オープニング

▼ミスタ・テスラ、コルロディ島、とある館
 薄暗い部屋に、彫刻の施された大きな木箱がありました。棺のようにも見えるそれは、全部で四つあります。蓋は横にずれ、少しだけ開いていました。
 ふと蓋の隙間の暗がりから、子どものような細い手が伸びてきました。手は重たそうにゆっくりと蓋をどかします。やがて震える手で棺の縁をつかみ、そこから身体を起こしたのは、10歳前後ほどに見える子どもでした。
 ただし、間接部は球体のようになっています。知る者が見れば一目で分かります。この子どもたちは、ひとの手によって作られた〝人形(オートマタ)〟なのです。
 肌のように見える皮膚も、柔らかく有機的な素材をもとにして作った紛いものでした。瞳は硝子(ガラス)でつくられ、骨格は鋼鉄製のフレームによって構成されています。血液の代わりに銀色の液体燃料が体を巡っています。小さな体躯(たいく)の内部には、めまいがする程の緻密さで組み合わせられている歯車や、シリンダー・硝子管・導線・脈動するような光を放つ宝石などで溢れ、それらの複雑な機巧(からくり)が内臓の役目を果たしていました。
 四体(あるいは四人)の人形たちは、ほうけた表情で互いの姿を確認し合いました。自分が何者で、ここが何処であるのかを考えようとしました。
 そのとき、部屋の扉が開いて光が入り込んできました。暗い部屋にいた人形たちは、まばゆさに思わず顔をしかめ、腕や手で光から顔を隠します。
 まぶしい光の奔流にやがて目が慣れてくると、光の奥から何人かの人影が歩み寄ってきました。一人ずつがそれぞれの人形の前に立ち、屈みこみ、すっと手を差し伸べてきます。

「さぁ。おいで、   」

 人形たちはその人影が口にした言葉を、なぜかすぐに自分の〝名前〟だと認識できました。
 胸の奥のコアに刻まれた意味不明の番号や記号の羅列は、製造番号や型番と呼ばれ、それはどの人形であっても生まれた瞬間から認識することができます。けれど名前は違います。名前とは自分だけのために与えられる、大切な大切な宝物なのです。区別するためだけに与えられた番号とは全く違うものなのです。
 名前を呼んでくれた目の前の人物を、人形たちは大切な誰かと認識しました。そして差し伸ばされた掌に、自分の小さな手を乗せます。支えられながらも、ふらりと揺らめくように立ち上がりました。
 それが、この人形たちにとって。世界で生きていくことへの、最初の一歩となったのです。


▼それより少し前、0世界、世界図書館の一室にて
 ロストナンバーが大勢集まる、ちょっとした会議室とか集会所のようなところ。
 そこに集められたあなたや他数人のロストナンバーの前には、導きの書を抱えた世界司書がいました。
 世界司書が今回、冒険を依頼した世界は夢想機構ミスタ・テスラ。依頼内容は『子ども型オートマタのお世話をし、交流を育む(はぐくむ)こと』でした。モフトピアの世界を対象によく行われる、現地調査という名の観光旅行にも近いことのようです。
 その依頼内容について補足説明を加えるべく、世界司書は隣に控えさせていた少女を呼びました。猫耳フードを被ったその小柄な少女は、メルチェット・ナップルシュガーと言う名のツーリストです。彼女は世界司書ではありませんが、『自動人形』という技術やそれを作り出す文明などについて詳しく知っているため、解説役として呼ばれたのです。

「皆さん、ミスタ・テスラの世界についてはご存知ですか?
 壱番世界で言う19世紀末のヨーロッパに近い文明を発展させていて、蒸気を用いた科学技術が非常に発展している世界なんですよ。壱番世界の言葉を借りちゃうのなら、いわゆるスチームパンクな異世界、といったところかしら。
 以前から存在自体は知られていたけれど、以前にあるロストナンバーがセカンドディアスポラで飛ばされてしまって、色々とあったところです。まぁ、それはともかく」

 こほんと咳払いをすると、メルチェットはどこからか移動式の黒板をからからと引っ張ってきて、図や文字をかつかつと書きながら説明をし始めます。

「今回の世界司書さんからの依頼内容は、自動人形の子どもたちをお世話することです。
 お人形と言っても、布や木で作られるおもちゃとは違って……ちょっとした判断力を持って動くのよ。からくり人形、自動人形、機械人形、オートマタ、オートマータ、オートマトン、ドール……色々な呼ばれ方があります。でも、ゴーレムやホムンクルス、ロボットやアンドロイドとはちょっと違うのよ。そもそも自動人形のような、自律稼働式人造生命の定義とはね――」

 ちょっと回りくどくて長ーい話が続きそうでした。横に下がっていた世界司書が、つんつんとメルチェットを突付いて自制させます。はたっと気がついたメルチェットは恥ずかしそうに顔を赤くさせると、すました表情で本来すべきことへの説明に戻りました。

 冒険の舞台はミスタ・テスラ世界にある『コルロディ島』という場所のようです。ここは大昔にあった戦争の名残で、作物も育ちにくい荒廃した土地となっており、人はもう住めないとされていました。
 しかしミスタ・テスラ特有の『蒸気科学』や、エーテルというエネルギーを利用した『魔道科学』によって開発された、人間と寸分違わぬ外見を持つ自動人形『オートマタ』が、人間に代わる労働力として製造されたことから、少しずつ豊かな自然を取り戻していった――という歴史を持ちます。
 よって、このコルロディ島ではたくさんのオートマタを見かけることができます。一部の作業用オートマタを除き、大抵は人型をしている模様です。遠めに見れば人間と何ら変わりはありませんが、球体状の間接機構や、多くの金属部品を使用していることから人間の倍の体重がある等、様々なところで人と違う部分を持つようです。
 ――などなど、メルチェットはそうした説明を話してくれました。

「世界のことや、オートマタの概要については大丈夫ですか?
 では、ここからが本題です。今回、お世話することになる子どもオートマタは『中身がからっぽ』なんです。
 中身と言っても部品のことではありませんよ。知識とか技術とか、常識とか性格とか。そういった。私たちヒトが育っていく上で覚えていく、色々なことを指します。
 その子たちはまだ生まれたてだから、そうした情報をまったく知らないみたいなの。言葉は何となく喋れたりするみたいですけど……。
 だから、たくさんのことを教えてあげる必要があるの。でも肝心の教えてあげられる人が足りないから、現地で募集があったみたいで……それが、今回の依頼に結びついたんですよね?」

 横に控えている世界司書へ顔を向けると、その司書は黙って頷きました。メルチェットは偉そうに胸を張ると、得意げに説明を続けます。

「えっへん、やっぱり思ったとおりだったわ。
 ……なので今回の依頼は、子どもオートマタを育ててあげること、教えてあげること、一緒にいてあげること、が主な内容になるとも言えますね。
 何かを知ろう、学ぼうって思考が設定されていることもあって、とにかく好奇心が旺盛なそうですよ。とにかく、色々動き回ったりするみたい。例えるなら、ぱわーのあるエミリエちゃんが、良識なく暴れ回ったりいたずらしたりする感じに近いと思います」

 エミリエと言えば、様々ないたずらをしてはリベルに叱られることが日常茶飯事である、世界司書屈指のトラブルメイカーな女の子。そこに溢れるパワーと良識の欠如が加われば、何かもう色々と大変かもしれません。その場にいたロストナンバーたちは苦笑したり、げーっという苦い顔をしたり、様々な反応をします。
 そして、その後もメルチェットと世界司書による、冒険依頼前の補足講座はちょっぴり続いて。

「――以上で、メルチェからの説明はおしまいです。
 今回、私は一緒に行けませんけれど……素敵な旅になるよう、0世界から応援していますね。
 さぁ、では支度に取り掛かってください。行き先は、夢想機構ミスタ・テスラ!」

