「みんな。あい、チケットー。元気よくいってくるにゃーよー!」 と言うのは世界司書・黒猫にゃんこ。珍しいことに本体である黒い猫の姿だ。「あれ? どうしたの? ……あ、依頼の説明、忘れてた? ごめんにゃーん。えーっとね、今回の依頼はね、モフトピアにいって、アニモフたちと遊ぶの! けど、ギャップ萌え! するんだよ」 説明がぜんぜん説明になっていない。「えーと、だからね、アニモフたちはね、新しい自分、意外な自分を発見するパーティをしようってことになったのね。それのお手伝い。参加するのは羊さんでしょ、クマさんでしょ、くろい猫さんでしょ、鳥さんと、うさぎさーん! でね、とってもかわいいの。その可愛い以外の新しい意外な自分を作って、みせっこするの! えーと、たとえばねー」 にゃんこが両手を合わせてにゃかにゃかと言いだした。呪文か? と思うと、どろろーん! と白い煙をあげたと思うとなんと三十代のダンディ黒猫――コウの姿になっていたる。「つまり、いつもは可愛いにゃんこが、なんと俺のようなセクシーダンディになったと、ほら、お前らメロメロだろう? いいぞ、いいぞ俺は、何人だって、相手……はっ! リベル! ちゃ、ちゃんと仕事をするぜ。俺は!」 どうやら世界司書仲間であるリベルに睨まれたらしい。自業自得。「えー、こぼん。というように、普段は可愛いやつが、実はかっこいい、意外なことにマッチョ……というように普段では考えられない姿を演出してほしいわけだ。まぁ、そこまで難しく考えず、参加する羊やら熊やらの姿をこういう風にアレンジしてやればいいんじゃないかって助言したり、衣装の用意とか、小物とか、そんなものを手伝ってやってくれ。まぁ楽しければ満足するだろう。で、ついでにお前らも参加してこい」 にこりとコウは言い放つ。「意外、または新しい自分発見。まぁ簡単なところで女装とか、男装とかな。真面目なやつがきぐるみとか、いつもはノリのいいやつが真面目な服装とか……キャップ萌えを楽しんでこい」 そこでコウは軽く頭をかいて「息抜きも必要だろう? けど、何事も楽しくな?」
どこまでも青い、海のような空。 輝く太陽、白い綿飴の雲。 青々と茂る大地、チョコのお池に、プリンの山。 甘い香りの漂う小さな小島。 そして今日は、アニモフたちが新しい自分を発見する「ぎゃっぷ」パーティの日です。 そのいち・ぱーてぃをはじめよう、そうしよう! 「きゃっぷ、ぎゃっぷ……」 「ぎゃっぷもえ……新しい、新しい自分」 重なる二つの声の主は森間野コケとキリル・ディクローズ。 二人ははっと顔をあげて互いに視線を交わすとなにか通じ合うものがあったらしく、こくんと頷きあう。 「アリオにふりふりドレス、リベルにふりふりドレス、シドにふりふりドレス……コケ、がんばる」 森間野コケはぐっと拳を握りしめる。若干、彼女の頭の上に生えているツタも引き締まっている。 キリルは鞄からごぞごぞと今日のためにタンスから引っ張り出したカウボーイハットを頭にかぶり、いつになく真面目な顔で、きりっ。 「今日のぼく、ぼく、じぃじぃの孫。だから、ばうんてぃーはんたー!」 キリルの祖父は名のあるバウンティーハンターであった。その真似をしたいらしい。 ふるふるっとキリルは顔を横にふって、きりりっ。 「行くぞ、ぎゃっぷもえっ!」 祖父の真似ということで、口調も祖父の真似をするキリル。いつもより男らしさ二倍増しだ。 「ふふ、素敵な帽子だな。私にも変身願望はある。今日は素敵なパーティになるといいな」 ミルミル・マチュリンが目を細めてキリルに微笑むと、横にいたニワトコもこくんと頷いた。 「いつもと違う恰好をするのって、なんだかわくわくかるね。みんなのお手伝いできるといいな……あれ、もう一人いたよね? あっ」 和気藹々としている四人から一メートルくらい離れた後ろ。 一人の少女が斜め四十五度に視線を向けて佇んでいる。