――喫茶店兼修理屋【空猫】 ある日、キース・サバインが店番をしていると、見覚えのある少女が来店した。蒼い目が可愛いツーリストのゼシカ・ホーエンハイムは相棒であるドッグタン・アシュレーを伴ってキースの元へとやって来る。 いらっしゃい、と優しく声をかければ、ゼシカはおずおずと顔を上げた。「ライオンさん、あのね」「? なんだい?」「ゼシね、お菓子の作り方を教えて欲しいの」 少しドキドキした様子でお願いするゼシカ。急な話に、キースは少し目を丸くする。「俺が? それは、なんでだい?」 不思議に思ったキースが身を屈めて問いかけると、ゼシカが少しもじもじとしながら、口を開く。「前にこのお店で食べたお菓子が、とっても美味しかったの。お店の人に聞いてみたら、ライオンさんが作ってるって……」 教えてもらえるかしら、と不安と期待の入り混じった眼差しを向けるゼシカ。キースは少し考えたものの、一つ頷いた。「俺でよければ、教えるよぉ。所で、どんなお菓子を作りたいんだい?」 その問いかけに、ゼシカは少し迷いながら……一つのケーキを指差した。それは、出来立てのガトーフレーズ。真っ白いクリームと真っ赤で甘酸っぱい苺の、シンプルだが皆に親しまれているケーキだ。「ゼシ、頑張って覚えたいの。ライオンさん、よろしくおねがいしますっ」 ぺこっ、と頭を下げるゼシカに、キースは笑顔で頷く。そして、楽しい時間が過ごせるといいな、と思った。 早速厨房を使えないか、とキースは店の仲間に聞いてみると、直ぐにOKが出た。そこで早速ゼシカに教えようと思ったがエプロンなどがない。それに、果物も買ったほうが良さそうだった。「そうだなぁ、まずは買い物から行こうかなぁ」「ライオンさんと一緒に?! 楽しそう♪」 キースの提案にゼシカは嬉しそうに目を輝かせる。傍らのアシュレーも楽しみなのか、しっぽをぱたぱた振っている。 こうしてキースとゼシカはまずターミナルで新鮮な苺を含めた果物と、ゼシカのエプロン等を買う事にした。その後お菓子を一緒につくり、出来たケーキでお茶の時間を楽しむ予定だ。果たして、2人は美味しいガトーフレーズを作る事ができるのだろうか? =========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>ゼシカ・ホーエンハイム(cahu8675)キース・サバイン(cvav6757)=========
序:楽しいお出かけ ――ターミナル某所。 たてがみが立派なライオンの青年、キース・サバインと愛らしいコンダクターの少女、ゼシカ・ホーエンハイムは、ケーキを作る前に材料等を買う為お店が立ち並ぶ区域へとやって来た。 「うーん、まずはエプロンから買おうかぁ」 キースがどんなエプロンが良いか、と聞けばゼシカは少し考え、目をキラキラさせて 「ゼシ、かわいいエプロンがいいな♪ フリルがついたのがいいの。ねぇ、ライオンさん。どんなエプロンが似合うか、見てくれる?」 「勿論だよぉ。ゼシカ君に似合うのを探そうね」 キースは1つ頷くと逸れないように、とゼシカと手を繋いだ。 最初に入ったのは、キッチン用品店だった。ショーウィンドウに子供用の愛らしいエプロンが幾つか展示されていたので、少し見ていく事にしたのだ。 いらっしゃいませぇ、と店員が声をかける。ゼシカが「エプロンを見せて下さい」、と伝えると、店員は「こちらですよぉ~」と間延びするような口調で2人を案内した。ショーウィンドウに飾られた物と同じエプロンを含め、沢山種類があって迷ってしまいそうだ。 (どんなエプロンがいいかなぁ。ゼシカ君に似合って、それでいて使いやすいのがいいよねぇ) 一枚ずつ見ながら、キースはゼシカをちらり、と見た。