「合コンってわかります?」 集まった旅人達は突然そんな質問をされる。 「あ、そんな馬鹿にすんなって顔しないでください。合コンのお誘いなんですよ」 彼女が話すには、ここ最近のイベントに独り身のツーリストの一人、メルという青年がぶーぶー文句たれて五月蠅くて仕方ないらしい。 そこで、彼女は合コンをセッティングする事にしたという。 どこで? そんな問いにロズリーヌは笑顔で答える。 「モフトピアで」 微妙な沈黙が一同を襲う。その中で、ロズリーヌだけは間違いなく心からしあわせそうな笑顔である。 否定がない事を肯定と受け取った彼女は全く沈黙の意味に気づかず話を続ける。 「よーし参加オッケーですね。いやー実を言うと、一部アニモフさん達の間で流行っているらしいんですよー合コン。確認してきて欲しいなぁーと思ってたところなんで丁度よかったー。立派な仕事ですけどー可愛い子いっぱいですよー」・えんとりーなんばーいちばん ふさふさの耳やしっぽがきゅーとなまっしろしろくまのみーる。 性格はおっとりタイプ。好きなタイプはなでなでしてくれる人。・えんとりーなんばーにばん ぴんくいろの毛並みとそれにおそろいのリボンが自慢のちぇるしー。 性格はちょっぴりツンデレ。好きなタイプは一途な人。・えんとりーなんばーさんばん おっとこれはせくしーばにーちゃん。うさぎさんアニモフのらびぃ。 性格は実はけっこう甘えん坊。好きなタイプはたくましい人。・えんとりーなんばーよばん つぶらな瞳と小さなお口がちゃーむぽいんと。まっくろくまのりでぃ。 性格はしっかりもの。好きなタイプはちょっとぬけてる人。 「……と。向こうの面子は以上です」 ちょーうらやましーんですけどーとかなんとかロズリーヌは言っている。口調はともかくとして、彼女はガチだ。 「ただですね、やや間違えてる感じらしくてですね……」 参加している面子や置いてあるのがお菓子や甘いジュースしかないというのはともかく、雰囲気はけっこうそれっぽいそうですよと彼女は言う。 流れはまずは各自の自己紹介から。ここでしっかり自己アピールをすることが成功への第一歩(らしい)。自己紹介が終わったら交友を深めるミニゲームなどもあるとか。「風船を二人の身体で挟んで割らずに運ぶアレらしいです。ときめきますよねー」 ミニゲームも終わったらしばらくフリータイム。各自で近くにいる者と談笑しようと、席を移動しようと自由だ。 「ここら辺までは合コンって一応言えると思うのですが、その後から怪しくなってきまして」 フリータイム後、この人だと思った者に告白タイム。告白の対象は参加しているアニモフだけでなく、参加したロストナンバーに対してでもかまわないという。 成立したカップルはメリーゴーランドでラブラブデートという事になるそうだ。 ただ、余った者達には罰ゲームという労働が待っている。カップルの乗る正にそのメリーゴーランドの動力となって、丸太を延々と押してグルグル回らなくてはいけないのだ。「さぼったりしたら、監視の人に鞭……ではなくって、縄跳びの縄でぺしーんぺしーんとやられるらしいです。けっこう痛いですよ、縄跳び」 いや待て、そんなもんどこで覚えてきたんだ。というかこれっていじめじゃないですか?色々と聞きたい事があるようなないようなな一同だが、ロズリーヌはじとっとした目で呟いた。「……憎い。モフトピアに行けぬこの身が、モフトピアに行ける身の者が、憎い」「……………」「レポートまってますので、楽しんできてくださいね」 全ての疑問質問は完全無視でロズリーヌは再びにっこりと笑顔を作ると皆を送り出した。「可愛いけど……確かに可愛いけど……!! 俺が望んでいたのはこんなんじゃないんだーーーー!!!」 青年の魂の叫びが汽笛の音にかき消されていった。
