オープニング

▼導きの書が示すもの『ふたつの御伽噺』
 むかし むかし
 あるところに 愛し合う ふたりの男女が おりました

 女は 大きなお城に住む それは それは 美しい姫君 でした
 男は 背中に 美しい翼を 生やした 旅人でした

 姫の両親は 薄汚い旅人である 男を どうしても 許せません

 男は 姫の両親から 許しを得ようと 努力しました
 しかし 両親の怒りを かってしまい 翼をむざんに もぎ取られ 殺されて しまいます

 それを見てしまった 姫は 男の骸を 抱いたまま 悲しみのあまり 泣き叫びました
 すると 姫の 口と耳と 胸元から 魔法の茨が あふれ出しました
 茨は 姫だけでなく 城に住むすべての者を 飲み込んで 皆を 深い眠りに 包んでいきました

 他の国の騎士達が 姫や住人を助けようと やってきて 茨を切り付け 焼き払おうと しました
 しかし あふれる茨に飲まれて みんな 死んでしまいました

「誰もいない場所へ いきましょう 二人だけの 世界に」

 茨は やがて 姫と男だけを残し 他の住人を 食べてしまいました
 そして 茨の城は 天駆ける船のように 浮かび上がり 天高く 昇っていきます

 姫は この世に溢れる 悲しみと苦しみの すべてを 忘れて
 茨の夢の中で 愛しい旅人と 幸せに 暮らしました
 永遠に……

 †

 むかし むかし
 あるところに 愛し合う ふたりの男女が おりました

 女は 大きなお城に住む それは それは 美しい姫君 でした
 男は 背中に 美しい翼を 生やした 旅人でした

 姫の両親は 薄汚い旅人である 男を どうしても 許せません

 男は 姫の両親から 許しを得ようと 努力しました
 しかし 両親の怒りを かってしまい 翼をむざんに もぎ取られ 崖から 突き落とされて しまいます

 それを見てしまった 姫は 悲しみのあまり 泣き叫びました
 すると 姫の 口と耳と 胸元から 魔法の茨が あふれ出しました
 茨は 姫だけでなく 城に住むすべての者を 飲み込んで 皆を 深い眠りに 包んでいきました

 他の国の騎士達が 姫や住人を助けようと やってきて 茨を切り付け 焼き払おうと しました
 しかし あふれる茨に飲まれて みんな 死んでしまいました

 奇跡的に助かった 旅人の男は 茨の城へと 向かいました
 騎士達のように 武器も鎧もない 男は 茨を壊すことなく 進んでいくしか ありません
 茨の棘が 刺さると 姫の悲しむ声が 聞こえてきました

 男が 炎の言の葉に 目覚めたとき 新たな翼が 姿を現しました
 翼をはためかせ 茨に包まれて眠る姫を 見つけると 男は 燃える炎のような言の葉によって 姫を 眠りから 救い出しました
 男の言の葉は 魔法の茨を すべて焼き尽くし 城に住む者は みんな 目覚めることが できました

 それで 両親に認められた 旅人の男は 姫と結婚し 幸せに 暮らしました


▼導きの書が示すもの『ふたりの心の声』
 セリアンヌ。愛しいおまえ。
 水辺に流れ着いていたおまえを見つけてから、俺の人生は変わったな。ああ、大きく変わった。変わっちまった。
 俺はおまえを愛してる。愛してしまったんだ。

 ……すまない。
 俺がおまえと出会わなければ、
 俺がおまえを助けなければ、
 俺がおまえを好きにならなければ、
 おまえをあんなに苦しめることなんて、なかったはずなのにな。

 すまない、セリアンヌ。
 俺はさすらいの旅人。おまえはお城のお姫様……。住む世界が違い過ぎた。
 貴族のお姫様であるおまえに、俺のようなその日暮らしをさせるわけに、いかないだろう。
 おまえはお姫様なんだ。姫には白馬の王子が必要だ。
 薄汚い俺なんかより、もっと真っ当な……相手がさ。

 ……嘘だ。
 セリアンヌ、おまえに会いたい。
 あぁ、本当はおまえとずっと一緒にいたい。騎士団の連中から慰みに渡された砂金だなんて、俺は欲しくない。
 取り戻したいのは、セリアンヌ。おまえだけだ!

 ああ。いっそおまえを、さらってしまえば良かった。
 騎士団に連れ去られる前に。俺の〝翼〟で、あの青空へと、おまえと共に飛んで行ってしまえば良かった。

 けど、もう全ては遅い。
 俺の〝翼〟は壊されちまった。徹底的に。修理は不可能だ。あの騎士団のくそどもめ。
 
 おまえは、貴族どもがあつらえたあの飛行船に乗って、遠くへ行ってしまう。俺には届かない世界。手を伸ばしても届かない世界。
 俺には、翼しかなかった。その翼をもぎ取られた俺には、もう何もできやしないんだ。

 くそが。
 こんな世界なんて、消えてなくなっちまえ。

 †

 トルイズ。愛しいあなた。
 海難事故で知らない土地に流れ着いて、記憶喪失になっていた私を拾って……面倒を見てくれた、あなた。
 ぶっきらぼうで、粗暴で。けれど恥ずかしがり屋で素直でなくて、優しいあなた。惹かれてしまうのに、そう時間はかからなかった。
 豊かとは言えず、貧しい生活だったけれど。毎日が刺激と喜びと笑いに満ち溢れて……。あなたの〝翼〟にも乗せてくれたね。近くなった青空が素敵だった。
 私は幸せだった。 
 ……両親が私を探し出し、連れ去ってしまうまでは。

 ……どうして?
 どうしてあの時、伸ばした私の手を、つかんでくれなかったの?
 あの日々は偽りだったの、遊びだったの? 私だけが見ていた夢だったの?
 騎士団に連れ去られる私を、あなたは俯いて見送るだけで……。

 記憶が戻った今でも、あなたへの気持ちは変わっていない。

 明日は、飛行船の披露会。そして私の婚姻の発表。
 顔も知らない男の妻になってしまう日。私が認めずとも、世間がそう認めてしまう日。

 悲しいの、寂しい。助けて、トルイズ。
 心に茨が巻きついたように、痛い、痛い、痛い。
 ここには誰もいない。私を見てくれるひとは誰もいない。ここでの私は、旧き貴族の血を受け継いだ政略の道具……。ただのお飾りなの。高価な宝石や洋服と一緒で。私はここにいない。

 ――あぁ。
 目の前に浮かぶ、この綺麗な宝石は、何? まるで、あのひとの、優しくて情熱的な瞳の色と同じ。

 だから私は。
 救いを求めて、その宝石に手を伸ばして――。

 あぁ、トルイズ。
 あなたの声が聞きたいよ。あなたの言葉と想いに触れたいよ。
 他の誰の言葉も、いらない。私には届かない。聞こえない。
 煩わしい雑音のすべては……この茨が、飲み込んでくれるはず。


▼0世界、世界図書館の一室にて
 四人のロストナンバーが、その部屋に呼ばれていた。
 メルヒオール、シュマイト・ハーケズヤ、臼木・桂花(うすぎ・けいか)、緋夏(ひなつ)の四名である。
 一行の前にはツーリストの少女、メルチェット・ナップルシュガーの姿があった。彼女は世界司書ではないが、数多のロストナンバーの活動を支えるべく、自らその補佐役を買って出ているのだ。
 ところでメルチェは、フード付きの白いケープがチャームポイントの少女だったりする。でも今は、そのチャームポイントである衣装を身に着けてはいなかった。緋夏が「ちょーもふもふしてるコレ!」と、はしゃぎながら彼女の猫耳フードを被っているところを見ると、無理やり取られてしまったのかもしれない。
 メルチェは頭や首元に感じる、もの寂しさにそわそわしながら、一行へ依頼についての概要を説明をした。

「――以上が、今回の依頼について事前に提供できる情報です。……メルヒオールさんと緋夏さんは、前回の依頼でうまく断章石を処理できていましたね。今回もその調子で頑張ってきてください」

 資料を手渡しながら、メルチェは二人に微笑みかける。

「まぁ、やれるだけのことはやってみるさ」

 メルヒオールは相変わらずの、ぬぼーっと表情のまま頭をかいて答えた。
 その隣で緋夏は、びしっと弾むように敬礼のまねっこをして。

「任せて、メルちゃん! 名探偵ヒナツが、今回も事件もすぱっと解決してくるぜー。ところでこの猫耳フードちょうだい?」
「だめです」

 きっぱり言われた。

「ミスタ・テスラか……しばらくぶりとなるが、問題はない。誠心誠意、依頼の成功に尽くそう」

 シュマイトはステッキをくるんと回しながら、品のある動作で椅子から立ち上がる。
 メルチェは、フード頂戴とせがんでくる緋夏を無視して、シュマイトへ満足そうにこくこくと頷きながら。

「シュマイトさんは、ミスタ・テスラに似た世界を出身としていますものね。色々と相性は良いはずですし、他の皆さんのフォローをしてあげてくださいね」
「無論、そのつもりだ。任せたまえ」
「やー、期待してるよーシュマイトちゃん!」

 猫耳フードを無断拝借した緋夏が、軽い調子でシュマイトの薄い肩をばんばんと叩く。
 シュマイトは表情を崩さず、呆れたような溜息ひとつしただけで、涼しげな様子でいた。
 その隣で、事務室の調度品を物珍しそうに眺めている桂花へ、メルヒオールが声をかける。

