▼0世界、とある喫茶店にて「皆さんに、何か得意なことはありますか?」 ある日のこと。 猫耳フード付きのケープを羽織った女の子、メルチェット・ナップルシュガーは、お茶会に同席しているロストナンバーの仲間にそう訊ねました。「私は、これと言って得意なことはありません。しかし大人というものは自分の強みを把握し、自分にしかできない何かを持っていると聞きました」 ジュースをちゅーと吸いながら、メルチェは真剣そうな眼差しで語ります。 彼女は自分の理想である「素敵な大人」を目指すため、こうして研究に余念がないのです。しかしその「大人」の方向性も、明日には他人からの影響を受けて様変わりしてしまっているのは、もう仲間内ではご愛嬌です。 またいつもの「おとなごっこ」が始まった―― メルチェの友人達は、半ば呆れの混ざった微笑みを浮かべながら、視線を交わして頷き合います。今日も、彼女のお話に付き合ってあげることにしたのです。 とくべつ得意というわけではないけれど――そう言いながら、各々は持っている自分のスキル・特技についてを説明し、可能なものはその場でメルチェに見せてあげました。「ふむふむ……なるほど。ふぅむ……」 メルチェは愉しむというより、端から端まで事細かに観察するような目つきで、じっくりとそれらを凝視していました。 仲間内で一通り、スキルのお披露目は終えたものの。メルチェは腕を組みながら体を傾ぎ、難しい表情をしています。「皆、色々な技術を持っているんですね……他の皆は、また違った技術を持っているのかしら? だとしたら、それはどうすれば見せてもらえるのかしら……」 ひとりひとり尋ねて回るのはさすがに大変だね、と誰かが言いました。 それをきっかけに、皆で意見のやり取りが始まります。 だったら一箇所にたくさん集めて、皆で披露し合えば早いんじゃない? そうしたら、ちょっとしたパーティだよね。 何だか面白そう! いっそ何か開催してみようか、年もあけたし記念に一発ッ。 もう新年はとっくに過ぎたでしょ……。 じゃあ新年じゃなくて新春かな。 場所はどこにする? 世界図書館内だとさすがに邪魔になるよね……。 じゃあ誰かのチェンバー? あ、そういえばおまえ、桜の花がいっぱいあるチェンバーに居なかったっけ? そうだけど。 え、ほんと? そこ、会場にいいね。ちょっと早いお花見的な感じでさ! いいかもしれない! 企画書書いて、アリッサに許可申請してこよう! ――そうして盛り上がる間も、ずっと何かを考え込んでいたメルチェですが、はっと何かを閃いた様子。 急にガタッと席を立ち、皆が小さく驚いて注目の視線を向けます。「かくし芸……!」 メルチェがぼそっと呟きました。その目は踊るような興奮できらきらと輝いています。「ロストナンバー新春かくし芸大会……! これですね! メルチェはこれで皆の隠れた〝芸〟を見て、本当の大人を学ぶことにしましたっ」 それから、しばらくの期間を置いて――。 † 桜の咲き乱れるチェンバーを間借りし、ロストナンバー達の新春かくし芸大会が始まろうとしています。 既にたくさんの観客が集まっており、会場は大賑わい。 地べたに敷物を広げて腰を下ろし、舞い散る桜を肴に談笑しながら、開催を待ちわびています。 会場の一角には「特別審査員席」と表記された、ちょっと豪華な席が設けられていました。まだ姿を見せている者はいないようですが、こちらにはロストナンバーならばよく知る顔ぶれが並ぶのだろうと、誰もが予想しています。 一方、そうした人だかりの賑わいを見渡すことができ、また観客側からもよく見えるような、地面よりもやや高い位置に、かくし芸大会の舞台が設営されています。 即席で作ったものとは言え、どん帳と呼ばれる化粧幕を上下させることもできますし、舞台の両端にも大道具用の空間が確保され、照明や音響の機材も一通りのものは揃っている様子。ちょっとした劇場と言っても差し支えはありません。 その舞台裏にある楽屋では、エントリー番号を貰った参加者達――つまりあなた達が、大会の開催と己の出番を待っていました。緊張と興奮の混ざった独特の空気の中、入念な準備と最終確認を行っているのです。 参加することになったきっかけは、人それぞれでしょう。自ら挙手したかもしれませんし、いつの間にか参加することになっていたのかもしれません。 いずれにせよ、本番まであと僅か。あなたは不安や緊張に苛まれる一方、言い知れぬ気持ちの昂ぶりも感じていました。 人知れず、あるいは誰かの協力を経て――練習に練習を重ねた芸がついに披露できることに、体と心が喜びで震えているのかもしれません。指先の震えは怖気づいたわけではなく、戦いの前の武者震いであると、あなたは信じることにしました。 そうしているうちに、かくし芸大会開催の宣言が告げられて。会場の盛り上がりが、わっと空気を震わせました。その熱狂は楽屋にまで届いてきます。 ……そしてあなたはやがて出番を迎え、皆の前でとっておきの〝芸〟を披露することになるのです。 ――これは、とあるロストナンバー達の、ちょっとした宴のきろく。====※このシナリオはロストレイル13号出発前の出来事として扱います(搭乗者の方も参加できます)。====