●これは合コンですか? よく晴れたきもちのよい日でした。 モフトピアにたどり着いた五人の旅人たちがいました。 「ヒャッハー! モフコンだー!」 一人の男の子が元気よく飛び出してきました。 小竹卓也くん(20さい・だんせい)です。 「いや、合コンだろう合コン」 「こまけぇこたぁいいんだよ!!」 メルくん(18さいっぽい・男性)は訂正を試みましたが、勢いでスルーされました。 「……もふもふ。……もふもふじゃん……!?」 モフモフ系コスプレの美少女の可能性に賭けてみたものの、希望をうち砕かれている男の子がいます。 ファーヴニールくん(21さいっぽい・だんせい)です。 「ふんっ…今までずーっと待っていたけどさ。誰も告白しに来ないんだから、私の方から来てやったわよ」 とてもよい心がけでやってきたのは、フカ・マーシュランドちゃん(14さい・じょせい)です。 「あ、皆さんお久しぶりですん」 卓也くんは前にも一緒に遊んだことがあった子たちに挨拶します。 「……あぁ小竹か」 フカちゃんはな適当にあしらいます。 「フカさん、うむ、良い。実に良い」 あしらわれた卓也くんはフカちゃんを見つめます。 「フカさんいつも通り凄くツンツンしてますぬ。だがそれがいい」 たぶん、何もよくないです。 「まぁ、皆さん今日はよろしくお願いしますー」 何はともあれ、みんなはこれから一緒に合コンに行く仲間なのです。 「よろしくなのです」 「よろしくな」 「へぇ……男女半々くらいに一応なったんだな」 「あれ、そういえば相手のアニモフの性別ってどうなってるんですっけ?」 「こまけぇこたぁいいんじゃねーの?」 「あ、返された」 「大体、これが合コンという事自体おかしくないか? 合コンってなんだよ!」 メルくんは嘆きます。 「『合コン』とは、雌雄のある知的生物が寿命の尽きる前に種の繁殖のために必要なパートナー候補を探すために生み出された、壱番世界に起源を持つ儀式の一種と聞いたのです」 すらすらと難しそうな言葉でメルくんに説明するのは、シーアルシーゼロちゃん(8さい・じょせい)です。 「ロストナンバーは種の寿命にとらわれることがなく、また繁殖もできないはずなのです。ということは、ロストナンバーにとってこの種の儀式はさしたる意味を持たないのです。それなのに、類似した様々な儀式に対してメルさんは何らかの不満を抱かれているというのは何故でしょう……?」 後学のためにとメルくんに聞いてみます。 「……ごめん、難しい!」 おつむの出来には自信がない男の子のメルくんは、目をぐるぐるさせています。残念です。 代わりに彼の心をファーヴニールさんが推し量ってくれます。 「とりあえず今回は、七頭身か八頭身……いや、せめて五等身くらいはある相手が良かったんじゃないかな……」 「八等身のアニモフさんがよかったのですか?」 「「「…………(ゴクリ)」」」 それはたぶん、とても、嫌です。 「さぁ、グダグダ言ってないでさっさと行くわよ!!」 さあ、たのしいたのしい合コンのはじまりです。 ●はじめての合コン? そこはアニモフたちの遊び場でした。楽しいとおいしいがたくさんの場所です。 小さな滝から流れ落ちる綺麗なみずいろのソーダ水は、しゅわしゅわぱちぱちと小気味の良い音を立てていました。ほんのり甘く、そしてスッとする香りの流れは滝から会場の周りをぐるりと取り囲んでいます。 いつでも飲めるその小川のほとりにはカラフルなアメ玉のお花が咲いています。足下に散らばる小石さえも、よく見ればチョコレートで出来ているのでした。 「……へぇー、コレが合コンってやつ? 