クリエイター北野東眞(wdpb9025)
管理番号1158-10151 オファー日2011-06-26(日) 02:29

オファーPC 仁科 あかり(cedd2724)コンダクター 女 13歳 元中学生兼軋ミ屋店員
ゲストPC1 脇坂 一人(cybt4588) コンダクター 男 29歳 JA職員

<ノベル>

 距離、おおよそ一メートルちょい。片手を伸ばしたら相手に届きそうな近さ。
 障害物、特になし。煉瓦作りの道路。一定の間隔で置かれた洒落た街灯。その両左右にずらりと軒を連ねる店の数々。――現在地、画廊街。

 左手。小物店から、お目当ての品――ハンカチ、ティシュ入れをゲットした脇坂一人。
 右手。可愛らしい小物店を見て回ってほくほくの――仁科あかり。

 まるで狙ったかのようなタイミングで、ほぼ同時にドアが開いて、二人は真正面から見つめ合う。

「……か、かっちー」
「仁科」

 目が、合った。
 それはもうばっちりと、逸らしようがないほどに。

 あかりは背筋に木の棒でもいれたようにかちんこんちの動作で右を向くと、はぁと息を吐きだして、走った。太腿は高くあげ、手はリズミカルに上下にふり、地面から飛びたつ鳥の如く、突っ走った。
あかり、いま、わたしは獲物を狙うチーターよ。――などと自己暗示までかけての全力の逃走である。

「ちょ! ……お、おまち! 仁科っ!」
 置いてきぼりをくらった一人は唖然とその様子を見つめていたが、我に返ると同じく走り出した。女性的な美貌に、眼鏡をかけて、ひょろりと長い背丈はか弱いと誤解されやすいが――農業で鍛えているので体力はそこらへんの男よりもあると自負している。

 あかりは十三歳の少女。一方、一人は成人した男性である。体力面もそうだが、体格でもかなり差がある。
 いくらあかりが先に走り出したとしても追いつけないわけもなく、かなりの差があった二人の間はぐんぐんと縮まっていった。

 ちらりとふりかえったあかりは顔を歪めた。
「げぇ! 何で追ってくるのよ。かっちー!」
 チーターがいつの間にか獅子に狙われた憐れな小鹿状態だ。
「あなたが逃げるからでしょ! 仁科!」
「逃げるんだから追ってこないでよ!」
「なにいってるのよ。この子は! せっかく会えたのに!」
「うっ……!」
 あかりは、まんじゅうが喉に詰まったような苦しげな顔でうめき声を漏らす。

 あかりと一人は幼馴染だ。
 しかし、あかりは十三歳のときに覚醒した。
 昼休みに購買へと向かっているとき、階段から足を滑らせて生死を彷徨ったのがきっかけだ――ちなみに原因はもちもちの佃煮パンを求めてのことだった。あやうくそれが遺言になるほど、食べたかったのだ。
 外見年齢をとらなくなったことと、旅に出ている間の長期不在で行方不明扱いされてしまうことを避けるためにも、自分のことを知る人たちの前から引っ越しという理由を使い、姿を消した。
そのとき幼馴染で親友でもあった脇坂一人にも真実は告げられなかった。

 つい最近、旅客名簿で脇坂一人の名を見つけたときは、もしかして……と思って詳しく調べると、幼馴染のかっちーだった。
彼は幸いにもちゃんと大人になって覚醒していた。安堵と涙がこみ上げるような懐かしさのあとに胸に広がったのは、騙してしまった罪悪感。
会って何を言えばいいのかわからないし、仕方ないとはいえ嘘をついたことをなじられたら? かっちーはそんなやつじゃないけどさ。時間って人を変えていくし。
 ――悶々と悩んだ末、まぁいつか会ったときにちゃんと話せればいいかっと明るく前向き行こうと結論が出たのは昨日のこと。
まさか、こんなにもはやく会うなんて! 神様、いいや、悪魔……チャイ=ブレの悪戯心まんさいの意思だとしても、あんまりにもひどすぎる! 抗ってやる。全力で逃げてやる!
 昨日のかっちーのことを受け止めよういう決意は可燃ゴミ箱に潔く捨てて、あかりは運命から逃げる道を選択した。