「……あんたは、ロストナンバーになってまだ間もないんだっけな」
「ん、まぁね」

 今回が初の異世界探索のはずだったが、桂花は特に緊張した様子は見せず、普通に返した。

「無理するなよ。壱番世界じゃ〝こういうこと〟は架空のモノでしかないんだろ?」
「まぁ、確かに漫画とか映画みたいな話よね。でもこれが自分の新しい〝仕事〟って言うなら、きちんとこなしてみせるわ。それでこそ優秀なOLってもんだしね」
「おー、なんかかっこいい! 大人の女性って感じ」

 桂花のさっぱりとした物言いに、緋夏は尊敬の眼差しきらきら。
 シュマイトは、興味深く桂花を見つめながら感心する。
 
「……初めての異世界で平気に立ち回れるとしたら、よほどの胆力の持ち主だな。私の友人のメイドといい、ヴォロスのあやつといい、壱番世界の連中は意外とたくましいのかもしれん」

 シュマイトが口元を僅かに緩めた。
 そんなとき、不意に部屋の扉が小さく軋んで、そっと開いた。そこから、まるで凍えるような冷気が吹き込んできたように感じて、皆は思わず身震いをした。
 不気味な風体の人物が部屋に入ってくる。漆黒の長套に身を包み、フードを深く被った怪しい風貌をしていて、男か女かの判断もつかない。
 メルチェを除いた一行は、一瞬だけ警戒してしまう。だが腕に抱える〝導きの書〟を見て、この人物が世界司書であると認識した。
 底の見えない暗さと冷たい空気をまといながらやってきた世界司書は、おもむろに事務机へと腰掛ける。そして依頼についての詳細を、かすれた声で話し始めた。
 それはメルチェの説明とは違い、言葉の端に悪意めいた黒さを漂わせていた。

 ――今回の依頼はミスタ・テスラにて、怪奇現象を引き起こす〝断章石〟と呼ばれるアイテムを回収・もしくは破壊することである。

 メルチェはそこに「その手段には色々と工夫の余地があり、断章石の宿主となった人物も救うことができるかもしれない」と付け加えていたのだけれど。
 この怪しげな世界司書は、感情のない声でこう言ったのだ。

 ――世界を維持するという目的のためならば、手段は問わない。例えそれが殺害であってもだ。
 ――どのような手段を取るかは、君達の自由だ。好きに選ぶが良い。選択する権利は、君達にある。

「殺害は確かに、確実な方法ではあるだろうな。しかし、そのような解決方法を提示して良いのか?」

 シュマイトは淡々とした様子で世界司書に言った。

「貴方は私達を挑発し、殺害以外の手段を取るように仕向けているようにも思える。だが私達が目的のために手段を選ばぬような輩であれば、本当にその解決手段を実行してしまうかもしれないぞ」

 シュマイトは相手の腹のうちを探る目的で、そう問いかける。
 だが世界司書はそれに動じることもなく――それならそれで構わない、選択する自由は君達にある――と、無感情に返すだけだった。

「つまりさ――」

 そこへ、緋夏が言葉を挟んでくる。メルチェの猫耳フードを付けたまま、腕を組んでうーっと唸っていたのだが、吹っ切るように首を左右へぶんぶんと振った。
 そして納得したように大きく頷くと、皆を見回しながら、わくわくするような声音で言う。

「つまり、ハッピーエンドもバッドエンドも、あたし達次第ってことでしょ? だったらやろうよ、あたしはやるよ。ハッピーとバッドのどっちが良いかって、ハッピーのが良いに決まってるしさ!」

 緋夏の言葉を受けた一同は、お互いに顔を見合わせた後、小さく頷き、微笑み合う。
 桂花は腰に手をあて、眼鏡の縁を慣れた手つきで押し上げながら。

「まぁ、そういうことよ世界司書さん。最初から手を抜くつもりで仕事するなんて、プロのすることじゃないもの」

 メルチェも、桂花の横で納得するようにこくこく頷いた。
 そんな時、メルヒオールが億劫そうに手をあげ、ひらひらと振る。

「ひとつ疑問があるんだが、いいか? 司書さんよ」

 フードを目深に被った頭が動いたので、肯定と取った。メルヒオールは頭をわしわしと掻き、言葉を選びながら話し出す。

「んーと……シュマイトが言ったように、あんたの挑発が真実だとしても……正直なところ、そこの真意には興味がないんだ。どんな想いを託されようとも、俺達には俺達にできることをやるだけだからな」
「メル先生、いいこと言った!」
「緋夏、ちょっと黙っててくれ……」

 面倒くさそうにつっこんだ。
 ショックを受けていじける緋夏を差し置いて、メルヒオールは言葉を続ける。

「で、真意はどうでもいいとしてだ。……あんたのする、この挑発に意味はあるのか? 俺達があんたの挑発にのって、殺害以外の困難な解決策を取って……もし失敗でもしたら、目も当てられないだろ」
「リベルっちから叱られそーだね。宿題3倍! とか」
「それは、エミリエに対する仕置きに限定されたものだと思うぞ」

 緋夏が得意げに返す横で、シュマイトがさらりと返す。
 そのようなやり取りに反応することはなく、世界司書はメルヒオールの質問にこう返した。

 ――抑止力によって世界は別のかたちで歪曲し、ひと時の安寧へと向かう。
 ――だがそれは断章の終焉ではなく、世界の新たな危機へと代わるだけに過ぎない。

「……失敗しても平気ってこと?」

 世界司書の意味深で遠まわしな言葉に、一同が首を傾げる中。緋夏がほけっと呟いた。

「あれ、だったらあたし達って別に行かなくても良くない?」
「違うでしょ。失敗したらしたで、表向きは何ともないけれど、私達にとっては面倒ごとが後から増える……そういう意味に聞こえたけど」

 緋夏の能天気な発言に、桂花は怪訝そうに眉根を寄せた。

「すごいね、桂花! いや、桂花姐さん! よくさっきの、恥ずかしい黒歴史ポエムみたいな台詞で言ってること分かったねー」

 緋夏の毒舌発言は、皆が華麗にスルーした。
 メルヒオールは眠たそうな顔で、やれやれとため息をつき。

「失敗したらそれでおしまい、とはいかなくなるってことか……関わったら最後まで面倒みろ、ね。……ともあれ、ミスタ・テスラには色々と縁もあってよく行くし、あそこには〝世話してる生徒〟もいるからな。どっちにしろ、放っておくわけにはいかない」
「あたしも、ミステスにはかーいい娘がいるからねっ」
「私にはまだミスタ・テスラに、メルヒオールや緋夏のようなこだわりはないが……しかし、目の前で起こる悲劇を放置しておく訳にもいかんのでな」
「私には、守るような誰かもいないし、漫画みたいな正義感もないけどさ……。もう元の暮らしには戻れないからね。ロストなんとかになって、やらなくちゃいけないことがあるって言うなら……仕事とあらば、何だってやってみせるわよ」

 四人はそれぞれの決意を口にする。黙って視線を交し合う。
 世界司書が何かを託そうが、挑発しようが、四人でできるだけのことをするのみ――一同は頷き合った。

「そういうことだ、世界司書さん。……とりあえず行ってくるから、まぁ適当に成功でも祈っててくれ」

 そうして四人は事務室を後にしていく。去り際にメルチェが、世界司書に代わってチケットを手渡し、いってらっしゃーいと各々を見送った。

 †

 そしてミスタ・テスラ往きの便に乗った一行だが、車両内で桂花がふと呟く。

「……ねぇ、えっと貴方――緋夏、だっけ」
「なーに桂花姐さん」
「それ、いつまで被ってるの?」
「ん?」

 †

「あー! 私のフード、返してもらってなぁーい!」

 メルチェが、フード付きケープを緋夏に奪われたままと気づいたのは、一行が旅立ってからけっこーな時間が過ぎた後だった。


▼ミスタ・テスラ、とある機関車の専用車両にて
 ミスタ・テスラの豊かな自然の中を突き抜ける、一本のレールがある。
 甲高い蒸気を吹き出しながら走る機関車の中に、一行はいた。ミスタ・テスラの現地協力者として暮らす、元ロストナンバーのクリスティ・ハドソンの立ち回りによって、専用の個室が使用できる特別車両に乗車することができたのだ。
 レール上を駆けることで生じる、一定の振動とリズムに身を揺らしながら、四人は広くて豪華な車両内にて会議を行っている。

「まずは情報の整理が必要だな。メルヒオールに緋夏、頼めるか?」

 シュマイトが促すと、メルヒオールは眠たそうな眼を皆へ向けて。

「……事前に言ったとおり、俺と緋夏は前にこの断章石に関わる依頼をこなしたことがある。まずは手元の資料から、断章石(だんしょうせき)の情報を確認してくれ。一番重要なことだ」

 鞄から資料の束を取り出した。世界司書やハドソンから受け取った情報である。
 その中のとある一枚の篆刻写真(てんこくしゃしん)――壱番世界の言葉で表現するのであれば、時代がかったセピア色の旧い写真といったところ――を、メルヒオールは資料とともに皆の前へと差し出した。