何つうか随分とホノボノ空間ね? てっきり、恋に餓えた野獣共がウヨウヨしている場所かと思ってたのにさ」 これを一般的な合コン会場と信じて疑わないピュアな女の子のフカちゃんは、ちょっぴり首を傾げます。 「わーこれって肉食系女子っていうや……ぐへっ」 「フカさん、けっこう本気で彼氏がほしか……ふべっ」 「……わ、私だってね! その気になれば彼氏の一人や二人くらいっ……!!」 「……」 よけいな事を言った男の子たちがなんかこうヒレでしばかれたような気がしますが、ファーヴニールくんは気にしない事にしました。ゼロちゃんはそもそもそんなものは見ていませんでした。 だって、目の前にはもうアニモフのみんなが待っていたのですから。 「わぁい。ちぇるしーちゃん、みんながきたよ」 「おそかったんだね……心配してなんかいないもん」 「あれぇおさかなさん?」 「大きいひとがたくさんだー」 アニモフ達はきゃっきゃと楽しそうにみんなを迎えてくれます。 「えっと……」 「お席にどうぞー」 「こんにちわぁー」 「こ、こんにちは」 「あなたはこっちね?」 少し戸惑うお友達もいましたが、アニモフたちは一人ずつみんなの手を引いて椅子に座らせてくれます。メルくんが一人、あぶれて傷ついた顔をしましたが、黙って一人で空いた席に座りました。 さて、合コンの始まりです。 ところで、この合コンには幹事さんがいません。まず、幹事さんというものをアニモフたちが知っているかもわかりません。 場を仕切る人がいないことに、メルくんは不安を感じましたが、あまり心配いりませんでした。 「自己紹介が大切と聞いたのです」 そう言って、ゼロちゃんが口火を切りました。 「えっと、ゼロはゼロって言うのです。仕事はまどろむことで、好きなのはまどろむことなのです。好きなタイプは平穏や安寧を増やす方、ふわふわでもこもこな方なのです」 「おしごと?」 「あんねい?」 「ちぇるしーはふわふわでもこもこね!」 「らびぃだってふわふわでもこもこだけど」 ゼロちゃんの自己紹介にアニモフたちはまたきゃっきゃきゃっきゃとおしゃべりします。 「それじゃ、次はいい?俺がいくねー」 出遅れてなるものかとばかりに卓也くんも手をあげてから自己紹介をはじめます。 「小竹卓也と申しますー。撫でたりもふもふすることや、甘えてくれるのが好きです。よろしくお願いしますね」 そつのない自己紹介です。さり気なくみーるちゃんに視線を……みーるちゃんにりでぃちゃんにフカちゃんに……みんなに視線を向けているような気もします。 「私はフカ。サメとイルカのハーフよ。親父がサメで、お袋がイルカ。まぁ、今の親父は魚なんだけど…って、どうでもいいわね」 フカちゃんもしっかりとした自己紹介をはじめます。 アニモフたちはサメ?おっかないおさかな?イルカ?おおきいおさかな?って顔をしています。 「私らの一族はずっと昔からハンターをやっててね。村を襲う海獣を狩って飯を食って来たのさ。私も狩りで重砲を使っていてね。腕っぷしなら誰にも負けない自信があるわよ」 「カッコイイのね」 らびぃちゃんがすごいすごいとおててをぱふぱふと叩きます。 「ちなみに、好きなタイプは…そうね…聞き分けの良い奴かしら? まあ、とりあえず宜しく頼むわね」 「聞きわけ?」 「いうことをきくよい子って事なのです」 「みーるたちみんなおりこうさんだもんね」 「おりこうさんだもんね」 ねぇーっとうなずきあうアニモフさんたちはとっても可愛らしいです。 「なんか和むなぁ……近所の赤ちゃんの面倒見てた時のような気分。母性本能ってーの?」 メルくんがお前もそう思わないか?と隣を見ます。 「良い……実に良い……右を見ても良い。左を見ても良い。