「きょ、今日は乙女の日なの! 察してよ。かっちー!」
「なによ、それ。え、もしかして……だったらますます動いちゃだめでしょ!」
「セクハラ! かっちー、それはセクハラ! ……あー!」
あたりは突然と足をとめて、西を指差す。
「かっちー、かっちー、見て見て! 体毛もっさり筋肉特盛りのダンディが歩いてる!」
「なんですって!」
 思わず一人は足をとめて周囲を見回していた。
「ちょ、どこ、どこよ。仁科! いないじゃないのって、あー!」
 油断したら、またしても彗星の如く小さくなってゆくあかりに一人は叫んだ。
「おまちぃ! ……こっちとら農業で毎朝一キロ先の川から水くみして畑にまきしてるのよ、なめんじゃないわよ!」
「ひぃいいいいいいいい!」
 あかりの悲鳴が轟く。今、指名手配された犯人の気分がちょっとわかるかも。
「人さらい、人攫いだぁあああ! かっちーったらわたしのことを攫おうとしてるのよっ!」
「なにいってるのよー、このおばか! 誰が人攫いよ!」
 あかりの誤解を生む悲鳴に、つっこむ一人。それを周囲の人々は興味深く、また呆れた視線を向けている。元気な少女と人攫い――どうみても人攫いに見えないので誰も止めない。ちょっと、こんな美少女はいいすぎでも可哀想な乙女のピンチなんだから助けてよ!
 ――だって思いっきり相手の名前よんでるじゃん。(野次馬一同の心の声)

「もう、本当にま……」
 一人は言葉を飲みこんだ。
 近所で、元は親友だった仁科あかり。その姿を旅客名簿で見たとき、泣いてしまうかと思った。名前と外見年齢を知ったとき――思い出したのはあかりと音信不通になったときに感じた寂しさとほのかな怒り。
それはまだ心の奥底に沈殿している。
もう少し若かったら、感情のままあかりのことを詰っていたかもしれない。
だが、二十代の後半となり、挫折も諦めも知った。今だったらあかりの孤独や複雑な葛藤が、同じロストナンバーとして理解していくことはできる。
 なによりも、またあかりに会えることが嬉しかった。
今だって、会えたことがただ嬉しかったのだ。それがいきなり逃げられてショックだった。だからつい反射的に追い掛けていた。
あかりは嘘をついたことを悪いと思っているのかもしれない。それを自分は許している。
 それの気持ちをなんとか伝えて、会えなかった今までの積もり積もった思い出話をしたい。そうよ、あきらめちゃだめ。追いけ駆けたんだし。思い出すのよ、某アニメ映画を。人に懐かない獣を怖くない、怖くないと口にして手懐けた女性がいたじゃない。あのノリよ。
「仁科……こ、こわくない、こわくないわよ。さぁ、いらっしゃい」
 母性溢れる笑顔を浮かべ――私、男だけどね。今だけは聖母マリアだって裸足で逃げ出すほどの慈悲を溢れさせられるわ――がっつん。
 思いっきり、顔面にぶっとい本があたった。
「っ!」
「こないでー、かっちーこないでー」
 ひゅん、ひゅん、おらよっ――あかりはポケットから取り出した物を無造作に投げ出した。
食べかけのガム、手鏡、テッシュ、きれいな色の小石、ゲーム機の充電器、歯ブラシ、櫛……乙女のポケットは四次元ポケットの如くなんでもはいっるてのよ!

 ――ぷっちん。
 切れてはいけない血管が切れる音を、一人は聞いた。

「ちょ、いた、ごふぅ!……仁科ぁああああ!」
 一人は怒声をあげる。その顔は聖母マリアではなく、般若すら裸足で逃げ出す形相だ。
「いゃあああああああああああ! こわいいいいいい!」
「誰のせいようううう!」
 すべては、あかりのせいです。

 二人は互いに悲しいくらいにすれ違っていた。
 あかりはただ心の準備がまだ出来ていなかった。再会の照れや嘘をついてしまった罪悪感から一人に向きあうことが辛いのだ。ただあともう少しだけ、向きあうことを覚悟する時間がほしいだけなのだ。
 一人にしてみればあかりの諸々のことをすべて許した上で、向きあいたいと覚悟しているが、それをあかりにはわからない。

