オープニング

~プロローグ~
「うわぁ……今のなんなのよ……」
 導きの書を開いた飛鳥黎子はそこから出てきたイメージに吐き気を催すほどに顔を青ざめさせる。
 今まで見たことのない強烈な筋肉と汗と笑顔のイメージに意識がなくなりそうだ。
 仕方ないと導きの書を閉じ、飛鳥は適当ないけn……もとい、協力者をターミナルで探す。
「待ちなさいよ、困っている人を助けたそうな顔しているじゃない」
 金髪の縦ロールを揺らし、赤い瞳でロストナンバーを飛鳥は見上げた。
 狐目なところと、攻撃的な口調のせいかカツアゲをしているように見えなくも無い。
「ロストナンバーの保護、ブルーインブルーであるけどいくわよね? ハイかYesで答えなさいよ」
 むちゃくちゃなことを飛鳥は口にしながら人を集めていくのだった。

~奇妙なロストナンバー~
「今回の保護対象は……先にいうけど、今から断るのはなしよ。絶対にいってもらうから覚悟しなさいよ」
 説明をはじめようとした飛鳥は一度手を止めて釘をさす。
 その状況が否が応でも厄介な対象であることを予見していた。
「保護対象はプラス階層からきているゲオルグ・ファットマン。嫌になるくらい筋肉質の男で海賊に捕まっているみたいよ」
 しかし、緊張とは裏腹にマトモそうな人物に一同は心を許す……このときまでは。
「で、職業が……無敵練筋術師[アンリヴァルドアルケミスト]ね。変身能力を持っていて、パッツンパッツンのセーラー服? 壱番世界のあれよ、あれをつけて本気狩る[マジカル]マッスルになるわ」
 各自の脳内で筋肉質の男がミニスカートを翻しポージングをとる姿が出来上がった。
 はっきり言って、会いたくない。
「で、この人の回収にいくのが仕事よ。チケットも渡すから逃げるんじゃないわよ?」
 半分脅すようにチケットを渡して飛鳥はロストナンバー達を送り出すのだった。


~正義とは筋肉だ!~
 男は困っていた。
 目の前には言葉の通じない男たちがいて、自分を見ている。
 気がつけば海に投げ出されていたため、この一見みすぼらしい男たちの手がなければ死んでいた。
「いかがしたものか……何か恩を返さなければならないのだが……」
 男は自慢の大胸筋を揺らしながら低い声をもらし考える。
 ゲオルグ・ファットマンは義理がたい漢[オトコ]なのだ。
 急にみすぼらしい男たちが騒ぎ出す。
 近づいてくる船に警戒をしめしているようだった。
「言葉はわからぬが敵か? ようし、我輩が一つ手を貸そう……いざ、メェェェイクッアップっ!」
 大きな声で叫びながらダブルバイセップス・フロントのポーズを取ると全身が光り輝き、ヒラヒラのスカートに白い衣服に身を包む。
 彼の世界ではセーラー服が戦闘時の正装なのだ。
 近づいてくる船にはいろいろな人物が乗っている、もしかして賊かもしれないとゲオルグは考え甲板に立ってサイドチェストのポーズをとる。
「とおからんモノは音に聞け! ちかからば寄って目に物みよ! 無敵練筋術師本気狩るマッスルただいま、推参ッ!」
 きらんと白い歯が光り、ポーズが決まった。
 近づいてくる船に乗っていたロストナンバー達はイメージよりもさらに酷い存在に頭痛を感じる。

 いったいどうすればいいんだろう……

品目シナリオ 管理番号431
クリエイター橘真斗(wzad3355)
クリエイターコメント予告通りにだします。
なんか頭の悪いOPでごめんなさい。
海賊船に助けられたゲオルグ・ファットマンを闘って説得して連れ帰ってくださいというのが今回の話です。
途中で帰らないでください、お願いします(切実)

本気狩るマッスルの5つの秘密
その1:ポージングして全身を光らせるマッスルフラッシュは目くらましになるぞ
その2:拳による戦いが得意。格闘技もできるんだぞ
その3:義理かたい男なので説得はきかないぞ
その4:マ法(『マッスルの法則』の略)・マッスルバスターという投げ技が必殺技だぞ
その5:すばらしい筋肉を持つ漢に惹かれるようだぞ

