オープニング

 ふと気配に気づくと、つぶらな瞳に見つめられている。
 モフトピアの不思議な住人――アニモフ。
 モフトピアの浮島のひとつに建設されたロストレイルの「駅」は、すでにアニモフたちに周知のものとなっており、降り立った旅人はアニモフたちの歓迎を受けることがある。アニモフたちはロストナンバーや世界図書館のなんたるかも理解していないが、かれらがやってくるとなにか楽しいことがあるのは知っているようだ。実際には調査と称する冒険旅行で楽しい目に遭っているのは旅人のほうなのだが、アニモフたちにしても旅人と接するのは珍しくて面白いものなのだろう。
 そんなわけで、「駅」のまわりには好奇心旺盛なアニモフたちが集まっていることがある。
 思いついた楽しい遊びを一緒にしてくれる人が、自分の浮島から持ってきた贈り物を受け取ってくれる人が、わくわくするようなお話を聞かせてくれる人が、列車に乗ってやってくるのを、今か今かと待っているのだ。
 
●ご案内
このソロシナリオでは「モフトピアでアニモフと交流する場面」が描写されます。あなたは冒険旅行の合間などにすこしだけ時間を見つけてアニモフの相手をすることにしました。

このソロシナリオに参加する方は、プレイングで、
・あなたが出会ったのはどんなアニモフか
・そのアニモフとどんなことをするのか
を必ず書いて下さい。

このシナリオの舞台はロストレイルの、モフトピアの「駅」周辺となりますので、あまり特殊な出来事は起こりません。

品目ソロシナリオ 管理番号1751
クリエイターふみうた(wzxe5073)
クリエイターコメント初ソロシナになります。宜しくお願いします。

アニモフの種類のご指定がない場合は、基本、くまモフになります。
・・・あまり賢くないです。

「遊ぶもふー?」
「お話しするもふ?」
「ぷれぜんとあるもふー」
「あっち見に行くもふー!」

さあ、何しましょう?


※プレイング日数にご注意下さい。

参加者
ドミナ・アウローラ(cmru3123)ツーリスト 女 19歳 魔導師

ノベル

 とある冒険旅行を終えた、魔導師ドミナ・アウローラは、<駅>の島で帰りのロストレイルを待っていた。従者のシーファは、調査対象の浮島から付いてきてしまった、黒いぬモフの相手をしている。ずいぶんと懐かれたようだ。
 ドミナは、調査を纏めた手元の資料に目を落とす。




 あの浮島へと着いた途端、アニモフたちは最初から、体当たりでもするようにドミナへとわらわらと縋り付いてきた。
「旅人さんだ!」「旅人さーんー!」「遊ぶもふー!」「いらっしゃいもふー」
 無邪気な好意が遠慮無く向けられる。
「お、押さないで、押さないで……っ」
 切羽詰まった声に隣を見れば、シーファが、いぬモフに囲まれ埋もれてしまっていた。同じほどの背丈のせいで、おしくらまんじゅうをしているようにも見える。わんこがいっぱい。
「……映写機、忘れた」
 可愛くも可笑しなもふもふ光景に、ドミナは思わず心の声を漏らしていた。


 案内をかってでた黒いぬモフに連れられ、小さな浮島を一周して調査は終わり。
 ジュースやミルクが流れる川。蜂蜜の湧く泉。歌う花。――調べる限り、モフトピアにおいては、よく見られる光景だった。メルヘンで、子供の夢のような。
(あにもふ……だったかしら、彼らはその中で暮らしている……)
 モフトピアの風物は、ドミナの目に、それほど不思議には映っていなかった。魔法染みた現象には馴染みがある。ただ、それが日常のものとして平然と起き、「どうして」発生するのかは分からないまま受け入れられていることのほうが、ずっと気になっている。
 『魔術』とは、手順や理由のあるもの。他人の目に不思議に写ろうとも、ドミナの中では筋道立ったわけがある。魔術を管理していた「魔法局」に属する身からすれば、結果よりもその過程が、どうしても気になってしまって……




「――ドミナ。ねえ、ドミナったら」
 肩を揺すられて、我に返った。
「どうしたの? 何か、気になるところでもあった?」
「……ねえ、シーファ。あなたはどう思う? この――」
 自分の疑問をシーファと共有しようとした時、黒いぬモフが割り込んでドミナとシーファの手を取った。そのままぐいぐい引っ張っりながら
「あのねあのね、あっち、楽しいことがあるんだって! 一緒に行って欲しいもふー」
「お友達が教えてくれたもふよー」
「行くもふ行くもふー!」
 いつの間にか、たくさんのくまモフに囲まれて、誘われていた。シーファが困ったように笑っている。こっち来るもふー。手招きしているねこモフが、ぴょんと飛び跳ねた。