 そんなわけで二人は走る。
 足の骨が折れようと、血の涙を流そうが、汗のしょっぱさが目にしみようが、足の裏に出来た魚の目が痛んでも――どこまでも、とことんまで。

 それに、ここまできたら意地である。
名作・走れ、メロスだって意地と根性で走っていたじゃないか。親友と愛と自由のために。
 だからあかりは自由と愛と意地のために走る――この逃亡にそもそも愛なんてあるのか。
 だから一人は親友と意地と怒りのために走る――今のところ怒りが一番の理由かもしれない。

 走り出して、はや三十分。

「ふ、ふふふふふ。そろそろ疲れて来たんじゃないの? 仁科!」
「う、ううう」
 一人の指摘にあかりは疲れ切った顔で唸る。
 逃げ足が速いことがあかりの自慢だが、それは瞬発力に優れているからであって、持久力は皆無に等しい。とはいえ、かなり走った。
 画廊街から世界図書前まできてしまっている。一キロ以上は走っているはずなのに、一人はちっとも疲れた顔がない。
「な、なんで……」
 ぜぇぜぇ、はぁはぁ――胃が、肺がものすごく痛い。
「これでも農業で鍛えているのよ! 畑仕事はね、命に対する慈悲もそうだけど、季節に左右される農業ってのはスピードも大切なのよ。苗を一つ一つをちんたらちんたらと運んでちゃだめなのよ。十キロの苗を片手で持ち、太陽の日差しにいじめられながら機械を操る! 収穫のときは両手に林檎と葡萄がはいった十五キロの箱をもってかけずりまわる! それで鍛えた私の体力をなめないでちょうだい。私の勝ちね! 仁科! 現役農家の体力と根性なめんなぁ!」
「……くっ、ううううっ」
 近年、機械が導入されてだいぶラクになったとはいえ農業とは地味だがまさしく人間の体力、気力、持久力による自然との戦いである。
 そんなのに十三歳のか弱い乙女――あかり談――が勝てるはずもない。
「わ、わたしは……負けない! 絶対に! チャイ=ブレ、わたしに力を与えたまえ!」
 すでになんのための追いかけっこなのか……だいぶ目的が二人のなかでずれはじめているようだが。

「あ、あそこだ!」
 息も絶え絶えの状態であかりは世界図書館の玄関をくぐりぬける。
「ちょ、待ちなさい!」

 建物の中にはいると、真っ白な廊下に大量の本と、利用者の忘れものを詰め込んだ箱を運んでいる世界司書に遭遇した。
「こら、廊下ははしら、えっ……ちょ、なにを」
 あかりは素早くその世界司書の背後へと隠れると、鬼の形相の一人が迫ってきた。あまりの恐ろしさに世界司書は悲鳴をあげた。
「ぎゃぁああああ! 強盗!」
「違いますっ! 小憎たらしい小娘をおいかけている健全なる農家です!」
 なんだ、それ。
「え、なにかしたのか、君?」
「違います! なまはげのような元親友に追われている可憐な乙女です!」
 自分でいうな。
「ふ、ふふふ。追い詰めたわよ」
「う、ううう」
「ちょ、二人とも、ここは図書館だから、しずか」
「おだまり!」「いま、それどころじゃないの!」
 息もぴったりの反論に泣きたい。
「ちょ、物が多いんだ。バランスをくずっ」
 あかりと一人に挟まれて世界司書は大量の荷物にバランスを失って前のりに転がる。
本と忘れ物箱に入っていた大量のがらくた――スパナ、鉛筆、ノート、金槌、人形……が、一人に落ちていく。
「いた、ぃたた、なによ、このあからさまに狙ったかのような凶器は! 図書館になにしに来てるのよ、みんな!」
 本当にね。
「ナイス、司書さん! あっ、あと、これ借ります! あとで返しますからっ!」
「こらー! 待ちなさい! ……すいません。あとで片付けにきますからっ」
「ちょ、お前ら……な、なんなんだ。あれは」
 転げた司書と物が散乱した床を置き去りにして二人は走り出す。本当にごめんなさい。

「神はわたしを見捨てなかった! あーめん! なんまんぶだつ!」
 忘れ物箱のなかに置いてあったスケートボードを失敬してきたのだが、走るよりずっとラクだし、はやい。
 このまま逃げ切れると思ったとき背後からぞくりと肌を震わせる殺気――振り返ると、そこには
「うおおおおおお!」
 一人がいた。
 その走りは韋駄天の如く、さらに顔はなまはげが十人くらい集まって合体したかのような怖さ――キングなまはげ!
「いゃああああああああ!」