【断章石について】
・事件の原因は、この〝断章石〟という存在である。
・断章石。今回の事件に関わる怪奇現象を引き起こしている物体の名称である。見た目は指先でつまめる程度の、透き通った宝石のような鉱物。ヴォロスにおける竜刻のように膨大なエネルギーを内包しており、放置しておけば世界群に影響を与える危険性を持つ。
・強い想い(主に負の感情)に反応して誰かの身体に寄生し、宿主とする。宿主が抱いている想いを極端に歪めた形で認識し、その欲求を果たすために多様な形態(怪物のような姿が多い)をとる。
・そうして具現化された存在は「怪異」と呼ばれ、宿主の意思とは無関係に様々な凶行へと及ぶ。
・依頼内容は、あくまでこの断章石の回収、あるいは破壊である。
・断章石を回収するにあたって、例えば「犯人である人物を殺害し、断章石を無理やり抜き取る」ことも方法のひとつではあるが、断章石や怪異についての情報を参考にし、別の方法を取ってもよい。
・その他の回収手段としては「怪異を徹底的に撃破する(ただし怪異の力は強大であるため、力任せの撃退はかなりの危険を伴う)」「宿主にアプローチして心の状態を変化させ、断章石が宿主を放棄することを誘発させる」等が挙げられる。
・断章石を回収、あるいは破壊した場合、断章石に関わった現地世界の人物は、それに準じた情報や記憶の一部を失う(あるいは不都合のない程度に記憶を歪ませて認識する)。その際、接触したロストナンバーのことも忘却するケースが多い。

 桂花は気難しい顔で資料に目を通す。ロストナンバーとして仕入れた知識を反芻しながら、確かめるように呟いた。

「断章石は、ようは怪奇現象を引き起こす厄介なアイテム……という認識で良いのかしら?」
「そうだよ、正解!」

 桂花の言葉に、緋夏がぱちんと得意げに指を鳴らす。

「ついでにこの断章石は、あたし達ロストナンバーに備わった〝旅人の外套〟のような効果を持ってて……ようは、関わった人でも事件の後には都合よく忘れてくれたり、都合よく受け止めてくれるーってこと」

 メルヒオールは、緋夏の言葉に感心した様子で頷き。

「……ま、緋夏にしちゃ上出来だな。次は、この断章石が選んだ宿主……犯人とも言えるが被害者とも言える、事件の重要人物についてだ」

【重要人物の情報】
・ひとりはセリアンヌ。とある旧家の血を受け継ぐ、貴族の娘。昔から続く伝統的貴族社会の中で、抑圧されて育ってきた。
・口数は少なく、従順で反抗的態度は見せない、おとなしい性格。何事にも反応が薄く、淡白。ただし、これは生活環境で生き抜くために作り上げた表層人格であり、普段は本質の性格を封じ込めている。
・両親は厳しく、セリアンヌの意見は聞こうともせず跳ね除ける。
・数年前、海難事故にあって行方不明となっていた。流れ着いたところをトルイズ(後述参照)に看病され、しばらく共同生活をしていた。その間は、事故のショックで記憶を失っていた状態。
・両親に連れ戻される際、記憶は戻った(現在は、以前の記憶とトルイズと過ごした記憶、両方を持っている状態)。
・顔も知らない相手との婚姻が決まったこと、恋人と強制的に引き裂かれた出来事などが重なり、断章石を宿してしまうことになったと推測される。

・もうひとりはトルイズ。はるか遠方の地方からやってきたとされる男性。機関技術を応用して製造された、自作の小型飛行船を使って旅をしていた。セリアンヌより少し年上。
・態度や言動に粗暴さが目立つ。根は人情に溢れていて、困った人間を放っておけない。感情の動きが、行動に直接結びつく。
・熱しにくく冷めにくい性分であるため、良くも悪くもそのまま突っ走ってしまう。きっかけが無ければ気持ちは熱いままであるし、逆に沈んだままでもある。

 緋夏はふたつの資料を、きょとんと見下ろして。

「……あれ、今回って二人いるんだねー」
「前回は違ったのか?」

 シュマイトの問いかけに、メルヒオールが答える。

「あぁ、前回はちょっと家庭事情に難ありの少女ひとりが、重要人物だった。で、今回は二人みたいだな……」
「しかも恋愛関係のもつれが原因的な? もつれってゆーか、引き裂かれちゃった感じ? まぁ両親のせいみたいだけどさー」

 緋夏があっけらかんとした様子で言葉をつなげる。
 その横で、恋愛という言葉を聞いたシュマイトが、僅かに眉をひそめたことには誰も気づかなかった。
 桂花は、ふむふむと重要人物二人の情報を確認して。

「この二人を説得すればいいのね? 交渉だったら、ビジネスから個人間の揉め事まで任せて頂戴。仕事で鍛えてるから」
「気持ちはありがたいが……そう簡単にもいかないのが、この事件の面倒なところなんだよ」

 メルヒオールは、はぁ――と疲れたような溜息をひとつ。
 その様子に、桂花はいぶかしげに首を傾げた。

「……そうなの? だって、誰が断章石を宿しているか分かっているなら、直接にその人物のところに行って、説得すればいいんじゃないの? あなたには断章石が埋め込まれてます、それが怪異を生み出してます、何とかそれから離れてください……で、あとは怪異っていう怪物を私達がぶっ倒してしまえば、それで解決でしょう?」

 桂花は素直な疑問を口にした。
 断章石、怪異、宿主となる人物……これらが判明しているのであれば、事件の解決は容易ではないかと思ったのだ。
 けれどシュマイトが、彼女に別の資料を差し出してくる。

「いや。それは、この怪異の性質から考えると不可能なのだろうな」

【怪異の情報】
・断章石の宿主によって、無意識に生み出された存在。
・言葉を操り、思考をする知能もある。だがその言動は狂気的。
・宿主の感情や生命力をエネルギーに活動している。宿主の想いや心情に変化がない限り、怪異は何度でも復活する。ただし宿主の生命力が枯渇した場合、断章石は宿主を放棄して、行方をくらませることがある(これは「一時的に断章石の活動を抑制させた」として、依頼終了の条件には含まれている)
・宿主の願いに応じた一定のルールに基づいて、誰かを襲うなど様々な凶行に及ぶ。
・怪異はいくつかの共通法則を有する。

・1:不可視である
 怪異は、大衆の前には決して姿を見せず、居たとしても大衆の目に移ることはない。ミスタ・テスラ特有の時代背景により、大衆が「怪異といった御伽噺のような存在など、今の時代には在りえない」と信じてしまっているためである。なので一般人に「怪異といった怪物がいる」と主張しても、それを聞いた者が怪異の存在を信じることはほとんどない。
 それは断章石の宿主となる人物にいたっても同じで、宿主は自分が怪異を出現させていることは知らないし、それを自ら認めることも基本的にない。よって「あなたが怪異を発生させるから○○をやめて」と真正面から説得しても、怪異という異質な存在を受け入れてはくれない(ロストナンバーの覚醒条件における「世界の真理」が、知識だけでは受け入れられないことと似ている)。

・2:神出鬼没である
 怪異は、ひとの想念から溢れ出る存在である。感情を「空気中に拡散して漂う霧のようなもの」と仮定すれば、感情はどこにでも存在するし、どこにも存在しないとも言える。よって、怪異は急に現われたり消えたりするため、捕縛して隔離すること等はできない。

・3:物理法則を無視する
「1」と「2」の法則より、怪異は霧のように希薄で不確定な存在と言える。科学的に存在すると証明できない彼らは、故に科学的な法則に縛られず、それを無視したような逸脱した特性や能力を持つ。まるで御伽噺の竜や悪の魔法使い、怪談の中の異形たちのように。
 なお、怪異は標的が独りになった時を見計らって広い迷路のような幻想空間に閉じ込め、そこで凶行に及ぶことが多い。

・4:迷信の制約を受ける
 物理法則に縛られないという点は前述のような長所となる一方、怪異にとっては致命的な弱点ともなり得る。それは「迷信で信じられている制約を受ける」というものである。
 迷信とは、言い換えれば「人に信じられていながらも、合理的な根拠を欠いたもの」であり、それは「非常識の中の常識」とも言いかえることができる。
 例を挙げるのであれば「幽霊は昼間から姿を現さない」「悪魔は残酷で恐ろしいが交わした約束を破れない」「狼男は銀の武器に弱い」「吸血鬼は十字架や太陽の光に弱い」「ゴーレムを壊すには額の文字のeを削る」などが挙げられるだろう。
 物理法則を無視し脅威の力を誇る怪異でも、古来から信じられている伝承や広まっている迷信には逆らえない。怪物が怪物であるための強さだけでなく、その制約をも付随させた上で、宿主の想念は怪異を生み出しているのだ。
 よって怪異が引き起こす凶行は、童話や寓話、御伽噺、伝承などの一部を模していることがあり、そこから制約や弱点、事件の解決方法を推測することができる(例外もあり、必ず役立つとは限らない)。

「……」
「ま、そういうことだ」

 資料を睨みつける桂花を横目に、メルヒオールはぼりぼりと頭を掻く。

「最悪の場合は、あの世界司書が言ってたとおりにするしかないだろうが……試行錯誤もせずに、そうしちまうのは反対しておくよ。で、そうならないために必要なのが、まぁ推理とか思考とか、そういったこと……というわけだ」
「ところで、今回の怪異って何したのかな? 前回はオートマタの連続誘拐をしてたでしょ? でっかい鋏持った、骸骨みたいなヤツ」

 緋夏は、ペンを鼻の下に挟んで、唇をとがらせながら言った。シュマイトが指で挟んだ篆刻写真の一枚を、ぴ、と軽やかに渡してくる。

「ハドソンが撮ってきた篆刻写真を見るとよい。一目瞭然だ」

 緋夏が手元に寄せたセピア調の篆刻写真を、桂花とメルヒオールが横から覗き見る。
 メルヒオールは口元を歪め、面倒くさそうに表情をげんなりさせた。
 桂花は開いた口に軽く手を添えながら、目を窺った。
 二人が驚く中、緋夏だけは愉しそうに目をきらきらさせた。

