オープニング

 トラベラーズカフェ、ターミナルの駅舎の2階にこの店はある。
 ロストレイルが発着するプラットフォームを見下ろすこともできるテラス席を備えたカフェ。
 そこにあなたが訪れたのは偶然だった。

 それは、冒険旅行に出かける前の時間つぶしに立ち寄ったのかもしれない、
 あるいは、ただお茶を飲みに立ち寄っただけなのかもしれない。
 または、誰かと待ち合わせるために来たのかもしれない。

 あなたは、テーブルの一つに腰掛けた。すると、隣のテーブルの会話が聞こえてきてしまった。
 聞くともなしに耳から入ってくる断片的な話から察するに「帰属」についての話のようだ。

 ――帰属、その言葉を聞いた時、あなたの心に浮かんだものは何だったのだろうか。

 隣のテーブルの話はまだ続いている。
 色々あるだろう、簡単な話じゃない、家族に会いたい、やりたいことだってある。
 それぞれにそれぞれの主張があるようだ。きっと、たった一つの正しい答えなど存在しないだろう。


「やっぱり、元の世界に帰るのが一番だよね?」
「それは人それぞれだろう」
「えー、違う世界に行きたい人なんかいるの?」
「あたしは叩けば埃の出る身だからね。元の世界に帰るにしてもしばらく後がいいわ。無理なら別世界で新しい人生を始めるのも素敵ね」
「俺はロストナンバーのままでもいい。色々な世界を見て回れるのは楽しいからな。こんな生き方は元の世界じゃどだい無理な話だ」
 形勢不利とみた少年はきょろきょろと辺りを見回す。そして、あなたと目が合った。


「ねえねえ、帰属するなら、元の世界がいい? それとも別の世界がいい?」


品目ソロシナリオ 管理番号2919
クリエイター青田(weem7811)
クリエイターコメント隙間産業を狙う青田でございます。
終わりが見えた今なら、こういう内容も需要があるのではと試験的に準備してみました。
内容はそのまま「帰属」についてになります。

OPの状況に巻き込まれたPCさんが、帰属について自分なりの考えを述べてもらうシナリオになります。
それだけです。(←
内容が内容だけに皆さんのプレイングが命になります。
捏造大好きな青田ですが、このシナリオに関しては難しいと思います。
できそうなら、やりますが。

お気づきかと思いますが、自由が恐ろしく高いシナリオになります。
乗る予定のロストレイルが来たからさようなら、そして、「ロストレイルの車窓から」にシナリオが早変わり。
そんなことより注文したアイス美味しいよね、陰陽街食通記なグルメシナリオに早変わり。
ということは無しでお願いします!

OPに登場してる3人の概要です。

少年:帰属に積極的。元の世界は一番いいよね!
女性:帰属は可もなく不可もなく。元の世界に帰りたいとは強く思ってない。
男性:帰属には消極的。自由気儘に旅できる現状が一番楽しい。

>プレイング
帰属に対しての考えは絶対にお書きくださいませ!

書き方の例として
誰がどういう質問をしてくる、それにPCはこう答える。
というように、完全に指定だとPLさんの思うPC像からのブレが少ないと思います。

あるいは、PCさんのスタンスを列記して青田に丸投げ。
この場合、そのスタンスから推測される受け答えを青田が捏造します。
PLさんの持つPC像とのブレが生じる可能性がありますので、リスキーな方法になるやもしれません。そうはならないように精一杯頑張りますががが。

それでは、気が向きましたらご参加くださいませ。
プレイングの日数にご注意を!

参加者
タイム(czca5378)ツーリスト 男 16歳 最後の勇者

ノベル

 あ、お、俺?
 久々にカフェに寄ってみれば安定の巻き込まれ属性、これぞ勇者か。
 ……え、いやいや、何でもない。こっちの話。

 それで、いきなり話し掛けられても何がなんだか分からないよ。
 帰属について?
 そういえば、最近は帰属の話を耳にすることが増えてきたな。
 スライム元気にしてるかな。
 あーいやいやいや、何でもないこっちの話。

 俺は元の世界に帰属だな。それこそ、少年と同じく積極的にな。
 あ、ただな。いわゆるプラス方向の理由じゃなくて、マイナス方向の理由が強いんだよ。
 つまり、元の世界に帰属できたら嬉しい楽しいじゃないんだ。むしろ、辛いし悲しいことは分かってる。
 それなら、どうして帰属したいのかって?

 はーい、唐突だけれど俺から質問。
 あなたは勇者だとします。そして、目の前に魔王がいます。
 さあ、あなたは魔王をどうしますか?
 そう普通なら「倒す」だろうね。そこで、「倒す」と答えたあなたに追加質問。
 魔王が勇者の尊敬する人物だったら、魔王が勇者にとってとても大切な存在だったら、どうする?

