「貝塚然り。夢の島は未来の考古学者にとって、文字通り夢の島なんじゃ」 珍しく…はないが、随分とりとめのない言葉で世界司書アドルフ・ヴェルナーは切り出した。 何が夢の島なのか全く要領を得ない。ただ、よくよく耳を傾けていれば、それが壱番世界の日本、更には東京にあるゴミ処理埋め立て地の名称であると窺い知れる。現在、埋め立ては終了しているらしい。 しかしそれが今回の依頼と、どんな関係があるというのか。 彼のどこか回りくどい説明を要約すると、こういう事だった。 ファージ型のディラックの落し子が壱番世界のそれも日本の都下に現れた。 その寄生対象を彼は“G”と呼ぶ。 チャバネに光沢ある楕円形のフォルム、長い2本の触角。台所などを好み、人に見つかると突然飛んだりして驚かすそれ。3億年前に出現し、壱番世界では生きている化石とまで称される。 何故ファージがそれに目をつけたのか。人類が滅亡しても尚生き残ると言われるほどの生命力に惹かれたのか。但し、殺しても死なないと思われるそれも、一固体の寿命は150~300日程度である。 とにもかくにも、壱番世界では一般的にゴキブリと称されている――が、彼が敢えてGと呼ぶのでGで通す――そのGにファージが寄生し他のGたちを集め、奴らは奴らにとって住みよい世界を築こうとしているのだ。 侵食具合はまだ狭く1件の空き家のみ。被害もその空き家内で留まっているらしい。 異形化はどちらかといえば巨大化に近く、更に高速移動するようになるとのこと。勿論、飛ぶ。そして触覚をウィップのように使い、更には6本ある尖った足で突く一撃離脱戦法を得意とするようである。「ファージが寄生したGを見つけて倒すもよし。ついでに集められたGを一緒に殲滅するもよし」 彼が言った。普通はファージだけを狙うところだろう、しかし彼はまるで全部やっちゃっても問題ないと言わんばかりだった。壱番世界全体ではともかく、それが発生している日本ではGは害虫扱いされているためである。 そうして彼はゴソゴソと何やら取り出した。いつもの発明品らしい。「ファージホイホイとガンバルサンじゃ」 ファージホイホイは組み立て式の設置型アイテム。強力なトリモチにより相手の動きを封じ込めるものだ。勿論、異形化後の対ファージ用のため、組み立てるとそれなりの大きさになる。 ガンバルサンはクラッカーのような円錐から出た紐を引くと煙が溢れるといったもので、スモークポッドのような効果が得られるらしい。 彼はその使い方を自慢げに説明した。「…………」 しかし、冒頭の夢の島の話は一体なんだったのだろうか。 * かくて。 東京武蔵野の鄙びた一角にファージが寄生したGがいると思しき空き家があった。 2階建ての洋館に広い庭。 そして、目を疑うような大量のゴミ。 どうやら操られたGが運びこんだものらしい。ともすればこの先、侵食が進めばゴミ屋敷は、おびただしい数のGと共に拡大するという事だろうか。急いで止めなければ。「このまま洋館焼き払った方が早くね?」 と思わず呟きたくなるようなゴミ山だが、勿論、東京都下で放火なんてしようものならマスコミの餌食、大騒ぎは必至。 故にひっそりと、このゴミ屋敷の中からくだんのGを見つけ出し、倒さねばならないのだった。
「おおおおっ、ここがトウキョーかあ!」 ツヴァイが感嘆の声をあげると、何故だかアルジャーノがそうデスと請け合った。コンダクターではないが壱番世界“かぶれ”なアルジャーノである。 「俺、始めて来たぜ!!」 行き交う車の群や連なるビル群と、どれもツヴァイの好奇心を煽るものだ。 「あれ、なんだ?」 興奮気味に目を輝かせるツヴァイにアルジャーノが物知り顔で案内を始めた。 「あれは観覧車って言うんデスヨ。観覧車といのは……」 ってな具合だ。 だが2人とは裏腹に彼らの後ろでは壱番世界出身組が沈鬱そうに下を向いて歩いていた。肩に乗るフォックスフォームのセクタン=ホリさんが心配そうに主の顔を覗き込んでいる。 「G……って、アレだよな。真夏の天敵」 視線を明後日の辺りに泳がせながら鰍が鬱々と呟いた。誰も頼んでないのに貧乏一人暮らしをしていた頃の苦い思い出が彼の脳裏でリプレイされる。1匹いたら30匹。居候のくせに大所帯。挙げ句大飯ぐらいで希少な食料をゴミに変えていくGとのあの壮絶な戦いの日々。 「そ…そうですね」 隣で東江千星が暗い声で相槌を打った。表情はわかりにくいが鉛のように重そうな足を引きずる姿が陰鬱さを醸しだしている。同じくフォックスフォームのセクタン=キュウがきょとんとしながら千星を見上げていた。 