オープニング

「優さま、マフィンが焼き上がりました」
「ありがとうございます。じゃあ、サンドイッチのほうに取りかかってもらえますか?」
 館長公邸の、厨房である。
 相沢優とラファエル・フロイトによるアフタヌーンティーの準備は、順調に進んでいた。
 いつもと少し違うのは、主催者が優であることと、手順の相談をされたラファエルが、補佐役を買って出たことであった。

 ――ロバート卿と、もうひとり、友人を招いてのお茶会を開催したいので、プライベートガーデンの四阿を使わせていただいてもいいでしょうか? 運営は俺が、責任を持って行いますので。
 優はそう申し入れ、アリッサは快く許可した。
 プライベートガーデンは、ドバイ旅行のあと、ロバート卿が優を含む少数のロストナンバーを招待した場所でもある。その経緯と優の心情を、言葉には出さないが、アリッサはわかっているようだった。
 そして、ほどなく、優からの招待状が――それは、トラベラーズノート経由であったにせよ――ふたりの招待客に送られた。
 すなわち、ロバート・エルトダウンと、一一 一に。

   † † †

 先に四阿を訪れたロバートに、優は苦笑しながら言う。
「実は、一には、ロバートさんと同席することを、伝えてないんです」
「なるほど。なかなか趣のある趣向だ――おや、うわさをすれば」
 到着した一が、ラファエルに先導され、四阿への道のりを歩んでいる。はたとこちらを見、もうひとりの招待客のことを把握したとたん、一の絶叫がプライベートガーデンを揺るがした。
「なんでっ!? なんで金貨野郎がここにいるんですか聞いてないですよ。わわわ。きゃっーーー!」
「段差がある。気をつけたまえ」
 足早に歩み寄り、すっと手を差し伸べたロバート卿は、いとも自然に、転びかけた一の体勢を立て直した。貴族の姫をエスコートするかのように、そのまま手を取り、席に案内する。
「やあ、一さん。来てくれてうれしいよ」
 優がにこやかに礼を取る。
「秘密の花園のお茶会へ、ようこそ。可憐なひめぎみをお迎えできましたこと、主催の相沢優さまともども、光栄に思います」
 ラファエルが椅子を引いた。
「え、あ。あのぉー」
「どうかなさいましたか?」
「なんなんですか、このありえないくらいの超絶ハイレベルな執事喫茶!」
「一さま……。ご不満なことなどございましたら、何なりと」
「あああ、待ってちょっと待って、そんな憂いに満ちた顔反則ですよラファエルさんッ! 私に、わかりましたおふたりに免じて素直にお茶しますって言わせたいんですねわかりますとも! ええい、気に喰わないけどわかりました! 勝ち負けでいうと負け負けな気がするけどわかりました!」
「うれしく思います。それでは、私は給仕に徹させていただきますので、どうぞご歓談を」

   † † †
 
 アンティークのティーカップに、アールグレイが注がれる。香り高い湯気が、ふわりと流れた。
 ラファエルが、3段重ねのティースタンドを運んでくる。
 上段のフィンガーサンドは、なすのグリルと塩漬けハム、スパイスの効いたスモークサーモンときゅうり、グリーンアスパラガスとシュリンプ、というラインナップ。
 彩り良く盛られた中段のスイーツは、薔薇のクリーム入りのマカロン、りんごとカシスのパイ、木いちごとメロンのムースなど。
 スコーンは、少し小さめに焼き上げてあった。外がわのかりっとした歯ごたえと、内がわのしっとりした感触が絶妙な、完成度の高いものだ。添えられたクロテッドクリームと、パッションフルーツのジャムは風味と口どけに配慮し、厨房で作ったばかりなのだという。
 スコーンが小さめだったのは、別立てでマフィンも供されるからだ。
 優が、銀のマフィンウォーマーを、テーブルに置く。それは、以前、英国旅行中に、ロバート卿からプレゼントされたものであり、今日の招待は、その御礼も兼ねていた。
 ドームの蓋が、そっと開けられる。
 一は息を飲んだ。
 シルバープレートの上に乗せられたマフィンが、いま焼きあげたばかりのように、熱い湯気を立てている。

