きらりきらりお星様。 すいすいすいーっと流れ星。 皆どこに行くのだろう? きっとどこかの山奥に、流れ星のお家がある。 沢山の流れ星が、眠っているのかもしれない。 *-*-*「ねえ皆、竜刻回収に行ってくれないかな?」 ターミナルの一室。世界司書の紫上緋穂が好んで使うこの一室に入ると、彼女は元気いっぱいに口を開いた。目の前の机に置かれたバスケットの中には、星型のクッキーがいっぱい入っている。「ヴォロスのある地方に『流れ星の宿』って呼ばれる谷があるんだ。その地方で見られる流れ星は、みんなその谷の方へ流れていくからついた名前らしいよ」 緋穂はみんなにクッキーを配る。かじってみればちょっと固い。「そこにね、このくらいの、まるっこい石がいっぱい落ちてるんだけど……」 彼女は手で円を作ってみせる。直径15cm程だろうか。「その中に竜刻が『眠って』るの」「……眠って?」 不思議そうに問うロストナンバーに、緋穂は頷く。「小さな竜刻なんだけどね、まるで石の中で眠っているみたいに見えるんだ。だからこの竜刻を『起こして』回収して欲しいの。あ、べつに起こしても暴走したりとかしないからそこは安心して」 起こす方法なんだけど……と緋穂が口ごもったものだから、ロストナンバー達は思わず身構えた。けれども。「想いを伝える……というか、話を聞かせてあげて欲しいんだ。こんなこともあるんだよ、こんなだよ、って感じに」 例えば自分の生い立ち。例えば自分の過去。例えば自分の冒険譚。例えば自分の大好きな人のこと――そんな、気持ちのこもった話を聴かせることで竜刻は目覚めに近づいていくという。 また、歌や詩などでも竜刻に気持ちは伝わる。「不思議だよね、竜刻に話を聴かせるなんて。でもね、竜刻が石の中から出てきたら、きっといいことがあるよ」 ――お礼に少しの間だけ『見たい光景』を見せてくれる―― それは懐かしい故郷の光景かもしれない。今は亡き大切な人との思い出かもしれない。望む未来のひとコマかもしれない。「簡単な依頼だけど、一人じゃダメなんだ。二人分の話を聞かないと竜刻は目覚めてくれないみたい」 もちろんお礼も二人分。二人の見たい光景を見せてくれる。 だが必然的にペアを組む相手にも自分の話を聞かれることになる。だからこの人になら聞かせても良いと思う話を選ぶのが自然だろう。「眠っている竜刻はたくさんあるから、何組かに調査に行ってもらうことになるけど、とりあえず今回は一組にお願いするよ」 はい、と緋穂はヴォロス行きのチケットを二枚出して。「一晩一緒に過ごすことになるから、これを機に親睦を深めるのもいいと思うよ」 と付け加えた。
闇がじわりと忍び寄ってくる。本格的に暗くなる前に、山を登った先にある『流れ星の宿』に到着することができたアーティラ・ウィンクルーネとジューン。 それなりに体力はあるつもりだったアーティラだったが、ジューンは自分に合わせながらもちっとも疲労した様子がなかった。彼女はアンドロイドであるからして、疲労とは無縁なのだろう。なぜか大きめの魔法瓶とバスケットまで持っていた。 「話を聞かせてあげると目覚める竜刻ねぇ~。何だか神秘的~!」 目的地につくとアーティラはいつもの調子でテンション高く、ひょいひょいと石の転がる現場を器用に歩いて行く。 「それにしても、綺麗なお姉さんと2人旅だなんて……何だかドキドキしちゃうね、んふふ♪」 なんて軽い調子で言いながらも、ジューンの姿を見て思い出すのは遠い記憶。 (メイドさん、か……) 優しかったあの人。そばに居てくれたあの人。 「私相手に緊張する必要などありません。あの辺りの岩に腰を落ち着けるのが適当だと考えますが、アーティラ様はいかがでしょうか?」 そっとジューンが白い指先を差し出したのは、アーティラから数mにある平らな岩。