クリエイター北野東眞(wdpb9025)
管理番号1158-9007 オファー日2011-02-02(水) 19:00

オファーPC フォッカー(cxad2415)ツーリスト 男 19歳 冒険飛行家
ゲストPC1 黄燐(cwxm2613) ツーリスト 女 8歳 中央都守護の天人(五行長の一人、黄燐)

<ノベル>

 真っ白いキャンバスに青い絵の具を思いっきりぶちまけたようなどこまでも晴天。
 ぷかぷかと気持ちよさそうに浮かぶ白い雲。
 乾いた空気のなかを軽やかな乙女のように優しい土と植物の香りを宿した風が吹く。

「絶好の日和だにゃ!」
 フォッカーは眼をきらきらと輝かし、尻尾をぴんっと立たせる。と、機嫌よく二枚翼のプロペラ式の飛行機に手を伸ばして優しく、愛しむように撫でる。自然と口元を綻んだ。
 小柄だが、優しさと喜び、フォッカーの愛情が詰まった赤い色をした飛行機が太陽の輝きにきらりと輝く。
 二人乗りなので、運転席と、その後ろにもう一つ席がついているというシンプルな作り機体。
「あら、これが飛行機なのね?」
 黄燐はしげしげと見つめたあと、小首を傾げた。
恐る恐る近づくとフォッカーがするように手と一緒につま先も伸ばすと、躊躇いがちに赤いボディに触れてみる。
 まさかいきなり噛みつなどということはないと思っていたが、指先からひんやりと冷たさが伝わってくる。
 鉄で出来た、縦に長い、奇妙な形――決して自分の世界ではみることのないそれは興味をそそるには十分だ。
「冷たいし、かたいのね。……とっても、重そうだけど、飛べるの? 本当に?」
 黄燐の元々いた世界にはそもそも空を飛ぶものはなかったのだ。ゆえに飛行機が興味深く、その仕組みが気になって矢継ぎ早に疑問が口から溢れだしていく。そして、自分よりもずっと大きな飛行機を後ろに転げてしまうほどに見上げて、はぁとため息をつく。
 こんなものが空を自由に飛べるなんて信じられない。
 黄燐の全身から驚きと不安と期待が零れ落ちるのを傍にいるフォッカーは全身の毛で感じ、くっくっと喉を鳴らして笑う。
「このなかにはエンジンがあるにゃよ! さ、乗るにゃ! とっても気持ちのいい思いをさせてあげるにゃ!」
 久々の飛行機の運転、それも、ずいぶんと前に交わした黄燐との約束が果たせるのに、はりきり声をあげる。
 はじめて飛行機に乗るという黄燐を席に乗せたあと、安全もチェックして、自分は運転席に乗り込む。
 このときのずっしりと狭いが、体にヒットする、機械たちの気配にはひげの先までぞくぞくするほどに痺れが走る。
「はじめは、音がうるさいかもにゃ。我慢してほしいにゃ」
「わかったわ」
 フォッカーはもう一度、手でそっと目の前にある機械たちを撫でたあと、ゴーグルをかぶると、エンジンをかける。
 ブゥウウウン。
 飛行機が機嫌よく震え、空へと行こうと招くようにエンジンの音をあげる。
 ――さぁ、空に行こう。
 息を詰めて、地上から飛び立つ。
 ふわり、とした浮遊感――そのあとはただただ上へ、上へと走り出す。

「んー」
 空へと行く道を機体が走り出すと、強風がまず出迎えてきたのに黄燐は目をきゅっと閉じた。
 髪の毛に、身につけている服も風に靡いて、ひゅう、ひゅうと音をたてる。
 ――苦しい
 そう思った瞬間、冷たい風の抵抗が嘘のように消えた。かわりに水のなかからあがったときのような解放感が広がる。
 ふ、はぁ――息をつく。
そっと目を開けると、視界いっぱいに――透明な水のなかに落ちたような青い空が広がった。
「……あっ」
 黄燐は息をのみ込み、眼玉が零れ落ちそうなほどに開く。
 あまりの美しさに言葉も、瞬きも忘れ、ただただ見つめる。
 いま、自分は空に抱かれている――。