▼会場チェンバー、開会時 「では司会はわたくし、メルチェット・ナップルシュガーが務めさせて頂きます。皆さん、よろしくお願いしますね」 猫耳フードの女の子がマイクを手に、舞台上でぺこんとお辞儀をする。観客席が拍手で開催を盛り上げる。 「では開催にあたりまして、館長のアリッサちゃんからお言葉を賜りたいと思います」 促されたアリッサ・ベイフルックが、舞台上にてこてこと上がってきた。皆の前で少し思案してから、軽い調子で発言する。 「うん、えーっとね。んー、あんまり長くお話してもアレだよね。皆でマナーを守って愉しくやりましょう! 以上でーす」 館長のお言葉はわりと緩めだった。 その後には前座として、エミリエ・メイによる『エミリエを叱るリベル・セヴァンの物真似108つ』が披露されて観客の笑いを誘った後(リベルは終始無言だった様子)、エントリーされた面々によるかくし芸がついに始まったのであった。 ▼エントリーナンバー1:スカイ・ランナー 「最初はスカイ・ランナーさんによるかくし芸です。まずは自己紹介からお願いしますね」 舞台袖から外套をはためかせながら姿を現したのは、鳥の獣人であるロストナンバーの男だ。猛禽類を思わせる鋭い目つきで観客席を一瞥した後、咳払いを挟んでから淡々と言葉を口にする。 「あー、ごほん。……コードネーム:スカイ・ランナーだ。本名は無い。……元の世界では傭兵のようなものをやっていたんだが、その技術を今回のようなかたちで披露することにした。本来はこういった使い方など言語道断なんだが、これもまた広義としてはかくし芸になるだろうと判断し……何だよおいそこ、驚いた顔をするな。そこもだ、孤高の戦士が感情に芽生えたのを微笑ましく見守る保護者のような目で、俺を見つめるんじゃない!」 険しい面持ちで言い放ちつつ、恥ずかしそうに汗を飛ばす。 そこへ追い打ちをかけるように、ある審査員席の評価ランプ(デフォタンモチーフ)がぺかーっと一足先に点灯してしまったため、他の審査員もおもむろに評価ボタンを押し始めてしまう。 「ちょっと待てそこの審査員、まだ俺は何もしちゃいないぞ! 勝手に評価ボタンを押さないでくれ、釣られて皆押し始めてるだろうが!」 「あ、そうだったのぉ? あはは、ごめんなさぁい」 ひらひらと軽い調子で手を振り、笑顔で誤魔化す審査員の女性。カウボーイを彷彿とさせるハットや上着が、やたらとポップな色合いをしているのが特徴の彼女は、世界司書のカウベル・カワードだ。 「何だかちょっと感動しちゃったからぁ、つい押しちゃったわぁ~。ほら、戦場しか知らなかった兵隊さんがぁ、日常の感覚をゲットして馴染んでいく姿って、ちょっとお涙頂戴系な感じでしょお?」 「知るか!」 芸も始まってもいないのに感動されてしまっては、スカイ・ランナーもツッコミを入れずには、いられない。やれやれと肩をすくめた。 やがて短い溜息をひとつ洩らして気を引き締めた後、スカイ・ランナーが舞台袖に合図を送った。昼間の青空が広がっていたチェンバー会場の模様が変化し、星の瞬く夜になる。舞台上にいるスカイ・ランナーだけが、淡いスポットライトの光で照らされる。 「さぁ、ショータイムの始まりだ!」 使い古した外套の裾を翻しながら、スカイ・ランナーが懐から得物を取り出す。 「皆さん、失礼しました。これからスカイ・ランナーさんの芸が始まるようです。取り出したのは……えっと、じゅー、ろくれ、んそー、けいこ、う、ろけっと、らん、ちゃー、ですね」 「おいおい、しっかり解説してくれるんだろうな……」 あまりにも拙く発音する司会者のメルチェに、さすがのスカイ・ランナーも不安になる。しかし気を取り直し、その無骨な得物を肩に担いで。 「爆薬ってのは、ただ破壊をもたらすだけが能じゃない。こういう使い方も――できるんだぜ!」 引き金を引くと同時、煙を噴いて閃光とともに発射されるロケット弾。空を切り裂いて斜め上空に突き進んでいく。 