お互い、言葉には出さなかったが若干この依頼を受けてしまった事を後悔していた。だが仕方がないのだ。千星の家はこの近所なのである。 とはいえコンダクター以外は初めての世界という事もあってか期待に胸を膨らませているようだ。 「Gっていったら、あれだよね! わたしの世界だと曲がりくねった一般道をドリフトで駆け抜けて行ったよ」 千場遊美がウキウキと言った。Gは嬉しくないがテンションは弥が上にもあがるらしい。 「そうなんだ?」 葵大河はへぇ、とばかりにその光景を想像してみた。壱番世界出身ではないものの酷似した世界から来た大河である。彼の世界にもGなるものは存在していた。しかしそれがS字をドリフト走行するというのは今一つピンとこない。 「うん! ワシャシャシャシャーーーーーって!!」 遊美が手振りをつけて説明してみせた。 「そりゃ、面白そうだな」 おざなりではあったが遊美が一生懸命話すので大河は曖昧な笑みを返す。 「あれ? こっちの世界のGはそういうことしないの?」 「さぁ?」 大河は首を傾げてみせた。酷似してるとはいえ、やはり違う世界なのだ。 遊美が意見を求めるようにコンダクターの二人を振り返った。鰍が肩を竦めて答える。 「……したら、嫌だな」 どうやらこの世界のGはS字をドリフト走行したりはしないらしい。 * そんなこんなで一行はくだんの空家へやってきた。 東京のど真ん中にこんな空き家があったなんて、という洋館だ。何でも紆余曲折あって今は競売中の物件で、この惨状に買い手がつかないものらしい。 行き交う人々、活気ある街並み、車、電車、飛行機、何より楽しそうなアミューズメントパーク……たちと比べてツヴァイのテンションを下げるには十分なゴミ屋敷だった。 「もうファージなんてどうでもいいや、適当に焼き払って観光しようぜ!!」 「ダメですよ」と、千星。 先ほどまでは怖気も手伝って足が重かったが、今は一生分の勇気を振り絞ってそこに立っていた。傍らのキュウを見やる。焼き払いたい気持ちは同じだが、壱番世界で放火なんてしたらどういう事になるか、彼女はよく知っているのだ。 すると。 「そうだ、もったいない!」 「そうデス! もったいないデス!!」 二人の声が重なって飛んできた。大河とアルジャーノである。 二人の剣幕にツヴァイは気圧されたように後退った。 「……じ、冗談だよ、冗談。ちゃんと仕事するって」 たじたじになってツヴァイが言うと、アルジャーノはにこやかな笑顔でゴミ屋敷を振り返った。 「皆さんにはゴミでも、私にとってはご馳走デス」 彼は液体金属生命体。彼の主食は無機物全般。産業廃棄物から有害物質まで、なんでも美味しくいただけます、なのだ。 「はぁ?」 しかし他の面々はそうではない。 「食べるのか?」 鰍が恐る恐るといった態で尋ねた。 「はい。あ、生ゴミは甘味があるとお腹を壊しちゃいマス。なので、それ以外だけデスヨ」 絶句する一同に、しかしどこか論点のずれた口調で大河が声を荒げた。 「なにぃ!? じゃあ、お前はこれも食べると言うのか!?」 そこら辺にあったゴミを拾ってみせる。 「はい。ですから、そういうものは洋館に運んでください」 「食べちまうんなら、わざわざ運ばなくてもいいだろ?」 ツヴァイが言った。ファージホイホイ設置スペースを確保するためゴミは適当に庭に出すつもりだったのだ。すると。 「お庭で食べていたら近隣の皆様を驚かせてしまうじゃないデスカ」 アルジャーノが言った。なるほど。彼の壱番世界かぶれは伊達ではなかったらしい。経験者は語る。これほどの説得力もない。 「俺は反対だ! あのジジィの言うことを聞いてなかったのか!? これは宝の山なんだぞ! このゴミから、これをどんな風に使い、どんな生活を送っていたのか推測する。ここは考古学者にとって正に宝の山なんだ!!」 大河は力説した。本気で手の中のゴミを宝だと思っているようだった。このゴミ屋敷は彼にとっては夢とロマンの詰まった宝箱だったらしい。 鰍は溜息を一つ。やれやれ。 「それはドアノブだ。ドアを開け閉めするのに使う。現在進行形の時代じゃ、ゴミはゴミ以外の何物でもぬぁーい! 文化を知りたいならリアルに体験するか、俺に聞け」 全くもってその通りであろう、大河は何か反論しようと口を開いたが、結局何も言い返せないまま口を噤んだ。しょんぼりと頷く。 その光景を見ながら千星は何となくみんなと初めて顔合わせした時の遊美の言葉を思い出していた。 『なんか、すっごいイケメンパラダイスだね!! 