「ヴィクトリア女王は、18歳という若さで王位についた。華やかできらびやかな装飾が好まれた時代だが、女王ご自身は、清廉で聡明な女性だったという」
 当時、アフタヌーンティーは、社交の場でもあった。だが、紅茶を愛した彼女が、こころ穏やかに過ごせる時間でもあったのだと、願わくば信じたい。
 そんな話題を皮切りに、ロバート卿は一に微笑みかけた。
「さて、始まりのひめぎみ。せっかくの機会だ。今日はきみの如何なる質問にも、はぐらかすことなく答えるとしよう」
 


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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
相沢優(ctcn6216)
一一一(cexe9619)
ロバート・エルトダウン(crpw7774)
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品目企画シナリオ 管理番号2339
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
クリエイターコメントこんにちは、神無月です。
まさかロバート×一企画(違)が優くんから提出されようとは。
よっしゃあ、受けて立ーつ!

とはいえ、特に難しいことは何もなく。
皆様、どうぞ、ご歓談くださいましー。

参加者
相沢 優(ctcn6216)コンダクター 男 17歳 大学生
一一 一(cexe9619)ツーリスト 女 15歳 学生

ノベル

 :-:+:-Earl Grey

 席についてからも、一はしばらく、居心地悪そうに身じろぎしていた。
 思えば、王子さまめいた容貌の紳士にお姫さま扱いされることも、花園の四阿での素敵なティータイムも、ずっと憧れだったはずなのだ。
 ――それなのに。
 この場にいるべきじゃない。そぐわない。そんな想いがちくりと胸を刺す。
 それでも、優に勧められるままに、アールグレイをひとくち、飲む。
 ほのかな花の薫りにベルガモットの芳香がやわらかに添って、広がった。
 緊張が、わずかに緩む。
「……紅茶って、産地とか銘柄とかブレンドとかフレーバーとか、オレンジのペコちゃんがキーマンとか、JKが何も知らないと思って喧嘩売ってますかってくらいパラレルワールドなんですけど、これが高そうなお茶だってことはわかりますともええ!」
 ふっと息をつき、一はティーカップを置く。
「美味しいです」
「よかった」
 その様子に、優もまた安堵し、微笑む。
「あと、こにょマカロンちょパイちょムースみょ、とへも紅茶に合っておいひいれすもぎゅもぎゅ」
「あああ、何もそんな、全部一気に食べなくても」
「最大級の賛辞ととらえるべきだろうね。食欲旺盛なひめぎみへの、お代わりの用意はもちろんあるのだろう?」
「はい。ゲストのひとりが一ですから、アフタヌーンティー三連続開催分くらいの準備はしておくべきだって、事前にラファエルさんも言ってましたし」
「私ふぁラファエルふぁんにどう思ふぁれてるんでひょうか」
 一はスイーツを豪快に頬張り続ける。
 ロバート卿もアールグレイを少し飲み、おや、という表情で優を見た。
「フラワリーアールグレイだね。ハロッズの紅茶の逸品だ」
「やっぱり、わかりますか?」
「いい選択だと思うよ。この場で供するお茶に、これを選んだきみの慧眼に敬意を表する」
 ハロッズの『フラワリーアールグレイ』は、中国紅茶とセイロンティーのブレンドにマリーゴールドとコーンフラワーの花びらを加え、ベルガモットオイルで香りづけをしたものだ。
 ベルガモットの香りには、怒りによる興奮をクールダウンさせる心理的効果がある。それをふまえて、ロバート卿は言っているのだった。
「ありがとうございます。うれしいです」
「ところでこの茶葉は、英国へ行ったときに購入したのかね?」
「いえ、あのときは買わなかったので、ターミナルに戻ってから百貨店ハローズの紅茶売場で探したんですけど売り切れで、結局、壱番世界の三越のハロッズショップで見つけました」
「それはまた、仕入れに手間をかけさせて申し訳ない。今後、ハローズでの品切れがないよう、担当者に言っておこう」
 優とロバートは、なごやかな応酬を続けている。
 ときおり、合いの手を入れながらスイーツを食べ切った一は、ふたりを交互に見て、深いため息をつく。