なぜがみんなから見えるのは横顔でおまけに無表情。その周囲はなんとなく暗く、つんっと張り詰めた空気が漂う。ここだけ温度が二、三度くらいさがっている。かもしれない。 「……誰?」 コケの問いに、それはそれは長い沈黙とともに唇がひらかれる。 「……一一 一よ。私には、あまりかかわらないほうがいいわ」 ふっと遠い視線とともにぼそぼそとか細い声。 なぜか一の周りだけ影がさしている。 ――木の位置から影がさす場所も計算づくの完璧な演出。 「……? 本当に……一?」 コケの問いに一は鏡の前で一時間に及ぶ血の涙を流して取得した可憐な一瞥を向ける。冷たくも、それでいてなにか暗い過去にあるかもしれない、触れたらちょっと火傷しそうな視線。 「……そうよ。……今日はぎゃっぷもえでしょ……だから、私……がんばってみるわ。わからないけど」 その場の一同が思ったことは一つ。 ――誰、この人……っ! 今回、きゃっぷもえに参加するためあたり、いつもの能天気破天荒キャラを卒業して、クールな女性を目指し、壱番世界のクール女性が出来るアニメや映画を見て研究した結果がこれである。 ――ぎゃっぷではなくて、もう別人である。 一、今日は仮面をつけるわ。鉄で出来た頑丈で、丈夫な仮面。ハンマーで殴りつけようが、スタンガンをばかすかと押し付けようとも、決して壊れない、金色の仮面。そう、私は今、クールキャラ! 「面白い人だね、一さん」 「うん。すごく様になっているな」 別人か、はたまた変な薬を飲んじゃったレベルの変身を遂げた一ににこにことニワトコと感心するミルミル。 ――え、面白い? いや、ここはクールキャラにときめくところでしょう! つっこみたくてもつっこめないクールキャラ、一。 さて、最後までこの調子で持つのか……がんばれ。先は長いぞ。 ★ ★ ★ 「あ、いたいた。あなたたちですね、きょう、パーティのおてつだいしてくれる人!」 白くふわふわの毛が可愛い羊のアニモフがとてとてと歩み寄ると歓迎の笑顔を浮かべる。 「今日はよろしく!」 その横には真ん丸の身体に緑色の鳥のアニモフ。 「私、今日は変わるぴょん!」 胸を張るおしゃまなうさぎのアニモフ。 「お客さん、いっぱい……あっ!」 好奇心旺盛に目を輝かせていた黒猫のアニモフはキリルを見ると、ぱっと笑顔を浮かべる。それにキリルは懐から折り紙を取り出してみせる。 「にゃにゃ、折り紙の、折り紙の! 帽子、かっこいい」 「……っ! 帽子、帽子、褒めてくれて、ありがとう、ありがとう。素敵な、素敵なパーティにしよう」 以前出会ったことのある黒猫のアニモフとの再会にキリルは、はにかむ。 「パーティは、ここでするんです。みんなでお菓子をもってきたんですよ」 羊のアニモフが案内してくれたのは緑の芝生に、大きな切り株。その上には白いテーブルクロスを敷いて、ケーキ、チョコ、クッキー、甘い果実汁が置かれた素朴なパーティ会場だ。 「可愛いところだね」 「素敵じゃないか」 「ありがとう! みんなでがんばって作ったの!」 ニワトコとミルミルに褒められて羊のアニモフは嬉しそうに笑ったが、すぐに俯いた。 「けどね、変身、どうすればいいのか、よくわからないの。だから、みんな、いろいろと教えて!」 「コケ、がんばる」 「ぼくも、ぼくも、がんばる……!」 「うん。いろいろと持ってきたから、手伝いできるといいな」 「花を飾るのもいいかもね」 四人が和気藹々としているが、やはり一メートルくらい距離をとったところで一はポーズをきめたまま動けないでいた。 クールキャラはあの雰囲気には混ざれない! ああ~~……内心は混ざりたいのだが、下手に口を開くと無表情が壊れるので我慢。顔は常に斜め四五度――何を見ているって、地面しかないのだが――そろそろ、辛くなってきた。 「おねーちゃんも、パーティしよう」 鳥のアニモフがくりくりとした目で一を見上げる。その瞳の誘惑に思わず笑顔でこたえたいのだが、ここはぐっと我慢。 