クリエイター淀川(wxuh3447)
管理番号1184-10445 オファー日2011-05-08(日) 17:01

オファーPC リエ・フー(cfrd1035)コンダクター 男 13歳 弓張月の用心棒
ゲストPC1 グレイズ・トッド(ched8919) ツーリスト 男 13歳 ストリートチルドレン

<ノベル>

 昼下がり。今日のブルーインブルーはじりじりと熱い日差しが海を照らし、人々を日陰へと誘う。一番温度が上がるであろう時間を過ぎても日差しは一向に手を緩めてはくれない。
 そんな中、汗を拭いながらも街中を見て回っている少年が一人。黒髪を湿らせながらも興味深そうな表情は一向に曇りはしない。少年、リエ・フーはとある依頼を早々に片付けてこの町を練り歩いているところだ。市場は今日も活気がすごい。

 「おーおー、人が溢れんばかりだな。暑苦しさ2倍増しってとこか?」

辺りを徘徊しながらリエはうんざりしたような顔でそう言った。こちとら一仕事終えて疲れてるっつーんだ、お前ら道開けやがれついでに迷惑料としてなんかうまいものでも奢りやがれ……などと考えているとジャンクヘブンへ続く裏路地が目に入る。人が少ない……と言うか全く見当たらず、そしてこの時間帯だと丁度日陰になっているではないか。ラッキー、と言わんばかりに路地へと歩いていった。

 同じ路地裏にて。一人の青い髪の少年が日陰で休んでいる……と言うにはかなり弱りきっているようにも見える。少年は壁を背にし腰を下ろしてうな垂れていたが、突如少年――グレイズの足、首に氷の飾りが現れた。そう、彼もリエと同じ『旅行者』である。彼の能力は氷を生み出す魔法である。故に……本人も暑さには弱い。この照りつける初夏の太陽もグレイズには少々厳しいのかもしれない。

 「ちっ……ふざけんな……なんで…………今日に限って……こんなに暑……」

 言い切る体力すらもったいないと感じたのか言い切る前に黙って体温と日光で溶けていく氷を見つめていた。その時、向こう側から黒髪の少年、リエが歩いてきた。最初は気が付いていなかったようだがこちら側に向かってくる途中でグレイズに気が付いたらしく少しばかり歩を進めるのを早めた。

 「よう」

 何か反応を期待するような目でリエが声をかける。無論、グレイズから返事はない。もう一度声をかけてみる。

 「その氷いいじゃん。俺にも分けてくれよ」
 「……」

 二度目の声かけは相手の機嫌を損ねたらしい。グレイズがにらみつけるようにリエを見ている。すっ、と立ち上がるとリエが来た方へ日陰を通りながら歩いていく。リエはその態度に舐められていると感じてグレイズを後ろから追う。

 「なんだよてめえ、人がせっかく声かけてやってんのに」
 「……うるせぇぞ」
 「氷分けてくれりゃいいんだっつってんだろ」
 「断る」
 「あ?下手に出てりゃ……ガキが調子くれてんじゃねぇぞ?」
 「……あ?てめぇの方がガキだろうが」
 「あぁん?」

 歩を止め振り返り、再びグレイズがリエを睨む。今度はリエも応戦する。お互いがメンチを切りあい一触即発の空気……だったのだが。

 「……ない?」
 「あ?負けそうだからって目ェ背けんなよガキ」
 「……悪いがガキの相手をしてるほど暇じゃなくなった」

 血相を変えて辺りを見回すグレイズの目に気が付いたように、路地裏を走り抜ける影を前方に捉えた。

 「待て!!」
 「なんだなんだ?」

 走り出すグレイズをリエが追いかける。しかし、すぐにグレイズは立ち止まった。影が曲がった先は袋小路だったが、そこに人影はない。壁にやり場のない怒りを拳に込め叩きつける。その後、そこに置かれている荷車や木箱などをひっくり返していく。

 「おい……もしかしてなんか盗られたのか?」
 「…………」
 「それ、そんなに大事なモンなのかよ?」
 「……てめぇには関係ねぇだろ、ほっとけよ」
 「たしかに。関係はねーな」

 グレイズを尻目に辺りを見渡し始めるリエ。時に地面を、時に壁を丹念に観察している。そんな姿を怪訝そうな顔でグレイズは見る。

 「関係ねーんだろ。なにしてんだ」
 「逃走経路探してる」
 「あ?」
 「関係はねーけど興味はある。……てめえは俺と似てるんだよ」

 リエは辺りを見回したままそう言い放った。グレイズが目を細めた後、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で勝手にしろ、と言った。二人とも人間の欲望と本能に振り回され、最下層の生活に身を置きながらも……それでも悪あがきをして世の中に抗った。そんな生き方を感じさせる。口にはしないが親近感を感じてしまうのだ。
 リエは念入りに真正面の壁を触りながら指についた砂を見る。そして見上げて荷車をそこに置き……

