0世界には様々な店がある。多種多様な人間が集まるこの場所で商いをするという事は商魂逞しい者には大変魅力的で、そして張り合いがあった。 文化の違う者に対し、どれだけ多く自分の手腕で満足させられるか……そんなギャンブル的な要素を楽しむ商人さえ居る。 黒いパーカーの男、チャンも例外ではない。「フフフ、やっと完成したある!」 ここで稼ぐと決め、何度も挫折を繰り返しながら開店した自分の店。握る拳にも力がこもるというものである。 チャンの店は大通りから少し外れた場所にあった。 少々宣伝に力を入れなくてはいけないが、何も地球全体に宣伝する等無茶をしようというのではない。 それに、最終手段としてトラベラーズノートを使って宣伝を行うことも出来る。この効果は絶大だろう、確実に今までにない怒られ方をするが。「さて、あとは店員が必要あるね」 スカウトの準備を始めるチャン。 そう、この商売にはイケメンが必要だ。それも、女性を楽しませることが出来るイケメンが。 スーツケースを持ってチャンが去った後、残されたのはネオン輝く華やかな店。 ――そう、ホストクラブである。● 胸に傷、ワイルドな尻尾、頑強な鱗。 面接に顔を出した戦士のいでたちをしたリザードマン、二十八号は思いの外丁寧に頭を下げた。「初めまして、二十八号といいます」「ホストの経験は?」 その質問に二十八号は首を振って答える。「ありません。……ただ、ホストというものに挑戦してみたく、応募しました」 真剣な眼差し。これならば未経験でも女性に必要とされるのではないだろうか。あと何故か0世界に多いドラケモナーの要望にも応えられる。 採用! とチャンは二十八号に店の場所を教えた。 次に現れたのはロナルド・バロウズ。つり眉とタレ目のおじさまだ。 タキシードながらいささか乱暴に着られたそれすら魅力に見える。「女の子と話せる上にタダ酒が飲めるかもしれないの?」「働き次第ではそうなるあるね」 ロナルドは片眉を動かして思案するが、それも一瞬のことで、すぐに答えを出した。「んー、俺も混ざっていい? 癒せるかは分からないけど、それなりに頑張るよ!」「もちろんある! これから宜しくね」 そうして店の場所を教えてもらい、ロナルドは準備をしに去っていった。 間に「これはさすがに……」という応募者を挟んで落とした後、部屋に入ってきたのはジャック・ハートだった。 パッと一目で女性慣れしているのがよくわかる。「なかなかイイ商売始めたじゃ……」「採用ある!」「早ェな!?」 だって既にホストっぽかったんだもん。 と思ったかはさておき、ジャックも採用され、これでチャンを合わせて4人。「1度ジゴロッてェのをやってみたかったンだ、まァ頑張らせてもらうぜェ~」 そう言って去っていったジャックの後に入ってきたのは、眼鏡の青年……星川 征秀。 満場一致のイケメンである。 が、「おい……可愛いくて美人な小姐とにゃんにゃんしまくりタダ酒飲みまくりの美味しい仕事あるよ、女泣かせなアナタにぴったりある! ……と誘われてきたが、ホストじゃないか。どこが俺にぴったりなんだ?」 どこがと言われましても。 そんな空気を読み取ってか否か、征秀は諦めたようにひとつ息を吐く。「まあ、仕事しねーと思ってたところだしな、やろう。……べっ、別にタダ酒につられたわけじゃないぞ」「ツンデレあるね!」 お酒に対してね! 何はともあれ、これで5人。最初はこれくらいの人数の方が小回りが利くのではないだろうか。 斯くしてホストクラブは開店する。 0世界の女性たちが訪れるそこで、ライバルに勝ちご指名ナンバー1の栄冠を手にするのは誰だろうか。 乞うご期待!!=========!注意!企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。<参加予定者>チャン(cdtu4759)二十八号(czfb3476)ロナルド・バロウズ(cnby9678)ジャック・ハート(cbzs7269)星川 征秀(cfpv1452)=========