「すげー、何これ! かっこいい!」
「街ひとつ……蔦みたいなのに覆われて……?」
「……まるで茨の園だな」

 三人が思い思いの感想を口にする。そこへ、シュマイトは読み終えた資料をぱさりと置いて。

「前回の報告書によれば、以前は数で攻めてきた強力な怪異だったそうだな。しかし、今回はまたクセのある相手のようだ」


【今回の怪異について】
・茨を模した植物型の怪異。大きさは細いものから、巨人の腕のように太いものまで様々。鋭い棘が無数に生えている。街ひとつを覆い尽くすように繁茂してしまっている。
・一定の条件を満たすことで侵入を察知し、茨を鞭や触手のようにしならせて襲い掛かってくる。その際、茨が何かを模して集結や合体をしたケースも報告されている(例:巨人、獣など)。
・茨に拘束されると、深い眠りに落ちてしまう。夢の中では、精神攻撃の類を仕掛けてくる。

【その他の情報】
・とある街にて、飛行船の博覧会が催されている。セリアンヌの婚姻発表も兼ねていたようだ。
・現在は顕現した怪異によって、街全体が茨に飲み込まれている。街の住人は茨の効果で眠っており、目覚めさせることは基本的にできない。
・街の奥、博覧会会場の広場には、茨で構成された巨大な城のようなものがそびえている(本来、この場所は拓けた空き地であり、城などはなかった)。セリアンヌは、この茨の城で眠っている。
・トルイズは、この現場から離れた別の街にいる。場所は特定済みで、自宅にこもっている様子。


「クリスティ・ハドソンの事前調査によれば、街ひとつが怪異の能力によって、不思議な空間に閉じ込められてしまってるらしい。一般人は近づくことはできても、入ることはできなくなっているそうだ」
「気がついたら街の反対側へ出てた……って証言もあるようね。他にも、機関技術による連絡手段も通じないって」

 シュマイトの言葉に続けて、桂花が資料を難しそうに睨みながら付け加える。

「本当だったら、街ひとつになぜか入れなくなった――ってだけでも、大騒ぎなんだろうけど……」
「誰も違和感を抱かないのは、断章石の力か。混乱が起きないぶん、こっちには都合はいいが……しかし、こいつはまた面倒そうだな」

 メルヒオールは、ひときわ疲れた声音でため息をつく。よく考えればまた、同行者は女性ばっかりだし。
 ハドソンが現地で写したとされる現場の篆刻写真。遠巻きに撮影したと思われるそれは、いたって普通の街の遠景だった。しかし特別な機関道具で撮影された別の篆刻写真には、街の真の姿が映し出されている。
 すなわち、怪異の力によって異質な空間と化した街並み。濃い霧に包まれ、怪しげに佇む建物の影は、大きな墓石が並んでいるようにも見えて。それは写真越しに見るだけで、不気味な沈黙と重圧を感じさせた。

「茨の城の眠り姫、か」

 シュマイトは感慨もなさげに、片手のステッキを掌にぽむぽむと当てて。

「姫が眠るのは、茨に守られた城……まさに御伽噺の再現だな」
「あ、そういえばさー」

 緋夏がひょいっと手を上げた。

「もし断章石がうまく回収できなかった場合、街の皆ってどうなるのかな?」
「こう言いたくはないけど……やはり、死んでしまうんじゃないの……?」

 桂花が戸惑いがちに視線を泳がせる。
 そこにメルヒオールが、あくびをかみ殺しながら眠たそうに言葉を挟んだ。

「そこにも、怪異の性質が働くんだろうさ。一見、街は被害なし。けれど人だけがいなくなってるとかで、謎の神隠しとか大量失踪事件とかで、歴史の影に埋もれていくんじゃないか」
「世界を破壊しようとするファージとは異なって、あくまで世界は維持される……ということか」

 シュマイトが興味深そうに頷いた。その視線がふと窓の景色に向くと、懐から自前の懐中時計を取り出して時刻を確認し。

「次の乗り換えでは、二手に分かれることになっていたな……さ、そろそろ方向性をまとめておくべきだろう。重要人物の二人……セリアンヌとトルイズのどちらに、誰が誰と、向かうのか」

 一同は気難しい顔を向け合い、視線を交わした。そして机に広がった資料や篆刻写真を見下ろす。
 二人の重要人物が写った写真。断章石と怪異の情報。御伽噺の詩篇。薄暗い空をバックにして妖しくそびえる、茨の園。
 多くの要素が絡み合い、この世に顕現した御伽噺。
 一体、何が待ち受けるのだろう……と、一行の間に重い沈黙がよどむ。

 ――ふと、皆の視界の隅に。
 軟体動物の触手のようにうごめく、歪んで曲がりくねった、緑色の細い何かが、ちらついて。
 霧のように停滞していたその場の空気が、針のように鋭く尖る。皆の手元が一斉に、閃くように素早く動いた。手にそれぞれの得物、トラベルギアを顕現させて構える。怪異の出現に警戒する。
 けれど、無数の緑の触手――牙のように凶悪な棘を生やした茨の蔦は、面々を挑発するかのように堂々と姿を見せたあと、すぐさま端々の影に吸い込まれて、消え失せて。

「……さっきの、何」

 警戒の姿勢を解かぬまま、固い表情で桂花は問いかけた。いきなりなんて聞いていない、という言葉は飲み込んだ。
 覇気の無かったメルヒオールの顔は、今は苦そうに歪んでいる。返答はなかった。
 相談のときまでお茶目にしていた緋夏も、今の目つきは険しくなっていた。眼だけをぎょろぎょろと左右違う方向に動かして、怪異の動きを見張っている。返答はなかった。
 そんな中でシュマイトだけは、優雅な仕草で懐中時計を懐に仕舞い込んで。

「――相手にとって不足は無い」

 挑戦的に、微笑んだ。

 闇色の御伽噺が、幕を開ける。



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!注意!
企画シナリオは、便宜上、参加枠数が「999」になっていますが、実際には特定の参加予定者のために運営されています。

この企画シナリオは下記のキャラクターが参加予定です。他の方のご参加はご遠慮下さい。万一、参加予定でない方のご参加があった場合は、参加がキャンセル(チケットは返却されます)になる場合があります。

<参加予定者>
メルヒオール(cadf8794)
シュマイト・ハーケズヤ(cute5512)
臼木 桂花(catn1774)
緋夏(curd9943)

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※このシナリオは、ナラゴニア襲来以前の出来事として扱います。

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品目企画シナリオ 管理番号2246
クリエイター夢望ここる(wuhs1584)
クリエイターコメント【シナリオ傾向タグ】
シリアス、ちょっとした推理、バトル、ホラー、ミステリー、オカルト


【補足】
 今回のシナリオにおけるキャラクターの活躍シーンは、以下のような「フェイズ」によるシーン構成を想定しております。
 各フェイズは基本的に1回のみですが、状況によっては何度か繰り返されることもあります。

◆防衛フェイズ
 防衛フェイズに参加するキャラクターは(時に、怪異に追われている被害者を守りながら)怪異と対峙することになります。
 この時点で怪異はとてつもない脅威であり、倒すことはできず、基本的には防戦一方の展開となります。しかしここで怪異を抑えることは、これ以上の事件の犠牲者を増やさないことにもつながりますし、事件の犯人にアプローチするメンバーが、怪異によって妨害されることを防ぐ効果も持ちます。イメージキーワードは護衛、かばう、逃走、負け戦、囮(おとり)、陽動など。

◆行動フェイズ
 行動フェイズに参加するキャラクターは、怪異の発生原因となっている犯人に、様々なアプローチをしていきます。事件を違った結末に導くための、重要なフェイズとなるでしょう。イメージキーワードは説得、変化、導きなど。

◆戦闘フェイズ
 戦闘フェイズでは、行動フェイズでのアプローチによってもたされることとなった、約束された結末(ハッピーエンド)を否定すべく、怪異がさらなる猛攻を仕掛けてきます。いわば、わるあがきです。宿主の精神がアプローチにより変化してしまったことは、断章石が活力を失うことであり、怪異にとってそれは自らの消滅と同じであるからです。消滅を回避するため、襲い掛かってきます。
 このフェイズに参加するキャラクターは、防衛フェイズで苦しんでいた味方を助けるため、颯爽と駆けつけるようなシーンを得ます。イメージキーワードは巻き返し、リベンジ、底力、決戦、味方の増援など。
 なお、前述の行動フェイズにおいて宿主に適切な変化を与えられた場合、戦闘フェイズにおいて怪異を撃退しても、宿主に悪影響はありません。


【大まかなプレイング方針】
・主にどのフェイズで活躍したい? 3つ全部を広く浅くでもいいし、1つか2つに絞ってもいいみたい。
・怪異の発生を止めるために、あなたはどうする? 怪異とひたすら戦う? あるいは事件の重要人物と接触して変化を促す?
・事件に関わる重要人物の心情を変化させるため、あなたはどうアプローチをしていく?
・強大な力を有する怪異に、あなたはどうやって立ち向かう?
・いざというとき、あなたには犯人を殺害する覚悟がある?


