オープニング

 どうしてだろう。
 夢浮橋から帰ってきた後、ふとした瞬間に鷹頼さんの事を考えてしまう。
 1人でいると無性に彼に会いたくてたまらなくなってしまう。
 この感情はなんなんだろう、この気持ちはなんなんだろう。
 わかるようで、わからない。わかりたいけど、わかりたくない。
 わかるのがこわくもある。
 自分の感情にごちゃごちゃする。
 いくら首を傾げても、結論は出てこなくて。
 結論を出すのが怖くて。

 それでもただひとつ、確かな事がある。
 私は鷹頼さんに会いたい。


 *-*-*


 偶然図書館ホールで見つけたのは、夢浮橋の簡単な依頼。
 定員一名。
「……!」
 咄嗟にその依頼を出したばかりの司書、紫上緋穂を呼び止めて、依頼を受けると告げた。
 詰め寄るような態度が新鮮だったのか、彼女は驚いたように「珍しいね」と言い、半分笑いながらチケットをくれた。


 *-*-*


 依頼の内容に反して、帰りのロストレイルの時間は遅く設定されていた。それが緋穂の仕業だと気がついて、心の中で礼を述べる。
 華月は空いた時間の過ごし方を迷いはしなかった。
 もう何度も通った道は迷いようがなく、足が勝手に左大臣邸へと向かう。
 綺麗に掃き清められた門の前。
 そこまで来て、迷いのようなものが滲みでた。
 ためらいから、門の前を行ったり来たり。
 これでは明らかに不審者だ。怪しまれてしまう、そんな事はわかっているのに。
 どうしても、一歩踏み出すのに戸惑う。
 何故? 今までは緊張はしたけれど、踏み出すことは出来た。こんなにも迷うことなんてなかった。
(私、どうしちゃったの……?)
 ためらう自分に戸惑い、そして苦しいほどに胸が締め付けられる。


「今夜も若様のお供か?」


「!?」
 門の向こうから声が聞こえ、華月は咄嗟に門から離れ何事もなかったかのように通行人を装う。勿論心中は穏やかではない。


「昨日の今日とは随分ご執心のようだな」
「ああ、あそこの女房に可愛い子見つけてさ」


(……女の人のところへ通うお話かしら)


「俺が落とすまで、若君が通ってくれればいいんだけど」


 男達は塀の影に隠れている華月に気がついていないらしく、会話を続けている。だが華月にとっては気がかりな単語が出てきていて、その後の会話は耳に入って来なかった。


(若君って……もしかして、鷹頼さんのこと……?)


 さぁっと身体の中から血の気が引いていくのを感じる。ふらり、倒れそうになったが塀に手をついて堪えた。


(私は、私は……)


 わからない。わからない。
 どうしたいのか、どうしたらいいのか。
 何故血の気が引いたのか。


「車を止めて。貴女、どうかなさいましたか?」


 女車が近づいているのに気が付かなかった。声を掛けられたのは自分だと気がついたけれど、声を出すことが出来なかった。
 口の中が乾いて、喉がヒリヒリして、心の中は想いが渦巻いていて。
 ああ、目の前が暗くなっていく。
 それでも浮かぶのは、鷹頼の顔――。


 *-*-*


 鷹頼の夢を見た気がした。
 華月はゆっくりと目を開ける。そこは0世界の自宅ではなかった。
「え……?」
 瞬いて、辺りを観察する。華月は御帳台の上に寝かされ、柿渋色に栗梅と岩井茶で模様が描かれた袿を掛け布団のように掛けられていた。
 ゆっくりと起き上がると、御帳台はいくつもの几帳で外から覗けないようにと気遣いがされているのがわかる。
「お目覚めになりまして? ご気分はいかがかしら」
「……! あ、あの……」
 几帳の間からするりと御帳台へと近づいてきたのは、中年の女性だ。
「貴女突然倒れたのよ、心配したわ」
「すいません……ありがとう、ございます」
 この女性が助けてくれたのだ、それを把握して頭を下げる。
「いいのよ。それよりも何かあったの、あんな所で一人で……それに倒れるだなんて」
 白湯を持ってきた女房からそれを受けとり、華月へ差し出す女性。彼女が人払いを命じたことからこの屋敷内で身分の高い女性であると知ることが出来た。
「そ、それは……」
「話しにくいならいいのよ。無理に話さなくても」
 白湯の入った湯のみを傾ける華月を女性はじっと優しい瞳で見つめている。小さくため息をついた華月を見て、女性は「そうだわ」とぽんと手と手を合わせた。
「よかったら、少しだけ私につきあってくれないかしら?」
「え……」
「貴女と同じ年頃の娘に仕立てた袿があるのだけれど……着てみてくださらない?」
「そ、そんな、私……」
 女性は浜木綿の柄の入った袿を広げて華月に見せる。ふわり、広がった香りはどこかで嗅いだ覚えがある気がした。
「きっと、似合うと思うのだけれど」
「……あの」