 スケートボードでなんとか距離を稼ぎながら進むあかりと韋駄天をその身に降臨させた一人は駅についた。
 駅内は人が多い。
 これならば人ごみに紛れて逃げられる。
「いける、いけるわ。わたし!」
 希望の光が燦々と輝いている。思わずガッツポーズするあかり。
 しかし、
「葡萄、林檎を育ててはや数年、香り、色、すべてを見て収穫するのよ! 人一倍匂いと色には敏感なの! 仁科の体臭と着ている服はもう記憶したわ。この猟犬並みの嗅覚から逃れると思うなぁ!」
「かっちー、その発言は変態! ちょー変態だから、それ!」
 なんという執念。
 もう捕まるしかないのか。あかり、最大にして最悪のピンチ!

 そこにちょうど列車がやってくるというアナウンスに、待っていた人が動きだした。――おおままよ!
 あかりはスケートボードを加速させた。
むぎゅう。――人と人の間、まさに肉と肉の壁に小さい我が身を押しこむ。
「わっ」「なんだ」「ちょ、ちゃんと並びなさいっ」「おい、こら、どこさわって、」「きゃあ! おいどんのお尻触られたでごすっ」――ごめんなさい、ごめんなさい! けど、許して乙女のピンチなの! てか、一部かなりつっこみどころの満載の悲鳴があったような。まぁいいか。
 そしてあかりが振りまいた災いは追い掛ける一人に向かう。
「ちょ、とおして、え、ちがうの。痴漢じゃのいよ。わりこみでも、あの子を追ってるの。ちょ、あんたみたいなのタイプでもないのを痴漢するかぁ! いや、痴漢犯罪ですからっ、タイプでもしちゃいけませんっ! 仁科ぁあああ!」
 ごめんなさい、ごめんなさい。あと一回、ごめんなさい――。

人の壁を抜け切けて振り返ると、立ち往生している一人を見てあかりは悪魔の笑みを浮かべる。
 ふふふ、あかり、あんたも悪ね。ふふ、お代官様ほどでは――って、あああああ!

 がくん、ばこん。ついでに、べちゃあ。
 ――何事にも因果応報というやつはあるものだ。

「はぁ、はぁ、仁科! って、いない! こっちの方向だったのに……そんなに時間もたってないはずなのに……くっ」
 人さまに平謝りして、痴漢疑惑を晴らし、ようやく抜けた先には誰もいない。
「そんな、ばかな……」
 覚醒してからあまり経っていない一人は建物の構造を熟知しているわけではないし、一緒に探してくれと頼める知り合いも――先ほどまでいた人々は、列車が出たためいなくなってしまっていて、今やこの場にいるのは、一人と車掌のみ。
 これ以上の探索は不可能。
 一人はがっくりと肩を落とした。いいところまでいったのに……めらっと、一人の背で炎が燃える。
「仁科、待ってなさいよ。必ず再会してみせるんだからねっ!」
 拳を高くあげて、誓う一人の――二メートルほど離れたところ。――ホームの下に転げていた。
あかりは調子に乗り過ぎて思いっきり下へと落ちたのだ。
 まぁ幸いだったのは列車がなかったことと、今日はもうそこには新たな列車の来る予定がなかったことか。
「に、にげ、きった。ふ、ふふふ……がくっ」

 そして、
あかりは助け出された車掌に注意され、罰としてホームの掃除をすることになった。
 一人は、司書に謝りにいくときつく叱られたあとに本の整理整頓を手伝うこととなった。

「かっちー、次も逃げ切る……っ!」
 とゴミ拾いのあかり。
「仁科、必ず今度こそ捕まえてやるんだから!」
 本を棚にしまいつつ、一人。

 それぞれ、罰を受けながら決意をするのであった。

 ちなみに二人のセクタンであるモーリンとポッケは主人たちが追いかけっこをはじめるときにちゃっかりと避難していた。
そして、追いかけっこの間中、二匹は楽しく遊び、事態がすべて丸く収まってからそれぞれの主人の元へと戻ってきたのである。

クリエイターコメント オファー、ありがとうございました。
 今回はお二人の再会を書かせていたたけまして楽しかったです。
 暴走オッケーというので、いろいろとやってみました。
 はやくお二人がちゃんと心が通じて仲良くできるようにと祈ってます。

 口調・誤字脱字などあった場合は事務局にご連絡ください。
公開日時2011-07-18(月) 15:50

 

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