実に素晴らしい空間だ」 「あ、ごめん」 幸せそうな卓也くんを見て、メルくんはなんとなく謝りました。 そんな間にもアニモフたちの自己紹介はどんどん進みます。 「最後は俺か……ファーヴニールです。ドラゴンっていうちょーっと怖い生物に変身できます。宜しくお見知りおきを」 よく通る彼の声が自身の名を告げると同時に、ぱちぱちと音を立てながらイカヅチが彼を照らします。 自分の能力を上手に利用した演出です。これにはアニモフたちは拍手喝采です。 「パチパチ!」 「ピカピカ!」 なかなかの好感触です。色々と複雑ではありますが、ファーヴニールくんもちょっぴり嬉しい気がします。 一通り自己紹介が終わりました。 「みんなよろしくね」 「よろしくー」 「なかよくしてね」 「えぇ、仲良く出来るといいわね」 「もっとなかよくなれる、なかよしゲームをしよう!」 そう言うと、アニモフたちはまたみんなの手を引いて広場にと導きます。どの子も積極的でよい事です。ただ、メルくんがまた一人あぶれて悲しい顔をしましたが、黙ってみんなについていきました。 ●ふうせんってびっくりする? 広場には大きな風船がいくつも、ふわふわぽわぽわと弾んでいました。 「あれがミニゲームの風船ですか」 「はいはいはーい! 俺やりまーす。誰か一緒にしませんかー?」 早速、卓也くんが立候補します。そのお誘いにアニモフたちはどうしようかと顔を見合わせます。 「じゃあ、りでぃがいっしょにやるね」 しっかり者のりでぃちゃんがすっと前に出ました。卓也くんはにっこりして大きな青い風船を手にします。 「よろしくお願いしまーす」 「おねがいしまーす」 さて、残りのメンバーもなんとなく目があったからとか近くにいたからとペアを組んでいきます。 「あ、俺、スタートの合図とゴールやってやるよ」 傷つく前に身を引く事を覚えたメルくんは審判です。 第一組:卓也くん&りでぃちゃん 第二組:フカちゃん&ちぇるしーちゃん 第三組:ゼロちゃん&みーるちゃん 第四組:ファーヴニールくん&らびぃちゃん みんなは横一列に並びます。 「いいかーこっからよーいドンでスタートしてぐるっと回って戻ってくる感じだぞー」 「私の体なら、ちぇるしーと風船挟むのにピッタリね……」 オレンジ色の風船を間に挟んで軽く練習をしてみながらフカちゃんは呟きます。 「そうだね。同じくらいの背だもんね」 ちぇるしーの言葉になんとも言えない気持ちになります。 「……くっ。なんか悔しいわ!」 拳を握りしめますが、その力は勝負に回す事にフカちゃんはします。 「ともかくっ! この勝負、気合いで勝つわよ!!」 ――よーいドンッ!!―― メルのかけ声と共にみなは一斉に走り出します。 まずは気合い十分フカちゃんとちぇるしーちゃんのコンビが飛び出していきます。しかし、若干ちぇるしーちゃんが追いつけなくなってしまい、危うく風船がぽろっと落ちそうになります。 なんとか体勢を整える二人でしたが、ここで少しタイムロス。 そんな二人に追いついてきたのが、卓也くんとりでぃちゃんです。しっかりもののりでぃちゃんはいっちにいっちにと声をかけて足並みをそろえようとし、卓也くんも自分の歩幅に気を付けて動いています。なかなかよいペース。 青い風船は二人の間にしっかり挟まれています。しっかりと。 「もふもふだなぁ」 「よそ見はだめー!」 りでぃちゃんの素敵な毛並みに気をとられてここで二人もペースダウン? ここで追いつきたいのが、ファーヴニールくんとらびぃちゃん。しかし、ファーヴニールくん、長身を屈めての走りは辛そうだ。 「中腰って辛いんだよなー腰悪くしないといいけど」 メルくんは他人事ながら、思わず自分の腰をさすります。 