この世でもあの世でも、男――股間になんかついている方は、己の性別以外の者には優しく、強くあらねばならない。 じゃないとぶっちゃけもてないという真実にニコ・ライニオが激突したのは、カフェで何気なくお茶をしていたときのことである。 最近、声をかけても「またね」「今度ね」と女の子たちがつれない。 おかしい。 この世に生を受けてピー年にして初の非モテキを体験に一人寂しく落ち込んでいた。 何気なくターミナルで発刊されている雑誌「たーみぃなる」の今月号を手にとってみると、ぎょっとした。なんと女性・無性別に「異性に魅力を感じる瞬間」のアンケート結果が掲載されていたのだ。 堂々の第一は「危ないとき、怖いものから守ってくれる男前なところ」。 それはニコの心をざっくり、ぐっさりと貫いた。 いやいや、女の子のことはなにがなんでも守るよ? 僕。 けど さる依頼で醜態を晒すようなことだけは回避したつもりだが、一緒にいた可愛らしい女の子はニコが怖がっていそうだからと手をつないでくれた上、暗闇のなかを率先して進んでもらい、最後はついうっかり悲鳴をあげてしまった己の行動を思い出すとずーんと背中に暗いものが落ちる。 「もしかして、最近、デートに誘ってもみんな応えてくれないのはこのせいだったりするのかな?」 このままでは非モテキという氷河期に入ってしまう。心のオアシスが、人生をバラ色に包むおちゃめな妖精さんたちが去っていく……! そしてかわりに寄ってくるのはもしかして男? 男、男、男、男! 同じもてない男たちが手招いている。クリスマスは男だらけのぽろり会、年末は男だらけのふんどし大会、バレンタインは男だけ……い、いやだぁあああああ! だんっとテーブルを拳で叩いてニコはこの世の破滅を目の前にしたかのように真剣な面持ちだ。 「だめだ。なんとかしないと……男前、男前……そうだ!」 さる人物を思い出したニコはノートを取り出してさっそく連絡した。 「それで私を呼んだの?」 きょとんとした顔でティリクティアは首を傾げた。太陽の色をした髪がさらりと揺れ、同じ色の瞳はニコをまっすぐに見つめている。 ニコの呼び出しに快く応じてくれた彼女には、ささやかなお礼としてココアとチーズケーキを提供した。 「そ。だって、ティアちゃん、すごくおとこ……勇敢だったから」 さすがに女の子相手に男前といったら暴言だ。 「ふふ。もう、ニコったら! 私だってすごくこわかったのよ」 「そうなの?」 のわりにさる依頼(ニコが醜態をさらしかけた苦い過去)ではドアをがんがん開け、ベッドの下をのぞこうとしたり、行動が大胆だったと一緒に者は口にしていた。 「そうよ。けど、ニコがそうやってなにか頑張る姿は素敵なことだと思うわ」 「本当?」 「ええ。私でよければ協力するわ。ニコが勇敢になれるように特訓しましょう!」 「ティアちゃん! ありがとう!」 ニコはさりげなくティリクティアの手をとる。ニコの守備範囲は一応十代の後半から二十代前後であるが、美少女の前ではその定義もちょっと曲げてもいいかもしれない。 「そうだわ。せっかくだから、私の友人を誘ってもいいかしら? 彼女もとっても勇敢なのよ! 彼女の意見も参考にしたらいいと思うわ」 「彼女って女の子なの? もちろん、歓迎だよ」 ティリクティアもかわいいけども、その友人もかわいいに違いない。女の子はみんな可愛い! 期待にニコは笑顔になる。 ★ ★ ★ ティリクティアがニコを連れてきたのは自然いっぱいのチェンバーだ。 緑の生い茂った森、さらさらと流れる川に、滝があり、そのまわりには花が生い茂ってデートにもってこいの場所――が現実は甘くない。 「おー!」 甲高い声とともに小さなそれが二人の前に飛び出した。 「よくきたな!」 動きやすい衣服に兜、それに立派な槍を携えて胸を張るのはアルウィン・ランズウィック。 このチェンバーは彼女が修行したいと言うのに保護者がツテを使い、知り合いに無料で借りているのだ。 アルウィンにとっては大好きな保護者の与えてくれた秘密の修行場は日々かっこよくあるためのポーズ、槍の修行が出来る大切な場所だ。 