東江ちゃんもそう思わない?』 初対面でも屈託なく話しかけてくる遊美にその時は面食らって気の利いた返事も出来なかったが。 イケメンパラダイス……。 千星は何をか振り払うように首を振って洋館を見上げたのだった。 * いざ、洋館へ。 さすがにゴキブリが運んだとあってゴミは残飯の類が多いらしい。庭の粗大ゴミは、ゴミ屋敷に便乗した不法投棄だろう。食べると息撒くアルジャーノだったが、とりあえず庭は後回しと一同は屋敷の中へ入った。広いエントランスはホールになっていて、上がり框などはない。土足でそのまま奥へと進む。 千星はバッグを開いて準備してきた割烹着を着込むと、三角巾を被ってゴム手袋をはめた。 鰍が東京都指定のゴミ袋を広げる。 「掃除はキリがないから、生ゴミ以外はアルジャーノに任せて、先にファージを探すぞ」 それに異を唱える者はない。 とりあえず、各部屋にそれぞれファージホイホイを設置する方向で。残飯は庭に出すか、東京都指定のゴミ袋へ。それ以外はアルジャーノが食べやすいように廊下に出す。 ツヴァイが洋館の壁に手をついて目を閉じた。彼の「メモリスト」の能力が洋館の記憶を辿る。確かに巨大なGはこの洋館にいたらしい。だが、今はどこにもいないようだ。 まさか洋館を出て行った、のでないなら今は擬態中という事である。 一階から順に捜索していくしかなさそうだった。 ついつい漏れる溜息。しかしゴミをどかし始めると嬉々としてゴミと対峙する者が1人。言わすと知れた大河である。 彼はゴミに夢中になった。アルジャーノの食事と競うようにゴミを漁ってはポケットに入れる。ポケットがパンパンになると、ゴミ袋のゴミの部分を油性マジックで消して、上に宝と書き込む念の入れようでゴミを入れ始めた。 「…………」 最早、何を言っても無駄らしい。 見つけたいけど、見つけたくない複雑な心理状態で千星は手近のゴミをどかしながら進んだ。ゴミの下に隠れているかもしれないGを、見つけてしまいたくはないが見つけなければならない。いやいや、Gは別に見つける必要はないはずだ。目的はあくまでファージ討伐。 そんな事をそぞろ考えながら、そうろとコンビニ弁当のパックをどかした時だった。 「…………!!」 声にならない悲鳴をあげて、思わず腰砕けに尻餅をつく。相手はたった一匹なのに。覚悟はしていたが、やはり目の当たりにすると脊椎反射してしまうらしい。とはいえ、みんなの足を引っ張るわけにはいかない。 千星は気を静めるように深呼吸を繰り返した。 出来ればGは見なかったことにしたいが、これが擬態中のファージとも限らない。やるしかないのだ。千星は台所用洗剤を構えた。腰が退ける。だがせめて自分の身は自分で守らなくては、そうして意気込んだ刹那。 Gが横から飛んできたファイティングナイフに両断された。 千星が振り返る。ツヴァイ笑みを向けていた。 「大丈夫か?」 「あ、はい」 千星が強張った頬を緩める。と、ツヴァイは、これがGかと手を伸ばした。 「触ってはだめです!」 千星が慌ててそれを止める。 今腰を抜かしていたとは思えないほどきびきびした動きで、キッチンペーパーでGを覆い隠し、割り箸を使う念の入れようでゴミ袋の中へ丸めて棄てた。そして。 「これを使ってください」 千星はスプレー缶を取り出してツヴァイに差し出した。 「何、これ?」 「消毒スプレーです。ナイフに」 「…………」 それは、その場にいたツーリストの中にG=出来ればお触りしたくない相手、という心理が刻み込まれた瞬間だった―――かもしれない。 「……サ、サンキュ…」 アルジャーノ以外。 * Gは台所に住むことが多い。ならばファージもそこにいる可能性が高いのでは、というツヴァイと千星がキッチンをはじめとした水周りへ向かったので、鰍は遊美と、それからお宝発掘という名のゴミ漁りに忙しい大河を連れて2階へあがった。 L型の廊下にドアが5つある。手近なドアを開けるとユニットバスになっていた。廊下のゴミを寄せていく。 「ファージホイホイって設置型だからあんまりイケイケゴーゴーじゃないよね」 遊美が言った。 「確かに、攻める武器じゃないよな」 「あ、そうだ!!」 何かを思いついたように遊美はガンバルサンを取り出すと、鰍が止める暇もなく紐を引いてそれを起動した。もくもくと煙が吐き出される。それを頭にのせてヘアバンドで固定。 「これで、移動しながらも使えてバッチシだね!!」 と、モデルよろしくくるりと一回転。周囲に煙をまき散らす。一番被害を受けたのはもちろん、彼女の正面に立っていた鰍である。 