 世界司書の台詞を横取りしてしまったことは露知らず。ぴっと指を立てた手を天井に振り上げながら、メルチェットは楽しそうに告げるのでした。

 †

 そうして、あなたたちはやって来たのです。名も無き人形の子どもたちが待つ、ここミスタ・テスラに。
 あなたと人形たちが、このコルロディ島で過ごす数日間が、緩やかに幕を開けます――。

品目シナリオ 管理番号1662
クリエイター夢望ここる(wuhs1584)
クリエイターコメント【シナリオ傾向キーワード】
育成、子育て、交流、遊び、人形、日常、ほのぼの

【シナリオ概要】
 舞台はスチームパンクな異世界ミスタ・テスラ。ただの機械仕掛けの道具とは違う、魂を持った生きるお人形・オートマタの子ども達……そんな彼らを預かり、数日間だけお世話をするシナリオです。
 基本的にバイオレンス的な危険はありませんが、コミカルな騒動はあるかもしれません。
 お好みの人形を設定して、育てたり遊んだり教えたりしてください!
 お世話することになる人形は、それなりに設定ができます。詳しくは後述にて。

【舞台設定】
▼ミスタテスラのとある地方にある、コルロディ島が舞台となります。
 東は都市区。人や人形たちで賑わう、活気溢れる場所です。鉄道も走っています。
 西は緑豊かな農村区。森や川、広々した草原、畑などが多くを占めます。さらに先を行くと海が見えます。
 南は未開発区。戦争の傷痕が残る荒れた大地が広がっています。貧民区でもあるため廃れていますが、人々や廃棄オートマタがたくましく暮らしています。
 北には工業区。鉱山や炭鉱が連なる山間の地域で、工場なども建てられています。
 なお、滞在の拠点となるお屋敷は島の中央部にあり、どの区にもそれなりの距離と時間と手間で赴けるような位置となっています。
▼コルロディ島では、多くのオートマタが稼働しています。区によって使われ方に違いはあるようですが(都市区ではメイドさんのような働き人形が、工業区ではパワーのある大型人形が、等)、いずれも人間に対して献身的に従事しており、人間とオートマタ間は比較的友好であると言えます。けれど人によっては、オートマタが人間のように感情をもって振舞うことに、否定的であったりすること考えもまだ残っているようです。
 それとは別に、オートマタ間では「どういった人間のもとで働いているか」が一種のトレンドにもなっているようで、その違いによって喧嘩や差別が生じることもあるようです。
▼とあるお屋敷をまるごと一つお借りしています。台所、食堂、入浴施設、人形を整備する工房施設など、生活に必要となるものはすべて1階に集中しており、共同使用が基本です。
 個室はすべて2階にあり、冒険者+オートマタの二人部屋となっています。ちょっと狭いため、寝室としての利用が基本なようです。


【オートマタについて】
・預かる人形は、ひとり1体です。
・性別が指定できます。男の子か女の子です。
・名前も設定できます。むしろ呼び方に困っちゃうので、名づけてあげてください。
・男の子ならシャツに半ズボン、女の子ならワンピースあたりが基本の服装。ただし指定さえあれば、好みのお洋服に着替えさせても構いません。髪型等も含めて、おめかしはご自由にどうぞ。
・性格の個性も十人十色。好奇心旺盛だったり、ぽやっと大人しかったり。甘えたがりだったり、反抗的だったり。これらは自由に設定できますし、WRにまる投げしてしまっても構いません。

・見た目は10歳前後の子どもです。間接部は球体機構、内部はからくり仕掛けになっています。
・ただ言うことを聞くだけのお人形ではなく、きちんとした個性や性格があり『心』があります。ときには反発したりもします。
・ごはんは食べなくても大丈夫ですが、食べること自体は可能です。ただ、稀にくいしんぼうで見境なく何でも(有機物だけでなく、無機物も)食べてしまうことがあるので注意。
・誉めれば喜び、叱れば反抗したり悲しんだりします。甘やかすことも大事だけど、厳しくすることも大事。でも甘やかしっぱなしも一興……?
・生まれたてのためか、体力もなければ知識もなく、身体も弱いし何が良くて何がダメなのか、なーんにも知りません。
・最低限の言葉は話せますが、あまり多くの言葉は知らず、読み書きもつたないです。
・普通にしているぶんには身体能力もふつう程度ですが、何かの拍子に「トラベルギアで補正された程度の能力」を発現させることがあります。子どもの馬鹿力。
・防水対策は多少されているようですが、あまり長時間触れていると駆動に支障をきたすかもしれません。お風呂くらいは大丈夫。


【大まかなプレイング方針】
・人形を預かりました! どんな人形でしょう。男の子、女の子? 名前は? どんな見た目の子? その子の好きなこと、嫌いなことは?
・その人形をどうやって育てますか? どんなことを教えますか?
・人形とのしばしの生活、どんなものになりそうですか? どこかに出かけますか? どうやって過ごしますか? 騒動が起きたりするでしょうか?
・あなたのこと、なんて呼ばせますか? パパ、ママ、マスター? それとも名前で?(そもそも、きちんと言うとおりの名で呼んでくれるかな)


【プレイング例】
・男も女も強くあれ。そんなわけで戦闘についてを教える。手本を見せながら基礎を学ばせ、模擬戦の相手をする。
・絵本を読ませたり、ぬいぐるみで遊んだり。花や植物を育てたりも一緒にしてみたい。優しくなるように育てばいいな。
・一緒に運動! 無茶をするくらいが丁度いい。怪我して泣いても、それも経験。少しくらいの悪戯は多めにみます。
・自分が着たいけど着れなかった、ミスタ・テスラ情緒ある服にお着替えさせる。きゃーめんこい。
・ダンスのレッスンでもさせて、かっこよく仕上げてみようか。思慮深くあるように、本も読み聞かせしよう。
・何だかやたら反発する子で攻撃的だけど、何とか懐かせてみせる……! 反発にも、気合と根性で真っ向からぶつかっていくよ!
・楽しいこと、面白いことこそ生きる意味。遊びをとにかく教えて、たまには一緒になって泥だらけになって遊びたい。
・スパルタでびしばし厳しくする。たとえ嫌われても、この子の未来に役立つのなら、鬼になろう。


【人形の個性設定例】
・攻撃的で反抗しがちだけど正義感が強い。
・身体が丈夫で運動好きだが後先考えずに突っ込む。
・知的で本を読んだり何かをいじるのが好きだが、夢中になると周りが見えない。
・温和で優しいが、感受性が高いあまり泣き虫だったり、変な感覚や考え方を持ってる。


【挨拶】
 今日和、夢望ここるです。ぺこり。
 さて、今回の冒険の舞台は――ヴィクトリアンな雰囲気漂う、お洒落な近代レトロ世界のミスタ・テスラです。初チャレンジです。ミスラ・テスタでもミスラ・テスラでもミスタ・テスタでもありません。ちなみに私はMr.テスラと語呂で覚えています。

 話は変わりますが、螺旋特急ロストレイルの開発ブログでは、ロストレの雰囲気を以下のような言葉で表現しておりました(一部抜粋、適度に省略しております。許可は申請済みです)。

 ワゴン・リ社製造の欧州鉄道、ジュークボックス、黄変したページの本……つまり、オリエント急行です。ロストレイルや、≪ターミナル≫と呼ばれるPCさんたちの拠点となる世界の狭間の町などについては、「レトロ&アンティーク」な雰囲気を出していけたらと考えています。
 ガス燈のロンドン、禁酒法時代のアメリカ、ジュール=ベルヌの空想科学小説の世界……ちぎれたチケット、使いこんだ旅行カバン、懐中時計、コンパートメント、セピア色の写真、くり抜いた辞書の中の拳銃、パナマ帽の紳士……、そんな道具立てです。