 ロバート・エルトダウンに、伝えなければならないことがある。
 螺旋飯店の支配人、黄龍から託された、月の王の一幕を。
 それは、この場にふさわしい話題なのかどうか、それすらもわからないが、今言わなければ機会を逸したままになりだろうし――しかし、どうにも気が重い。

 :-:+:-Finger Sandwiches

 スイーツのお代わりを求めるでもなく、サンドイッチに手を伸ばすでもなく、一は黙り込み、うつむいた。
「一」
 そっと、優がうながす。
「ベンジャミンさんからの言づてが、あったよな?」
「えー、あー、まー。そもそも何で私が的な、ナニがアレでソレなんですけども。名指しで頼まれちゃいましたし、仕方ないですよね……」
 しぶしぶ投げた問いかけは、しかし本題ではなかった。
「鉄仮面の囚人さんと、アイリーン・ベイフルックさんの関係についてお聞きしたいです」
「そっち?」
 拍子抜けした優が目を見張る。
「関係、ね」
 ロバートは、テーブルの上で指を組んだ。
「はぐらかすつもりはないが、実際にどのような交流があったのか、第三者には知り得ない。僕の主観ということでよければ、彼は、アイリーンを愛していたように思う」
「アイリーンさんの方は?」
「それこそ、知りようがない。あまり感情をあらわにしない、もの静かなひとだったのでね」
「囚人さんの素顔を、知ってますか?」
「もちろん。親族だから、当然のことだ」
 素顔はどんな、と、続けようとして、一は言葉を切る。
 知りたい。だが、知るのが怖い。
「ええと、それはさておき、本題に入ります」
 ――ようやく。
 異界路の建物を舞台に発生した殺人鬼連続殺害事件のあらましを、一は語った。"名探偵"黄龍への挑戦であるらしいことや、犯人と目される『月の王』は、ベルク・グラーフというツーリストで、空間移動と氷の魔法の特殊能力を有すること、インヤンガイへの帰属を求めるがゆえの犯行であること、どうやら彼には"黒幕"がいて、その命により動いていると推測できることなどを。
「……月の王」
 相槌を打ちながら、ロバートは聞き入っていた。
「心当たり、あります? 旅客登録情報によれば、ベルクって35歳金髪らしいんですけど、あなたじゃないですよね?」
 一は胡乱な目を向ける。ロバートは面白そうに破顔した。
「一。まったくきみには、探偵の素質がないね」
「言われなくてもわかってます!」
「僕はコンダクターであってツーリストではない。特殊能力も持ち得ない。月の王であるはずがない。百歩譲って、何らかの手段で特殊能力を駆使できたとしても動機がない。それに、ロストレイルの乗車記録を調べたのだろう? アリバイは立証できるよ」
「聞いてみただけです。何でも質問していいって言われたから」
「犯人の目星、ということなら、ベンジャミンのほうが得手だろう。彼は何と言っていた?」
「特に何も。いけ好かない金貨野郎には、私から報告してほしいって――」
 そこまで言ってから、一は言葉を切った。

 ――犯人の、目星。

 月の王などではなく、より関わりの深いファミリー――ヘンリーに殺意を持ち、彼を撃った犯人の名を、ベンジャミンが明言していたのを思い出したのだ。
「……一?」
 一の顔が強ばり、みるみるうちに青ざめる。優が心配そうに声をかけても、唇を噛んだままだ。

 :-:+:-Scone&muffin

「ヘンリーさんを殺そうとしたのは、あなたですか?」
「そのとおりだ」
 単刀直入に一は問い、明快にロバートは答える。
「後悔してますか?」
「いや。それはヘンリーに対し、むしろ失礼だろうから」
 それを聞き、一の表情がいっそう強ばった。
 冷ややかな断罪者の目で、ロバートを見据える。
「だったら、私は許しません。あなたを絶対に、許しません」
 一は、最初からロバートを嫌っていたわけではない。
 一昨年のクリスマスのおり、カリスの招待状を届けに出向いて感じたのは、まだ軽い嫌悪だった。だが、赤の城のパーティで会ったとき、それは、他人を利用するものへの疑心と嫌悪へと変化した。
 そして、ベンジャミンが「ヘンリー殺し」の犯人を明らかにし、その嫌悪は明確なものになった。
「一。……それは」
「壱番世界を護るため、とか、そんなのは免罪符にはならないです」
 優の言葉を、一ははねつける。
「壱番世界だけを特別扱いしないでください。私の出身はあなたから見れば『異世界』です。あなたは壱番世界を護るためなら誰かを殺すことを厭わない。自分の護りたいもののために何かを犠牲にすることを厭わない」

