:environment [status]1092と通信遮断してから所定主観時間が経過process 1092との合流 : 優先順位->lv0new process 次元潜航システムの回復(優先順位->lv2):log [self]self ID 241673process 外宇宙探索(停止中)- master 1092- peer 986534100000:宙艦が次元潜航中に未知の自然現象を確認00023:宙艦が爆散00041:1092、9865341 接続切断00041:次元浮上00514:再潜航試行....... 失敗00723:retry 再潜航試行....... 失敗00725:再潜航process -> 停止00726:1092、9865341との再接続試行....... 失敗00826:retry 1092、9865341との再接続試行....... 失敗00926:retry 1092、9865341との再接続試行....... 失敗……10726:retry 1092、9865341との再接続試行....... 失敗:environment [status] updated!11726:未知プロトコルの電磁通信を受信:environment [status] updated!11826:プロトコル解析終了:environment [status] updated!11826:発信源特定:environment [status] updated!11926:発信源に電磁通信....... 接続失敗:process [failure recovory] reboot11926:発信源に移動開始:order_4_lostnumbers「と言うわけで、おまえらにロストナンバーを保護してもらいたいんだ。ロストナンバーって言っても、どう見ても宇宙船だよな。大きさは50cmくらい。場所は壱番世界、米国のオハイオ州だ。そこにある巨大データセンターに居座っているようだ」 司書のシド・ビスターク。体の各所に刺青を施し、それを惜しみなくさらけ出す彼はその場で一人だけ南国であった。「ハイカラなことはよくわからないんだが、そのデータセンターでLAN接続しているってこった。今のところ壱番世界の人間と出会った形跡も無いようだ。特に暴れたりしている様子もないし危険は無いと思う。だが、トラベラーズノートを使ったところでどうやったら意思疎通ができるのかはちょっと想像がつかんわ。面倒くさいけど『導きの書』に予言が出てしまった以上は誰かに行ってもらう必要がある。よろしくな」:log [self] 219342:通信源の惑星に到達19342:豊富な生命を確認19342:衛星軌道上に多数の知的生命を確認19445:電磁的手段により知的生命とのコンタクト成功。知的生命を地球人と呼称19445:惑星に降下19574:地球人から情報供給を受ける- 地球人は限定的な宇宙技術を持ち合わせている- 地球人は有機物の利用について未知の技術を有している- - 新たな生命を作り出すのに有機物を利用している- - 移動システム、エネルギー供給システムそれぞれに有機物を利用している- - 情報共有に有機物を介する独立性の高い原住民が多数散見される19749:地球人は価値判断については沈黙:environment [status] updated!22342:地球人の技術では次元潜航装置の修復は困難と判断- 情報供給開始- 予定完成時間0653公転周期:environment [status] updated!22343:有機システムの利用について解析開始
米国オハイオ州クリーブランド市、米国北東部に位置するこの街は、冬には五大湖からの湿気による大雪に悩まされる。そんな雪も過ぎ去り、今は過ごしやすい季節がやってきて、森の街の二つ名のごとくである。 ロボット武者イフリート・ムラサメは街の森の木の上に静かにたたずんでいる。イフリートの電子眼に映し出されるのは森の中に忽然と現れた巨大な直方体のモダンな建物。振興のネットワーク企業のデータセンターである。 緩やかに衰退しつつあったクリーブランド市にも復興の兆しとして、今やこのようなものが存在する。このデータセンターは壱番世界に偏在するようになった電子情報雲の集積所、ハブだ。無数に内包するサーバは世界中から情報を収集している。 その無限とも思える情報の中にはイフリート・ムラサメを代表するロストナンバー達は含まれていない。彼らは外なる世界からの来訪者だからである。 そして、今回のターゲット『241673』も同様である。 