『レッデェェェェェーーーーースエーーンジェントゥルメェェェーーーーーン!!!』 レンタルショップと書かれた看板の下で、赤と青の派手なストライプの一張羅に赤の蝶ネクタイを付けた手乗りサイズのウサギのフォログラムが、マイクを片手に呼び込みをしている。『さぁさ、そこの若いお姉さんから古風なお姉さんまで……ああっと、いやいや、老いも若きも男も女も、ずずずいっと寄っていかないか?』 何とも軽いノリで話すウサギ。勿論、ロストナンバーでもロストメモリーでもない。世界司書アドルフ・ヴェルナーが作った発明品の一つ、頭に乗せるだけで“シャイな貴方もこれで安心! 思考を勝手に垂れ流してくれるシャベラビット――時々思考と違うことを喋るのがたまに傷”である。 ちなみに今は誰の頭の上にも乗っていない。それでも彼は壊れたラジオのように喋り続ける。それがシャベラビットたる者の宿命だからだ。Dr.ヴェルナーが取り付けた人工知能、若干暴走中。『零世界マッドサイエンティスト協会、略してZ.M.A.は、資金繰りの関係でレンタルショップを始める事になったぁぁぁ!!』 シャベラビットは力を込めて熱く語る。『おいらも含めた発明品の数々がずらーっと並ぶぅ!! オーダーメイドだって受け付けてるぜぇぇぇ! なんか借りてけ、コンチクショー!!』●ご案内このソロシナリオでは「レンタルショップZMAでの一コマ」が描写されます。その場で発明品を試してみる場合は勿論、持ち帰って使用した場合でも、返却時に感想として店の主人であるDr.ヴェルナーに語るという形式で描写されます。あくまでも店内での一コマとなる事にご注意ください。このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、・レンタルしたい商品(『シャベラビット』など)・その場で試すのか、持ち帰った後返却しに来たのか・それを使った時の反応や行動、感想・商品製作者(Dr.ヴェルナー)への要望・苦情などを書くようにして下さい。「レンタルしたい商品が禁帯出」の場合や「使用場所が不適切」と判断された場合は、持ち帰った後の感想を希望されていても、その場で試したことになる場合もありますので、あらかじめご了承下さい。場合によっては、商品が意図していた以上の動きをしたり、ほぼ別のものであったり、双方の行き違いで思わぬ方向に転がる事もあるかもしれません。
ある日の昼下がり、坂上健はその店の自動ドアを勢いよくくぐると正義のヒーローショウに出てくるヒーローさながらにバッと右手を肩よりまっすぐ45度上方へ掲げ、観客ならぬカウンター向こうの白衣の男に、芝居がかった調子で言い放った。 「発明は世界を救う、ZMA!」 白衣の男――ヴェルナーがきょとんと健を見返している。状況が飲み込めないというよりは色で表現するなら白い視線。だが健はめげることなくカウンターの上にドンとそれを置いた。 「トンファー、改造してくんない?」 「うちはレンタルショップで改造屋じゃない」 ヴェルナーの事務的な返答に健は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔を返した。柱に取り付けられたハト時計の振り子が60回ほど行ったり来たりする。要するに秒針が1周するほどの間の後。 「なっにぃぃぃ~!?」 声をあげながら健は店を飛び出し、看板を確認して地に膝をついた。 「しまったぁぁぁ!!」 彼にはZMAの文字しか目に入っていなかったのだ。勿論ZMAの文字だけで改造屋と思ったわけではない。そこはそれ、“あの”が付くZMAの店。 「まぁ、オーダーメイドも受けておるから話くらいは聞いてやろう」 ヴェルナーがやれやれといった口調で言うのに、健はやった! と勇んで立ち上がった。 「俺のトンファーが火を噴くぜ! ――みたいなのが欲しいんだ」 何ともアバウトに言ってのける健に、しかしヴェルナーは心通じるところがあったのか興味顔で頷いた。 「火炎放射器を取り付けたいという事じゃな」 「いや、そっちの火じゃなくて銃器のつもりだったんだが――でも」 健はカウンターの上のトンファーを取り上げ構えると、その先から火が吹き出る姿を想像してみた。 「ホントにトンファーが火を噴いたら、超カッコいいんじゃね?」 「そうかのぉ?」 ヴェルナーが不審そうに眉を顰める。 「それに刃はないし銃でもないから、いろんなトコへ持ち込めるじゃん!」 壱番世界の警察機構は何といっても優秀なのだ。だが乗り気の健にヴェルナーは水を差す。 「木の発火点は400~500℃くらいじゃぞ」 火を噴いた瞬間トンファーまで燃え上がり大惨事な自分が脳裏をかすめていく。 「閑話休題。じゃぁ、こう柄の部分を握り締めて、腕の下に回したトンファーから弾が飛び出すってのは? フルオートのライフルになるとか」 健はトンファーをくるりと回して脇に挟むと、すちゃっと銃を構えるような仕草をしてみせた。 