 ――こうしたレトロ&アンティークな世界観を冒険の舞台とするのが、ここミスタ・テスラとなります。石畳の街並み、紳士と淑女を乗せた馬車。鉄と火薬と石炭と蒸気が生み出す、レトロでクラシカルで浪漫溢れる技術の数々。世界を彩る色合いは、色褪せた皮の茶色、黄金の如き真鍮のきらめき、黄色く変色した紙片の古めかしい色……。
 そんな素敵な世界を舞台に、今回はお子様オートマタと共に過ごすシナリオとなっております。スチームパンク情緒溢れる、どこか牧歌的な空気の中、機械仕掛けの子ども達に「何か」を教えてみませんか? 皆さまのご参加、どきどきしながらお待ちしておりますっ。

参加者
煌 白燕(chnn6407)ツーリスト 女 19歳 符術師/元君主
縁記 志音(cexa6858)ツーリスト その他 20歳 傀儡/研究者
川原 撫子(cuee7619)コンダクター 女 21歳 アルバイター兼冒険者見習い?
ヘルウェンディ・ブルックリン(cxsh5984)コンダクター 女 15歳 家出娘/自警団
メルヒオール(cadf8794)ツーリスト 男 27歳 元・呪われ先生
緋夏(curd9943)ツーリスト 女 19歳 捕食者

ノベル

▼いつかの午後のこと。
 爽やかな風が吹き抜ける草原の中。
 川原・撫子(かわはら・なでしこ)は、しゃがみ込んで何かを探すように手先や顔を動かしている。目的であった花を見つけると立ち上がって、雑草の茂みから体を出す。

「あ、これなら分かりやすいかな。――ミオちゃん、こっちにおいでー!」

 撫子の呼び声に反応し、草の陰からひょっこりと顔を出す少女がいる。撫子が担当することになった女の子の自動人形・ミオだった。いつも眠たそうに目がとろんと傾いていて、ぬぼーっとした雰囲気があるミオだが、それに反して行動は機敏だ。すぐさま主である撫子のもとへと、てこてこ駆け寄ってくる。

「ほら、ここにお花があるでしょう? 持っている図鑑の中から捜してごらん」

 ミオが抱えている厚手の本を撫子が指差すと、ミオは黙ったままこくこくと頷き、足元に群生する花と同じ絵が書かれている頁(※)を黙々と捜し始めた。やがてそれを見つければ頁を開き、撫子に見せ付けるようにする。

「そうそう! よくできました、偉いぞっ。ミオちゃん、お利巧さん!」

 壱番世界でのバイト生活で自然と身についた営業用の飾った声音ではなく、子どもにだけみせる、特有の明るさと優しさに溢れたそれ。そんな声を洩らしながら、撫子はミオの小さな体躯(※)をぎゅむーっと抱きしめた。ついでに頭もすりすりと撫でてやる。ミオは相変わらず、ぼーっとしたままの表情でされるがままだ。
 そんなミオが、ほお擦りするように己を抱きしめてくる主の背中を突付く。撫子はきょとんとして、その方向に体を向ける。

「あれは……」


 移した視線の先には、仲間である煌・白燕(こう・びゃくえん)の姿があった。お供である男の子の自動人形と共に、体を動かしている。
 それは単調な運動などではなく、白燕が身につけている独特の体術の〝型〟であった。流れるように優雅な挙動の後、ぴたりと静止して動かない。かと思えば風を切るように拳を突き出し、足を振り上げ、腰を矯め(※)――そうして躍るように手足を繰り出し、体を滑るように動かす。
 白燕が手本の挙動を見せた後、やや遅れて男の子人形が見よう見まねで同じ動きをする。戸惑いもあり、まだまだ見るには耐えないぎくしゃくとした動きだったが、白燕はそれを笑ったりはせず、真剣な表情で演舞を続けて。

「――ここまでにしようか、ジング」
「はい、師匠」

 やがて二人は互いに礼をして、演舞を終了させた。ジングと呼ばれた男の子の人形は、髪を短く刈り上げ、服装も白燕と同じような東洋風の長い衣に身を包んでいる。

「生きるためには強さが必要となる。だが真に求めるべきものは、からだの強さではなく心の強さだ」
「……ココロとは、何ですか」
「言葉で教えるようなものではない。だが私が教える武術の中には、心の強さの根源となるものが秘められている。それは教わるのではなく、自ら気付くものだ。自ら考え、自らを問いただせ。良いな、ジング」
「はいっ」
「うむ、良い返事だ」

 真っ直ぐに前を見据えるような、強い意志を秘めた眼差しをしている男の子人形のジング。演舞の挙動はまだまだ未熟だが、この真面目な姿勢は将来が愉しみだ――と思い、白燕は静かに微笑んだ。
 そんな二人の様子を、撫子とミオは遠巻きに見つめて。

「……」
「もしかしてミオちゃん、あれやりたい?」

 ぶんぶんと首を横に振る。けれども視線は、ずっと白燕とジングの方に向けたまま。熱に浮かされたように、ぽやーっと眺めている。
 ミオは表情の変化に乏しく口数も少ない。撫子は彼女が思うものをなかなか把握できず、難しい表情をするしかない。

「おーい、皆みんな!」

 そこへ黄色いはしゃぎ声をあげながら、仲間である緋夏(ひなつ)が近くにあった森から戻ってくる。虫網と虫かごと、何かが入った金属製のバケツとを重そうに抱えている。
 背も高く体躯もほっそりとしており、一言で言えば〝美人〟である緋夏だが、頬や膝は小さな切傷や擦り傷だらけ。探検用に新調した服も泥や砂で汚れていて、まるで泥遊びでもしてきた男の子のよう。

「いやー大量たいりょう。虫も魚もいっぱいいたよ。すっごい楽しかった! ねぇ、マヤ?」

 屈託のない明るい表情を、緋夏は隣を着いてくる自動人形へと向けた。マヤと呼ばれた女の子人形は、きらきらと輝くようにはしゃぐ主とは裏腹に、とても静かで落ち着いていて、どこか呆れたように溜息をついた。

「あなたは、私達の面倒を見るために派遣されたんでしょう? なんで私が、逆にマスターの面倒を見なくちゃいけないんですか……」

 マヤは顔をしかめつつ、ぶすっとした態度で辛らつな言葉を放つ。けれど緋夏は落ち込んだりショックを受ける様子もなく。

「ほんとだよね。木の上から落っこちそうになったり、深みにはまって川で溺れそうになったり、色々なとこで助けてくれたよねっ。マヤは自慢の娘だよぅ、ありがとー!」
「鬱陶しいです。抱きつかないでください、泥がつくでしょう。早く家に帰って、汚れを落としてください。大の大人がなんで子どもみたいにはしゃいでるんですか、もう」

 汚れのついた服装のまま抱きついてくる主に対し、マヤは唇を尖らせ小言を吐き捨てる。そうしながらも、鞄にしまっていたタオルを取り出して緋夏の顔や体を拭いてあげているのを見ると、仲が悪いわけではないようで。
 そうした二人の様子を見て白燕や撫子たちは、互いの人形と目を合わせて、おかしそうに笑い合う。


▼いつかの夕方のこと。
 夕暮の時の鮮やかな赤が差し、日陰の暗がりが目立つようになってきた時刻。
 スクラップ置き場にて今日のひと仕事を終えたヘルウェンディ・ブルックリンは、帰路についていた。その腰元には、やや低い身長のヘルよりももっと小さな背丈の少女が、甘えるようにすがってきている。ヘルが担当する自動人形の女の子、ティンカーベルだ。
 ヘルは、クセのある毛髪越しに、ティンカーベルの頭をわしゃわしゃと撫でてやった。二人は仲の良い姉妹のように連れ添って、人でごった返す貧民街の大通りを歩いていく。

「見て見て! ベル、お給金こんなにもらったんだよ」
「わ、すごいじゃない。私より多いわ。ふふ、ベルは頑張り屋だったものね」
「そういえば、どうしてベルをここに連れてきたの? 他の皆と違うこと、してても良いの?」
「ベルにはね、善も悪も全部含めたひとの営みというものを知って欲しかったの。貧しくても荒んでても、たくましく生きる人達の現実をその目で見て欲しくて」

