――0世界・ターミナル。 ここで生活していくには、ターミナルにおける通貨・ナレッジキューブが必要になる。コンダクターやツーリスト達は冒険に出ると報酬として出されるのだが、やはりよりよい生活の為にはターミナルでも稼ぐ必要がある。 勿論、自分で店を構える者も少なくはないし、アルバイトやパートタイマーとして店で働く者もいた。 吉備 サクラもまた、アルバイトをしようと考えていた一人である。彼女は、ある知らせを持って誰かを探していた。「あれ? サクラちゃんじゃないですかぁ☆」 その様子に、川原 撫子が声をかけると、サクラはよかった、と胸を撫で下ろしたように駆け寄った。「丁度よかった! 探してたんですよ、川原さん!」 サクラは嬉しそうに手を握り、目をキラキラさせながらこう言った。「吉報ですっ! グラウゼさんが今バイト募集してます! 3人くらい雇う予定だから2人で一度おいでって言って下さいました!」 その知らせに、撫子の表情も明るくなる。2人は世界司書のグラウゼ・シオンが経営する『カレーとスープの店 とろとろ』でアルバイトをしたい、と思っていたのである。「ほほぅ☆ それでサクラちゃんからカレー臭がするんですねぇ?」「か、加齢臭!?」 撫子はギャグのつもりで言ったのだが、どうやら通じなかったらしい。サクラは思わずぷいっ、とそっぽを向いてしまう。確かに今の彼女は僅かに香辛料の匂いを纏ってはいるが……。「もう知りません。私一人でバイトの面接に行って」「きゃーっ?! カレーの匂いの事ですぅ☆ そんな冷たい事言わないでくださぁい!」 ギャグで和ませたかったんですぅ☆ と言いながら抱きしめて止めようとする撫子。ところが思わず力を入れすぎて技をかけたような音がした。「!? な、撫子さん……ぎ、ギブで……」 僅かにジタバタしようとしたサクラだが、かくっ、と気絶してしまった。どうやらおちたらしい。それに(必死過ぎて)気づかなかった撫子はきょとん、としてしまった。「あれ? サクラちゃん……寝ちゃったんですかぁ? 仕方ありませんねぇ☆」 しょうがない、と思いつつ撫子はサクラを抱きかかえて『とろとろ』へと向かうことにした。 ――カレーとスープの店『とろとろ』・地下「……あれ?」 サクラが目を覚ましたのは、『とろとろ』の地下だった。店主のグラウゼが安堵した表情で彼女を見ている。「撫子さん、サクラさんが目を覚ましたよ」「よかったです~☆ 安心しましたぁ☆」 撫子が水を持ってきたので、サクラはゆっくりと身を起こす。「とりあえず、落ち着いたら面接をしよう。2人のバイト経験とか、特技などを聞きたい。それと実技もしようと思う。いいかな?」 グラウゼが2人にそういうと、冷えたアイスティーとクッキーを準備する。サクラと撫子は、少しドキドキしつつ「はい」と答えるのだった。=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>川原 撫子(cuee7619)吉備 サクラ(cnxm1610)グラウゼ・シオン (cbnm9266)=========
起:まずは、面接から。 ――カレーとスープの店『とろとろ』・地下 バイトを希望する二人のコンダクター、川原 撫子と吉備 サクラ。2人に対し、店主のグラウゼ・シオンはそれぞれに1枚の紙を手渡す。 「これは履歴書、ですね」 「写真がありませんけどぉ、いいんですかぁ?」 サクラが言うとおり、それは壱番世界・日本で一般的な履歴書だった。撫子が疑問を口にすると、グラウゼが穏やかに笑う。 「君たちの顔は覚えているからね。写真も必要であればどうにかできるしさ」 そう言うと、彼は簡単でいいのでアルバイトの経験についてなどを書いて欲しい、とペンも手渡した。 「書きあがった順に面接をするよ」 撫子は履歴書に今までやった事のあるアルバイトをスラスラと記入していく。彼女は空いている時間があればアルバイトに費やしていた事もあり、それなりにどこでも働けるという強みがあった。 (色々とやりましたねぇ☆ その経験が活かせたらいいですけどぉ~☆) ウキウキしながら書いていくその傍ら、サクラが時々考えながら履歴書の必要事項を埋めていく。 (確かに、経験は少ない方ですけど) それでも、ここで働けたらどんなに楽しいだろうか、と思うとワクワクする。サクラは眼鏡をかけ直すと再び筆を動かした。 そんな2人の様子をロボタンの壱号とジェリーフィッシュタンのゆりりんが興味深そうに見ている。1体と1匹はそれぞれのパートナーの傍でふよんふよん浮いたり、チカチカ目を光らせたりしてそれなりに気遣っているようだ。 「できましたぁ☆」 「書き上がりました。どうぞ」 撫子とサクラが、同時に声を上げる。グラウゼは2枚の履歴書を受け取って軽く目を通すと、撫子の方を見た。 「君から面接を始めよう。サクラさんは少し待っていてくれ」 サクラは一つ頷き、ゆりりんと共に出された紅茶とクッキーを口にする。撫子は壱号を抱っこしたまま、席に着き、店主と向き合った。 面接:川原 撫子の場合 「宜しくお願いしますぅ☆」 数多のバイトをこなして来た撫子は、場馴れているようでほどよく緊張がほぐれていた。膝の上では壱号がチカチカ光ってご挨拶。グラウゼは受け取った履歴書を真剣な目で読んでいく。 「コンビニ店員とガソリンスタンド店員が3年半以上か……」 「はい☆ 機械関連が大好きだったので、メインはガソリンスタンドでのアルバイトでしたぁ。でも、苦学生だったのでぇ、割がよかったりぃ、食品が手に入ったり、面白そうなモノはドンドンチャレンジしていたんですぅ☆」 履歴書に連なったアルバイト経験からも、それは伺える。また、撫子の手からも苦労した跡を感じ取っていたグラウゼは努めて真面目な顔で口を開いた。 「接客業に関しては、どう考えているのかな?」 その問いに、撫子の目が楽しそうに輝く。彼女は、満面の笑顔で答え始めた。 「ちょっと疲れたな、お腹がすいたなって方がやってきて、休んで元気になるお手伝いが出来るから、大好きですぅ☆ 自分も笑顔になれて、お客様も笑顔にする事ができたら嬉しいですねぇ☆」 どうやら、心から接客業が好きなようだ。そう感じたグラウゼは少し安堵する。 自己アピールを撫子に求めれば、彼女は料理全般が得意だ、と答えてくれた。その腕は過去の炊き出しでも目撃している為、偽りではない事をグラウゼも知っている。その他に希望があるか、と問えば賄いが食べたいと正直に言う。 「やっぱりぃ、賄いが美味しいとやる気もアップしますぅ☆」 「勿論、賄いは出すよ。場合によっては当番制で作ってもらう事も考えているんだ」 「! 私が当番の時は、張り切って作りますぅ☆」 撫子はきゅっ、と拳を握りしめ、弾けるような笑顔で答えた。 面接:吉備 サクラの場合 「よ、よろしくお願いします」 サクラはぎこちない笑顔でぺこっ、と頭を下げた。傍らでは相棒のゆりりんが心配そうに様子を伺っている。 「やっぱり緊張してしまうか。まぁ、無理もないけど、もうちょっと肩の力、抜いてごらん?」 グラウゼがそういうものの、どこか動きがぎこちない。サクラは「すみません」と頭を下げようとしたが、店主は苦笑して止めた。 受け取った履歴書は、とても丁寧な字で書かれていた。グラウゼは書かれた内容をじっくりと読み込むと、サクラに笑いかける。 「喫茶店とファストフードのお店で通算1年ちょっと。もしかして、コスプレの衣装製作のためだったのかな?」 「はい。大体、衣装製作と重ならないように2、3ヶ月スパンで働いていました。フロアでの業務が殆どで、厨房での業務経験はあまりありません」 そう、答えているうちにサクラの表情が少し和らいだような気がした。グラウゼがそれに気づいた時、彼女は言葉を再び紡いでいた。 「ターミナルを拠点とするようになり、なにをするにもお金が必要なので、アルバイトを探していました。それに、グラウゼさんの所でバイトするのって、楽しそうだなって思ったんです」 謝ろうとしたサクラを、グラウゼは止めた。