彼女は既に気に入ったのを2、3見つけており、鏡で合わせていた。 「ライオンさん、どっちが似合うと思う?」 小さく首を傾げて問いかけるゼシカ。少女の手には程よくフリルのついた愛らしいエプロンが2つ握られていた。1つは真っ白い布で作られ、ポケットにイチゴの刺繍がしてあった。もう一つはフリルや胸ポケットが赤をベースとしたチェックの物だった。 「そうだねぇ……、こっちかな?」 キースが選んだのは、真っ白い方だった。シンプルな方が、似合うように思えたからだ。ゼシカは嬉しそうに顔を綻ばせる。 「ありがとう! ゼシ、大切にするねっ!」 そういってゼシカは白いエプロンを抱きしめる。よくみると、そのエプロンには愛らしい帽子もついていた。キースは嬉しそうに喜ぶゼシカと笑い合い、レジへと向かうのだった。 次に買うのはケーキの材料である。市場へ向かうと、色とりどりの果物が並んだ籠が目に入った。その中に、沢山のイチゴが並んだものを見つけた。同じイチゴの筈なのに、色々名前が違うようだ。 「いい匂いなの♪ わぁ! これ、全部苺なの?」 ゼシカが少し驚いたように言うと、キースは「そうだよ~」と優しく答える。その他にもフランボワーズに、ブラックベリー、マルベリーにブルーベリー……と、様々な物が並ぶ。 「ゼシは、これが好き」 そう言ってゼシカが選んだのは、小粒だが形のよいイチゴだった。キースの記憶が正しければ程よい酸味が特徴でケーキによく合う物だった。 「それじゃ、これにしようね。そうそう、オレンジとミントも買っておこう」 「ライオンさん、オレンジのケーキも作るの?」 ゼシカが選んだ種類のイチゴをパック詰めにしてもらいつつ、傍らのオレンジに手を伸ばすキース。ゼシカが目を輝かせて問えば、彼はにっこりと笑って頷いた。 「とっても楽しみなの♪」 「俺も、美味しく出来そうな気がして楽しみなんだ。さぁ、お店に戻ろう」 キースはミントとオレンジを籠に入れ、イチゴのパックを受け取って支払いを済ませる。そしてゼシカと手を繋ぎ、反対の手で荷物を抱えて歩き始めた。 破:素敵なガトーフレーズを作ろう! ――喫茶店兼修理屋【空猫】:厨房 買い物から戻ったゼシカとキースは、早速手を洗ってエプロンをつけた。ゼシカはエプロンについていた帽子もかぶって鏡の前に立つ。そこには小さなパティシエールがいた。 (えへへ、ちょっとお姉さんになった気分なの) 少し頬を赤くして笑うゼシカを、キースは優しい笑みで見ながらビニールの手袋をはめた。獅子の獣人である彼は体が獣毛で覆われている。その為、調理の際は肘上まであるビニール手袋を使用するのだ。最初はきょとん、としていたゼシカだが、キースが説明をすると合点がいった。 (やっぱり、楽しく作るのが一番だよねぇ) 今回の生徒、ゼシカはまだ幼い事もあり、キースは和やかな雰囲気で教えられたら、と考えていた。ゼシカは少し緊張しているようだったが、彼の思いと気遣いもあり、少しずつ緊張がほぐれているように思えた。 「それでは、よろしくお願いします、なの」 「一緒に、楽しく作ろうねぇ」 ぺこっ、と頭を下げるゼシカに、キースは1つ楽しげに頷いた。 最初はスポンジケーキから作る事に。さっそく薄力粉の量を秤で図り、篩にかけようとしたが、ゼシカにはテーブルが些か高かったようだ。 「ライオンさん、台になるものあるかしら?」 ゼシカに問われ、キースは近くにあった空の木箱を持ってきた。この高さならば、ゼシカにちょうど良い、と見立てたようだ。試しに乗ってみると、作業をするのにちょうど良い高さになっていた。 