 貧民街の一部は治安も悪く、途上では悪漢(※)や廃棄オートマタに襲われることも少なくない。最近は、オートマタを狂わせる毒薬のような燃料も出回っていると言う噂もあるほどだ。実際に悪漢から絡まれたときは、ヘルがトラベルギアを使って軽くいなし、撃退したこともある。
 けれど一方でここに住む人々には、熱い人情を以って荒々しいながらも大きな優しさで包み込んでくれるような、そんな者たちも存在する。スクラップ置き場にいる油や汚れにまみれた作業員や、体を錆びさせながらも懸命に働く作業用オートマタ達がそれだった。

「ひとには色んな面がある。あなた達オートマタだってそう。立派なオトナになりたかったら、キレイなものも汚いものも真っ直ぐ見なきゃ」
「そうなんだー。……ベルはなれるかな?」
「さぁ、どうかしら? でもベルはいい子だもの。頑張ればきっとなれるわ」
「そーう? じゃあ頑張る!」
「ふふ。……ただ、力の使い方には気をつけてね。オートマタのあなた達は特別、力が強いようだから。仕事のためとか、誰かを助けるためにとか、そういう使い方をしてほしいな。ベルにはできる?」
「えへへ、任せてよっ」

 そんなやり取りをしつつ、日が沈む前には滞在の拠点となる館へと戻るべく、歩を進めていく。

 †

 一方、館にはメルヒオールと縁記・志音(えんぎ・しおん)が残っていた。
 彼らは昼間からずっと、書斎にこもりっきりである。志音の担当する女の子人形の瑠璃も交えて、豊富な知識を披露しながら議論大会に白熱していた。
 ちなみに書斎には、ソファーやら毛布やらお菓子やらが持ち込まれていた。飲みかけの紅茶や珈琲(※)の入ったティーカップや、食べかけのお菓子類が乗った皿も、たくさん持ってきてある。床には食べこぼしたのか落としたのか、クッキーの欠片も転がっていて。端的(※)に言えば汚い。
 でも、そんな惨状を惨状とは思わないのがこの3人組でもあった。
 眠って休憩していたメルヒオールだったが、瑠璃に揺さぶられて意識が現実に引き戻された。分厚い眼鏡越しの硝子の瞳が、無感動に彼を見下ろしている。

「おはようございます」
「あれ……もう朝になっちまったか」

 ぼさぼさの頭をがしがしと掻きながら、周囲をのったりと見渡す。

「いいえ、まだ夕方です。それよりもメル先生、優秀な私の理論展開に敗北し、戦力を蓄えてくるという負け犬的な捨て台詞を残して、都市の図書館へと足を運んだあるじが、帰ってきました」
「メル先生、瑠璃! いい資料が手に入りましたよー、昼間の議論の再開と行きましょう」
「おかえりなさい、あるじ。私も館の地下で良い本を見つけました。優秀な私の理論展開で、再びけちょんけちょんにしてやります」

 志音が瑠璃に着せたゴシックな衣装がカビ臭い埃で汚れているのは、地下にこもっていたからだろう。
 ともあれ2人は、手に抱えた何冊もの古書を見せびらかすようにするなど、同じような事をしている。瑠璃は飼い主にとても似てしまったらしい。

「へーぇ。自信満々だね瑠璃? でも今回は負けを認めさせてあげるよ」
「前口上だけは立派ですね、あるじ」

 舌足らずな幼い声音で、毒のある言葉を瑠璃が口にする。何だか視線だけで火花を散らす二人を、メルヒオールはあきれた様子で眺めていて。

「ん。そういえば、うちのイーリスは」
「私達の議論についていけず、呆れるように一人、お昼過ぎに外へ出てから戻ってきていません。それよりもほら、メル先生これを見てください」
「どれどれ……ほぅ、こいつぁまた難解な……」
「大したものだけど、これできちんと議論が展開できるのかい、瑠璃」
「低スペックなあるじには理解できないだけです」

 なんてやり取りしながら、三人はソファーの上に座り込み、本を広げ、議論に熱中し始めた。
 しばらくしてから、勢い良く玄関の扉が開け放たれた。けれど書斎の3人は議論に夢中で、そんな音には気付かない。
 メルヒオールが担当する女の子人形のイーリスが、食材や生活用品が満載の買い物袋を両手いっぱいに抱え、ぜいぜいと疲れた様子で帰宅したのであった。彼女は忙しなくたくさんの仕事を立ち回るため、汚れてもいいようにといつもエプロンを付けている。
 イーリスは買い物袋の中身を所定の場所におさめ終え、夕暮なのに干しっ放しになった洗濯物を確認すると、粗暴な足取りでずかずかと書斎へと向かっていく。
 そして悪魔のように怒りで歪んだ顔で、書斎の扉を開け放ち。

「あんた達!」

 メルヒオールと志音と、瑠璃の首根っこをつかみあげ。

「時間になったら洗濯物しまっておいてって!」

 体ごとぶんぶんと勢いをつけて竜巻のように回転し。

「何度も言ったでしょうが!」

 遠慮なく放り捨てた。
 3人は開けっ放しだった大きな窓を綺麗に抜けて、弧を描くように高く投げ捨てられ、庭にあった池へと水しぶきを上げながら派手に突っ込んだ。

「イ、イーリスの怪力がもたらす物理的なエネルギーを求めるには――」
「頭の弱いあるじ、使うべき方程式が違います」
「てゆーかなんで俺までこんな目に……」

 口に入った水を吐き出しながら、メルヒオールはげんなりと口元を歪ませた。
 それでも。
 こうして誰かと一緒に戯れながら過ごす時間に、どこか懐かしさを感じてもいて。開け放たれた窓の向こうに見える、ぷんぷんと憤慨しながら書斎の掃除を始めるイーリスの背中を、まぶしそうに眺めた。
 濡れた服を着替えた後、3人はイーリスに叱られながら、のろのろと炊事を手伝った。けれど彼らはそうしたことにはとんと疎く、非常に手際が悪い。汚して散らかすしかできない3人を見かねて、イーリスは苛立った声音で言い放つ。

「あぁもういいわよっ。先生も志音さんも瑠璃も邪魔! どっか行ってて」
「ひでぇ扱いですこと……」
「何 か 言 っ た ?」
「ナンデモ アリマセン……」

 メルヒオールも含めて、3人はとぼとぼと自室へ避難していく。


▼ある日の夕方前のこと。
「いい加減にしてよ、ミオ! ジングが迷惑するじゃない」
「……色々誤魔化してるけど。ほんとはベルが一緒にいたいんでしょ。ジングと」
「ちちち、違うもん!」

 人形達の口論する声が、館に響き渡った。
 
「なんだなんだ、朝っぱらから騒がしい……」
「メルヒオールさん、もうお昼過ぎですけど」

 のっそりと部屋から出てくる寝ぼけ眼のメルヒオールに、洗濯物を抱えて通りがかった撫子が、呆れた様子で突っ込みを入れつつ。
 何やら1階で人形達が言い争いをしているらしい。マスターの面々も各自の作業を中断し、急いで集まってくる。
 普段は無口で喋らないミオと、活発すぎて生意気さの目立つティンカーベルが、鼻先を突き合わせ言い争っていた。どうやらジングに対するミオの態度に、ティンカーベルが妬いているのだという内容の口論だった。

「でも私……もう、ジングとキスしたし」
「!」

 興奮気味なティンカーベルに反して、いつも通りの眠たそうな表情のまま探るような上目遣いをしながら、ミオはぽつりとそう呟いて。ちなみに嘘である。
 ティンカーベルが顔を真っ赤にし、唇や体をわなわなと震わせる。