【追記1】
 依頼の目的は「断章石の回収」ですが「怪異の発生を食い止めて、これ以上事件を発生させないようにする」とも言い換えることができます。
 怪異が事件を起こすこととなる背景は決まっており、怪異の発生源となる犯人や、それに関わる重要人物も特定されています(今回はトルイズという男性と、セリアンヌという女性です)。
 端的な解決方法は示されていますが、違ったかたち(いわばハッピーエンド)の結末を迎えるためには、「重要人物の心情を変化させ、怪異の発生源ともなる負の感情を絶つためには、どんなアプローチをすれば良いか?」を考える必要があります。
 OP時点でキャラクターに与えられている手がかりを参考に、あなた達のキャラクターが取りそうな行動を考えてみてください。どういったアプローチを取っていくかで、当シナリオが辿る結末は変化することでしょう。大体の正解は用意してありますが、その解釈や利用については、プレイングに委ねられます。
 また、怪異の撃退方法や制約についてを推理することで、怪異の行く末も変化します。力任せの撃退は一時的撤退に過ぎないため、いつしかまた事件を起こす要因となるかもしれません。しかし怪異の性質について予測が立てられていれば、うまく撃退することができ、怪異は消滅するはずです。


【追記2】
・セリアンヌやトルイズの捜索そのものについては、必要ありません。「セリアンヌ(トルイズ)を見つけて○○する」といった旨がプレイングに明記されていれば、自動的に発見することができます(重要なのは、どう探すかより、探して見つけたあとどうするか、なので)
・場所が離れているため、二人に対して同時に行動フェイズを起こすことはできないと思われます(各種状況、プレイングにより変わることもありましょうが)。しかし、書いたプレイングが無駄になってしまうとは限りませんので、どちらか一方のみに対するプレイングでなければダメ、ということはございません。二人に対するプレイングが思いついたのならば是非、双方とも記してみてくださいね。


【挨拶】
 この度はオファー、ありがとうございます。夢望ここるです。ぺこり。

 今回はミスタ・テスラ(勝手な略称:ミステス)を舞台に、奇怪な事件に挑むシナリオです。ヴォロス世界における「暴走する竜刻を回収せよ」というシナリオをモチーフとした、「ミステス版・竜刻回収シナリオ」といった感じになっております。+αで、ちょっとした推理要素も加えていますけれども。

 以前にもリリースしております、この闇色断章のシナリオ。OPは相変わらずのボリューム(※13000文字以上)でお送りしております。追記情報という部分が多くを占めてはおりますが。
 今回も前回と同じく、様々な箇所にヒントやミスリードを散りばめてあります。重要人物が一名から二名になったなどの変化もございますので、色々と堪能していただければと存じます。
 
 ともあれ、ホラーとミステリーな風味を含むミスタ・テスラでの、素敵な冒険をご提供できればと思う次第です。

 それではチケットを片手に、幻想旅行へと参りましょう。行き先は夢想機構ミスタ・テスラ!

参加者
シュマイト・ハーケズヤ(cute5512)ツーリスト 女 19歳 発明家
臼木 桂花(catn1774)コンダクター 女 29歳 元OL
緋夏(curd9943)ツーリスト 女 19歳 捕食者
メルヒオール(cadf8794)ツーリスト 男 27歳 元・呪われ先生

ノベル

▼トルイズの自宅にて
 窓を固く閉ざし、機関灯の明かりもつけずにいる薄暗い部屋の中。トルイズは独り、自宅に篭っていた。今日もリビングのソファーに力なく寄りかかり、ただひたすらに後悔と失意の中に浸りながら、どこともない場所を呆けたように見上げていた。
 けれど。
 扉を蹴破る騒音と一緒になって、場違いに明るい声音がけたたましく響く。

「ちわーっす! 誰が呼んだかどんな事件もサクっと解決、お呼びとあらば即参上お呼びでなくても勝手に参上。いつもニコニコ
名探偵ヒナツと、その愉快な仲間達でーすッ」
「ちょっと、勝手にオトモみたいな扱いにしないでよ」

 桂花が抗議するのもスルーして、緋夏はドタドタとトルイズの自宅へ遠慮なく上がり込む。二人の後からシュマイトが姿を見せたが、彼女はまだ何も言わずにいて。
 ともあれ緋夏は、リビングのソファーで腐っていた彼を見つけるとシャツの胸元を引っ掴み、自慢の怪力で強引に立たせた。
 御伽噺で示された、姫と旅人。緋夏はその人物にセリアンヌとトルイズを結びつけた。ハッピーエンドである2つめの話をなぞらせるためにはまずトルイズを説得し、セリアンヌの元に行かせることが必要だと考えたのだ。
 一方トルイズは、見知らぬ無遠慮な客人を非難することもなく、ただ眩しそうに目を細めていて。

「……何だ、おまえらは」
「げ、何その覇気のない声っ」

 最初は呆れる緋夏だったが、ぐいと鼻先が触れ合う程に顔を近づけると、真剣な面持ちで言い放つ。

「こんなことしてる場合じゃないでしょ。お姫様、助けに行くよ!」

 姫、という言葉にトルイズの眉がぴくりと動いた。けれど彼は、疲れ切った様子で溜息をつくだけで。

「だーもう! このままじゃアンタの愛しい彼女が死んじゃうんだってば。これ見てよこれ!」

 遠慮なく盛大な溜息をつきながら、緋夏はトルイズの体をソファーに放り投げる。その顔面に、一枚の篆刻写真を叩きつけた。

「今、セリアンヌはここでアンタを待ってるんだよ? こんな気色の悪い植物園みたいな場所で待たせておく気?」
「植物園……? 何言ってるんだおまえは」

 トルイズは面倒くさそうに写真を見やると、怪訝そうな表情をして緋夏に突き返す。
 緋夏はきょとんと目を瞬かせた後、返された写真をまじまじと見つめる。クリスティ・ハドソンが特殊な機関装置で撮影されたとされる白黒の写真には、奇妙な茨に覆われたほの暗い街並みがしっかりと映し出されている。

「え、ちょっと待ってトルイズ。アンタ、これが普通の写真に見えるの? 茨みたいなの見えない?」
「……見ぇねえよ」

 トルイズは、緋夏に掴まれて歪んだ襟元を直そうともせず、傍にあったグラスの残り酒を煽りながら、ぶっきらぼうに返す。

「えーなんで、もう! つーかアンタときたら全然やる気なくてさあ……ケツに火ィつけんぞ」

 虚脱したトルイズの態度に腹を立てる緋夏。ぎりぎりと食いしばって剥き出しにした歯の隙間から、風に揺れるリボンみたいに小さな炎が閃く。
 そうして憤る緋夏の横を桂花が通り過ぎ、つかつかと靴音を鳴らしながら早足に近づいた。トルイズが持っていたグラスをひったくり、底をぶつけるようにテーブルへ置く。

「トルイズ、聞いて。時間がないの。このままだとセリアンヌは、婚約披露の場で大量殺人を起こしかねないわ。……彼女の説得に同行して。彼女には、貴方の言葉しか届かないみたいなの」

 緋夏よりもさらに直接的に、桂花はセリアンヌの危険を包み隠さず真っ直ぐに伝えた。
 桂花の冷ややかな声音がトルイズに向けられる。でも少しの沈黙の後、トルイズはやつれた苦笑を浮かべて。

「ハッ、なんだよそりゃ……新手の詐欺か何かか? セリアンヌが大量殺人なんて、そんな事するわけないだろう。セリアンヌのことは、俺が一番良く知ってるんだ……」

 思うように言葉を受け止めてくれない。だらりと脱力したまま、彼はこちらを嘲笑うかのような態度をして。桂花は苛立ちを露に眉をひそめる。

「いい加減にしなさい。あんた、このままでいいの?」
「俺だって! こんな結末が良いとは思っちゃいねえよ!」

 トルイズが弾けるようにソファーから立ち上がる。グラスを掴むと、力任せに壁へ叩きつけた。そしてよろめきながら歩き出し、力なく呟く。

「でも……あいつは違う世界に生きるべき人間なんだ。相応しい場所がもう用意されてるんだよ。……これ以上、俺に何ができる?」

 トルイズの目は細められ、ここではないどこか遠くを眺めているようだった。自らを掻きむしるほどに羨望しながらも、決して手の届かない何かを求めて、足掻くのに疲れてしまった男の表情をしていた。

「……なら、仕方がないわ」

 桂花は大きな溜息をついた。よろよろと翻ったトルイズの背中へ、呆れ交じりにぴしゃりと言い放つ。

「貴方が彼女を要らないと言うなら……大量殺人を見逃せない以上、彼女を殺すしかないわね」

 物騒な発言に、緋夏はぎょっとして桂花の方を振り向いた。桂花の表情は刃物のように剣呑で戸惑いがなく、冗談を言っているようなそぶりも全くなかった。
 けれどトルイズは一行を振り返りもせず、棚に放置されていた酒瓶のひとつを無造作に手に取ると。

「……俺とセリアンヌのことを知ってるなら、行きつけの酒場の連中か誰かなんだろうが……くだらない冗談で、俺を貶めにきたのか? 普段の俺だったら女・子どもといえど一発は殴ってるぜ……さっさと消えな」

 暗い怒りをはらんだ呟きを残すと、トルイズは力の無い足取りで階段を下り、暗い地下へと去ってしまった。

 †

「なんだよアイツ。この根性なしっ。ムキーッ」

 緋夏は、借りてきたメルチェの猫耳フードを悔しそうにガジガジと噛みながら憤慨する。
 と、ここまでの流れを黙って見守ってきたシュマイトが、納得したようにひとり頷いて。