 「ここからだな」

 リエの指は地面から荷車、壁を伝い窓へと指が向かっている。そして隣の窓へと移り……

 「あそこのボロ家にたどり着く、と」
 「何で分かるんだよ、そんな事」
 「俺が逃げるならそうやって逃げるし、あと壁に足跡もついてる。見えないけど」

 指を指した所をグレイズが触ってみると、ざらりとした砂が指につく。他の壁ではここまで大きな粒の砂はつかない。ボロ屋を見ながら単身その家へと入って行こうとするグレイズ。が、リエが静止させる。

 「まぁ、逃げ足の速いやつだし……逃げ道を埋めておかないとね」

 にやり、とリエが歳に似合わないような笑みを浮かべた。



 すっかり日も紅く染まって、気温も多少落ち着きを取り戻したような夕刻。ロストレイルの発車時刻が迫る中、二人はジャンクヘブンを駆け回り犯人を追いかけていた。そして、前回と同じルートであの袋小路へと追い込んでいた。

 「残念だったな、逃げ道は塞いでおいたぜ」

 息を整えながら得意げに笑うリエ。事前にグレイズの氷の魔法で窓という窓が氷によって塞がれていた。手をかけるような場所はないので先ほどと同じ逃走経路は使えない。

 「さっき盗ったモン返せ」

 凄みながら犯人へと歩み寄る。……そこに居たのは。

 「なんだ、ガキじゃねぇか」
 「お前ら……」

 汚いボロ布を纏いながら手に握り締めたものをさらにきつく握る物盗りの少年とその仲間たち。どうやら返すつもりはないようだ。今一度、グレイズが手を出し返すように求めるが……反応は同じである。グレイズはその態度が琴線に触れたのか、今にも手を出しそうな状態である。そんな状態の真ん中にリエが割って入る。

 「まぁまぁ……こいつら、俺らと同じ孤児なんだろ……そんなにありゃ大切なもんなのか?」

 良かったらくれてやっても……と言い掛けたリエにグレイズはその言葉を聞いて低い声でこう言った。

 「……そのハーモニカは……俺が物心つく前から持ってた、たった一つのモンだ」

 その言葉に孤児たちは顔を見合わせ、動揺を隠せないでいた。リエも言葉を詰まらせてしまう。そして一人の少年がグレイズに歩み寄って来て、持っていたグレイズのハーモニカを指しだす。

 「……アンタも俺らと同じ境遇だったんだな。これがそんなに大切なものだと思わなかった、悪かったよ」
 「……油断してた俺も……まだまだだってことか」

 ハーモニカを受け取り、わずかに、ほんのわずかに安著の表情を浮かべたグレイズ。孤児たちは心配そうに二人を見ている。やはり自分たちは官憲に突き出されるのだろうか、と不安に駆られているのであろう。ソレを見たリエは、冗談めいたように笑いながら、

 「なぁ、ソレ聞かせてやれよ」

 急な提案で動揺する孤児とあっけに取られた様な顔でリエを見るグレイズ。にかっと笑ってリエが、

 「だって、それ聴きたいからグレイズの気を引こうとハーモニカを『取った』んだろ?」

 それは暗に、俺たちは官憲に突き出すつもりはないと言っているようなものだ。その意図を理解したのか、グレイズは「ああ」と小さく返事をした後、そっとハーモニカに唇を当てる。年代物らしい擦れた渋い音色が響き渡る。孤児たちに囲まれていると、自分が昔の仲間と居た頃をふっと思い出させる。少し物悲しい音色がジャンクヘブンの隅々へと広がっていく。リエは孤児と共にその音色に耳を傾けて、何度か頷いていた。

 夕焼けが、少し藍色になるくらいまで、ハーモニカの音は空へと溶けて行った。

クリエイターコメントお待たせしました。ストリートキッズたちに音色をお届けに参りました!
お二方とも歳相応とは言いがたい精神年齢の高さが伺えます……うまく表現できてるといいのですが。この後お二人がどんな風にこの世界を生きていくのかが楽しみです。
 この度はオファーありがとうございました。また機会があれば宜しくお願いいたします。
公開日時2011-07-03(日) 20:10

 

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