「ゲッホゴホゴホゴホ……」 もちろんガンバルサンを頭にのせている遊美も大量の煙に噎せかえった。 「ゴホゴホゴホ……ダメじゃーん」 煙から逃げるように廊下を進む。 「ファージと遭遇してから起動させろよ」 「ごめーん」 遊美が失敗とばかりに舌を出してガンバルサンを頭からはずす。 鰍がようやく煙の晴れた周囲を見回した。気づけば大河の姿がない。いつから消えたのか。あの煙の中で見失ったのだろうか。 「あのゴミハンターはどこ言った?」 その頃。 くだんのゴミハンターは彼言うところの宝の山に目がくらんで、鰍らとははぐれた2階の書斎でくしゃみをしていた。 「へっくしゅん!! くそ、誰だ噂してんのは!?」 と、宝の山から顔をあげる。 「あれ? みんなどこ行った?」 辺りに誰もいないことに気づいて大河は首を傾げてみた。 「ったく、しょうがねーなー」 などと保護者ぶってやれやれと立ち上がり頭を掻く。しかしそこにステキなお宝を発見して彼はあっさり『みんな』とか『ファージ』という言葉を忘却の泉に落っことした。 何か閃いたような顔つきに子供のように目を輝かせる。 ゴミに埋もれていた机を発掘し、その上に宝を並べると、かくて彼は優雅にオフィスチェアに腰掛け、楽しそうになにやら作り始めたのだった。 閑話休題。 「どっかいっちゃったねぇ。あ、そっか! これって煙幕だったんじゃない? 忍者がモクモクドロンヒュン! って」 遊美がばんざいしてヒュンと消えるような手振りをしてみせた。 「ガンバルサンは武器じゃなかったのか。それともこの煙にファージを倒す成分が含まれてたのか?」 昆虫には毒でも人には優しい物質もある。ハーブの香りなんかに含まれてる成分だ。それらしい匂いなどは感じられなかったが。 鰍がうーんと唸っている傍らで、遊美が先ほど鰍に言われた事も忘れて、Gもファージも出現していないのにガンバルサンの紐を引っ張った。しかし煙はもう出る気配はない。 「あれぇー、もう動かなくなっちゃった」 「使い捨てだったのか……」 まさかガンバルサンが使い捨ての煙幕だったと気づいていない者が丁度彼らの真下にいた。 ツヴァイと千星である。 2階のユニットバスの下に、1階のユニットバスがあったのだ。風呂場のドアを開けた瞬間、飛んできた2匹のGにツヴァイがくだんのガンバルサンを放ったところだった。 これで、触らずしてチャバネGもクロGも撃退出来るというものだ。しかしツヴァイはヴェルナーの発明品に過度の期待はしていなかった。人は学習する生き物なのである。だから鰍が心配するほどの事態には陥らなかった。溢れる煙にGを見失い、Gがその後どうなったかはわからないが、取りあえず自らも速やかに非難していたのである。おかげで煙にまかれて酷い目に合うという事もなかったのだ。 台所についたツヴァイはかくて提案した。 「こうなったら『鞭と飴』作戦だ!!」 ツヴァイは持ち物から大量の角砂糖を取り出した。 「これをバラ撒いてヤツらをおびき出す。大挙して現れたヤツらを俺がビシッとやっつけるって寸法だ!」 何と完璧な作戦!! ツヴァイは悦に入った。惚れてもいいぜ!! なんて自己陶酔までしている。 それはさておき。 「そうですね。大挙しては欲しくないですけど。あ、では私は台所用洗剤を一緒にまぶします」 千星が言った。 * 鰍と遊美がそれぞれの部屋からせっせと生ゴミ以外のゴミを廊下へ出していると、1階のゴミは粗方食べ尽くしたのか、アルジャーノが2階にやってきた。 声をかけようとした鰍が一瞬たじろぐ。 「アルジャー……ノ、ズ?」 とりあえず複数形で呼んでみたら、アルジャーノたちが一斉に振り返った。 食べていくうちに消化しきれない分の容積が増え、アルジャーノは3体に分裂していたのだ。 「「「はい」」」 「わお!」 遊美が驚嘆の声をあげた。壱番世界にとってありえない事が日常茶飯時だった遊美は滅多なことでは驚かない。しかし、さすがにこれはびっくりしたのか。 「アルジャーノがゾロゾロだねぇ~」 興味顔でアルジャーノをのぞき込む。 「これ……よろしく」 鰍がアルジャーノたちの前にそっとゴミを置いた。アルジャーノたちはにこやかに「はい」と応えて、がじがじとゴミにかじりつく。 「美味しいのかな?」 あまりに笑顔で食べているアルジャーノに遊美はゴミをつまんで目の前に翳してみた。とはいえGが運んだものである。 程なくしてアルジャーノの体が4体になった。 「シュールだな……」 鰍が言った。 その後もゴミ出し、ファージホイホイの組み立て設置が着々と進められた。 