「ああああああああ!」

 ミオの一言に、ティンカーベルの何かがぷちんと切れた。
 癇癪(※)を起こした子どものように、ぎりぎりと歯を食いしばり、目には涙を浮かべ、手足をぶんぶんと振り回し。ミオに向けて、暴れるような攻撃を加えようとする。
 もしくは手当たり次第に調度品やら何やらを、憎々しく投げつける。ミオは、のらりくらりとそれを避けている。

「ミオのばかばかばかばか、ばかぁ! ベルのジング、ジングなのにぃ!」
「ちょ、ちょっと、やめなってばベル!」
「ベル、やめなさい!」

 それに見かねたイーリスとティンカーべルのマスターのヘルが、彼女の両手にしがみつき、暴れるのを止めようとする。けれど心の琴線が切れてしまった彼女のちからは、凄まじいほどに増していて。体の一振りで、二人とも簡単に吹き飛ばされてしまう。木製の家具に背中からぶつかり、二人はうめくような悲鳴を上げる。

「どうしよう。ギアを使って止めた方がいいのかなー」

 飛んでくる陶器やら何やらを、志音はトラベルギアの編みショールで上手に受け止め、なるべく壊さないようにしている。
 白燕やジングは、何とか素手で巧みにキャッチしているが、椅子やテーブルまで矢継ぎ早に投げつけられては、さすがに成す術もなく。

「ミオちゃん、色々とやり過ぎよ! ベルちゃんに謝り――きゃあ!」

 撫子はミオを叱り付けようとするも、投げつけられる物を避けるので精一杯。
 ティンカーベルの目はもうミオを見てはおらず、気持ちの思うがままにでたらめな方向へ、次々と物品を投げつけるだけ。
 そしてやがて、置いてあった一際大きな石像を持ち上げる。さすがにそれは当たったらまずい、と皆の顔も青ざめる。

「ミオの――ばかぁぁぁぁ!」

 涙をこぼし、顔をぐしゃぐしゃにしながら。考えもなく適当な方向へと投げつける。
 その方向は地下室へと続く階段がある扉。その扉がタイミング悪く開かれた。地下書庫から持ってきた本やら紙の資料やら何やらを、両手いっぱいに抱えている瑠璃が、そこにいて。
 ――避けられない。
 固くて重くて鈍い音を立てて、石像が正面から瑠璃に命中する。石像は一瞬のうちに崩れてしまう。ぼろぼろになる。ぶわりと埃を巻き上げる。
 石像だった瓦礫の山から、壊れた自律玩具のように痙攣(※)する瑠璃の細い両足だけが見えた。

「あ……ああああ」

 ティンカーベルは、開いた口を両手で押さえていた。ぶるぶると体を震わせていた。首を小さく左右に振った。驚愕と後悔と恐怖とに染まった視線で、瓦礫に埋没している仲間の姿を凝視する。
 皆が言葉を失う。重い沈黙に支配される。誰もが何も言えない、体を動かせない。

「あーいいお湯だった♪」
「だからマスター、風邪を引くので髪はきちんと拭いてくださいと……」

 重圧が沈殿するそこに、場違いな声が響く。湯浴みから戻ってきてさっぱりとした表情の緋夏と、相変わらずその世話を焼いているマヤだ。
 二人はきょとんと周囲を見やる。嵐でも通り過ぎたかのように、めちゃくちゃに散らかった館。そして皆の視線の先にある瓦礫の山と、そこから染み出てくる銀色の液体。それは人形の体に巡る液体燃料。
 緋夏はその光景を見るが否や、大きなタオル一枚だけを巻いた湯上り姿のまま瓦礫へすぐさま駆け寄り、破片をどかしていく。

「皆、なに突っ立ってるのさ!」

 緋夏の鋭い声が響くと、皆の停止していた思考が動き出す。ティンカーベルを除いた面々が、瓦礫に埋もれる瑠璃のもとに殺到する。
 瓦礫から瑠璃の体を引き上げる。胸部を中心に破損が激しく、銀色の液体燃料がどくどくと溢れていた。石の破片が肌にめり込んでいる。あるいは肌を大きく引き裂いている。眩暈がするほどの緻密さで詰め込まれた内部機構を露出させている。他にも、片足や片腕があり得ない方向に捻じ曲がってもいる。硝子の瞳には起動状態を示す光が灯っていない。

「これは危険だ。緊急手術が必要だね……工房で処置しなくちゃ」

 瑠璃の前で膝をつき、状態を素早く把握した志音が告げる。メルヒオールが戸惑いがちに続ける。

「処置って……異世界の技術だぞ、分かるのか?」
「分からないことのほうが多いね。でも今すぐやらなくちゃ。……それに僕は〝この子達と同じ〟なんだ、大丈夫! できないことはない……はずさ」

 そうやって志音は口元を笑ませるも、双眸に宿る感情の色は真剣で。

「でも補助は必要だ。メルヒオールさんも手伝って」
「あくまで専門分野は魔法なんだが、まぁやるしかないな。――イーリス!」
「工房はもう開けておいたよ。機器の電源も入れてある!」
「上出来だ。よし、瑠璃を運ぶぞ。……緋夏とマヤも手伝ってくれ! なるべく動かさないよう慎重にな、いくぞ」
「分かってる!」

 緋夏がふと周りに視線を走らせれば、ヘルに白燕・それとジングが、走り去っていくティンカーベルを追って、外へと飛び出していく姿が見えた。
 撫子は、居心地が悪そうに立ち尽くすミオの前で肩膝をつき、視線の高さを合わせ、何かを真剣に語りかけている。
 二人のことは、彼女達に任せて。今は瑠璃のことに専念しようと思い、緋夏は意識を目の前のことだけに向けた。
 声とタイミングを合わせ、小さくても重い瑠璃のからだを手早く、けれど慎重に持ち上げる。


▼その日の夕方のこと。
 夕暮の時の鮮やかな赤が差し、日陰の暗がりが目立つようになってきた時刻。
 館を飛び出し、ひたすら走り続けた。道ではない道を無理やり通ってきたこともあり、白かったワンピースは黒く、あるいは茶色く汚れてた。革の靴もいつの間にか紛失し、素足になっていて。
 気がつけばティンカーベルは貧民区にたどり着いていた。人々の喧騒に馴染めず、より一層の孤独感が少女を苛む。そこに罪悪感と自己嫌悪も湧き上がってきて、暗い表情が張り付いて離れない。

(どうしよう……ベルは最低だ)
(ミオにひどいことしちゃった……)
(お姉ちゃんの言いつけも守れなかった……)
(ベルは最低の、オートマタだ……)
(もう戻れない……お姉ちゃんのところに、皆のところに)

 行くあては、ない。
 それでもこの貧民区に足を向けてしまったのは、記憶を司るフィルム型回路にここでの思い出が詰まっているからだ。マスターであるヘルと共に、汗を流しながらスクラップ置き場で働いた、あの時間が。

(戻りたい……戻りたいよぅ……)

 行き交う人の海に流されながら、ティンカーベルはほろりと涙をこぼす。
 ――そんな様子であったから。意識が周囲になんて向いていなかったから。
 どん、と大きな何かに正面からぶつかった。思わずごめんなさいと謝ろうとした瞬間、ティンカーベルのからだに巨大な拳が打ち込まれていた。小さくも重いはずである機械仕掛けのボディが、ゴミのように軒先の屋台へと吹っ飛ばされる。

「コノ ポンコツガァァ ドコ 見テン ダヨ エェ?」

 明らかに体の大きさのバランスが狂っていて、上半身が過剰に肥大化した逆三角形のフォルムをしている。過剰改造と一目で分かるつくりをした大型オートマタだった。全長3m以上はある鋼鉄の巨体だった。
 そいつはティンカーベルの頭をわしづかみにし引き寄せると、舐めるような視線でじとりと観察した。

