎたその先に、まるで火口のような、赤の花に埋れた窪地があった。花を踏んで近付いて、
「あった」
 優は声を上げる。
 キースと優の立つ低い屋根のその下は、ぐるりを蔦の壁に囲まれた、小さな回廊。以前は蔦の侵入をそれほど許していなかった回廊も、今は白焔花に埋もれきっている。庭の央に白い石の肌を晒して立っていたはずの太古の女神像は、焔掛けられたように赤の花に絡めとられ、無事ではない。
 蔦と花塗れの女神像の上、タイムが毛づくろいをしている。屋根に優とキースを見つけ、嬉しげに跳ねる。
 花を千切り、蔦の葉を毟り、優は転げ落ちるように回廊へと飛び降りる。樹蔦を軋ませ、網の目のように蔦が絡みつく焦茶色の重たい扉の前へと駆け寄る。
(前は、ここだけは蔦にも覆われていなかったのに)
 優達が再訪するまでの時間は、孤児の王の城が過ごして来た時間に比べれば瞬きの間とも言えるもの。それだけの短い間に、どうしてこんなに蔦が蔓延ってしまったのだろう。
 まるで、止まっていた時間が動き出したかのよう。
 優は扉を封じて重なり合う蔦を取ろうとする。その傍にキースが立つ。一番に太く、葉と花を繁らせた蔦を両手で掴む。シャツに覆われた毛皮の腕にぐうっと力が籠もる。両開きの扉を蔦ごと引き剥がす勢いで、何十本もの蔦葉を毟り取る。
 優は緑色にくすんだ金色の取っ手を掴む。躊躇う間も惜しんで扉を開く。
 飛び込んで来たのは、眼に痛いほどの鮮やかな赤。喉の奥を焼くほどに甘い香りが鼻をつく。
「ここも」
 扉の正面にある大きな窓から、縒りあい大蛇のようになった蔦の群が雪崩れ込み、床といわず壁といわずのたくっている。壁や床に置かれた様々の宝飾品や極彩色の掛布、刀槍、――何もかもが、緑に蹂躙されている。
 唯一の窓が塞がれた宝物庫は、赤い薄暗がりの色。
「シエラ!」
 堪らず、優が声を上げる。
「何じゃあ、騒がしいのう」
 返事はすぐにあった。優は赤い花の色に染まる薄闇に眼を凝らす。花葉の色に紛れて、部屋の中央に黒い柩が見える。
「シエラぁ」
 キースの声に、黒柩の陰からひょこん、と白い狼の形した耳が覗く。
「はい、よいこらしょ、と」
 幼い少女の声に似合わぬ言葉遣いと共、白狼の仮面と毛皮被った子供が黒柩の上に自らの身体を乗せる。両手を蔦這う天井に向け、両足を宙にぴんと伸ばし、仮面の下で大欠伸をする。
「斯様な処によう来、……ん?」
 細い両足を柩の上でぶらぶらと揺らし、誰何しようとして、ふと首を傾げる。身軽に柩から飛び降り、入り口に立つ旅人達の前に駆け寄る。蔓延る蔦や変わり果てた宝物庫を不審がる様子は無い。
 孤児の王は部屋から一歩も出ずに、片目の外れた白狼の仮面の奥の蒼い眼を瞬かせる。何かを思い出そうと、必死にキースと優を見つめる。
「シエラ、こんにちはぁ」
「なにゆえ私の名を知る」
 低く唸る孤児の王の前に、キースは膝をつく。故郷の子供達に向けていたのと同じ、屈託のない穏かな笑みを向ける。宝物を見せるように、胸の前で大きな両手を広げる。ふかふかの毛皮の手の中には、銀色の煌く硬貨。
「お礼をしたかったんだ」
 キースの掌に並べて、優も掌を差し出す。ふたつ並ぶ銀色硬貨を見、親しげな笑み浮かべる二人の旅人を見、孤児の王はもう一度眼を瞬かせる。記憶を取り戻そうと、蒼い眼が震えてもがく。しばらく俯いて、また二人を見仰いで、
「優! キース!」
 シエラは歓声をあげた。飛び跳ねる。銀色硬貨ごと、二人の手を取る。宝物庫の中に引き込む。
「少々荒れてしもうたが、時が近い故じゃの。仕方あるまいて」
「シエラ、それは、」
「まあ座れ。ほんによう来た。変わりないか、元気にしておったか」