 勇者が魔王を尊敬するのはおかしいって?
 そんなことはないよ。世界はたくさんあるんだ。魔王を尊敬する勇者がいてもおかしくない。
 現に俺がいた世界はそうだったぜ。

「最後の勇者」が「最後の魔王」を倒す。
 問題なのは、俺が勇者で父さんが魔王だってことだ。

 残念ながら、嘘でも作り話でもないんだ。そうだったら、俺が嬉しいくらいだよ。
 しかたねぇだろ、ろくでもない神さまが作り上げたシステム。その残骸のせいなんだからよ。
 俺だってやりたくてやってるわけじゃない。嫌になるよな。ろくでもない神さまのせいで、どれだけ迷惑してるんだか。

 俺、これでも母さんの腹の中に500年いたんだぜ。
 生まれてからは、見た目くらいの年数しか生きてないよ。ロストナンバーになった間は別としてな。見た目は子供だけど500歳とかじゃない。
 ターミナルだと見た目は子供だけど、何百年も生きてるのだって結構いるよな。

 幸い、俺はちゃんと普通に『生きて生まれた』んだ。
 いや、おかしくないよ。頭痛が痛いみたいに聞こえるだろうけど、これで合ってるんだ。
 本当なら、勇者は『死んで生まれる』んだ。
 魔王はなるべくしてなるんじゃない。ある日、いきなり魔王になるんだ。それも子供を授かった夫婦がだ。
 子供は勇者に、父親は魔王に、そして母親は世界の礎にされる。
 いつからそうなのか、誰から始まったのか。それは知らない。
 魔王は自分の妻を取り返すために手に入れた力を振う。それが世界の礎に傷を入れて魔物を生み出す切欠になる。だから、世界はどんどんと荒廃する。
 そして、魔王が妻を救い出すと同時に、魔王は勇者に倒される。魔王を倒した勇者は、生まれる前にもう死んでいるために本来なら存在しないから役目を終えて消滅する。
 かくして魔王と勇者の戦いは幕を閉じ、次の役目は誰かに受け継がれる。何の罪もない夫婦にな。
 救いだされた妻はどうなるのかって?
 どうなるんだろう、それは知らないな。でも、独りだけ全てを知ってて生き残るなら辛すぎるよな。
 でも、たぶん死ぬな。魔王の力は、魔王以外には破壊の力でしかないはずだ。その力で救い出されてもきっと生きていられない。

 父さんや母さんがどうやってそのシステムを捻じ曲げたのかは知らない。
 でも、俺は生きて生まれこれた例外なんだ。俺が父さんを殺せばシステムは完全に止まる。
 だから、俺は「最後の勇者」で父さんは「最後の魔王」なんだ。
 俺だって父さんを殺したくなんかないよ。
 父さんも母さんも大好きだし、弟も妹も大好きだ。
 母さんは世界の礎にされてなかったから、父さんは魔王としての力を使わなくてすんでた。
 世界は平和だよ。魔物だって悪さなんかしないさ。観光案内してるのもいるし、俺はスライムの友達がいるくらいだ。
 みんな、みーんな平和に暮らしてる。なのに、俺は父さんを殺さないといけないんだ。
 ひっどい話だよな。でも、システムを止める方法は今のところそれしかないんだよ。
 それに、俺が帰らなかったら、その役目は何も知らない弟にいっちまうんだ。それだけは避けたい。心を壊すのは俺だけで充分だ。

 ああ、そんな顔すんなよ。
 これでも俺は恵まれてると思うよ。歴代の勇者たちより、きっとずっと幸せなんだ。
 システム通りの勇者だったら、平和な世界にのうのうと暮らしてなんかいられなかった。
 大好きな家族と友達に囲まれて、16年間俺は何にも知らずに幸せに暮らせてた。
 今思うとさ、父さんや母さんは何を思って俺を育ててくれたんだろうって不思議に思うな。
 父さんは自分を殺す相手を育ててるんだぜ。母さんは、息子が父親をいつか殺すってことを分かってるのに俺を育ててくれた。
 なんでだろうなー。いっそ憎んで殺すように仕向けてくれればよかったのにな。
 なーんてな、嘘だよ、嘘。
 俺はちゃんと父さんや母さんの子供でよかったと思ってるよ。そう思えるのが幸せなんだ。
 俺はきっと最初で最後の幸せな勇者なんだと思う。

 はは、帰属を遅らしたとしても父さんを長く苦しめるだけさ。
 父さんは勇者以外には殺されない不死性を持ってるけど、それだけ。年老いてくんだ、普通にな。
 だから、500歳以上だと思うんだけど、全然ぼけてないしすっごい元気だぜ。現役の小説家で超売れっ子なんだ。
 解決策か。そうだな、見つかるといいよな。
 500年生きてたんだから、もう何十年くらいなら待っててもらえるかもな。父さんなら『あれー、そんなに時間経ってましたかー?』とかいいそうだ。
 そうだなー、もし戻ったら、まずターミナルにいた時の事を話して父さんに小説にしてもらおうかな。
 色んな世界を見て回れたからな。父さん大喜びだ。