「こんな店で働きたい」と言われるのは、店主としては嬉しい事なのだから。 最後に、サクラはユニフォームが必要なら作ります、とアピール。仕立屋になる事を夢にしている彼女は、簡単な刺繍ならば5分ほどでこなしてしまう。グラウゼはその提案を前向きに考えてみる事にした。 こうして、2人の面接は終わった。グラウゼは2人の履歴書を保管ファイルへと入れると、笑顔でこう言った。 「2人とも、ありがとう。次は実技といこうか。エプロンとバンダナをつけて厨房に来て欲しい」 2人は笑顔で頷き、グラウゼのあとに続いた。相棒であるセクタン達もそれに続き、上へ上がっていく。 「実技で厨房って事はぁ、調理ですねぇ☆」 「何を作ればいいんですか?」 撫子とサクラの問いに、グラウゼはくすっ、と笑い「厨房でのお楽しみ」とだけ答えるのだった。 承:ほくほくな実技試験 厨房に入ると、カウンターから誰もいない店内を見る事ができた。そこは見た目より少し広い程度だろうか? そこから席数を見ていた撫子はそんな感想を内心で呟いた。サクラもどこかもの寂しさを覚えつつ見渡していたが、グラウゼがパンッ、と手を叩いた音で我に返る。 「殆どはホールでの仕事になるとは思うけど、場合によっては厨房での調理とかも手伝ってもらうかもしれないからな。そこで実技試験としてポトフを作ってもらおうと思う」 グラウゼは洗面台の前でそう言うと、まずは手を洗うように、とすすめる。2人が丁寧に手を洗ったのを確認すると、彼は2人を中央の調理台に案内した。いろいろな野菜と、ソーセージ、ベーコンがバットや籠に用意されている。 「この材料を使えばいいんですね?」 サクラはぎゅっ、と手を握り締める。調理の経験は少ないが、本を見ながら頑張ろう、と気合を入れていた。一方の撫子は野菜と包丁を見、グラウゼに進言する。 「野菜など、切る大きさを指定して頂ければぁ、それに揃えますよ☆」 それにグラウゼは一個のじゃがいもを手に取ろ、落ち着いた声色でこう言った。 「お客様一人一人で一口分の大きさは変わる。だから『なるだけ』揃えるという心構えでいいよ」 その言葉に、2人は真面目に頷きながらも、考え方それぞれだな、と思っていた。 「それじゃあ、はじめてくれ」 グラウゼの合図と共に、撫子とサクラは材料選別を始める。調理を得意とする撫子はぱっぱと使う野菜を決め、手にとっていく。一方、サクラは迷いながら野菜を選ぶ。 「えーっと、ポトフですから」 何を使うかで悩んだサクラは、トマトベースでもいいのかな、と思いトマト缶を手にとった。その横を撫子が通り、早速流し台で野菜を洗う。そして手際よく包丁でピーラーより薄く皮をむいていった。苦学生であった撫子は、そういう事など朝飯前である。 「皮はそこのコーナーにでも……」 「いいえ! もったいないので天日干しして賄い用のコンソメにしちゃいますぅ☆」 捨てる場所を指定するグラウゼに撫子がきりっ、とした眼差しで言う。因みに手は止まる事無く野菜を丁寧に切り刻んでいた。 その頃、サクラもピーラーで野菜の皮をむき、ゆっくりとだが丁寧に野菜を切っていた。まだ慣れないのだろう、手つきが少し危ない。それでも切っていくうちにコツを掴んだのか、少しずつ切るテンポが上がっていた。 (マッシュルームは生のを使いましょう! えーっとそれから) と、あたりを見渡していると、撫子は既に材料を切り終え、手際よく材料を炒めていた。 「セージとぉ、ローリエ……あ、ありましたぁ☆」 調理台の上に置かれていたハーブの瓶を手に、撫子は笑う。そうしながら手順通りにそれらを入れ、コトコトとポトフを煮ていく。 (ううっ、撫子さんは流石に慣れていますね) 僅かに焦ったサクラは漸くすべての材料を切り終えた所だった。指を切りそうにはなったものの、怪我は無い。彼女は深呼吸をすると、次の作業にとりかかった。野菜と崩した冷凍ハンバーグを炒め、水とトマトピューレを入れて煮込んでいく。 (なんだか違うものになりそうです) 少し泣きそうな顔をしていると、グラウゼが通りかかった。