今のところGとは何匹も何十匹も遭遇するがファージらしきGとは出会わない。一体、どこに隠れているのか。 しかし思えば1匹見たら30匹のG。1匹見つけて撃退しても、その後、残りの29匹を見た事がない事を思い出す。毒ガス系武器を焚いて部屋中のGを根絶やしにした後だって、見つける死骸は2桁に届かない。だが確実にいるはずなのだ。どこかに。 一筋縄ではいかないという事なのだろう、鰍がそんな事を考えている時だった。 その悲鳴が聞こえたのは。 遊美の声だ。声は吹き抜けのダイニングルームから聞こえてくる。 とうとうファージと遭遇したのか。 鰍はダイニングルームに向かおうとドアを開けた。 「あれ?」 そこには、あるはずの廊下の代わりにトイレがあった。 同じ頃。角砂糖に群がるアリの群に、何かを間違えたらしいと薄々気づき始めたツヴァイが遊美の声に千星と顔を見合わせていた。 「行こう!」 ツヴァイの言葉に千星が頷く。2人はダイニングルームへ向かおうとした。キッチンで撒き餌作戦に出ていた2人である。キッチンとダイニングルームは壁一つ、ドア一つ挟んだ隣合わせ。一番に駆けつけられるはずだった。 だが。 「ん?」 「ここは?」 二人はドアを開けたまま固まった。 「おう。なんだお前ら、2階にあがってきたのか」 書斎の机に腰掛け、一心不乱に何やら工作に励んでいた大河がのんびりと言った。 「どういう事?」 どうもこうもない。 その少し前、遊美は攻めくるGの大群と遭遇していた。取りあえず使いものにならなくなったガンバルサンを投げつけ、それでも怯まぬGの群に、とにかくその辺のゴミを手あたり次第投げつけたのだ。 そしたら、なんだかヌメッとしたものに触っちゃうし、飛ばれるし、触りたくないしで、半ばやけくそになって発動したのである。 「もういいや、どうにでもなれー!」 彼女の特殊能力――百花狂乱。何が起こるかは神のみぞ知る。 ところが。 シーン……。 辺りは静まり返ったままだった。何かが起こった様子もない。まさかうまく発動しなかったのか。 とにもかくにも遊美はGの大群から逃げるように窓の外へ出ようとした。 だが窓を開けるとそこには何故だかダイニングルームがあった。窓ガラスの向こうには確かに日が沈みかけた空とゴミに埋もれた庭が見えているというのに。 「わお!」 彼女は楽しそうな声をあげて、躊躇うことなく中へと飛び込んだ。 どうやら逃げ出したい気持ちが成せる業か、百花狂乱であらゆる窓やドアが別の空間と繋がってしまったらしい。 しかし、逃げた先が悪かったのか。 2階まで吹き抜けの高い天井に畳40畳くらいありそうな広いダイニングルーム。そこに、更なるGの群が現れたのだ。 「やーん!!」 万一に備えてガントレットを装着してみたが殴りたくはない。 「助けてー!!」 とりあえずゴミを投げて応戦しながら仲間を呼ぶ。 しかし、彼女の力であらゆるドアや窓が別の部屋と繋がってしまったため、誰も即座に駆けつけられなかった。 壱番世界にとっての滅茶苦茶が当たり前だった遊美にとっては、それは普通に起こり得る事なので、元に戻すという考えにも思い至らなかったのである。 よくはわからないが、とにかくドアとドアが別の場所に繋がっていると気づいたツヴァイは冷静にトラベラーズノートを開いた。 千星が書斎のドアや窓を開けていく。 「こっちは廊下に繋がってるみたい」 という千星にツヴァイは部屋の見取り図を書き込んで出口と繋がりを書き込んだ。 トラベラーズノートに書き込まれたそれは、他のロストナンバーたちにエアメールとなって届けられる。 2階のベッドルームにいた鰍がそれに気づいて自分の部屋のドアの繋がりを書き込んだ。 廊下にいたアルジャーノも同様に廊下のドアを片端から開けてノートに書き込んでいく。 「手分けしよう」 ツヴァイの言に千星が頷いて大河が立ち上がった。 「あ、じゃあ、これ」 そうして大河が、先ほどから工作していたらしい完成品の一つをツヴァイと千星に投げて渡す。 「持ってけ」 「なんだ?」 「水鉄砲……ですか?」 それはペットボトルなどを組み合わせて作られていた。中にはオレンジ色の液体が入っている。 「ああ、界面活性剤の乳化作用でGを窒息死させられる」 「要するに台所用洗剤が入ってるわけか」 「さっき、使ってただろ? それで」 大河が千星の持ち込んだ台所用洗剤を指差した。 「ゴミ山の中に水鉄砲があったから。あ、ここのノズル部分を切り替えると霧状に噴射出来るんだぜ」 ゴミで作った水鉄砲を自慢げに説明する。 