クリエイター藤たくみ(wcrn6728)
管理番号1682-25789 オファー日2013-09-30(月) 10:40

オファーPC メアリベル(ctbv7210)ツーリスト 女 7歳 殺人鬼/グース・ハンプス

<ノベル>

 これはここではないどこか。
 どこかのいつかの物語。
 けどいつかではない午後の四時。
 日時計の下でねばねばトーヴがチーズを食べてる遥場の向こう。
 もっさもっさのボロゴーヴがくたびれて緑のラースは帰りたいと泣いた。
 そんなどこかの遊園地。

 そんなどこかの――……?


 ※


「ここはどこ?」
 メアリベルが尋ねてみても。
 やけっぱちなジャブジャブ鳥は「右を見て!」としか答えずに。
 つがいをさがして飛んでった。
 右を見て? 左が見える。
 左を見ると、中には右が。
 右の中には左があって、左と右が無限に続く。
 だから前にはうしろと前と、うしろのうしろのメアリが見えた。

 ここは鏡の迷宮――どこまで行っても出口はない。

 メアリの前でメアリが言う。
「ミスタ・ジャバウォックにご用心!」
 メアリのひだりでメアリが身震い。
「バンダースナッチに近づいちゃ駄目!」
 うしろの前から「とっても怖いの」。
 前の右から「食べられちゃう」。
 メアリとメアリが「食べられちゃう!」。
「ミスタ・ジャバウォック? バンダースナッチ? その人たちはどこにいるの?」
 メアリベルが尋ねてみても。
 メアリとメアリは逃げ出して。メアリとメアリはくすくす笑う。
「さあしらない」
「どこにもいないよ」
「ここにはだあれもいないから」
 かわいそうなメアリベルに、逃げたメアリが囁いて。
「メアリがいるよ」
「それは鏡」
「ほんとのメアリはいないのよ」
 鏡に映るメアリの姿にメアリベルはからかわれて。
 出口をさがせば「出口はないよ」
 歩くたんびに「ゆっくりしたら?」
「メアリは嘘つきなんだから」
「嘘つきメアリはメアリじゃないの」
「わかった? 嘘つきメアリベル!」
 鏡のメアリ、嘘つきメアリ、みんなメアリに嘘をつく。
 追いかけてみてもそれは鏡。鏡をこわせば逃げられない?
「おばかさんなメアリベル」
 うしろでメアリが嘘ついた。だからメアリは斧を振る。
「どこをみてるの?」
 木っ端微塵。鏡はばらばらきらきらと、赤い温かい破片を振りまく。
「私はここよ!」
 木っ端微塵。メアリベルの振るった斧で、嘘つきメアリは粉々だ。
「くすくすくすくすくすくすくす」
 嘘をついたら木っ端微塵!
 斧をひと振り木っ端微塵!
 メアリベルはつぎつぎと鏡のメアリを殺してく。
 綺麗に死ぬから騙されない。
「メアリベルはメアリだけ」
「メアリの唄はメアリのもの」
「他のだれにも渡さない」
「あげない!」
「あげない?」
 あげないの!

 ――午前0時とメアリが言った。

 けしにぐの斧はまっかっか。
 メアリベルもまっかっか。
 こわれた鏡もまっかっか。
 みんなメアリでまっかっか!

 こわれた鏡の向こう側、タムタムの樹が映ってた。
 だからメアリは殺したメアリの言いつけどおりにやすんだの。
「これは夢? それとも幻? ここは本当に遊園地?」
 アトラクションの迷宮?
「ミスタ・ジャバウォック。バンダースナッチ。会えばおしえてくれるかな?」
 やっとわかったメアリベル。
 タムタムの樹の鏡の中を通り抜けては引き返し。
「またなの? メアリ」
 木っ端微塵。
「そんなことより」
 木っ端微塵。
「メアリと一緒に」
 木っ端微塵。
「メアリと一緒に踊ろうよ!」

 メアリベルはメアリと踊って嘘つきメアリをトルチョック!

「だって嘘つきなんだもの」
 またひとり、もうひとり、斧で殴られ死んでいく。
 鏡のメアリは嘘つきメアリ。
 だからメアリが嘘をつく。
 Madness of Wonderland!
 正気のモノはひとりもいない、時計の針さえ狂った世界。
 Wanderer in Wonderland!
 だからだれもが嘘つきで、だからみいんな迷子なの。

 どこまでも続く鏡の迷宮。
 まるでタルジイの森の中。
 嘘つきメアリはもういない。
 鏡の中にはあやしくうごめくゆがんだ歌の怪物たち。
 マザーグースの怪物たち。

