坂上 健はある日考えた。それを世界司書、紫上緋穂の前で語る。「自警団だからってわけじゃないけど、もっといろんな人がいろんなところで触れ合う機会があっても良いと思ったんだ。だって小さい子が1人でロストレイルに乗って異世界へ行くのは難しそうだろう?」「そうだねぇ~。じゃあ、お願いしようかな、モフトピアの運動会の調査」 世界司書の紫上緋穂が自分で作ったと思われる一枚のチラシは、様々なアニモフががんばっているイラストが書かれていた。☆続いて、健視点でお送りします☆「こんちやー!小さいおともだちとアニモフと、アルウィンも遊びたい。玉入れー」「ぼく、運動会って初めてかも」 アルウィン・ランズウィックとエーリヒは嬉しそうに運動会について話し合っている。 うん、子ども2人の会話は微笑ましい。確実に子供だと分かる。「あ、なんか、面白いことしているねー。それ、聴いたら、僕も行きたいって思うんだよー。うんどーかい、参加したいんだよー。」 敗・北! 分かんねぇ、獣人の年齢マジ分かんねぇ。 しょうがないからにこやかに聞いてみた。「ところでバナーは運動会でジュースを飲む人とジュースを準備する人、どっちがやりたい?」「え?そりゃ、飲む方がいいと思うんだよー」 引率より参加希望か、よし分かった。「おぉ、それじゃみんなで楽しく参加しような!島対抗で最後にトンネルキューブってあんまり聞かない競技もあるらしいよ」 言ってから気が付く。 引率3児童3で準備する予定が引率1児童3で……子供の面倒を見るのが俺1人だ!?(うわー、こういうのは子供好きなら噂聞いただけで来てくれるかと思ってた。やっぱ俺がKIRINなのがネックなのか!?) 微妙にひきつった笑いを浮かべ、ロストレイルを指差す。「さ、さぁ、あの列車に乗ってモフトピアに出発だー!」 児童会のただ1人の引率気分を噛み締めつつ、絶対3人を笑顔にしてここに戻ってくるんだと気合を入れた。 *-*-* 島対抗モフトピア運動会会場は、ひときわ大きな島だった。この島の住人のクマアニモフ達が、頑張って会場設置や誘導をしていた。 各島の代表選手団なのだろう、ウサギアニモフたちやリスアニモフたち、ネコアニモフたちにライオンアニモフたち……たくさんのアニモフたちが集まっていた。☆競技リスト☆・玉入れ こしあんで出来た玉をお餅で出来たカゴに投げ込みます。カゴはたくさんあり、玉でいっぱいにしたカゴが多い島が勝ちです。 高いカゴにはなかなか入りませんがカゴが小さく、すぐにいっぱいになる上、カゴがたくさんあります。 低いカゴは玉を入れやすいですがカゴが大きく、なかなかいっぱいにならない上、カゴの数は少ないです。 どちらを狙うか、どうやって投げるかが勝負をわけます! ちなみに出来上がったあんこ餅は後で美味しく頂きます。・棒引き フィールドの真ん中に設置された長さまちまちの、飴でできた棒を引っ張り合い、自分の陣地へ持っていきます。 陣地へ持っていった飴の長さと数に寄って勝利チームが決定します。 ただし、短い飴は一本の得点が低い分頑丈で折れにくく、長い飴は一本の得点が高い分折れやすいです。 飴は後で美味しく頂きます。・借り物競争 フィールドに並べられた葉っぱの裏に書かれたものを借りてきてゴールまで走ります。 モフトピアならではの品物が多いため、たびびとさんはちょっと不利かも?・トンネルキューブ いわゆるリレーですが、走るわけではありません。 雲の上方に設置された虹色のトンネルは人一人が座っても頭がつかないくらいの太さ。チーム分あり、ひとチーム1つのトンネルを使用します。 まず一人がトンネルの入口に設置されたマシュマロのクッションに座ります。残りのメンバーはひとりずつ、途中でクッションに座って待機です。 