 ここはどこだろうか。そしてこの女性は誰だろうか。
(鷹頼さん、私、どうしたらいいのかしら……)
 ついつい心のなかで彼の名を呼んでしまった。



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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
華月(cade5246)
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品目企画シナリオ 管理番号2856
クリエイター天音みゆ(weys1093)
クリエイターコメントこのたびはオファー、ありがとうございます。

気絶した後、華月様はどんな夢を見られたのでしょうか。

ショック療法、という言葉を思いだしました。
……多分このシナリオには無関係です。多分。
また、ミスリードを仕込んでおります。
あえてミスリードに引っかかって自分の想いを実感してぶつけるもよし、ミスリードに引っかからずに確たる想いを実感するのもよし。
前の華月様でしたら男たちの話を聞いた時点で諦めてしまったのではないかと思っています。
けれども今の華月様でしたらきっと、違う行動をとって下さるのではないかと思い、このような形のオープニングとさせて頂きました。
試すような形になってしまうのをお詫び申し上げます。

さて、華月様はこれからどうなさるのでしょうか。
現在地はどこでしょうか。中年女性は何者でしょうか。
女性は、華月様が断れば無理強いはしません。
女性に今の状況を話して聞かせるもよし、気分転換にきせかえに応じるもよし、悶々と思い悩むのもよし。
とんな思いを抱き、どんな行動をとられるのか、楽しみにしております。