外装はばっちり、店内も広々としており圧迫感なし、指名用の写真もみんな写りが良い。 満足げに頷きつつ、チャンが見上げた先にあるのは洒落たデザインの看板。 やっと持てた我が店の名は―― 《色男たちの挽歌》 「下に別の文字が振ってありますが、これは何とお読みするのでしょうか?」 「色男はロメオと読むよ。我々にピッタリの言葉あるネ!」 二十八号の素朴な疑問にチャンはにこにこと答える。 「まあデザインも悪くはないな。とりあえず乗りかかった船だ、最後までやらせてもらうぜ」 一通り店内を見て回った星川 征秀が出入り口まで戻ってきて言う。電飾だらけの凄まじい店だったらどうしようかと思ったが、その心配は要らなさそうだ。 こう見えて征秀にホスト経験はない。だが少し着崩された黒スーツと白いシャツ、黒ネクタイ姿からは想像もつかない事実だった。 「そうそう、入店の掛け声もちゃんと用意してあるよ」 店名と一緒に長年温めてきたものである。 チャンはそれを4人に伝え、そして道の先を見る。 「ほら、早速1人目のお客様が来たある。さあ一列に並んでお辞儀するね」 記念すべき初の客を迎える5人のホストたち。 彼らはそれぞれに合った笑みを浮かべ、口を揃えて言った。 「ロメオにようこそジュリエット!」 ● 程よく弾力があり座りやすいソファに腰掛け、控えめな印象の強い女性を見遣る。 ロナルド・バロウズはそんな彼女に優しく声をかけた。 「お酒は大丈夫?」 「えっと……ちょっとだけなら……」 不安げな顔。さほど強くはなさそうなのが丸分かりな返答だった。頷き、ロナルドはメニューを指差す。 「じゃあソフトドリンクにしよう。お酒は大丈夫そうだなと思ったらね」 「こういう場所って、絶対にお酒を飲まなきゃダメなんじゃないの……?」 「苦手そうな子に飲ませるのは可哀想じゃないか、それに楽しんでいってほしいしね?」 女性は言葉を探して何度か瞬きを繰り返した。 嫌だからではない。むしろ好意を抱いたからこそ、良い言葉が見つからないようだった。 これはオマケ、とロナルドはフルーツの盛り合わせも頼んで微笑む。 ジャック・ハートは黒スーツの下に青いシャツ、そして紅色のネクタイをしていた。 派手な色合いを黒がしっかりと纏め、彼の褐色の肌ともよく合っている。 ジャックの目的は客を楽しませることだったが、実はもう1つあった。能力の鍛錬である。派手に能力を使うことの多いジャックだが、こういう場所での繊細な使い方も出来てこそ初めて能力を100%活かせるのだ。 「いらっしゃいませお姫様。楽しい夢を見せてやるゼ?」 あらかじめ可愛らしいスプレー薔薇を控え室に置いておき、女性の手の甲に軽くキスをしながらパチリと指を鳴らす。 手元に現れた薔薇を女性のボタンホールの1番上に挿せば、その花のような笑顔が咲いた。 「今日は特別な日だ、イイもの見せてやるゼ」 「いいもの?」 ジャックは女性の手を取り、机まで導く。そして小振りなシャンパングラスを3個重ね、上からぱちぱち弾けるジンジャーエールを注いだ。 小さなシャンパンタワーに思わず女性が手を叩く。 「すごい、零れないのね!」 「俺からお姫様への贈り物だからナ。次は是非姫から俺に奢ってくれヨ?」 くすくすと笑う声に続き、もちろんよという声が聞こえた。 二十八号は大変驚いていた。 もちろん彼の性格からして顔に出る心配はいらなかったが、よもやホストクラブという場に男性客が来るとは。しかも入店した瞬間に二十八号を指名、同時にこれが二十八号にとって初の接客になったのだ。 しかしお客様に違いはない。 「うわああああぁ!! この立派な尻尾! 頑丈でありながら細やかな鱗!」 違いはないのだ。 「こんな野生的な爪を生で見られるだなんて!!」 だから、頑張って皆と同じように接客をしなくては。 「あの、では何から頼……」 「わあああっ! 声も想像通り!! 開店待ちの時に姿を見掛けて良かった、今日は記念日だああああぁぁ!」 もふもふはすはす このおとこ、どらけもなーである。 二十八号はゆっくりと目を閉じ、それを体で受け止める。このお客にはこれが1番の接客なのかもしれない。 「……こういう場所には慣れてないか?」 征秀がついた客は二十代前半の女性だった。物怖じした様子はないが、きょろきょろと珍しそうに店内を見ている。 「ええ、でもなんとなくわかったかも」 「かも、か」 笑ってみせ、征秀は自分の姫にメニューを見せた。 