「これなら、遠いところのGも触らずやれる」 「ガンバルサンよりは使えそうだな」 ツヴァイが言って、3人はそれぞれ別の窓とドアから書斎を出た。 遊美は残念ながらトラベラーズノートのエアメールに気づかなかった。それどころではない。飛び交うGに触らないように逃げ回るのが精一杯だったのだ。 「いや~ん!!」 1匹くらいなら何とかなるが、2匹くらいでも耐えうるが、さすがに10匹を越えたらいろいろイヤンで、数え切れない数になった時点で応戦は諦めた。 飛び立ち遊美を急襲するGに遊美は思わずうずくまる。 と、その突進してきたGが何かによってたたき落とされた。 それが液体だと気づいてそちらを振り返る。 大河がにやりと笑って不格好な水鉄砲を構え立っていた。 「遅くなった」 程なくツヴァイや千星も駆けつけGを迎撃していく。 やってきた鰍とアルジャーノに大河は残りの水鉄砲を投げた。 攻勢に転じたロストナンバーズに、Gの攻撃は緩んだ。だがデタラメだったヤツらの攻撃が連携し始め態勢を立て直そうとでもいうように後退しながら陣のようなものを敷き始めたのである。 Gを統率する存在が近くにある。つまり、このGのどこかにファージがいる。 一同は確信した。 Gが敷いたのは鶴翼の陣。 ならば、中央にいるのが総大将のファージだろうか。 「魚鱗の陣で対抗しよう」 大河が提案した。史実を参考にしたのだ。しかし他の者たちは残念ながらその史実とやらにあまり詳しくなかった。 「俺は社会は嫌いだったんだ」 鰍がムスっと言った。 「要するに、全員固まって端から撃破していくって事だ」 中央突破を試みれば囲まれる心配がある。だから端から崩していくのだ。勿論、相手は所詮G。囲まれたところで身体的危険は感じられない。しかしながら、されどG。精神的ダメージは計り知れないのである。 「おう」 かくて鰍はGの群に向き直った。 乱戦中は気づかなかったが、対峙してみると床を覆い尽くすほどのGがそこに蠢いていた。こいつらの大将は、更に巨大化したG。ファージホイホイのサイズからいっても畳1畳分くらいはあるに違いない。想像してみる。 あまりのそれに鰍は意識が遠のくのを感じた。どこか遠くへ。 固まってる鰍を不振に思った大河が声をかけた。 「おーい、ピンクいおっさーん」 大河の声に鰍はハッとしたように我に返る。 「よろしい。ならば戦争だ」 Gを見据えるその目は、完全にいっちゃっていた。 戦いの始まりを告げるほら貝の幻聴。気分は戦国。本気モードスイッチON。 千星と鰍の足元にはホリさんとキュウがそれぞれ、飛んでくるGを迎撃するように構えた。 先頭を鰍、両脇を大河とツヴァイが固める布陣だ。女の子は内側へ。 それぞれ水鉄砲を構える。 そこでふと、1人足りないことに気が付いた。アルジャーノである。 そう。彼は静かに誰にも気取られることなく本体・分裂体全てを液体状に戻し、ダイニングルームの床一面に、厚さ5ミリ程度の硬質な絨毯と化していたのである。 刹那、伸ばした面からまるでハリネズミのような大量のそれが突き出した。そこにいたGの群を針の野に串刺しにするかのように。 「すっげぇ……」 思わず漏れる感嘆。 瞬く間にGの群を半分以上粉砕してアルジャーノは分裂体をそのままに本体は元の人型に戻った。 「Gは任せて下さいデス」 「あ、ああ……」 それを半ば呆然と見守っていたツヴァイが、反射的にアルジャーノに向かって消毒スプレーを吹きかける。 「……なんデスカ?」 不思議そうにアルジャーノがツヴァイを見返した。 消毒液は意外とフローラルな香りがする。しかし間違っても人の顔に向かって吹きかけるものではない。 「いや……なんとなく…」 ツヴァイは言った。 アルジャーノはたった今、全身でGに触れてきたわけである。ならばツヴァイの条件反射は致し方なかったに違いない。たぶん。 「…………」 再びGが攻勢に出た。アルジャーノに半分を蹴散らされてもなお、まだ半数が残っていた上に遊美の百花狂乱の影響でGたちも、すぐにここには集まれず遅れてやってきたGも多々あったからだ。 飛んできたGを反射的に大河が手ではたいた。水鉄砲を構える暇がなかったのだ。 それを見ていたアルジャーノが消毒スプレーを大河に吹きかけた。 「うぉっ!? 何すんだ、おまえ!! ありえねぇ!」 大河が驚いてアルジャーノから後退ると、自分の顔にかかった消毒液を辟易と拭った。 「…………」 それを見ていた遊美が何かに気付いたようにアルジャーノに消毒スプレーを吹きかけた。 「うワッ! 