おあつらえ向きに間隔をあけて2つあり、座って向かい合うのにはちょうど良さそうだ。 「うん、よさそうだと思うよ! よし、頑張って焚き火をしよう~♪」 間もなくこの辺りは真っ暗になるだろう。落ち着ける光源が必要だと考えたアーティラは薪になりそうな樹の枝を拾いに動く。ジューンは岩に腰を掛け、魔法瓶とバスケットをいじってお茶の準備をしているようだった。 程なくしてアーティラが戻ってきて、二人が座る岩と岩の間に焚き火を作り出す。ぱちぱちと木の爆ぜる音に導かれるようにして、夜の闇が谷を覆っていく。 「間に合ってよかったな~!」 「お任せしてしまい申し訳ありません。話を聞いている間、ただ待つのでは冷えるでしょう? お口に合うと良いのですが……サンドイッチとお茶をどうぞ」 「え? 持ってきてくれたの? 用意がいいな~!」 差し出されたサンドイッチと紙コップを手にとって、アーティラは笑む。優しさが身にしみる。いただきますと声を上げてサンドイッチにかぶりついた。うん、美味しい。 「あ、そういえば竜刻!」 「そちらは私が。アーティラ様が薪を拾ってくださっている間に見つけておきました」 ジューンが笑顔で差し出すのは、15cmくらいの丸い石。事前に話しに聞いた通りだった。 「へぇ、これがそうなんだね~!」 「このまま先にお話させていただいても?」 「もちろん! ボクはサンドイッチを味わいながら話を聞かせてもらうよ」 ウィンクして了承したアーティラを見て、ジューンは微笑む。 「それと話の途中でも何かあったらお声かけ下さい。ここには2人……いえ3人しか居ないのですから」 その優しいほほ笑みに少しどきりとしながら、アーティラは頷いて。ジューンとはこの機会に少しでも友好的になれればいいと思っているアーティラだったから、彼女のこの気遣いはとても嬉しいものだった。 「それでは、聞いてください」 ジューンは両手を皿のようにして、竜刻が『眠って』いるという石を見つめる。アーティラもサンドイッチを咀嚼しながら、彼女の話が始まるのを待った。 *-*-* 「起きてください」 ジューンの落ち着いた声が『流れ星の宿』に響く。 ぱちぱちと薪の爆ぜる音は彼女の言葉に沿うメロディーのようだ。 「世界のどこかに、貴方の力を必要とする、貴方を待っている人が居ます。貴方が目覚め、人から望まれ人の役に立つことを私は心から願っています」 そっと話しかけるその声は優しくて、母性を感じさせる。 「私の話をきかせましょう。私はセブンズゲートというスペースコロニーで生活していたアンドロイドです」 人ではない、そのことに彼女は負い目を感じてはいない。むしろ。 「人類の隣人、道具の延長線上にあるもの。人には出来ない事をして人の助けになるのが私の誇りです」 誇りを持ってさえいるのだ。たとえ人に使われる道具であっても、彼女はその自分の役目をしっかり理解し、把握し、誇りを持つまでに昇華させている。自分が道具であることをよく理解し、そして良き道具であろうとしているのだ。 「貴方は眠り続ける竜刻で、人の話を聞いて目覚めるのだと緋穂様に伺いました。私は目覚めた貴方が、人の良きパートナーとなるさまを見てみたいのです」 それが故にジューンは見てみたいと思う。自分と同じく道具たる竜刻が、人の役に立つさまを。人に受け入れられ、人とともに『生きる』さまを。 「竜刻は宝飾品として実用品として、世界と人を繋いでいます」 まるで子供に寝物語を語って聴かせるようなジューンの様子に、アーティラは遠い記憶がよみがえるのを感じる。メイド姿の彼女からは、自然、身近にいたメイドの彼女のことを思い出してしまう。 「貴方の目覚める世界は喜びと驚きと多様性に満ちている……私はそれを、同じく非生命体である貴方自身に見て頂きたいのです」 非生命体であればこそ、非生命体からの視点でジューンは思いを込める。 