 てこてこと歩きながら、アニモフそれぞれの島自慢に耳を傾け、時折メモを取る。そのまま旅人を案内したい(一緒に遊びたい)と思っているらしい様子に、申し訳ない気持ちでドミナは時間が無い旨を伝えた。がっかり肩を落とすくまモフに、ごめんなさいと頭を下げる。
「じゃあじゃあ、コレ! コレあげるもふ!」
 白くまモフが、掛け鞄からきらきらと光る石を取り出して、ドミナに押しつけてきた。
 空の海から浜辺に打ち上げられる石の話はさっき聞いたばかりだ。彼の島のお土産になっている、とも。そして、その光る石に、ドミナは見覚えがあった。そっと舐めてみる。
「やっぱり、氷砂糖……」
「コオリザトウ?」
 ドミナが発した言葉を復唱して、?マークのように首をかしげるくまモフたち。耳慣れない単語を繰り返し言いながら、
「旅人さんはやっぱり物知りもふー!」
 海から来る不思議な石をすぐさま当ててしまう、すごくすごく賢いひとだー!とでも言いたげな、尊敬の籠もった眼差しが集まる。ドミナは少し、赤くなった。


 辿り着いたのは、お菓子のなる木。クッキー、チョコレート、キャンディ、グミ、プチケーキ。葉の代わりに柔らかな雲を敷いて、たくさんのお菓子が鈴なりだ。その隣には、丁度お茶会に最適な、雲製のテーブルセットがいくつか。
 早速アニモフたちは、思い思いに、好きなお菓子を両手いっぱいに取り込んで、テーブルに積み上げた。ドミナが促されるまま椅子に座ると、次々とお菓子が運ばれ山となる。得意げに紳士然とした白くまモフが、ティーカップに紅茶を注いだ。
 ドミナは、収穫されたはずのお菓子の木を見た。いつのまにかそこには、アニモフに取られたお菓子がまた、そこに「ある」。アニモフは何も躊躇わず、そのお菓子を取りにいく。
 こんな現象を目の当たりにすると、まるで子供の見る夢を、そのまま具現化させたような……そんな世界だと、ドミナは思う。
 ふと、シーファから離れずに居る黒いぬモフと目が合った。
「……あの木には、“どうして”お菓子が実ったりするのかしら」
 この不思議な現象について、アニモフの考えもあるなら聞いてみたい。
「どうして、って、お菓子がなる木だからもふよ?」
 至極当然な様子で返された。
「お菓子じゃないのが良かったもふ?」
「お菓子は嬉しいわ。ありがとう。でも……そうじゃなくて。お菓子がなる“理由”が知りたいの」
「り、ゆう? お菓子の木だから……じゃないのかもふ?」
 何故、そんなことを聞くのかが分からない。そんな表情だ。
「お菓子の木はお菓子の木だもふよ」「お菓子のなる、お菓子の木だもふ」
 周りのアニモフも一様に同じ反応。『お菓子の木だからお菓子がなる』それ以上の理由は無いと。
 薄々予想はしていたが、ドミナが納得できる答えには、なりそうになかった。
(もしかして、モフトピアの調査って……かなり難しいのかも……)
 考え込んだドミナに、遠慮がちな声が届く。
「旅人さん……?」
 シーファの隣で、黒いぬモフが寂しそうに聞いていた。
「もしかして……楽しくない?」
「え?」
「うん、ドミナ、ちょっと難しい顔をしてるよ?」
 シーファまでが、心配そうな顔をしているのを見て、頬が赤くなる。
 謎にすっかり夢中になっていて、気遣われるまで、気がつかなかった。
(私、調査することに頭がいっぱいで……楽しむこと、忘れかけてた……)
「ううん、すごく、楽しいわ」
 垂れていた黒い耳が、ぴょこんと跳ね上がる。
「ただ……素敵で、不思議なことがたくさんで、驚いただけ」
 はにかんで俯いて、そっとティーカップに口を付けた。
 白い耳は、何も言わずにぱたぱたと動く。


 帰る時間が近づいてきた。
「今日はありがとう。案内してくれたお礼がしたいの」
 シーファに目配せしようとすると、もう竪琴を取り出してきていた。よく分かっている。
(心の弾む、曲にしよう)
 アニモフたちが踊り出すくらいの。
 ドミナの笛から、軽やかな音色が溢れ出した。

クリエイターコメントお待たせ致しました。モフトピアでのひととき、お届け致します。

ドミナさんが真面目に調査しておられて
思わずこちらも真面目にモフトピア考察などしかけました。

ちょっと架空の冒険旅行を作らせて頂きました。
お一人でのモフトピア調査も、有り得ると思います。
遊んでおいで、と、手渡されたのかもしれませんね。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
もし何かありましたら事務局までお知らせ下さい。

ご参加、ありがとうございました。
公開日時2012-03-13(火) 21:40

 

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