窓の外はどこまでもつづく虚無の空間「ディラックの空」。 ロストレイルは今日も幾多の世界群の間を走行している。 世界司書が指ししめす予言にもとづき、今日はヴォロス、明日はブルーインブルー……。大勢のコンダクターが暮らす壱番世界には定期便も運行される。冒険旅行の依頼がなくとも、私費で旅するものもいるようだ。「本日は、ロストレイルにご乗車いただき、ありがとうございます」 車内販売のワゴンが通路を行く。 乗り合わせた乗客たちは、しばしの旅の時間を、思い思いの方法で過ごしているようだった。●ご案内このソロシナリオでは「ロストレイル車中の場面」が描写されます。便宜上、0世界のシナリオとなっていますが、舞台はディラックの空を走行中のロストレイル車内です。冒険旅行の行き帰りなど、走行中のロストレイル内のワンシーンをお楽しみ下さい。このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、・ロストレイル車内でどんなふうに過ごすかなどを書いて下さい。どこへ行く途中・行った帰りなのか、考えてみるのもいいかもしれません。!注意!このソロシナリオでは、ディラックの落とし子に遭遇するなど、ロストレイルの走行に支障をきたすような特殊な事件は起こりません。
螺旋特急は虚空を疾走している。 ブルーインブルーからの帰り道、車内を見渡すと同行したロストナンバーたちは寝こけていた。 ガタゴトと規則正しいレールノイズが車内に響き渡っている。 人間は泳ぐと眠くなるらしい、ぼく=ことニワトコにはその感覚がよくわからない、水を浴びるとむしろ目がさめるほうなんだ。それでみんなが泳いだブルーインブルーなんだけど、海の水はちょっと変な味で長くつかってと体に良くないような気がしたんだよね。だから泳がないで足を濡らしただけなんだ。みんなの幸せそうな寝顔を見るとぼくもやっぱり泳いだ方がよかったのかなと思えてくる。 そんなぼくも実はすこし眠い。 ロストレイル号に乗るといつもそうなる。もともと暗いところが苦手で、狭いところも落ち着かない。ディラックの空をかけるロストレイル号はその両方なんだよね。それでも冒険の旅に出かけるのは、行った先の世界があまりに魅力的だから。 0世界は太陽を遮る雲は無いが、肝心の太陽もない。光をめいっぱい浴びるには他の世界に行く必要がある。 だから、ぼくはこうして窓から外を眺めて時間を潰すことにしている。 一番窓の大きい席を選んでいる。銃座っていうらしいんだけど、ここからだと上にも窓があるから落ち着く。 窓の向こうは、虚空が広がっている。じーっと見つめていると吸い込まれそうだ。 虚空と言っても何も無いわけではない、遠くに光がたくさん見える。この光があるからぼくはどうにかロストレイルに乗れるのかもしれない。天の川とも違っていて、眺めていると不思議な気分になる。あの光の中にはまだ見たこともない世界が広がっていると言う話しなんだ。 ブルーインブルーのように水でいっぱいの世界があるのなら、植物がいっぱいの世界もきっとほかにあるんだろうね。行ってみたいな。 見渡す限りの緑の森が広がっていて、川があって、雨もよく降って、晴れていればさんさんと光がふって、山を登るとちょっと背の低い植物がいて、沢に降りると蔓やシダもいる。動物や虫もいるんだけど、彼らも実はみんな植物で、ものを食べるとしても果物だけで……。 そんな、のんびり平和な世界なんだろうな。 そこではぼくのように歩く植物もいるんだけどだいたい寝ているんだろうね。 することもあんまり無さそうだし ……それだけだと退屈だから、大きな、もう千年もじっとしているような翁がいたりして、こけが凄いことになっていて、掃除してあげると雨宿りさせてくれるとか。 ついでに、岩や山ともお話し出来たら良いかも…… だんだんモフトピアっぽくなってきたよ。 あそこも楽しい世界だったね。 ゆかいなアニモフたちいっぱいいて、賑やかだったよ。彼らは、動物…… なのかな。植物はちゃんと植物だったよね。ひまわりのようなアニモフとかもいてもいいような。見たことないけどね。 ぼくは騒がしいところと静かなところとどっちが好きなんだろう。わからないや。アニモフがくれるお菓子の味もよくわからなかったけどね。ジュースも…… どうなんだろう。あびたらべとべとになっちゃうんだろうけど、一度やってみたいな。 島が空を飛んでいたり、雲に乗れたり、初めて行ったときはびっくりしたよ。 あの空をどこまでも飛んでいったら、どんなところに辿り着くんだろう。虹の果てが見つかったといううわさも聞いたしどうなんだろう。なんだか『おしまい』とか書いてある看板が立ってあるだけだったりして。 それとも巨大なフェルトのカーテンが天から降りてきていたりするのかな。 はてと言えばブルーインブルーの海もどこまで続いているんだろう。 壱番世界の海をどこまでも行くと、元の場所に戻ってくるって言うけど、あの海原もそうなのかなぁ。 それとも、世界のはてはすごい滝になっているという伝説を聞いたことがあるような。まさかね。海の水がなくなってしまうよね。 白い浜辺があって、そこにしかない木が生えていたりしたらいいな。そこでも空は本当に深くて、突然のスコールもあったりする。 ブルーインブルーの海をぐるりと囲むようにそんな浜辺があって、その向こうには森があって、とかだったら楽しいよね。 ……ああ、それだと森の向こうには何があるのだろう。 森の向こうも海だったりして…… 窓の外をひときわ明るい光芒が流れていった。 このディラックの空にもはてはあるのかなぁ。 はてが無いとしたら、どこかには植物しかいない世界もあるはずだよね。 やっぱり、植物ばっかりの世界はちょっとさみしいのかな。 人間はいた方が良いのかな。どうなんだろう。 人間もぼくたちみたいに水と光だけで生きていけたらいいのに……。でも、それだと人間じゃなくなってしまうのかな。 火を使う人間は怖いけど、0世界の人たちには怖くないのもいっぱいいるからね。 それでも人間が火をおこさなくても火が自然につくことはあるしね。火が起きない世界って言うのもあるのかな。モフトピアがそうなのかもしれないけど。それだと、普通の人間は困るよね。料理ができないし。 ぼくもずいぶん彼らに影響されたような気がする。 ごはんも食べるようになったしね。 そのうちごはんの味もわかるようになるのかな。 肩をたたかれる音で気がついた。車掌だ。 外は明るい、人が歩いている。うつらうつらしているうちに0世界に戻っていたようだね。 軽くのびをして(これも人間から教わったくせ)、冒険の報告に向かうとしようかね。
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