貴方と私は違うけれど同じ。 だからこそ、目覚めてほしい。人の役に立ち事の喜びを知ってほしい。 眠っているなんて勿体無いくらい、世界は喜びと驚きと多様性に満ちているのだから。 そっと、目を伏せていて竜刻を見つめていたジューンが微笑む。柔らかく、慈愛に満ちたそのほほ笑みは、竜刻だけではなくアーティラにも伝わる。 思わず見惚れ、つられて微笑んだアーティラ。視線を上げたジューンと目が合って。 「ジューンさんの話さ、興味深かったよ。それとサンドイッチ、ボクのためだけにわざわざ持ってきてくれたんだよね~?」 ジューンは、アンドロイドだということは恐らく飲食の必要はないのだろう。できるかできないかで問えばできるだろうが、無理に食べる必要はないのかもしれない。それでもこうして食物と飲物を用意してくれたということは、同行者であるアーティラを気にしてくれたからだろう。 「ありがと! 美味しかったよ~!」 「お口にあってよかったです。次は、アーティラさんの番ですね」 そっと、大切なものを守るようにして差し出された石をアーティラも両手で受け取る。 「おっと」 ころん、と掌から転がりかけた石を寸でのところで掌に載せ直したアーティラはほっと息をついて。ちらっとジューンを盗み見れば、彼女もいざとなれば手を出すつもりだったのだろう、ホッとしたような表情を見せていた。 *-*-* アーティラもジューンもそれぞれ椅子にしていた岩に腰を掛け直し、じっと竜刻が『眠って』いる石を見つめる。焚き火の炎を受けてほんのり赤みを帯びたように見える石。最初と比べて変わった様子は殆ど無い。本当にこの中に竜刻が眠っているのかな、とじっと見つめて、そして意を決して口を開いた。 「こないだ風が強かったから良い光景が……じゃねぇ! 真面目にやれよボク!」 ついつい口を突いて出てしまうのは、三枚目系の発言。ちらっとジューンを盗み見ると、彼女は穏やかな表情のままだ。怒った様子がないのは良かったが、ウケた様子もないのはちょっと寂しいかもしれない。 こほんと咳払いをして、アーティラは再び口を開く。今度は、真面目にやろうと決意をしてじっと、竜刻を見つめた。 「元世界では海賊として義賊活動をしてたんだ。船旅しながら貧しい人や弱い人の力に少しでもなる為にね」 思い出すのは元いた世界での生活。砕けた口調ではあるが、表情は先ほどと違って真剣そのものになっていることにアーティラ本人は気づいているかわからないが、ジューンは気がついていた。 「何故そんな人達の味方になりたいと思ったかって? それはね、沢山見て来たからなんだ。権力を振りかざして暴動を起こす奴等に踏み躙られる人達をさ」 アーティラは権力者の子どもとして生を受け、一番身近でそのやり方を見てきた。 「ボク自身そんな奴の元で育ったから嫌な程そんな光景を見てきた」 浮かぶのは嫌悪。愛情なんてこれっぽっちも注がれることはなかった。自分は優秀な兄のスペア。いや、二番手三番手以降の滑り止め。一歩下がったところから冷静に状況を見ていたアーティラには、権力者達のやり方は汚いものとして映ったし、虐げられる人々にその心は動いていった。 「そのうちに、そんな人達をどうにか救いたいと思う様になったんだ。その為には此処に居たままじゃいけないと思ってね」 ただただ、回ってくるかもわからない順番を待つのではなく、自分自身が役に立てる場所へ行きたかった。今すぐにでも、自分自身を必要としてくれる場所に行きたかった。 「だから家出をした。壮大な家出をね」 ふと、視線を上げてジューンを見る。メイド服姿の彼女が故郷の彼女に重なって見えて。 唯一心を許していた、メイドである彼女。彼女は唯一アーティラに愛情を持って接してくれていたのだ。だからアーティラも心を許していた。 