私はクールキャラ、私はクールキャラ…… 「……私、よく、わからないから……」 「えー」 「……私に関わらないで頂戴、死にたくないでしょ」 「んー?」 鳥のアニモフは右、左と首をはてと動かすと、傍にきたミルミルの服の裾をひっぱった。 「ねぇねぇ、この面白くて変なおねーさん、なぁに?」 「ぎゃっぷもえをしているそうだ」 「あ、面白いおねーさんになってるんだね!」 面白いんじゃないの、クールキャラ! と、そこに、 「遅刻、遅刻~!」 どどどどどどどどおぉぉぉぉぉ。 「はぁあああ、セーフ!」 ずさぁああああああああ 土煙をあげて一の前に勢いよく飛び込んできた、なにか。そのせいでその場に尻餅をついてしまった(こけるときも可憐に見える四七度の角度を忘れない!)――なに? いきなり もくもくと立ち上がる煙ななかで見える輝く茶色の髪の毛、たくましい肉体、きらきらとした汗――え、なに。このかっこよさそうな 「ふぅ、遅れたでくま。すまんでくま。ん、お嬢さん、ぶつかりそうになったくまか? 平気くまか?」 ぶっとい声とともにきりっとした逞しい顔、輝く星を溜めた黒い瞳――にこりと笑ったクマ! うおおおおおおおおおおおおお、ああああああああああ! 一は無表情のまま、心の中で叫ぶ。顔だけはクールキャラとして無表情キープしているのはあっぱれである。 「あ、くまたん。おそいよー」 羊が怒るのに、身体だけはマッチョのクマのアニモフが白い歯を見せて笑う。 「すまんくま」 最後の最後にこゆいがアニモフ、キター! ――叫びたい、ものすごく叫びたいが鉄の仮面は簡単にはがれない。そうよ、今、私はクールキャラ(半分自己暗示) 「お嬢さん、さぁ手を」 紳士だ。このクマ。 一は黙って視線を落とす。目を合わせたらアウトだ。笑ってしまう。今たけはクールキャラの視線に助けられた。 「お嬢さん? どうしたぐま」 「……こんなとき、どうすればいいのわからなくて」 「ぐま。お嬢さん、僕の手をとればいいんだよ」 「……あ」 クマに立ち上げられた一は頬を少しだけ染めてふいっと視線を逸らす。クールキャラのでれも完璧! 「ねぇねぇ、あのおもしろくて、変なお姉さん、なんなの?」 「くーるきゃら、くーるきゃらで、で、でれてる」 黒猫の質問にキリルが答える。 面白くて、変じゃない! これがクールキャラなの! ―― 一、思いっきり心の中でつっこみ中。 「人に親切にされたらお礼はいうくま。悪い子はおしおきくま」 「……え、もぎゅう」 思いっきりマッチョクマに抱きしめられた! 逞しい胸にもみくちゃにされてさすがに焦る。一応、これ、もふもふしている。 「もふもふぐまー。おしおきくま」 「ぼくもー」 「わたしもするぴょん」 「むぎゅう……って、ちょ……!」 その場に集まったアニモフたちはずっと一のことが気になっていたので、これはチャンスとばかりにみんなで囲むともふもふしはじめる。 おしおきらしい。 しかし、これ、ものすごくくすぐったいのだ。 あ、ああ、クールキャラが……! もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。 ときどき、ぎゅう。 胸板で、ぎゅぎゅー。 もふもふもふもふもふもふもふもふもふもふ。 ぷっつん。 何かが一のなかできれた。 「……ブッ、クク……アッーハハハハ! もうだめ。もう無理! ムリムリ限界。我慢できない、ヒー、おっかし!」 クールキャラの仮面はあえなく崩壊した。金色のぴかぴかの仮面だったはずなのに、その輝きはもしかしたらメッキだったのかもしれない。ああ、ごめんなさいクールキャラのおっしょうさま……! 心の中でクールキャラの師に謝りつつ、ガタがはずれた一はにっと笑った。 「我慢していた分やるわよ! さぁみんなぎゃっふもえでしょ。にゃーとかつけるといいんじゃないの、君は。で、こっちの君はくまくまっていうのよ!」 