ゼシカは礼を述べて台に乗り、粉を篩にかける。 (ゼシはもうお姉さんだもの、一人でできるもん) ちょっとおすまし顔でケーキ作りに励むゼシカを、キースは可愛く思いながら卵を割り、黄身と白身に分けていた。そして、手際よく白身を泡立てる。慣れた手つきで回される泡立て器はかしゃかしゃと小切れ良い音を立て、楽しげに歌う。 「粉をふるい終わったわ」 きめが細かくなった粉を見せるゼシカに、OKサインを出すキース。彼はうん、と1つうなづくとふわふわに泡立ったメレンゲをゼシカに見せた。 「それじゃあ、そこにお砂糖があるよねぇ。それを、3回に分けてこれに入れてくれるかなぁ?」 よく見ると、いつの間にか砂糖が用意されている。キースがボウルを向けると、ゼシカは恐る恐る砂糖をメレンゲの中へと入れた。 「そうそう、その調子だよぉ」 メレンゲを混ぜる音に、砂糖の音が加わる。それをゼシカはどうにか3回に分けて入れる事ができ、ほっとする。 「次はこっちの黄身を入れるんだよぉ。そしてバニラエッセンス、薄力粉の順で入れていこうねぇ」 「はーい♪」 キースがボウルの中に卵の黄身を入れ、丁寧にかき混ぜる。ゼシカはそこへバニラエッセンスを数滴垂らし、ほどよく混ざった所で薄力粉を入れた。 「ボウルを押さえておくから、ゼシカ君が混ぜてみるかい?」 「うん!」 キースの誘いに、ゼシカは笑顔で頷く。そして、キースがゼシカの前へボウルを置き、傍らで支える。ゼシカは木べらでさっくり、さっくりと生地を混ぜ合わせながら「美味しくなぁれ、美味しくなぁれ♪」と小さな声で呪文を唱える。途中で溶かしたバターを入れて更に混ぜ合わせると、用意してあった型に流し込んだ。 スポンジの型は2つあった。1つはガトーフレーズ用だが、もう一つはオレンジベースのケーキ用である。 「あとはオーブンで焼こうねぇ。焼いているあいだに、生クリームとイチゴの準備をしよう」 キースはオーブンにケーキの型を入れながら言い、ゼシカは愛らしく返事を返した。 「そういえばだけど、ゼシカ君は大切な誰かの為に、ケーキを作りたくなったのかなぁ?」 イチゴやオレンジのカットをしながら、不意にキースが問う。彼は、一生懸命になってケーキ作りを学ぼうとするゼシカの姿から、そんな風に思ったのだ。その言葉に、小さな少女はこくん、と愛らしく頷いた。 「ゼシね、今、『白い魔法使いさん』のおうちで暮らしているの。だから、時々、ゼシがご飯を作ってるんだけど、まだまだ失敗が多いの」 だから、少しでも上手になって、『白い魔法使いさん』を喜ばせたいのだという。それに、褒めて貰えたらとても嬉しい、と。 ゼシカは切実な思いでそう言いながら瞳を細める。そして、そっとこう付け加えた。 ――魔法使いさん、ずっとゼシのそばにいてくれるかもしれない。 ゼシカは、漸く会えた父親をマキシマム・トレインウォーで喪っている。その後、『白い魔法使いさん』に見守れながら生きている少女だったが、偶に考えてしまうのだ。この人も父親みたいにいなくなってしまうのではないか、と。そんな不安が僅かだが、胸の奥にあった。 ゼシカの話を聞きながら、キースは静かに相槌を打つ。そうしながら、その『白い魔法使いさん』は幸せ者だな、と思った。 「きっと喜んでくれるよ、ゼシカ君!」 心を込めて造ったケーキが、美味しくない訳がない。そう信じてキースはにっこりとわらいかける。 「ほんとう?」 「ああ。俺が保証するよぉ!」 その『白い魔法使い』がゼシカの傍にいる姿を想像しながら頷き、そっとゼシカの肩を叩く。ゼシカの蒼い目とキースの金色の目が重なれば、互いに楽しく笑い合う。 (だから『白い魔法使いさん』、ゼシカ君が素敵なレディになっても、傍にいて欲しいんだぁ。