会場が「おおっ」と沸きあがり、その弾道に目を奪われる観客達。会場から離れた遥か上空まで飛んでいった弾頭は、想定高度に達したところでタイミング良く爆発した。 「わ、花火ですね!」 メルチェが明るい声を洩らした。 弾頭に積まれていたのは人を殺傷する爆薬ではなく、色とりどりの火花を散らせる調合火薬だった。お腹にも響くような重い炸裂音とともに、炎の花が何輪も咲き誇る。 「一発だけだと思うなよ、こいつは連装式だぜ!」 景気よく叫びながら、スカイ・ランナーは次々と花火弾を発射する。暗がりの夜空に赤、青、黄、緑、桃、白といった色鮮やかな閃光の華が、咲いては乱れて散っていく。 花の一輪が夜を彩り轟くたびに、会場から拍手が沸き起こる。 「こいつでシメだ!」 最後に発射された花火が、愛らしいセクタンを上空に描いた。一層大きな拍手が鳴り響く。 「任務完了」 満足そうに口端を歪めるスカイ・ランナーは、紫煙を立ち昇らせる銃口に軽く息を吹き付けた。 「素敵な花火をありがとうございました。それでは審査員の皆さん、評価ボタンをどうぞー」 メルチェの合図とともに、審査員が手元のボタンを押す。セクタンランプがぺぺぺっと点灯していく。 「おお、なかなかの高評価ですね。審査員の方にコメントを頂いてみましょう。無限飲み屋さん……ごめんなさい、夢幻の宮さんは如何でしたか?」 何層にも重ねた厚い衣を羽織り、華やかな金属細工の冠をつけた雅な女性が、そっとマイクを手にする。 「はい。とても美しいものを堪能させて頂きました。戦うための技術もまた、使い方によってはこうしてひとを魅了できるものになることに、いたく感動した次第です。その巧みな技術を、評価したく思います」 しずしずと丁寧なコメントを贈る夢幻の宮に、メルチェは頷きこくこく。 「大人らしいコメントをありがとうございます。それでは以上、スカイ・ランナーさんでした。皆さん、大人な拍手をお願いします」 ▼エントリーナンバー2:北斗 「続きましては北斗さんによるかくし芸です。まずは自己紹介からお願いしますね」 舞台袖から湿り気のある黒い巨体がぺたぺたと這ってきた。ぱっと見は極普通のトドであるが、これでも立派なロストナンバーである。きちんと人語も理解する。 「あ、ごめんなさい。北斗さんは直接、喋れないんですよね。テレパシーを経由して届く意思を、大人のメルチェが通訳してあげたいと思います」 メルチェが体をかがめて北斗と視線を合わせ、じっと見つめ合う。 「頑張るので応援よろしくお願いしますぅ……だそうです。それでは北斗さんお願いします」 舞台上に設置された丸いお立ち台に上ると、北斗は器用に上半身を持ち上げた。人間のように仰々しいお辞儀をひとつすると、観客の間で小さな拍手が返ってくる。 「アシカに出来ることは、おいらにもできるんじゃないかと思うんですよぅ……と言っています。なるほど、このかくし芸で同族のライバルに格の差を見せつけてやる、といった大人な意気込みのようですね」 その後、舞台袖から放られた大きなゴム製ボールを、滑らかな頭部でキャッチする。頭の上でトントンとドリブルをさせ、鼻先でも同じようにボールを弄んでみせる。 そして今度は玉乗りを試みる。――が、ボールの上に乗った途端、巨体が不安定に揺らぎ始める。目と口を大きく見開き、手のヒレや尾をわたわたと振る仕草は、まるで人間が「あっ」と驚き、慌てふためくそれと全く同じ。やたらと人間染みたその仕草に、会場には笑いの華が咲く。 その後、顔と胸をそらしてツンとしたような態度を取り、何事もなかったかのように玉乗りを披露してみせる。愛嬌のある芸を見せられ、そうしたものに目が無い観客はすっかりメロメロだ。 「なるほど。先ほどの北斗さんの慌てぶりを含めて、この玉乗りの流れそのものがひとつの芸となっているようですね。メルチェは大人なので分かりました」 すました声音の解説が挟まれる。 玉乗りをしたまま絵筆をくわえ、運ばれたキャンパスにセクタンの絵を描かくと、会場からは賛美の呻きが上がって。 続いて口から放出する水の力でゴム玉を浮遊させたり、水鉄砲のように放水して的を打ち抜いたりなどの巧みな芸も見せる。 最後に披露したのは、なんと重力操作だ。顔をしかめるように力むと、北斗の体の輪郭が淡い光を放ち始める。北斗の目の前に運ばれていた水槽の水が、霧のように拡散されて上空に吹き付けられる。チェンバー内部に降り注いでいる擬似的な陽光を受け、それは会場に大きな虹の橋を架けたのだった。 おおー、という感嘆が洩れたすぐ後に、大きな拍手が沸き起こった。 † 「というわけで、北斗さんによるショーでした。