一人目が滑り始め、途中で二人目と合流します。前後に並んだ二人一緒に滑って行き、次は三人目と合流して……というふうに、トンネルの出口まで滑っていくタイムを競います。 着順に順位が決定します。 ☆運動会が終わったら、みんなであんこ餅や飴など競技で使ったお菓子を頂きます☆ ごさんか、おまちしていますー。 ★島対抗運動会実行委員会★=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>坂上 健(czzp3547)アルウィン・ランズウィック(ccnt8867)バナー(cptd2674)=========
クマアニモフ達の浮島に辿り着いた一行は、あまりのお祭りムードに目を丸くして。けれどもそれは悪乗りとか悪ふざけとかそういうお祭りムードではなく、純粋にみんなで楽しく遊ぼうというオーラが感じ取れたものだから、自然、四人の顔も笑顔になる。 「すごいぞすごいぞ!!」 一番興奮したのはアルウィン・ランズウィックだった。可愛い耳をぴくぴくさせながら、キョロキョロとせわしなく辺りを見回している。 「アルウィン、はぐれないようになー。エーリヒ、アルウィンと手を繋いだらどうだ? バナーは……大丈夫かな」 坂上 健は引率のお兄さんらしく、三人に気を配りながら受付らしき場所へと誘導する。 「手……」 エーリヒは健のズボンに掴まったまま、前方でキョロキョロしているアルウィンを見た。アルウィンは両手に持った緋穂が書いたチラシ(お気に入り)を片手に持ち替えて、「ん」と空いた手を差し出した。 「エーリヒ、あんしんしろ。騎士として安心して遊べるように守るぞ!」 「アルウィン、よろしくね!」 健の足の影から出てきたエーリヒは、背中の蝶の翅をパタパタと動かしてアルウィンに近づく。そして小さな手を繋いで。 「きれいなはねだな! うらやましいぞ!」 「そ、そうかな」 傷の治った翅を褒められるのはエーリヒも嬉しいのだろう。にっこり嬉しそうに笑った。その笑顔を見てアルウィンは思う。モフトピアを気に入って貰いたいと。 「旅人さん旅人さん、運動会やってるよ」 受付に近づくと、誘導役のクマアニモフが声を掛けてきた。途端に旅人さんも、旅人さんもとアニモフに囲まれる四人。 「運動会だよねー。ぼくも、参加したいんだよー!」 バナーが答えると、やったー! とアニモフたちから声が上がった。 「なんていうか、参加することに意義があるっていう感じなんだよねー」 「そうだな。勿論、勝てれば嬉しいけれど、負けたから駄目ってことはないからな」 健もバナーの言葉に賛同し、5才児二人に言い聞かせる。負けたからといって癇癪起こすような子ではないとわかっているけれど、泣かれたらちょっとうまくあやせるかわからない。 「じゃあ、旅人さん達は旅人さんチームね! ハチマキは……そうだなぁ、特別に虹色のをあげるよ!」 受付のクマアニモフが取り出したのは、偶然染め上がったという虹色のハチマキ。 「「「うわぁぁぁぁっ」」」 キラキラ輝くそれにはアニモフ達も興味を持ったらしいのだが、みんな使いたがってどのチームが使うか決まらなかったので仕方なくしまっておいたのだという。 目を輝かせるアルウィンとバナーとエーリヒ。こんなキラキラしたハチマキ、本当に『特別』という感じがしてドキドキする。 「旅人さんならいいやー」 「仲良く運動会しようねー」 「ありがとな」 ライオンアニモフやウサギアニモフなど他のアニモフたちの許可も得られたので、健は四人分のハチマキを受け取ってそれぞれに手渡す。バナーは手早くサンバイザーの下にハチマキをつけたが、アルウィンとエーリヒはきらきらした瞳でハチマキを眺めていた。健は自分の分を締めてから、アルウィンに手を出す。 