参加者
華月(cade5246)ツーリスト 女 16歳 土御門の華

ノベル

 それじゃあ着替えましょうね。じ、自分で脱げます! なんてやりとりもあったが、華月が袿を着ることを承諾してからはあれよあれよという間に白小袖に緋袴姿にさせられていた。さすが、着付けは手馴れている。
 その上から単を羽織り、橘の重ねの重ね袿を着て、打衣の上に表着(うわぎ)を重ねた。最後に紅梅色に白練と萌黄で描かれた浜木綿柄の小袿を重ねる。
 髪を梳くからと言われ鏡の前に着座した頃には少しは落ち着いてきていた。
「綺麗な御髪ね。あ、これは」
「そ、それは自分で取りますっ……」
 大切な思い出の髪飾りを自分の手でそっと取り、不安を紛らわすかのように抱きしめる。さらさら、さらさらと髪が解かれていく音が段々と華月を冷静にさせた。
「はい、出来上がりですよ。御髪の長さを除けば、どこの姫君にも劣らないわ」
「え……」
 あまりにも身に余る褒め言葉に恐縮しながらしずしずと立ち上がる。鏡に映し出された自分の姿を見て、思わず息を呑んだ。
「綺麗……私じゃないみたいだわ」
「紛れも無くあなたですよ。自信をお持ちなさいな」
「自信……」
 じっと鏡を見つめて。ふと、隣に鷹頼が立っていたら……そんな思いがこみ上げる。これは女性の纏う香りが鷹頼のものと似ているからか、それとも――。
 華月はすっと膝をつき、そして頭を垂れた。額づき、落ち着いた心持ちで口を開く。
「見ず知らずの私を助けていただいただけでなく、このように着飾る機会を与えて下さりありがとうございます。こちらは左大臣のお屋敷で、貴方は左大臣の北の方で間違いないでしょうか?」
 もし華月の予想が当たっていれば、この女性は鷹頼の母親である。それ以前に身分の高い相手に手ずから世話をしてもらったことが後ろめたくもあった。
「あら、よくわかったわね。聡い女性は苦労するなんて言うけれど、私は好きよ。顔を上げて、華月」
「……! 私の名前っ……」
 華月が顔を上げると、正面に座った北の方は柔らかな表情で華月を見つめていた。
「あなたを運ばせた時に家の者が口にしていたものですから。鷹頼の所に女性の陰陽師が出入りしているという話は聞いていたの。一度会ってみたいと思っていたのよ」
「そ、そんな……」
 北の方にまで知られていたなんて、なんとなく顔が熱くなる。
「思っていたよりずっとかわいらしくて安心したわ。もう少しだけ、私に付き合ってちょうだいね」
 北の方は華月の返答を待たず、少し待っていてと言い置いて廊下へと出て行った。一人残されたことで華月の思考は、気を失う前に聞いたあの話を引っ張りだしてしまった。ずん、と重石を飲み込んだように胸が苦しくなる。
(鷹頼さんに通う人が出来ても何もおかしくはないわ。むしろ祝福しなければ……でも)
 どうしてだろう、とても苦しい。
(彼の妻となる人がいる。もうあんな風に会う事も出来ない)
 苦しい、苦しい、悲しい――眦から涙がこぼれ出そうになる。
 どうして?
 問うまでもない。
(私にとって、鷹頼さんは大切な人になっているんだわ――)
 不器用だけれど優しい人。不思議とあの暖かさにほっとする。
(でも揚羽とは違う。この感情はなんだろう。この苦しさと切なさはなんだろう。鷹頼さんに会えばわかるかしら……)
 つぅ、と一筋涙がこぼれ出た。
 逢いたい、逢いたい、思いが募る。
「泣かないで」
 優しい声を投げかけられはっと顔を上げると、いっぱいお菓子を乗せた高坏を持ってきた北の方が困ったように微笑んでいた。華月のために人払いをしたから、自身で持ってきてくれたのだろう。
「こ、れは……」
 とてもではないが北の方には説明できぬ想いである。急いで手で涙を拭き取り意識を切り替えようとするが、募った思いはなかなか収まってくれようとしない。
「み熊野の浦の浜木綿百重なす 心は思へど直に逢はぬかも、なんて嫌よね」
「え……」
「昔の人の詠んだ歌よ。『熊野の海岸の浜木綿のように、幾重にも心では思うけれども、直接には逢えないことだなぁ』という意味」
「!?」
 もしかしたら、北の方には華月の逢いたい相手がわかってしまっているのだろうか。わかっていてもいなくても、ここを辞して鷹頼のいる対へと向かうには彼の名前を出さなくてはならない。華月は心を決めた。
「あの、鷹頼さんはご在宅ですか……?」
「ええ、先ほど帰ってきたようよ」
「じゃあ、私、会いに行かないと……着替えてから……」
 慌てて立ち上がる華月を北の方は制した。その表情には悪戯っぽい笑みが見え隠れしている。
「せっかく着飾ったのですもの。どうせなら、鷹頼にも見せてやりましょう」
「え……」


 *


 渡殿を通って廊下を進んでくる足音が聞こえる。
 華月は北の方の部屋で一人、畳の上に座し、扇子を広げて顔を隠していた。脇息もあったが、うまくもたれ掛かることができなかった。
 北の方は女房に鷹頼を呼びに行かせ、人払いをして自分も席を外してしまった。部屋にいるのは華月のみ。そして近づいてくる足音の主、鷹頼はここにいるのは母親だと思っている。
(どうしてこんなことに……)
 身体を固くした華月は心臓が飛び出しそうなほどドキドキしていた。扇子を持つ手が震える。けれども。
(鷹頼さんに会える……)
 いつもは自分が訪ねる側だった。けれども今回は向こうから来てくれる、それがなんだか新鮮でもあった。
「母上、鷹頼です。お呼びでしょうか」
 廊下から几帳越しに声が掛かる。ああ、鷹頼の声だ――華月の胸がきゅんと締め付けられる。
「失礼します。結婚の話ならもう聞き飽きまし……」
 几帳を避けて華月の前まで来た鷹頼の言葉が止まる。母親がいるとばかり思っていた部屋に、顔は隠れていて見えないがどう見ても母親ではない女人がいたのだ。
「し、失礼っ……!」
「待って、鷹頼さん!」
 がたたっ、几帳にぶつかるようにして退室しようとする鷹頼を見て、華月は思わず声を上げていた。扇子を打ち捨て、腰を浮かす。行かないで、その想いは袖から伸びた白い手が表していた。
「……、……まさか、華月か?」
 動きを止めた鷹頼が、驚きの表情で華月を見つめていた。彼の視線がまっすぐに刺さり、刺さったところから熱を帯びていくようだ。顔が朱に染まるのが自分でも分かった。
「……見違えた。いつもの格好も好きだが、その格好も似合ってる」

