陰と陽が混ざり合ったインヤンガイの月陰花園。 なかなか物騒な世界であるが、そのなかで他の街の争いとは距離を置いた夜の美しさと夢をばらまく花街。 そこは他街の権力者においては『中立街』として、争いはご法度となっている。唯一、他街の権力者同士が平和的な話し合いなどの席を設けることのできる貴重な場所。 ここ最近、インヤンガイの街の平和は乱され、大きく変化した。 現在、かなりの広い範囲の街をその手中に収め、混乱した街の統治と経済回復をはかるために紛争しているのがヴェルシーナのハワード・アデル。 彼は護衛も連れずに月陰花園にやってきた。「久しいな。銀鳳」「ほぉ、本日はなにようで」 銀鳳は鷹揚に応じた。その後ろには護衛のリオがいる。「なに、ビジネスの話だ。ここ最近、争いが多かったがもうすぐ正月だ。その前に死んだものたちの供養をしたいと世界図書館の者から言われてな。せっかくだから、それは応じようと思うが、それだけでは少しさみしいだろう。そちらで彼らを出迎えてやってくれないか?」「うむ。そうして少しでも他の街の者たちが楽しめば、まぁ、一つだろう」「インヤンガイは陰と陽の世界。なら、ちょっと陽らしく振舞ってみるか」☆ ☆ ☆「やぁやぁやぁ! みんな、正月はどう過ごすんだい? 私かい? 私はみんなの心の大黒柱、神としてモフトピアでもふもふし、壱番世界では福をばらまき、ブルーインブルーではぴちぴちと跳ねまわり、ヴォロスでは高笑いをだねぇ」「あー、はいはいはいはい。神君、とりあえず本題入りましょうねぇ」 語りだしたら長い、ターミナルの不思議トンデモロストナンバー代表、神を黒猫にゃんこがずる、ずるっと横に押しのける。「えーとね、今回は、神くんがせっかくだからキャンプをしようっていってるの」「こらー、にゃんこ! この私を押しのけるとはなんだね! いいかね、諸君、先の混乱で更地になった区画があるじゃあないか。そこは今空白地帯だ。実にもったいない! この広大な土地を有効に活用できれば楽しいと思わないか? もちろんインヤンガイの活気を取り戻すことにもなる。なんて人道的なんだろうな。慈悲深き神の所業にも等しい行いだと思うがね。なぁに、心配しなくても、この土地の一部はすでに人が過ごせるように私が整えておいた。お礼はいらないなんといっても私は」「だぁあああああ、長い、長い! 演説いらない!」 また語りだす神君をにゃんこが横に押しのける。「えー、つまりね、みんなでキャンプできればいいなってこと。実はここ以外の街でも夜には鎮魂をやったり、祭をしたりするんだ。復興も一息ついたしね、けどまだまだ出来てないところもあるし、そのまだ手の届いてないところの復興をしながら一晩をゆっくりと過ごすのもいいと思うんだ。もちろん、復興のあと、別の街のお祭りに行くのもありだよ!」「えええい、にゃんこよ! この私を押し出すとはいい度胸だな。大切なことなどで二度いったぞ」 どーん、と横ににゃんこをまた押しだして神が言う。「なぁに、難しく考えずに楽しむことが大切だ。用意はすでに私がもうしてあるからね! ヘンリー君は承知している、ロバート君からは資金をいただいた、ドンガッシュ君にはヘルメットに変装して彼のはずかしい秘密をすっぱ抜いておいてからの説得済みだ。昼間はキャンプ用意をしたり、ちょっと街をきれいらしたりして過ごし、夜は美しい街と彷徨う暴霊を見て花火なんてしたらそれはそれはきっと楽しいよ!」 といわけで「新年早々、ひとつ、いいことをするのもまた神らしくていいじゃないか!」 ああ、そうそう、このキャンプする街、まだ暴霊がうようよしているからキャンプ場から離れるならちゃんと対策はするんだよ、もちろん自分でね!=============●特別ルールこの世界に対して「帰属の兆候」があらわれている人は、このパーティシナリオをもって帰属することが可能です。希望する場合はプレイングに【帰属する】と記入して下さい(【 】も必要です)。帰属するとどうなるかなどは、企画シナリオのプラン「帰属への道」を参考にして下さい。なお、状況により帰属できない場合もあります。http://tsukumogami.net/rasen/plan/plan10.html!注意!パーティシナリオでは、プレイング内容によっては描写がごくわずかになるか、ノベルに登場できない場合があります。ご参加の方はあらかじめご了承のうえ、趣旨に沿ったプレイングをお願いします。=============