「もしやとは思っていたが、やはり予想通りか」
「どういうこと?」

 桂花が問うた。
 シュマイトはゆったりとした足取りで床を踏みしめながら、ステッキを優雅に弄ぶ。

「怪異が持つ法則〝一般人では怪異を認識できず、真正面から説得しても存在を受け入れてはくれない〟――それはつまり、怪異が原因で死んでしまうという理由で協力を願い出ても、効果は示さないということだ」
「えー。じゃあ怪異じゃなくて、病気とか事故だって言えば……」

 緋夏の言葉に対し、シュマイトは涼しげに首を横に振って。

「急に見知らぬ誰かから〝あなたの大切な人が病気です事故です、助けるのに協力してください〟では、胡散臭いにも程がある。我々はロストナンバーであるが故、ある程度の言葉であっても不自然さは誤魔化せるだろうが……」

 ともかく、とシュマイトは言葉を切る。

「怪異がもたらすとされる事件や現象が、そもそも彼らにとっては荒唐無稽なものなのだろう。故にそれらを元に説得を行ったとしても、効果は薄くなる……だから二人の言葉は思うようにトルイズを刺激できなかったわけだ」

 講義を聴かせる教授のような口ぶりで、シュマイトは淡々と考えを述べる。二人は難しい顔をして、それを受け止めるだけだ。

「トルイズを再びセリアンヌの元へ向かわせる動機づくりが、我々の仕事だろう。そして彼が怪異を認識できない以上、怪異がもたらす影響以外の内容で、彼をセリアンヌの所へ向かわせねばならない」
「ならどうすりゃいいのさー? 気絶させてでも無理やり連れてくの?」

 唇を尖らせ、機嫌が悪いのも隠さずにぶーぶーと言う緋夏。

「私は、セリアンヌの殺害も辞さないわ」

 桂花は戦士のように険しい顔つきでそう言うが、緋夏は不満そうに視線を泳がせて。

「えー。でもそれしちゃったらあたし達、なんか負けた感じしなーい?」
「でも綺麗に成功し続けるだけが、真実に到達する道だとは思わない。私は殺人が禁忌じゃない……必要とあらば、なんだってするわ」
「すまないが桂花――」

 冷徹に言い放つ桂花の言葉を遮るかのように、シュマイトはステッキで床をこつんと叩いた。

「わたしには、誰かを殺す覚悟は無い」
「その点なら気にしないで。汚れ役なら私が買って出る」
「いや、だめだ。確かに、あの世界司書が言っていたとおり……場合によっては我々は、セリアンヌの殺害も覚悟せねばならないだろう。しかし……わたしは、誰かの死による御伽噺の終焉など認めたくないのだ」

 表情こそ、いつものすました調子でいるシュマイト。しかし言葉の端々ににじむ感情には、鋼のような決意を漂わせていて。

「綺麗事とは理解している……しばし、時間をくれ」

 シュマイトは翻り、トルイズの向かった地下室へ足を運ぼうとする。
 その背中を緋夏はしょんぼりと見つめ、桂花は呆れ気味の眼差しで見送って。

「そうは言っても、一体どうすんのさー」
「恋のカウンセリングでもするの?」
「恋愛の方面から助言することはできんよ。わたしも得意ではないのでね。しかし――」

 そうしてシュマイトの姿は、薄暗い地下室の影へと沈んでいった。

 †

 機関灯の弱々しい明かりを頼りに、シュマイトは螺旋状に続く階段を降りていく。かなり深くまで潜った先で、狭いテラスのような場所に行き着いた。暗くてよく分からないが、手すりの向こうの暗がりには広大な空間が広がっているようだった。
 テラスの手すりに寄りかかりながら、トルイズはうなだれるように煙草をふかしていて。

「先ほどは連れが無礼を。すまなかった」

 シュマイトが声を掛けるが、トルイズは視線も向ける余裕もないようで。

「いや、こっちこそ気が立ってたな。せっかくの客人だ、本当だったら歓迎してやりたいところだが……」

 その苦笑いも疲れきっていた。シュマイトはそれを改めて確認すると、あくまで自然体を装いながら話を続ける。

「申し遅れた。わたしの名はシュマイト・ハーケズヤ。旅の発明家で、世界各地を回っている」
「へぇ……見た目は子どもだが」
「言うな、これでも少しは気にしてるんだ……ともあれ最近は特に〝飛行船〟なるものに興味があってね」
「……」
「飛行船の博覧会もあるそうじゃないか。興味はないのかね? 貴方もかつては飛行船に乗っていたと聞くが」
「まぁ、無いわけじゃない……俺もな、こことは違う地方から来たんだよ。〝翼〟に乗って、各地を転々としてきた」

 シュマイトに続けて、トルイズがぽつぽつと言葉を挟むようになる。

「ここらで流行してる、デカくて鈍間な飛行船とは違う。もっと洗練されて、踊るように空を舞えるような……そんな〝翼〟さ」
「ほぅ、興味深いな」
「……母船ごと壊されちまったけどな」
「ふむ。修復はしないのか?」

 煙草をくゆらせ、紫煙でけぶって見えない彼の横顔を、シュマイトはじっと見据えて。

「遠くからここまで旅を共にしてきた相棒だろう。大切なものに未練はないのか?」

 大切なもの。未練。
 その言葉で、彼が脳裏にセリアンヌをイメージしてくれると信じて、シュマイトはあえてそう言った。

「貴方はかつて自分の手で、大切なものを得たのだろう。再び得られないなど、どうして言える? 不信は貴方自身だけでなく、大切なもの全てへの侮辱につながるぞ」

 耐え忍ぶように険しくなるトルイズの横顔を、シュマイトは眼光鋭く見据えて。

「友人や発明品……大切な存在との離別は、わたしも味わったことがある。だが、満たされない現状に滞留するのではなく、自らの手で解を導いてこそが〝発明〟だ」

 シュマイトは懐から博覧会のカタログを出すと、トルイズへ見せ付けた。

「貴方の発明である〝翼〟は、その情熱は――これに劣るものか?」

 張り詰めた固さをはらむ声が、地下室にこだまする。
 やがて。
 長い沈黙を経て、トルイズはくつくつと愉快そうに肩を震わせて。

「……全く。面白い奴だな、おまえは。そうだな……腐るのは後からでもできる」

 トルイズの表情に、もう迷いはなかった。そんな彼の様子を見て、シュマイトは小さく安堵の溜息をつく。

(〝炎の言の葉〟は、情熱ある言葉という意味だろう。それに結びつかせるように、彼の心を焚き付けることはできたはずだ。だがしかし、問題は〝新しい翼〟だ……会場の飛行船か、あるいはもっと違うものか?)

 シュマイトが思考する横で、トルイズはテラスの隅にあった操作盤をいじりながら言った。

「発明家さんよ、口ぶりからすると俺の事情は知ってるんだろう。だったらこいつを直す手伝いを、頼まれてはくれないか?」

 ひときわ大きなレバーを彼が捻ると、暗い地下空間を照らすための大型機関灯が次々と灯っていく。すると、奥行きが数百mもあろう巨大な地下工房がその全貌を現した。
 作りかけ、あるいは修復途中なのだろう。未完成のパズルのように端々が欠けて中身がむき出しになっている、数十m級の船体が放置されていた。

「途中までは修理していたんだが……まぁご覧の有様さ。だがああまで言われちゃ、ここでうずくまってるわけにはいかないからな。俺自身も、この〝翼〟も」
「新たな翼が姿を現す……なるほど、これが解か。素晴らしい」

 その言葉を聞いて不思議そうにするトルイズだが、彼女はもう目の前にある大型の発明品に興奮していて、そんなことなど気にも留めていなかった。表向きはいつも通りのすました顔をしているが、ステッキを持つ指先がそわそわと落ち着かない。

「修復作業の見積もりはどれ程か?」
「少なくとも1日じゃ終わらないな……」

 トルイズは苦そうに船を見下ろしながら言った。

「なるほど。では数時間で全てを終わらせよう」

 その言葉の意味が分からず、トルイズは思わず横に佇む小さな発明家に顔を向けた。
 シュマイトが、ステッキを指揮棒のように扱っていた。

 ……それだけだ。
 それだけなのに、地下工房にある全ての機関装置が、まるで意志を持ったかのように動き出した。大地を揺るがすような震動と、けたたましい稼動音をまき散らしながら。
 ステッキで床を叩けば、機関装置がひとりでに始動する。左右に振れば、部品を運ぶ大小あらゆるサイズのクレーンやアームが、ステッキの軌跡をなぞるように弾んで動く。蒸気が吹き出す、鎖が巻き上がる、コックが捻られる、部品が装置で加工されて火花が散る。未完だった船体の修理が凄まじい速度で進んでいく。

「お、おい、ちょっと待て」

 トルイズは驚愕に目を剥いた。目前で展開する光景とシュマイトとを交互に見つめた。彼女はステッキを大きく振ったり小刻みに動かしたりして、機関装置を巧みに遠隔制御している。

「俺専用に調整された機関装置だぞ、勝手に動かせるわけがない。それを魔法みたいに扱うなんて……信じられねぇ。お、おまえ一体、何者なんだ……?」

 作業に集中しているためか、トルイズを見向きもせず、けれど彼女はこう返した。

「通りすがりの、ただの天才発明家さ」

 余裕たっぷりに、しれっとした顔で。


▼元・博覧会会場、怪異の幻想空間にて
 御伽噺の中に迷い込んだような錯覚を、メルヒオールは受けた。
 濃い霧で包まれた街中は、怪しげな静寂に包まれている。建物のすべては大小様々な茨で覆いつくされ、歪なオブジェとなっている。
 そうした中、遠くからでも分かる歪なシルエットがあった。天にそびえる山のようなそれは、この街には本来なかったもの。近づけば近づくほど茨が繁茂していくそれこそが幻想空間の中心部であり、セリアンヌがいるであろう場所だと、メルヒオールは目星をつけていた。
 はびこる茨が進行の阻害になることも多くあったが、彼の脳裏にはシュマイトからの助言が浮かんで。