「ほら、二人共つけてやるからな」 「「うん!」」 やっぱり自分で結ぶのは難しいか、ふたりはその言葉を待ってましたというようにハチマキを差し出し、アルウィンが結んでもらっているのをエーリヒがちゃんと順番を待つといった感じだ。 「よし、できた」 「ありがとう、ケン!」 「ありがと」 笑顔でお礼を言われると、健の心も暖かくなる。と、二人の頭を撫でて顔を上げてみればバナーの姿がない。 「ちょっ……」 まさか彼がはぐれるとは思っていなかったので健の背中に嫌な汗が走る。きょろきょろと辺りを見渡したが見当たらない。近くにいないのか? だが次の瞬間。 「こっちこっちー」 どこからか聞いたことがある声が響いてきた。アルウィンが素早く反応する。 「ケン、あっちだ!」 そこは応援席の一画。バナーはすっかりアニモフに溶け込んで、アニモフと一緒に席についていた。健はアルウィンと手をつないだエーリヒと手をつなぎ、二人に無理がない速度で人混みを抜けてバナーの元へと走った。 「よかった、はぐれたかと思ったよ」 安心したように肩を落とす健。バナーはごめんねーとゆるく謝罪した後事情を告げた。 「このリスアニモフたちが場所を少し譲ってくれるって言うからさぁ」 なるほど、バナーはリス獣人である。アニモフ達も親近感が湧いたのかもしれない。 「いいのか? 場所譲ってもらえるなら嬉しいけど」 「その代わり、お弁当の時にでも旅人さんの楽しいお話を聞かせてよ!」 「アルウィンが話してやるぞ!」 商談成立。健はリュックからレジャーシートを取り出して譲ってもらった場所に敷いた。他のアニモフたちも話を聞きたいのか少しずつ場所を譲ってくれたので、四人で楽に座れる広さになった。 * 開会式の後、まず出場することにしたのは玉入れだった。この少し変わった玉入れ、健を除く三人が参加する。健は改めて進行役のアニモフにルールを確認してからエーリヒに向き直った。 「玉入れは上を狙うと良いかもな。エーリヒ、飛行禁止の規定はないらしいから飛んでいいよ。エーリヒは妖精族で、羽があるのが普通なんだ。なら目いっぱい使おうぜ?」 「え、いいの?」 「自己肯定っていうか、自分の特性を生かすのは褒められるべきことだと思うよ。せっかくここに遊びに来たんだ、普段以上に自分らしさを追求しなくちゃ」 いたずらっぽく片目を閉じて見せれば、エーリヒは嬉しそうに翅を揺らした。おそらくいつも翅は傷ついていて、あまり飛ぶことはなかったのだろう。飛んでいい、そう言われたのがとても嬉しそうだ。 「いいなー、アルウィンも綺麗なはね、ほしいぞ!」 「ぼくはアルウィンのしっぽが羨ましいよ!」 ふたりは真剣に相手のことを羨ましがって後、どちらからともなくぷっと笑い出した。おあいこだ。 「バナーはどうする? 何か発明品とか使うのか?」 「器用さを武器に、低いのにいっぱい入れちゃえばいいんだと思うんだよー」 「なるほど、確実に量で攻めるわけだな。よし、三人とも頑張るんだぞ!」 ピピー!! 始まりを告げる草笛の音が聞こえて、三人は勢い良く籠へと走りだした。 「なんか、この玉、おいしそうな感じがするんだよー」 最初に玉を手にとったのはバナー。あんこでできた玉が気になって仕方がない。 「でも、これで入れなきゃいけなんだよね」 甘い香りの誘惑。きっと食べたら美味しいんだろうなぁ……口の中によだれが溜まっていく。 (高いのと、低いのがあるけど、ここはぼくの腕所かな?) 食べるのを我慢して、お餅でできているという籠を見上げる。高い籠に入れる自信がないというわけではないけれど、バナーの腕なら低い籠は楽勝そうで。だったら低い籠にたくさん入れたほうがいいだろうという考えはさっきと変わっていない。 