 ――だから。
 もしも、壱番世界を護るため、異世界を犠牲にする必要があれば、あなたは迷わずそれをするのでしょう?
 犠牲になる側の気持ちなんて考えもしないで!

「私は、許せません。結果的にヘンリーさんは死にませんでしたけれど、殺意を持ってヘンリーさんをギアで撃ち抜いた、あなたを許せません!」
「むろん、そうだろうね」
 ロバートの態度に、動揺はない。ただ、あるがままに受け止めている。
「あなたがロストナンバーたちの関心を惹こうと、あちこち招待していたのだって、そのためでしょう? 『壱番世界を護るために力を貸してくれ』? それだって、私たちを利用してるってことじゃないですか。自分の目的のために」
「そのとおり、たしかに傲慢な行為だ。しかし、きみたちツーリストが愛してやまない出身世界を――そこに帰還するためならば何でもするが、それ以外にはまったく関心を示さないのも傲慢ではないのかね? アリッサがまだ館長代理だったころ、エディの行方にたいしてきみたちが言っていたことが、すべてを物語っている」

 ――アリッサには悪いけど、館長の行方なんかに、興味はないんだ。

「それがロストナンバーたちの総意にほかならないと気づいたときの絶望を、ここで語るつもりはないが、そうだね、きみたちが僕を信用できなかったように、僕も、きみたちを信用してはいなかった。ロストナンバーたちが一枚岩ではないことは、重々わかっているにせよ」
「今は、どうなんですか?」
「多少は、信頼できる人物も増えてきた。だが基本的にきみたちは、故郷のためならどんなことでもするだろう? 僕も、護りたいもののためならば、きみたちを裏切るだろうからね」
「私は、それが……、その考え方が嫌なんです。相容れないんです。Aを護るためにBを犠牲にする、その発想が」
「……ふむ」
 ロバートはしばらく、考えを巡らしていた。
 それは、一への反論を探しているというよりは、この正義感あふれる少女へのいたわりをどう伝えようかと、思いあぐねているように、優は感じた。
 一の悲痛な問いの源泉は、どこにあるというのだろう。
 一は何故、知りたいのか。そこまで嫌う、ロード・ペンタクルの真意を。
(俺は、壱番世界を救うために、真実が知りたかった)
 だが、〈真実〉とは何か。
 自分たちは〈真理〉に目覚めたから、ここにいるというのに。

   † † †
 
 ロバート卿は、どこか、懐かしいひとを見るような表情で、一に言う。
「乙女座号が搭載している武器の名称を、知っているだろう?」
「……正義の棘」
「そうだ。正義というのは、鋭い棘にほかならない。正義は何の基準にもならない。よりどころにさえ、ならない。きみ自身がどう考え、どう感じるのか、それだけに従いたまえ」
「それって、まるで、勝手きままに、感情的にふるまえ、っていってるみたいですけど?」
「人間は、感情の生き物なのでね」
 一の肩が、びくりと震えた。
「じゃあ、感情的になりますけど」
 テーブルに手をつき、がたん、と、椅子から立ち上がる。
「ファミリーの契約は、裏を返せば壱番世界を護るために、他の世界の情報を売ることじゃないですか! 他の世界にチャイ=ブレを押しつけられるんならそうするんでしょう?」
「可能ならね。ナラゴニアとの戦争は、広義の意味ではそういうことだから」
「私、失礼します」
 その場を辞しようとした一の腕を、優がつかむ。
「ちょっと待って」
「離してください!」
 激しい勢いで、一は振り払った。ロバートと優を、交互に睨む。
「私たちが故郷へ帰りたいと思って、何が悪いんですか。そのことばかりに拘泥するのが、そんなにいけないことですか。……あなたたちは帰れるじゃない。いつだって、帰れるじゃない……!」
 そう言い残し、足早に去る。