「簡単に何か頼もうか、何がいい」 「えっと……これ!」 「……かなり強い酒だぞ?」 可愛い顔して酒豪なのだろうか。しかし問いの答えで、一瞬浮かんだその考えはすぐに消えた。 「私あんまり強いお酒は飲んだことなくってね、でもよく飲む友達が多いから慣れたくて」 「無理に合わせる必要はないと思うが……」 「だ、だって引け目感じちゃうじゃない?」 それで倒れたらどうするつもりなのだろうか。若干の心配を滲ませつつ、征秀はその酒よりも何段か下に書かれた酒を指さした。 「練習するならこれくらいから始めた方が良い。まだ強い部類には入るが」 「えー、でも……わっ!」 優しく頭を撫でられ、女性は顔を真っ赤にする。 「俺の言うこと、信じられないか?」 照れて慌てたように左右へ振られる首を見、征秀は小さく笑みを浮かべた。 出入り口から中の様子を窺う影がひとつ。 チャンがひょいと覗き込むと、そこに居たのは銀髪の美しい女性……カヨ・ツェアーだった。 「あっ、こんばんは。入って良いかしら……?」 「ようこそジュリエット! 歓迎するある!」 おずおずといった雰囲気で尋ねるカヨの手を引き、ソファへと座らせ隣に腰掛ける。 目を引く髪を眺めながら視線を顔に滑らせると目が合った。 「カヨちゃん超美人ある、出身世界ではさぞモテモテだったあるネ?」 「!?」 届いたソフトドリンクを危うく落としそうになりながらカヨは口をぱくぱくさせた。 「そ、そんなことないわよ。それに要領も悪いし、料理も上手くないし」 「へー、料理するあるか?」 「……言った通りの出来になるけれどね」 そう呟くと咳払いひとつ。 聞けば下手でも趣味のひとつなのだという。母親が料理人だったカヨは幼少期より料理に慣れ親しんでいたが、残念ながら才能は固く蕾んだままだった。 数少ない得意料理のこと、手作り料理を食べた時の両親のリアクション、調理実習での思い出。 いつの間にか緊張も解れ、話に花が咲く。 「カヨちゃんの事もっと知りたいある、誕生日血液型3サイズ……あ、最後のは嘘ネ!」 「ふふ、最後のはもっと仲良くなれたら教えてあげるわ」 「本当ネ!? 約束あるよ!」 そのリアクションにくすくすと笑うカヨ。 チャンはぱちんと手を叩く。 「そうだ! もしアレなら今度チャンのホームグラウンドの歌舞伎町案内するネ」 「かぶき……ちょう?」 「そう、色んなお店と楽しいことが目白押しある」 「へえ、行ってみたいわ……!」 約束したところで二十八号が四角いケーキを運んできた。この日のために数種類用意したケーキの内の1つで、一粒だけ乗った大きめのブルーベリーが見た目にも爽やかだ。 「どうぞ、お口に合うと良いのですが」 カヨは一口食べると笑顔を二十八号へと向けた。 「美味しいわ、ありがとう。……あら?」 見れば、いつの間にか道を挟んだ向こうに新しい客が来ていた。 黒髪の美しい女性と褐色肌の女性……カフェの女主人ミル・キャルロッテと、その友人である世界司書ツギメ・シュタインである。 ミルの隣に座ったロナルドは彼女と笑いながら雑談していた。間に席を立ち、女性の嫌がらないさり気ない動きで肩を揉む。 「上手いわね、お店に来て毎日やってもらいたいくらいだわ」 「出張で良かったらするよ?」 「あら、うふふ。その機会が来ることを楽しみにしているわね」 嬉しげな顔のミルは満更でもなさそうである。 良い気分転換になっているのだろう。その様子にロナルドも自然と笑みがこぼれる。 一方、ツギメはというと……ものの見事にカチカチだった。 「大丈夫……?」 「あ、ああ。それより飲み物をもらえるか?」 メニューを指すツギメ。言われたものを二十八号が運んでくるが―― 「!?」 一口飲んで目を丸くした。 「これは……」 「オレンジのカクテルですね、苦手でしたか?」 「いや……しまったな、アルコールを摂取するつもりはなかったんだが」 「あら、それなら残りは私がもらうわね?」 引き継いでミルがカクテルを飲む。それを眺めながらツギメは追加で紅茶を頼んだ。 「しかし慣れない雰囲気だ、これを飲んだらお暇させてもら……」 言いかけたツギメの肩に手が置かれる。それを辿った先に見知った顔を見つけ、ツギメは耳を揺らした。 