以上を踏まえてれっつ、ばとる

参加者
テオドール・アンスラン(ctud2734)ツーリスト 男 23歳 冒険者/短剣使い
ジム・オーランド(ceyy8137)ツーリスト 男 39歳 バウンティハンター
ガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロード(cpzt8399)ツーリスト 男 29歳 機動騎士
千条 綾子(cueh3663)コンダクター 女 18歳 高校生

ノベル

~行く前に一言~
「本気狩るという言葉、流行っているのかしら……」
「知らないし、流行って欲しくないわよ。変なヤツらは……」
 静かに話を聞いていた千条綾子は飛鳥黎子からチケットを受け取りながらこれから出会う相手のことを考える。
 さまざまな世界が交じり合う0番世界のターミナルにいるからこそ知りえた相手、そして武人のようだ。
「何にせよ、矛を交えて戦うのが礼儀かしらね。相手も戦装束を身につけるのであれば」
「ときに黎子様、これで依頼達成というのは如何でありますか?」
 綾子と話している黎子にガルバリュート・ブロンデリング・フォン・ウォーロードがモストマスキュラーのポーズを見せる。
 兜をかぶって顔は分からないが、見せている筋肉は鍛え抜かれ引き締まっていた。
「つれてくるのはゲオルグ・ファットマンだといってるだろうが、このポンコツ肉だるまっ!」
 プチという音が綾子の耳に聞こえたかと思えば黎子がドロップキックをガルバーに放っている。
 兜で表情は見えないのだが、綾子にはガルバーが何故だか嬉しそうに見えた。
「珍しい相手ですが、彼が何か問題に巻き込まれていないとも限りません。司書さんの方で対応はできませんか?」
「できないからあんた達を現地に派遣するの! ただ、ジャンクヘヴンの偉い人の側近は元ロストナンバーらしいからソッチと話をつけなさいよ」
 テオドール・アンスランは飛鳥からの話を真剣に聞きながら、対策を何かしたいと申し出るものの軽くあしらわれる。
「ジャンクヘヴンから船を出してもらわなければなりませんしそのついでにお話を通しておくということにしましょう」
「えー、変なオッサンを助ける方向なのか? 何か面倒なんだよなぁ、チケット返すから帰っていいか?」
「ウダウダ言ってないでいきなさい、返品はきかないのっ!」
 帰ろうとする革ジャンにジーパン姿のジム・オーランドに飛鳥は蹴りこみ、無理やりにでも見送るのだった。
 
~海の上を漂い~
 たれた糸を中心に水面が広がっている。
 即席の浮きがぷかぷかと波に揺れて気持ちよさそうに揺らいでいた。
 ふいに、浮きが下に引っ張られて糸の張りが強くなる。
「おおし、かかった!」
 ジムが糸の先に繋がる竿を両手で持って力強く引っ張ると後ろから大きな声が聞こえてくる。
「とおからんモノは音に聞け! ちかからば寄って目に物みよ! 無敵練筋術師本気狩るマッスルただいま、推参ッ!」
 声が終わると共に糸が切れ、掛かっていた獲物は逃げてしまった。
「折角釣りして逃げようと思ったのにそうもいかないのかよぉ」
 面倒だなと頭をかきながらジムは振り返って声の主を見る。
 はちきれんばかりの大胸筋をぴくぴく揺らし、ミニスカートがヒラヒラと股間を見えそうで見えない程度に隠していた。
 角ばった凛々しい顔つきには迷いがなく、瞳には純粋なほどに闘志が芽生えている。
「海賊に組するとは、筋肉の風上にも置けぬ。貴殿とてそう思うだろう?」
「俺にはわかんねぇよ……生きて捕まえなきゃなんねぇんなら乗り込むか」
 内心他の奴らに押し付けたいと思いながらも、ジムは隣で気合を入れて大胸筋を揺らし返すガルバーに頭痛を感じずにはいられなかった。
 もといた世界ではトレジャーハンター家業が長いジムだが、このような奇妙な相手の経験は少ない。
「海賊は海賊で捕まえた方が世のためですからね。勝負に出ましょう」
 ポーズを決めるゲオルグと同じように紺色のセーラー服を身に纏った綾子が槍型トラベルギアをパスホルダーから取り出した。
 全長は七尺……綾子の背丈よりも長い槍を構えると肩にフォックスフォームのセクタン「一」が乗っかった。
「えーと、その船は海賊船です。俺達はその海賊の討伐と貴方のようなロストナンバーの遭難者を救助に来たんです!」
 現地の書類を掲げて戦闘態勢に入っている本気狩るマッスルことゲオルグ・ファットマンへテオドールは呼びかける。
「言葉が通じる? だが、彼らとて我輩を助けてくれた恩人。その彼らがおびえるとあれば助けるが道理! 武人として守るが我輩の誇り!」
 しかし、マッスルは動じない。
 譲れないものを漢[おとこ]は誰しももっているのだ。
 