「とにかく、速さと正確さを両方やっておけばいいんだよねー」 しゅばばばっ!! その場にいる誰よりも正確で丁寧な投擲を見せるバナー。リスアニモフ達は自分のチームを応援するのを忘れて、バナーの投擲に歓声を送っている。あんこ玉が入るごとにお餅の籠がびよーんと伸びていくのも楽しい。バナーの投擲が正確なものだから、なかなかいっぱいにならないといわれていた低い籠にどんどんあんこが溜まっていって。 ふるふる、ふるふる……お餅が震えだした。 「えー?」 なんだか様子がおかしい。でも投擲をやめてしまったら負けるかもしれない……バナーはやめずにそのまま投擲を続ける。すると。 みょーん。 あんこの重さで籠が垂れ下がり、そして。 ぶちっ! どすんっ。 「あー」 籠に張ってあった餅があんを包むようにしてフィールドへと落下した。シートが敷いてあったので食べる分には問題無さそうだが。 「この場合、勝負ってどうなるのかなー」 急いで駆け寄ってくる審判役のアニモフを待ちながら、バナーは早く食べたいなーなんて思っていたりもした。 * アルウィンは低い籠狙いで腕に抱えられるだけあんこ玉を抱えてそして、いっせいに投げる! この方法ではそんな高く投げることはできないのだが、そんなこと気にしない。 「あはははは! 雨みたいだ!」 投げた玉は籠には入らず、雨のようにアルウィンの周りに降り注ぐ。だがそれがとてもおかしくて。素早くもう一回、腕いっぱいに抱えては投げる、を繰り返す。とりあえず、ほとんどが外れているのはわかっているが、あんこが降るというのも楽しい。仕舞いには投げた側から口を開けて口で受け止めてみたり。 「あまーいぞ!」 ちょっとだけでも口の中に甘さが広がって。なんだか元気が出る。ちらっとエーリヒを見れば、腕いっぱいに玉を抱えてはよろよろと飛び立ち、高い籠の中に落としている。脇目もふらずにきちんと頑張っているエーリヒは真面目なんだな、とアルウィンは思った。 「よし、アルウィンも頑張るぞ!」 触発されたのか、アルウィンは今度こそ(!)籠めがけて玉を放る。案の定、ほとんどは籠に到達する前に落ちてしまったが、2つだけ籠に入ったのがわかった。 「やった! アルウィンも入れたぞ!」 「すごいすごい!」 入ったのがわかると思ったよりも嬉しくて。ガッツポーズをするアルウィン。その姿を見たエーリヒが手を止めて拍手してくれたものだから、アルウィンは次も頑張ってなげた。 今度は3つ入ったものだから、もっともっと嬉しくなった。 * 「バナーすごいぞ!」 「すごーい、一番だ!」 結果、籠が落ちるまで玉を入れられたのはバナーだけで、審判もちょっと困っていたがたくさん入れたのは確か。アルウィンもエーリヒも頑張っていたので、旅人チームが玉入れの『一等賞』に輝いた。 「やったな!」 観客席で声援を送っていた健が戻ってきた三人に麦茶を差し出す。運動の後はきちんと水分補給しなくては。あずかっている子供達を脱水症状で倒れさせる訳にはいかない、健は三人がしっかりと水分補給をしているのを見て、小さく頷いた。 「次に出るのは棒引きか」 会場ではグミの綱を引く綱引きが行われている。人数が少ないのでこの競技は辞退したがおいし……たのしそうだ。 「あの綱もあとで食べられるのかなぁ」 「きっとさっきのあんこ餅と一緒に食べられるはず……だろ?」 エーリヒとアルウィンが指をくわえるように綱を見て、そして健を見上げる。 「ああ。運動会が終わったら、競技で使ったお菓子も食べられるらしいぞ」 「たのしみだねー」 バナーも食べたくてウズウズしているよう。楽しんでくれているという思いが伝わってきて、健も嬉しくなる。 「棒引きか。短い棒を何往復、その方が気にしないで引きずり回せると思うよ」 「棒をいっぱい持っておくっていうのはどうかなー。