「ジャックか」 「もう帰るのか? ミルは楽しんでるし、人生1度きりならも少し居ろヨ」 「いや、しかし、だが……」 そのまま隣に腰を下ろすジャック。ソファにはミルとロナルドも座っているため、出口を固められたことになる。 しかし不思議と嫌な感じはしない。こういうホストクラブという場の雰囲気のせいだろうか……と推測するも、なぜか思考が定まらなかった。 「……ン? なんだ、もしかしてもう酔ったのか」 「不意打ちだったせいだ……」 「肩と言わずに膝くらいなら貸すゼ?」 む、と唸るツギメにジャックは笑う。 「俺の膝枕なんて後にも先にもねェだろ? ちったぁテメェも肩の力抜いてみろヨ」 「肩の力、か……」 このところ忙しかった気がする。頭を撫でられる慣れない感触にむずむずしつつ、ツギメは横になった。 「これは負けていられないある!」 なぜかやる気を出したのはチャン。カヨの手を握り、膝枕だけでなく耳掃除までお願いする。 「へ、下手だけどいいの?」 「いいある!」 「即答ね……!」 ころんと膝の上に頭をのせ、チャンはハッとしたように言う。 「あっ、ちなみに下心なんてこれっぽっちもないアル! チャイニーズ嘘吐かないアル!」 「ふふ、はいはい」 カヨはそのまま耳かきを始める。 ……宣言通りの下手さだったが、チャンは終始にこにこしていたという。 ぱっと店内の照明が変わり、ステージにホストたちが立つ。 征秀が提案したステージイベントだ。開店初日、やはり目を引くイベントはやっておきたい。 「さあ、このハンカチを見て。ワン・ツー……スリー!」 征秀がハンカチを引いた瞬間、そこに真っ白なハトが現れ天井を舞い始めた。紙ふぶきを散らした後、ハト自身もきらきらと光る紙ふぶきの一部となって消える。 「すごい、征秀さんは手品師だったのね」 ミルの喝采に征秀は片手を上げて応えた。 「元は占い師だがな、後で何か占おうか?」 「是非お願いするわ。恋愛運とか来年の運勢とか宜しくお願いするわね?」 そこへロナルドとジャックが現れる。ジャックは客の1人の手を取り、精神感応を活かして客の希望を読み取る。 それをロナルドに触れることで彼に直接伝えた。 「ロナルド、此方の姫様が曲をご所望だゼ。テメェが主旋律でアレンジ頼まァ」 「わかった。……きみは毎日頑張っているんだね。元気の出る曲を弾くよ」 女性に笑い掛け、ロナルドはヴァイオリンに手をかける。 繊細ながらも力強い音色が店内に響き渡り、それはまるで両方の耳からしみ込むかのようだった。 それに合わせ、ジャックもエレキ=テックの能力を使用してマルチキーボードの演奏を重ねる。 ただしメインの演奏を邪魔しない絶妙な調整をしてあった。ここは今はロナルドの舞台だ。演奏者は立てるものであり、自分が出しゃばるところではない。 演奏を終えた彼らにアンコールの声がかかると、ジャックは傍に居た征秀を呼び寄せる。 「歌、歌えるよナ?」 「ああ、もちろん」 「じゃあ一発頼むゼ、歌詞とテンポは俺が伝えるからヨ」 演奏に合わせて口を開く征秀。歌うのは少し久しぶりな気がしたが、声は自然に出た。 カヨ曰く「プロの歌手みたい」、ミル曰く「デビューしないのがもったいない」 ツギメはまだむにゃむにゃとしていたが、音に合わせて耳だけ動いていたという。 ステージはチャンによる王様ゲームにより幕を閉じた。 ちなみに見事王様を勝ち取ったチャンは恒例の「2番が5番をもふもふ!」という命令を下したが、その結果二十八号が例のドラケモナー男性にもふもふされたのは運命のいたずらであろうか。 他の命令「エロ本の隠し場所」は征秀がノーコメントを貫き通し、「甘酸っぱい初恋のエピソード」はロナルドがもごもごしながら語ったのも良い思い出だ。 落ち着いた角の席に座り直し、チャンはカヨに飲み物を差し出す。 「日常生活は順調あるか? 覚醒したてで心細いなら相談乗るヨ」 「1人暮らしが初めてだから結構大変で……。た、頼って良いの?」 どんっとチャンは胸を叩く。 「困った事あれば何でも言うね、あの手この手合法非合法問わず力になるね!」 「あ、あの手この手!?」 「……全力でカヨちゃん守ると約束するネ」 ふっと真面目に言った言葉にカヨは頷く。 