 メアリとおんなじ怪物たち。

 左右を鏡に挟まれて、二人の男があらわれた。
「よくも私のがらがらを!」
「文句があるなら決闘だ!」
 おんなじ顔の男たち。
 トゥイードルダム、トゥイードルディー。
 水をかけ合い怒鳴り合い、ボノンチーニとヘンデルみたい。
 ただの間抜けだ蜀台持ちだとメアリを挟んでばかにして。
 メアルベルにはなんのことだかさっぱりわからないけれど。
 斧をひと振りストライク!
 どっちも一緒にばあらばら。
 上の鏡に大きなつばさ、一分遅れのカラスさん。
「メアリがいるから出番はないの。ごめんね」
 お詫びにマッシュバッシュ!
 あっちにライオン、こっちにユニコーン、メアリの前には王冠が。
 ライオンに追われたユニコーンはメアリベルへと角をつく。
 メアリはクラッシュ! 王冠もクラッシュ!
 怒ったライオンメアリを噛んで「この化け物め!」と文句を言う。
「メアリはメアリよ」
 喉をサック! ライオンは大人しくなった。
 王冠代わりに斧をあげたら噛みつくこともあきらめた。
 白パン黒パンプラムケーキ、全部粉々になっちゃった。

 ――午前8時とだれかが言った。

「まだだれかいるの?」

 いそうな気がする。
 暴なる想いにメアリは止まる。

 ――おぐらてしき森の奥より、ひょうひょうと風切り飛びきたり。

 そうして遂に現れたのは……

 炯々と燃やしたる双眸!
 怒めきずりつつ迫り来る、その名も!

「ミスタ・ジャバウォック。お目にかかれて光栄よ。あなたが迷宮の主なのね」

 狂気の鏡の主を前に、おりこうメアリは淑女の礼。
 なのにミスタはなんにも言わずメアリを睨みつけるばかり。
 ライオンよりも大きくて、大きな目をしたお魚みたい。
 二本のつのと二本のひげと、なんでも噛める歯があって。
 羽と鱗と尻尾と首と、ドラゴンだって逃げ出すわ。
 ベストはじぶんで編んだのかしら?
 スパッツ脱ぐの大変そう。
「だからメアリが手伝ってあげる!」
 笑顔をけしにぐの斧に映し、殺人鬼の少女はダンスを踊る。
 ワン、ツー! ワン、ツー! 叩いて砕く。
 ワン、ツー! ワン、ツー! もっと殴る。
 ダッシュ、バッシュ、ストライク、トルチョック!
 ジャバウォックだって負けていない。
 ワン、ツー! ワン、ツー! 斬って潰す。
 ワン、ツー! ワン、ツー! もっと削ぐ。
 ヴォーパル、キリング、ブッチャー、メアリ!
 まるでダンスのようなバトル。
 バトルのようなバイオレンス。
 お互い血だらけ傷だらけ。
 メアリもミスタもまっかっか。
 それでもやめないメアリベル。
 それでもやめないジャバウォック。
 ワン、ツー! ワン、ツー! ジャバウォックから命を奪い。
 ワン、ツー! ワン、ツー! メアリベルへは首を授けろ!
 意気踏々たる凱旋のギャロップを踏みしめるために。
 ワン、ツー! ワン、ツー! 笑って踊って。
 ワン、ツー! ワン、ツー! 刻み刈り獲らん!
 赤射のメアリは花柳に華麗に芳晴しき日を夢見て踊る。
 さてもさてもとミスタ・ジャバウォック、打ち倒されてはかなわない。
 けどまっかっかな少女は赤い靴の少女のように踊り続けるいつまでも。

 くすくすくすくすくすくすくす、メアリのダンスをだれかが笑う。

 時間も気にせずいつまでも――……。


 ※


 これはここではないどこか。
 どこかのいつかの午後の四時。
 回儀りふるまい錐穿つ日時計の下でねばねばトーヴがチーズを食べてる遥場の向こう。
 もっさもっさのボロゴーヴがくたびれて緑のラースは帰りたいと泣いた。

 ソんなどコかノジゃバうォッキヰ

「ここはどこ?」
 目が覚めた時、メアリベルはやっぱりやっぱり迷宮の中。
「右を見て!」
 ジャブジャブ鳥がどこかに飛んで行っちゃった。
 右にはミスタの首を抱えたメアリの左が右見てる。
 メアリベルには斧しかないのにメアリは首を抱えてる。
 鏡の中の嘘つきメアリはメアリベルを見てにっこり笑顔。
「あなたはだあれ?」
「私はメアリ」


 ほんとにほんとにそうかしら?


クリエイターコメントお待たせいたしました。
不思議の国の遊園地は鏡の迷宮よりお届けします。

せっかく歌そのものとも言える素敵なオファー文を頂きましたので、そのまま膨らませてひたすら韻を踏みながら、例の詩をはじめとした幾つかの小ネタを随所に散りばめてみました。

また、洋物に触れる事自体が本当に本当に久しぶりすぎて、とても新鮮な気持ちで執筆する事ができました。とは言え、少し、遊びすぎたような気も……お気に召す事を祈るばかりです。


この度のご依頼、まことにありがとうございました。
公開日時2013-12-29(日) 15:10

 

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