君、何するんデスカ!! ありえマセン!」 大河がしたように驚いて、慌てて、消毒液を辟易と拭う。アルジャーノの擬態は膨大な知識の上に成立していた。彼に痛覚はない。しかし、ぶつけたら痛いに決まっているのだ。 「…………」 ―――面白いヤツ……。 なんてコントをやってる間に、そんなコントを付き合ってやる義理もないファージがいつの間にか擬態化を解き、異形化を遂げていた。 いっそ、擬態時の面影を全く失って異形化すればいいのに。 と、ぼんやり思う。それは全長2mはあろうかというファージというか巨大化Gだった。 足が竦みそうだ。恐怖とはどこか違う理由で。 ここへきて、だだ下がるテンション。それを奮い立たせて一同はそこに立つ。 こざかしいまでのGをアルジャーノが迎撃していった。Gの大群をアルジャーノに任せて一同はファージと対峙する。 千星はとりあえず、ファージの触覚攻撃にそなえ障害物を探して移動した。障害物があれば触覚を自在に振り回すことも出来まい。そして水鉄砲を構える。 キュウが威嚇でもするように歯を剥いて巨大Gを睨みつけていた。 飛翔というほど優雅でもない巨大化Gに鰍が水鉄砲を放つ。それを避けようと滑空する巨大化G。その軌道を読んでツヴァイが引き金を引いたが、巨大化Gは更に加速。かわされる。ガンスミスたる大河もさすがに実弾とは発射速度の違う水鉄砲では勝手が違い今一つタイミングがつかめないでいた。 「ちっ」 当たらなければ役に立たない。しかもあの巨体だ。ちょっとかかったぐらいではダメだろう。洗剤の残量も心もとなくなってきた。 そして素早いファージにあちこちが洗剤まみれになっていく。そのおかげで他のGはこちらに近寄らなくなったのが幸いといえば、幸いか。部屋を完全に二分した攻防。 ファージの滑空による攻撃。 横っ飛びで避けながら転がるように大河が引き金を引き続ける。 しかしヤツの羽を掠めるのが精一杯だった。 一撃離脱に息吐く暇もなく次の攻撃。 狙われたのは遊美。慌てて逃げるが、間に合いそうにない。しかし紙一重で彼女はヤツの攻撃をかわしていた。 「床が泡々でツルツルだよぉ~」 尻餅をついたお尻が痛い。走りだそうとした瞬間、洗剤まみれの床に滑って転んだのだ。助かったけれど、洗剤でヌルヌルはあまり喜べない。 「こうなったら、ファージホイホイに誘い込もう」 鰍がダイニングルームに設置されたファージホイホイに走った。それにツヴァイがガンバルサンを構える。ガンバルサンは一人一個づつ支給されていた。使い捨てのそれを彼はすでに一つ使ってしまっていたから、これはアルジャーノの分だ。アルジャーノが液体化したときに落ちていたのを拾っていたのである。 「あ、おい。待てよ。ファージホイホイに寄りつかなくなったらどうするんだ」 鰍が慌てて止めに入った。 「これがただの煙幕ならむしろファージホイホイを隠せていいんじゃないか?」 明らかに罠とわかるファージホイホイに自ら飛び込むファージもいまい。 「ああ、そうか」 遊美が使った時、それらしい匂いはなかった。ただのスモークスクリーンなら。 「なるほど」 大河も頷いて自分の分のガンバルサンを構えたのに、千星も加わった。 「せぇの!」 一斉に紐を引くと大量の煙が部屋いっぱいに広がった。 「ゲッホゴホゴホ」 「ファージは!?」 「どうなった!?」 煙で辺りは全く見えない。 「わからん」 やがて霧が晴れるように煙が徐々に晴れてくる。 どうやらファージはファージホイホイにかかっていたらしい。 強力トリモチと自信満々に謳っていただけあって、確かにそれはファージにくっつくと、二度とは離れなかった。 だが。 「軽すぎたみたいだねぇ」 遊美が舌を出す。 「設置するときは床に固定しないとダメだったか」 ツヴァイがため息を吐いた。 置いただけのそれをくっつけたまま、ファージは軽々と飛んでいたのである。 よもや使い方を誤ったとは思いたくない。やはり、あのクソジジィの作るものなのだ、と自分に言い聞かせた。 「とりあえず、足で突く攻撃は無効化出来たんじゃないか?」 「そうゆうことにしておこう」 ガンバルサンは全部使ってしまった。ファージホイホイも効果はない、となってはもう、トラベルギアで応戦するしかない。 鰍はチェーンを張り巡らせ巨大Gを結界内に閉じこめた。 Gが結界という名の檻の中でそこから出ようと縦横無尽に飛び回る。しかし、早々には檻を破れないらしい。結界に触れれば焼け爛れるのだ。 「どうする?」 鰍が尋ねた。 「どうするって……」 大河が檻の中のGを振り返る。 