オープニング

 宇治喜撰……無事デ本当二良カッタ!
 モウ、絶対二君ノ事、離レナイヨ。ボク、一生ヲカケテ君ノ事護ルヨ。
 ボク、決メタヨ。僕ハ、ロストメモリー、二ナル。
 夢ノ中デダケド……オ母サント、オ別レシテ自分ノ事、理解出来タシ……。

 気ニナッテイタ、カンダータ、ノ事モ一区切リツイタシ……。
 ……今思ウト……僕ガ、カンダータ、二執着シテイタノハ……アノ世界二自分ノ故郷ヲ連想シテイタカラ、カモシレナイ……。僕ノ故郷デハ、マダ人間サン達ガ戦争ヲ続ケテイルノカナ……。
 僕ノヨウナ、ロボット、ヲ使ッテ……、…モウ、故郷ノ事ハ忘レテモ良イヨネ……。

 僕、零世界二来ル事ガ出来テ、本当二良カッタト思ッテイルヨ。
 零世界二来テ、沢山ノ友達ガ出来テ……僕ハ、オ母サンノ理想ノ、ロボット、二ナル事ガ出来タ。
 零世界ノ仲間ガ僕ヲ、人の心ガ分カル優シイロボット、二シテクレタ。
 ダカラ……次ハ僕ガ仲間ノ、チカラ、二ナリタイ!
 昔ノ僕ミタイニ悲シンデイル人ノ助ケニナリタイ!大好キナ宇治喜撰ト一緒二!
 僕ハ、ロストメモリー、ニナッテ、将来ハ世界司書二ナルンダ!宇治喜撰ト一緒二仕事スル!
 ア、宇治喜撰ノ助手ジャナイヨ? 僕ハ彼ヲ超エテ立派ナ世界司書二ナル。リベルサン以上二。
 …ァ…エット……彼ノ方ガ僕ヨリモ、ズット性能ガ良イノハ知ッテイルケド……デ、デモ
 ……恋愛ハ卑屈ダト成功シナイッテ……ニコ、カラ教ワッタカラ……
 ダ、ダカラ……僕ガ彼ヲ、エスコート、出来ルヨウニナルノ!
 ……ボク、頑張ルノ!

『宇治喜撰…君ノ仕事、僕ニモ任セテクレル?僕ノ事、徹底的二鍛エテヨ。
 ……君ノ魅力ガ僕ヲ決心サセタンダ。責任取ッテクレルヨネ?』

 それから、幽太郎は図書館で頻繁に目撃されるようになった。
 書類を運んだり、探したり。
 たまには、冒険計画を立案を補助していることもあるようだ。リベルやエミリエのあとをのしのし歩いている。
 無線でいつでもつながれるはずなのに、いつも茶缶と一緒にいる。0世界の人々はそれを微笑ましくみていた。
 ロストナンバー達には好評だ。
 これまで、宇治喜撰からの冒険情報はトラベラーズノートに送信されていた。便利と言えば便利だが多くのロストナンバーは電子情報になれていない。が、今では横に控えている幽太郎が紙のパンフレットやちょっとした小道具も渡してくれる。
 ある意味、世界図書館標準のサービスが提供できるようになったわけだ。

... peer AHI/MD-01P
 ナニ宇治喜撰?
... if (AHI/MD-01P → love() == 241673)
 ウ、……ウン。ドウシタノ急ニ?
... I want to know.

... SELECT * FROM AdventureReports WHERE Story LIKE "%love%"


=========
!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。


<参加予定者>
宇治喜撰241673 (cwme8470)
幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008)

品目企画シナリオ 管理番号3101
クリエイター高幡信(wasw7476)
クリエイターコメント> 今回のデートで茶缶さんとゴールインを目指します!
 hmm……
 わりと前回で既にゴールしているつもりだったのですが、折角ですので後日談と行きましょう。

 と言うわけで、愛がなんであるか知りたがっている宇治喜撰がお勧めの愛の詰まっている冒険記録を所望しています。
 がんばって選んでください。
 その内容によって宇治喜撰が愛をどう理解したかが決まります。
 冒険記録は何本選んでもかまいません。
 単に選択する以上のプレイングを期待しています。

 他のPC様に相談可(笑)

