~バイヤー魂~「ヒクイドリという動物を知っているか?」 本をパタンと閉じたシド・ビスタークが何の前触れもなく話を切り出す。「壱番世界にも同じ名前の鳥がいるらしいが、ヴォロスにいるものは体高は人間の成人男ほど。飛行はしないが火を食べ、火を吐く赤い羽を持った鳥だ」 次にシドは『導きの書』を開きながら、本題を語り始めた。「導きの書で見えた未来にこいつが出てきた。竜刻を食べてしまったようで凶暴化し、さらに火を求めて集落を襲っている光景が……だ」 いつもと変わらない表情で見えたビジョンを語るシドだが、その心は穏やかでないのか言葉に熱が篭っている。「ヴォロスのヒクイドリ……凶暴化しているということは大きさも大きくなっていたり、羽も何か変わっていたりするのでしょうか?」「ああ、体高は5mまで大きくなり、羽の赤も火のような赤になっているようだ」「なるほど……これは実に珍しいですね。オーナーのために一つ、その羽を報酬に退治に参りましょう」 話をするシドにステッキをくるくると回しながら一人の奇抜な紳士が割り込んできた。 シルクハットを右手で押さえて軽くウィンクして見せたのはハッター・ブランドンである。「そうか……仲間を集めていってくれ、『導きの書』で見れた未来は変えられる」「畏まりました。では、不思議の国へ冒険に参りましょう」 恭しく頭を下げたハッターはステッキを軽く回しながら、ターミナルを後にした。 ~紅き鳥の住まうとこ~ ヴォロスの大地、豊かな自然のある土地の集落に向かって巨大な鳥が走っている。 ダチョウのような姿をしているが、全身は赤く、長い首の先にある頭には紅い肉垂がついていた。『クケェェッ!』 叫び声と共に口から火玉を吐き出し、草原を燃やして駆け回る。 熱を求めている”ヒクイドリ”は人の住まう土地に向かって大きな巨体を震わせた。
~敵を知り己を知る~ ターミナルの待合室、食事もできるその場所で6人の男女が出発前の作戦会議をはじめようとしていた。 「皆さん、よろしくお願いします! ふふ、ひっさびさの依頼ですよ。たくさん食べて楽しみましょう! 皆さんもいかがですか?」 EKIBENバーガーを食べながら藤枝竜が挨拶をする。 人数分ターミナルで購入したEKIBENバーガーを配って席につくと、虎部隆が場を仕切るわけでもないが一枚の手書きイラストを全員に配った。 「ナイスだ竜! 作戦会議には丁度いいな」 「これがヒクイドリですね。以前みたことありますから……ただ、話に聞けば5mサイズで火を吐いたり食べたりするそうなので対応を考えた方がいいでしょう」 イラストを確認したハッター・ブランドンがトランク型のギアから紅茶セットを出して紅茶を用意しはじめる。 いついかなる時もティータイムを忘れないのがハッターの美学なのだ。 「本当に火を食うようになっちゃったのかよ……竜刻は火の力でも封じてんのかな?」 イラストをペンで叩きながら虎部は素朴な疑問を口にする。 「わかりませんね……わかっているのは竜刻の影響は多種にわたっているということだけです」 「5mといやぁかなりの大きさだ少しくらい持って帰れるのかね?」 紅茶を用意しているハッターへ顔に包帯を巻いた2m近い男のダルマが荒っぽく尋ねた。 バーの店長……いや、バーらしきところの店長のため食材として欲しいのだろう。 「トランクに入るまでは持ち運びはできますよ。生きてなければ……」 「わかった、始末すればいいってことだね」 ニヤリと包帯の奥に隠された口が歪みを見せた。 「……ふむ、ヒクイドリか。そう言う生き物が存在するとは不思議な物だな。凶暴でなければ、観察するのも面白かったかもしれんな」 スリーピース・スーツを着崩して棒キャンディーを舐めるロディ・オブライエンはアメジストのような瞳でイラストを眺める。 元いた世界では魔獣を狩る狩人のような職業である『守護天使』であったロディにとってみれば今回のような敵は興味をそそるものだった。 「全長5m、赤い身体に赤い羽根。ふむ、体を動かすには丁度いいかな? もっとも、近接が得意な人が多いから援護になるだろうけどね」 穏やかさ漂う女性のような容姿のファーヴニールが鋭い目元を光らせると顔が触れそうな距離にきたハッターが紅茶をさしだす。 「ファーヴニール様は先日の桜のチェンバーではお世話になりましたね。相変わらずお美しい限りです」 ハッターのファーヴニールを見つめる瞳はどこか妖しさがただよっていた。 