オープニング

 ふと気配に気づくと、つぶらな瞳に見つめられている。
 モフトピアの不思議な住人――アニモフ。
 モフトピアの浮島のひとつに建設されたロストレイルの「駅」は、すでにアニモフたちに周知のものとなっており、降り立った旅人はアニモフたちの歓迎を受けることがある。アニモフたちはロストナンバーや世界図書館のなんたるかも理解していないが、かれらがやってくるとなにか楽しいことがあるのは知っているようだ。実際には調査と称する冒険旅行で楽しい目に遭っているのは旅人のほうなのだが、アニモフたちにしても旅人と接するのは珍しくて面白いものなのだろう。
 そんなわけで、「駅」のまわりには好奇心旺盛なアニモフたちが集まっていることがある。
 思いついた楽しい遊びを一緒にしてくれる人が、自分の浮島から持ってきた贈り物を受け取ってくれる人が、わくわくするようなお話を聞かせてくれる人が、列車に乗ってやってくるのを、今か今かと待っているのだ。
 
●ご案内
このソロシナリオでは「モフトピアでアニモフと交流する場面」が描写されます。あなたは冒険旅行の合間などにすこしだけ時間を見つけてアニモフの相手をすることにしました。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・あなたが出会ったのはどんなアニモフか
・そのアニモフとどんなことをするのか
を必ず書いて下さい。

このシナリオの舞台はロストレイルの、モフトピアの「駅」周辺となりますので、あまり特殊な出来事は起こりません。

品目ソロシナリオ 管理番号664
クリエイター錦木(wznf9181)
クリエイターコメントついに来ましたモフトピアソロ!
ありがとう運営さん! 運営さんありがとう!
難しいことは言いっこなしです。ただただアニモフともっふもっふしましょう!