 優は城の変わりようを問おうとして、けれど王のはしゃぎっぷりに遮られた。勧められるまま、黒柩の上に腰を下ろす。優を左に、キースを右に。手を繋いで両隣に座ってもらい、シエラは見るからにご機嫌になる。
「シエラ、一緒にご飯にしよう」
 優が鞄から大きな弁当箱と水筒を取り出す。中身は優が早起きして作ってきた、おにぎりにだし巻き卵、鶏の照り焼き、花形人参が可愛い里芋や蓮根や牛蒡の煮物。水筒にはまだ温かい揚げと大根のお味噌汁。
 味噌汁の入った水筒の蓋を手渡され、シエラは白狼の仮面を頭から外す。肩で揃えた白い髪がふわりと揺れる。孤児の王と呼ばれる幼い王は、近くの町で遊んでいた少女達の容姿とどこも変わらない。
 温かな味噌汁を恐る恐る啜り、シエラはおお、と蒼い眼を丸くする。
「美味じゃのう」
「キースさんも、どうぞ」
「うん、いただきます」
 シエラはおにぎりを片手に、鼻歌まじりに投げ出した両足をぶらぶらさせる。
「あれぇ、その唄」
「知っておるのか」
 蒼い瞳に頷いて、キースは木製の素朴な笛を取り出す。
「ここに来る前にね、近くの町で聞いたんだぁ」
 キースはシエラの口ずさんだのと同じ旋律を笛で奏でてみせる。町でその唄を聞かせてくれたキャラバンの女は、この地方に古くから伝わる子守唄なのだと言っていた。
「これ、あげる」
 キースのものと同じ形の新しい笛を渡され、シエラは不思議そうに首を傾げる。
「私が、貰っても良いのか?」
「これのお礼だよぉ」
 キースは銀色硬貨を見せて笑う。
「でも、何が良いか分からなかったんだぁ」
「……うれしい」
 シエラはくすぐったそうに肩をすくめる。笛に唇を寄せる。上手く吹けずに首を傾げる。
「シエラ、俺からも」
 優が鞄から鮮やかな色の小さな袋と、白い子狼のぬいぐるみを取り出す。シエラの小さな手に、用意してきたプレゼントを渡す。シエラはぬいぐるみを抱き締める。優しい匂いを包み込んだ匂い袋に顔を寄せて笑う。
「ありがとう」
 優は黒柩から下り、シエラの前に膝をつく。目線の高さを合わせる。
「俺達は今日の事をずっと忘れない」
 誓うように告げる。
「シエラはここで、確かに一人だけど、でも誰かときっと繋がってるんだ」
 シエラの小さな両手を、その手にある木製の笛ごと掴む。キースが町で聞いた唄を笛で奏でて微笑む。キースの笛に励まされ、優は言葉を続ける。
「それに、俺達とも。俺達と確かに今も、これからも繋がってるからな」
「ともだち、だぁ」
 キースの大きな掌がシエラの白い髪の頭を撫でる。
「ともだち」
 蒼い眼が泣き出しそうに笑う。
「だから、また来るからねぇ」
 孤児の王は、優しい友人から貰った木の笛と、匂い袋と、ぬいぐるみを力いっぱい抱き締める。
「キース、優」
 ともだちの名を呼んで、微笑む。
「ありがとう」


クリエイターコメント お待たせいたしました。
 古い森の奥の古いお城のおはなし、お届けさせて頂きます。
 『杜満つる都』のお話から、もう随分時間が経っておりますのに、……小さな王を気にかけてくださいまして、ありがとうございます。
 お言葉に甘えさせて頂きまして、結構好き放題に捏造してしまっております。それでも、少しでも、楽しんで頂けましたら幸いです。

 優しいおはなし、聞かせてくださいましてありがとうございました。
 またいつか、お会い出来ますこと、シエラ共々、楽しみにしております。
公開日時2011-11-07(月) 21:20

 

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