「ふむ」 ヴェルナーのモノクルの奥のつぶらな瞳がキランと光った。 「銃剣は聞いたことがあるがトンファーとライフルのコラボは初めての試みじゃな」 「だろ? やった! 作ってくれ!」 「任せておけ」 かくして健の無謀な挑戦はあっさり受理されたのだった。 ヴェルナーが早速ライフル機能搭載トンファー製作のため店の奥のラボへと消える。残った健は、その様子を見たいのをグッと堪え一番弟子として店番に徹する事にした。 閑古鳥が鳴く。 やがて試作品は完成した。結局、改造ではないという事で持ち込まれたトンファーを模った同サイズのトンファー型ライフルである。 「いい……コレは行けそうな気がするっ! 博士、試してみたいから、れいの戦闘員服借してくれ。それから敵も!」 「仕方ない。下の試作品試験場も貸してやろう」 試作品試験場はレンタルショップの地下にある。 健はいそいそと戦闘員服に着替えると、敵を引き連れ意気揚々と試験場に向かったのだった。 カチコチカチ。 ハト時計の長針が3目盛りほど進んだ頃、地下の試験場へと続く扉が勢いよく開かれた。 「うぎゃぁ! トンファーが曲がっちゃったよ、博士!!」 言いながら駆け込んで健はカウンターの上に曲がったトンファーを置いた。 「相手の攻撃受けたらこの通りだ!」 「ほほぉ? どうやら強度不足だったようじゃな」 「もうジャムって撃てないの確定じゃん」 「別に銃身が曲がったからといって撃てんわけではないがの」 狙いをつけるのは難しくなるが壱番世界にあるドイツの曲射銃は銃身が……と語り始めたヴェルナーの話を、しかし健は全く聞いてはいなかった。 「ジャムった銃を覗き込んで頭を吹っ飛ばすってのは、よくあるパターンだよな……」 などと言いながら銃口を覗きこんでいる。中は当然真っ暗で何も見えない。 「つまり銃身が曲がっても普通に弾は発射されるのじゃ」 ヴェルナーもあまり健の話を聞いてはいなかった。 お互い他人の話をしっかり聞くタイプではないらしい。 しかし、それ故に会話が全くかみ合っていなかったとしても、大した問題にはならなかった。 「迂闊に覗けねぇし直せねぇじゃんか、コレ。どうすんだよ」 健が言った。 「また、新しく作り直せばいいじゃろ?」 ヴェルナーが何でもないことのように応える。 「やった!」 健が目を輝かせる。 「今度は別の素材で強度を上げるか」 「後さ、トリガーを柄の底にしてもらったのは注文どおりだから良いんだが……フロントサイトなしじゃ全然当たらねぇ」 健はトンファーを撫でながら言った。リアとフロントの両方とは言わないまでもせめてフロントサイトぐらいはないと狙いが定まらない。 とはいえ。 「トンファーの先にサイトを付けるのか?」 ヴェルナーの言に健はううむと唸った。トンファーを殴打武器としても使う以上、近接戦闘中に小さく突き出したそれは簡単に折れ飛ばないとも限らない。それ以前に見た目もよろしくない。 「そうなんだよなあ」 だが、そこで健は閃いたように目を輝かせた。それからお菓子を強請る子どものようにはしゃいで言った。 「博士~、博士~、再製作のついでにこのトンファーと連動した照準用ゴーグルプリーズだっ!!」 「なるほど。それは面白そうじゃ」 ヴェルナーがあっさり同意する。 「やった!」 そんなこんなで再びヴェルナーはラボに篭り、健は店番に戻った。 再び店に閑古鳥が鳴く。 程なくして試作品・改が完成した。 グリップを握りしめて健はその感触を確かめる。 「今度は行けるっ! 行けそうな気がするっ!」 そうして彼は再び地下への扉を開いたのだった。 カチコチカチコチカチ――。 今回は先ほどより少し長かった。 しかし再びドアは勢いよく開かれた。満身創痍の健がこけつまろびつしながらカウンターの前まで辿りつく。 「博士~! これってつまり、戦闘中は弾装交換不可って理解でいーのか?」 「そういえばそうなるかの」 「ダメじゃん!」 「ならば一発必中の狙撃用ライフルとして使えばいいじゃろう」 ヴェルナーがさらっと言った。だが健の中ではマシンガンよろしく多勢を撃ち払いそれでも突っ込んでくる敵をトンファーで粉砕していくかっこいい自分が描かれていたのだ。 狙撃用ライフルが悪いわけではない。断じてないのだが。 「遠近最強最高の武器の夢がぁ~!!」 健はがっくり膝を付いた。 それに追い打ちをかけるようにヴェルナーが電卓を叩き始めた。 表示パネルを健に向ける。 「ライフル型トンファーの試作とオプション改造、それから戦闘員服、敵戦闘員、弾薬、試作品試験場のレンタルで……ふむ、お代はこんな感じじゃ」 0が1つ、2つ、3つ……。 「なっにぃぃぃ~!?」 「分割も受付とるぞ」 「畜生、覚えてろ~!!」 健の絶叫は閑古鳥のなく小さな店内にずいぶん長い間こだましていた。 ■大団円■
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