一方ファーヴニールくんは体を離さないようにしっかりとらびぃちゃんの腕を掴んで思います。いいモフモフだなぁと。 普段はさほどモフモフに執着があるわけではないのですが、やっぱりモフモフはいいものです。なんかこのままモフモフしたくなりそうだと思いながら彼は走ります。 そして、そんな三組をよそにどこまでもマイペースに走るのがゼロちゃんとみーるちゃんです。真っ白な風船はゆらゆらと揺れ動きますが、大きく浮き上がることもなく二人の間に挟まっています。 「ゼロも大きくないのでそんなに辛くないのです」 「たのしいねぇ」 急がず焦らず。そんな二人ですが、大きなミスがないので着実にゴールへと進みます。 「残り百メートル! もあるわけないぞーあとちょっとだー頑張れー」 ゴールまであとちょっと。みんなラストスパートです。どの組が一番でもおかしくありません。 「負けてらんないのよ!!」 「ここで男を見せないと!!」 「みーるさん、頑張りましょう」 「あと少しの辛抱……」 「「「「ごーーーる!!」」」」 ぱんっ! ほぼ同時にみんなはゴールしました。風船が割れる音もします。 「えぇっと……風船割れたのは誰だー?」 「ちぇるしーびっくりした……」 「最後、勢い余って割れたわね。でもゴールしてからだと思うわ」 「最後まで割れずに運べましたねー。相性いいかもしれませんな」 「あいしょうー?」 「とても仲良しって事かな」 「わぁい」 「ゼロ達も頑張りました。相性いいですか?」 「ところで誰が一着なんだ?」 メルくんはうーんと悩みます。 「みんな一等賞でいいんじゃないの? だって、なかよしゲームなんでしょ?」 審判としては役に立たないメルくんでしたが、それなりにまとめてくれたので、みんなはにっこり笑ってゲームを終わりにしました。 この後は、ふりーたいむです。みんなは今のゲームの事をわいわい話ながら席へと戻っていくのでした。 ●ごじゆうにおすごしください 席に戻ると、さっきまではなかったお菓子や飲み物がたくさんテーブルの上に並べられていました。誰かに頼んでいたようです。 それぞれの席にはよく見ると、綺麗に折り畳まれたナプキンやグラスが並べられています。 「あとはわかいひとたちで、なんです」 りでぃちゃんが言いました。ここにいるのは「わかいひとたち」だけなんですけどね。 「それでは、気持ちよいもふり方ともふられ方についてお話なのです」 「もふりもふられ?」 「みーるはなでなでされるの大好きだから、どんなもふりもうれしいな」 「えーずっとなでなでされてたら遊びにいけなくなっちゃうよ。されないのもいやだけど」 みーるちゃんやちぇるしーちゃんが早速ゼロちゃんに答えを返します。 お菓子をモグモグして、すっかり動物園に遠足に来たような気分になっているファーヴニールくんでしたが、ここはみんなを盛り上げてあげようというりっぱな心意気で、他の子達にも話しかけてみます。 「へぇ、そういうもんか。そっちのらびぃちゃんはどうなんだ?」 「えっと、えっと、らびぃはもふられるのはいいけど、たまにおみみを曲げる人がいるの。とってもいや!」 「そうか、気を付けるよ」 「……うん!」 らびぃちゃんは嬉しそうに頷きました。そして、フカちゃんにも話しかけます。 「もふもふされていやなのありますか?」 「うーん……そんなにしょっちゅうもふられるってわけじゃないし」 「あ、フカさんならいつでももふもふしま……」 「いらないわよ」 卓也くんがここぞとばかりに畳みかけてこようとしましたが、あっさりと一蹴されてます。 「りでぃはなでなでもいいけどおててをつなぐのもすき」 「それはとてもいいですな」 そう言いながら、卓也くんはりでぃちゃんの足をそっと掴んでみました。