「アニキ、こいつなんか味方してくれるみたいですぜ」
「お、おう、ついでだあいつ等から金目の物も奪っちまえ」
 マッスルとロストナンバー達が話をしていると後ろの海賊達は小声で相談をしていた。
「へい、アニキ。可愛いねぇちゃんもいますし、楽しみましょうぜ」
「いい拾い物をしたよな」
 ヘヘヘと下衆な笑いを浮かべながら海賊達は静かに動き出す。
 ロストナンバー達がやってきた船に乗り込み金品を奪うため‥‥。
 
 ~激突! 汗と気合とその他もろもろ~
「科学の筋肉の力、見せてくれる! 変・身!」
 ガルバーが上体そらしの勢いで自分の股間から顔を覗かせたポーズで海賊船の甲板へと飛び上がる。
「良い心がけであるな! 我輩、そなたを武人と認めたり!」
 マッスルは声を荒げながらガルバーにファイティングポーズで迫った。
 ヒラヒラとマッスルのスカートが舞い、蝶のように軽やかな足取りでガルバーとの距離を詰める。
「一対一で相手をいたそう!」
 ガルバーが奇妙なポーズを戻し、アドミナブル・アンド・サイと呼ばれる両手を後頭部で組みながら肘を前に出し、両足を組むボディビルポーズでマッスルの挑戦を受けた。
 マッスルのパンチがガルバーのボディに叩き込まれパシィンと肉のぶつかる音がする。
(貴様、なかなかやる!)
 ガルバーは拳から伝わる熱い何かを感じていた。
(ならば、漢[おとこ]なら、語る手段はひとつ!)
 鋼の兜に眠る瞳が光り、プシューと蒸気が噴出す。
 サイボーグであるガルバーの拳が唸りをあげてマッスルを狙った。
「マッスルガァァドォッ!」
 ポージングと共に自らの肉体を鋼のように変え、マッスルはガルバーのパンチを受け止める。
 どちらともなくニヤリと笑うと蹴りと拳を互いにぶつけ始めた。
 言葉ではなく拳でもって二人は語りあっている。
 飛び散る汗と躍動する肉が二人の心を繋いだのだ。
「このような猛者と会えるとは我輩は感動したぞ! マッスルの法則、略してマ法その1! マァァッスルフラァァァッシュ!」
 マッスルは短く切りそろえられた髪がガルバーパンチで削られると一歩下がってポージングを変える。
 ぬっとりとした汗が全身から湧き出ると太陽の光りを反射して周囲を白一色に染め上げた。
「サングラスをもっておいて正解だったね、今度はこっちを相手してもらうよ」
 甲板に残っていた海賊達とマストの上で戦っていたテオドールが閃光を防ぎつつ目の眩んだガルバーに変わってマッスルの前に躍り出る。
「よかろう、いざ、勝負なりぃっ!」
 ぐぐっと筋肉に力を入れたマッスルがテオドールへと肉迫した。
 
~油断大敵~
「異世界人もやるじゃないか、ここはひっそりと船に移ってだ」
「移ってどうするおつもりですか?」
「それは金品を奪って……な、なにぃ!?」
 海賊達はロストナンバー達が乗ってきた船に後ろからボートを使って接近していたが、その場を綾子に押さえられていた。
 風が吹きスカートが靡くがマッスルとは違って細い足が妙に色っぽい。
「女一人なら俺達でも何とかなる! 野郎どもやっちまえ」
 リーダー各の海賊が指示をだすとマスケット式ピストルを腰にいれていた部下達が一斉に引き金を引いた。
「数でしか戦えない……あのマッスルさんを見習ってください」
 飛んできた銃弾を綾子は槍型トラベルギアを両手首を使って回転させて弾く。
「いっちゃん、お仕置きの時間です」
 肩に乗るセクタンに指示をだすとフォックスフォームのセクタンは火の玉を吐き出して海賊達を牽制しだした。
「うぉぉ、こいつは敵わん、逃げるぞ!」
「おっとぉ! そいつはおじさんが許さないよ。あんな気色の悪い奴の相手よりもてめぇらの方がやりやすいぜ。それに賞金掛かってる海賊だってのも俺にとっちゃ見過ごせねぇな」
 Uターンをして逃げようとする海賊達のボートがぐらりと揺れる。
 揺れの正体は船から飛び移ってきたジムだ。
 賞金稼ぎのジムとしては海賊相手の方がよっぽどかマシと判断したらしい。
「嫌なものを見せてくれたお礼をたぁぁっぷりしてやるからなぁ?」
 ボキリボキリと指を鳴らしたジムが海賊達に迫った。
 怯えきった海賊達の顔がさらに恐怖に歪む。
 進路にはジム、退路には綾子と取りかこまれてしまった海賊達の末路は言うまでもなかった。
「こっちは縛り上げて戻ったら突き出せばいいな?」
「ええ、そうですね。あとはゲオルグさんをどうにかしないといけませんね」
「あの肉だるまと若いのに任せておけば大丈夫だと思うぜ」
 海賊船の甲板で闘い続けるマッスル達をジムと綾子は見上げる。
 漢達の戦いを最後まで見届けるために……。
 