 そりゃあ、嫌だよ。いいわけないだろ。父さんを殺す以外の方法が見つかるのが一番だ。
 でもなー、もし、万が一、見つからなかったら、俺は父さんをちゃんと殺すよ。
 だってさ、父さんも母さんも俺から逃げないでずっと育ててくれたんだぜ。なのに、肝心の俺が逃げてどうすんだよって。
 どんな想いで育ててくれたんだろうって想像したら、情けない真似できないだろ。
 泣いたりしないよ。俺が父さんに言わなくちゃいけないのは泣き言や恨み言じゃないから。
 今までありがとう、後は俺に任せてくれって、俺はちゃんと幸せだったって、言わなくちゃさ。
 そん時に泣いてたら格好つかないだろ? やっぱりさ、笑ってないと父さんも安心できないよな。
 
 もし、殺さないですんだらって?
 そうだなー、皆で旅行したいな。新しくなった世界を見てみたい。
 だってそうだろ? 今まで世界に組み込まれて機能してたシステムを完全に止めるんだぜ。それが世界に何も影響を出さないわけないだろ。
 きっと誰も考えなかったような事が起こるんだぜ。できれば、悪い事じゃないといいんだけどな。
 魔王も勇者も必要とされない世界。どんな風になるんだろう。皆で仲良く暮らして、色んな場所を旅してみたいな。

 あ、えーと、なんだっけ、そうだそうだ。帰属するなら、俺は元の世界ってのが答えだな。
 でも、それは生れた世界が一番良いから、そこに戻りたいってわけじゃないんだ。
 ま、こんなところかな。

クリエイターコメントご参加ありがとうございます、青田でございます。
今回は一人称視点で書かせてもらいました。この書き方の方が今回はよりそれらしく思えると感じた次第です。

さて、今回頂いたプレイングとキャラシートを拝見して思ったのは、……すごく重いです。
しかもざっと過去のノベルを参考にしてみたところ、この話の要になるシステムに触れたノベルはなさそうでした。
これはうかつな捏造はできないとガクガクブルブルしながら書かせてもらいました。

システムについて青田なりに解釈して疑問に思った点がいくつかありました。
その部分については、タイムさんが知らないけど、推論で語るという切り口にして正解不正解のどちらにも対応できるようにさせてもらいました。
それとプレイングから解釈を広げてタイムさんの性格にも切り込ませてもらいました。
PLさんの思うPCさん像からズレていないことを祈るばかりです。
まず青田が疑問に思ったのは、魔王が救い出した自分の妻であり勇者の母である女性のその後です。
魔王は倒され消滅、勇者も役目を終えて消滅、そうなると彼女だけ存在することになりそうです。
ただ、システムは次代へ受け継がれる時にまっさらになっているようでしたので、関わった存在は全て消滅というように解釈しました。
じゃあ、どうして消滅するのだろうと考えた時に、魔王の力は魔王以外には破壊の力でしかないとありましたので、救い出したはずの妻は救おうとした自分の力で死に至るというバッドエンドなパターンを捏造してみました。
こうするとより悲劇的になるかなと。
もういない神さまの用意した残酷な舞台の仕掛け通りにしか動けない操り人形の世界。
凄く平和で穏やかな世界だけど、切り口を変えると見える別の側面。ホラーですね。
タイムさんの両親がどうやってシステムを歪めたのかは、全く情報がなかったのでタイムさん自身も知らないとさせてもらいました。

歴代勇者や両親への想いはプレイングから青田が妄想捏造させてもらいました。
弟に辛い役目を押し付けたくない。嫌な思いをするのは自分だけで十分。
自分自身でもどう処理していいか分からないほどの辛さを抱えながら、回りのことを気遣えるという心根。
プレイングにはありませんでしたが、タイムさんなら自分を育ててくれた両親のことや自分と同じ役目を押し付けられて消滅していった勇者たちのことを想ったことはあると思います。
そして、色々と気付いていたのではないかなと。ちゃんと愛されて幸せに育ったタイムさんなら、大事なことや価値あることに気付いて、自分を育ててくれた両親を想えばこそ自分は逃げちゃいけないと思えるのではないかなと。
こういう善人的な思考は、図らずも勇者としての風格になるのではないかなと青田が夢見てみました。
そして、タイムさんは父親を尊敬しており、同じように世界を見て回りたいという夢があったようなので。
理想の未来としては、家族皆で世界を旅するというのがふさわしいかなと最後の語りに捩じ込んであります。
今回は見知らぬ他人に語るというスタンスなので、プラス面のみ語ってます。
しかし、タイムさん的にはマイナス面も自覚しているのではないだろうかと妄想します。
世界を動かしていた神さまのシステムを完全停止させた後の世界は、平和かどうかといえばまず混乱ありきかなと思います。
世界の礎が発生しなくなるんですから、それがどんな影響を出すかと想像すると……。
この危険性にタイムさんはなんとなく気付いているのではないかなーと。

青田としては、最初で最後の幸せな勇者、というフレーズの他に最初で最後の世界を滅ぼした勇者というフレーズも浮かんでおりました。
元の世界がどうなるかは帰属後の話ということで青田としては関われない部分になりますので、草葉の陰からひっそりと見守りたいと思います。
このまま語ってると、シナリオの量を超えそうなんでそろそろ自重します。

それでは、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
またご縁があればよろしくお願いします。

公開日時2013-08-28(水) 19:00

 

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