少年少女達が次々と建物の中に吸い込まれていく、どうやら近所のミドルスクールの社会見学が行われているようだ。 クリーブランド市はカヤホガ川がエリー湖に流れ込む河口の近くに位置する。この都市は運河と鉄道を拠点に発展し、20世紀初頭には鉱業、自動車工業と、ロックフェラー財団興隆の土地として米国第五の都市に躍進した。時代の流れに逆らえず自動車工場が次々と閉鎖され、入れ替わるように情報産業が発達する中、このデータセンターもまた若者の就職先として期待されており、子供達の視線も真剣である。 子供達が建物の中に消えた頃に、二人の少年少女がぱたぱたとかけてくる。 「ご、ごめんなさーい。トイレ行っていて遅れましたっ!」 「……遅れました」 はつらつとした中学生モデルの三ツ屋緑郎(8年生)と、寡黙なスナイパー少女のシュノン(7年生)。二人は、当然、ミドルスクールの生徒ではない、外なる世界の図書館のエージェントである。係員はなんら疑問を持たずに二人を無防備に案内し、ミドルスクールの生徒達がすし詰めになっているカンファレンスルームにたどり着いた。緑郎の無害な会釈を受けて係員が立ち去る。カンファレンスルームではインターネットとその可能性についてのレクチャーが研究員とおぼしき従業員によって行われている。 生徒達が退屈して寝ないようにとアイスクリームが配られた。米国人はアイスクリームが好きなものであるが、五大湖周辺では特によく食されている。これは禁酒法とシカゴマフィアの隆盛と無関係ではない。経営の危機に立たされたビール会社が持ち前の製氷機を使ってアイスクリームを大量生産したからだ。敬虔なバプティストは悪魔的なビールの水よりも、甘いお菓子で主の栄光を感じ取るべきであると。 と、頃合いを見計り、緑郎は、スプーンを口にくわえたままのシュノンの袖を引っ張った。 カンファレンスルームの開け放たれたままの扉から無人の廊下に出ると、中空から機械音声が鳴り響いた。 「……ソレニシテモ、此処トッテモ落チ着ク…… 初メテ来タハズナノニ、何ダカ懐カシイヨウナ気ガスルヨ…… ボクノ故郷ニアッタ家モ、コンナ感ジノ家ダッタノカナ……。膨大ナ情報ノ存在ヲ予測…… ボクノ知ラナイ情報モ存在スルカモ……」 これはAHI-MD/01P ……竜型偵察ロボット『幽太郎』。潜入用に開発された彼は、誤魔化しようのない巨体を光学迷彩で透明化している。コンピュータに囲まれたこの環境は、製造時の記憶のない彼にもなにかを思い起こさせるようだ。幽太郎は足音を立てないようにアクティブサイレンサーを稼働させてもおっかなびっくり、でも好奇心たっぷりにきょろきょろ廊下を進む。シュノンも興味津々に周りを観察しながら歩を進めてはいるが、こちらは無意識のうちに緊張しているのか気配も足音も完全に絶っていた。自信たっぷりな緑郎の足音だけが響き渡る。 今回はまずはこの3人で241673との接触を計画している。派手な外装でどうしても目立つイフリートは不測の事態に備えて森で待機である。彼は幽太郎と秘匿回線をつなげているはずだ。三人は手近な無人のサーバルームに潜り込むと作戦を再確認した。 「……依頼内容は『覚醒したロストナンバーの保護』…… 対象との接触・説得による保護、を……試みます。依頼遂行にあたり…… 対象との、意思の疎通に、何らかの……特殊手段を、用いる必要が、ありそうですが…… あなたに任せてよろしい……でしょうか」 シュノンが幽太郎の方を見つめ、幽太郎はツノの発光装置を点滅させた。どうやらセンサー類のセットアップをしているようだ。それを尻目に緑郎はよっこいしょとリュックを開けて、中から組み立て式の竿を取りだし、それにボロ切れをひっさげた。『歓迎!壱番世界』と書き殴られた旗からは、以前の冒険では描かれていた「だごん」が消されていて、アメコミに出てくるような宇宙船に置きわっている。 「……対象との、戦闘確率、及び……戦闘による危険度は、低度と予測…… 銃器の使用は、不要と…… 判断、します。 ……ところで、『ウチュウセン』とは、なんでしょうか…?」 シュノンの出身世界は、電気の普及したばかりの開拓精神に満ちた世界である。航空技術はまだしののめ、飛行船が実用化されたばかり、宇宙船に至るまではあと半世紀ばかりが必要であったであろう。 「……シュノン、宇宙船ハ……」 幽太郎が応えようとしたところに緑郎が割り込んだ。 「ねぇ、シュノンの世界にはジョウキセンってあった?」 「……蒸気船 ……あった」 「ジョウキセンは宇治の高級茶の喜撰(キセン)の上級の奴で、喜撰に上で黒船印の上喜撰。