心配させまい、と表情を引き締めるサクラに、店主は笑いかける。 「大事なのは、笑顔だよ」 「?」 急に言われ、サクラはきょとん、となる。しかし、何かを思い出したのか、サクラは漸く表情を緩めた。 「サクラさん、大丈夫ですかぁ?」 撫子が不安げに問うが、サクラは首を振る。 「心配かけてごめんなさい。でも、大丈夫です」 その言葉に安堵したのか、撫子は「よかった」と笑顔を見せたのだった。 暫くして、二人ともポトフを完成させた。撫子はキャベツにじゃがいも、玉ねぎと人参、ソーセージで作ったオーソドックスな物を、サクラはトマトをベースにし、じゃがいもと玉ねぎの他ブロッコリーや大蒜、マッシュルーム、ひき肉が入った物を作った。 「こいつは美味そうだ」 グラウゼは2人の作ったポトフを見、楽しそうに口元を綻ばせる。撫子が作った物から食べると、野菜の旨みがたっぷりと舌に広がった。サクラが作った物を食べると、最初のうちは少し考え込んだが、やがてにっこりと表情を柔らかくした。 「ど、どうですか?」 「最初、大蒜がちょっと強いかなと思ったよ。でも、これはこれで美味しいね。マカロニを加えるといいかもしれない。撫子さんのポトフはこれで店に出せるね」 サクラの問いに、グラウゼが穏やかに評価を言い、こう言葉を続ける。 「最後は接客だ。もう少ししたら開店するから、早速ホールで働いてみてくれ。一応、お給料も出すからさ」 転:ガチ本番で実技試験 「それじゃ、はじめよう!」 グラウゼの掛け声と共に、サクラと撫子が動き出した。まずは3人で手分けして店内やお店の周りを掃除する。その次にテーブルを拭き、数が少なくなったナプキンや香辛料などを補充する。 一通り終えると一度手洗いをし、身支度を整えてから開店となる。ドアに掛かっている看板を『準備中』から『開店中』にすると、なんとなく店の空気が変わったような気がした。 「「いらっしゃいませ!」」 撫子とサクラが笑顔で出迎えると、客たちは皆最初驚くものの、反応は上々だ。接客にかなり慣れている撫子は客の様子を見て臨機応変に対応し、サクラもまたでしゃばらず、優しい笑顔で対応する。また撫子は時間や席が決まっている固定客を確認すると、的確に対応していた。 そんな中、背中に青い翼を背負った男性が、にこやかな顔でドアを開けた。 「こんにちは。今、席は空いていますか?」 ラファエル・フロイトがそう問うと、サクラは店内の奥を見、まだ席には余裕がある事を確認する。そして彼をカウンター席へと案内した。 「こちら、メニューになります。ご注文がお決まりでしたら声をかけてください」 メニューを置くと試験前に確認した注文方法を説明し、一礼して下がる。その背中を見送ったラファエルは、カウンターで調理に勤しむグラウゼに声をかけた。 「グラウゼさんも、スタッフを雇うことにしたのですね?」 「ちょいと一人じゃ手が回らない時も出てきたからね」 そんな事を言いながらほうれん草のカレーを皿に盛り、撫子を呼ぶ。彼女は「はぁい☆」と明るい笑顔で現れ、慣れた手つきでお盆に乗せて運んでいった。その背中を見送ると、グラウゼはラファエルに一枚の紙を手渡した。 「お待たせしましたぁ! こちらでご注文の品はお揃いでしょうかぁ?」 撫子の明るい声に、優しい雰囲気を宿した男性、ウィル・トゥーレンは小さく頷いた。丁寧に出されたカレーを早速食べつつも、離れる撫子をちらり、と見る。『トゥーレン』のマスターである彼は、入店から撫子の接客する姿を見ていたが、丁寧な対応に瞳をきらり、とさせる。 水を飲みながら、ふとあたりを見渡すと、サクラが丁度ラファエルから注文を聞いているようだった。はっきりと、それでいて大きすぎず小さすぎない声でメニューを復唱し、的確にグラウゼへ伝える姿に、彼は小さく微笑んだ。 (これは中々いい逸材ですね、二人とも) そう思いながらカレーを口にしていると、グラウゼがやって来た。彼はウィルに何やら耳打ちすると一枚の紙を渡す。その内容を読んだウィルは、くすり、と小さく笑った。 