「家出を後押ししてくれた人がいてね。その人と離れるのが辛くなかったといえば嘘になるけれど」 「それでもアーティラ様は人々の役に立つ道を選ばれたのですね」 「勿論、人々の手助けなんて簡単な物じゃないってわかってるけど、少しでも力に……」 ジューンの姿に彼女の面影を重ねながら、アーティラは頷く。しかしそこまで言って、真剣に、真面目になっている事がなんだか恥ずかしくなって。本来はちっとも恥ずかしいことなんてないはずなのだが、アーティラの性分といえばいいだろうか。 「ふぅっ……なーんかボクらしくない話をしちゃったなぁー! ゴメンねあんま面白くない話で! これでも竜刻ちゃん喜んでくれるかな~ん?」 「面白くないなんてことはありませんでしたよ。アーティラ様の強い決意を聞かせていただいたのですから。きっと、竜刻も喜んでいるはずです」 「……そっか」 ジューンの優しい言葉と笑顔が胸にしみる。なんだかこそばゆくて、アーティラはそれだけ言って口の端を上げた。 *-*-* ころ……。 「あれ……今!?」 アーティラは掌に感じた感触を確かめるために、じっと石を見つめる。 「どうかしましたか?」 すっとジューンが立ち上がって、近寄ってくる気配を感じた。アーティラは石の乗っている手を、隣にしゃがみこんだジューンにも見えるように差し出して。 「動いた気がするんだよね~?」 ころ……ころ……。 「!」 「ほら~!」 そう、石はアーティラの掌の上で揺れるように少しずつ、左右に転がっているのだ。気のせいではなかった。思わず顔を見合わせた。これは竜刻が目覚める兆候かもしれない。頷き合って再び視線を石に戻したその時。 ぽぅ……。 石がぼんやりとした光を帯び始めた。不思議なもので、その光は段々と強さを増していき、眼を細めるほどにまばゆくなった。焚き火の明るさに勝るとも劣らなくなったそれは、きっと竜刻からのメッセージ。 「早く起きてください」 「まってるよ~!」 思わず二人して声をかける。 光が集まる感じは竜刻の暴走の兆候に似てもいたが、世界司書は目覚めても暴走することはないと言っていた。彼女を信じるならば、大丈夫に違いない。 そっと、ジューンは手を差し出して石を撫でる。幼子にそうするように、優しく、優しく。アーティラはその様子を微笑ましく見守りながら、石の次の変化を待つ。 ぽう――光がどんどん増していく。 目覚めるというのはどういう形でなのだろうか。先例の報告書を読んでくればよかったか、と少し後悔が横切るが、やっぱり知らないほうがドキドキして、新鮮で、ワクワクして楽しいかもしれない。アーティラは思い直して石を見つめる。けれども眩しさに耐えかねて、つい目を閉じてしまった。瞼の裏で光が動いているのだけは感じていた。 「アーティラ様。もう大丈夫ですよ」 少ししてジューンの柔らかい声が聞こえた。アンドロイドであるジューンは、強い光を見つめていたも大丈夫だったのかもしれない。アーティラは恐る恐る瞳を開けた。 サラ……サラサラ……。 「あっ!」 アーティラの掌に与えられていた石の重さが一瞬の内になくなった。掌には砂のように崩れ、僅かな風に連れ去られた石の破片――いや、破片というには値しない砂粒のような粉が少し残っただけだ。 「竜刻はこちらに」 導かれるようにして視線を移すと、竜刻が宙に浮かび上がるようにしてアーティラとジューンの間に浮かんでいた。先ほどほど強くはないが光を放つその竜刻。 「おはよう、竜刻ちゃん!」 「おはようございます」 二人で目覚めの挨拶をしたその時。 「あら……?」 「あれ~?」 ジューンとアーティラは同時に声を上げた。互いの肩越しに、見慣れぬ景色が映し出されていたからだ。暗闇をスクリーンにして、その光景は映しだされている。 互いの声に気がついて、二人はそれぞれ振り返る。