「ティア、久しぶりだ!」 「久しぶりね! 今日は修行場所を貸してくれて、ありがとう」 「友の頼みを聞くのは騎士として当然だ! お前がニコだな?」 キッとアルウィンがニコを睨みつける。ニコにしてみればつぶらな瞳が見上げているようにしか見えない。 「うん。なにかな?」 「強くなりたいか!」 「もちろん!」 もてるためにも! は心のなかでつけくわえておく。 「うむ! いいコロコロ崖だ!」 「ころころの影?」 「違うぞ! コロコロ崖だぞ!」 「ころった掛け?」 「ちがーう!」 牙を剥いてアルウィンは叫ぶ。 「コロコロ崖だぞ! 強くなるのは、コロコロ崖が大切なんだぞ! 男だろう!」 「えーと」 「心がけっていいたいのよ。ね、そうでしょ?」 「そうだぞ!」 ティリクティアの助け舟にニコはようやく納得した。 「うん。わかった。けどお手柔らかにお願いしたいかなぁ」 まぁここにいるのはとっても可愛らしい女の子二人。 どういう修行かわからないが俄然やる気にはなってきた。 修行のためにもティリクティアは服を着替えたいというのでチェンバーにあ小屋にきた。 ニコも持ってきたジャージに着替えて安全のためにもいつもつけているアクセサリー類はすべて外しておく。 「ふふ。準備万端ね!」 「ティアちゃん、その服装は……!」 ニコは瞠目した。 白シャツ、下は黒いブルマ――壱番世界でいうところの体操着姿である。おしげもなく出した白い足、波打つ髪を一つにしてきゅっと結び、だんごにするとティリクティアの活発な雰囲気がより強くなる。 「動きやすい服装を知り合いが教えてくれたのよ! 似合うかしら?」 「うん。すごく」 「いいなー。ティアのかっこう!」 「今度、アルウィンの分ももってきてあげるわね」 「本当か? 約束だぞ!」 アルウィンはいつも騎士らしい服装――動きやすいものなので服は着替えていない。 「さぁ、ニコ」 きっとティリクティアが明るい金色の瞳でニコを見上げる。 「私の修行は厳しいわよ、覚悟してね」 今までの優しく明るい口調から一転して、重々しく告げられたのにニコは思わず喉を鳴らしたが、ふっと口元に挑発的な笑みを浮かべる。 「……うん。覚悟しておく」 「じゃあ、まずは……この木に登りましょう」 ティリクティアが示したのは大の大人よりもやや太く、さらにかなりの高さのある木である。 ニコが思わず顔をあげて見上げが、てっぺんが見えない。 「木登り?」 「そうよ」 「……えーと、ごめん。ティアちゃん。一つ聞いてもいいかな」 とニコ。 「どうして木登りなの?」 「あら、勇敢になりたいんでしょ?」 「あ、うん」 だからどうして木登り? 「私、木登りがすごく得意なのよ! 木登りしているときね、無心になれるの。それに、上にあがればあがるだけ高くなって怖いけど、高いところからまわりを見るととってもきれいなの。やり終えたあと達成感があるし、勇気が試されるんだから!」 「よーし! やるぞ!」 槍を背負ってぱっとアルウィンが幹に飛びつく 「いいか! 勇敢なのは熱くないとだめなんだぞ! マグムみたいにアツアツだ!」 「マグマでしょ! ふふ、久しぶりにやるわよ!」 とティリクティアも飛びつく。 その二人の動きたるや野生の猿も裸足で逃げ出すほどの俊敏さで、ずんずんと上へ、上へと進んですぐに姿が見えなくなった。 茫然としていたニコだけが取り残された。 一応、腐ってもドラゴンであるニコは元の姿に戻ればこの木のてっぺんまではさっと行けるのだが……そんなことをしたらきっとティリクティアとアルウィンに叱られるのはわかりきっている。 「思えば、人間の体で木に登るってあんまりないなぁ」 あるとすれば風船が飛んだ幼女のためだったり、洗濯物などが飛んで困った女性のためにちょっと頭より高いくらいの木程度のものだ。 何かした思い出が全て女性関係に繋がるのが実にニコらしい。 「まぁ、二人ができるんだし、僕もできるよね」 ティリクティアとアルウィンの動きを見たら、楽勝に思える。 ニコは知らなかった。 ティリクティアはこの世で最も木登りが得意なのだ。