※今回他シナリオと執筆期間が重なっているため、製作日数を多めに取っております。ご容赦ください。

参加者
深槌 流飛(cdfz2119)ツーリスト 男 28歳 忍者

ノベル

 かたんかたん、規則正しく揺れる車窓に深槌流飛の冴えた横顔が映りこんでいる。手元の張り紙に大きく書かれた「玩具修理職人、募集」の文字も窓向こうを流れる雲の色に重なって、薄桃色に染まっている。
『――……ロストレイル七号はまもなくモフトピアに到着いたします。お下りの際はお手回りの確認をお願いいたします……』
 訥々としたアナウンスが、がらんとした車両でうつろに響く。他の車両はいざ知らないが、ここに乗っているのは流飛一人きりだ。ぐんぐん高度を落とし始めたロストレイルの車窓から、モフトピア駅の屋根が見下ろせる。座席に放り出していたショルダーバックを片手に、流飛はゆっくりと伸びをした。
 鋼鉄のような面とは裏腹に、流飛はアニモフと共にすごす時間を好んでいた。だから駅前にアニモフ影が見当たらないと気づいた時、少しばかり落胆して目を閉じた。
 閉じたまぶたを、モフトピアのなめらかな陽光が透かす。風にまじって鼻腔をくすぐる甘い香りはなつめだろうか。深呼吸するとなんとも言えず気持ちが良くて、最初に感じた落胆もすぐに解けて消えてしまう。
 モフトピアの空気を思う存分味わっていた流飛のすそを、何かが掴んだ。
 驚きに目を見開いた流飛を見上げていたのは、肩から巾着袋を提げたレッサーパンダのアニモフだった。山ぶどうに似た黒い両目を好奇心にきらきら濡らして、礼儀正しく頭を下げる。
「いらっしゃいです、旅人さん。今日は何しにきたです?」
「この先の浮島に用がある」
「……すぐ行っちゃうです?」
「いや」
 流飛はちらりと駅を振り返った。
 実のところ玩具修理の依頼を受けたのは流飛だけではない。他の仲間達は次の列車、つまり定刻どおりにここへ到着するだろう。少し散策がしたかった流飛だけが、一本早い列車に乗ってきたのだ。
 アニモフの、身長ほどもある太いしっぽがぱたぱた、せわしなく地面を叩く。
「じゃあ、じゃあ、ぼくと遊んでくれるです?」
「ああ、構わない」
「ほんとです? 嬉しいです!」
 アニモフはぱあっと顔一面を笑顔にして、流飛の膝にぎゅっと抱きついた。栗と黒檀の色をしたやわらかな毛並みが、日の光を浴びてつやつやと光っている。
「旅人さんが駅に来ると、みんなすぐに集まってくるです。だからぼくは全然お話ができなくて、いっつも寂しかったのです」
「だが、長くはいられないぞ」
「だったら、沢山遊べばいいのです! 旅人さん旅人さん、そのお鞄の中には何が入ってるです?」
「……旅人じゃない」
「です?」
 適当な切り株に腰かけ、ショルダーバックの紐を解きつつ落とされた呟きに、流飛の手元を見つめていたアニモフが首をかしげる。
「流飛。……深槌流飛だ」
「旅人さんじゃなくて、りゅーきさんだったです? 間違えたです、ごめんなさい」
「いや」
 そもそも名乗っていなかったのだ、間違えるも何もない。ともするとすっとぼけているようにも聞こえるアニモフの生真面目さはしかし、流飛には好ましかった。
 バッグの中を覗き込んだアニモフが、きゃあと歓喜の声を上げる。
 水鉄砲、剣玉、竹とんぼにコマ……故郷のそれを真似て作った玩具が、鞄の中には色とりどりに詰まっていた。
「りゅーきさんりゅーきさん、この細いのは何です? 食べられるです?」
「食べられない。それは竹とんぼだ……貸してみろ」
 アニモフがつかみ出した竹とんぼを受け取って二、三度、確かめるように手のひらでこする。アニモフの不思議そうな表情は、すぐに驚きに変わった。
 勢いよく手放された竹細工が、くるくると回転しながらモフトピアの空を飛ぶ。歓声を上げるアニモフの頭上を越して、草原にとすりと不時着した。
「す、すごいです……ただの棒がお空を飛んだです! りゅーきさんは魔法使いです? も、もう一回! もう一回やって欲しいです!」
 乞われるまま、流飛は竹とんぼを放ち続ける。最初は軌跡を視線でなぞるだけだったアニモフも、そのうち飛んでいく竹とんぼを追いかけ走り回るようになった。無邪気な様子に、流飛の口元がゆるくほころぶ。
 モフトピアという土地の力だろうか、竹とんぼは普段より良く飛んだ。こんなに長く、高い距離を飛ぶ竹とんぼを見たのは一体いつぶりだろう。脳裏に浮かんだのは、元いた世界の幼馴染の顔だった。
 歳より少し子供っぽいところのあるあいつは、コマ回しやら剣玉やら、子供の好むような遊びが妙に上手いところがあった。一度など喧嘩ゴマの勝負をして、こてんぱんにやられたことさえある。
(……まるで鳥だった)
 あいつの回す竹とんぼは羽ばたくように風に乗り、中々大地に落ち着こうとしなかった。縁側を過ぎ、生垣を超え、屋根まで上り……それこそアニモフが言うように魔法でも使っているのかと思うほど。
「りゅーきさん、大丈夫です?」
「……!」
 間近で聞こえたアニモフの声に、流飛の意識が急浮上する。頭に竹とんぼと疑問符を載せたアニモフが、上目遣いに流飛を見ていた。
「りゅーきさんはもしかして、おもちゃをなおせる人です?」
「……ああ、だがなぜそれを?」
「鞄の中に道具箱があったです。りゅーきさん、この鳥さんはなおせるです?」
 巾着袋をごそごそやったアニモフが、木製らしいねじ巻き鳥を差し出してくる。薄く磨かれた破片を何枚も重ねて作られた羽が美しいが、ねじを巻いても何も起こらない。
「鳥さん、この間からずっとこんな感じです。……ねえりゅーきさん、鳥さんはもう飛ぶのに疲れたです? だから動かなくなってしまったです?」
「……中を見てみよう」
 疲労が原因で部品が破損してしまった、そういうことはるかもしれない。流飛は切り株を作業台に、細かな羽を一つずつ、ゆっくりと外して並べていく。部品が一つでもなくなったら、この鳥はもう一生飛べなくなるかもしれないのだ。そうなればこのアニモフはどんなにか悲しむだろう。
 片翼を全て外し終え、内部を光に透かして様子を確かめる。予想通り、ねじの動きを羽根に伝える部分が破損していた。幸いなことに鳥は全てが木らしきものでできている、手持ちの材料で十分代わりを務められるだろう。
 竹とんぼの時のような目で修理を見守っていたアニモフは、元通りに組み立て直されたねじ巻き鳥を見て、こくりと喉を鳴らした。
 おそるおそるねじを巻かれた鳥が、力強く空へ羽ばたく。アニモフがきゃあきゃあと何度目かの歓声を上げて跳ね回り、流飛も少しだけ口元を緩めた。
 背後から、ロストレイルの車輪が軋む音が聞こえてくる。仲間達の乗った列車が到着したのだ。流飛は手早く工具をしまい込むと、アニモフに背を向けて数歩歩き、その動きを止めた。
「りゅーきさん、ありがとうです! お礼に『ありがとうの結晶』を受け取って欲しいです!」
 満面の笑みを浮かべたアニモフが、流飛の前に立ちふさがる。その右手には先ほど流飛が直した木製の鳥、左手にはふわふわと輝く丸い結晶が乗せられていた。白々と光る見た目とは裏腹に、結晶はとても暖かかい。
「『ありがとうの結晶』は、ありがとうって思った相手にあげる大事な宝物です。一緒に遊んでもらって、鳥さんもなおしてもらったから、ぼくはりゅーきさんにいっぱいいっぱいありがとうって思ってるです!」
 別れを惜しむアニモフに手を振って、流飛は仲間達の元へ歩き出しす。
 アニモフの手の温度が残る結晶を大事に握りしめて。

クリエイターコメントお届けするのが遅くなり大変申しわけありません。

強面のお兄さんとアニモフが仲良く遊んでいるのは大変可愛くてすばらしいと思います。
このたびはご依頼ありがとうございました。
公開日時2010-07-08(木) 18:40

 

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