~決着~
「マ法 その2! マァァァッスルバスタァァッ!」
「喰らうわけにはいかないなっ!」
 猛ダッシュして掴みかかってっくるマッスルからテオドールが距離をとるとガルバーが前に立ちふさがり、身体で受け止めた。
「よいしょぉ! よいしょぉっ!」
 投げられまいとガルバーは踏ん張り、マッスルも投げようと上腕二等筋を膨らませる。
「ふんぬっ!」
 動力をフルドライブさせたガルバーが蒸気を噴出させると共にマッスルを上空へと投げた。
「ドオゥリャァァッ!」
 上空へと投げられたマッスルに向かいガルバーが空を飛ぶ。
 空中で体勢を立て直そうとするマッスルの頭部を腋に掴んで上体をそらすようにして落下を加速させた。
「ガルバー式DDT[デス・ドロップ・テクニック]!」
 ドガシャァンと甲板に突っ込み、木屑と埃が舞い上がる。
「ガルバーさんにゲオルグさん大丈夫ですか?」
 甲板にあいた大きな穴から下を覗き込んだテオドールが声をかけると気を失いただのおっさんに戻ったゲオルグと手を振り返すガルバーがいた。
 決着はついたようである。
「今、引上げますからね。まっていてくださいよと」
 穴から縄梯子が下ろされるとガルバーはゲオルグを担ぎながら登りはじめた。
 
「私達と人助けの旅にでませんか?」
 目を覚ましたゲオルグに聞かされたのは綾子からの誘いだった。
 遭難のときに助け出され、恩義に報いるために戦ったゲオルグにとって願っても無い申し出である。
「我輩の流儀とはいえ、貴殿らに迷惑をかけてしまったのは忝く、なんとお詫び申したらと……」
「気にすることはありませんよ。恩人を助けたいと思う気持ちは分かりますし、言葉も通じず不安であればなおさらですよ」
「言葉が通じなかったことなどにはいろいろと理由がございまして‥‥」
 テオドールと綾子がゲオルグの前に座りながら、ロストレイルによる世界移動の話、ロストナンバーにゲオルグが選ばれたことなどを話した。
 しばらく聞いていたゲオルグは両腕を組み、目を閉じながら唸りだす。
 唸り終わると目を開けた。
「事情はあいわかった。不肖、我輩子とゲオルグ・ファットマン。世のため人のために貴殿らに協力しよう」
「やぁやぁ、無事に済んでなによりだね。さぁて、この海賊達も官憲に突き出してターミナルに帰るとしようや」
 ジムがパンパンと気のない拍手をしながら説得を打ち切るとジャンクヘヴンへと航路をとる。
「よおぉぅし、ゲオルグ殿。帰りに筋トレ競争だ」
「ガルバー殿、我輩の筋肉が負けはしませんぞ」
 なにやら意気投合している二人は腕立て、腹筋、スクワット、ランニングのセットをジャンクヘヴンにつくまで甲板の上でずっと行っていたのだった。
 

クリエイターコメントどうも、ご参加ありがとうございました。橘真斗です。
海賊はアウトオブ眼中では無いかと思いましたが皆さんが忘れてくれなかったのでちょっと頑張ってみました。

捕まるのは仕方ないですね、犯罪はいけません。


奇妙な仲間が増えました、今後のシナリオで時折でてくる……かも?

いろんな世界からくる愉快な中間達の出会いを楽しんでいただけたのなら幸いです。

それでは運命の交錯するときまでごきげんよう
公開日時2010-04-20(火) 18:30

 

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