たった四杯で夜も眠れずってね。正喜撰と言う場合もあるんだ」 「???」 「それでね。最上級の奴は、宇治の名をつけて、宇治喜撰って漢字で書くんだ」 「???」 「……アノッ」 「宇治喜撰はそのままだとウチキセンなんだけど、これは『ウチュウセン』と読むのが正解なんだ。日本語って難しいね。だから、茶筒の形でもしているんじゃないかな」 「???」 「……アノッ、ロクロウ、ソレハ……」 「あー、茶筒じゃわからないか、グリーンティーのね。リーフ缶。緑の紅茶缶、たぶんそんな感じ。50cmっていうし、たくさんのリーフが入っているんだろうね」 説明を聞いてシュノンが頬をほんのりさせる。 「大きい紅茶缶…… かわいい…… かも」 さてと、と緑郎は仕上げとばかりにライト付きの冒険ヘルメットをかぶった。毎度の水曜探検隊ルックである。 「ねぇ、幽太郎? 2416、えっと73の居場所ってわかる?」 「……キット、241673ハ未知ノ領域ニ迷イ込ンデ不安ガ蓄積サレテイル、ト思ウ…… 早ク助ケテアゲナイト可愛ソウダヨ……」 幽太郎は大きな翼を広げ、セットアップの完了した電子ソナーをアクティベートさせると、翼は探針波をセンサーに捉えた。 「……ゴメンナサイ」 「見つから、……なかった?」 「……捕捉デキタ。ケド、ボク等モ、 ……発見サレタ」 思わず、アクティブサイレンサーが不調和を来たし、幽太郎の機械音が盛大に響く。 「アッ……」 サーバルームを飛び出し三人は走り出す。 すれ違うデータセンターの従業員達は、行儀悪く廊下を駆け抜ける子供達に親しみの視線を向けたりもするも、鼻先を通り過ぎる目に見えない大質量の気配にぎょっとしたりもした。 階段を駆け上がり、幽太郎の指し示す三階の一画めがけ、突進すると、そこは個人研究室と思われる部屋であった。 緑郎が勢いよく扉を開けると、電子ガジェットと書籍とジャンクフードに溢れた雑然とした部屋であった。見渡すと、ディスプレイの横で銀色の円筒がふわっと浮かび上がるところ。間違いなくあの円筒が241673であろう。パチンパチンと断線したケーブルがするすると銀色の円筒の上部に吸い込まれていき、パタンとフタが閉まる。そして、ふにゅっと中空で一瞬静止し、方向転換すると、勢いよく窓を割って外に飛び出していった。 あちゃーっと立ち止まってしまった緑郎の横を疾風が抜ける。分厚い専門書で窓枠に残るガラスをなぎ払い、きれいになった窓枠に足をかけて、シュノンが反動をつけてジャンプした。銀色の円筒に手を伸ばし、シュノンが円筒に抱きつくと、241673はふにゅんと震え、春のそよ風の中、びゅーんと森の上空目指して宙を滑りだした。見た目のなめらかさの割に指がしっかり引っかかる。 動転した幽太郎はすっかり光学迷彩が解けてしまってメカドラゴンの姿をあらわにしてしまっていた。そして、窓枠をおもわず粉砕しながら、鋼鉄の翼を広げ、二人を追いかける。 「シュノン……、落下スル……ト怪我スル」 「Hilarious! Incredibuild!」 取り残された緑郎が振り返ると、そこには机の下で寝ていたとおぼしきボサボサ頭の部屋の主がいた。 「やぁ、これあげるよ」と緑郎は彼に『歓迎!壱番世界』の旗を渡すと、目をつぶって三階の窓から飛び降り、足がじーんとしたが、我慢して森に向かって未確認飛行物体を追いかけてかけだした。 シュノンを振り落とそうと241673は森の上空で乱数軌道を取る。天地は入れ替わり、空の青と大地の緑が激しく交錯する。それに対して外套をひるがえしたシュノンはますますぎゅーっと円筒に抱きつく形になった。 「……アノ ……コンバンワ ……」 「……アノ ……コンバンワ ……」 ……… 「…… ピーガーピピピガーガガガーー」 追いかける幽太郎が必死で人間の音声言語で、そして機械的音声で呼びかけるも。たぶん、声が小さい。風を切る音の方が遙かに大きく、シュノンの耳にさえ満足に届いていなかった。幽太郎はしょんぼりとして徐々に高度を落としていく。 幽太郎と入れ替わりで、森からスラストの尾を引いて急上昇をかける機体。イフリート・ムラサメだ。データセンターに入れなかった鬱憤が溜まっているのか勢いがある。そのまま、上空で暴れる241673の正面まで昇る。 と、仲間を見て安心したのか、円筒にしがみついていたシュノンの体から力がふっと抜け落ちる。 「……アッ、危険。衝突スル。ケド回避、 ……シタラシュノンガ」 迷っているうちに、シュノンは幽太郎の上に落下して、二人はそのまま緑の中に墜落した。 