「あんま、触りたくないよな」 ツヴァイが言った。 「出来ればお近づきにもなりたくない」 鰍が言う。 「仕方ないだろ」 大河が言った。 「が…頑張ります」 千星がトラベルギアの青いバラを握りしめる。 「うん、頑張ろ~!」 遊美が拳を振りあげた。 と。 「やっぱり、Gといえばスリッパだよな……」 鰍は厳かにのたまってゴミの中からスリッパを拾い上げた。 「そうか。壱番世界でもGはやはりスリッパなのか」 大河が腰に手をあてて隣に並んだ。 毒ガス武器で倒したGは稀に卵を抱いていて、奇跡的にその卵が孵化してしまう事がある。その為潰すというのが最も有効とされていた。 「あんな巨大なスリッパ……どこに?」 ツヴァイが二人の背に向かって尋ねた。 「…………」 一同がそちらを振り返る。そこにはGと応戦中のアルジャーノがいた。 鰍が代表して言った。 「アルジャーノ、これに擬態出来ないか」 スリッパを差し出す。 「出来ますケド……?」 何故、スリッパなのか。他にもいろいろありそうなのに、何故スリッパなのか。大事なことでもないが2度言わずにはいられない。 多大な疑問がそこにはあった。スリッパである必然性は全くもってわからない。 しかし、スリッパだった。 粗方Gを殲滅し終えたアルジャーノが言われた通りスリッパに擬態した。 巨大スリッパを大河とツヴァイと千星と遊美が構える。 鰍が鍵のチャームを握る手に力を込めた。 「いくぞ」 「おう!」 「はい」 「まっかせて!」 「こい」 鰍が結界を解く。 巨大Gが飛ぶ。 巨大スリッパが振りおろされる。 バチーンという音をかき消すような声が響いた。 「イタタタタタ~!!」 しつこいようだが、アルジャーノに痛覚はない。 ゆっくりスリッパをあげる。 そこにはぺしゃんこになった巨大Gの亡骸があった。 * ファージや大量のGの亡骸は、後で見つかって騒ぎにならぬよう、人知れず荼毘に付された。 残ったゴミはせっせと東京都指定のゴミ袋に詰め込み、トラックに擬態したアルジャーノがゴミ捨て場まで運んだ。 洋館の大掃除はかくて夜通し続けられたのだった。 翌朝、仮眠の後。 「よーっし、ファージ退治も終わったし、今度こそ本当に観光しようぜ!」 ツヴァイが意気揚々と言い出した。せっかく壱番世界の街に来たのだ。遊びに行かない手はない。 「俺、夢の島行きたい! 夢の島!!」 「なに!? 夢の島! 俺も行きたい!!」 ツヴァイの提案に大河も大いに賛同する。 「司書のヤツが夢の島を出したのは、きっと俺たちにそこで遊んできて欲しいからだぜ」 ツヴァイはふふんと自信たっぷりに言った。 「そうか、そういう意味があったとは……」 何とも奥が深いと感じ入ったように大河が唸る。そして。 「夢の島には、もっといろんな宝が埋もれてるんだろうなあ……」 うっとり呟く大河に千星が、あの……と遠慮がちに声をかけた。 「た、確か、夢の島はその、今は……」 埋め立ても終わって恐らく大河が期待するようなものは見られない、と言いかける千星の肩を鰍がそっと掴んで止めた。それ以上言うなと首を横に振る。 「行こうぜ」 にやりと笑いながら。夢の島についた時の大河の反応を想像しているのだ。 「うん! 行こう!!」 遊美が元気に拳をあげた。 「はい」 アルジャーノが頷いた。 「俺、観覧車乗りたい!」 「わたしも!!」 「観覧車ならお台場デス」 「よし、そこにも行こう」 そうして彼らは夢の島へと訪れた。 もちろん、そこは千星が言いかけた通り埋め立ても終わり、公園に変わっていた。園内には熱帯植物園などもありどこにもゴミ捨て場の面影はない。 「宝の山はこの下なのか……」 地面に這い蹲って口惜しそうに頬擦りしながら呟く大河を満足そうに見下ろして鰍が笑みをこぼした。 「ほら、ゴミハンター。行くぞ」 「誰がゴミッ……トレジャーハンターだ!」 「ひゃっほー!! 東江ちゃん行こう!」 遊美が千星の手を取って走り出す。 「えっ? あ、は…はい」 急に手を引かれて慌てつつも千星も一緒に駆けだした。 「楽しそうデス」 「それって、知識? 本気?」 「何のことデスカ?」 とにもかくにも、そうして1日東京観光を満喫して、ツヴァイは土産を買いすぎ、荷物は旅行鞄一つ分までだとさんざんロストレイルの車掌に叱られ、結局、他のメンバーの手荷物に混ぜてもらったりするなどのアクシデントもありながら、彼らはようやく帰路についたのだった。
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