「おおお~、きれい……かこいい顔……」 そんなハッターの横顔を見つめた竜が言葉を漏らす。 今回の目的でもある羽飾りの衣装をハッターに重ねてみた竜だが、インディアンのようにしかならなかった。 そんな6人が集まりああでもないこうでもないと作戦会議が進んでいく。 出発時刻までの時間を使い動きを詰めていくのだった。 ~目には目をヒクイドリにはヒクイドリを~ 「ということで、竜! 囮作戦だ!」 虎部の発案できまった作戦は竜にヒクイドリのコスプレと、ダルマにヒクイドリ型のゴーレムを作ってもらっての囮だ。 「絶対これ、可笑しいでしょっ! なんて格好させんの!」 ボワッと火を吐いて竜が虎部をレアくらいで焼く。 「あついっ、あついっ!」 「とりあえず、人数分あればいいだろぉぅ、囮の竜を除いてだがよ」 1mほどのヒクイドリゴーレム5機、UFOのような円盤型ゴーレムを5機作ったダルマはヒクイドリ型のゴーレムに跨って待ち構えた。 「サンクスサンクス! 乗り心地のためにちょっと練習したいなぁ」 「無茶はゴメンだ。回復魔法だって限りあるんだ」 虎部は火を噴かれて焦げたが、ロディが自分の生命力を分け与えて治す。 「ちょっと、女の子にこれは酷くない? ねぇ、ちょっとー!」 ヒクイドリに5人の男が跨り、竜がぴょんぴょんとリアルなヒクイドリの着ぐるみ(byハッター提供)姿で飛び跳ねているとドドドという足音が響いてきた。 シドは言っていた……このヒクイドリは火を求めて集落に向かっていると……。 そして足音が大きくなってくると共に地平線から赤い首と大きな体が段々と見えてきた。 「来たっ! 本当に来たよ!」 5mという巨体がダチョウのようにバタバタと地面を蹴って迫る姿はさながら猛牛のようである。 「ほぼ恐竜じゃないですかー!?」 段々と大きくなってくる姿に竜があわあわと見上げながら動揺をはじめた。 だが、ここで引くわけには行かない。 おびえる気持ちを抑えて口から竜は口から火を吐いた。 飛び出た火炎はヒクイドリの口に吸い込まれてまったく持って効果がない。 「ぎゃー、効いてないよー! 皆なんとかしてっ!」 「任せろ、こいつを楽しみに待ってる連中がいるし、何とかもって帰りたいからねぇ」 泣きべそをかき出す竜をサポートするようにダルマがUFO型ゴーレムを動かしてヒクイドリを包囲し始めた。 それでも竜を狙って走り出そうとするヒクイドリに向かって虎部がゴーレムもろともタックルを仕掛ける。 「竜は食い物じゃねーっ!」 「さ、捕まってください」 竜を掴んでハッターはヒクイドリ型ゴーレムの後ろに乗せながら荒野を駆けた。 「成るべく、羽は傷付けずにしたい所だが……まあ、出来るだけ手早く倒す事に尽力しよう」 ロディはクルリと腰からオートマッチク型の拳銃型ギア『デスセンテンス』を抜き出すと雷撃の銃弾をヒクイドリに向かって放つ。 雷撃を当てられたヒクイドリは大きな声をあげて体を暴れさせた。 UFO型ゴーレムの下部から紐のようなアームが伸びて足を絡めて転ばさせる。 「よし、捕獲成功か?」 ダルマが動きを止めたヒクイドリの様子を伺いながらアームを足かせのように縛った。 ~逆襲のヒクイドリ~ ヒクイドリがもがき、ゴーレムたちが雁字搦めにしはじめる。 「意外と楽な仕事だったね? 綺麗な羽だなー」 ファーヴニールが近づくと刹那、ヒクイドリが口から炎を吐いて紐のようなアームを焼き払って起き上がった。 全身が赤熱しているのか周囲の空気がぼやけだす。 「うそっ!? ちょっと待って啄まないで追いかけないでうおおおおおおおお!!?」 ヒクイドリゴーレムに乗って近づいていったファーヴニールに向かって立ち上がったヒクイドリが嘴でつっついた。 天然パーマの髪の毛が食われそうになるのを体を動かして避けながら、嘴を避ける。 近づくだけでちりちりと毛が焦げそうなほど熱くなったヒクイドリから全力でファーヴ二ールは逃げながら銃剣型トラベルギアの『エンヴィアイ』から銃弾を放って食い止めようと試みた。 「普通じゃ取り押さえられないか、仕方ない……本気モードでいくぜ」 虎部が片腕をゴ-レムの首に回して自身のバランスを支えると、目を光らせてヒクイドリの目に向けてギアのペン先を向ける。 芯を延ばし親指を添えて狙いを定めた。 上下に自身も揺れ、ファーヴニールを追いかけるヒクイドリも頭を動かしているため狙いが定まらない。 (「こんなとき兄貴ならもっと上手くやれるはずだ……」) 普段なら自己嫌悪に陥る言葉だが、今日このときばかりは自分を奮い立たせる呪文のようになった。 