覚醒前はお転婆なところがあってスカート姿で登っていることもあったということを。 アルウィンの本性は狼のため、爪は鋭く幹をがっちりと掴むことに適しているうえ、日々、ここで遊び、否、修行で慣れているということを。 「はやくいらっしゃーい、ニコ!」 「がばんれー!」 上から天使たちの声がするが姿は見えない。 二人がするすると登るのでいけると思ったが、気がつくとずるるっと落ちる。まるで自分がデブみたいで落ち込む。力をこめて幹を蹴って少しだけ上に駆けあがってもまたずるずると落ちる。 ど、どうして。すごく簡単そうだったのに。 ぜぇはぁと息を乱してニコははるか高見にいる二人を探す。 「ニコー、しっかりと幹を持つのよー」 がんばってるんだけど。 「キウイだぞ、キウイ!」 それって気合いじゃないのかな。アルウィンちゃん 二人の声援にニコは気合いの限りを使って上へと進み、ようやく一つ目の枝まで登ると、そこにお尻を乗せてはぁと息を吐く。 「えーと、二人とも、どこにいるのかなー?」 いたずらな天使たちの姿はいまだに見えない。 「もっとうまだぞー」 「そうよー」 「……ごめんなさい。すいません。土下座もするからここで許してくれない?」 「「がんばれー」」 いたずらな天使どころか、無茶な天使の二人が同時に言う。 「……もう、けっこうきつ、あ」 立ち上がろうとして足をすべらせたニコ。 ユリアナちゃん、ごめん…… ニコは心の底でそうつぶやいて落ちた。 「もう、ニコったら、無事でよかったわ」 「そうだぞ! 丈夫でよかったな!」 「ははは、そうだよね。あいたた」 体が大変丈夫にできているニコは大の字で落ち、くっきりと地面に自分の型をつけただけだけで済んだ。奇跡である。 「よーし、次はアルウィンがシドーするぞ!」 槍を構えてやる気満々のアルウィン。 「ニコ」 「うん?」 「かっこいいポーズを作るぞ!」 「へ?」 「いくぞー! かっこいいポーズ!」 キメッ! 全員が一斉にその場でかっこいいポーズを決める。 が 「だめだ、だめだ! おまえのはないってない!」 「え、僕? なにが?」 アルウィンに罵られたニコは困惑した。 腰に手をあてて、もう片方の手は口元において投げキッスポーズ。これで何人もの女の子たちを虜にしてきたニコ必殺・誘惑ポーズだ。 「そんなフニャフニャじゃあ、かっこよくないんだぞ」 「そうよ!」 ハリセンを構えていつでも殴れる態勢で笑顔なティリクティアが同意した。 アルウィンの場合は両手を腰に置いて胸を張ってのポーズである。 「うーん、じゃあ、どういうのがいいのかな?」 「そうねぇ……片手は腰でいいと思うの。それでもう片方の手を掲げるとかどうかしら?」 「いいぞ! それでへんしーんするんだ!」 「変身?」 「ほごしゃーのくれた絵本でやっていたぞ! それで悪いやつを倒すんだ!」 「かっこいいわよ」 「……わかった!」 かっこいいと言われたら俄然やる気になるのが男心である。 ニコは腰に手をあて、もう片方の手を天に向ける。 「……」 「……」 「……でさ、変身って僕、ドラゴンになったほうがいいの?」 「なんか違うのよね。ニコがすると」 「その岩に片足をおいて、振り返るんだ!」 「まぁ素敵ね!」 「任せて! えーと」 岩に片足を置いて振り返る。 「……」 「……」 「どう? かっこいい?」 笑顔のニコは両手を広げる。 「なんか」 「違う」 八十四のかっこいいポーズを考案したが結局のところ「何かが違う」とティリクティアのアルウィンの意見により、かっこいいポーズ取得は叶わなかった。 昼近いというので一度小屋に戻り、三人は軽食としてサンドイッチを食べた後、最後の修行に向かった。 「さぁ、ニコ、最後よ」 「うん。それはいいんだけど、どうして水着に着替えたのかな?」 素朴な疑問。 「あら、それはね、滝に打たれるために決まってるじゃない! 平行して体力づくりとして水泳もやるのよ!」 「やるぞ!」 黄色の水着姿のティリクティアと赤色の水着姿のアルウィンは元気よく宣言する。青の海水パンツをはいているニコの顔は今までにないほど険しくなった。 