「人間モドキ ガ コンナ所デ 珍シイジャ ネェカ オマエノ ナカニ有ル エネルギー機関 俺ニ ヨコシナ」

 そう言って巨木のように太い手を、少女の小さな腕部に伸ばし。花を手折るかのごとく、乱暴に引きちぎる。銀色の液体燃料が噴き出した。金の歯車が飛び散った。細い鎖が臓物のように引きずり出された。複雑に構成されていた球体間接がばらばらになった。

「いやあああああっ!」

 人の波は、そこだけぽっかりと穴が空く。皆、見て見ぬ振りをしている。あるいは助けようと何かを言いかけたり、詰め寄ろうとする。けれど。

 助けよう
 おい
 あいつは
 中毒者だ
 例の違法燃料の
 まずい
 でもあのままじゃ
 やめとけ
 死ぬぞ
 だからって
 無理だ
 スクラップにされちまう
 
 そんな言葉が飛び交って、結局は誰も。声はかけない。手を伸ばさない。
 ティンカーベルの体を、大型オートマタが引っつかむ。太い指が杭のように細い体躯にへとめり込んでいく。ギギギと嫌な音を立てて、少女の体が悲鳴を上げて、

「いい加減にしなよ」

 凛とした声が響いた瞬間、黒い人影が人ごみの中から弾むように飛び出していた。跳躍したその影は弧の軌道を描いて、宙を舞う。大型オートマタの上部に位置するところで、人影は手に持つ得物をそいつの腕に向けながら、鋭く言い放つ。

「その薄汚い手ェ離しな。デカブツ」

 手の中の得物。握られているのは銃。銃把に正義の天秤をあしらったリボルバー拳銃。その名はヘルター・スケルター。それは武器。それはトラベルギア。
 
 ヘルウェンディ・ブルックリンの、戦う力(トラベルギア)!

 ヘルの得物が火を吹いた。弾丸が大型オートマタの分厚い装甲にめり込んだ。そして弾丸は爆散し、内部から腕を吹き飛ばす。爆ぜた腕から細かな部品が四散して、火の粉のように舞い散った。ティンカーベルの頭を掴んでいた腕が吹っ飛んだ。
 その時、人ごみから飛び出す影が新たに2つ。白燕とジングだ。白燕がティンカーベルの体を空中でキャッチし、地面へと降り立つ。ジングがすぐさま駆け寄って、未だ頭部をつかんでいた鋼鉄の太い五指を、慎重に引き剥がす。

「俺ノノノ 腕ガガガ」

 ノイズが奔ったような雄たけびをあげるそいつを無視して、ヘルもティンカーベルのもとに駆け寄ってくる。その傷ついた体躯を抱き寄せる。

「もうっ……何やってるのよ」
「お姉ちゃん……ごめんね。ベル、ひどいことしちゃった。ベルは悪い人形だね……皆のところに、もう戻れないよね」

 ひび割れた硝子の眼球からも口の端からも、銀色の液体をにじませて。ティンカーベルは、ヘルの腕の中で力なく笑い、寂しそうに涙を流す。銀色交じりの涙を零す。

「ベルがいなければ……良かった、ね。ベルが、作られなければ……瑠璃だって、あんなことに、ならなかったのに……」
「ばか!」

 ヘルは叫んだ。夕闇の影に紛れて、その表情は見えない。けれどヘルの頬を雫が伝って、ティンカーベルの顔にぽたりと零れたのは確かで。震えを抑え込んだ声音が、ヘルの口から洩れる。

「死んでもいい悪党はいても、生まれてきちゃいけない命なんて一人もいないのよ。それはベルも同じ。例え悪いことをしてしまっても、それを自分なりのかたちで償うことはできるわ」
「お姉ちゃぁん……うっ、うぅ」

 そうして抱き合う二人を、安堵の表情で見下ろす白燕とジング。互いに目を合わせ、安堵の溜息をひとつ。

「モウ許サネェァ ココニ 居ル奴 皆殺シニ シテヤル ズェグゲゲゲ」

 間接部からバチバチと青白い電光を散らせながら、オートマタが叫ぶ。そばにあった鋼鉄の廃材をつかみ、秩序なく振り回す。人々が金切り声を挙げ、一目散に逃げ出していく。
 そんな人の流れの中、暴走する敵へと勇ましく歩み寄っていく二人は、白燕とジング。

「……仕方がない。やるぞジング」
「良いのですか、師匠」
「話し合いで解決したかったが……あの様子では、こちらの声は届かぬだろう」

 振り回す廃材に打たれ、鉄塊が飛んできた。避けずとも当たりはしないと見切ったそれは、二人の足元に着弾する。

「おっしゃる通りのようですね」
「ティンカーベルにも早急な手当てが必要だが、奴は他の住民にとって危険でもある。速やかに済ませるぞ。ただし――」
「無益な殺生はしないこと、せめて今回は中破にとどめよ、ですか?」
「その通りだ。行くぞ!」

 2人の姿がかき消えた。白燕とジングが左右別々の方向に躍り出た。
 それは疾い。目では追えない。ただ闇雲に暴れるだけのオートマタでは。
 敵は片腕につかんだ廃材を振り回す。それが壊れれば今度は拳で、鉄槌のように重い一撃を放つ。次々と放つ。
 それを舞うように避ける。腕で払う。脚で払う。
 2人の拳が疾る。蹴りが疾る。敵の死角をつき別々の方向から、稲妻の如く。
 そうして、鋼鉄の体躯を打ち付ける音が何度も響いて。
 やがて大型オートマタは、盛大な土煙を上げながら前のめりに突っ伏した。


▼その後の早朝のこと。
 瑠璃の緊急修理も終え、さらには立て続けに、傷ついたティンカーベルの修復も行って。工房の作業台で横になっている瑠璃の傍に、志音は居眠りせずに付いてた。

「……あるじ」
「おはよう、瑠璃」

 夜通しの作業に、疲れの色を見せるやつれた表情をしながらも。マスターの志音は、ようやく再起動して瞼(※)を開いた瑠璃に、にこりと微笑む。

「……何が、あったのですか。記憶回路の一部に、問題が生じています」
「たぶんそれは、これから説明してくれるよ。ミオとティンカーべルがさ」

 ジングが欲しいからとやりすぎた態度を取ったミオも、それが気に入らないからと暴れてしまったティンカーベルも。たんまりとマスター達に叱られ、諭され、泣いて、最後にはマスターと抱き合って。そうした夜を過ごしたようだった。何とか問題は解決したようだし、後はきっと大丈夫だろうと志音は考える。

「だから今はまだ、休みなさい。修復した駆動系や機構が、制御回路に馴染むまで時間がかかる」
「……よく分かりませんが、あるじの命に従います。優秀な私は速やかに、休眠状態へ移行します……」

 そうして瑠璃はまた瞳を閉じる。
 扉をノックする音が響いて、志音がどうぞと返す。イーリスがお茶と軽食を持って、工房に入ってきた。彼女のマスターのメルヒオールは、隅にあるソファーの上で、うな垂れたように突っ伏し、寝息を立てている。

「ミオとティンカーベルのほうは大丈夫そうよ。仲直りしてたから。……瑠璃は?」
「さっき目覚めたけど、また寝かせた。でももう大丈夫、しばらくは動きがぎこちないだろうけど……そこは支えてあげてね」
「当たり前でしょ。私は皆のリーダーだしね」

 強気に笑いつつ、己の胸をぽんと拳を当てるイーリス。志音は「そいつは頼もしいや」とくすくすと小さく笑った。

「あ、そういえばさ。瑠璃が落ち着いてきたらこれ、渡してくれる?」

 そう言って志音は、綺麗な包装紙とリボンで飾られた小さなプレゼント箱と封筒を懐から取り出し、イーリスへ手渡す。

「何これ?」
「手紙とプレゼント。天体を模したペンダントだ」
「えっ、私に?」
「残念、瑠璃にだ」
「なーんだ。自分で渡せばいいじゃない」
「ついで、さ。ほら、こっちが本命。君への贈り物。愛しきマスターの、メル先生からだよ」
「おいなんで今渡すんだよ! 早すぎだろ! と言うかその名で呼ぶなってあれほど……」