よってくるアニモフたちを抱きしめて、手でもみもみしはじめた。 我慢していた分、ガタがはずれて暴走気味である。なんか笑顔もあやしい。というよりもあやしい。 「さぁ、みんな、私がもふもふにしてあげるわ……!」 「落ちつくくま」 すぱーん。 ハリセンが一の頭にヒットした。 そのに・ぱーてぃのじゅんび! 「せっかくだから、いろいろともってきたのだけど、どうかな? 君たちは可愛いからスーツやぱりっとした服を着たらすごく印象が違うと思うんだ」 ミルミルが今回、アニモフたちのぎゃっぷもえのために持ってきたのは上下黒のスーツに、ピンク色のリボンと化粧品。 それらの品をアニモフたちは興味深そうに見つめている。 「レースも、私が着ようと思っているあまりがあるけど……」 「ぼく、ぼく、スーツをきてみたい! リボン、きれい!」 鳥のアニモフが目をきらきらと輝かせる。どうやらピンク色のきらきらと輝くリボンが気に入ったようだ。 「ぼくは、おひげを作ろうかな? あとミルミルさんのレースを少し借りて、葉っぱをいっぱいつけた衣装とかどうかな」 ニワトコの提案に飛びつくように手をあげたのはクマ。 「くまは、レースいっぱいのドレスがいいくま!」 「ドレス? じゃあ、花冠も作ろうかな? お姫様になるといいよね?」 「くま!」 嬉しそうなクマ。 「え、ちょ、女装するの。しちゃうんですか! ぎゃっぷもえだけど……! それが運命ならいっそひと思いに!」 まっちょクマのドレス姿に思わず食いつく一。いや、ここはつっこまなくちゃだめだろう。 「くま、女の子くま」 「え……!」 「嘘くま」 「っ!」 一、クマに弄ばれ中。 「コケは、これ、もってきた。鬼の角と虎柄の服……壱番世界で、節分というイベントを見た。鬼、怖い顔する。けど、優しいのも、弱いのもいる。面白い」 「はい。ぼく、ぼく、ぼく! 怖いのになってみたい! かわいいのじゃなくてね、こわーいの。こわーいのがいいの! みんなを驚かせるの!」 羊のアニモフはコケのもってきた虎柄の衣装に目を輝かせている。 「二人で、こわいの、なろう」 「うん!」 「あのね、私はおねえちゃんみたいに、かっこよくて、美人になりたいぴょん。見た目じゃないぴょん。中身をかえるぴょん!」 一に腰に飛びついてきたのはちょっとおしゃまなうさぎのアニモフ。 「ふっ、いい? 中身を変えるっていのはね。まず、語尾はぴょんじゃなくて、わんよ! 鉄の仮面をつけるのは大変なのよ? ……これるかしら?」 不敵に微笑む一にうさぎのアニモフは目を輝かせる。 「はいわん! ついてく、ひょ……わん!」 「にゃあ、にゃあは……ええっと」 迷っている黒猫の肩にぽんっとキリルが手をおいた。 「にゃあ?」 「貴方が新たな自分探しをしていると聞き、ここに馳せ参じた。迷うならば私と共にバウティーハンターの道を歩まぬか?」 「ばうんてぃーはんたー?」 こくりとキリルは頷く。 「悪事に手を染める悪人を捕え、人々を救う名誉ある職務だ。君には素質がある。形からはいるためにも衣装も用意した、今日からも君も我らの仲間、バウンティーハンターだ!」 「キリル! にゃあなる!」 それぞれ変身するスタイルを決め、さっそく用意開始する。 「パーティ会場に、いろいろと手をくわえようかな」 衣装を提供しながら、ふと、ミルミルは会場を見回して尻尾をふわり、ふわりと揺らす。 アニモフたちがあれこれと考えて作った場はあたたかみがあるが、これだけではちょっと物足りない。せっかく素敵なパーティにするならば、もっとアレンジしてあげたい。 「手をくわえるの?」 鳥のアニモフが首を傾げる。 「意外性を出すためなんだけども、だめかな?」 「いいと思うよ! どんなの、どんなの?」 「それは、お披露目のときのお楽しみだよ、ふふ」 「ぼくも、花を飾りたいな」 ミルミルからレースをもらい、色とりどりの葉っぱを合わせてドレスを作っているニワトコがにこりと笑う。