審査員の方にコメントをお願いしたいのですが……」 メルチェが審査員席に目をやる、あるひとりの様子がおかしいことに気がつく。 にゅふふと幸せそうな笑みを浮かべながらほっぺに両手をあてがい、こすぐったそうに身をひねらせている人物がいるのだ。洋服の端々を飾るフリルやリボンなどが愛らしい、世界司書の紫上緋穂である。 「ひほちゃん、涎が垂れていますけど大丈夫ですか?」 本当は緋穂と書いてヒスイと読むけれど、親しい間柄なのでそう呼んでいるメルチェだ。 「ふふふ、もー可愛いなぁ――んえっ?」 緋穂は名前を言われて、ようやく現実の世界に帰ってきたようだ。変な声で返事をしたあと、緩んだ表情と姿勢を慌てて正す。 「は、はいっ! え、えーっと……うん、すごく可愛かったよ! ロストナンバーである以上は普通の動物とは違うと思うんだけれど、頑張って芸をする姿が愛くるしくて、見ていてほっこりした気分になれました」 そう元気良くコメントする。 北斗が感謝の意を示すように上半身を持ち上げ、たしたしと拍手をする。 その様をみて「やーん、可愛いっ」と黄色い嬌声をもらす緋穂は、それ以上点数は加算されないにも関わらず夢中で評価ボタンを連打する。 「おや、茶缶さんからも反応があるようですね」 茶缶の愛称で慕われる宇治喜撰241673が、ボディから生体コードを出して、カチカチと手元のセクタン型評価ランプを点滅させている。 メルチェは懐から薄い板のような端末を取り出した。直接喋ることのできない宇治喜撰とは、機械でやり取りをするのである。 「えっと、茶缶さんからコメントを頂きました。大人のメルチェが代わりに読んであげようと思います……。えっと……何だかずらずらと色々な指摘が書いてあるのですが、大人っぽく簡潔にまとめると、理解不能……とのことです。愛らしさや可愛さという概念が、茶缶さんにはあまり理解されていないようですね」 手厳しいコメントを聞き、しゅんと頭をもたげる北斗。緋穂はそんな仕草ひとつにも胸がときめくらしく、興奮した様子で評価ボタンを連打している。 「ひほちゃん、壊れちゃうのであんまり押さないでください! 以上、北斗さんでした。皆さん、大人な拍手をお願いします」 ▼エントリーナンバー3:幸せの魔女 「次は、幸せの魔女さんによるかくし芸です。まずは自己紹介からお願いしますね」 舞台袖から優雅に足を運んできたのは、白いドレスに身を包んだ麗しき乙女、幸せの魔女だ。 「御機嫌よう。私の名前は幸せの魔女。幸せを追い求め、それを決して逃がさない残酷な魔女……ふふっ、今回の大会の優勝商品は、メルチェさんをお持ち帰り出来る権利だと聞いているわ」 審査員席で腕を組み、石のように静かにしていたメンタピの肩がびくっと弾んだ。 肝心のメルチェ本人はびっくりし、マイクを手にしたままおどおどとしている。それをスルーしつつ、魔女はにたりと邪な哂いを浮かべて。 「ふふふ。そうともなれば、これはどんな手を使ってでも優勝しないといけないわ。私のメルチェさんの、幸せのために――うふふ、うふふふふ。おっといけない、つい涎が」 じゅるりと垂れそうになった涎を拭う魔女だったが、すぐにキリッと真剣な面持ちになって。 「私が披露する芸には、ある道具が必要不可欠なの」 「はいはい、こちらですねーっ」 パンパンと手で合図をすると、メルチェが舞台上に移動式の荷台を押してくる。上には1丁の拳銃と、綺麗に並べられた5発の弾丸があった。拳銃はリボルバーと呼ばれるもので、回転式の弾倉が特徴である。 「装填数は6発、弾は5発ぶん。つまり引き金を引いても何も起こらない確率は1/6ということになるわね」 魔女は銃を取り、流れるような手つきで回転式の弾倉に弾丸を1発ずつ装填していく。装填の済んだ弾倉を回転させながら、軽やかな手首の返しで銃本体に装着させる。 そして戸惑うことなく、あさっての方向に1発。かち、と引き金を引く音だけが空しく響いた。 「あ、ハズレですね」 「そうよメルチェさん。皆さんにも、あとはもうアタリしかないのは周知の事実よね?」 魔女はじらすように、大げさに、ゆっくりと腕を動かして銃口を移動させる。それはやがて、観客席でも上空でも舞台袖でもメルチェでもない、魔女自身へと向けられた。魔女は己のこめかみに銃口をあてがっている。 観客席は静まり返り、緊張感のある沈黙が会場に漂う。 「私は、常に幸せな存在でなくてはならないの。故に、決して不幸に陥る事はない。それを今から……証明するわ」 チェンバー全体の光量が下げられ、魔女だけに眩いスポットライトが当てられる。 