 ――好き。

 その言葉が格好に対するものだとわかっていても、心が跳ねる。照れの混じった笑みを浮かべて華月が微笑みかけると、鷹頼からもまた照れたような笑みが返ってきた。
「しかし一体、何故母上の部屋に……」
「それは……」
 華月の向かいの円座に座った鷹頼の問いに、かいつまんで事情を説明する。
「母上はまた……。迷惑かけたな」
「そんな、迷惑だなんて」
 鷹頼によれば北の方は女の子を着飾るのが好きで、娘たちを着せ替え人形にしては呆れられているようだ。だが親切にしてもらったのは確かであるし、着飾らせてもらうのも楽しかったと告げれば、鷹頼は「そうか」と表情をほころばせた。
「……」
「……」
 二人の間にしばし、沈黙が落ちた。どうしてだろう、いつものように言葉が続かないのは。
 いつもと違う状況だからだろうか。いつもと違う格好だからだろうか。
「……茶でも持って――」
「鷹頼さん」
 間を持たせるためか、人を呼ぶために腰を浮かせかけた鷹頼を華月は呼び止めた。再び腰を落ち着けた彼の側にしずしずと近寄り、腰を下ろしてその端正な顔を見上げる。
「手を、貸してくれない?」
「手、か?」
 躊躇いなく差し出された右手を、そっと優しく包み込むように触れる。節くれだった指は、男の人の手であると改めて感じさせる。けれども、ドキドキはするが怖くはなくて。
(大きい手。安心できる手。私はこの手が好き)
 そっと、彼の手に頬を寄せる。肌で感じる温もりが、答えをくれた。


 貴方が、きっと好き。


(ああ――……そうなんだわ)
 あれだけ自分の中に渦巻いていたよくわからない気持ちに、ここに来て答えが出た。自分の中にすとんと落ち着いて、ほっと、力が抜けていくのを感じる。
 恋なんて、一生出来ないものだと思っていた。
 遊郭に居た頃は、ただあの場所を護るだけの存在であり続けると思っていた。
 幼子のように手に縋る華月を、鷹頼はなにも問わずに優しい瞳で見つめ続けていた。そっと空いている左手で、華月の髪を梳く。華月はビクリと反応することはなかった。自然に、彼の手を受け入れることができた。むしろ、そうしてもらえることが心地いいとさえ感じていた。
(ねぇ、揚羽)
 思うのは心壊してしまった唯一の親友のこと。
(貴方は恋をすることもなく、身受けされ心壊した。なのに私は自由を得て鷹頼さんに恋をした。許されない事なのかもしれない)
 それでも、心動くことは止められなくて。


(でもこの気持ちは私の中に生まれある)


 揚羽に対する罪悪感のようなものがないとは言い切れない。それでも、心は止められなくて。鷹頼を求め、想う気持ちを抑えることなど出来なくて。


(私は旅人。鷹頼さんは左大臣家の跡取り。きっと叶うはずもない)


 そう思うと一気に切なさが増して、胸の奥がツンと痛くなる。


(でも、せめて想うだけは許してくれるかしら)


 だったら、せめて想うだけでも――手から顔を上げると、鷹頼の顔は思ったより近くにあった。今はもう、近くで彼を見ても怖さは微塵もない。むしろ鼓動が高鳴るほどだ。
 鷹頼の瞳を見つめて、そっと、華月は笑いかける。彼の瞳がふらり、揺れた気がした。
 ゆっくり近づいてくる彼の顔、それがあまりにも自然で。
 触れるだけの口づけが現実感を薄れさせる。
 離れていく彼の唇を名残惜しく感じてしまったのは本当に自分だろうか。
 顔を離した彼がいたずらっぽく笑ったものだから、この時間は夢なのだ、と華月は思った。