そして自分のトラベルギアに目を向けると思いついたように手をぽんとあわせた。 「どこかに大きくて、黒い布はないかな? ぼくのトラベルギアを照明にして、みんなが出てきたときの演出が出来るといいんだけど」 「コケも、素敵だと思う」 ミルミル、ニワトコともにアニモフの衣装つくりをせっせっと手伝っているコケが賛同した。 「黒い布、にゃーもってるからとってくるー!」 「私たちがその任務はひきうけよう」 黒い布を黒猫とキリルがとりにいったのに三人はせっせっと衣装作りに精を出す。 「衣装作り、少し難しいけど、うまくできそう……ここ、どうする? ニワトコ」 「赤色の葉っぱが合うかな?」 コケの頭の上のツタをふわり、ふわりと揺れる。それにニワトコの頭の白い花もふよ、ふよっと揺れる。 出身の世界こそ違うが、コケとニワトコはどことなく互いに似ているものを感じ取り、言葉には出来ない親近感を抱いて視線をかわす。 「もってきたよー!」 戻ってきた黒猫。その後ろからキリルが両手いっぱいの黒い布を携えてやってくる。 「これが役立つかな?」 きり。――今のところじぃじぃの真似は口調含めて続行中である。 「うん。これで周囲を暗くできるね。あ、そうだ、キリルさん、これ」 にこりと笑ってニワトコがキリルに小さな葉っぱを合わせて作った髭を提供する。 「キリルさんはじぃじぃさんの真似をしているんでしょう? だから、これですこしでもかくろくんっていうんっだけ、そういうのが出るかなっと思って作っておいたんだ!」 貫禄なるものがいまいちわかってないが、ニワトコなりの気遣いにキリルが尻尾をふわふわと揺らせる。 「キリル、かんろく、かんろく」 黒猫が言うのにキリルはそっともふもふの葉っぱの髭をつけて、きりっ。 「おおお~~」 その場にいた一同、感嘆の声をあげて拍手。 ちなみにそのころ、一とうさぎのアニモフは 「さぁ、走るのよ! 掛け声はわん、にゃんよ! クールキャラは一日にしてならす!」 「はい。一のおねえさまっ!」 プリンの山で熱くクールキャラの訓練をしていた。――なんの訓練? そのさん・おひろめしましょ、そうしましょ! パーティ会場の周辺の木にコケとニワトコは花を、キリルは折り紙で作った鶴を飾りつけた。 黒い布をまるでカーテンのように木と木の間に広げ、光を遮ってわざと暗くして、ニワトコのトラベルギアの小型のカンテラで入口を淡く照らす。 小さな、手作りの舞台の出来あがり! 一番手は、コケと羊のアニモフ。 わざとところどころ破けた虎縞の衣装に、頭には角をつけた羊のアニモフが、勢いよく飛び出した。 それに合わせて、どぉん! オレンジ色の炎が弾ける。 ミルミルの魔法での演出だ。 それに羊のアニモフはふりふりとお尻をふり得意げに両手を広げる。 「じゃじゃーん! へんしーん! おにだぞー!」 ひらりっとカーテンをくぐってコケが顔を出す。 上半身は黒いビキニで必要なところだけ隠し、下は太ももが見える短パンであっちこっちがわざと破けている。首にはぎらぎらの首輪。頭の花はなんと黒いチューリップ。目はアイシャドウでぱっちりさせ、赤い口紅――化粧はミルミルにお願いした。 「すー、すーする……えっと、セリフ、あった……ひ、ひゃーはー、しょうどくだ!」 無表情のまま手にもったツタをぺちぺちとふって地面を叩いく。 セリフは棒読みであるが、目は活き活きと楽しげだ。 「たのしい……とてもたのしい」 なんか目覚めたかも。しかし、コケははっと我に返る。こ、こんなの、好きな人が見たらどう思うだろう。あ、けどその人のぎゃっぷ萌えなところもみ、みたい。 二番手はミルミルと鳥のアニモフ。 「じゃ、じゃーん! 変身!」 ミルミルが声をあげて、鳥のアニモフとカーテンをくぐる。 上下黒いスーツに、胸にはピンクのリボンをつけた鳥のアニモフにエスコートされて、レースをふんだんにつけたドレスを着たミルミル。 