「マスダさんに誘われて来たのですわ。折角なので炊き出しのお手伝いをするのですわ。もちろん、死の魔女なりのやり方で!」 にやりっと蝋人形のような肌に血色の唇を釣り上げて死の魔女は微笑む。どうみてもなにか企んでいますわ、の顔である。 その横にいるマスダの愛称で親しまれている道化師のマスカダイン・F・ 羽空は慌てて止めにはいった。 ターミナルで仲良くなっている魔女は気のいい(いろんな意味で贔屓目かつマスダの良心的なフィルターのかかった目)が、ものすごくお茶目さん(マスダ的愛のある見方)で、ときどきものすごいことを(いろんな意味で)するのだ。 「魔女さん、だめだよ、へんなことしちゃ!」 「やですわ! マスダさんったら、私を呼んだのはそういう意味ではなくって。ばっちり、私、ターミナル流お・も、て・な・し! をしようと思いますわ。ケラケラケラ!」 マスカダインは恐れ戦いた。 「まずはお友達を探しませんと」 「生きたお友達だよね!」 ケラケラケ! と高笑いしながら優雅に高速移動する死の魔女をマスカダインはマッハで追いかけた。 ヒイラギのいつも浮かべている笑みが珍しくも崩れ、ぽけっと立ち尽くしていた。 つまりはびっくりしすぎて現実を受け入れるのに時間がかかった状態だ。 「ええと、確かにあの街ですよね?」 「そのはずだぞ」 敬愛する主人であるロウ ユエも赤い目をぱちくりさせている。 にゃんこ司書から説明を受けたとき、ヒイラギはそこがどこなのか悟っていた。 「たぶん、ここらへんだよ」とてけとーな地図を渡されてあとは己の記憶を頼ったが、けっこう迷いに迷って仲間たちとともにようやくついたのだが 「いつの間に、こんな更地が」 街の建物がほぼ消えた状態にヒイラギは混乱していた。 「ロストナンバーが復興支援したというが」 「よんだかね!」 ぎくっとヒイラギが振り返ると、そこにはあなたの心の大黒柱こと神君がお茶目な笑顔にピースのかわうざなポーズで立っていた。 「なぁに、この私がちょっと本気を出したらこんなものさ! まだまだ暴霊もいて、支援の必要はあるが、今日はそんな深く考えずに楽しもうというのがテーマだ!」 「今日はよろしく頼む。ここまで一人で復興をしたのか? すごいな」 「……ユエさま、いけません、あれは危険です。どうみても危険です!」 「ひどいなぁ、ヒイラギくん! 私のような善良な神を捕まえて」 「なっ!」 いつの間にかヒイラギとユエの間に現れた神はにこりと微笑む。 「ここで会ったのもインヤンガイ神書に記されたあかーい糸の悪戯! さぁさぁ、いこうか! それにしても、ユエくんは大荷物だねぇ」 「ん、これか?」 ヒイラギは大きなリュックに荷物を背負っているのにたいして、ユエは両腕に大きな段ボール五個ほど、さらに背中にもリュックを背負ってとものすごく大荷物である。 「差し入れだ」 「よし、運ぶのを手伝おうではないか! オゾくんど、さぁ運ぶんだ!」 自分でしないのが神である。神とは常に人に試練と難題を与えるのである。いいかね、諸君、決してこれはずるではなくて神とは(以下略 「僕ですか?」 オゾ・ウトウはいきなり話題をふられてあわあわするが、 「そ、そうですね、僕も持ちます」 「構わないが、重いぞ? ほら」 「おもいって、な!」 片腕に持つ箱を一個渡されたとたんオゾは一センチくらい地面に沈んだ。 「な、なかみはなんなんですか、これ」 「俺が故郷にいたときあったらいいと思ったものをいれてきた。大丈夫か?」 怪力のユエは平然としてオゾを気遣う。 