そこには――懐かしい故郷の光景が映し出されていた。 アーティラの背後に映しだされたのは、どこまでも広がっているような青い海、洒落た自分の海賊船。 「あいつら……」 自分のことを信頼してくれる船員たちが映しだされ、アーティラは懐かしさに目尻を下げる。 見るからに貧しい恰好の人々が、船員たちに頭を下げて何度も何度も礼を言っているようだ。その中にアーティラ自身もいた。 お礼なんていいよ~! それよりまた何かあったら、ボク達に言うんだよ~! そんなことを言っているのだろう、映像の中のアーティラは活き活きしていて、笑顔で明るくて。家出をする前とは打って変わって本当に活き活きとしている。 守りたい人達をしっかりと守れた時の映像だ。懐かしさとともに、あの頃抱いていた使命感のようなものが胸に再び灯る。 忘れてしまっていたわけじゃないけれど、改めて見せられるとああ、と溜息が出るほどに思い知らされて。 頑張ろう、と。 ジューンの背後に映しだされたのは、セブンズゲートの光景だ。彼女が世話をしていた子供たちが映しだされている。 「ラル、ユーナ、クロエ、ティム……良かった、みんな元気ですね」 子供達の姿は少しずつ、ほんの少しずつではあるが大きくなっていて。ジューンが世界を放逐されてからの時間の経過を感じさせる。 けれども子供たちは、元気に笑いながら遊んでいる。誰一人欠けることなく、怪我や病気にかかることなく。 それだけでも、ジューンにとっては十分喜ばしいことだ。ほっと息を吐いて目を細める。 「あら……ティムはユーナをまた泣かせて。帰ったら、叱らなければなりませんね」 咎めるような言葉ではあるが、ジューンの表情は懐かしさと微笑ましさを込めた笑顔で。 元の世界への再帰属を第一義として考えているジューンは、帰るという意思を強くしていった。 子供たちに、また会うために。 見えた光景に、自分が加わるために。 *-*-* 陽が昇り、闇が薄くなっていくのと同時に映像も薄れていった。 けれども二人は、完全に映像が消えるまでそれをじっと見続けた。目を逸らしてしまうのはあまりにももったいない気がして。 いつか消えるのはわかっているから、ならば消えるまでは見ていたいと。 朝日に照らされ、それまで辺りを覆っていた闇が払拭されていく。静かに、静かに映像も消えた。 アーティラは竜刻を振り返って、竜刻が役目を終えたとでも言うように浮遊をやめていた事に気がついた。身体を折って手を伸ばし、石と石の隙間に落ちた竜刻を拾い上げる。 「ありがと竜刻ちゃん! おかげで懐かしい気分になれたし、これからも頑張ろうって気持ちになれたよ!」 彼の言葉に答えるように、朝日に照らされた竜刻がキラリ、輝いた。 「アーティラ様、こちらに」 いつの間にかこちらを向いていたジューンは両手に広げたタオルを載せて、こちらへ差し出していた。アーティラは意図を察してそっとそのタオルの上に竜刻を乗せる。 「要らないだろうとは思いましたが……冷たい岩の中から新たに目覚め生まれたなら、暖かくて外も見える方が良いかと思いまして」 ジューンは竜刻を丁寧にタオルで巻いていく。そして大きな網目の籠に入れて手に提げた。 「ありがとうございます」 そっと籠を持ち上げて、中の竜刻に礼を言うジューン。無機物をきちんと生き物のように扱う彼女にアーティラは関心を覚えた。 「じゃあ、帰ろうか! 三人で、ね~!」 ウインクして告げる彼に、ジューンは満足そうに笑んで頷いた。 二人の心に満ちるのは、竜刻の見せてくれた懐かしい映像。 それは二人に様々なことを思い出させた。 きっと、その映像を忘れることはないだろう。思い出した大切なことを、忘れることはないだろう。 【了】
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