 そよぐ程度の風。どこまでも続きそうな青空に、白い雲。
 飛行機が空を舞うには最高の日。
 太陽がきらきらと輝いて自分たちのことを祝福してくれているようだ。
「どうかにゃ、黄燐、気持ち悪くないかにゃ? 酔ってないかにゃ?」
 はじめての飛行機では、とくに離陸する際に体質が合わず酔ってしまったりする者は多い。
 フォッカーとしては、うんと気をつけていたつもりだが、果たして飛行機をみるのすらはじめての黄燐は大丈夫だっただろうか。
 せっかくの飛行機での空の散歩だ。黄燐にはうんと楽しんでほしい。そして空を、飛行機を好きになってほしい。
ちらちらとフォッカーは視線を後ろに向けて黄燐の反応を伺っていた。
「平気よ!…… それより、すごいわ」
 飛行機のうるさいエンジンにも負けない声で黄燐は言葉を返す。そのあとため息のような感動の声が微かな風にのって耳に運ばれるとフォッカーはたまらない気持ちよさを味わう。運転するのもそうだが、こうして自分の傍で誰かが空の良さを知ってくれるのは本当に気持ちがいい。
「雲に手で届きそうね」
 間近にある雲に黄燐が目をきらきらさせているのが瞼に浮かぶ歓喜の声に、フォッカーもまた嬉しくなる。
「よーし、突っ込むにゃあ!」
「えっ、平気なの!」
「任せるにゃあ!」
 一番傍にあった雲のなかに飛行機が突っ込む。
 冷たい空気と視界が真っ白になるのは一瞬のこと。
 雲そのものは小さなものだったので、すぐに抜けたが、それでも黄燐にとっては衝撃だったらしい。
「きゃあ、なに、いまの! 冷たい、けど、気持ちいい!」
「にゃにゃ!」
 純粋な反応にフォッカーは上機嫌に笑う。
 それに合わせて、ブゥウウンと飛行機もまた機嫌よい音をあげる。
「あ、下、みんな小さいわ」
「空のうえだからにゃ! ほら、もう、山だにゃ」
「わぁ!」
 飛行機を、低く走らせるて山に近づいていく。
 青々と茂った緑の海。いくつも生えた木々は、空から見ると良く出来た玩具のように小さくて可愛い。
「そんなにも遠くないし、海の近くもいってみるかにゃ」
「ええ、いきたいわ!」
 元気のよい黄燐の返事。
 フォッカーは上機嫌に山から視界の端に移る、海へと飛行機の方向へと向けて、一つ意地悪な思いつきをした。
 飛行機はぐんぐんと順調に上へと進みだす。
 と、今まで調子良く飛んでいた飛行機が不意にその動きが揺らぎ始めた。
「えっ」
 黄燐が声を漏らし、ぎゅっと拳を握りしめる。
 飛行機がぐら、ぐらと大きく上下しはしめる。
 とたんに今まで楽しかった気持ちが一瞬にして恐怖にかわる。もしかして飛行機の調子が悪くなった?
 そして、飛行機が大きく右に傾く
「ちょと、ちょっと、きゃああああ!」
 飛行機がくるんと回転したのには驚いた。
 ――落ちる!
 焦りと不安から目をぎゅっと閉じたが、いつまで経っても痛みがない。ただ強烈な酒を飲んだときのような、ふわふわと足が浮いているような浮遊感が体全体を酔わせてくれる。
 ――あれ?
 そっと目を開けて、黄燐は息をついた。
「落ちてない? ……もう、フォッカーったら!」
「あれは飛行機の技だにゃ。大丈夫だにゃ!」
 ちらりと横目で後ろへとフォッカーは視線を向ける。
「どうかにゃ、いまの、たのしかったかにゃ?」
「も」
「も?」
 もしかして怒らせたかと思ったが、次の声にフォッカーは噴出した。
「……もう一回してみて!」
「にゃ! オーケーだにゃ!」
 そして、海につくまでに二回ほど飛行機は回転し、そのたびに黄燐は歓喜ともつかない悲鳴をあげて、フォッカーは大笑いさせた。

 海につくころには、太陽は傾き、その顔の半分を隠してしまっていた。
 茜色に世界が染められていく。
 海も、
 空も、
 フォッカーも、
 黄燐も、
 そして飛行機も。
 雲がない薄い赤に包まれ、オレンジ色の大きな太陽を二人は見つめる。
「とっても近く感じるわ」
「空からだと、全部近いにゃ」
「……本当に、そうね」
 地上のように何かに縛られているわけではない。
 むろん、不安はある。しかし、それ以上に果てしなく続く解放感と自由な道の魅力。
 これは飛行機に一度は乗ってみないとわからないものだろう。
 いま、フォッカーの気持ちを、同じ飛行機に乗ることで黄燐はとても近くに感じることが出来た。
 二人は言葉を口にするのも惜しくて、ただ黙って、沈んでゆく太陽を見つめていた。

 太陽が眠りにつく黄昏。
 紺碧の空と、揺らぐ茜色の混じり合った紫色のグラデーション。それに気の早い一番星が顔をだしはじめる。
「星も近いわね!」
「もっと近くにいってみるかにゃ?」
「ええ!」
 飛行機は黄燐の願いを聞き入れて、上へ、上へと進んでゆく。
 太陽と月の交代する瞬間を、空にいることで体と心で味わうことが出来た。
 冷え冷えとした空気に、明るい夜を飾るのは紗砂を撒いたような星と焼き菓子のような大きな丸い月。
「手を伸ばしたら、一個くらい掴めそう」
 つい無理とわかっていても手を伸ばしていた。
 空をかく手は、輝く星の一瞬のきらめきを握りしめることだけは叶った。
 ――いま、星の輝きを手に入れたんだわ。
「……うふふ、お師匠様たちに自慢しちゃおう」
 黄燐は口元を綻ばせる。
「下も見てみるにゃ!」
「下? ……あ、わあっ!」
 フォッカーの言葉にそっと下へと視線を向けと黄燐は息を飲んだ。
 海が、空を映す大きな鏡となって銀色の輝きを反射して、輝いている。
「空にあるのも、きれいだけど……地上にあるものもきれいね」
「そうだにゃ!」
 空も、地上も、手を伸ばしては掴めない、それは儚くも美しい。
 いま、飛行機によって二人は空と大地の境目を歩き、抱かれている。
 それはただ地上に足をつけて歩き続けるだけではわからなかった、知ることもだって出来なかった。
「これも、自慢できるかにゃ?」
「もちろんよ! 絶対に羨ましがるわ!」
 大声でそう言い返しながら、問題はこの美しさをどう言葉で伝えようかということだ。こんなにも素晴らしいことを言葉なんてものでちゃんと伝えられるだろうか?
 ――まぁいっか
 今はそんなささいなことを気にしていてはつまらない。
 だって、目の前にこんなにも素敵なものはあるのだ。
 黄燐は瞬きすら忘れて、ただただ目の前にある光景を目に焼き付けようと見つめた。

 ブゥウウンと飛行機がひと際大きく、フォッカーと黄燐に鳴いてみせた。

クリエイターコメント オファー、ありがとうございました。
 なんて素敵なロマンだろうと書かせていただいてとっても幸せな気持ちになりました。

 また、ご縁がおりましたら。
公開日時2011-02-08(火) 22:10

 

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