「わかったわ……宜しくね、チャンさん」 妙齢の女性の前に置かれたのはきちんと卵に包まれたオムライスだった。ケチャップライスの酸味のある香りが漂っている。 何を隠そう、このオムライスを作ったのは…… 「さあレディ、何て書いてほしい?」 ……征秀である。 征秀はオムライスが得意、否、超得意だった。その腕はプロ並みと言っても差し支えない。 「じゃあ単純だけれど……言っていい?」 「ああ、何でも聞くぜ」 「ハートを描いてほしいの、かわいいハート!」 よくあるリクエストに微笑みつつ、征秀はオムライスの上にケチャップでハートを描いていく。 どこから食べてもケチャップが適度にのるように調整されたそれに女性は喜び、ものの数分で全て食べてしまったという。 「ツギメさん、もう平気?」 「ああ、まだ少し残っているが……恥ずかしいところを見せたな」 こめかみを押さえるツギメに水を渡し、ロナルドも座る。 「明日に差し支えないといいんだけれど……」 「なに、もし二日酔いでも業務はこなす。心配するな」 そういうことじゃないんだけれどなぁと笑い、ロナルドは「そうだ!」と人差し指を立てた。 「報告書だけじゃ分からない冒険のこぼれ話とか聞く?」 「……気になるな」 「じゃあ酔いが完全に醒めるまで話すよ。まずはヴォロスに行った時に……」 座り直して話し始めるロナルドの言葉に、ツギメは相槌を打ちつつ耳を向けていた。 二十八号は少女のような外見の客に付いていた。 さすがに未成年はまずいのでは……と危惧したものの、実年齢は(ピー)で(ピー)らしい。0世界では珍しくないことだ。 「わあ、本当にリザードマンなんだ」 「リザードマンは初めて見るのですか?」 「うん、駅で遠目に見たことはあるけど、こうして間近で見るのは初めて! ……鱗に触ってみてもいい?」 ええどうぞ、と二十八号が返したのを聞き、少女はぺたりと手を触れる。 ドラケモナーでない客の反応は初心者らしくて可愛かった。……が。 「……やだ、この感触、やみつきになりそう……!!」 ――新たなドラケモナーの誕生を目の当たりにした気がするのは、気のせいであろうか。 時間を気にするカヨに気が付いたのはジャックだった。 「どうした、もう帰る時間か?」 「うん、けど楽しいからもう少し居たいなって……」 ジャックも時計を見る。0世界ではあまり意味を成さないことの多い時間だが、あまりこういう場に若い女性を長々と留めておくのもいけないだろう。 「俺は姫が毎日会いに来てくれる方が嬉しいゼ?」 「来ていいの……?」 「あァ、俺たちのかわいい姫だゼ。ダメなんて言う奴が居ると思うか?」 「……うん、じゃあまた次も宜しくね」 またこの、夢のような店「色男たちの挽歌」へ。 そんな約束を胸にカヨは立ち上がった。 ● テーブルを1つずつ綺麗に拭き、食器を洗って後片付けを済ました頃には今日の売り上げが出ていた。 「みんなみんな、1位は誰と思う?」 うきうきした様子にジャックが口の端を上げる。精神感応を使うまでもない。 「チャンだろ?」 「…………超能力者!?」 「イヤ否定はしねぇが」 主にカヨに付きっ切りだったチャンだが、途中で起こった客同士の喧嘩に便乗……もとい、喧嘩を利用してドンペリを開けたのである。 このドンペリ、本当は場を収めるためにサービスとして開けたものなのだが、それに影響された客の何人かが自分もと注文したのだ。 ちなみにドンペリは白なら4万程度だが、プラチナだと70万は行く。うら若き女性が開店初日の店でそんなものを開けられるのも、ナレッジキューブの為せる業といったところだろうか。 「ふっふっふっ、2日目も1位目指して頑張るネ」 「俺は別に楽しめればそれで……」 「こういうのは! 向上心が大切ある!」 びしーっと指をロナルドに突き付け、チャンは宣言するかのように言う。 「明日もばりばり宜しくあるよ、ロメオたち!」 今日来た女性だけでなく、きっと新しいお客さんも沢山来るだろう。 その1人1人に向き合って喋り合う……それはお金儲けを抜きにしても楽しいことだ。 誰からという訳でもなく頷き合い、新米ホストたちは次なるお客の来店を待つのであった。
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