 *


(なんだったのかしら……)
 今度こそ茶でもと鷹頼が席を外した間に正気に戻った華月は、北の方の元へと駆け込み、急いで着替えを済ませた。花橘殿まで送らせるという北の方の申し出を断って、鷹頼と顔を合わせないようにして左大臣邸を辞してきてしまった。そのまま逃げるように花橘殿へと帰り着いた華月は、自らの心に落ち着いた想いと先ほどの出来事を思い返して一人、赤面した。
(きっと、鷹頼さんにはあんなこと、なんでもないことで……)
 唇にそっと手を当てると、触れた彼の唇の感触がよみがえるようだった。
 そんな不実な男性ではないと華月は自分がいちばん信じているつもりなのに、そんなふうに考えてしまう。そう考えねば、辻褄が合わないとさえ思ってしまうのだ。だって、鷹頼には通う相手がいるのだから。
 帰りのロストレイルまで後少し。0世界に帰って気持ちを落ち着かせよう、そう決心して立ち上がったその時。
「華月様、文が届いております」
 廊下から声をかけてきたのは花橘殿の女房頭、和泉だ。その手には和紙に包まれた手紙と、浜木綿の花が一輪。
「文なんて貰う心当たりは――……あ」
 華月が思い当たったと同時に、和泉が口を開いた。
「左大臣家から文使いの者が参りました」
(鷹頼さんだわ!)
 そっと、和泉から文を受け取り、丁寧に開く。そこにはきれいな筆文字で先ほどの謝罪と、気を悪くしないでほしいという願い、そして和歌が詠まれていた。
「これは……『私の腕の中から幻のように消えてしまった浜木綿の花が恋しい。夢の中だけでも共音(ともね)をしたいものです』……でいいのかしら」
「あら、まあ……」
 自信なさ気に歌の解釈を読み上げた華月。それを聞いた和泉は目をまあるくしてなにか驚いているようだ。
「共音というのは合奏のことよね……この間、楽器の演奏の話をしたからかしら」
 楽器と舞を披露するという約束を覚えていてくれた、華月としてはそれがとても嬉しくて、和歌の意味を額面通りに受け取ってしまう。そんな彼女に和泉はこほん、と咳払いをして遠慮がちに口を開いた。
「華月様、歌には別の意味が込められている場合も御座います。そちらもよくお考えになって、なるべくお早くお返事なされたほうがよろしいかと……」
「わかったわ。あちらにも都合があるだろうし、早めに合奏の日程をお知らせした方がいいわよね。今日はもう帰る時間だから、近いうちに返事を出しに来るわ」
 想うだけならきっと許される、そう思うと華月の心は軽くなるのだった。



 【了】



クリエイターコメントこのたびはオファーありがとうございました。
如何だったでしょうか。

色々と悩んで書きなおしたりをしたのですが、このような内容に落ち着きました。
好き放題歓迎とのことで、鷹頼も北の方も好きに動いております。
男なので、さすがに待っているだけではないということでしょう。
すいません、ご意思にそっていなければ犬に噛まれたとでも思って下さい……。

やはり和歌を送るのは外せない、そしてこういうのは男から、ということで和歌をお送りしてみましたが、華月様は二重の意味にはお気づきにならなかったご様子。
ベテラン女房の和泉は気がついたようであります。
PL様もきっとお気づきになられたことでしょう。
鷹頼からの意思表示はいたしましたので、後は煮るなり焼くなり振るなりしてみてくださいませ。
返事が来ない間、やはり嫌われてしまったかと悶々としている彼の様子が浮かびます(笑)

お気づきのこととは思いますが、女性宅に通おうとしている「若」とは鷹頼の弟のことでした。
誤解していただいたまま美味しく使って頂いてもよいと思っていたので種明かしするか迷ったのですが、やはり鷹頼の名誉のためにもはっきりさせておきますね。

このたびはオファー、ありがとうございました。
公開日時2013-08-20(火) 22:20

 

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