 眠っていたはずのメルヒオールが、慌てた様子でソファーからがばっと身を起こす。
 志音は彼を無視すると、別のソファーの上にごろんと横になり、ひらひらと手を振りながら2人に背を向ける。

「なんだか男って奴は、いざと言う時に恥ずかしくなって、大事なことを直接言えないんだってさ。メル先生は、君のことを僕に任せたので、だから僕もそれに乗っかって、瑠璃のことを君に任せたってわけ。そんじゃ依頼は遂行したし、もう寝るね。おやすみぃ……」

 そうして志音は何秒も経たないうちに、ぐぅぐぅといびきを立て始めた。
 イーリスは、志音から受け取った小箱の2つを見下ろして、きょとんとしている。
 メルヒオールは寝癖だらけの頭を掻きながら、居心地が悪そう。とりあえず毛布を手繰り寄せ、再び横になる。

「じゃ、俺ももう一眠り……」
「ちょっと待ってよ。何よ大事なことって」
「大したことじゃあ、ない」
「些細なことだったら、いま言ってもいいでしょ」
「……大切な事なんだよ」
「大切なら今すぐ言うべき!」
「……」

 イーリスがメルヒオールのからだを遠慮なく、ぐいぐい揺さぶる。そのうち、ぽかぽか手で叩いてくるようになる。そのうち、拳でごすごす殴ってくるようになる。

「痛い痛い! あぁもう分かった言うよ言うからやめろ」
「もう、最初から大人しくそうしなさ――」
「……ありがとよ」
「えっ」

 メルヒオールの背中に叩き降ろしていた両手が、ぴたりと止まった。メルヒオールはイーリスに背を向けたまま、もごもごと背中をこすぐったそうに揺すりながら、ぺらぺらと早口に語る。

「教師はしてたが子育てなんて初めてでな正直不安だったしかも女の子の扱いなんて分かりゃしない、でも今回の件でおまえがきちんと育ってくれてたことに感心したし嬉しかったこんな俺でもできないことはないんだって思えたし賑やかな昔を思い出したよ、こんな俺で迷惑かけてたとは思うがすまなかっただからありがとよはいおしまいおやすみな」
 
 ……。
 しばらくの沈黙があった。

(やばいなこれはいい加減にやり過ぎたかもっと丁寧に言えば良かったか、でもそんなの面と向かって言えるもんかこんなことあぁ何だか顔を近づけてる気がする頭突きでもされるかなこいつは)

 イーリスが、自分の顔にそっと近づいてくるような気配を感じ、一発きついのをお見舞いされるのではないかと、内心びくびくとする。背を向けたままおもむろに手を伸ばし、彼女の頭をぽふぽふと撫でて。

「もう少しでお別れだが、再会できたときは授業の続きをしてやる。学んだこと復習しておけよ」

 ……。
 しばらくの沈黙があった。

(まずい逆効果だったか)

 あぶら汗をにじませながら、横になったまま心も含めて身構えた。けれど、お見舞いされたのは拳でも頭突きでもなく。
 ちゅ、とほっぺにあったかい感触。そして耳打ち。

 ――お別れは寂しいな、せんせ。

 イーリスがばたばたと工房を出て行く足音がして、それが遠くなっていって。

「……生徒に手ェ出しちゃいけないよ、せんせ」

 寝ていたはずだった志音の悪戯っぽい囁きは、メルヒオールが投げた枕にかき消された。

 †

「ふんふふーん♪」

 音程の外れた鼻歌をくちずさみながら。緋夏はまだ人の集まっていない食堂で、観光雑誌などの本を片手に何やら作業をしていた。
 そこへ、眠たそうに目をこすりながら寝巻き姿の撫子がやってくる。

「おー、撫子。昨夜はお説教タイム、お疲れ様ー」
「あ、うん。全く、うちのミオちゃん変なトコで常識ないんだもの。ま、そこが憎たらしくも可愛いんだけどさ」
「飼い主に似たんじゃない?」
「うっさい」

 ぶすっとした表情で返しつつ、緋夏が机に広げている本やメモを不思議そうに見下ろす。ちなみにメモは、幼児がクレヨンで描いた落書きみたいで。

「何やってるの? ……コルロディ島の観光名所と、タイムスケジュール?」
「ほら、私達が残れるのもあと少しでしょ。最後に皆で出かけて、思い出作りしようと思って。あと、あの子達にはやっぱり仲良くしてもらいたいし、そのきっかけになればいいなって」
「……意外」
「何よ、あたしだって一応、マスターなんだからー」

 大人びた外見に似合わず、緋夏は子どもみたいにほっぺを膨らませ。

「一応というだけで、マスターは子どもと一緒でしょう」

 緋夏へ言葉つなげるように、マヤも食堂へ降りてきた。

「どうせマスターは計画性もなく、突発的に〝今から出発だ!〟なんて言うんでしょう。朝食の支度と一緒に、お弁当の仕込みをしなくては……」

 マヤは肩をすくめながら、キッチンに立つ。

「え、ちょっと待って緋夏。その企画って今日からやるの?」
「え? そのつもりだけど」
「あんた気まぐれすぎ……!」

 きょとんと返す緋夏に対し、撫子は頭を抱えて肩を落とす。

「二度寝しようと思ったのに……まぁいいや。マヤちゃん、手伝うよ」
「……ミオも手伝う」
「わ! きゅ、急に声かけないでってば、ミオちゃん!」

 いつの間にか撫子の後ろに居たミオが、ぽーっとした表情で彼女の寝巻きを引っ張っていた。

「……ミオ、いっぱい迷惑かけた。だから代わりに手伝う。労働でご奉仕……」
「ほんと? 嬉しいなぁ。ありがとね、ぎゅーっ」

 夜通しの説得も無駄ではなかったと思えれば、ミオのことがもっと愛らしく思えて。撫子はミオの体躯を愛情たっぷりに、きゅむっと抱きしめた。
 ミオもぎこちなく抱き返してきたが、その力は強烈だった。でも撫子は痛みで笑顔は歪めず、我慢して。

「い、痛たたた。ミオちゃん、加減してもっとそっとハグして? 他の人じゃ泣いちゃうかも。泣き顔、悲しいでしょう? みんなが笑顔になるようにするのがハグなんだよ」
「……これくらい?」
「そうそう、それくらいね。よしよし」
「……ベルにはさっきのくらいでハグする」
「え」
「あはは! ミオったら嫉妬深いなぁ」

 緋夏は愉快そうに机をばしばしと叩きながら、けらけらと他人事のように大笑い。
 そして何を思ったのか、すっくと立ち上がればマヤの体を抱え、たかいたかーいの要領で持ち上げた。種族としての影響で、見た目の細身からは考えられない力を持つ緋夏でも、ちょっとだけ重たそうではあるけれど。

「それに比べて、うちのマヤはできる子だし、おませさんで可愛いし、面倒見はいいし! あーもういつでもお嫁に出せちゃうけど、こんなに可愛いから誰にもあーげないっ」
「勝手に決めないでください。あと仕込みがあるので降ろしてください」
「あたしも手伝おっか?」
「マスターは、役に立たないスケジュールでも組んでてください」
「あーもう、つんつんしてるトコもほんと可愛いよっ」

 うずうずと我慢していたものが決壊し、マヤをぐいっと抱き寄せたら、その唇にむちゅーっとキスをする。
 それを見て、ミオはこくこく納得の頷きをしながら。

「……いつも勉強になる」
「ん? ちょっと待って。もしかして緋夏、あんた何かミオちゃんに教え込んだ?」
「ううん、別に。ただ私の知ってること教えただけだよ」
「思いっきり教えてんじゃん! ちょっとやめてよもぅ」