……きっとだよぉ) そう願いながら、キースはそっと瞳を細めて笑った。 ケーキが焼きあがると、2人はオーブンから取り出して、風当たりのよい場所に用意していた台に載せた。それが充分冷めるまで、2人で果物のカットを仕上げる。 「そろそろ覚めたかなぁ?」 キースが手をかざしたりして調べれば、触っても大丈夫な温度になった事を悟る。彼はスポンジを3枚に切ると、そこへ生クリームを塗って、イチゴなどの果物を挟む。形を整えた所で飾り付けの時間だ。 「クリーム塗るの、楽しみにしていたの。面白そうだもの!」 「均等に塗るのは、慣れるまで大変だよぉ。コツをつかめるといいんだけど」 わくわくするゼシカの前に回転台を置きながら説明するキース。スポンジを回転台に乗せ、泡立て器で生クリームをぼってり乗せると根元が曲がったパレットナイフを見せる。 「面白い形なの」 「これを使って、生クリームを広げるんだぁ。こんなふうに、だよぉ」 ゼシカがパレットナイフに興味を示していると、キースはゆっくり丁寧に生クリームを広げていく。やってみる? と目で問えば、ゼシカはこくり。台に乗り、キースに支えてもらいながら、見よう見まねで生クリームを伸ばしていった。最初は恐る恐るやっていたゼシカだったが、後からコツを掴んだのか、徐々にスムーズな動きになっていた。 「なかなか上手だねぇ」 「ほんとう?!」 キースが褒めれば、ゼシカは目をキラキラ輝かせる。 生クリームを塗り終えると、今度は飾りつけだ。クリームを絞って模様をつけたり、イチゴなどの果物を乗せ、ミントの葉をアクセントに載せれば完成である。 キースは、ケーキの飾り付けをゼシカに一任する事にしていた。彼曰く「きっと、女の子の方がきれいに飾り付けられるよねぇ」との事だ。 (上手に出来るかしら……) ゼシカはドキドキしながらデコレーションをしていく。赤いイチゴを花に見立て、愛らしく仕上げていく。それはまるで、白いキャンバスに赤いバラが描かれたようにもみえた。 「こんな感じなの」 暫くして、ゼシカがちょっと自信ありげにケーキを見せた。その飾り付けを見て、キースは何度も頷く。女の子のセンスという物は凄いな、と素直に思いながら。 「飾り付けをした感想はどうかなぁ?」 「すっごく楽しいの!」 キースとゼシカは美味しそうなケーキが出来上がり、満面の笑みでハイタッチ。出来上がったところで、次はお茶の準備にとりかかった。 急:ほんわかティータイム 皿に盛られたガトーフレーズは、とても美味しそうだった。切った断面には生クリームとイチゴが顔を覗かせ、甘い香りが心を躍らせる。 因みに食べる分だけ装い、一部はお土産用にと箱詰されている。 「おいしそうなの」 「そうだねぇ、上手に出来たみたいだねぇ」 ちょこん、と椅子に座って見つめるゼシカに、キースが紅茶を差し出しつつ笑う。彼は自分の分も用意すると、ゆっくりと席に着いた。 「ライオンさんに教えてもらったから、上手に出来たのよ。ありがとう」 満面の笑みでお礼を言うゼシカに、キースの顔が赤くなる。真正面から礼を述べられると、やはりどことなく恥ずかしいものがある。 早速食べてみると、スポンジの柔らかさと、イチゴ酸味、生クリームの程よい甘みが幸せな和音を口の中に広げ、2人とも満面の笑顔になっていた。心からほっ、とするような味に、ゼシカはより嬉しそうになる。 「魔法使いさんも、これなら『美味しい』って言ってくれるの」 もう1口食べつつゼシカは頷いた。その様子を見ながら、キースは自分が力になれてよかったな、と嬉しくなるのだった。 ケーキを食べながら、2人は話に花を咲かせる。