きらきらと輝く雪に、カンテラの明かりに照らされて神秘的な雰囲気を演出する。その姿は星の上を歩くお姫様と王子様だ。 ミルミルの顔には薄く化粧が施され、彼女の白い肌をひきたてて可愛らしく他の人たちの目に映した。 レースは昔から憧れていたが戒律のために着れなかったのだ。ここでこうして着ることができた喜びにミルミルははにかむ。 「たーんだよ」 鳥のアニモフがとことこと歩いてミルミルをダンスに誘う。 「ふふ」 両手を伸ばして、鳥のアニモフの手をとり、くるりっと舞う。 ふんわり……スカートが揺れる。 「ああ、やっぱりいいものねぇ」 ひときわ美しい雪が、ミルミルを輝かせた。 三番手は一とうさぎのアニモフ。 一とうさぎのアニモフはさっと黒いカーテンをくぐりぬける。 ふわり、ふわりと一人と一匹に降るのは無害なダイヤモンドダスト。きらり、きらりと銀の輝きを背負った二人は無表情できりっと冷たい視線を向ける。 ふっと髪の毛をかきあげて、斜め四十五度、憂いの表情。 なんということか 見た目はうさぎなのに角をはやして別の生き物のコスプレをしてぎゃっぷを出し、中身こそ勝負とばかりに無言の演技。 このインパクトはでかい。 「ふ、私たちに近づくと、火傷するわよ」 きらきら、きらきらと輝く雪に、一の冷たい笑みがよく似合う。 ――完璧に決まった! 四番手はキリルと黒猫のアニモフ。 ばさりと、黒いカーテンをくぐると、勢いよく炎が燃え上がる。 それを背にキリルと黒猫は茶色のロングコートを羽織り、革のベルトにモデルガンをさした姿でカーテンから現れた。 きりっと顔をあげたキリルの目は鋭い。 「……縛り上げられ、牢に放られる前に覚えておくが良い。バウンティーハンター、「穿尾」のキリルの名と、その技を!」 「そのイチの子分、クゥリィの!」 キリルはトラベルギアのナイフを、黒猫のアニモフは貸してもらった縄を両手に持って天へとかかげる。 「……みゃぁっー!」 「にゃにゃーん!」 気合のこもった咆哮がとどろいた。 五番手はニワトコとクマのアニモフ。 カーテンをそっと優雅にくぐってあらわれたのは執事服をきたニワトコ。長い髪の毛は後ろにひとつにまとめながらも、前髪はいつものように片目を隠して、片方の目には小さなモノクル。 ニワトコは髪の毛が長いことと、雰囲気がほんわかとしているせいか女性に間違えられるので、今日は男性的にいこうと考えたのだ。それに執事だとパーティをお手伝いする人みたいだし――執事というものがなんなのかよくしらないが、だいたいあってる。ニワトコの知識。 「さぁ、お嬢様、どうぞ」 ニワトコの声に、鮮やかな葉っぱのドレスに頭には豪華な花冠をつけたクマのアニモフが――化粧もばっちりだ。 「今日だけはおしとやかくま」 「とっても可愛いよ。執事さんだからいっぱいお手伝いするためにも、エスコートさせてね!」 笑顔のニワトコにクマのアニモフは照れながら手を伸ばした。 「照れるくま……!」 そして、それぞれお披露目を終えると、パーティのために用意したお菓子とジュースを食べることとなった。 「すー、すーする……黒いチューリップ、強そうなのチョイス。これ? 絵がいっぱいの見てきてみた」 「おにだぞー! こわい、こわい? コケおねーちゃんも怖いけど、ぼくだって怖いもん!」 「こういう服、着たかったから、わくわくしちゃった……今だけは口調も変えてみようと思って、ふふ」 「なんかね、王子様みたいになって、すごくたのしかった!」 「……今、私たちはクールキャラの仮面をしっかりと手にいれたのよ。いい、それを離しちゃだめよ」 「……はいですわん! クールキャラで、でれるのもやるわん!」 「……ぼく、じぃじぃの孫、だから似てるところ、ある、あると思う……ん、んん。今日はこれでいくと決めたのだ、私は」 「キリル、かっこいい! にゃあも、かっこよくなったよ、ね!」 「はい。