ピキンと折った芯がヒクイドリの目に吸い込まれるように飛んでいき刺さる。 『クケェェァァァァァア!』 鳥の咆哮が荒野に響いた。 「このまま押しきる!」 咆哮に合わせて動きを止めるようロディが加護の力で空を舞い、ヒクイドリの頭上からライトニングコマンドで頭上か雷を降らして檻のように閉じ込める。 口から火炎を吐いて雷の痛みを返そうとヒクイドリは抵抗をしてくる。 竜に向かって飛んできた火弾を虎部がヒクイドリゴーレムを盾にして防ぎ、飛び降りながら肉垂にむかって再びシャープ(芯)ショットをした。 「その肉垂れ貰った! 竜を狙わせやしないぜ」 シュンととんだ芯が肉垂を千切るとヒクイドリがバランスを崩したように千鳥足になる。 「足の先くらいは大丈夫だよなぁ? じゃあ、これで落ち着かせるか」 ダルマがトラベルギアのグローブからカマイタチのような真空波を発生させて千鳥足になったヒクイドリの足を斬り刻んだ。 ~究極の合体攻撃~ 動きの収まったヒクイドリを見た、竜は着ぐるみを脱ぎ捨ててハッターの後ろから飛び降りる。 「ニルさん、この前いっていた合体技試してみましょう」 「了解だよ、こっちに乗って!」 ヒクイドリゴーレムを走らせたファヴ二ールが竜の手を掴んで自分の前に座らせた。 一度ターンをして距離を保ち、一直線にヒクイドリに向かっていく。 ロディの電撃の檻がとれ、ヒクイドリと目が合った。 それでも逃げずに進み、竜が息を吸い込む時間を作る。 火球が幾つもとんでくるが左右に避け、ファーヴ二ールもエンヴィアイを持つ手を竜のものへと工学回路を走らせて変えた。 ヒクイドリの火玉がゴーレムを焼き尽くすも、二人は飛びあがりヒクイドリの多きな頭に狙いを定める。 「高電圧・高温でプラズマアッタァァァァァックッ!」 竜が吸い込んだ息を火炎として吐き出し、炎を纏わせたエンヴィアイの剣に電撃をチャージさせてファーヴ二ールがヒクイドリの首をプラズマとなったソードで斬りおとした。 「決まったね」 首を落とされたヒクイドリの体はフラフラといからだを揺らしたかと思うとドスンという物音と共に体を横たえる。 「ファーヴ二ール様も竜様もお見事です」 「ふひゃぁ……つ、疲れた……あ、あ……あ……ごほっごほっ」 頑張りすぎと息の吐きすぎで酸欠になった竜が喜びの前に咽こみながら地面へとへたり込んだ。 「お疲れ様だ。さて、こいつはどうするんだ?」 「郷に入れば郷に従えといいます……丁度お迎えも着ましたから休憩ついでにご案内されましょう」 ロディが竜の背中を撫でながら倒れたヒクイドリを見ているとハッターは荒野の果てを見ながら帽子の唾を握りながらウィンクをする。 ハッターの視線の先にはインディアンのような姿をした褐色の男たちが立っていた。 ~食事~ 「ではあなたの命を、いただきます!」 両手をあわせてから、ヒクイドリを捌いて作った鶏がらスープを竜は口にする。 ジューシーな肉のうまみにこの地で取れる野菜のしゃきしゃき感など味わいたっぷりの料理だった。 「悪いがこの肉を一部もらえないか? 持ってかえって食べさせたい奴がいるんだ」 牛の皮で出来たようなテントの中、中央にある火を囲うようにして座っていたダルマが料理を振舞ってくれた長老らしき男に尋ねる。 「狩ってくれたもの。報酬一部を渡す、問題ない」 老人が片言で答えるとダルマは一安心して肉の一部を手荷物のカバンに詰め込んだ。 「では私の方はいつものように羽を頂きますね」 「俺も俺も~。ナレッジキューブ減らしてもらって手に入れようと思ったけどラッキー」 スープを味わったハッターが捌いたときにでてきた羽を指差し笑うと長老も頷いて答える。 虎部も便乗し、赤く綺麗な羽を手にとって子供のように喜んだ。 「客人、賑やかになる。楽しい」 騒ぎ立てる一同を見た長老は柔和な笑みを崩さない。 「ハッターさん、これ……ど、どうですか?」 食べ終わった竜が羽を一本頭に挿してハッターに見せた。 この集落の人々のように見えるセンスだが、ハッターは静かに近づくと頭から抜いてポケットからブローチをだすとマフラーをとめるアクセントへと一緒にする。 「こちらの方がお似合いですよ。私からのささやかなサービスです」 食えない笑みと共にハッターは竜に向けてウィンクをするのだった。
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