(茨に襲われない条件は、武装の解除と茨を傷つけない事だろう。くれぐれも慎重に進んでくれ)

 この推測通り、手出しをすることさえなければ茨はただの障害物に過ぎなかった。
 よって時間はかかってしまったが、メルヒオールは無事に茨の城の目前までたどり着く。
 その下にあった元の建物が何であるのかすら分からないほど、茨に侵食されているそれ。城の輪郭は呼吸するように蠢いており、巨木を思わせるほどに太い茨が、奥から少しずつ湧き出している。

「城というよりは怪物だな……さて」

 メルヒオールは眠そうな顔のまま、懐から取り出した紙の端を咥え、破り捨てた。あらかじめ紙に記されていた呪文が発動する。紙は光の粉となって宙に四散すると、彼の周りを旋回し始めた。そして何処からともなく、悲しみに暮れた男性の声が紡がれていく。

(御伽噺の内容からして、おそらくトルイズの言葉以外は効果を示さない……だったら間接的にでも、彼の声や想いをセリアンヌに聴かせれば、何かしらの動きがあるはずだ)

 魔法によって再生されたトルイズの心の声が、静かな森に滴る雫のように、ぽつぽつと紡がれる。
 すると茨の城の奥から、ゆっくりと何かが溢れ出てきた。蕾を内包するように膨らんだ茨が、メルヒオールの前で静止する。そこから茨で全身を拘束された女性・セリアンヌが姿を見せた。

「誰かの声……あのひとの声……聞こえた」

 今にも掻き消えしまう蝋燭の灯火のように、弱々しい声音が零れる。
 メルヒオールは安堵交じりの吐息を落として。

「あんたの気持ちは知ってる。けどここにあいつはいない。こうやって眠っていても会えはしないし、あいつの本当の想いを確かめることなんてできないぞ」
「……」
「全てに耳を塞ぐのは簡単だ。けどそれでは訊きたい声だって聞けやしないし、伝えたい気持ちだって言えやしないだろ。だから……まずはそこから一歩、踏み出してみたらどうだ」

 茨の城は、セリアンヌが乗っていた飛行船の成れの果て。そうだとすれば、御伽噺の〝茨の城は天駆ける船のように〟という記述とも一致する。セリアンヌを説得し、彼女自らトルイズに会いに行くことを提案すれば、城は船となって茨の園を離れ、事態の収拾を図れるのではないかと考えたのだ。
 茨に拘束されながら、セリアンヌはその言葉に耳を傾ける。その疲れ切った顔に、つうと涙の一筋が零れる。

「私……会いに、行っても……いいのかな」
「そうしたいなら、そうすべきだ。今なら阻むものだって何も無い」
「でも……私には、もうッ」

 セリアンヌの顔が、助けを乞う子どもみたいにくしゃくしゃと歪んで。

「な――!」

 セリアンヌの口と耳から。十字に張り裂けた体の中から。濁流のような勢いと奔流を伴って、大量の茨が噴出したのだ。メルヒオールの体など矮小なものと思えるほどの量。

『幻滅したよ、尊き命』

 茨の洪水に抗おうとする、メルヒオールの耳元で。

『さようなら』

 視界の端でちらつく何者かが、囁いた。子守唄を聞かせる母親のような優しさと、戯れに愛を囁く恋人のような甘さを内包する声は、メルヒオールの脳裏に御伽噺の真実を炸裂させた。
 メルヒオールは飲まれる茨の中で自分の間違いに気づかされ、目を剥いた。

(茨の城は住人を喰らって空を飛ぶ……そして俺はセリアンヌを説得し、トルイズのもとへ行かせようとした……だが、彼女はミスリードだったのか! セリアンヌを呼ぶことはできても、怪異が巣食う彼女を救えるのは、炎の言の葉に目覚めたトルイズだけ……ましてや空を飛ぶことを誘発させるのは、茨の街で眠る住人の命を喰らわせると同じ……)

 己の失態に歯噛みするメルヒオールの間近で、セリアンヌの悲しそうな顔が茨の中から覗く。

(ごめんなさい。名も知らぬ旅の方……でももう、私にはこの茨を止められない……)

 心へとつながる茨を通じ、セリアンヌの心の声が頭の中で反響する。メルヒオールの思うこともまた、彼女へと伝わる。

(けど、あんたは嫌なんだろ。本当はこんなこと)
(……)
(本当はあいつの元にいたい。そうなんだろ)
(でも、それを口にするのは……許されないの。間違っているの)
(そうかもしれないが……)

 表面的な事情しか知らないとはいえ、彼女もまた抱えているものがあるはず。それを思えば、安易にセリアンヌの迷いを否定することはできなかった。
 ……でも。

(けど少なくとも……あいつはきっと、そんな間違いも悩みも全部受け止めて、許してくれると思うぞ)
(……)
(だから、叫んでいい。泣いていいんだ。心の中だけで言っていても、想いは伝わらない。それを口にして――)

 メルヒオールの全身が茨に飲み込まれ、言葉は遮られた。あがくように伸ばされていた左腕も、最後には茨の波へずぶずぶと沈んでいく。
 セリアンヌはそれを見下ろし、ただただ泣いた。救いの慟哭をあげた。叫んでもいいのだろうか。口にしてもいいのだろうか。だめだ。
 ああでも。このひとの言葉を信じるなら、せめて本当の気持ちで彼の名を叫びたい。最期に、愛しい彼の名を。

 ト ル イ ズ !

「セリアンヌゥゥゥゥ――ッ!」

 姫と異邦人の身と心が、茨へと溶け込んでしまう、その直前に。
 炎の言の葉に目覚めた男の叫びが、茨の園に響き渡って。二人の茨を燃やして剥がし、吹き飛ばした。

 †

 それより少し前のこと。
 茨の園の上空に、1隻の飛行船が留まっていた。シュマイトの神業によって応急修理された、トルイズの機関式改造飛行船だ。
 船体の側面がスライドするように開くと、そこから2つの光点が飛び出して、茨の中心部へと向かっていく。
 光点の正体は、巨大な怪鳥を思わせる小型飛行船から吹き出す、機関装置の炎だ。すなわち、ひとつはトルイズが乗る小型船であり、もうひとつにはシュマイトが搭乗していた。
 と言っても、またがるようなタイプの操縦席には何人も座れない。よって操縦はシュマイトが担当し、桂花と緋夏の二人は船底に装着されたアームに鷲づかみされ、まるで鳥に運ばれる獲物のような格好になっていた。
 そんな2機が街の上空を滑空し始めると、怪異は己の終焉を察知したらしく、茨の触手を鋭く伸ばして、2機の飛行船を絡み取ろうとする。
 トルイズが「セリアンヌの位置を感じた」と機関式通信機越しに叫び、船首を傾けて茨の城へと向かって。

「んじゃ、燃えるような求愛よろしくー」

 緋夏は軽い調子でトルイズを送り出す。そして足元に群がる怪しい茨の姿を見下ろすと、その口元に愉しそうな色をにじませて。

「それじゃあ、こっちも始めちゃおうか。桂花姐さん、準備いい?」
「……早く降ろしてもらいたいわ」
「――だってさ! シュマちん、ここらで降ろしちゃって」
「承知した」

 機械に囲まれているシュマイトがレバーを倒すと、二人の身体を掴んでいたアームが跳ねるように開く。彼女たちの身体が宙に投げ出される。あっという間にはるか後方へと流れていく。

「だがわたしも、ただの運送役で終わるつもりなどないぞ」

 シュマイトが装置を操作すると、怪鳥を模した小型飛行船のシルエットが、丸められたメモ帳のようにくしゃりと歪んで崩れ、急激に失速し、落下していく。大通りへと無造作に着地するが、その機械の塊は通りに生い茂る茨をも巻き込んで、石畳を破壊しながら無造作に転がっていく。
 くしゃくしゃに丸まった機械の塊から、肥大化した鉄の四肢が飛び出した。それらを巧みに使ってスピードを殺す。
 鋼鉄で作られた、歪な巨人のようなそれ。全長は数mほど。鋼の檻にも似た胴体の内部では、シュマイトが不敵に笑っていて。

「急ごしらえではあるが、新たな発明品だ……異世界の黒き幻想を相手にできるかどうか、試させてもらおう」

 こちらへ殺到してくる茨の群れを前に、鋼の巨人が悠然と蒸気を吹き出した。

 †

 一方、緋夏は蜥蜴にも似た紅蓮色の怪物に姿を変えていた。太陽のようにまばゆい輝きを放つ炎を吹き出し、押しかけてくる茨の触手を焼き尽くす。
 その巨体ゆえ、素早く蠢く茨に巻きつかれることもあった。けれど無駄だ。棘で傷を負った部位から噴出する炎の体液が、拘束など許さない。

「ったく、埒が明かないわね」

 桂花は皮肉そうに吐き捨てながらも、軽やかに身をひねって茨の攻撃を避けた。そして両手の得物、ゲーム用ピストル型のトラベルギアが火を吹く。茨にめり込んだ弾丸が爆発し、怪異を駆逐していく。