紅茶です。みなさんに振舞うのは、執事さんのお仕事なんだよね?」 「くま、今日は乙女くま」 「一、 違和感ない、違和感ない……ミルミルの、とっても、似合ってる、羨ましい」 「ありがとう。私も今度はそういう派手な姿も似合うかな? 執事姿も、かっこいいな」 「……クールキャラ、クールキャラ……あ、ぁあ、だめ、あのくまのせいで、胃が、胃が……なにもしなくても腹筋が鍛えられること証明しに来たわけじゃないのにっ!」 「みぃ……は、きりっ。……意外な自分……こんな感じでいいのかな? じいじのまねっこ。ぼく、孫だから、似てる部分、あると思う」 「やっぱり、普段しない姿だとすごく緊張するよね。ぼくも、今度、すーすーする姿、してみようかな?」 そのよん・ぱーてぃはおわり! みんなで手分けしてパーティの片付けを終え、駅までアニモフたちが見送りにきてくれた。 「コケねーちゃん、今日はひぃーやー、ありがとう」 「うん」 羊のアニモフの言葉にコケは目を細める。 「またやろうね。ひぃーやーって、今日はそれで帰るから、コケおねーちゃんの知り合いさんにもお披露目だねぇ」 「……コケ、出先では気を付ける」 楽しかったが、知り合いたちがこの姿を見たらはなんというだろう。それを考えるとちょっとだけ怖い、コケである。 「ミルミルおねーちゃん、きらきらありがとう」 「私もありがとう。とても楽しかった」 にこりと微笑んで、ミルミルは嬉しげに尻尾を振る。 「またね、レースきてね。ぼく、えすこーと、するからね! それで、ダンスしようね。こんど、もっとうまくおどるからね!」 「ふふ、楽しみにしてる」 またレースをいっぱいつけたドレスをきて、ダンスを踊る。 そんな己の姿を脳裏に描き、ミルミルは楽しげに尻尾を振った。 今日一日はクールキャラでいく。 ということで、一とうさぎのアニモフは視線を合わせず、列車がくるだろう方向を並んで見つめていた。 「……いい、今日の教えを忘れないのよ」 「……うん! 一のおねえちゃま、私、がんばるぴょ……わん!」 そっと一はうさぎのアニモフの肩を優しく叩く。 「……その意気込みよ。ほら、私たちのクールキャラの星がさんさんと輝いているわ、ね?」 振り向きざまに白い歯をきらりっと輝かせる一をウサギのアニモフはほぉと見惚れたと思うと、むずむずと身体を震わせてとんだ。 「一のおねちゃまだいすき! つんでれと、くーでれのヒケツ、こんどおしえてね!」 「一番弟子にはすべて伝授しなくちゃね……! 列車きたわねって、逆方向だった!」 オチも忘れない。そんな一人と一匹であった。 「キリル、ありがとね。また、きてね。ぜったいね? それで、鶴の折り方、おしえてね? イチの子分だもんね!」 黒猫のアニモフは列車が来る前に折ってもらった鶴と飛行機を両手に抱えてぱたぱたと尻尾をふる。 「う、うん。うん。また、またくる。そのときいっぱい折り紙、教える」 「あとね、今日、すっごくかっこよかったよ! キリル! えーと、せんびのわざ、こんどみせてね!」 「……うん!」 キリルと黒猫の子は互いの尻尾をきゅっと絡ませて微笑みあった。 「今日はいい経験をしたくま、ありがとうくま」 「ぼくも、みんなのお手伝いできて嬉しかった。やっぱりいつもしたことのない服を着るのは面白かったね。でも、やっぱり一番落ち着くのはいつもの服かな? 今日はちょっと緊張しちゃった」 緊張など微塵も感じない笑顔のニワトコ。 「くまが惚れるだけあって、ニワトコは大物くま」 クマはふっと渋い笑みを浮かべて、今日作ってもらった花冠を恋する乙女のようにぎゅっと両手で大切に抱きしめる。 「ニワトコが作った花冠、大切にするくま」 「ふふ、うれしいな。とっても似合っていたよ? またいつか、こんな楽しいパーティをしたいね」
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