参加者
幽太郎・AHI/MD-01P(ccrp7008)ツーリスト その他 1歳 偵察ロボット試作機

ノベル

 恋心はどこの世界にもある。
 殺伐とした幽太郎の世界にもあった。
 宇治喜撰のいた世界にも愛があったのかもしれない。
 幽太郎はそう信じたい。だが、愛すべき茶缶の記憶は封印され、もはや確かめるすべは無い。
 出会いはディアスポラしたてのロストナンバーを保護しに行った時。そのときは、ただほんの義務感と好奇心、……そして、同じAIとしてある種の憐憫を感じた。幽太郎と同じように、人間に囲まれて不安なのでは無いのかと。
「宇治喜撰ニトッテ恋ッテナンダロウ……」
 今の幽太郎は、恋をしている。自分が有澤春奈という人間に愛されて産まれてきたと知った。愛に、感情を持つと言うことに自信を持てるようになった。
 しかし、自分の内心に説明をつけられる者は少ない。
 とりたてて、まだまだ未熟な精神ならばなおさらである。
 幽太郎は宇治喜撰のことを想いつつも、自分がなぜに宇治喜撰に惹かれたのかは理解できないでいた。
 だから、愛すべき茶缶にひとつのクエリ(質問)を投げかけられたとき、大いに戸惑った。
 愛の形は様々だと言う。だから、幽太郎は人間あったり獣人であったり……当たり前に人を好きになることができる友人たちに聞いて回った。「はずかしいんだからな」と、仲間たちから様々な想いが集められていく。
 そして、図書館にアーカイブ(保存)されている冒険の記録の中から、愛の記録を漁ってみた。

「……ワカラナイ。大切ナモノ」

 幽太郎の中にある温かい気持ち。
 それに近いのはどれだろうか。
 その愛に方向性をつけとしたら、それをなんと呼ぶのが確かなのだろう。
 ともかく、幽太郎は、その心……回路……プログラムに響いた記録を三編選んだ。


  †


 一つ目は『休日は恋愛相談室』。

 ある日のカフェ。
 フラン、ヘルウェンディとニワトコの恋愛相談にマスカダインがのった姦しい一幕。
 なぜこのような些末事が図書館に残されているのかと言えば、カフェのテーブルに乗せられていた茶缶が一切を記録していたからであった。
 幽太郎はそのデータをダウンロードしようとしたが、宇治喜撰に阻まれた。
「アレッアレッ!?」

... real time playback

 機械竜が戸惑う間もなく、宇治喜撰から光線が発せられ、図書館の壁に一部始終の動画がプロジェクトされた。
『男ってホンット鈍感! 積極的に攻めてほしい女心がどうしてわかんないのかしら』
 ヘルウェンディの叫び声から映像が始まった。
 リアルタイム……。機械の二人に取ってはあまりにスローな等倍再生。現実の時間をかけて見ることに意味があると、茶缶は主張しているようであった。
「ソ、ソウダネ」
 幽太郎は簡素なカーペットが敷かれた床に腰を下ろし、茶缶を抱きかかえた。
 映像はゆっくり流れる。
 幽太郎は、母である有澤春奈との時間を思い出していた。彼女との交流も……当然、有澤春奈は人間であったので、彼女のペースで行われていた。春奈が一言発する度に、膨大な計算をして、音紋を解析し、言葉、抑揚、を割り出し、膨大なデータベースから意味を救い出し、ニュアンスを推論した。
 それには、幽太郎に搭載されたコンピュータといえども少なからぬ実時間を必要とした。
 これは時間が許す限りいくらでも計算を続けることが出来る作業だ。イテレーションの度に出力の精度は上がるが、自信が確信に変わることは無い。
 言葉の裏に隠された意味を読み取るのは難しい。
『ぼくの大事なひとは綺麗な黒い髪と、吸い込まれそうな瞳のひと。とてもやさしくて、一緒にいると、まるでおひさまの光を浴びてるみたいに、心がぽかぽかするんだ』
 映像の中のニワトコはどこまでもまっすぐだった。
 幽太郎も最初もそんなあこがれの入り交じった純粋な気持ちがあったように記憶している。
 だが、今は違う。
 幽太郎は……自分のメンタルがフィメールだと自覚しつつあった。
「宇治喜撰……君ニ必要トサレタイ。……君ハ何デモ出来ルカラ想像モツカナイケド。必要トシテ欲シイ」
 そうつぶやいて、膝に抱えている茶缶を見下ろした。
 わさわさと蓋から除くファイバーがゆれ、
 一瞬映像が乱れた。
「アレ? ヒョットシテ意識サレテイタリスルノカナ?」
 宝物になりそうだったから前後の10秒を切ってセンサーログを永久保存することにした。
 それから、彼女たちがおいしそうに食べるスイーツが気になった。
 宇治喜撰が、オイル……を必要とするようにも見えない。食べ物を相手の気を惹くことに使えない自分たちは少し不利で不便な気がした。