時計の針が時間を刻むような乾いた音が、何処からとも無く反響してくる。魔女は銃口を押し当てたまま微動だにしない。 観客もメルチェも審査員も、固唾を呑んで魔女を見守った。その場の誰もが、沈黙がやたらと引き伸ばされている感覚に陥る。 ふと、前触れなく。魔女の唇が、にやりと怪しく歪んで。 引き金が、引かれた。 「…………」 何も、起きない。銃内部の機構がかみ合った、僅かな音だけだ。 「発射、しません……た、たまたま魔女さんの〝運が良かった〟のでしょうか――はっ」 どう反応して良いか分からず、おろおろとした様子で解説を続けるメルチェが、自分の言葉にハッと気がつく。 緊張の汗をにじませながら、メルチェは魔女に強い眼差しを向けて。 「運が良かった、という偶然……これを必然にしてしまう、というのが、魔女さん……あなたの芸なのですね……!」 「そうよ、この幸運は偶然ではなく必然!」 魔女は涼しげな微笑を浮かべて、肩にかかった長髪を後ろへと払った。 「申し上げたでしょう? 私は絶対の幸運に護られた幸せの魔女なのだと。ホーッホッホッホ」 口許に手を添え高らかに笑う魔女だが、返ってくる拍手はまばらだ。 「……あら? ちょっと皆さん、反応が微妙でありませんこと?」 「で、では審査員の方にはコメントをお願いしようと思います。えっと、クゥさんは如何でしたか?」 メルチェは気を取り直し、審査員席へと向き直る。 白衣を羽織った女性――医療スタッフとしておなじみのクゥ・レーヌがマイクを手に取り、非難するわけでもない、抑揚に乏しい声音で言葉を述べる。 「観客には見えない安全が確保された上で、臨場感のあるスリルを愉しんでもらうのが、そういった芸の在るべき姿のはずだ」 「幸せという手段で安全は確保しておりましたけど? 事実、私はこうして無事だったわけですし」 しれっと返答する魔女に、クゥは涼しげに言い返す。 「不確定要素に頼っているだけでは、芸とは言えずただの運任せということになる。それは、賢い芸とは言いかねてしまうかもしれないな」 「……というように辛口なコメントが送られていますが、魔女さんは如何でしょうか」 「ぐぬぬーなのですわっ」 「ということなので、審査員の皆さんボタンを、どうぞー」 審査員の一部はボタンを押したものの、大抵はあまり評価をできかねた様子で、ボタンを押した仕草は見られない。しかし……。 「あれれ? 何だか意外と高評価ですね」 「……申し訳ない、メルチェさん」 有翼の黒蛇を首もとに巻きつけた男性、世界司書のヒルガブがゆるりと手を上げ、いぶかしむように主張してくる。 「私はボタンを押していないのですが、なぜか最高評価としてセクタンランプが点灯してしまっているんです……」 誇らしげに最大光量を放つデフォタンランプを指差し、そう指摘する。 すると他の審査員からも同様の声がいくつも上がって。 「き、機械の故障でしょうか……」 「ふふふ、これこそが私の持つ、幸せの真の作用……!」 右手を顔面に添えて鼻筋に指を置き、左手は掌を外に向けて腰にあてがいながら、僅かに背を前に傾け、腰をひねる。演技掛かったポーズをキメながら、魔女は堂々と口にする。 「幸運が働くことで、機械が誤作動を起こすのもまた必然! どのような結果も覆し、私には幸せな評価がなされるのよ! これは絶対の真理であり絶対の幸運! そう、私は幸せになることを運命付けられた、幸せのま――」 「それでは本来の評価をお尋ねしますので、審査員の方は手を挙げて直接教えてくださーい」 「あああああ、メルチェさんの大人な対応に胸がときめく! 私は幸せよおおおお」 バレエダンサーのように腕を上げ、しゅいーんと高速回転する魔女であった。 なお、きちんと集計した評価は微妙な点数だったご様子だ。 ▼エントリーナンバー4:藤枝竜 「次は、藤枝竜さんによるかくし芸です。まずは自己紹介からお願いしますね」 「はいはーいっ、藤枝竜です。どこにでもいそうな16歳の高校生、得意科目は体育と古文と地学です、数学はよく補習をさせられます! よろしくお願いしまーす!」 はきはきと快活に話す藤枝に、観客からは気持ちの良い拍手が返されて。 「それではわたくし、藤枝竜。火を吹く能力で一発芸をします!」 舞台袖から運ばれてきた荷台には、新鮮そうな色艶を放つコーンが山盛りになっている。 「別に大食いをするってわけじゃありませんよ。これをこうして――」 それをがばっと掌に乗せると、藤枝は顔を近づけ、軽く一息。 