 言い過ぎました。すみません。
 去り際に、それだけを言い残して。 

「一。僕は、正義という概念が持つ棘に、きみ自身が串刺しになりはしないかと、それだけが心配なんだよ」
 その背にかけたロバートの声が、一の耳に届いたか、どうか。


 :-:+:-Pastry

「かわいいねぇ、彼女は。かわいくて、あやうい」
 気を悪くしたふうでもなく、ロバートは、一の離席により空いた椅子を、優に勧める。
 しかし優は、首を横に振った。
「今日は、主催者ですから」
「では、きみと友人として話そうと思ったら、お茶会はお開きにしなければならないね」
 
   † † †
 
 ラファエルに礼をいいながら後片付けを行い、アリッサに、プライベートガーデン使用許可の謝意を伝え、優のつとめは終わった。
 それまで、ひとり花々を眺めていたロバート卿のとなりに、優は戻る。
 いろいろなことがありました、と、優は、ロバートではなく、この庭に語りかける。あの招待から、まだ半年しか経っていないのに、と。
 壱番世界を救うという決意と、世界樹旅団との戦いを経て新たに生まれた決意が、今の優のささえだ。
 自分が大切に思うひとびとの明日を守りたいと言う優に、いかにもきみらしいね、と、ロバートは笑う。
「ひとごとみたいに言わないでください。そのなかにはロバートさんも入ってるんですから」
「おや」
「あなたが罪を背負っていようと、俺はあなたの力になりたいです。孤独のままになんてさせたくない」
「そう思ってくれた時点で、僕はもう孤独ではないのだがね。ところで優。きみはなぜベンジャミンが、インヤンガイに帰属できたのだと思う?」
「世界とその住人に求められたから、じゃないんですか?」
「もちろんそれもある。だが、一番大きな要因は『インヤンガイがああいう世界だから』だ。ベンジャミンのメンタリティがインヤンガイにふさわしかったから、といえよう。たとえば、彼の希望がヴォロスなりブルーインブルーであったなら、もっと困難だったろうね」
「じゃあ」
 ロバートの示唆に、優は息を呑む。
「月の王の再帰属は、かなうかもしれないと?」
「難しいことではないだろう。それこそ、ベンジャミンと同様に」
 
   † † †
 
「昔、ベンジャミンが言っていた。探偵は、その事件の犯人との合わせ鏡なのだと。犯人の罪業を共有できなければ、事件を読み解くことはできないと」
「ベンジャミンさんは、一に忠告してました。一だけは、鉄仮面の囚人に関わってはいけないって」
「僕がベンジャミンの立場でも、同じことを言うだろうね。探偵の資質は持たないと自覚していて、探偵ごっこなど楽しめないと言う少女に、強引に探偵の罪業を背負わせることになるのだから」
「……おれたちは、いいんですか?」
「きみたちはとうに『探偵』だ。だが、一は、そうではない。それが新鮮で好ましかったのだろうね、ベンジャミンは」
 ――シンブルに言えば、「彼女が傷つくのを見たくない」ということだよ。
「だから、あえて、彼女にメッセンジャーを頼んだ。つまり『兄さんからも忠告してくれ。彼女を巻き込まないでやってくれ。……兄さんだって、こういう子には弱いだろう? 少女のころのエヴァみたいだものね』とね」
「そうなんですか?」
「正義感が強くて、危ういところは似ているかな?」 
 ロバートは苦笑しながら、優を見る。
「すまないが、優」
「はい?」
「傷ついてくれないか?」
「どういう意味ですか?」
「近いうちに僕は、きみたちを裏切るだろう。はからずも今しがた、一が予言したとおりに」

 そして、頼みがある。
 相沢優に。ムジカ・アンジェロに。由良久秀に。エレナに。
 一を除いた、螺旋飯店の探偵バッジを持つものたちに。

 願わくば一の望むように、犠牲を出さず、すべてを護るために。

クリエイターコメントおや。
  おや……?

   おやおやおや………!!!


一たんがツンを貫いた結果、なんか、面白いことになりそうですよ?
まて次号!
公開日時2013-01-09(水) 23:30

 

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