 両手両膝を床につき、うちのミオちゃんが変な子にぃー、とすすり泣く撫子。マヤとミオは慰めるように、よしよしと頭を撫でてくれた。

「朝の訓練が終わったので、来てみれば……随分と賑やかだな」
「皆さん、おはようございます」

 ひと汗をかいて清々しい面持ちをした白燕とジングも、食堂に入ってきた。

「緋夏が観光ツアーを企んでるんだって。今から皆でお弁当の支度――っと、こらこら」

 ミオが無遠慮にジングへ近寄ろうとしたので、撫子が襟元掴んで阻止しつつ、白燕へ補足して。

「それは興味深いな。食事の支度は手伝えそうに無いが、巡り先の意見なら述べられるぞ」
「ほんと? じゃあこっち来て来て! これが今のとこの予定なんだけどさー」
「……珍妙な記述の仕方だな」

 手招きする緋夏の、幼子の落書きのようなメモを見ながら、白燕は腕を組んで真剣な様子。

「あら? 皆、もう起きてるの?」

 そこへ、ヘルがティンカーベルと一緒に手をつないでやってきて、珍しそうに面々を見やり。
 工房で寝てるぼんくら組は差し置いて、女性陣マスター達とその人形達による『最後の思い出ツアー』が、わいわいと賑やかに企画されていく。

 別れの日を迎えるまで。一同はこんな日々を過ごしたのだと言う。

 †

 旅人の宿命として、この子たちの思い出にロストナンバーの姿は残らない。
 けれど、機械仕掛けの心に刻まれた大切なものは色褪せず、記憶回路に残り続けていくはずだ。
 そう。
 たとえその顔や手足が、ヒトの手によるつくりものであったとしても。

(おしまい)

クリエイターコメント【あとがき】
 〆切ぎりぎりまで粘っておりました、夢望ここるです。……お、遅くなってしまって申し訳ありませんっ。


 今回は子育てです。ピノキオな感じです。あるいはWJ。
 スチームパンク+レトロな世界観のミスタ・テスラを舞台にするなら、まずこれを! と考えていた構想のひとつです。
 元気な女性陣と、研究者気質な男性陣(?)との対比で、ほのぼのしつつ元気な雰囲気で展開させていただきました。中盤、ちょっとダークですけれども。これもまた、この島の顔のひとつと考えていただければっ。

 一週間前までにはほとんど完成していたのですけれども、ふと思いついた内容を取り入れてみたくなって大まかに書き直した結果、ちょっと期限すれすれまでに修正や推敲を加えることとなりました。その分、機械仕掛けの子ども達と触れ合い模様、愉しんでいただけるようなリプレイに仕上がっていればと思います……!

 それでは、夢望ここるでしたっ。


【おまけ】
 では今回、皆さまの各プレイングや、他の人形たちとも触れ合ったことで個性づけがされた各オートマタの子たちを、それぞれ紹介してみようと思います。

▼ジング
 煌白燕が育てた、今回唯一の男の子タイプとなる自動人形。マスターの呼称は「師匠」。東洋風のゆったりとした衣に身を包む。
 物静かで大人しいが、芯の強さと生真面目な気質から、心優しくもたくましい子へと育った。
 彼の何気ない優しさに、何体かの人形は好意感情回路を過剰刺激させられ、ハートを射止められてしまった様子。ジング君の明日はどっちだ。
 趣味は早朝の自己鍛錬。師匠のもとで磨き上げた技は、悪漢オートマタに引け取らないほどの腕前。
 性格キーワードのイメージは【勇敢】【温和】【やさしい】。

▼瑠璃
 縁記志音が育てた女の子タイプの自動人形。マスターの呼称は「あるじ」。分厚い眼鏡がチャームポイント。ゴシックな衣装を着ている。
 マスターに似てか、生活には無頓着。服はいつも、地下書庫の埃で汚れている。 自信過剰。自らに大きな信頼があり、揺ぎ無い信条を持つ。言葉が辛口で毒舌。口癖は「優秀な私は~」。
 趣味は研究と読書。数式・機械工学関連の方面に興味を示す。
 性格キーワードのイメージは【プライドが高い】【理性的】【勤勉】。

▼ミオ
 川原撫子が育てた女の子タイプの自動人形。マスターの呼称は「マスター」。
 無口で無表情であり、一見は冷たい印象を持たれやすいが、その内面は感情豊か。大人しそうにも見える一方、きびきびと動き回れる行動派で、大胆なことを恥じらいもなくできる。手伝いなども進んで行う家庭的で素直な女の子だが、緋夏の影響でちょっぴり変な子に育つ。
 趣味はぼーっとすること。いつも眠そうだが、別に居眠りしたりはしない。
 性格キーワードのイメージは【負けず嫌い】【大胆】【正直】。

▼ティンカーベル
 ヘルウェンディ・ブルックリンが育てた、女の子タイプの自動人形。愛称はベル。マスターの呼称は「お姉ちゃん」。クセのある毛が特徴。
 感情の起伏が激しく、勢いづくこともあれば沈みがちになったりと、ちょっとしたことで感情の波が大きく上下する。
 色々な面で未熟さが目立つものの、誉められたら伸びは凄まじいタイプの子。
 これといった趣味はないが、好奇心が旺盛でどんなことにも興味を示す。
 性格キーワードのイメージは【気まぐれ】【感情的】【甘えん坊】。

▼イーリス
 メルヒオールが育てた女の子タイプの自動人形。マスターの呼称は「先生」。エプロンを愛用している。
 粗暴な言動が目立つものの面倒見がよく、ぐいぐいと周囲を引っ張っていくタイプのリーダー気質な子に育つ。そうした成長は、ずぼらで生活力のないマスターを支えるため、母性的な気質が自然と発生したからとも言われている。
 人形たちのリーダーとして、たくさんのことを一度に器用にこなす。でもちょっと短気。怒ると怖い。
 趣味は裁縫。エプロンは見よう見まねでのお手製。いわく「先生はあんな調子なので、自分の面倒は自分で見なきゃ」だそうな。
 性格キーワードのイメージは【気が強い】【粗暴】【情に厚い】。

▼マヤ
 緋夏が育てた女の子タイプの自動人形。マスターの呼称は「マスター」。癖はため息。
 どんなことにも淡々としており、感情を乱すことは稀でとても冷静。マスターからの愛情のキスやハグにも全く動じず、溜息交じりに受け止めるのみ。
 能力はイーリスに次いで全体的に高く、家事などもそれなりにこなせる。緋夏の誘いで外へ繰り出すことが多かったため、アウトドアの能力は特に高い。キャンプに連れてくときっと大活躍。子どもっぽいマスターに辟易しつつも、きちんと面倒は見るし世話も焼く。
 趣味は読書やガーデニング。自分だけの時間をきちんと持ちたいタイプ。
 性格キーワードのイメージは【クール】【自立心が強い】【現実主義】。


【『教えて、メルチェさん!』のコーナー】
「こほん。
 皆さん今日和。メルチェット・ナップルシュガーですよ。
 お人形の子ども達との共同生活、如何だったかしら。ちょっとした騒動もあったみたいだけれど……眺めている分は楽しいものですね。あ、ごめんなさい。うふふ。
 ……あなたたちと触れ合った記憶は無くなってしまっても、教わった大切なことそのものは消えたりせず、あの子達の一部として溶け込んでいくと思います。
 さ、それじゃあ今回も私と一緒に、漢字の読みかたをお勉強しましょ。

▼頁:ぺーじ
▼体躯:たいく
▼矯め:ため
▼悪漢:あっかん
▼珈琲:こーひー
▼端的:たんてき
▼癇癪:かんしゃく
▼痙攣:けいれん
▼瞼:まぶた

 皆さんはいくつ読めましたか? もちろんメルチェは大人ですから、全部読めますよ(きぱ)」
公開日時2012-02-21(火) 21:30

 

このライターへメールを送る

 

ページトップへ

螺旋特急ロストレイル

ユーザーログイン

これまでのあらすじ

初めての方はこちらから

ゲームマニュアル