なお、この時本人は、草原でお花摘みをしていた少女が花の綿毛に優しく息を吹きつけ、はにかむような可憐さをイメージしているらしいが、観客にはどう見てもお祭り時に屋台で焼きソバを豪快に調理している、威勢のいいおっちゃんにしか見えなかった。 ともあれ、藤枝の口からは本来なら燃え盛る炎が放たれるはずだが、今回は巧みに調整をしている。口先から一瞬だけ放出された高温がコーンを加熱し、宙へと弾けさせた。 荷台の上の皿を素早く両手に構えた藤枝は、「ほっ、はっ、よいしょ!」という掛け声を洩らしつつ、弾け飛んだ加熱済みのコーン――ポップコーンを、ひとつも洩らさず皿にキャッチする。 観客と審査員席は、愉快そうな拍手でそれに応えた。 「まだまだ行きますよー! 次は一気に仕上げます!」 次は山盛りのコーンに手を突っ込む。バンザイするかのようにがばっと持ち上げ、宙に生のコーンをばら撒いた。 右から左へ薙ぐように、今度は大きな火炎を放射する。そして両手の他に、肩や肘、太ももや伸ばした脚にも皿を乗せた状態で、四方八方からポップコーンをキャッチする。もちろん、今回もひとつ残らず加熱されているし、ひとつも零さず皿に盛りつけられている。手足を不自然な体勢でピンと伸ばしている姿は、さながらカカシのようだ。 「ご、ごめんなさい、メルチェさん……お、お皿、これ、持ってもらえ、ませんか……っ」 「あ、は、はいっ!」 四肢をぷるぷるさせながら、険しい形相で頼み込む藤枝。 メルチェの補助で皿を受け取ってもらい、調理したポップコーンは審査員と観客に届けられた。おつまみとして堪能していただく趣向に、明るい拍手が沸き起こる。それを受け、藤枝は頭の後ろを掻きながらにまにまーっと照れ笑い。 「いやー、どうもありがとうございます。本当なら口の中で作ったほうが細かい調整も利くんですけど、口から出したものを人様に召し上がっていただくのもアレですし、人前で口からポップコーン吐き出すのも乙女の尊厳が失われかねないので、今回はこんな感じにしてみました!」 その後は、メルチェや観客の手を借りてコーンや他の食材を放り投げてもらい、それを空中で調理するといった、体験も兼ねた芸で皆を沸かせる藤枝だった。 † 「それではコメントを頂いてみましょう。何やらじっくり検分するように食べているようですが、クゥさんは如何でしたか?」 「味は悪くないが、焼け具合にムラがあるのがマイナス点だ。もっと技術の向上に精進してくれればと思う。以上だ」 ひとつずつ丹念に確かめながら咀嚼するクゥは、淡々と語った。 宇治喜撰からは、効率良く調理するために必要な温度調整や加熱角度といったデータのレポートを印刷してくれる。藤枝は正座をしながら、そうした意見を「な、なるほど……!」と真摯に聞いていた。 「うむうむ、我は満足であるー。とっても楽しかったのだー」 大盛りのポップコーンをがつがつと大きな口に放り込んでいるのは、みかん色をした鱗にみかんのような模様を持ち、みかんドラゴンの名で親しまれる世界司書、ガン・ミーだ。 「ポップコーンなるものも――むぐむぐむ、ふごふおいひはっはほはー」 「ガン・ミーさん、食べながらコメントしないでください!」 「あふー」 メルチェに視線で「めっ」されるガン・ミーだが、目を細めて満足そうにもごもごと頬張っている。 「できることなら、塩も用意してくだされば良かったのですが……それは贅沢ですかね」 微笑ましそうにポップコーンをつまむヒルガブ。緋穂もそれに頷いて。 「私は、甘い感じに仕上げてくれたらもっと良かったかなー。ほら、キャラメルソースみたいな感じでっ」 「しまった、味付けをして提供することは全く考えていませんでした……!」 頭を抱え、があんとショックを受けながら悔しがる藤枝だ。 それでも結果的には良い評価だったとのこと。 ▼エントリーナンバー5:李飛龍 「最後は、李飛龍さんによるかくし芸です。まずは自己紹介からお願いしますね」 目立つ色のジャージに身を包んだ男が舞台袖からやってくる。大勢の観客を前にしても、まったく物怖じしている様子がない。大勢の目が向くことには慣れている、といった風格。 「俺の名前はリ・フェイロン。壱番世界出身、俳優を兼ねた格闘家だ」 それもそのはず、彼は壱番世界では俳優として映画に出演しているからだ。大勢のスタッフと機材に囲まれながら役を演じることなど日常茶飯事。 「かくし芸大会と聞けば参加せずには、いられないからな。フッ、色々と披露させてもらうぞ」 鼻の下を親指の腹で拭いつつ、余裕をにじませたニヒルな笑みを浮かべる。 BGMが流れ始めると、舞台袖から屈強な男達が何人も飛び出てきて、舞台上の飛龍を取り囲む。