「数っていうか量が多すぎるよー! これじゃあ火種がもたないっての」

 艶かしい舌を揺らしながら、醜悪な炎蜥蜴は緋夏らしい気楽な声音を響かせた。

「あ、そうだ」

 前足を器用に動かして合点がいったようにぽむりとすると、桂花の元へのしのし駆けて行く。

「姐さん、口の中に炎の弾ぶち込んで!」
「え? アンタ何言って――」
「いいから!」
「もう、怪我したって知らないわよッ」

 桂花は戸惑いを振り切るように素早く銃口を向けると、あんぐりと開いた炎蜥蜴の口の中へ、炎を帯びた弾丸を連射した。
 緋夏がそれをごくんと飲み干す。すると勢いを失っていた全身の炎が勢いを取り戻し、荒れ狂うように噴出して。

「あっいの、キタァァァァ!」

 溢れる活力に爛々と目を輝かせながら、炎蜥蜴は灼熱の炎で怪異をなぎ払っていく。
 桂花は炎の余波で焼かれそうになるも、それを華麗に避けて。自分もまた怪異の殲滅を続けるべく、銃を構えた。

 †

 やがて。
 薄い靄のかかった空の向こうで、紅がかった光が溢れ出した。真紅に輝く波紋は急速に拡大し、街を覆う茨だけを灰燼へと還していく。御伽噺で示されていた記述の通り、茨が焼き尽くされていく。
 街を覆っていた霧も晴れ、夜明けの陽射しが空の向こうから差し込んでくる。
 街で戦いを続けていた3人は、トルイズがうまくセリアンヌを取り戻したのだと理解した。


▼ミスタ・テスラ、某所上空
 セリアンヌを取り戻したトルイズは、自前の小型飛行船に恋人を乗せると、暁の空の彼方へと飛び去っていった。
 ロストナンバー達はその光点が見えなくなるまで見送り、二人の人生が幸あるものになるようと祈った。
 そんな一行は今、空の上にいる。すなわちそこは、シュマイトがトルイズから貰い受けた機関式改造飛行船の上甲板だ。

「え、これ貰ったの?」
「せめてものお礼、だそうだ」

 緋夏が目を見張る。シュマイトは船尾にある操縦席で装置を操りながら、しれっと答えた。

「つーか、何か食い物でもないのか? 腹減った……」

 怪異に飲み込まれそうになったメルヒオールは、少なからず生気が吸われてしまったらしい。いつも眠たそうにくたびれている顔も、今はさらにげっそりとやつれていて。

「というわけだ、シュマイト。悪いが、どこか飯の上手いところにでも連れて行ってくれ……。うぅ、力が出ねぇ……下で休ませてもらう」

 のたのたとした四つん這いで、メルヒオールは上甲板を後にする。立っている気力も無いようだ。
 そんなさまを見て、緋夏は大笑いしながらお腹を抱え、桂花は苦笑しながら溜息を漏らす。

「では、現地の協力者となっているクリスティ・ハドソンの元にでも向かうとするか。彼女の料理は美味と聞いているしな」

 シュマイトは涼しい表情をしながら、手馴れた調子で操縦盤を制御する。

「帰りの便が到着するまで、時間あるんでしょ? せっかく遠出したんだし、旨い酒でも堪能したいわね」
「あたしは都市を観光したいな! あ、マヤにも逢いたいし……うへへ、愉しみっ」

 桂花と緋夏は、躍るような気持ちに満ちた表情をし、わくわくした様子でいる。

 ――こうして。
 闇色断章、第1詩篇は終わりを告げた。

<了>

クリエイターコメント【おまけ】
「あ。緋夏さん、おかえりなさい。……早速ですが私の猫耳フード、返していただけませんか?」
「そういえばそうだ! ごめんねー、メルチェ。もふもふして柔らかかったよ」
「ふふふ、そうでしょう? 私のお気に入りですから」
「あまりに気持ちよかったからごめん、耳齧っちゃったー」
「えっ」
「あと帰りの便のとき、丸めて枕代わりにしてたら、涎で汚しちゃったー」
「ええっ」
「大丈夫、きちんと洗濯しといたから! めっちゃごしごししたから、ちょー清潔!」
「……ご、ごわごわになってるぅ……うぅ、ふぇえええええんっ」
「え、あ、ちょ! な、なんでどうして泣くの……? うおおお、誰だメルチェ泣かした奴はーっ」
「あ な た で す !」

<おしまい>


【あとがき】
 以上のように、今回の第1詩篇は「ハッピーエンド」の結果となります。トルイズの心にうまく火をつけたことで、セリアンヌもまた救うことができ、街も茨の怪異から守ることができました。

 では、今回のシナリオの解説を少々。本格ミステリーや推理物とは程遠いやもしれませんが、ご容赦くださいませ。

 トルイズとセリアンヌという二人の人物がおりますが、セリアンヌへの接触はミスリードとなります。
 セリアンヌの心の声である「他の誰の言葉も、いらない。私には届かない。聞こえない。煩わしい雑音のすべてはこの茨が、飲み込んでくれるはず」が示す通り、彼女に対する説得は(彼女自身はそれを受け入れても)怪異が全て無効化して打ち消してしまう、といった内容でした。

 トルイズの説得については、怪異や断章石がもたらすもの以外の情報や心意気で訴えれば、基本的には成功する……といった想定でした。
 彼の、表向きの「こうであるべきだ」という気持ちと抑圧された本音は、心の声で示されていますので、その辺りを切り口に「素直になるんだ」「本当の気持ちと向き合うんだ」といった方向性で説得して頂ければOK、というものでした。
 あとは彼の持つ翼=飛行船が壊されている、という内容もあります。彼の飛行船乗りとしてのプライドを刺激してみても良い、という内容を想定してはおりました。

 茨については御伽噺にあるとおり、攻撃を加えると報復される……といった内容です。なので茨=怪異そのものは無視して進む、という方向性が正しい判断です。怪異が悪あがきを始め次第、攻撃開始といった感じでしょうか。

 けふん。
 続きましては、企画シナリオということもありますし、少し個別コメントを記させていただきますね。

 メルヒオールさん。
 魔法によってトルイズの心の声を再生させる、は私としても穴場をついたプレイングだったと思います。御伽噺の設定により、セリアンヌはトルイズの声しか聞き入れません。それを間接的に伝える今回の手法は、素敵なものと思いました。
 また、セリアンヌはトルイズの真の想いを知らず、不安になっていた側面もあります(彼女の心の声を参照)。それを伝えようとするのはトルイズ本人が担う、というのが正解のひとつではありましたが……彼の声を再生させて聞かせるという案は、想定としては無かったものの、グッドウェイなプレイングであったと思います。
 結果としては、ミスリードをなぞってしまったことになりますが、しかしミスリードにかかってしまったかたに向けて、あらかじめ用意していた(けれどたぶん使わないかなーと思っていた)伏線の一部に触れさせております。今後、何かのかたちで関わりがあるかもしれませんし、あるいは無いかもしれません。ふふり。

 緋夏さん。
 トルイズに対する説得は、もう少し違った方面から踏み込んでしまっても大丈夫でした。
 しかしながら、子どものような無邪気さの中にある真っ直ぐな熱さを表現しないのは勿体なく、アドリブを交えながらキャラクター性を表現してみた次第です。活発で無邪気で気分屋で、何事も楽しくこなしてしまうような、そんなイメージで端々のシーンを描かせて頂きました。
 炎の弾丸もぐもぐは彼女らしい回復手段(?)であると思います。
 おまけが生まれたのは、フードガジガジのプレイングの影響です(笑)

 桂花さん。
 直接的で勢いのある説得プレイングではありましたが、緋夏さんと同じくもうひと声、別方面からの工夫が必要でした。
 またプレイングの多くを、ミステス世界そのものに関する考察に使用していた印象があります。今回のノベルで回答してしまえる程に簡単な内容でもなかったため、ノベル本編にはほとんど反映することができないかたちとなってしまいました。しかしながら考察そのものについては、興味深く拝見させて頂きました。

 シュマイトさん。
 御伽噺の推理は一部ミスがありましたが、それも些細なものに感じられるほど適切なプレイングでした。
 すなわち、トルイズに対する説得がとても理に適った内容となっておりました(説得時の台詞については、ほとんどがプレイング内容そのままでも大丈夫なほど)。「発明」という観点から気持ちを同調させつつ、彼の情熱をうまく煮えたぎらせるプレイングは、お見事と言えます! そちらを称える意味でも、活躍シーンを多く入れてみたつもりです。
 小型飛行船から変形した鋼の巨人は、能力設定を膨らませて勢いで捏造してしまったものですが、天才発明家である彼女であればきっと造作もないことでしょう。クールだけど不器用なところもある小柄な天才少女、が描けていればと存じます。

 オファーから構想を膨らませ……むしろ膨らませ過ぎた感があるやもしれませんが、ご参加いただき感謝致します。
 企画シナリオならではの、各PCが登場するOPとも合わせますと、文字数としては合計25000字程度となります。こちらの物語が皆様の好みに合えば、大変嬉しゅうございます。
 それでは、夢望ここるでした。これからも、良き幻想旅行を!


【『教えて、メルチェさん!』のコーナー】
※お気に入りの猫耳フードがぼろぼろになってしまったショックから、メルチェさんはベッドでほろほろ泣いており、今回はお休みするようです。しかし以下のような書置きが残されていました。

▼篭って:こもって
▼貶め:おとしめ
▼弄ぶ:もてあそぶ
▼埒:らち
▼灰燼:かいじん
公開日時2012-12-05(水) 23:10

 

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