いや、だって、滝…… どどどどどどととおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ 見る分には美しい。しかし、水は勢いよく流れ落ち、白い水飛沫をあげるのはもし打たれたとしたにものすごく痛そうだ。絶対に痛いに決まっている。 「え、これに打たれるの?」 「そうよ! 私もはじめてだからどきどきしちゃうわ」 「わくわくするぞ!」 「え、ティアちゃん、はじめてって、え、あ」 アルウィンは水に興奮してダイブする。 ざばーん! 水飛沫をあげて笑顔で水のなかを泳ぐ――通称犬かき泳ぎですいすいと進んでいく。 「私も!」 ティリクティアも飛び込む。 「ふふ、まずは水に慣れるためにも泳がないとね!」 すいすいと泳ぐ。 「えーと」 ニコは硬直したまま動けない。 というのも、ニコは火竜である。炎のなかならばマグマのなかだろうとまったく害はない。むしろ、周囲の炎を味方につけてしまう事が出来るが、水は火竜のもっとも苦手とするものだ。 「……えーと」 ちらっと見るとニコははっとした。 ティリクティアとアルウィンはいつの間にか浅瀬で水をかけあっている。 きらきらと輝く二人の天使たちの姿はニコをこっちよーと招いていた。(ニコの頭にはその声がばっちり聞こえた) え、なに、天国……ここに突っ込まないのは男としてだめだよね? だめだよね? そう女神さまだって言ってる声がする。たぶん。 そんなわけでニコは飛び出した。 愛よ、僕に勇気を! そして 「きゃあ、ニコ! 沈んじゃった!」 「おおお! そこは一番深いところなんだぞ!」 女神は微笑んでくれなかった。 「……」 「大丈夫? ニコ」 「平気か?」 ティリクティアとアルウィンに助けられてなんとか岸にたどり着いたニコは天使たちに微笑んだ。ここで心配をかけるのは男じゃない。 「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたくらいだし」 二人がほっと笑う。 「よーし、泳ぐぞ! ここを五周するんだ!」 「その次は滝打ちよ、ニコ!」 「え、ねぇ、うん。お手柔らかに……お願いします」 水も滴るいい男――否、半分死にかけた顔でニコは最後の難関を胡乱な目で見つめていた。 「本当にするの? これ」 「そうよ! さぁ、やりましょう!」 「いくぞ!」 やる気満々の二人にニコの目はとうとう死んだ魚のようになる。 水泳はなんとか溺れつつもがんばって、最終的にはティリクティアとアルウィンに両脇を抱えてもらって終わらせた。なんとも役得であるがそんなことに気を向けている暇は一切なかった。 そして最後は滝打ち。 どどどどどとぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお。 「いくわよ」 「おう」 「……えー」 ティリクティアがきっとした顔で滝のなかに入るのをニコははらはらと見守った。 「ティアちゃん! す、すごい」 なんとかティリクティアは滝の下にすっと立つと、胸の前で両手をあわせて――見事な滝打ち姿である。その顔は何者にも触れられない、高貴さが漂う。 その隣にはアルウィン。彼女もティリクティアと同じ態勢で、真剣な顔は今まで楽しんでいたものとは別物の、まさに弱き者を守る騎士の顔だ。 「すごい」 正直、このまま逃げたい気持ちいっぱいだが、こんな二人の姿を見てすこずこと逃げたらそれこそ男が廃る。 もしかしたら、これで僕も男前になれるかもしれない。それに二人を見ると痛くないのかもしれない。 「っ! いくよ!」 ニコは意を決して滝のなかに入る。痛くない? ――わけがない。いたたたた。 更にひゅるるるるんと上空からいやな音がするのにはてと顔をあげた。 「!?」 真っ直ぐに落ちてくる丸太。 ニコの脳裏に浮かぶのは愛しい女の子。 ユリアナちゃん、ごめん(本日二回目)――それがニコの最後の言葉となった。 なるわけがない。 「大丈夫? ニコ」 「生きてるか?」 天使二人に見守られ、今日一体何度聞いただろう台詞。ニコはゆっくりと起き上がって頷いた。 「うん。