「っ、い、一個ぐらい平気です。暴霊から守ってもらっているので、これくらいは……!」 オゾはよろよろと歩き出すのにユエはくすりと笑ってそのあとに続いた。 六人はまず子どもたちが暮らす、畑のある場所まできた。大きな樹が一本あり、それが生活範囲に結界を張って暴霊から子どもたちを守っているのだ。 ここには畑と子どもたちだけ、実にインヤンガイらしくない、とても素朴な場所だ。 子どもたちに挨拶するとマスカダインはお得意の手品をみせ、はと丸はぴょんぴょんと踊って楽しい雰囲気を作った。 負けじと死の魔女が死の魔法でそのへんに死んでいる犬やら猫やらを復活させてみた。 「お友達が増えると楽しいですわよね!」 彼女なりのズレた優しさに子どもたちが慌てて逃げるというハプニングはあったが、楽しいキャンプが開始された。 オゾは子どもたちと畑に散らばる小石を拾い、大きな岩をどける作業を開始した。 出来るだけここを住みやすくしたい。そして長く、生きる力を養ってほしい。 「みんなといろんなものをみた上であるものを工夫して、ちょっとでも生活をよくできるようにしましょう。みんな、一緒に考えてください」 畑のゴミを取り払いながら、どうしたらここが少しでもいい土に恵まれるか。 「一見、ゴミみたいなものでも、肥料として使えるものはあると思います」 井戸があるのに、ここから水を汲むのを少しでもラクにできないかというのにオゾは子どもたちと一緒に悩んだ。 「棄てられているパイプを使えば水道みたいなものができるかもしれません」 「ほぉ、なら、俺も手伝いをさせてくれないか、オゾ」 「ユエさん!」 「従者はちょっと用事でな。料理のほうは彼らに任せていいようだし」 「彼ら?」 「いいかね! キャンプとは一に楽しむ、二に楽しむ、さんとよんはかっとばして、五にとりあえず楽しめ! そしてその根というものはおいしい食事だ。食事とはそうカレーだ!」 神は熱くキャンプの楽しみを力説する。 「ぐたぐた語るのはこれで完了、とりあえず幸あれ!」 ありがたいお言葉はこれでおわりとして、畑を見る。子どもたちが新しく作っているものは、まだまだ失敗が多く、ちっちゃな芽しか出ていないのだが その奥にもふんもふんな黒緑の畑、いや、密林が存在した。そう、あれこそ 「あれは……! 私の畑が霊に乗っ取られて森になっている! よし、あそこから失敬するげふ、な、植物自身が実を投げつけてくるだと! ふ、ふふ、これこそ神と暴霊の力がミックスハートの奇跡! 少々不気味で攻撃的だがうまい実が生っているな! よし、暴霊を退治しつつ、実をとるぞ!」 投げつけられた実(ひとの顔くらいある巨大いちごで、なぜか笑い声をあげている)をむしゃむしゃしながら神くんは挑む。 「なぁに、この私にかかれば暴霊なんてちょいちょいだ!」 暴霊をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、地面から抜くと悲鳴をあげる人参、怨念ぶちまけるジャガイモ、目つぶしをしかけてくる玉ねぎ――果敢に戦いながら材料を集めていく。 「まぁ、その食材はカレーですわね! 気が合いますわねェ、ケラケラ、私もカレーの予定ですわ。ここにはお野菜たっぷりみたいですけど、お肉がないなんてカレーではございませんわ! 肉、肉、肉こそカレーですわ、この死の魔女お手製のカレーを振舞ってさしあげますわ」 そのために今日はなんと黒フリルエプロンですわよ! やですわ、ターミナルにいる愛しい先生にだってまだ見せたことがないのですわよ? 初お披露目のエプロン姿の死の魔女に、神だって負けてはいない。いつの間にか白いコック姿である。 「カレー粉は人類の稀な大発明のひとつといえよう。私も負けんぞ! この無駄な神技を披露するときがとうとうきたな」 「まぁ! カレーライスに必要な1番のスパイスは"愛情"だそうなのですわ。死の愛情がこもりまくった私のカレーライスは、あまりの美味しさに死んでしまいますわよ!」 