「なるほど、グラウゼさんらしい」 客が帰ると食器を下げ、テーブルを拭き、また新たな客を案内する。そのタイミングも二人は見逃さず、無理なく対応しなるだけ客を待たせないようにする。一方がメニューを聞いている間に別の対応を求められれば、空いている方が向かう。いつの間にか、2人の間に阿吽の呼吸が生まれていた。 (この様子なら即戦力になりそうだな) そんな様子に、グラウゼがほっと安堵の息を吐く。と、ウィルとラファエルが例の紙をグラウゼに返した。 「そういえば、ほかにも渡している人はいるのですか?」 とラファエルが問えばグラウゼは「ああ」と答える。 「あの様子ならば、他の方々も我々と同じ感想を持つと思いますよ」 ウィルの言葉に、グラウゼはこう言ってと頭を下げた。 「ありがとう、今後もあの2人共々よろしく頼むよ」 その日、撫子とサクラは交代で休憩をとりつつホールでの仕事をこなした。今日は特に無茶ぶりをする客やクレーマーなども来ず、平和だったので接客態度などを見るのにちょうど良かった。 (グラウゼさんのお店で働くのは、楽しいですね) サクラは食器を片付けながらにこり、と笑う。確かに休憩時間以外立ちっぱなしの仕事なので疲れるものの、客の笑顔でやる気がみなぎる。それは撫子も同じだった。 「あと少しですぅ。サクラさん、しっかり頑張りましょう☆」 そう励まされて気合を入れ直していると、グラウゼが声をかけてきた。 「そうだね、ちょっと早めに閉店にして、賄いにしよう。そこで、今日の結果を言おうかな」 結:これから、よろしく エプロンを外したサクラと撫子は、片付けた席に腰掛け、賄いのリゾットを前にドキドキしていた。すると、グラウゼが3人分のミルクティーを用意し、 「二人とも、明日から大丈夫かい?」 と言った。その言葉に、撫子は素直に喜ぶも、サクラはきょとん、としてしまった。 「サクラさん、どうしたんですかぁ?」 「いや、その、もっと畏まった風に伝えられるような気がしていたので」 ずれたメガネを正して赤面するサクラに、グラウゼはくすくす混じりに答える。 「実は、ターミナルに店を構えているお客さんに、2人の接客態度などを評価してもらっていたんだよ。みんな、2人の頑張る姿に好印象をもったようだよ」 グラウゼは2人に回答されたアンケートを見せる。と、そこに書かれた物の中には先ほどのウィルとラファエルの物もちゃんとある。撫子とサクラは顔を見合わせ、嬉しさで頬を赤くする。 「それじゃあ、ここで働けるのですねぇ?」 撫子の問いにグラウゼが頷くと、2人は嬉しそうに「はい」と答えた。 「こっちとしても嬉しいよ。しかしあと一人欲しい所だね」 グラウゼが真面目に言うと、2人とも同意するように頷いた。実際に働いてみて、2人では追いつかない部分も多々あった。それを思うと少し悩ましい。 「その辺りは今後どうにかするしかありませんね」 「ですねぇ☆ お客様を待たせるのは心苦しいですねぇ☆」 サクラと撫子の言葉を受け、グラウゼは求人募集のポスターをもうちょっとだけ掲示板に貼っておく事を決めたのだった。 「っと、忘れてた。これ、今日のお給料と雇用契約の書類。目を通しておくように」 グラウゼはそういって2人にいくらかのナレッジキューブが入った袋と書類を手渡す。その重みをありありと感じながら、2人は気を引き締める。明日からはここのアルバイトとしてきっちり頑張ろう、と。 こうして、『カレーとスープの店 とろとろ』のホールスタッフとなったサクラと撫子は、翌日から本格的に働く事になった。 因みに、ユニフォームを用意しない代わりにサクラがエプロンを用意する事になった。そして、それぞれの名前の由来となった花の刺繍を丁寧に施す。オマケにサクラのエプロンにはジェリーフィッシュタンの刺繍が、撫子のエプロンにはロボタン、グラウゼのエプロンには『導きの書』の刺繍がポケットに施されたのだった。 (終)
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