僕、体が丈夫なことが取り柄だからさ」 本当に丈夫でよかった。 そうでなかったら本当の天国に行ってしまうところだった。けど気のせいか目覚める前にいたのはきれいな川で、その向こうに今まで付き合っていた女の子たちが手をふっていたのを見た気がする。 ふらふらになりつつ小屋で着替えをすませたときには修行の終わりをニコはしみじみと噛みしめた。 「ニコ!」 「アルウィンちゃん? どうしたの?」 「お前は今日一日すごく勇敢だったぞ!」 「へ?」 「がんばるっていのは、すごくえらいことなんだぞ! 勇敢でもあるんだ!」 アルウィンがずいっと何かを差し出したのにニコは反射的に手を出して受け取った。 赤色のビー玉だ。 「勇敢の証だぞ! アルウィンも持ってるんだぞ!」 アルウィンが首から下げている小さな袋を懐からとりだしてそこから透明なビー玉を差し出すと、ティリクティアも微笑んで金色のビー玉を差し出した。 「勇敢の証って、私ももらったのよ!」 「……皆御揃いだね。ありがとう。とっても嬉しいよ」 手の中の小さなビー玉を見てニコは微笑んだ。本当に大変だったけど、それでもこうして認められたことが素直にうれしい。 「そうだわ。ニコ、このあと暇かしら? アルウィンと相談したんだけど、せっかくだし、三人で御出掛しない?」 「御出掛?」 「そう、今日一日ニコはすごくがんばったでしょ? 疲れているときは甘いお菓子がいいのよ! 私、とってもおいしいお菓子屋さんを知ってるの!」 「行く行く!」 疲れも吹っ飛ぶご褒美にニコは笑顔で頷いた。 目的のお菓子屋に行くまでの道のりにいくつもの店が並んでいるのにアルウィンが興味をひかれてしっぽをひらひらふるのを見たニコはティリクティアの手をひいてひやかすことにした。 せっかくの御褒美――女の子たちと遊べるのは満喫しない手がない! 店に置かれた品々にアルウィンが興奮してしっぽを高速で振る。 「おいしそうなお菓子があるぞ!」 「じゃあ、買っていこうか? 今日はお世話になったから僕がささやかなお礼をするよ」 「ほ、ほんとうか! けど、お菓子は一日……う、うーん」 なにやら保護者に言われているらしくアルウィンは葛藤し、お菓子をにらんでしっぽをふる。 それを微笑ましく見ていたニコの服をティリクティアが服を引っ張った。 「ねぇ、ニコ、お願いがあるんだけどいいかしら?」 「ん? なぁに? ティアちゃん」 とびっきりの笑顔をティリクティアは浮かべた。 「おいしいぞ!」 「ここのチョコパフェ、とってもおいしいでしょ?」 チョコパフェを前に、目をきらきらさせたアルウィンにティリクティアもご機嫌だ。その前では二人のその様子を見てニコは満足そうに笑う。 「そうだわ。アルウィン、これ」 「ん? お、おおお!」 ティリクティアが差し出したのは鷹羽の銀のブローチだ。 「ニコと二人で選んだのよ? 今日一日すごく助けてもらったから」 「い、いいのか?」 「もちろん。僕とティアちゃん二人でアルウィンちゃんに似合うものって考えたんだから」 ブローチをそっと両手で握りしめるとさっそくアルウィンは胸につけた。 「はい。ニコにはこれ」 「へ。僕にも?」 「そうよ。恋愛成就の効果があるんですって! ニコが勇敢になりたいのは誰かのだめじゃないの? そんな気持ちがあるニコは今でも十分、勇敢で、男前よ」 四葉のクローバーを石のなかに封じ込めた手の中におさまるストラップにニコは笑みを作る。 「ありがとう。じゃあ、二人にも僕からプレゼント!」 ニコが身を乗り出すときょとんとしている二人の髪の毛にそっと送り物をおくった。 ティリクティアには銀色のリボン、アルウィンには赤色のリボン。 「二人とも素敵なレディになって僕とデートしてね! どんな怖いものがきても守ってあげるから。さ、パフェを食べよう」 二人の天使たちが笑顔で食べる様子を、頬杖ついたニコは眩しげに見つめた。 うん。女の子って笑っているのが一番だよね。この笑顔を守るためなら僕いくらでも勇敢になれるよ
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