彼らは馬鹿にするような視線を飛ばし、飛龍の上から下までを舐めるように品定めしている。 「何やら、悪そうなひと達がやってきました。敵に囲まれ、飛龍さんはピンチです……!」 緊張に声を震わせながら、司会のメルチェがそう語る。 一触即発の雰囲気をかもし出すBGMの調子が、ふと転じて激しいものになると、彼らが一斉に飛龍へと飛び掛ってくる。 「ホアタァ!」 飛龍は奇声にも似た甲高い雄たけびを上げると、稲妻のように鋭い拳や蹴りを繰り出していく。敵役の男達をひとり、またひとりと撃退する。 やがて敵役が緩く反り返った幅広の剣――青竜刀や打突用の棒など、物騒な得物を持ち出してきて。 「こ、今度は武器を持ってきました! 対する飛龍さんは素手のようですが――」 「案ずるな。俺にはこいつがある!」 飛龍のリストバンドが光を放ちながら四散した。間髪入れずに再び集結した光の粒は、リストバンドではない全く違うかたちを取る。 「飛龍さんは、ここでトラベルギアを取り出します! たくさんの武器に変形して多様な使い方ができる、万能の武器なんですよね」 「そのとおり。敵が如何なる武器を持っていようとも、こいつに掛かれば一網打尽だ! アチャア!」 ヌンチャク、トンファー、三節棍、九節鞭、棒、ブーメラン……彼のトラベルギアは変幻自在だ。敵の攻撃を弾いて流す。敵を引っ掛け、打ち据えて。突いては抉り、払って砕く。様々な武器へと一瞬で変形を遂げる それを、飛龍は巧みに扱いこなす。群がってくる敵役を爽快なアクションで薙ぎ倒していく。 そんなとき舞台中央の床が開いて、噴出すスモークと共に登場する者がいる。 「クハハハ。矮小なる戦士よ、この可憐なる女子(おなご)は余が頂いていくぞ」 悪のボス役として、なぜか審査員のメンタピが登場した。いつの間にかメルチェの小さな体躯を脇に抱えている。 「この変態め、メルチェさんは私のものよ! ハァハァ」 芸を終えて審査員側にまわっていた魔女が、目を血走らせながら叫んだ。トラベルギアの豪奢な細剣を取り出して舞台に乱入しようとしたので、トドの北斗が圧し掛かって何とか止める。 「悪党め、その子は返してもらうぜ!」 メンタピを取り巻く敵役の群れをあっという間に駆逐すると、飛龍はついにメンタピへと肉薄する。 無論、メンタピが彼のような肉体派のアクションができるはずもなく、さんざん大物っぽい雰囲気だけを醸すだけ醸しておいて、一発ですぐに退場した。 † 「それでは審査員の皆さんにコメントを頂いてみましょう。……何だか大笑いをしていますがヒルガブさん、大丈夫ですか?」 「くくっ……あ、はい……いえ、ね。ふふ、中々に面白い芸を……ふっ、ふふふ……堪能させて、もらいました、よ……くくっ、んふふふ」 巧みな芸の中に、何かツボに入る要素があったようだ。しかも笑いのツボである。 ヒルガブは引きつったような笑いが抑えきれず、口許を覆い顔を逸らしながら必死にそうコメントした。 「そ、そうですか、ありがとうございます。続いてガン・ミーさんは如何でしたか?」 「うむ、我はたいへん満足なのだー! とても良い芸であったのだ、本当ならもっともっと見てみたいのだー」 ガン・ミーからは高評価だったようだ。 いつの間にか戻ってきていたメンタピからも、同様に賞賛の言葉が贈られる。 「余は久しく笑みなど浮かべてはおらんかったが……ククク、酔狂なことをしてくれたものよ」 なお、その鼻には鼻血を塞ぐためのティッシュが突っ込まれているので、威厳のある雰囲気もわりと台無しだ。 「ガン・ミーさんありがとうございました。メンタピさんは、えっと、お大事にしてくださいね。以上、飛龍さんのかくし芸でした!」 ▼会場チェンバー、閉会時 「それでは集計が完了したようなので、結果発表に移りたいと思います。カウベルちゃん、お願いしますね」 「はーい、それでは発表しまぁす」 審査員代表のカウベルが舞台上に立つ。発表を急くように、小太鼓が軽い炸裂音を連打させた。 スポットライトを浴び、観客と参加者の視線を一斉に向けられる中、カウベルは丁重に封がされた厚紙を開き、中を確認する。 そしてぴょんとその場で軽く跳ね、手でハートのかたちを作ってから、弾ける笑顔を皆へ向けて。 「今回の優勝者はぁ――エントリーナンバー4番、藤枝竜ちゃんでーすぅっ☆」 「へ、わ、私?」 すべてのスポットライトが藤枝に殺到すると同時、彼女の上にこっそり用意されていたくす玉が小さく爆ぜて、紙吹雪を散らした。祝福のBGMが流れると同時に、観客も審査員も他の参加者も席を立ち、大きな大きな拍手で藤枝を祝福した。 