美味しい物はこうも人の心を弾ませ、言葉までも弾ませるらしい。 「ねぇ、ライオンさんはどんな食べ物が好きなの?」 やっぱりお肉? と愛らしく首を傾げながら問うゼシカに、キースはそうだねぇ、と紅茶を飲みながら考える。 「お肉も好きだけど、野菜も魚も好きだねぇ。ゼシカ君はどんな食べ物が好きなんだい?」 「ゼシはね、お菓子に、くだものに……甘い物は全部好きよ。でも、辛い物や苦い物は苦手なの」 ゼシカの答えに、キースは内心で苦笑する。というのも、子供はそういった味が苦手である事が多いからだ。 「好き嫌いはいけないから、直さなくちゃ」 「でも、焦らなくていいよぉ」 ゆっくり好きになっていけばいい、とキースが肩を叩く。ゼシカはそれに笑顔で頷くと、最初は身近にある苦手な野菜からがんばろう、と思う。そして、お礼を言うと少女はフォークで一口分切り取り……、 「ライオンさん、はい、あーん♪」 とキースに差し出してくれた。最初は照れくさかったキースだが、ゼシカの好意に甘えて食べさせてもらう。口元に付いたクリームをナプキンで拭おうとすると、ゼシカがそっと拭いてくれた。 「綺麗にしておかなくちゃね。そうそう、後でちゃんと歯磨きしなきゃだめよ?」 「そうだねぇ。磨かないと後から大変だもんねぇ」 まるで小さなお姉さんだねぇ、と微笑ましく思いながら、同じようにゼシカへとケーキを差し出す。 「今度はゼシカ君の番だよぉ。はい、あーん」 「ありがとう!」 ぱくっ、と嬉しそうに食べるゼシカ。傍目から見ると、親子のティータイムに見えなくもないな、とキースは更にくすぐったいような気持ちになっていた。 食べ終わってから暫くは、紅茶を飲みながらのんびりしていた二人。しかし、そろそろお開きの時間になっていた。 「ライオンさん、受け取って欲しい物があるの」 と、ゼシカがおずおずと差し出したのは、キースの似顔絵だった。一緒に描かれているのはお店と、『空猫』の店主である黒猫さん。のびのびと書かれた2人の姿にキースの顔が綻んだ。 「ありがとう、ゼシカ君。とても素敵だねぇ!」 嬉しさにたてがみが僅かに震えるが、はた、とお土産の事を思い出すキース。彼は小さなレディに箱を手渡した。中身は先ほど造ったガトーフレーズと、オレンジのケーキ。そして、キース手作りのクッキーだ。 「魔法使いさんと一緒に食べてねぇ。楽しいティータイムのおともに」 「ありがとう!」 ゼシカもまた笑顔で受け取り、そっとこう言った。 「やっぱり、ライオンさんはその格好が一番似合うの。ゼシも、大きくなったらエプロンが似合うお姉さんになりたいな」 「きっとなれるよ。俺が保証するよぉ」 キースはそっとゼシカの頭を撫でてあげながらいい、笑みを強めた。そうしながら、一緒に過ごした時間がとても温かい物に思え、より幸せを感じる。それはゼシカも同じようだった。 「もし、必要だったら家まで送るけど……」 大丈夫かと問えば、ゼシカは少し考え……蒼い瞳でキースを見上げる。 「お願いしていいかしら? もう少しライオンさんとお話したいな」 「わかったよ~」 キースは頷くと小さなレディの手をとり、ゼシカを送っていく事にした。 その道すがら、2人は今日の事を楽しく話しながら、いろいろなお店を見て帰る。また機会があれば一緒に料理やお菓子作りがしたいな、と思いながら……。 これは後日談だが、ゼシカの書いた絵は『空猫』に飾られた。その幼くも楽しく、愛らしく書かれた店主とキースの姿に、店を訪れた人々は微笑むのだった。 (終)
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