 ――――他人が居なきゃ精神異常起こすとか、命を賭けるとかよくわかんない。聞かせてよ。だれかといっしょにいることのなにがそんなにいいの?

 どきっとした。
 マスカダインが隠しているものは、ひどく不安にさせる。幽太郎にとって誰かの役にたちたいと想うのは、AIの根源原則として組み込まれている。そう、今まで信じていた。有澤春奈がプログラムしてくれたと。
 だが、先日の冒険で、幽太郎のAIのコアとなる部分は単純なオートマトンからなっていると知ってしまった。奉仕心と言う複雑な情動が入り込む余地は無い。幽太郎の心は有澤春奈の愛情から来ているはずなのだが、それを確かめる手段は無い。
 一方で、宇治喜撰も幽太郎と同じアルゴリズムで駆動されているという。ならば、宇治喜撰にも、幽太郎と同じように誰かを愛することが出来る。
 そのはずだ。
『わざと他の男の子を褒めてヤキモチ焼かせるのは?』
『ヘルちゃん? どういうこと?』
 映像に戻ってみれば、フランとヘルウェンディがバニースーツと格闘していた。
 バカらしい一場面。
 二人の女性の交わす想いは同じだ。
 女性は男性にもっと積極的になって欲しいと思っている。そのためなら、わざと他の男を褒めてやきもちをやかせる。そんなことも厭わない。
 ヘルウェンディの積極性は勉強になる。
「バニースーツ。イイカモ知レナイ……」
 宇治喜撰がどんな反応をするのか、色々想像してみるだけで楽しかった。


  †


 次に見たのは『月が綺麗ですね』。

 恋愛相談のほんのちょっとだけ後の一幕。
 虎部がついにフランをデートに誘い出した。虎部は勇気を出してリア充の道を歩き出している。幽太郎もそのように一歩ずつ距離を縮めていきたいと考えている。
幽太郎は彼を膝に抱えることは出来る。背負って歩くことも出来る。
 しかし、大きさも形状も何もかも違うゆえに、幽太郎と茶缶では普通の男女のように手を取り合って歩くことはむずかしい。
 ……それでもやってみたい。夢である。
 出会って、異世界に戸惑う彼にジャックされたりもした。幽太郎の軍用ファイヤウォールが一瞬で突破されたのは脅威だった。その時に、彼の記憶の一部も幽太郎に入り込んだ。
 それも宇治喜撰がロストメモリーとなったころには、おぼろげになった。覚えているのは、彼には帰るべき母船団があると言うことだ。ロストメモリーになるとき、彼は、これがもっとも母船団に帰投するのに効率的な方法だと言い残した。
 今その記憶も宇治喜撰には残っていないようだ。
 幽太郎は、茶缶の母船団を少しうらやましく思った。
 やはり、やきもちは恋に必要なスパイスなのだろう。記録の中では、虎部がやたらドクタークランチに対抗心を見せていた。
 幽太郎には茶缶の故郷を探すと言う選択肢もあるのかも知れない。
 そう言えば、茶缶にプレゼントを渡した事なかった。何が喜んで貰えるだろうか。
 一つのマフラーを二人で使うのもいい。宇治喜撰も自分に外套をプレゼントしてくれた。服というのは恋人が互いに送るものとして間違いないのだろう。
 茶缶にとっても――。

...
......