相手にとられるより先に取って持って帰ればいいと思うんだけどねー」 健のアドバイスにバナーが付け足す。健が改めてルールを確認すると、一度に複数本持ってはいけないというルールはなかった。 「さすがだな、バナー!」 「アルウィンは長い棒がいい!」 「じゃあ、ぼくもてつだうよ!」 子供には長い棒のほうが魅力的なのだろう。長いほうが折れやすいというから、折れて泣かないといいが……。 「よし、精一杯楽しんでこい!」 棒引きを始める旨のアナウンスを耳に留め、健は三人の背中をぽんと叩いた。 「いくぞー!」 「おー」 駆け出したアルウィンの頭の横をエーリヒが飛んでいく。目指すは一番長い棒! しかし同じ事を考えている者は多く、一番長い棒にアニモフ達が殺到した。二人はもふもふに埋もれつつも何とか棒に手を伸ばす。しかしうまく身動きがとれない。 その隙にバナーは誰も狙っていない棒を何本か陣地へと持ち帰っている。細かく動くのは得意だ。陣地へ棒を置いたらすぐに取って返して別の棒を掴む。陣地へ向かおうとすれば、棒の後ろを掴もうとネコアニモフが狙ってきたので、細かく動いて翻弄してみせる。棒の動きに注目して何度も手を出したネコアニモフだが、そのまま翻弄されて気がついた時には棒はバナー達の陣地へと到達していた。 「むぅー、こうなったらー!」 「?」 ぎゅむぎゅむもふもふとおしくらまんじゅう状態のアルウィンとエーリヒ。アルウィンがなにかこの状態を打破する方法を思いついたのか声を上げた。エーリヒは必死に棒を掴んだまま首をかしげる。 「ばあっ!!」 「「!?」」 一瞬、アルウィンの向かい側にいるアニモフ達の動きが止まった。かと思えば大声で笑い出して手から力が抜ける。アルウィンの面白い顔が効いたのだ。 「わぁっ!?」 だが急に向こうから引っ張る力がなくなったものだから、アルウィン達がいる側はすってんころりんと尻餅をついてしまうことになった。だがアニモフが下敷きになってくれたのか、思ったより痛くはない。 「だいじょぶか?」 「平気?」 二人が棒に手を添えたままアニモフ達を心配していると……長いゆえにぐわんとたわんだ棒から嫌な音がした。 パキッ 「「あ」」 カランカラン……。 元々折れやすくなっている一番長い棒はあっけなく折れてしまって。 「折れた……」 唇を噛み締めて、アルウィンもエーリヒもじっと棒を見つめている。観客席からそれを見ていた健は二人が泣いてしまうのではないかと心配で腰を浮かせた、が。 「エーリヒ、次は頑張るぞ!」 「うん!」 二人は泣くのを我慢して、次の棒へと走った。その姿がいじらしくて、戻ってきたら泣かなかったことを精一杯褒めてやろうと思った。 * 「わあ、健さん、お弁当ありがとう!」 「アルウィンのお弁当も食べてくれ!」 健の持ってきたお弁当は刻んだ梅干しやおかかを混ぜ込んだおにぎり、それに唐揚げと玉子焼きと野菜炒め。 アルウィンのお弁当はベーグルサンドにマッシュポテトやゆでたまごにウインナー。 「アルウィンも手伝ったんだ! べーぐるぐるにハムとチーズを挟んで、ゆでたまごのカラもむいたぞ!」 「すごいねー。お手伝い偉いんだよー」 ひとついただくねー、とバナーはベーグルサンドを手にとってぱくり。エーリヒもベーグルサンドと唐揚げを交互に食べて「おいしい!」と声を上げた。 「ゆでたまご、カラは硬かったけどアルウィンがんばった。でも、黄身しか残らなかった!」 そのエピソードに周りのアニモフ達から笑い声が漏れる。 「ああ、あれはコツがいるもんなぁ。茹でる前にちょっと下準備しておくとツルンと剥けるって聞いたことがある」 「本当はタコさんウィンナーも作りたかったのだ。でも包丁は危ないからだめっていわれたんだ」 「でも自分からお手伝いするのすごいと思う!」 