せくはらでしょうか? 「そこはあしだよー!」 「あっはっはっは間違い間違い」 せくはら寸前でしたが、ボケでした。どうやらぬけてるところアピールをしている模様。侮れません。 「みんな、色々なのですね。ゼロももふるだけでなくもふられる側になってみるのです」 その言葉にみーるちゃんがおっとりと手を伸ばしました。 「こう?」 白いおててがゼロちゃんの頭をなでなでします。 「もふもふの専門家の小竹さんにも、ご意見をお願いするのです」 ゼロちゃんは、これはよいもふられ方でしょうか?と卓也くんに聞いてみます。 「ふむ、専門家としてはですな……」 あーでもないこーでもないと言いながら、アニモフたちにぼでぃたっちです。侮れません。 「もふもふの専門家というか単に獣人フェチとかマニアとかいうやつよアレ」 「まあいいんじゃないか、専門にしてるっちゃしてる」 「本当に好きだなーあいつ」 みんなはなんだかんだで盛り上がっています。間にはファーヴニールくんが持ってきた銀の板にアニモフたちの彫刻をあっという間にするという見事な余興で更に盛り上げます。 場の空気が温まってくると、段々とみんなは個人個人でお話するようになっていきます。 じっとみんなを観察していたフカちゃんも動きます。自己紹介の時からよく話しかけてくれてる気がするちぇるしーちゃんやらびぃちゃんに話しかけてみようとします。 (こーゆう時、何て話せばいいのかしらねぇ……) ひとまず、らびぃちゃんをつかまえて話しかけてみます。 「……あんた……ちょいとツラ貸しな?」 「う……わぁぁん!」 何故か低く響いたフカちゃんの声にらびぃちゃんがびっくりしてしまいました。 「だ、大丈夫か?」 「くっ……何か間違ったのかしら?」 「うーんと、なんか根本的に」 メルくんがもっと軽くいった方がいいと思うよとフォローを入れます。らびぃちゃんはファーヴニールくんがなだめていたので、ちぇるしーちゃんにフカちゃんはリベンジです。 「ちょいと…………お喋りしない?」 「……時間あるし。おしゃべりしてもいいよ」 とりあえず、なんとかなりそうです。 「……みーるさんはもふり方もお上手ですね」 「ゼロちゃんのなでなでもすてきだよ」 ゼロちゃんもみーるちゃんとおっとりまったりとおしゃべり中。 「あはははは。そうでしたか、しっぽにはそんな……」 「だからーそこはおみみなの!」 卓也くんもりでぃちゃんにボケ倒しています。 みんなとても楽しい一時を過ごしましたが、楽しいときには終わりがやってきてしまうものです。 「そろそろ、おじかんです!」 そう、この後のメリーゴーランドのお時間が迫っていたのです。 「こくはくのじかんですよー」 旅人たちとアニモフたちが向かい合って並びます。 (誰からいくんだコレ?) (何回行ってもいいのかな?) (何回いくつもりなんだよ、おまえ) とりあえず男の子たちはひそひそと話し合います。 「とりあえずえっと……りでぃちゃん!すきだーつきあってくれー!」 「……」 ひとまず飛び出して行ったのは卓也くんでした。 りでぃちゃんはじっと卓也くんを見つめています。 「とても面白かったけど、とりあえずはいや」 「しまった!」 しっかり者のりでぃちゃんにはボケは通じていましたが、誠実さがちょっと足りなかった様子。 「それなら……みーるちゃん!すきだー!」 「ちょっとまった。なのですよ」 卓也くんにゼロちゃんが割り込みをかけました。 「みーるさんに逢引を申し込むのです。ゼロはもふもふするのが好きで、みーるさんはなでなでされるのが好きだそうなのです。問題なく、もふもふでなでなでな逢瀬の時間が始まるのです!」 確かにゼロちゃんの言うとおりです。