ケラケラケラ! ふははははは! ぐふ、ぐふ、ぐふぅ~ 二つのいびつな笑い声とともに煮込まれるカレーからもなんともいえないどす黒い笑い声がしてきたのにオゾは涙目でふるふると首を横にふってユエの服を掴んでいた。 「あれは本当に大丈夫なんでしょうか」 「食べた程度では死なないだろう」 たぶん。 ユエが怪力で岩をどかしながら、しつこい暴霊をさくさくと叩き斬ってねじ伏せていくのにオゾは簡単な水道作りにチャレンジしていた。 マスカダインも子どもたちとクワで畑を耕し、それが終われば桃の苗を植えていった。 こんな土地でもきっと元気いっぱいに育っていくはずだ。すぐには実は望めなくとも、長い時間をかけて、育ち、花を咲かせ、緑の枝は憩いを与えて子どもたちを見守っていてくれるはずだ。 マスカダインは依頼達成のときにもらった「星の光」を樹の近くに置くことにした。 これは大切な人を見せてくれる。 暴霊たちを説得は難しいかもしれないけれど、時間をかけて怒りが癒えて、ここにいる子どもたちを見守ってくれる存在になればいい。 ヒイラギはその子に会ったとき息を飲んだ。 「貴女は……」 彼女もヒイラギを覚えていた。ただ名乗っていないし、名乗られてもいない。 まるで初対面のように二人は視線を合わせず、はじめは復興支援をした。夕飯前にヒイラギは思い切って少女に声をかけた。 「あなたの家はどこですか? 自宅から持ち出すものがあればお供します」 少女はじっとヒイラギを見たあと、その手をとった。 しじま。なにもない大地を歩く。 少女があるところで足を止めたのにヒイラギも止まる。 少女は不意にしゃがみこむ。 「生きるのはつらい」 「貴女は」 「けど……生きてる。笑ってる、怒ってる。悲しいのは、どんどん消えていく。だから、笑って、」 少女は立ち上がると何かを握っていたのにヒイラギの左手首につけた。 夜のような碧石のつけられた、麻紐で作られたネックレス。 「ありがとう」 生かしてくれて、苦しんでくれて、ここにきてくれて、また会えた。生きていたから感謝できる、苦しんだからまた笑える。 「私は蝶」 「俺は……ヒイラギといいます」 キャンプファイヤーの下、神&死の魔女の美味しすぎて天上へ行くカレーが各自に配られた。 「おいしすぎて死んでしまったも大丈夫ですわ、私がお友達にしてさあげますから」 「んなこといっても、もぐもぐ、これ普通においしいよ」 「はい。普通に。もぐもぐ」 「そうだな。もぐもぐ」 「普通、普通!」 マスカダイン、オゾ、ユエの「普通」判定に死の魔女は地面を叩いた。これならまずいといわれたほうがまだ救われる。 「俺は十分頂いてますから、これは皆さんでどうぞ」 ヒイラギはカレーを避けてサラダをつまむのにユエはさりげなく横に腰かけた。 「楽しんでいるか」 「はい。ユエさまも」 ヒイラギの唇は、肝心な言葉をまだ紡げない。隠していることを口にしたいのか、それとも隠しと通したいのか。 「なにかいい匂いがしますが」 「ん? 香水の匂いか? お前がいないとき、少し月陰花園で楽しんできたからだな。やたらと女たちに声をかけられたし、男にも声をかけられたがみな酒に酔っていたんだろう。なにを誤解している、ヒイラギ」 「気をつけてください、ユエさま」 罪づくりな主人にヒイラギは雨の中捨てられた子犬のような視線を向けた。 ユエは噴出して、その頭をくしゃりと撫でた。 いまは、まだ。これでいい。そう願う。 「ふふーん、さぁ、食べるがいい、神の慈悲だ」 結界の樹の前にカレーを置くと神はひょいと浮かび、樹のてっぺんに昇る。 「ミュヌヌポポスのキャンプとかぶったからな。次は釣りでもするか」 ここに大きな湖と魚を作らなくてはな! 神は嬉々として笑いながら手を伸ばして花火をあげようとして、手をとめた。 「星がきれいじゃないか。これもひとつだな」 きらきらと、零れ落ちる星の光に見下ろされて、夜は楽しく過ぎていく。
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