マッシュポテトをいただく健に、おにぎりにかぶりついてアルウィンは告げた。ウィンナーは綺麗なタコの形になっていた。エーリヒは自分もお手伝いしてお弁当持ってくればよかったと呟いてアルウィンに尊敬の眼差しを向けた。 「でもまっしゅぽいっとはうまくいった!」 「マッシュポテトな。うん、美味いよ」 「おいしいねー」 健とバナーにもほめられて、アルウィンはくすぐったそうに笑顔を浮かべた。 * 午後一の競技は借り物競争だ。 「借り物は俺も参加するよ」 健も腹ごなしに参加するつもりだ。なにせ午後の部が終わった後にはお菓子が待っているのだから。 いっせいに駆け出す選手たち。フィールドに並べられた葉っぱの中から好きなものを拾ってそこに書いてある品物を探す。 アルウィンが引いた葉っぱに書いてあったのは『キャンディでできた鈴蘭』だ。良い香りがするらしい。 「よしっ!」 仔狼姿に変身したアルウィンは、その場にいた誰よりも早く借り物を探しに飛び出した。だが……目的の物がどこにあるのかわかっているのだろうか。 「なんてかいてあるのかなー?」 バナーが拾った葉っぱに書かれていたのは『チョコレートで出来た槌』。握ると溶けるから注意が必要だ。溶けてしまうなら槌として役目を果たせるのかという疑問はまあモフトピアだから、でなんとなく解決してしまった。 「これ、どこにあるんだろう?」 エーリヒが選んだ葉っぱに書かれていたのは『パイでできた椅子』。なんとなく座ったら壊れてしまいそうだが。きょろっと視線を動かして本部のわたあめテントの中を見るけれど、どうやらそこで使われてはいないらしい。 三人が観客に呼びかけつつ走っていく中で、健だけは葉っぱを拾った位置に立ち尽くしていた。 「……はい?」 それが葉っぱに書かれた文字を見た時の第一声。 『虹色のむちゃむちゃぷりん』 とりあえず意味がわからない。いや、虹色なのはわかるけど。ぷりん? むちゃむちゃって一体何!? 「すみません、これって一体何のことですか!?」 仕方なしに本部にいるアニモフに聞いてみると、どっと笑いが起こる。 「たびびとさんがこれ引いたのかー」 「はい、なんだか教えて欲しいんですけど……」 「これはねー……」 本気で困った様子の健に、アニモフは笑いながら教えてくれた。 「んなもんわかるわけないだろー!?」 会場の裏手にある山で、むちゃむちゃぷりんと戦っていた。……いや、むちゃむちゃぷりんを守る蔦植物に足を引っ掛けられ、打たれながら容器に何とかむちゃむちゃぷりんを少しゲットするべく。 むちゃむちゃぷりんとはとーってもぷりんぷりんしたゼリー状の物体のことだった。裏山の池にたくさんあったが、虹色の物は少ししかなく、そこにたどり着くまでにぷりんぷりん身体が弾むは蔦は襲ってくるわで、漸く辿り着いた時にはもう次の競技が始まっていた。 「安定のドンケツか……とほほ」 残りの三人は時間内に借り物をもっていけたようで、アルウィンが一番だったのが幸いだった。 * 最後の競技はトンネルキューブ。 「どんな順番で滑ろうかー?」 「長く滑りたい順でじゃんけんして決めれば良いんじゃないかな。1番長く滑りたい人が1番手になると良いと思うよ。楽しむの優先な」 バナーが首を傾げると、健が順番決めの方法を提案した。 「いいんじゃないかな。ぼくはどこでもいいよー」 「アルウィンいっぱいすべりたい! エーリヒは?」 「ぼくはちょっと怖いかな……」 バナーが年長者らしく譲り、アルウィンは元気よく手を挙げる。エーリヒは少し心配そうだ。健はそれなら、と口を開く。 「ならエーリヒは真ん中がいいんじゃないか?」 「アルウィン、エーリヒが怖くないように後ろからぎゅってしてあげるのだ!」 