藤枝はきょとんとしたまま、信じられないといった様子で目をぱちくりさせるばかり。 そこへ、スポットライトに誘導されながら館長のアリッサがやってきて、セクタンを模った黄金の像を手渡してくれる。 「おめでとう、藤枝竜さん。ポップコーン、おいしかったよ!」 「あわわわ、ありがとうございますありがとうございます……!」 藤枝は恐縮そうに何度もぺこぺことお辞儀をしながら、優勝の証であるセクタン像を丁重に受け取った。 はやし立てる観客の声援に負けじと声を張り上げながら、メルチェが司会の言葉を挟む。 「では最後に、館長のアリッサちゃんからお言葉を賜りたいと思います」 「うん、色々なものが見れて愉しかったです! またやろうねっ。あ、この後はこのまま館長権限で二次会にしちゃいますので各自、好きにくつろいじゃってください! 以上でーす」 館長のお言葉は最後もやっぱり緩めだった。 その後にはシメとして、エミリエによる「ニンジンを語るブラン・カスターシェンの物真似108つ」が披露されて観客の笑いを誘った後(ブランは「いやいや、俺はもっと品があるぞ」と不満げだった様子)、かくし芸大会は終了し、そのまま飲めや騒げやの宴へと流れていった。 † 「大人になるとは、難しいものですね……」 桜の木の下。敷いたシートの上にちょこんと座っているメルチェが、溜息を洩らす。 そもそもかくし芸大会のきっかけは、メルチェが「芸を通じて、皆が持つ大人を確かめる」というものだった。でも各々が披露した能力と技術に打ちのめされてしまったのか、しょんぼりしている。 「大丈夫ですよ」 藤枝がメルチェの頭を撫でる。 「気にすることはありません。私の能力だって、実生活で有利になるわけじゃありませんし、つい気が緩んで火事にしちゃうこともあります。でも使い方や使う場所・使う相手によっては、自分の力って面白く見せることもできますし、便利で役立つものに変わっていくんです」 「そうだな。良い使い方ができるかどうかは、心意気ひとつで何にだって変わるしどうにでも変えられるぜ」 スカイ・ランナーが酒を傾けながら、そう付け加えた。 トドの北斗も、メルチェにテレパシーを送ってくる。 「練習あるのみだよ。体が憶えてくれるまで、くじけず頑張ることが大切なんだよ……ですか?」 「北斗の言う通りだ。俺のカンフーに限らず、それはどのようなことにも言えるな」 飛龍も酒を口にしつつ、神妙な面持ちで語った。 「夢や目標が、自分から遠ざかってしまうんじゃない。いつだって、夢から逃げてしまうのは自分自身だ。掴み取るまで、手を伸ばし続ける……その精神力こそがモノを言うんだ」 飛龍の言葉に、魔女も強く頷いて。 「そうよ、つまりは気合。私だって、私自身と誰かを幸せにしたいから、幸せの魔女でいるのですもの」 「おまえの幸せには邪気を感じるがな……」 「でも、メルチェさん。魔女さんの言うとおりだと思います」 スカイ・ランナーのつっこみを挟みつつ、藤枝が諭すように言葉を付け加えた。 「何ができるかよりも、皆のために何をするかっていうのも、大切だと思うんですよね。なのであまり深く重く考えず、とにかく色々やってみたらいいと思うんです。そしたら、これから大人になっていくうえで、そのうち得意なことが見つかりますよっ」 「これから大人にじゃなくて、メルチェはもう大人ですっ」 ぷんぷんしながら違うところに反論するメルチェを、藤枝はどうどうと落ち着かせて。 そこへ、スカイ・ランナーが不敵な笑みを向けながら、背中を押すような一言を投げかける。 「なら、もっと立派な大人を目指す過程で、掴み取っていけばいい。少しずつ、な。おまえは大人なんだろ?」 時間はたっぷりあるんです、慌てずに行きましょう――と、北斗も応援した。飛龍も小さく笑いながら激励を送る。 「そうだな。別に今日明日で仕上げろってわけじゃないんだ。焦る必要はない」 「そうですね……はいっ、メルチェは頑張ります! 勢い良く立ち上がり、ぐっと拳を握る意気込むメルチェだった。 「ああああ、はりきるメルチェさん可愛いわあああ幸せになちゃうううう」 「うにゃあああ! ままま魔女さんどこ触ってるんですかー!」 立ち上がったメルチェの太ももに頬擦りをしながら、魔女が興奮のあまりスカートの中へ顔を突っ込んできたので、鉄板が仕込まれたメルチェのブーツで蹴り上げられてしまう。でも涙と鼻血を散らせながらきりもみ回転する魔女の表情は、いつもより幸せそうだった。 <おしまい>
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