 直接聞いてみたい気もするが、それは大いなる野暮であるというのは今の幽太郎にも理解できる。
 悩んでいるこの時間が宝なのだ。


  †


 最後に選んだのは『We do not lose today's memory.』。

 幽太郎の荷電粒子砲をめぐって騒動があった頃、ロキことマルチェロ・キルシュと、サシャ・エルガシャが結婚した。
 会場となったクリスタル・パレスには大勢のロストナンバーが押し寄せた。
 ターミナルで仕立て屋を開業したサシャは一足先にロストメモリーとなり、ロキもつづいて0世界に根を下ろすことになるだろう。
 旅団との戦いも終わり、チャイ=ブレも眠りについた。ファミリーも整理され、0世界は変わろうとしている。
 嵐は過ぎ去った。
 最近、結婚するカップルが目立つようになってきた。
「ナンデアノ二人ハ結婚シタンダロウ……。ロストメモリーハ子供ガ作レナイノニ」
 0世界における結婚は、ヴォロスなりインヤンガイなりに帰属して、現地の民と結婚するのとは意味合いが異なる。
 当たり前の人間であった頃の習慣が抜けないだけなのかも知れない。
 だが、それだけに幽太郎には結婚というものがなおさら神聖に思えた。
 その一方で、生物では無い幽太郎と宇治喜撰との間にならば子供が(通常の意味のものでは無いにせよ)作りうるのでは無いのだろうかという希望があった。
「ネェ。僕タチノ間ニ子供ッテ作レタリスルノカナ」
 映像記録の中では『……だが君達には多くの子供が――家族がい……』ジョヴァンニが孤児院の子供達を指して言葉を贈っている。
「2人ノ人格プログラムヲ合成シテ子孫トナルプログラムヲ構築スル事ッテ、デキルノカナ?」
 いつもと異なり、宇治喜撰からの即答はなかった。
 茶缶でも悩むことがあるのかと、思ったところで急にメッセージが投げられた。

deny,
self.code == peer(AHI/MD-01P).code
> true
def trait child extends 241673 with AHI/MD-01P
child.code == peer(AHI/MD-01P).code
> true

 二人のコアとなるプログラムは同じだったという。エイブラムのも同じだ。
 更に言えば、意識あるものを律するアルゴリズムは全て同じだという。それが、茶缶を復活させる作業のなかで識った……事実であった。
 ゆえに幽太郎のAIと、宇治喜撰のプログラムを統合しても、まったく同じものが出来るだけで、それは子孫とは言えない。
 茶缶のしめした式を読み解けばそのように解釈される。
 ならば、データを統合すればどうなるのか?
 生物であれば、DNAは両親から半分ずつ受け渡される。
 幽太郎の記録を半分ランダム選出し、宇治喜撰の持っているデータも半分ランダム選出……だがしかし、宇治喜撰データの多くは忘却済みである。
 このあたりにロストメモリーに子供が産まれない理由が隠されているのかも知れない。例えば、意識を構成するだけのなにかなり、遺伝情報なり、が記憶献上の儀式で失われるとか。
「コドモ……。僕モママノヨウニ子供ヲ育テル日ガ来ルノカナ。デモ、宇治喜撰ハロストメモリーダシ……」

... peer AHI/MD-01P
(typeof [AHI/MD-01P, 241673])
> Finite State Machine
mutable

 我々は有限状態機械である。
 有限であるが……状態は変わりうる。

... peer AHI/MD-01P
(sendable [AHI/MD-01P, 241673])
> true

 我々は互いに情報を送りあい、それによって変化することが出来る。
 それは静止した0世界であったとしても、チャイ=ブレに手出しの出来ない領域。

>mimeme gene

 文化遺伝子――ミームは子孫を媒介しなくても、水平に拡散可能である。
「ソウカ、僕ト宇治喜撰ガコウヤッテ一緒ニ過ゴスダケデモ、二人ノ情報ガ入リ交ジッテ……新シイ物語ガ生マレルンダヨネ」

peer AHI/MD-01P

「ナニ?」

better half AHI/MD-01P

「ウン?」

.... enjoy

.. being

――存在することを楽しもう。

クリエイターコメント なんか、SFSFな小難しい展開を経て、結局はポエムに落ち着きました。世の中そんなもんです。
 わりと茶缶はこの状況を楽しんでいるのでは無いのかと思います。
 たぶん、色々な影響を受けたからでしょう。

 同じ映像記録でも二人で見れば違う風景が見えてきます。
 楽しいですね。

 と言うわけで、幽太郎さんは堂々と胸を張って彼女面していいと思います。青春です。
公開日時2014-01-27(月) 21:30

 

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