「ぼくの背中にも抱きついていいよー」 三人の優しい申し出に、緊張で固まっていたエーリヒの表情が緩んでいく。 「ありがとう、がんばるよ!」 「みんなが楽しめるのが1番だからな」 健は一番手にアルウィン、二番手にエーリヒ、三番手にバナーを配置することを本部に報告して、三人を待機場所へと連れて行く。 「ゴールで待っているからな!」 もはや運動会を見守る親の心境であった。 「ぷおおー!」 アルウィンは開始の合図とともに思いっきり足元を蹴って勢いをつけた。マシュマロのクッションを握ってそのまま前屈姿勢。そうすると重心が前に来て、更にスピードが上がる。 「きゃわぁぁぁぁ!」 虹色のトンネルを構成している壁がどんどん後ろに流れていく。向かい風が顔を揺すってなんだか変な声が出た。けれども楽しい。癖になりそうだ。カーブするときには身体を一緒に倒して、ぐんぐんと進んでいく。 「エーリヒィィィィィィィ!!」 先に小さな後ろ姿が見えて、アルウィンは叫んだ。ぶつかる時に衝撃があるかもしれないから少しでも怖くならないように。エーリヒが衝撃に備えてきゅっと身体を丸めるのがわかった。 (ぶつかるっ!) アルウィンも衝撃に備えた。だが彼女が乗っているマシュマロのクッションは先程あんなにスピードを出していたと思えぬほど優しくぼふんっとエーリヒの乗っているクッションと連結した。今度はエーリヒを先頭にして、二両編成になったクッションは滑りだす。 「エーリヒ、アルウィンいる、怖くない!」 後ろからエーリヒをきゅっと抱きしめて、アルウィンは顔を叩く風に負けぬように叫んだ。エーリヒはしっかりクッションに掴まって、頭を低くしている。 「怖くないからな!」 彼を励ますようにしながら、アルウィンは足元を蹴って速度を上げる。風は全て先頭のエーリヒが受けてくれるから、さっきよりは声を上げやすい。 カーブを何度か曲がったところでアルウィンがエーリヒの背中からひょいと顔を出せば、前方にバナーの姿が見えた。 「エーリヒ、もうすぐバナーのところにつくぞ! 顔を上げるんだ!」 「う、うんっ……!」 「ふたりともー、こっちだよー」 バナーは余裕の表情で後ろを向いて手を振っている。そして、ぼふん。先ほどと同じようにクッションが連結。これで三両編成となったクッションは、真っ直ぐな坂を滑り降りていく。 「エーリヒーしっかり掴まってーぇぇぇぇぇぇぇぇー」 バナーの声が向かい風でぶるぶる震えている。だがエーリヒには無事に届いたようで、彼はおそるおそる伸ばした手をバナーの胴に回して、ぎゅっと抱きついた。バナーが前かがみになると、一気に速度が増した。 * 「「「いっただっきまーす」」」 トンネルキューブでは、ライオンチームと同着で優勝になった旅人チーム。運動会が終わった後はみんな仲良くお菓子を分けあっていただく。全力で頑張った後だから、お腹もすいていて。 「モフトピアは最高な場所なんだよー。やっぱり、ここはいいところなんだよー」 「エーリヒはどうだった?」 バナーは色々なお菓子を順番に食べながら目を細める。お菓子を取り分ける健に訊ねられたエーリヒは、満面の笑みを浮かべて。 「とってもたのしかったよ!!」 「なら、帰ったら今日のことを絵に書いてヒスイに渡すのがいいぞ! アルウィンの紙、わけてやるな!」 頬張ったあんこを嚥下したアルウィンは、自分の落書き帳を数枚破ってエーリヒに差し出した。 「いいの?」 「もちろんだ! ヒスイはきっと喜んでくれる」 「ありがとう!」 エーリヒは礼を言ってもらった紙を丁寧に自分の鞄へとしまった。 楽しい時間はあっという間に過ぎていくもの。 またこんな時間を過ごせるといいね。 【了】
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