需要と供給のバランスのとれた素晴らしい組み合わせです。みーるちゃんはふたりを交互に見てから、ぽてぽてとゼロちゃんの前に歩いていき、手を差し伸べます。 「うん、みーるはなでなですき。一緒にめりーごーらんどであそぼう」 「はい」 「またふられたー……つ、次はフカさん!」 こうなったら駄目元で言ってみると卓也くんはフカちゃんを振り返り見ました。 「とりあえず来る者拒まずよ」 フカちゃんはそう言いました。 「おぉ!」 「だけど、あんたはパス。獣人なら誰にでも同じ事いうでしょ」 「いやいやソナコトナイヨー!」 「はいはい……待っても誰も来ないなら仕方ない……私の方から告るわ」 さらりと卓也くんを受け流してフカちゃんはちぇるしーちゃんの前に向かいます。 「一緒にメリーゴーランド乗りましょ?」 何の飾り気もないストレートなお誘いでした。だけど、ちぇるしーにはそれが一番でした。まわり道より一本道です。 「いっしょに乗ってあげてもいいよ」 「素直じゃないわね、あんた」 なんだかんだで楽しそうな二人です。 「いいなーらびぃもメリーゴーランド乗りたい」 「それじゃあ二人で乗ろうか」 らびぃちゃんとりでぃちゃん組が成立してしまいそうです。 「行かなくていいんすか?」 「いやぁ……告白て俺なんかがあははは……というか、これで成立しちゃったら、アニモフが余るだろ?」 かわいそうじゃないかとファーヴニールくんは言います。 「そこはこちらに任せていただければ」 「おまえ振られてただろ」 ここは身を引いた方がよいという大人の考えの男の子達です。 一人だけ違いましたが。 「ファーヴニールさんー!俺だー!竜化お願いしますー!そしたら結婚してくれー!」 「嫌だよ」 竜化して、しばこうかと思いましたが、喜ぶのが目に見えてるのでやめます。 こうして、はからずも女の子た ちふたりはアニモフたちの心をがっしりキャッチしたのでした。 そして、男の子たちはあわれ、メリーゴーランドの動力となる事になったのです。 ●メリーゴーランドの光と闇? 「気をつけて乗りなさいよ?」 「そっちこそ、けがなんかしたら……しないでよ」 「ゼロはもふもふしたいから、一緒に馬車はどうですか?」 「あとで、おうまさんにものろうねー」 メリーゴーランドは可愛らしい音楽を奏でながらぐるぐるまわりはじめます。 その地下ではたらく男の子たちの手によって。 ぐーるぐーるぐーる。 ぴしーっぱしー!! 「何あのムッキムキのアニモフ!?」 「ムッキムキのくまさんのぬいぐるみがおる……」 「かわいいのにムッキムキ……」 「かわいいのに……怖いぞアレ!!」 阿鼻叫喚とはこの事でしょうか? 実のところ、男の子たちがみんな地下に来たので、力仕事としては楽になったのですが、見張りのアニモフさんがムッキムキなのです。 もう逃げたい……とみんなは思いました。 「今だ必殺瞬間女装ッ!!」 ファーヴニールくんが叫びます。 「な、なに? 卓也くんが困惑してる間にメルくんが素早く適応します。 「ぼ、ぼくはファーヴニール子ちゃんとメリーゴーランドに乗ることにしたので、戻ります!」 「あ、ずるー!」 すたこらさっさと逃げ出そうとする二人。 しかし…… 「ずるいの……だめ……」 「もう一体デター!!」 「はさまれた!!」 ムッキムキのアニモフさんに挟まれて、みんなは…… 「ひぃぃ……」 「わーいムッキムキのアニモフはかわいーなー」 ……嬉しい悲鳴? 地下では悲鳴がなりやみませんでしたが、地上ではいつまでも、いつまでも、たのしいメロディが流れ続けていました。
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