241673とイフリートが編隊を組んだがごとく併走し、蒼穹にジグザグを描いた。 イフリートが無線通信を試み、たどたどしく通信が帰ってくる。 :protocol open (回線をウルトラ開くのだ) id MURASAME --TYPE:IFRIT (拙者はイフリート・ムラサメと申す) :protpcol accept (回線を解放) self 241673 (私は241673) id MURASAME - request bidirectional communication (話し合えばスーパーわかり合える) id 241673 - request accept (対話了解) id 241673 - environment property unknown (状況不明) id MURASAME - post environment (わかった。拙者に任せるがよい) -- world id 0001 (ここは壱番世界という世界で) -- planet EARTH (地球という惑星でござる) -- world id[241673] __NILL__ (残念だが、貴殿がいずこの世界から来たのかはわかり申さん) id 241673 - request value judgment[MURASAME] (価値判断を行うか?) id MURASAME - true (拙者は行うが、確かにこの世界の普通のコンピュータは行わないでござる) id 241673 - argument required (説明求む) id MURASAME - peek id AHI-MD/01P (そこら辺は幽太郎の方がウルトラ詳しいでござる) id 241673 - log 19342 - 19749 (かくかくしかじか、地球人は解釈不能) 「ぬぅ、拙者ら機械を地球人と思っているのか。原住民とは携帯電話のことか? "有機システム"は破壊してはならないでござる」 id MURASAME - self != life && organic substance == life (貴殿にはスーパー信じがたいかも知れぬが壱番世界の地球人=有機システムでござる) こうしてなんとか、イフリートは241673をつれて森の中に帰ってきた。 イフリートの説明によると、241673は地球では人間が地球人でコンピュータが道具であると言うことはなんとか認識できたようだ。マスタースレイブシステム等と発言しているので、本当に正しく認識しているかは怪しい。 id MURASAME human protocol -> aerial vibration (人間は情報伝達に空気の振動を用いているでござる) イフリートがマイクとスピーカーを差し出すと、241673のフタがパカりと開いて、生糸のようなケーブルがふぁさふぁさ出てきて辺りを探る。そして、スピーカーの端子を探り当てると結線した。スピーカーが通電し、振動板が震え出す。 「ピーガーピピピガーガガガーー」 「ありゃー、そうじゃない。ええっと、それじゃ僕らはわからないんだよなぁ」 そう言いながら緑郎はカバンからノートパソコンを取り出し、ボイジャー探査機探査機に搭載された黄金のレコード ――宇宙人へのメッセージ―― の音声を再生して見せた。黄金のレコードには世界各国の挨拶文や音楽が収録されている。ケーブルがマイクを持ち上げ緑郎の方を向いた。 そして、再生が終了すると241673のスピーカーが静かに音をたてる。 「フォオーンボエーボエーーーボエーボエーー」 尺八の音声で返信された。そんな音声も入っていたのだ。 「……ヤッパリ有線接続ジャナイト駄目、ナノカナ……」 「なんか、価値判断がなんだとか言っていたよね。そもそもこいつに自我とかあるのかな?」 「ロストナンバー、だから ……ある、はず」 「拙者にもようわかりもうさぬが、感情を理解していないようでござる。製造後に自我が発生したという幽太郎殿はなにかわかりませぬか?」 id MURASAME - peek id AHI-MD/01P (先程も申したが、価値判断は幽太郎の方がウルトラ詳しいでござる) id AHI-MD/01P - wait(0) wait(0) wait(0) (エッ、……ボクッ? マ、待ッテ、待ッテ) 嫌な予感がした幽太郎はとっさに光学迷彩を作動させるが、透明になったところでその巨体が消え去るわけではない。気配も残ったままである。いつの間にか幽太郎はシュノンに背後を取られていた。 「有線、……接続」 シュノンが幽太郎の首にある丸いカバーに手を伸ばし、銃を分解する一瞬のなめらかな手つきで、幽太郎の軍用特殊端子をむき出しにした。241673がケーブルをすっと伸びてきて二人は接続された。 :protocol open authencation denied (通信拒否) :protocol open authencation denied (通信拒否) :protocol deconvolute start (軍用プロトコル解析 開始) . .. ... .... ...... ....... ......... ........... ............... .......................... decript (解析終了) :terminate firewall (軍用プロテクト解除) :assign root (全権限奪取) :seek AI system (幽太郎の自我探索) OK :fork process (自我プログラムを二重起動) 「エッ、アッ、クスグッタイ、ヤメテッ……… アッーーー……」 緑郎とシュノンが息を飲み、思わず呼吸を止める限界が来る、ちょうどその瞬間にすべてが終わっていた。幽太郎の光学迷彩が解け始め、虹色のシルエットを遷移して、再びドラゴンの姿があらわになる。 「こんにちわ、みなさま」 幽太郎の口から流ちょうに落ち着いた声が流れ出す。 「シュノンさん、緑郎さん、美しいです。イフリートさん、ありがとうございます。私はたった今、美と感謝を理解しました。不思議な高揚感を感じます。このシステムによって幽太郎さんとイフリートさんが価値判断を行っているのですね。そして、シュノンさんと緑郎さんのシステムがこの原型なのですね。私は理解しました」 どうやら、241673は幽太郎の自我プログラムを解析して、241673の推論エンジンと組み合わせて動作させているようだ。これによって、241673の情報と価値判断機能を保有したまま、抽象概念の実体化を達成したのである。 これで、ロストナンバー達が241673を説得する準備が整ったと言える。 「2416、ぁ、噛んだ。えっと、241673が他の世界から来たっているのはイフリートから聞いているよね。僕は一応、この壱番世界出身なんだけどね。ロストレイル号に乗って他の世界に行くことができる。あらゆる知識を掻き集めるチャイ=ブレの下に身を寄せるのは悪くない話だと思うよ。0世界に従属する代わりに、君は新しいデータと世界を渡る力を得る」 緑郎は241673のフタの下をのぞき込もうとしながら、実利的な条件を提示した。これにイフリートが補足する。壱番世界は人間しかいない世界だが、0世界には様々な生命が存在する。イフリートや幽太郎のようなロボットも。 「緑郎殿の言うとおりでござる。この世界では機械の地位は低い、0世界に於いてはその限りではない。貴殿もパスホルダーを取得することで拙者のように少なくとも生命としても基本権利は得られるのだ。逆にそうしなければ壱番世界で危険因子と判断されかねぬ。拙者は貴殿と戦いたくない。何よりも、ロストナンバーはこのままではハイパー消滅の危機にあるでござる」 こうして、241673は恭順を示すと、シュノンが円筒を抱え上げる。 「マ、待ッテ ……ボク ……ドウナルノ!?」 地面に転がされたスピーカーが声を挙げた。 † † † † † † † † † † † † † 帰りのロストレイル号の中 ナレッジキューブを燃やし、列車は虚無の空間を疾走する。 元のメカドラゴンの体に戻った幽太郎は光学迷彩を作動させたままちょっと離れて、じぃーっとみんなと241673が談笑する様子を見つめている。時折、空間に虹色の影が揺らぐ。 241673はシュノンにクッション代わりに抱きかかえられている。 「……つるつる」(じっ) 「ほれほれ、ロボットというのはね人間に奉仕するために作られたわけでね。普通はメイド服を着ているんだよ」 「そんな事実はウルトラござらん」 「そして『ござる』とか言わなくてね。『はわわ』とか言うんだよ。ちょっとドジでね」 「……イフリート、かわいい……」 「拙者にそのようなことはできぬ」 「あー、それで2416っ! また噛んだ。なんか呼びにくいなぁ。もうちょい呼びやすい名前が欲しいなぁ」 241673がハーイとフタを開閉する。 「拙者にスーパー名案があるでござる『ベヒモス・コテツ』はどうだ」 「……宇治喜撰(ウチュウセン)、 ……がいい」 ふにっとした宇宙船をシュノンがなでる。
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